< スケルトン・3 >
客間を飛び出し正門を目指した五人。
その内の二人が、向かい合って止まっていた。
炎の翼を広げて庭園を燃やし続ける天野太陽を背にした無常水越斎。
着物姿の手には、長めの合口を持っていた。
そして長い黒髪を熱風に揺らしながら目の前に立つ八尾弦徳を静かな眼差しで見ている。
「若様、ここは我らにお任せしていただきたい……」
「水越斎殿、貴方まで……」
八尾は自分の進行を阻む男を睨みつけていた。
「拙者の考えは、油議会長と同じ。若様には春婆怒と戦わせる訳には参りませぬ」
静かな口調であった。
「道を空けてください!」
手にした日本刀の鞘を強く握り締めながら八尾は大きな声を出した。
水越斉は、極道映画でヤクザが持っていそうな柄の無い『ポン刀』を手にしていた。
そのポン刀を鞘から抜いた水越斉は、横一線に足元の地面を切り裂く。
すると水越斎が付けた傷跡から水柱が浮き上がった。
その水柱は、高さ30メートルは超え、更に横にも伸びていくと、油議邸宅の庭を二分する。
まるで刑務所の壁の様に沸きあがった壁が、八尾と水越斉の間を区切ると、水の壁の向こう側で水越斉が深く頭を下げた。
「水越斎殿!」
八尾は水の壁を拳で叩いた。
軟らかい感触の向こうに、硬い感触があった。水の壁は、拳程度ではびくともしない。
「ここは、我々にお任せあれ」
そして水越斉の体が、少しずつ削れる様に複数の小魚に変わると、その小魚達は空中を泳ぐように正門へと飛んでいく。
「あらぁ〜、水越斉の結界だな」
客間から様子を見ていた鍋中が、水の壁を見て術の主の名を口にした。
「おお、良くやった!」
水の壁で先に進めなくなった八尾を見て油儀も喜んでいる様子だった。水越斉を褒め称える。
「さすが水越斉殿ですね、ナイスです」
そう言うと静香はしゃがみこむ。水の壁を見上げる二人の老妖怪を余所に、静香は八尾に切られた自分の髪を拾っていた。
そして静香の乱れた髪は、ひとりでに後頭部に巻き上がり、大きな二つ目の口を隠す様に元の髪型に戻っていった。
白い怪人が乱入してきた油儀邸宅に、それよりもほんの僅か前に来訪していた人物達がいた。
「おお〜、今日は処理班の練習日だったか。最近の練習は力が入ってるのぉ〜」
窓の外を見て歩く大柄の老人がそう言うと、その後ろを歩く黒い学生服の少年が答えた。
「そうですね〜、親分」
女中に案内されて、庭園の見渡せる廊下を歩いていた一七五と黒童子は、その激しいアクションに感心していた。
そしてまもなくして一七五と黒童子の二人も、外を眺める三人が居る客間前の廊下に到着した。
「おう、油義に鍋中、今日はおそろいか」
一七五が、旧友の二人に元気な挨拶をした。その後ろで黒同士も礼儀正しく頭を下げる。
「一七五じゃねえか、こんな所に出てくるとは珍しいな」
普段は薄気味悪い狭間に引き篭もりがちな一七五に、鍋中が何気ない挨拶を返した。
「ああ、今日は人間界に用事があってな、ちょっと出てきたついでに寄ってみたんだ。ほれ、土産の笹団子だ、皆で食べようぜ」
一七五は片目の濁る顔をにっこりさせながら、手に有るビニール袋から笹団子の束を見せる。
「お、笹団子かいいね〜」
「鍋中、お前団子食え、ワシは笹だけ食べるから」
「今はそれどころじゃない!」
外の状況を考えずに、のん気に話す一七五と鍋中に、油儀が真剣な表情で怒鳴りつけた。
「ん、何かあったのか?」
一七五が油儀の怒鳴り声に、間の抜けた表情で質問した。
「春婆怒が、ここに攻めてきたのだ!」
そう言って庭園に出来た水の壁の向こうで戦っている者達を指差す油儀。
一七五と黒童子は、そう言われて水の向こうの白い怪人に目を凝らす。
「あれが、春婆怒?」
そう言ったのは、一七五の後ろに居た黒い学生服の少年だった。
一七五達二人は、つい先ほどコンビニでバイトをしている使い手に会ってきたばかりだ。
その後、一七五達は次元の狭間を通って、ここまでやって来た。
次元の狭間とは、直線的な空間のトンネル。場所から場所へとワープに近い移動が出来る術である。
一七五は、そのような空間湾曲や空間操作術が得意な妖怪であった。
もしもあそこで戦っているのが春婆怒だと言うのなら、少々無理があるのではと一七五一家の二人は思っていた。
「なるほど、春婆怒だと思って訓練してるんだな、感心感心」
一七五が、自分で納得できる回答を想像して述べる。
「ちがう、あれが本物の春婆怒だ!」
怒鳴る油儀の様子を見ていた黒童子が、キョトンとした表情で話し出す。
「油儀会長、僕、春婆怒を見た事有るけど、もっと黒と緑が多い姿だったよ……。あれは春婆怒じゃあ無いですよ」
水の壁の向うに居る白いシルエットを見て黒童子がそう言う。
「「「えっ、本当!」」」
油儀、鍋中、静香の三人が、黒童子を見ながら声を揃えて驚きの声を上げた。
「本当です、間違いありませんよ」
黒童子の台詞の後に、三人は顔を合わせて呆然としていた。
「じゃあ、あの九十九神は……、だれ?」
静香が首をかしげる。
そして客間前の廊下に集まった全員が、外で戦っている白い怪人に、視線を合わせた。
「何者だぁ〜……、あのバカは……?」
鍋中の言葉に、回答できる者は居なかった。
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