白道寺 (びゃくどうじ)(32/74)縦書き表示RDF


白道寺 (びゃくどうじ)
作:ジッテル



第32話 裏切り


ザリエルロが消えると、いままで兵士達を浮かせていた力も消えて、暗黒軍のすべてが

ガラガラと落下し始めた。 

投影されている映像も回転しながら真っ逆さまに落下していって、突然、映像が消えると

無踏は闇の中にすっぽりと包まれて立っていた。

気がつくと滝の水音がに迫って、悪鬼の集団が無踏を取り囲んで今にも飛び掛かりそうに

邪悪な目を光らせていた。

暗黒軍が落下して映像が消えたということは、どうやらヘデルはザリエルロと共に、

あの暗黒軍の中にいて一部始終を体験していたのであろう。 

「思い出したであろうな。 そなたが姿を消して以来、われらの力は封印されて

自由に動き回ることもままならぬ有様だ。 我らはそなたをどれだけ捜したことか。

密偵に命じて地獄の隅から隅まで捜したのだが見つからなかった。

あれからどれだけの年月が経っただろうか。どれだけ捜したかわからぬ。 

しかし、思わぬところでそなたが密偵の目に止まったのだ。 とうとう見つけだした。

我らは躍り上がって驚喜した。 このときをどんなに待ち望んだことか。

ああこれでまた我らの力が蘇る。 期待は高まっていった。 がしかし、いつのまにか

そなたは天上の使いっぱしりになり下がっていたではないか。

これは一体どういうことなのだ。  あまりのことに、信じられぬ。 

明らかに我らを裏切った行為ではないか。 

ここにおる者達を地獄の兵士に仕立てあげた将軍のそなたが裏切るとはいかなることか。 

返答せよ。」

ヘデルはいかにもがっかりしているように言った。

「返答しろ」

「裏切ったわけを答えろ」 

暗黒軍の生き残りらしい集団の中からも口々に追求の声があがった。 

夢覚めやらぬ状態で意識が朦朧としながらヘデルの話しを聞いていたが、

無踏はいまだかつて味わったことがない衝撃に見舞われていた。

まさか自分が暗黒軍の将軍であった。 などということは信じろと言われたところで

信じられるわけがなかったし、おまけに「裏切った」など寝耳に水で理不尽窮まりない

ことだ。

なんという身勝手なやつらなのだろうか。

無踏の心の中で怒りが燃えだした。

返答しろと言われたところで返答のしようもないではないか。 

それにこんな連中にまとわりつかれること自体、迷惑至極な話しだ。 

覚えもないことを持ち出されたところで答えようもない。

無踏は無性に腹が立って無言でヘデルをにらんでいた。

こんなやつらにまともな返答などしたくもない。 

返答などしてやるものか。 

無踏は意地になって一切口をきかないと心に決めていた。 

ヘデルは無踏のそういう反抗的で敵意に燃えた意識を読み取ると、たちまち激しい怒りが

燃え上がった。 

目の色が残忍になって、ヘデルのオーラが赤黒く変わると波動が無踏を締め付け始めた。 

グーッと強い圧迫感が全身に迫って来て息苦しい。 

ヘデルは自分を毛嫌いして無視するような無踏の態度に、残虐感情が一挙に沸き上がって来て

逆上した。 

「貴様ーっ、八つ裂にしてやるぞー」 

激昂して歯ぎしりするように怒鳴ると無踏の襟首を乱暴につかんで剣を首に思い切り

押し付けた。

ズキッと剣の刃が首に傷を付けて痛みが走ると、肉体の首筋から血が滲んでツツツーと

一筋の赤い血が垂れた。 

「ぎゃー、やっちまえー。殺せー。ズタズタにしろー。」 

地獄の暗黒集団全体が狂喜してドッと地響きするほどあたりが揺らいだ。 

血を見ることがなにより楽しいらしい。 

ヘデルは顔を無踏の顔に押し付けるくらいに近づけて、興奮でブルブルと体を震わせながら、

何をしでかすかわからないような狂気に支配された視線を無踏に執念深くジットリと

絡み付かせて

「素直じゃないな。 このままでは大変なことになるぞ。 我らをナメる態度は命を

縮めることになるのだ」 

唇を歪ませながら声を落としてささやいた。 

「ヘデルよ、早まるな。興奮を静めよ。」 

滝の中からたしなめる声がして、ヘデルは渋々無踏から手を離して引き下がった。












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