白道寺 (びゃくどうじ)(28/74)縦書き表示RDF


白道寺 (びゃくどうじ)
作:ジッテル



第28話 摩利支天


サイボーグは切られても刺し貫かれても、何のダメージも受けず不死身だったので、

ザリエルロは内心困っていたが、目の前で偶然にも足の甲を刺されて倒れるのを見ると

狂喜した。

敵の弱点を初めて発見したのだ。

それに兵士達の動きをことごとく読まれて、手も足も出せなかったが、戦っているうちに、

サイボーグが兵士達の動きを一度に読むことが出来るのは三人までで、四人以上になると

読みに誤差が生じてくるということもわかってきていた。 

ザリエルロは最前線から少し下がってすぐに各部隊に伝令を走らせて、五人一組で同時に

サイボーグを攻撃して隙をついて右足の甲を斬るように伝えさせた。 

ザリエルロ隊の攻撃が変わるとサイボーグが倒され始め、サイボーグ隊が徐々に

劣勢になってきた。 

ガリレ博士はサイボーグからの通信が次々に不通になってきているのを知って、探索ロボット

にさぐ探らせてみると、サイボーグがだいぶ壊されているのがわかった。 

手遅れにならないうちに、緊急に対策を打ち出さなくてはならない。 

ガリレ博士はしばらく考えたが、打つ手を思いつかず思案にくれていた。 

天上の世界は普通、外敵がいないためサイボーグを作っても命懸けの実戦は皆無で、

実際にどのくらいその能力が通用するのかはよくわかっていないのだ。 

そのため、このように死に物狂いの相手と戦うようになると、弱点があらわになってしまう。

天上の世界の下のほうではどうしても研究の詰めが甘いということなのであろう。 

最新鋭のサイボーグを使ったのだが、それが通用しなくなって来ている。 

となるとガリレ博士としては残っているサイボーグは性能が劣っているため、

それを出しても使い物にはならないであろうと思っていて、どうすればいいのか、

内心思い悩んでいた。 

他の研究員達にもいい考えは思いつかなかったが、先ほどから一人でじっと何か考えに

ふけっていたタカノマユが博士に顔を向けて

「博士、野性動物の意識を現象化させて、それを使うのはどうでしょう。 例えば、猪の大群を

突進させるとか。」

と言った。 

博士の目が、はっ、と見開いて

「おお、いいアイデアですな。 早速それを使いましょう。  タカノマユ君、いますぐ

野性の猪の意識を大量にコピーして現象化させて下さい。」 

そう言ってガリレ博士はタカノマユが作業に取り掛かろうとしている後ろ姿を関心した顔で

眺めていた。  

タカノマユはすぐに探索ロボットに特別獰猛な野性猪を検索させた。 

探索ロボットが高速で広範囲に検索して行くと、次々に獰猛な猪が見つかっていく。

見つかるとそれらの猪の意識を素早くコピーして即座に猪達を現象化させる。 

しばらくすると猪の大群が出来上がった。 

猪達の目つきはいきり立って鋭く、体の動きは素早い。 

ロボットは短時間で仕事を終わらせてしまった。

「博士、猪の大群が出来上がりました。」 

タカノマユが博士に言った。

「ご苦労様でした。 早速突進させましょう。 タカノマユ君、攻撃お願いしますよ。」 

博士は絶大な信頼を込めて命じた。

「はい」

タカノマユは元気いっぱいに張り切って、猪達に指示を送る装置を作動させると、

大群を動かし始めた。 

猪達は先頭から移動を始めたかと思うと、それがすぐさま全体の動きとなって、

瞬く間に土埃を巻き上げる怒涛の流れに変わった。

「人間は大群が向かって来ると、圧迫と恐怖を感じるものだ。 暗黒軍はパニックに

陥るだろう。」 

ガリレ博士は期待と満足の表情を浮かべて言った。 

猪の大群は道なき道を、弾丸のように掻き分けて、巨大なうねりが地響きとともに

障害物をなぎ倒しながら突進して行く。 

そのスピードはすさまじく、あっという間に遠のいて行って、かすかな地響きと土埃が

余韻を残していた。 

静寂が訪れて、しばらくの間、探索ロボットから送られてくる立体画像を監視していた

研究員達から、突然声が上がった。 

「博士、これは何でしょう。」

「えー、信じられない。」 

「なんだろう、不思議なことがあるものだ。」

皆が口々に言い合っている。 

ガリレ博士も画面を見ていたが、声も無く食い入るように凝視していた。 

いつのまに現れたのか、猪の大群の先頭に陽炎のようにゆらめきながら、

ひときわ目立つ大きな金色の光りを放っている猪が、すべるように進みながら先導して行く。 
その背中から三日月形の強い光りが放射されていて、その上にまばゆい光りを放った女神が

乗っていた。  

女神は青い衣に金色の甲冑を着けて、顔の両側に長い牙が突き出た猪の化け物ような顔が

現れたり消えたりしている。 

背中のほうから腕が三対出ていて、弓や羂索けんさく金剛杵こんごうしょ

大針、等がチラチラと現れては消えていた。

摩利支天まりしてんだ」

ガリレ博士が画面にくぎづけになりながらつぶやいた。 

「えっ」

一同が驚愕の声を上げた。 

天上の世界にいても、摩利支天を見るなどということはありえないことなのだ。

それがいま目の前にいるように、立体映像に写し出されている。 

あまりの奇跡に場が興奮に包まれて、これからどのようなことが起こるのか、

かたずをのんで全員が身動き出来なくなるくらい画面に吸い寄せられてしまった。












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