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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第三十三話 つかの間の休日。

「へえ、物凄く賑わっているな」

「この商業街には、大小様々な商店が軒を連ねているからね。王都内からも、国内各地からも、隣国のアーカート神聖帝国からも買い物に来る人は多いのさ」

 無事にエーリッヒ兄さんの結婚披露パーティーが終わった翌日、俺達はエーリッヒ兄さんとミリヤム義姉さんの案内で、王都内にある商業街を訪れていた。
 さすがは一国の首都にある商業街、ブライヒブルクにある商業街よりも遙かに規模が大きかった。
 実家とは、比べるまでもない。
 何しろ、バウマイスター領には店すら一軒も無いのだから。

「わざわざすいません。ミリヤム義姉さん」

「気にしないで。主人は、これから三日間お休みだから」

 この世界では、結婚をすると大抵は二~三日の休暇が貰えるらしい。
 教会への報告だと一日のみのお休みらしいが、披露パーティーだと準備に忙しいので疲れているであろうからという理由で、後は夫婦水入らずの時間を過ごして欲しいという事のようだ。

 それと新婚旅行だが、出かけるのはかなりお金に余裕がある中堅以上の貴族とか、大商人くらいであるらしい。
 都市部の下級貴族や、標準レベルの生活をしている平民は、三日間ほど休暇を取って、地元都市内での観光や買い物などで時間を過ごすようだ。

 なお、うちの実家のような農村には休みなど無かった。
 結婚した兄さん達も翌日から普通に仕事をしていたので、都市部と田舎では差があるのであろう。

 うちが、貧乏暇なしであった可能性もあるのだが。

「本当、色々なお店があるよなぁ」

「そうね、ブライヒブルクも結構な都市なんだけど」

「人口だけでも五倍以上も違うし、仕方が無いよ」

 一国の首都というだけあって、スタットブルクは誰もが認める大都市であった。
 政治と経済の中枢で、領地の無い貴族の大半がここに居を置いていたし、有名な商会は必ずスタットブルクに本部を置く。
 ここに本部がある事が、商人にとってのステータスでもあったからだ。

 更に、スタットブルクの半径二百キロ以内には人口が一万人を超える町が多数点在していて、まさに首都圏とでも言うべき経済圏を形作っていたのだ。

「まあ、欠点が無いわけでもないけどね」

「欠点ですか?」

 エーリッヒ兄さんは、王都は物価が高いし、人混みが最初は慣れなかったし、水が不味いのでそのまま飲めないし。
 などと、王都の欠点を並べていた。

「あとは、パルケニア草原が邪魔で、これ以上の発展を妨げているとかね」

 エーリッヒ兄さんによると、パルケニア草原とは王都周辺にある最後の魔物の領域らしい。
 トップにグレードグランドと名付けられた老土竜がいて、今までに何度も冒険者集団や軍隊の討伐を失敗させたそうだ。

「パルケニア草原が開発可能になれば、まだ首都圏は発展するだろうね」

 大規模穀倉地帯の開発に、パルケニア草原のせいで分断されている道の整備も可能となるので、その経済効果は計り知れないとエーリッヒ兄さんは説明する。

 こういう部分は、さすがは下っ端でも財務関連の役人らしい認識であった。

「でも、そんな厄介な竜を誰が倒すんです?」

「あくまでも仮定の話さ。さあ、買い物を楽しもうか」

 そこでエーリッヒ兄さんの難しい話は終わり、俺達は買い物を楽しむ事とする。

「エル、その剣で大丈夫か?」

「値段の割には良い鋼を使っているからな。ここは買いだろう。そうですよね? エーリッヒさん」

「これはお買い得だね」

「エーリッヒ兄さんって、剣の質までわかるんですか?」

「少々独学でね。あれ? ヴェルも、剣の稽古をしていたよね?」

「ええと……。才能が無かったので、まだマシな弓の方にシフトしました」

「うわぁ……、こういう部分は兄弟だねぇ……」

 実家時代から、朝に一時間ほどの基礎訓練だけは欠かさなかったが、やはりどう考えても俺に剣の才能など無かったのだ。
 むしろ、まだ弓の方が希望があったし、魔法は練習した分だけ報われるので、今ではほとんど剣の訓練はしていなかった。

 そういえば、師匠から貰った各属性の刃を出せる剣は、完全に死蔵したままだ。

「まだ魔力の伸び代があるのかい?」

「ええ、それは毎日実感していますから」

 俺は師匠から言われた通りに、いつ何があっても毎日座禅をしながら瞑想を行い、体内の魔力を練る修練を一日も休まずに行っていた。

「あまりに現実離れしていて、私からは何も言えないな」

「ただ、王都だと派手に魔法の訓練が出来ないですからね」

 これがブライヒブルクなら、郊外に出て派手に練習できるのだが、今は無理なので室内でも出来る魔力循環のための瞑想などを行っているだけであった。

 その点、庭で訓練ができるエル達が羨ましかったのだ。
 そのエルは、良く俺に『貴族の嗜みだぞ』と言って剣の稽古に誘ってくる。
 当然、俺はそんな無駄な時間があったら魔法の訓練をすると言って断っていたのだが、敢えて言おう。
 俺が剣など持って、何の役に立つのかと。

「ようし! 新しい剣をゲットだ!」

 結局買い物は、エルが新しい剣を手に入れ、俺も新しい弓矢を新調する。
 剣よりも、まだ弓の方が使う頻度は高いので無駄にはならないであろう。

 エーリッヒ兄さんも、普段は時間が無いとの事で普段着などを数着購入していた。
 あとの女性陣であったが、三人は何件も洋服屋やアクセサリーショップなどを巡っているらしい。

 なぜ、『らしい』と言うのかと言えば、正直女性の買い物に付き合うのは疲れてしまうからだ。

「エーリッヒ兄さんは、ミリヤム義姉さんに付き合わなくて良いんですか?」

「前に一度付き合って、それで懲りた」

 ミリヤム義姉さんは、下級貴族の生まれなので普段はあまり無駄遣いなどしないらしい。
 その代わりに足でお買い得品を探すので、それに付き合わされて辟易したそうだ。
 せっかくの休みに半日以上も商業街を歩かされて、翌日職場に机の上でへばってしまったとエーリッヒ兄さんは話していた。

「(何気に、発想がバーゲンセールに熱中する主婦だよな)」

 ミリヤム義姉さんは、普段は温和で優しい感じの女性なので、やはり女性にとって『お買い得』という単語は鬼門のようであった。
 あとは、『限定品』とか『処分品』とかのワードであろうか?
 この辺は、前の世界でも同じであったのだが。

「ほら、ヴェルがご祝儀にくれた宝石をアクセサリーにしてくれるお店を探しているんだよ」

 そういえば、俺はご祝儀に未開地で見付けた瑪瑙と翡翠の原石を送ったのだが、これに大喜びのミリヤム義姉さんは急いでこれをアクセサリーにしようとしているらしい。

「女性は、宝石が好きなんですね」

「しかし、あの原石をどこから……、わかったけど、全く問題ないだろうね」

 エーリッヒ兄さんは、俺が宝石の原石を未開地から取って来たのだという事実に気が付いたようだ。
 本当は問題無くはないのだが、実家のバウマイスター家は未開地の資源分布状況など把握していないので俺の盗掘行為を立証できないし、最初から認識すらしていないのだから。

「確かに、あの土地はバウマイスター家に権利はあるんだけど……」

 バウマイスター家単独だと永遠に開発など進みそうもないし、もし王家や大貴族が目を付けたとしても、それは少なくとも数百年は先の話であろう。

 そもそも、今の時点であそこにいける人間は瞬間移動の魔法が使える俺だけなのだ。
 他にも瞬間移動の魔法が使える人間は数百人単位で居るが、もし未開地に瞬間移動で行こうとすれば、一回は己の力で現地に到着しなければいけない。

 俺の瞬間移動で一緒に移動してという方法では、それだと移動の経路が頭に入っていないので不可能であったからだ。

 実は、この瞬間移動の魔法。
 便利である事には間違いなかったが、自分が行った事がない場所には行けないし、自分以外で運べる人数も最大で十人とその手荷物程度であった。

 俺も自分の限界積載量を調べた事があるが、精々で自分の他に五人とその荷物くらい。
 まあ、パーティーのメンバーは運べるので俺としては不便はないし、俺の場合は魔法の袋に入っている分は無効なので問題はなかったのだが。

「という事は、ヴェルは王都に一瞬で来れるのか」

「そうですね」

「エドガー軍務卿が、本腰を入れて欲しがるかもしれないなぁ……」

 運べて最大十人程度なので、瞬間移動の魔法で戦時に戦略的に戦況を覆すのは難しい。 
 だが、それでも少数精鋭の部隊や密偵などの送り込みには使えるし、瞬間移動が使えるのは魔法使いなので魔法の袋もそれに付随している。

 地方の内乱鎮圧に、領地・利権争いの裁定に、大規模な山賊などの討伐などと。
 先に編成した軍を荷駄隊無しで送り込んでも、兵站を瞬間移動が使える魔法使いが補ってくれるのはありがたい。

 そういえば、師匠もその手でブライヒレーダー辺境伯軍が遠征をした時に補給を担当していたのを俺は思い出していた。

「軍部は、瞬間移動が使える魔法使いを常時数十名以上確保しているから、すぐにという話は無いと思うけど。予備リストには入るだろうね」

 他にも、遠方の同じ能力を持つ人と通信が可能な遠距離通話の能力持ちなどが数十名ほど確保されているらしい。

 この遠距離通話は、魔法使いでなくても行える魔法具もあるのだが、作れる人間が物凄く少ないのでなかなかその需要を満たさないらしい。

 当然これも集めていたが、軍が遠距離通話を使える魔法使いを各部隊に分散して配置するのも、これは王国の安全保障政策の一つとも言えた。

 実はこの遠距離通話の魔法は、俺も師匠から習っている。
 ただ、同じ遠距離通話が使える魔法使いとしか話せないし、その魔法使いと微量の魔力を交換して相手を登録する必要があったのだ。

 感覚としては、携帯電話の赤外線通信に近いと言えば解り易いと思う。

 ところが今まで、師匠以外に碌に魔法使いなんて知らなかったので、習得してから一度も使った事がなかった。

 あのブランタークさんでさえ使えない魔法なのだから、かなり特殊な魔法なのだ。
 そういえば、ブランタークさんは随分とブライヒレーダー辺境伯の意図に従って動くのが上手なようであったが、これは遠距離通信で指示を受けているわけではなく、最初にある程度の方針を聞き、それに沿って独自に判断して動いているそうだ。

 貴族お抱えの魔法使いに、年齢を重ねた経験が必要とされる最大の理由でもあった。
 前の世界の転職事情と同じで、経験者優先なわけだ。

「でも、ヴェルはまだ未成年だしね」

 成人まであと三年弱あるし、まさかまた竜退治などに巻き込まれるはずはない。
 そう考えていた俺であったが、それはすぐに撤回しなければいけないようであった。

「どう? ヴェル。似合っている?」

「さすがは、王都のお店。服のセンスが最高だね」

「服を褒めるのは良いけど、着ている私達も褒めなさいよ」

 そこに、何軒もお店を回ってようやく新しい服を購入したイーナとルイーゼが現れ、購入した服を嬉しそうに俺やエルに見せていた。

「しかし、結構買ったんだな。資金は大丈夫なのか?」

「王都から戻ったら、熊を中心に狩るわ」

「一杯お金を貯めて、来年も王都で服を買うんだ」

 俺は服装など変で無ければ良いくらいにしか考えていないのだが、女性陣は王都の最新ファッションに感化されてしまったようだ。
 最新ファッションを買うには金がかかるし、イーナは俺に借金もある。
 となれば、獲物を沢山狩るしかないわけだ。
 可哀想な理由で狩られる動物達であったが、この世界には動物愛護団体もいないわけで。

「ヴェル君。こんなに可愛い娘達が新しい服を着ているのよ。ここは、褒めてあげないと」

「義弟に厳しいですね。ミリヤム義姉さん」

「厳しいというか、常識よ」

 流行の服のために大量に狩られる熊を、ほんの少しだけ可哀想だなと思ってしまう俺であったが、明日に訪れる俺の不幸と比べれば、そんな事は些細な物でしかなかった。

 それと、俺は懸命に数少ない語彙でイーナとルイーゼの新しい服を褒めたのだが、合格点は貰えなかった事を記しておく。

「エルも、ヴェルと同類だなぁ」

「もう少し、褒めるセンスが必要よね」

 その辺は、エルも似たような感じであったのだが。
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