白道寺 (びゃくどうじ)(29/74)縦書き表示RDF


白道寺 (びゃくどうじ)
作:ジッテル



第29話 対決


博士や研究員達はすぐさま意識を摩利支天に向けた。

意識が距離を縮めると、摩利支天が目の前に現れてきた。 

稟として目元涼しく鼻筋が通って、この世のものではない美しさに誰もが息を飲んで

みとれてしまったが、鎧の強い光りが眩しくて、まともに見ることも出来なかった。 

摩利支天が金色に光り輝く猪に乗って音も無く進んで行くと、そのあとに地球上から

集められた気の荒い野性猪の大集団が地響きをたてて猛スピードでついて行く。 

ザリエルロはただ事ではない地響きを感じて、意識を異常な磁場を放っている方向へ向けた。

「なんと、やっかいなものが迫って来るぞ。 摩利支天のお出ましか。」 

どうやら、ザリエルロは摩利支天を知っているようだった。 

地響きがみるみるうちに大きくなって土埃がもうもうと舞い上がったかと思うとピタリと

地響きが止まった。 

土埃が徐々に薄れていくと、暗黒軍の大集団と摩利支天の猪の大群が対峙して、

ザリエルロと摩利支天がにらみ合っていたが、ザリエルロはまぶしくて摩利支天を

まともに見ることが出来なかったのだ。 

しばらくのあいだ沈黙して無言のままでいたが、静寂の中、相手の隙を衝くように 

「まだ抜けられぬか」 

摩利支天がゆっくりとした穏やかな口調で口を開いた。 

一瞬むっ、と迷惑そうに眉を寄せると 

「ふん、そう簡単に抜けられるものではないわい。」 

大きなお世話だというようにふて腐れて、吐き捨てるように言った。 

「抜けるどころか我らは領地を次々増やしておるぞ。 そのうち、すべてを我が手中に

治めるのだ。 そなたが地上に生を受けたときには我らの思う壷だ。すべてを忘却した

赤子のそなたには我らの陰謀になすすべもなかろう。 そのとき、そなたも我が軍門に

下るのだ。 そして、神も我らを認めるであろう。 いまのうちだけだぞ。 偉そうに

説教出来るのは。」 

ザリエルロは嘲笑いながら、さも自分が天下を取ったように見下だして言った。

摩利支天は黙って静かに聞いている。

「こんな猪ごときにわしが退散するとでも思っているのか。 我が軍団の恐ろしさを

知らぬな。 黙ってこのままこいつらを引き連れて退散すれば見逃してやるが、

さもなくばほえ面をかくことになるであろう。 いまのうちにおとなしく引き下がれ。」 

ザリエルロは相手を言葉で威嚇しようと脅しをかけたが、相手は乗ってこない。 

続けて威圧しようと言葉を探したが、頭の中がなぜか硬直して脅しの言葉がまったく

出てこなくなってしまった。

そして、お互い押し黙ったままジッとにらみ合ってしばらく時間がたった。

うしろにいる兵士達はどうなってしまうのだろうかと、咳ひとつせずにことの成り行きを

見守っていて、猪達はいまにも突進しそうな気配で身構えている。

「私が肉体に宿る日はいつになることやら、一億年後か二億年後かわからぬが、

それまで待つ気かな。 それほど永く地獄にいてどうなるというのか。

信頼も安らぎも喜びもなく、力と脅迫と疑いの世界がそんなにも気にいっている

というわけか。」 

摩利支天が静かに言った。

先程からザリエルロは自分があまりに饒舌じょうぜつだったことに自己嫌悪を感じて

気分が悪かった。 

いつもなら沈黙の中で冷静に状況を把握し、的確なひとことが出て来るのに、

いまの自分は何なのだ。ただ口先で威嚇しているだけで、うわすべりしているだけ

ではないか。 

威嚇したつもりがかえって自分の動揺をさらけ出しただけになってしまったようで、

意識の底に敗北感がよどんで自分が小さく感じられていた。 

部下達がいまのうろたえている自分の意識を見抜いてしまったら、部下達を引きつけている

求心力を失ってしまうのではないか。 

ザリエルロは内心不安がよぎって気持ちがすっきりしなかった。

このままじゃ部下にしめしがつかない。

この事態を打開しなければ誰もわしについて来なくなるだろう。 

気持ちが焦って、それをごまかすようにいらつくと 

「ええい、こんなところでにらみ合っていても、らちはあかぬ。 蹴散らして

叩き潰してくれる。」

と言いざまに念の焦点を凝縮させて落雷のイメージを想いの中に描くと、

大扇山にかかっている雷雲から摩利支天めがけて太い稲妻の柱を直撃させた。 

大音響とともに目が眩むほど、あたりが真っ白に光って、まわりが見えなくなってしまった。

全体がしばらく呆然としているうちに目がなれてくると 

「ああっ、なぜだ、どうなっているんだ。」

ザリエルロは絶句した。 

当然、落雷の直撃で吹っ飛んだと思っていた摩利支天と猪達が何事もなかったように、

そのままそこにいて、おまけに全ての猪達が金色の光りに包まれて、平然としていた。












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