白道寺 (びゃくどうじ)(34/74)縦書き表示RDF


白道寺 (びゃくどうじ)
作:ジッテル



第34話 袈裟斬り


私の意識にミヤナとバドグという名前が浮かび上がって来た。 

瞬間その名前が言葉を交わしていた女と男の名前であることがわかった。 

無踏はヘデルの剣を必死でよけながらかわしている。 

無踏が剣をかわすたびに地獄集団からけたたましい罵声がドッと沸き上がる。 

味方は一人もいない。 

そこにいるすべての者が無踏を大蛇に呑み込ませて、残忍なショーに酔いしれたがっていた。

すると急に無踏の手のまわりに靄のようなものがかかったかと思うと金色に輝く

見事な長剣が現れた。 

無踏はハッと驚いた表情をしたが、考えているゆとりはない。 

すぐさまその剣を構えて応戦し始めた。 

地獄集団からドッと驚愕のどよめきが上がった。 

ヘデルの勢いは強烈でグイグイ押されて無踏は剣を交えながら、ジリジリと後ずさり

せざるを得なかった。 

何かにつまづいたら最後だ。 

大蛇も不意に襲って来る。 

足元を探りながら慎重に足を出して行く。 

緊張が続いて、ひどく長い時間が経ったような気がした。 

すでにあたりは真っ暗になって、おまけに霧が巻いて来て視界が悪くなった。 

ただ霊視をしているものは良く見えている。

ヘデルは執拗に攻撃を仕掛けて来て、大蛇が次々に牙を剥いて襲って来た。 

突然背中が何か壁のような物に突き当たって、後ろに下がれなくなってしまった。 

「あっ、これ以上下がれない」

無踏に

「しまった。どうしよう」

という想いが表情にあらわれた。 

ヘデルもオヤッという顔をしたが、次の瞬間狂喜の表情に変わった。 

「ウヒャヒャヒャヒャ。 お前はもう終わりだ。 それ以上は下がれまい。 

また蛇に呑み込ませてくれるわい。 せいぜい覚悟するんだな。」

ヘデルは余裕の表情でゆっくりと体を沈めると、蛇も鎌首を無踏のほうへ一斉に向けて

集中攻撃の構えを見せた。

無踏は絶体絶命の窮地に陥ってしまった。 

蛇達は爬虫類の冷酷な目で間合いを計って、今にも飛び掛かろうと隙を狙っている。 

無踏は脂汗を流しながら、剣を中段に構えて油断なく相手の動きに気を配っていた。 

「姐御、とうとうやつも大蛇に呑まれちまうようだぜ。 意地を張っていたって

大蛇に呑み込まれちまえば意識が胃液で穴だらけになって、人格が変わっちまう。 

恐ろしいことだ。 ひでえもんだぜ。」 

バドグは言葉とは裏腹に加虐的興奮でワクワクしていた。 

ミヤナはちらっとバドグを一瞥して

「ふん」

と鼻で笑ってまた無踏とヘデルのほうに顔を向けたがミヤナの眼も狂喜の光りを含んでいた。 
無踏は岩の壁に阻まれて後ろへは下がることが出来ないでいる。 

地獄集団の期待は高まって罵声が益々狂気を帯びて

「早く呑み込めー。 息の根を止めろー。 生きて返すなー。 ぶっ殺せー。」 

ヒステリックに発した言葉がまた一段と狂気に油を注いだ。 

大蛇が体をくねらせながら、無踏を呑み込む機会を狙ってチロリ、チロリっと

舌を出しながら七匹の大蛇の頭が様々に動き回っている。 

その内、真ん中の大蛇がジワジワと体を後ろへ反り返えらせた。 

次の瞬間勢いよく無踏に向かって飛び込みながらゴーッと火炎を放出した。 

「あつっ」

と叫んで無踏はバランスを崩しながらかろうじてかわすと、またつぎの大蛇が口を開けて

肩口をかすめた。 

火炎は無踏の顔にかかって、髪の毛と眉毛をチリチリっと焦がすと煙りが上がった。 

予想もしていなかった事態に動転して、火炎をかわすように右回りに体を回転させた瞬間、

ヘデルの剣が無踏に切り付けた。 

体に衝撃を感じて、無踏の意識が一瞬遠退いた。 

体がふらついてハッ、と気が付くと大蛇の胴体に無踏の体が巻き付かれて、グーッと

絞められてしまった。

「あーっ、くーっ」 

無踏は思わず言葉にならない声が出ていた。 

剣で大蛇を斬ろうとして腕を振り上げようとしたが、まったく腕に力が入らないのだ。 

先程体を回したときヘデルの袈裟斬りで腕をやられたのかも知れなかった。 

地獄集団のボルテージは極限まで上がって興奮のるつぼと化した。 

「キャーヒャヒャヒャヒャー、お前はわしのしもべとなるのだー。 

わしの力を思い知ったかー。」 

ヘデルはあたりを睥睨へいげいするようにめねまわして笑った。

大蛇は勝ち誇った余裕の表情で、ゆっくりと頭を無踏のほうに向けた。 












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