< 河川敷の怪 >
時は昼過ぎ。
自転車で巡回中の交番勤務の巡査が、虎野町市を真っ二つに分けるように流れている大きな川の河川敷広場で、つい先程捜索願が出たばかりの警備会社の現金輸送車を発見した。
輸送車が見つかった川原の広場は、舗装されておらず生土が見える長さ100メートルぐらいの開放されたスペースである。
大きな橋と堤防代わりの土手に囲まれており、その土手の上からは広場全体が見渡せた。
夏などの休日にはバーベキューで楽しむ家族連れや若者たちで賑わうポイントで、市民達の憩いの場でもある広場であった。
だが、まだ空気が冷たい今頃だと、子供達が学校の終わる時間帯までは、あまり人気は無い場所で静かな場所である。
二時間前の話である。
この現金輸送車は、本来ならば最後の店を回り集金を終えると銀行に向かっている筈だった。しかし、輸送車はその店にも現れず、銀行にも姿を現さなかった。
事件の可能性を確認する為に、まずは警備会社が輸送車を捜索したが発見する事無く二時間の時が過ぎ、犯罪の可能性を考えた警備会社はマニアルに則り警察機関に捜索願を上げたのである。
そして警察による捜索が始まり、たまたま巡回中の交番勤務の警察官が発見した。
現金輸送車の状況から犯罪事件と警察に判断されると、発見された輸送車は刑事や鑑識班に囲まれる事となっていた。
巡回中の警察官が輸送車を発見してから30分以上がたっている。
広場に面した道や土手の一部は通行止めになり、広場には警察関係者の車が何台も物々しくあつまっていた。その様子を土手や橋の上から野次馬達が眺めている。
そこに遅れてきた鍋中と眞鍋を載せた車が入ってきた。
鍋鍋コンビは少し離れた場所に車を停めると、遅くなったことも気にしていない表情で、のそのそ現場の中へと入っていく。
「あややゃゃ、鍋鍋コンビ、おそいよ」
同僚の刑事が遅れてきた二人にそう言うと鍋中は「すまんすまん」と言って軽くあやまるが、その表情から反省の色は見えなかった。
二人が他の刑事達よりも遅れてやって来た理由は、昼食にラーメン屋で注文したラーメンが来たと同時に事件発生の連絡が入り、二人は迷った結果ラーメンを全部食べてから来たせいである。
「ちょっと飯食っててな、眞鍋のヤツが食うの遅くてよ〜」
「僕の方が5分以上早く食べ終わってたじゃないスか、鍋中さん小さな嘘はやめてくださいよ……」
「うるせー!、こんな時は後輩のオメーが先輩を庇いやがれ!」
「え〜……」
暴君の如し鍋中の台詞に、眞鍋は露骨に嫌な顔をする。
「あややゃゃ、で、何食べてきたんだ?」
そんな事は今はどうでも良いのに、何故か同僚の刑事が尋ねる。
「「ラーメン」」
鍋鍋コンビは声を揃えて答えた。
「ワシの昼食、鰻重」
「「!」」
同僚の刑事は嫌らしい笑みで言うと、小さくVサインを腰の辺りに作っていた。
それを見た鍋鍋コンビは、同僚刑事に一瞬の殺意を覚える今日この頃であった。
「で、行方不明の現金輸送車が見つかったんだって、強盗か、持ち逃げか、どっちだ?」
気を取り戻そうと鍋中が、鰻重を昼飯に食べた刑事に事件の状況を尋ねた。
「あややゃゃ、それがな……」
同僚の刑事の歯切れの悪い対応に、鍋鍋コンビは揃って首を傾げる。
そして、同僚の刑事が現場の状況に付いて鍋鍋コンビに説明を始めた。
その話によると発見された現金輸送車は、エンジンが掛かったままでもちろんキーも刺さったままの常態で発見された。
しかし二人居るはずの警備員の姿は無く、車のドアは全てロックされていたらしい。
辺りは早朝に降った小雨の為、土が剥き出しの地面には泥濘が出来ており足跡がはっきりと残っていたようだ。
しかし、到着した鑑識班が調べた結果、輸送車の周りには、この広場に乗り込んできた輸送車のタイヤの跡と最初に発見した警察官の足跡以外に、助手席から降りた人の足跡が車の前方まで歩いた跡が残っているだけで、それ以外の足跡は無かったらしい。
「どう言うことですか?」
状況が把握できない眞鍋が訊きなおす。
「あややゃゃ、要するにだな。強盗にしろ持ち逃げにしろ、車がこの広場に入ってから、車を離れた人間の痕跡がないって事だは」
「はぁ?」
眞鍋は間抜けな声でそう言うと、鑑識たちが群がる輸送車の方を見る。
「助手席から降りたっていう人物は?」
「あややゃゃ、輸送車の前方まで行って、そこで足跡が終わってるらしい」
「終わってる? 助手席には戻ってないって事ですか?」
「あややゃゃ、そうなんだわ……、車の前方で消えているんだわ」
同僚の刑事の返答を聞いた眞鍋の脳裏に、一つの言葉が浮き上がる。
「また、……神隠し?」
眞鍋は先日起きた高校生連続失踪事件を思い出していた。
「あややゃゃ、まあ、バカバカしい話だが、犯人は神様か宇宙人かだな」
「キャトルミューティレイション……」
眞鍋の口から出た言葉は、決してふざけて言った訳ではない。此処最近頻繁に起きる不思議な事件の数々。それらの出来事から、思わずオカルト用語が出てしまったのだ。
「そんな馬鹿げた話があるか。おい真鍋、俺達は近所に聞き込みに行くぞ。」
「は……はい、鍋さん」
そう言って、トレンチコートの裾を揺らしながら現場を離れる鍋中の後ろを、眞鍋が小走りで追っかけていく。
「ちっ、今度は何が出てきたのやら……」
そう呟く鍋中は、この事件にも何らかの妖怪が絡んで居るのではないかと予想していた。
それが野良妖怪なのか、それとも九十九神なのかは、これからの調査で判明してくるであろう。
どちらにしろ鍋中は、刑事として、妖怪連合調査班班長としての役目を果たすだけであった。
一方、現場の河川敷広場を一望出来る土手の上。
一般の野次馬に混ざって二体の妖怪変化の姿があった。
一体は春婆怒で、もう一体は使い魔で人型変形中のバイクマンの姿であった。
「ずいぶんと、騒ぎになっているようじゃのぉ」
遠くから輸送車を眺める春婆怒が自分よりも頭二つ分大きなバイクマンに話しかける。
しかし、言葉のしゃべれないバイクマンは、その春婆怒の言葉を黙って聞いているだけだった。
「妖力共有の気配がしたからやって来てみれば……。どうやら今回の九十九神も若輩者かのぉ〜。わざわざ騒ぎを起こせば目立つ事を考えておらぬようじゃ」
春婆怒の言葉にバイクマンは首を縦に振って意思表示をする。
「ならばわらわが美味しく頂いてやろうぞょ、間抜けな九十九神をのぉ。……帰るぞバイクマンゃ」
春婆怒は怪しく笑みを溢すと、使い魔を連れて野次馬達の外へと出て行った。
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