第20話 猫パンチ股打ち電撃棒
そこの場所が荒れ野に変わってしまうと、ザリエルロはまた異なった霊界の結界
に穴を開けて、次の場所へ侵入していった。
入って見ると、広い道路が一直線に延びて、両脇に大きなボプラの並木が続いているのが
目に入った。
木々に囲まれた建物が点在して、その間を林が仕切っていた。
緑のそよ風が心地よくふいて、太陽の光りがさんさんと降り注いでいる。
見回すと遠くのほうに人が集まっていて何かをしているようだった。
ザリエルロはいきり立つ兵士達をなだめながらその人達のほうへ近づいて行く。
私がその集まっている人々に意識を合わせると、同時にズームになって、
その場に居合わせるように目の前に現れて来た。
「ガリレ博士、時空研究所から、このあたりの空間にしばらく前から異常なゆがみが生じて
いる。 という報告があって、あれからだいぶ時間がたちましたが、何も目立った異常は
ありませんね。」
若い学生のような感じがする角刈りの研究員らしい男が、脳天気な顔をして髪の毛を
七三に分け、眼鏡をかけて、鼻の下に細いハの字型のひげを生やした科学博士らしい年配の
男に話しかけた。
「うむ、何かが時空の壁に力を加えているようだな。 時空究所はそのエネルギーの量と
時空の壁の厚みから時間を割り出したのだろうが、それが正確だったのかどうか、
ということだ。 まあ、待っていれば、何かが起こるかもしれないし、何も起こらない
かもしれない。 どうせ、たいしたことではないだろう。 コーヒーでも飲んで待つと
するか。ハッハッハッ」
博士が事もなげに答えて笑った。
「でも博士、時空研究所からの報告では力を加えている波動の周波数にかなり強い
破壊意識のエネルギーが検出される、ということでしたが実戦用の霊体サイボーグの数を
もう少し増やしておきましょうか。」
若い研究員が心配そうに言うと、
「そんなに心配なことはないだろう。 この実験用のものは今までのものより格段に能力が
上なのだ。 今回開発した「ウンチ蛭弾」これはお尻から発射されたウンチの形の
砲弾が相手に当たると蛭のように吸い付いて、相手のエネルギーを吸い取っちゃうのだ。
そして弾を装填するときにビチビチといやな音をたてる。
心理作戦だな。 そして、その隙をついて攻撃すれば相手を倒すことが出来るということだ。
それで私は ウンチをひるということと、蛭が吸い付くということを掛けて名前を付けたと
いうわけだ。 人はウンチが飛んでくると慌ててひるむものだ。 ん、ここにもひるが出て
くるな。 ひるが三つも掛かっているぞ。 たいしたものじゃないか。 おまけに、
倒れたり転んだりすると普通は不利になるのだが、これは逆に、それが有利になるのだよ。
んー、それから「猫パンチ股打ち電撃棒」これは顔にパンチして、同時に下半身から急所を
ねらって下から電撃棒が振り上げられる。 というものだ。 これは効くぞー。
そのほかにも秘密兵器がいろいろ仕掛けてあるのだよ。 だからいま待機させている実戦用の
で十分だろう。 アルタミラ君、心配はいらんよ。」
博士は自慢げな顔をして言った。
「うわー、くっだらねー。 まるっきりアナログじゃん。 こんなので勝てるのかよ。
あっ、すいません。 つい思ってしまったものですから。」
アルタミラと呼ばれた研究員はあわてて謝った。
霊界では思うことは言葉に出してしゃべることと同じことらしい。
肉体がないから隠すことが出来ないのだろう。
アルタミラは止めようとしたが思うことは止められなかったのだ。
ガリレ博士はピクリと目がすわ座ってアルタミラを横目でにらんだ。
「アルタミラ君、きみはまだ実戦というものがよくわかっていないのだ。 デジタルだから
いいっていうものじゃないのだよ。 アナログのよさというのもあるのだ。
まあ、思うことは止めることが出来ないのだから仕方がないのだがな。」
アルタミラはばつの悪そうな顔をして小さくなっていた。 しかし、霊界の科学者達の
世界も意識のレベルで下の段階から上の段階まで、世界が無数に別れているらしいのだ。
意識が上のほうの段階の世界では知識と技術は想像を絶する域に達しているが、意識が低い
段階の世界では知識も技術もまだまだ低いらしい。 ザリエルロが入り込んだこの場所は、
あまり上のほうの段階ではないように私には感じられた。 しかし
「この世界にもコーヒーがあるのか。」
私は妙に感心してしまった。
あの世にはこの世にあるものはすべてあるらしい。
この世にまだないものまであるようなのだ。
この世にある物はすべてあの世にある物の写しらしいので、コーヒーくらいあって当然の
ことなのだろう。
「グアーン、グアーン、グアーン、侵入者です。」
突撃、甲高い警報音が鳴り響き渡った。 |