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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第六十二話 憎まれっ子は、年を取っても世にはばかる。 

「おいっ、クラウス! お前は、俺に何か恨みでもあるのか?」

「恨みですか? ございますとも。私の孫達を蔑ろにしました」

「貴族にでもしろってか!」

「そのくらいは当たり前かと」

「はあ? 本気で言っているのか?」

「勿論にございます」



 実家であるバウマイスター騎士爵領において、名主であるクラウスを首謀とした反乱が発生した。
 その報告を聞いた時に、俺はそれが信じられなかった。

 クラウスは、確かに裏で色々と企む怪しい人物である。 
 だが同時に、彼は有能な人物でもある。

 このタイミングで反乱など起こしても、まず成功の目などない事は子供の目から見ても明らかで、そんな事にあのクラウスが気が付かないとは思わなかったからだ。

「それで、反乱軍の兵力は?」

 ともあれ、まずは俺が兵を率いて急行しなければならない。
 クラウスは、バウマイスター領に来ていた冒険者達を雇い、彼らと共にヘルマン兄さんとその家族、屋敷の使用人達や詰めていた従士達などを捕縛して軟禁している。

 つまり、領内の統治体制が麻痺しているので、本家の当主であり寄り親でもある俺が対応しないといけないのだ。

『えーーーと。指揮官は、誰にしようか?』

『私は、忙しいですからね……』

 警備隊の誰かという事になるが、みんな開発の手伝いや冒険者が集う町の警備で忙しい。
 というか、この時期に反乱とはある意味嫌がらせにも近かった。
 警備隊のトップであるトリスタンは、自分は動かずに部下を当てて対応するようだ。

『モーリッツで宜しいかと』

 トリスタンの推薦により、ヴィルマの兄であるモーリッツが五十名ほどの兵を率いて参加する事になった。

『兵数が少なくないか?』

『反乱軍に魔法使いはいるのでしょうか?』

『いないみたいだな』

 屋敷を占拠した反乱軍は、クラウス、ヴァルターとカール、賛同した若い領民五名、冒険者二十名ほどと。
 合計で三十名くらい、しかも魔法使いなどはいないと判明している。

『更に言いますと、最初から打って出ないで篭城策です』

 いくら領主を押さえたからと言って、下手に領内の完全制圧を試みると、反撃されて損害が出るだけなのはクラウスも気が付いている。
 それに、外部には従士長や他の従士達に、男性の領民がいて兵力になるので領主という駒を押さえる戦法になったのであろうと。

『とにかく、なるべく早くに兵を送る事こそが肝要です』

『そうだな。モーリッツに兵を準備させろ』

『了解しました』

 後に援軍を送るにしても、今はこの兵力で十分とだという結論に至り、俺は瞬間移動で何往復もしてモーリッツと兵士達をバウマイスター騎士爵領内へと送る。

『自分の装備だけは完璧に確認しておけ! 食料や他の必要な物資は、お館様が運んでくれる』

『はぁ……。初の諸侯軍出動が、反乱鎮圧とは……』

 溜息をつきながら、兵と俺を含むいつものメンバーでバウマイスター騎士爵領へと飛び、出迎えてくれた従士長や彼が動員した領民達と協力して逆に屋敷を囲うように兵力を配置する。

「なぜ、あの名主は反乱なんかしたんだ?」

「知るか。本人に直接聞け」

「いや、それは領主様の仕事でしょう」

 エルの疑問は最もであった。
 それでも、反乱は反乱なので早速に兵を送ったのだが、少数とはいえ即座に兵力を展開できるので、モーリッツなどは俺の魔法に感心しているようであった。
 あとは、食料や水や必要な物資なども魔法の袋で運べるので、荷駄隊要らずで素晴らしいと絶賛していた。

 何でも、王国軍人時代に訓練で荷駄隊の警備をやって、その大変さを良く覚えていたらしい。

「こういう小さい領地で反乱が起こり、領主や一家が捕らえられたので王国軍が援軍に入る。そういう想定の訓練もあるのです」

 モーリッツによると、その際にはなるべく早期に兵を送る事が肝要なのだそうだ。

「反乱軍の人数など、たかが知れていますが……」

 少数だからこそ先に領主を押さえるし、それを長期間放置すると拙い事になる可能性が高い。
 領民達が次第に、反乱軍の言う事を聞くようになるのだそうだ。

「頭を押さえられて不在ですからね」

 なので、俺が素早く領内に入って領民達を安心させる必要があるそうだ。

「そのために、食料や物資の輸送が急務となります」

 反乱を鎮圧するために送られた兵士達が、食う物がないからと言って現地で徴発などしたら、それは彼らを反乱軍側へと押しやる原因になる。
 なので、なるべく食料などを準備する必要があるのだそうだ。

「金で買うとか?」

「余剰の食料などがあれば良いですけど……」

 無ければ、無理矢理にでも金を置いて徴発しなければならない。
 だがその行為は、反乱軍と領民達との挟み撃ちフラグを立てる事になる。
 彼らからすれば、食料を奪っていく王国軍の方がよっぽど反乱軍に見えるというわけだ。

「その点、今回は楽でしたね」

 兵は魔法で移動し、食料も魔法の袋に大量にある。
 対応が早かったので、捕縛を間逃れた家臣達が領民達から兵士を募って一緒に屋敷の包囲に参加していたし、寄り親である俺がバウマイスター領内に入ったおかげで混乱なども発生していない。

 クラウス達がヘルマン兄さん達を人質にして屋敷に篭もっているので、屋敷外への波及は防げたというわけだ。

「ただ、クラウスなる名主は、最初から屋敷の占拠に留めるつもりだったのでしょう」

 今の兵力と情況で、クラウスがバウマイスター騎士爵領を掌握するということ自体が夢物語だからだ。
 現状では、本村落の住民でも彼に同調などしないはずで、他の村落などは言うまでもなかった。

「同調した領民は五名です」

 俺が連れて来た兵と、捕縛を免れた従士長が率いる領軍とで屋敷の完全包囲に成功すると、従士長が数名の従士を伴って報告に現れる。
 その中で、ヘルゲという三十歳前後に見える小柄な男性が、反乱に同調した領民の数を正確に調べてきてくれたそうだ。

「今はヘルマン様の元で家臣などしておりますが、元は本村落の農家の出ですから」

 領主が家族ごと捕らわれているので、指揮権を把握した俺に報告に来ていたのだ。

「五名も、同調したのがいたのか」

「若い者ばかりですから」

 若気の至りとでも言うべきか、僻地で育ち外への憧れや将来の夢などを大きく持っている時に、上手くクラウスにでも唆されたのであろう。

「何でも、ヴァルターとカールに唆されたと」

「あの二人か……」

「はい、あの二人です」

 従士長である分家の親戚筋に当たるライヒという人物は、最近バウマイスター騎士爵領内で、この二人がバカみたいな事を言っていたのだと報告する。

「俺達はバウマイスター伯爵様の兄だから、将来は領地を分与されるのだと」

「ああ、そんな話があったね」

 俺は別にそれでも構わないと思ったのだが、父やヘルマン兄さんに絶対に駄目だと言われてしまったのだ。
 中身が日本人気質の俺からすれば、ヴァルターとカールは異母兄弟なのである程度の優遇は必要だと思い、それには貴族にする可能性も含まれていた。

 ところが、父やヘルマン兄さんからすると。
 いや、貴族世界の常識でいうとそれは絶対にあり得ないのだそうだ。

 青い血と赤い血。
 この二つには、絶対の差が存在している。

『一代で、その土地を切り開いて貴族になった元平民なら良いのだ』

 中央では下に見る貴族もいるが、それは次代以降で貴族との婚姻を重ねれば解消される。
 貴族である本妻に子が無く、平民との間に生まれた庶子を跡継ぎにする際も、それは例外なので仕方なしには認められる。

 だが、俺は本妻から生まれた青い血の貴族である。
 その俺が、半分赤い血が混じった兄弟を貴族に押し上げるなど、周囲から総スカンになる事は確実であると言われてしまったのだ。

『名主にしたり、商売の利権を与えたり。優遇処置は、あくまでも平民の枠の中でだ』

 そう父に言われてしまい、なのでヘルマン兄さんと協議して新村落の名主の枠や俺が以前に作った商店の経営権などを与える事にしたのだが。

 なぜか、向こうがその待遇に不満を感じて反乱を起こしたようであった。

「ヴァルターとカールは、自分達も貴族になれると」

「それは、あの二人がバカって事? でも、あのクラウスの孫でしょう?」

「教育に失敗したとしか……。若いので、バウマイスター伯爵様の躍進に自分達も乗れると思ったのでしょう」

 ある種の若気の至りなのであろうが、反乱まで起こされるともう言い逃れも難しい。
 というか、なぜいきなり反乱なのであろうか?
 最初は、陳情とかをするのではないかと。

「一番理解できないのは、なぜクラウスが同調する?」

 それどころか、完全に首謀者である。
 更に理解できないのは、こんな少数で反乱を起こし、全く勝ち目が無いという点だ。

 少なくとも、俺が知るクラウスはこんな無謀な事はしない。
 なのに、先ほど話を聞きに占拠している屋敷の傍まで行くと、出迎えたクラウスは自分の孫達も貴族にしろと理不尽な要求をぶつけていた。

「あのクラウスが、何の考えも無しにあんな無茶な要求をするか?」

「さすがに、みんなおかしいと思っていますね」

 ヴァルターは自分の跡取りで、カールはこれから開発する新村落の名主に。
 異母妹の婿達も、その補佐や商店の経営を任されるなど優遇はされている。
 なのに、それを捨てて反乱をする意味が理解できないのだ。

「本人は、強訴だと言い張っていますけど」

「いや、普通に反乱だから」

 冒険者を傭兵として雇って戦力にしているのだ。
 強訴などと言っても、詭弁にしか聞こえなかった。

「とにかく奇妙だな」

 従士長が報告を終えて戻ってから、俺は仮の本陣にしている家の中で考え事をしていた。

 あのクラウスが、無謀な反乱を企てるなどあり得ないと思っていたからだ。
 ならば、その理由を推察しなければいけない。

「確かに奇妙よね」

 俺の護衛役として付き従っているイーナも首を傾げていた。

「なぜ、異母妹とその婿達は反乱から除外したのかしら?」

 それがすぐに判明したのは、俺達がバウマイスター騎士爵領に到着した時に従士長に連れられ、レイラさんと、異母姉のアグネスと夫のノルベルト、コローナと夫のライナーが出頭して来たからだ。

 何でも、反乱を起こす事に反対したら、レイラさんは親子の縁を切られ、残りの四人もクラウスから絶縁されてしまったそうだ。

『レイラ殿。あなたが先代との関係を利用して、ヴァルターとカールの増長を煽ったという噂がありますが』

 彼女達を連れて来た従士長は、以前にヴァルターとカールがヘルマン兄さんに陳情に行った際に、レイラさんも付いて来たのを実際に目撃していたそうだ。

『それは、本当なのですか?』

『事実ですが……』

 レイラさんが言うには、せめて子供とその婿達が平民としてそれなりに優遇を受けられたらなと、そういうつもりで一度だけ陳情に同行したのだそうだ。

 決して、貴族になりたいなどとは思っていない。
 最初の処置で、自分としては十分に満足していたのだと。

『潰されるとわかっていて、そんな無謀な陳情などは……』

 歴史の長い貴族家とは、必ず相続や血縁者の扱いで一度は手痛い目に遭っている。
 だからこそ、余計の他所の掟破りには厳しかった。
 おかしな前例を作る元になってしまうからだ。

 レイラさんも、それは理解しているようだ。 
 クラウスから言われているのかもしれないが、それなら余計にクラウスの反乱はおかしい。

 そもそも、なぜ娘とその婿達を縁切りまでしてしまうのかと。

『事が解決するまでは、大人しくしていて貰いましょうか』

 俺はレイラさん達に自宅軟禁を命じ、それが守られるように数名の警備兵の手配を行う。
 あとは、反乱に手を貸している冒険者達の処遇だ。

「反乱に参加していない冒険者達も軟禁しているのよね」

「当たり前だ」

 やっぱり同調していて、後ろからブスリでは困る。
 当然、一箇所に纏めて軟禁している状態であった。

「エルとルイーゼとカタリーナが尋問に行っているのよね?」

「俺の勘だと、何も知らないような気がするけど」

 三人は、その軟禁されている冒険者達の尋問に行っていた。
 反乱に参加した冒険者達の情報を聞くためだ。

 あとは、エリーゼがヴィルマを護衛に、領内を安定させるために教会での無料治療奉仕活動を行っている。
 この領内におけるエリーゼの人気は、不動の物となっている。
 反乱発生中にも関わらず、教会は多くの人達で賑わっていた。

「ただいま」

「どうだった?」

「駄目だね。いきなりの事で、向こうも晴天の霹靂らしいよ」

 冒険者達の尋問を終えた三人が戻って来るが、やはり成果はなかったようだ。

「みなさん、北の山脈に生息する飛竜やワイバーンが本当に狩れるのかどうか調査に来たみたいですわね」

 魔法使いでもないと、凄腕の冒険者でも飛竜を狩るのは難しい。
 せっかく狩れても怪我人ばかりでは利益が少ないし、死人が出れば尚更だ。
 そこで、普通の冒険者が竜を狩る時には団体で行うのが常識であった。
 竜の力に団体で挑むのだ。

 最低でも十名ほどで、一匹ずつ上手く誘い込んでから罠なども駆使して狩る。
 報酬は頭分けになるが、それでもチームワークが優れた冒険者パーティーならば平均よりも遥かに稼げる。

 どうやら彼らは、ここが新しい狩り場として使えるのかどうかを調査しに来ていたようであった。

「あの反乱に同調した連中もか?」

「それが、冒険者の何人かが奇妙な事を言っていたな」

 エルは、初老に達しているベテラン冒険者数名から、『あんな連中、見た事が無い』という証言を得たそうだ。

「竜を団体で狩る冒険者の世界って、意外と狭いんだって」

 個人でもある程度の強さを要求され、団体戦でもチームワークを優先的に実行可能かどうか。
 稼げるがハードルが高いので竜専門の大規模パーティーの数は少なく、その世界が長い初老の冒険者達はほぼ全ての同業者達を把握している。

 なのに、彼らの事を今まで見た事が無いそうだ。

「新人だから、初チャレンジとか?」

「それでも、最初は何人かベテランを入れて組むから、そのベテランの顔を知らないはずがないって」

 確かに、占拠した屋敷を警備している冒険者達は全員二十代から三十代前半くらいで若い男性ばかりであった。
 冒険者なので普通少しは女性が混じるはずなのだが、ゼロなのもおかしな点ではある。

「冒険者じゃないのかね」

「だろうな。統率が取れ過ぎている」

 竜を専門に狩る冒険者パーティーも統率は取れている。
 だが、それは竜を狩る時だけだ。
 普段は冒険者なのでそれぞれ好き勝手にする者が多く、こんな軍隊のように真面目に交代で警備など考えられない。
 傭兵で雇われた癖に、屋敷の金品を漁ったり、奪った食料や酒で宴会などをしていないのだ。

「動き方を見ると、軍人みたいだな」

「確かに……」

 格好は冒険者なのに、まるで軍隊のようにキビキビと動いているのだ。
 ならば、冒険者に偽装した軍人という事になる。

「王国軍なのかな?」

「まさか」

 現時点で、未開地開発の邪魔などするはずがない。
 利益どころか、大損を被るだけなのだから。

「となると、貴族の私兵。それも、大物のはずですわ」

 カタリーナの想像通りであろう。
 大物貴族の諸侯軍なら、専門に訓練をする家臣がいるので自然と王国軍の軍人達と練度などで差が無くなるからだ。

「誰の差し金なんだろうな?」

 またどこかの貴族が、何か企んでいる可能性が高くなった。
 彼らはバウマイスター伯爵領の開発遅延と混乱を意図して、俺のアキレス腱である故郷を狙ってきたのだ。
 冒険者に偽装した兵達を送り込み、そこでクラウスの孫達が現状に不満があるのを知って唆した。

 いや、それだとやはりおかしい。
 あのクラウスが、成功の可能性もない反乱の首謀者になるはずがないからだ。

 クラウスは、バウマイスター家に屈折した感情は抱いているが、必ず自分の利益を確保する。
 このまま鎮圧され、縛り首になるような男ではないはず。

「うちのハインツとは違って、腹黒ですのね」

「あんなお人好しの逸材、滅多にいるか」

 没落した主家を給金も貰わずに支えるなど、この世界では超希少価値な逸材だ。
 今はうちで相談役をしているが、ローデリヒが心から感謝しているくらいなのだから。

 少領の筆頭家臣ではあったが、王都に領地が近かったせいで大貴族などとの付き合い方も心得ていたし、経済的な部分にも強く老練で、若い家臣ばかりのバウマイスター伯爵家には貴重な人材となっていた。

「とにかく、まずは様子見かな」

 先ほどクラウスを呼んで話しかけてみたが、奴の答えは『俺の孫を蔑ろにしやがって!』という言葉に集約されていた。
 俺が、ヴァルターとカールを貴族にすれば兵を退くそうだ。

 要求が無茶過ぎて、全くお話にならないのだ。

「ところで、ブランタークさんは?」

 一緒について来たはずのブランタークさんの姿が、大分見えなかった。 

「ブライヒレーダー辺境伯様との通信だと思う」

 こちらの情況を知らせているのかもしれない。
 ただ、彼から援軍を送られる事態は避けないといけない。
 いくら寄り親でも、あまり何でも世話になるとこれはこれで問題が発生するからだ。

「最悪、強行突入か……」

 間違いなく多くの犠牲が出るが、これもこの世界なら致し方の無い方法でもあった。
 反乱を起こした者と交渉して妥協などしたら、また第二・第三の反乱を誘発してしまうからだ。

「ブライヒレーダー辺境伯様の援軍は拙いかね」

「独自解決が、最良手だな」

「全くもってその通りなのでそうしてくれ」

 エルと解決手段について相談していると、そこにブライヒレーダー辺境伯との通信を終えたと思われるブランタークさんが戻ってくる。

「何かあったのですか?」

 ここで普通ならば、ブライヒレーダー辺境伯は援軍を送ると言うはずだ。
 まだ開発で手一杯であろうからと手を貸し、自分の影響力を誇示する。
 これが、貴族としては最良の手なのだから。

「急に大規模出兵が決まって無理だそうだ」

「大規模出兵?」

 この時期に、というかこの戦争の無い世界で大規模な出兵がある?
 俺の頭の中には、クエッションマークが浮かんでいた。

「東のブロワ辺境伯だよ」

 そういえば、過去に大軍同士のにらみ合いから衝突があったと聞いている。
 確か、クラウスも参加して戦果をあげたはずだ。

「とにかく、詳しい話はお館様に聞いてくれ」

 俺は素早く懐から携帯魔導電話を取り出すと、ブライヒレーダー辺境伯へと通信を繋げる。
 すると、彼はすぐに電話に出たようだ。

『バウマイスター伯爵。どうやら、そちらの反乱とこちらの大規模出兵は連動しているようですね』

「ですよねぇ……。でも、なぜ急に?」

『それがですね……』

 昔から、東を統括するブロワ辺境伯家と、南を統括するブライヒレーダー辺境伯家の仲は良くなかった。
 領地が隣接する統括下にある小貴族同士の領地・利権争いで度々直接交渉が決裂し、時に互いの主張を認めさせるために兵を出して睨み合いや小規模な衝突も複数回発生している。

 これは、アーカート神聖帝国と講和する前からずっとそうだったそうだ。

『先代同士が当主になったばかりの頃には、衝突が大規模になって犠牲も多く出ましたし』

 それは、前に聞いている。
 クラウスが戦果を挙げた戦いであったはずだ。

『あとは、私が家督を継いだばかりの頃に散々に嫌がらせをしてくれたんですよ』

 当主が交代したばかりで対応が遅れるであろうと、一部紛争領域を実効支配しようとしたり、森林や鉱山利権を全て奪い取ろうとしたり。

 当然、両者の仲は拗れるばかりであった。

『ただ、最近はうちが完全に有利でしたね』

 その最大の理由は、俺がいるからだそうだ。

『バウマイスター伯爵がいてくれて助かりましたよ』

 二回の竜退治を行った魔法使いが、自分の寄り子の子供だった。
 ブライヒレーダー辺境伯は鼻高々で、そのおかげで中央とのパイプも強くなったそうだ。
 あるパーティーで、ブロワ辺境伯はブライヒレーダー辺境伯を見て顔を真っ赤にさせていたらしい。

『あとは、もう言うまでもないでしょう』

 新領地開発の利権に、魔の森で産出する様々な物もある。
 ブライヒレーダー辺境伯領が王都とバウマイスター伯爵領との間にあるだけで、勝手に利益が入ってくるのだ。
 魔導飛行船の便は増えているし、海運の方の船便と港も同様で、開発特需で仕事も一杯入ってくる。

 まさに、ウハウハなわけだ。

『当然、東部の連中は完全に排除していますから』

 確かに、今まで散々嫌がらせをしたブロワ辺境伯や彼が統括する東部の貴族達に、それを分けてやる義理などないはずで。
 そんな余裕があるのであれば、南部の貴族達に分けるのが、親玉であるブライヒレーダー辺境伯の正しい判断であろう。

 俺でも、間違いなくそうしてるはずだ。

「それで、出兵なんですか? 短絡的すぎません?」

『ちょっとおかしいのは事実ですけどね。それは、もっと調査してみないとわかりません。開発利権が無い東部の貴族達に突き上げられたから、うちとの紛争案件を出兵による実効支配で奪って分け与えようとした。こんなところかもしれません』

 実際に、とりあえずは南北で半々という事になっている森から、ブライヒレーダー辺境伯側の貴族の領民達が追い出されたり、同じく鉱山などでも鉱山夫などが追い出されたらしい。

 死者は出ていないが、完全武装のブロワ辺境伯側の諸侯軍の兵士達や、ブロワ辺境伯家諸侯軍の兵士達に追い出されてしまったそうだ。

『完全に後手に回っています。早速兵を集めないと。はあ……。お金がかかりますね』

 相手の実効支配を放置してそのままにするなど、弱腰外交の名手である日本くらいしかしないので、コストは度外視でブライヒレーダー辺境伯は兵を集める必要があった。

『出来ましたら、バウマイスター伯爵にも諸侯軍混成軍に参加して欲しいなと思いまして』

「そうですね。なるべく早めに参加しますよ」

『そうですか。それは、ありがたい。お願いしますね』

「良いのか?」

 魔導携帯電話による通信を切ると、すぐにエルが本当にそちらにも諸侯軍を出すのかと聞いてくる。

「出さなきゃ駄目だろうな」

 新しい領地の開発が始まった途端にコレなのだ。
 ここで最初に妙な事を企んだ連中に徹底的に罰を下さないと、第二・第三のブロワ辺境伯が出て来る可能性があった。
 叩きのめして、うちに手を出すのは損だと思わせないといけないのだ。

「人を殺す戦争だけどな」

「そういうのは覚悟しているさ。ヴェルこそ、大丈夫か?」

「そんなの、やってみないとわからん」

 人が人を殺す。
 悪い事なのだろうが、それはその人の置かれた環境にもよる。
 実際に人を殺した後に罪悪感で悪夢を見るかもしれないし、意外と何も感じないのかもしれない。

 そんな事は、その時にならないとわからないのだから。

「ただ、この時代の戦争では。いや、紛争か。人が死なない方が良いらしいから」

「魔法で解決しますの?」

「そういう事。俺とカタリーナとブランタークさんでやれば予定では犠牲はゼロだな」

 まずはこの反乱を平定すべく、早速魔法使い三人で相談を始めるのであった。




「人質は、食堂に集められているのか」

「良くわかりますね」

「探知では、まだ俺の方が上だな」

「いやあ、まだ魔法を使えない微細な魔力の持ち主だと、この人数では……」

「私も、ここまでは詳しく探知できませんわ」

 魔法による反乱軍の制圧と人質の安全確保を同時に行うため、俺達はテーブルの上で手書きの地図を広げていた。
 包囲に参加している従士長や運良く逃げ延びた使用人などから聞いた屋敷とその周囲の詳細な地図と、ブランタークさんから調べて貰った人員の配置などが描かれている地図だ。

 自分の実家なのだが、俺は全体の配置をあまり理解していなかった。
 自分の部屋、食堂、書斎とそれらをつなぐ廊下。
 年を経るほど屋敷にいた時間は短くなったし、用事の無い場所などには極力近寄っていなかったからだ。

「ヘルマン殿、その家族、使用人などで合計十一名。食堂に纏められていて、入り口に四名の監視役。あとは屋敷の各位置と周囲に配置した柵の前で警備に当たっているな。合計で二十八名だな」

「クラウスはわかりますか?」

「ああ、食堂の中心部にいる」

 反乱の首謀者らしく、人質に自分の持論などを語っているのであろうか?

「三人でやれば意外と楽だな」

「エリアスタンですの?」

「そういう事」

 『エリアスタン』とは、その名の通りに電撃で相手を痺れさせて動けなくする魔法だ。
 中級レベルの魔力があれば大半の人が使えるが、コントロールがとても難しい魔法であった。
 警備隊では暴徒鎮圧目的などで重宝されるのだが、威力が弱過ぎて少しビリっとしただけ、逆に強過ぎて感電死、範囲のコントロールが下手で無関係の人まで痺れさせてしまう、逆に範囲が狭過ぎて大半の標的が痺れもしなかった。

 こんな事例が、山ほど報告されている魔法なのだ。

「この屋敷と反乱軍がいるエリアを三分割してですね」

 一番コントロールが難しい食堂を除外して、見張りをしている四人を標的にするのがブランタークさん。

「クラウスは良いのか?」

「一人だけ動けても何も出来ませんしね」

「年寄りだから、ショック死でもすると困るか」

「悪足掻きをしたら、別に構わないですけど」

 あとは、俺とカタリーナで残りのエリアを二分割する。

「私、スタンの威力が少し強過ぎるのが欠点でして」

「感電死させるなよ」

「さすがに、そこまでは強くありませんわ」

 俺達は、包囲網の中で自分が担当するエリアに一番近い位置に移動をする。
 更に俺は、エリアスタン発動後に反乱軍の兵士達を捕らえる役割を与えられたモーリッツや従士長達に声をかけていた。

「痺れて動けなくなっているはずだが、油断はしないように。あと、ヘルマン兄さん達の安全確保も最優先で頼む」

「了解しました」

「お館様達に傷一つ付けさせませんとも」

 先にカタリーナが所定の場所へと向かい、俺とブランタークさんも同じようにエリアスタンを発動させるポイントへと歩いていると、彼が小さな声で話しかけてくる。

「あの暴れ馬を上手く乗りこなしているじゃないか」

「暴れ馬ねぇ……。実際、そこまで凄くはないですよ」

 上級でもかなり上の魔力を持ち、実はかなり器用に多くの魔法を使いこなすカタリーナであったが、ブランタークさんが言うような暴れ馬というイメージを俺は抱いていない。

 ちょっと普段の言葉がキツイ時もあるが、御家再興という目的のために強がっているのだと思えば可愛いと思えてしまうのは、俺の中身がおじさんだからであろう。

「俺はおじさんだからな、暴風の態度が強がりから出ているのは知っているさ。若気の至りというのかね? あの反乱に参加しているバカ達もそうだがな」

 ブランタークさんは、ヴァルターとカールに同調して反乱に参加した若い領民達の事を言っているのであろう。

「失敗すれば縛り首なのに、若さってのは無茶を可能にするよな」

「あの冒険者達もですか?」

「あいつらは、もっと悲惨だ」

 この情況で、ブロワ辺境伯領へと生還など絶望的である。
 鎮圧の過程で殺されるか、捕らえられて処刑されるかのどちらかだ。

「多分、拷問されてもただの冒険者だと言えと言われている。あいつらは、坊主の動きを封じるのと、お館様の注意を分散させるための捨て駒だ」

「悲惨過ぎる……」

「陪臣でも下の方。一般兵士と大差ないような家の次男以下ばかりだろうぜ」

 その陪臣家も継げず、部屋住みの居候で燻っているような連中ばかりであろうとブランタークさんは予想していた。

「冒険者にでもなればいいのに」

「みんながみんな、そうは思わないんだよ」

 前世でも、恐ろしいまでの情熱で親方日の丸(公務員など)を目指す人は多かった。
 きっと彼らも、それと同じ人種なのであろう。

「いつか自分も実家の居候ではなく、独立した一家を立てたい。そう思いながら勉学や鍛錬に励み、主家からたまにアルバイトで仕事を貰い、結婚もしないで年老いて死んでいく。そんなのが結構いるのさ」

 余剰人員なので、こういう作戦で使い潰すには最適なのだそうだ。

「悲惨ですねぇ……」

「伯爵様のところで道場を開いた、イーナの嬢ちゃんとルイーゼの嬢ちゃんの兄貴達を見ればわかるだろう? そんな奴はかなり多い」

 少し目線を変えて、農民なり、職人なり、商人なりに転職する人も多いが、それは逃げだと思って独立した陪臣家を立てる事に執着する。
 能力が高い人も多いが、いくら大貴族家とはいえそう陪臣家の枠は増やせないわけで、結局燻ったままの人が多いそうだ。

「そんな彼らの、一発逆転の舞台がコレですか……」

「物凄く勝算は薄いけどな」

 それでも、彼らからすればこれはチャンスなのだそうだ。
 どう考えてもチャンスには見えないのだが、そのくらい彼らは追い込まれている人達という事だ。

「坊主みたいに、魔法の才能でもあれば別だがな。暴風の件でもそうだ。あんなお転婆、そうそう嫁に貰おうと考えるかよ」

 大貴族のバカ息子ならば、実家の力を利用してそんな事も考えるであろう。
 だが、普通の男があれほど強い魔法使いを嫁に貰うのは難しいのだとブランタークさんは説明する。

「夫婦喧嘩で死ぬ可能性がある嫁なんて嫌だろうが」

「確かに……」

「坊主なら、その心配もないからな」

「ブランタークさんも、その心配は無いですけど」

「俺は、ああいうのは好みじゃねえから。それに、貴族である坊主には必要な手駒でもある」

 取り込めば使い勝手の良い人材なのであろうが、そういう事を考える貴族的な思考が、師匠から魔法の手解きを受けて偉大な魔法使いになるぞという夢から外れているような気もするのだ。

「そんな事を気にしているのか? というか、アルだって魔法はある程度極めたからこその、ブライヒレーダー辺境伯家への仕官だったんだぞ」

 別に師匠は、とことん自由な冒険者としての生活に拘ったわけでもなく、だからお抱えとして仕官もしたのだとブランタークさんは説明する。

「アルの仕官を、先代は大いに喜んだ。あの遠征で戻ったら、アニータ様との婚姻と新陪臣家の新設を考えていたそうだ」

 アニータとは、先代ブライヒレーダー辺境伯の末の妹で、今は四十歳超えのお嬢様兼家事手伝いである。
 今では完全な嫁き遅れであったが、師匠が仕官した当時は何とか二十代であり、年齢的にも釣り合いが取れていたのでその話は水面下で進んでいたようだ。

「アルと先代の戦死で駄目になったけどな。ついでに、アニータ様もお一人様街道驀進中だ」

 結婚とはタイミングである。
 前世で、会社の上司が語っていたのを思い出す俺であった。

「毎日魔法の訓練はしているのだし、土木工事と狩りで魔法も使っているじゃないか。今もこうして、エリアスタンで大活躍だ」

「それもそうですね」

「人生の先なんて誰もわからん。坊主は若いんだから、今は好きにやれ。アルだって、坊主くらいの頃には好き勝手やっていた」

 少々人生の悩みがあった俺であったが、ブランタークさんのアドバイスで気分は楽になったような気がする。
 彼とも別れて所定の位置につくと、早速エリアスタン発動の準備を始める。

 包囲網の前線に魔法使い三人の姿が見え、屋敷の周囲にある柵の前で警戒している冒険者達に緊張が走ったようだが、俺達が何をしようとしているのかはわからないようで、ただ睨み合っているだけになっていた。

 エリアスタンの発動タイミングは、最初に突入をするモーリッツと従士長に任せていた。
 俺の隣にいる兵士が肩に手を置いてから三秒後だ。

「(っ! 1.2.3!)」

 打ち合わせ通りに俺の肩に兵士が手を置き、三秒数えた後にエリアスタンを発動させる。
 直後に屋敷とその周囲の地面が青白く光り、一秒と経たないで警備している冒険者達はその場に倒れ伏していた。

「突入!」

 モーリッツの合図で、選抜されていた兵士達が屋敷の内部へと強硬突入する。
 屋敷の外で麻痺して倒れている冒険者達はその捕縛を包囲部隊に一任し、屋敷の中の制圧を第一目標としていたからだ。

「エル! イーナ!」

「了解!」

「任せて!」

 俺自身も、エルとイーナを護衛に窓から屋敷の内部に突入していた。
 目標は、食堂に集められている人質の安全確保と……。

「クラウスが、どんな屁理屈を捏ねるか楽しみだな!」

「ヴェルって、クラウスさんが嫌いなのね」

 嫌いとか、そういうレベルの話ではない。
 あのジジイは、俺の人生の邪魔しかしないのだから。

「どうせ、俺が庇っても縛り首だからな。末期の言葉くらい聞いてやる!」

 普段はほとんど使われない書斎の窓から突入し、部屋を出て廊下を進むとエリアスタンで麻痺している冒険者達の姿があった。
 これは、一緒に突入したモーリッツ達に任せるとして、食堂へと急ぐとその入り口ではヴァルターとカール他二名の領民らしき若者が倒れている。

 彼らも、エリアスタンで麻痺して動けないようだ。

「さすがは、ブランタークさん」

 食堂の中で手足を縛られて監禁されていたヘルマン兄さん達には、エリアスタンがかかっていなかった。
 詳細な探知で見張りだけを限定し、エリアスタンで仕留める。
 もう少し鍛錬しないと、俺やカタリーナでは出来ない芸当ではあった。

「縛っておいてくれ」

「わかった」

「わかったわ」

 ヴァルターとカール達の捕縛はエルとイーナに任せて食堂に入ると、そこでは意外な光景が広がっていた。
 この反乱の首謀者であるクラウスが、人質にしていたヘルマン兄さん達を縛っている縄を切っていたからだ。

「お前、その程度の事で無罪放免になるとか考えているのか?」

「何を仰います。バウマイスター伯爵様。私は、お館様の命令で芝居を打っただけでございます」

「はあ?」

 やはり、クラウスはクラウスだった。
 俺の顔を見るなり、この反乱が芝居であったと言うのだから。

「これだけの騒ぎを起こして芝居だと? そんなに縛り首は嫌か?」

 俺の発言を聞いて、後ろでエルとイーナに縛られていたヴァルターとカールは悲鳴をあげた後に意識を失ってしまう。
 どうやら、やっと事の重大さが理解できたらしい。

「バウマイスター伯爵様のお気持ちはわかりますが、ここはお話を聞いていただけたらと」

「聞くくらいはしてやる。縛り首用の縄と処刑台の準備もあるからな」

 続けて、ヴァルターとカールと一緒にいた若い領民達もショックのあまり気絶してしまう。
 反乱に参加して他の領民達よりも優遇されようと軽い気持ちで参加したようで、やはり失敗した時の事はあまり考えていなかったようだ。

 というか、若い連中は俺の発言で気絶していたが、クラウスは表情一つ変えておらず、どうやら絶対に処刑されない自信があるらしい。
 その表情を見て、少しムカっとする俺であった。

「そちらの準備は、多分必要なくなると思いますが……」

 果たして、クラウスがどんな釈明をするのか?
 俺は、ただそれを知りたいがために、奴の話を聞く事にするのであった。




「反乱を起こした挙句に、取り引きで無罪を要求とはな……」

「いえいえ。無罪ではなくて、死罪を避けて欲しいと願うわけでして」

 結局反乱は、一日で完全に鎮圧されていた。
 犠牲者もエリアスタンによってゼロであり、反乱に参加したクラウス以外の連中は武装解除され、一箇所に纏められて兵士達に監視されていた。

 そして肝心のクラウスであったが、ようやく平穏を取り戻した屋敷の書斎で何食わぬ顔で堂々と取り引きを要求していた。

 機密の関係で、現在書斎にいるのは俺、ヘルマン兄さん、エリーゼ、ブランタークさんだけである。
 あとのみんなは、反乱の後片付けを手伝っていた。

「クラウス。俺は前に釘を刺したよな?」

 ヘルマン兄さんからすれば、増長するヴァルターとカールに釘を刺すようにとクラウスに命じたのに、なぜか三人に強訴を名乗る反乱を起こされてしまったのだ。

 それを無罪にしろと言われて、怒らないわけがなかった。

「ヴァルターとカールの教育を誤ったのは、正直私の不覚でした。上手く言い聞かせるというのは難しいのです。私の力で抑えるという手も、老い先短い私が死ねば役に立ちませんし」

 さてどうした物かと悩んでいた時に、ちょうどタイミング良くあの冒険者達がヴァルターとカールに接触して来たそうだ。

「ブロワ辺境伯の手の者達です」

「知っていたか」

「ええ、彼らは苦労しているようですね。反乱計画に親身で協力していたら話してくれましたよ」

「……」

 クラウスは、包み隠さず真実を話しているようだ。
 貴族になれると増長したヴァルターとカールを利用しようと接触した彼らに自分も協力し、その過程で上手く情報を引き出した。

 反乱に参加した連中を見ると、若い者が多い。
 老練なクラウスからすれば、簡単に情報を引き出せるカモに見えたのであろう。

「そのまま通報すれば、手柄だったろうがな。手遅れじゃないかな? 老練な名主殿」

「そうは思ったのですが、この狭い領地で二十名を超える反乱分子の捕り物です。犠牲は大きかろうと」

 成否以前にあとが無い連中なので、死に物狂いで抵抗してくるはず。
 そこで、反乱を起こしてしまう事にしたそうだ。

「参加人数的に、領内の完全制圧は不可能です。彼らも、ブライヒレーダー辺境伯様の後背を混乱させ、バウマイスター伯爵様の出兵を抑えるための工作なので、そこまでは望みません」

 そこで、領主の館の占拠に人質を取っての強訴という建て前にして、彼らと共に作戦を実行したそうだ。

「クラウスは、俺達が反乱を鎮圧してしまうのを確信していたのか……」

「それが、高位の魔法使い様でございましょう」

 屋敷に集まった反乱分子を、俺達が一網打尽にするはず。
 しかも、お互いに犠牲者もなく。
 クラウスは、そこまで読んで反乱を起こしたようだ。

「ヴァルターとカールも巻き込んでか?」

「一度、手痛いお灸を据えないと駄目でしょうから。あとは、二度と二人を利用させないためです」

 俺の異母兄である以上は、またいつか利用しようとする貴族が出て来る可能性もある。 
 そこで、二度と彼らが利用されないようにする必要があるとクラウスは考えたらしい。

「一度失敗して、辛うじて首が繋がっている状態で監視もある。確かに、余計な事を考える貴族もいないか……。ヴェル、こちらにも問題があって、受け入れざるを得ない」

 ヘルマン兄さんにとって一番の問題は、名主やその後継者が一気に消える事による人材の枯渇であった。

「本村落の名主が消えるからな。次の手配が必要だ」

 クラウスをそのままというわけにはいかず、かと言っていきなり余所者でも問題はあり、異母妹であるアグネスの夫ノルベルトに本村落の名主を、同じくコローナの夫ライナーに商店を任せる人事を行いたいのだそうだ。

「彼らは、クラウスの反乱に反対して縁切りまでされている。領民達からの反発も小さいと思う」

「それで、ヴァルターとカールは?」

 完全なスタンドプレーではあったが、確かにクラウスの思惑通りに事を進めた結果、バウマイスター騎士爵領の人員に犠牲者は出なかった。
 もしクラウスが、反乱が起きそうであるとヘルマン兄さんに通報し、兵を集めて取り押さえようとすると、捨て駒である彼らが必死に抵抗し大きな犠牲が出ていた可能性があるのだ。

 独断専行なので、クラウスに功績があったと認めるわけにはいかない。
 だが、そのまま縛り首にすれば良い案件でもなくなっていた。
 表面上はクラウスが責任を取って引退する以上、ヴァルターとカールを縛り首にするわけにもいかなかったのだ。

「名主にはしてやるさ」

 クラウスは強制引退で、ヴァルターとカールに新村落の開拓を任せる。
 だが、ヘルマン兄さんからの援助はかなりカットするし、俺やカタリーナによる手伝いも無しだ。

 一から自分達だけで田畑を切り開き、村落を作っていく。
 領主からの援助や待遇も、次世代にならないと元に戻さない。

 俺の兄達だから辛うじて処刑は避けられたが、死ぬまで新村落の開墾に付きっきりとなる。
 監視の目もあるので、これ以降は余計な野心など考えないであろうという、ヘルマン兄さんの考えだ。

 しかも、この新村落の人口は少ない。
 反乱に参加した者とその家族だけで、新しい移民を募集しても良いがヘルマン兄さんは手を貸さない。
 外にツテが無いので、代が代わるまでほぼ彼らだけで新村落の開発を行うそうだ。

 ある種の流刑にも近い処罰であった。

「ヴェンデリンは、どう思う?」

「そんなところでしょうかね?」

 やはり処刑は躊躇われるし、かと言って無罪放免でそのままでは他の領民達に示しがつかない。
 落とし所としては良いと思うのだが、クラウスは特に表情を変えるでもなく普通に聞いている。

 まるで、こちらの考えを予想しているかのようだ。

「クラウスとしては、この条件で良いのか?」

「はい。それは勿論」

 バカな事を考えた孫にお灸を据えつつ、百%自力開発で困難ながらも新村落の名主には落ち着いた。
 他の村落の手前、代が代わるまでは待遇は低いが、ヴァルターとカールの次の代には解除される。

 本村落の名主も、孫娘の婿が継ぐ事が出来た。
 一族縛り首に比べればマシかもしれない。

 クラウスの真の目的とは、バカな事を考えた孫二人の助命だったのであろうから。

「では、後の事はヘルマン兄さんに任せます」

「捕まえた反乱分子達はどうする?」

「使い道があるので、引き取ります」

「助かる。あんな連中を管理して食わせる人手と食費がなぁ……」

 軍事的な訓練を受けている成人男性が二十名以上だ。
 発展してるとはいえ、今のバウマイスター騎士爵領では持て余す存在であろう。
 かと言って全員を処刑するのも、領民達に強いショックをもたらす事となる。

「バウマイスター伯爵様は、あの連中を使ってブロワ辺境伯に反撃をいたしますので?」

「人が忙しいのに、下らない事で足を引っ張ってくれたからな」

「左様でございますか。それでしたら、私も何かお手伝いをいたしましょうか?」

「一度、お前の頭の中を覗いてみたいな」

「大した物はありませんよ。今回の事件で、私も強制隠居で暇が出来まして。ただ、この年齢でヴァルターとカールの手伝いで開墾も厳しい年齢になりました。幸いにして、私には多少人様よりも波乱含みな人生経験がございまして。それを生かして、バウマイスター伯爵様に少々のご褒美でもいただけたらなと。自業自得とはいえ、ヴァルターとカールに祖父として多少の援助も必要でありましょうし」

「そうだな」

 他の領民達からの目もあるので、ヴァルターとカールと反乱に参加した若い領民達は、新しい村落建設予定地で自分で家を建て、田畑を耕す必要がある。
 なので、クラウスとしては資金面で手助けをしたいのであろう。

「仕送りのお金を稼ぐアルバイトにございます」

 ハインツのように相談役にすると問題になるので、俺が私的にアルバイト代を出す相談役。
 位置的には、そんなところであろうか?

「本当に役に立つならボーナスも出すが、立たないなら飯しか出さない」

「引退したジジイですので、食の保障があれば結構にございます」

 こうして、なぜか反乱の首謀者であるクラウスを臨時雇用する羽目になったのだが、どこか彼の思惑通りに動いているような気がしてしまうのであった。
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