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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第二十八話 バウマイスター準男爵。

「(王都に到着して、いきなりこの国の王様との謁見か……)」

 夏休みに、観光も兼ねて王都で行われるエーリッヒ兄さんの結婚式に行こうとしたら、途中で古代竜が現れてそれを退治してしまった。

 簡単に言えばこれだけなのに、その後の話は簡単には行かなかった。

 王都に魔導飛行船の港に到着すると、そこには王城から寄越された騎士様がいて、俺は哀れエーリッヒ兄さんとの再会もお預けで、王城へと連行されてしまったのだ。

 中身が小市民で、外見が子供な俺には酷な話である。
 正直なところ、どう対応して良いのか困ってしまうのだ。

 一応貴族の子供なのだが、当然そんな教育を受けられる環境に無かった。
 うちの実家など、王都に居る王族や大貴族に比べれば平民みたいな物なのだから。

「本当に若いの。魔法の才能は、年齢に関係ないとはいえ……」

 ひとしきり挨拶が済むと、今度は陛下は俺が古代竜を倒した時の話を聞いてくる。
 俺は、古代竜のブレスから魔道飛行船を守る役割をブランタークさんに任せ、自分は飛翔で古代竜に接近し、自分も魔法障壁でブレスから身を守りながら、聖の魔法で古代竜を成仏させた話を出来るだけ詳しく話していた。

「飛翔、魔法障壁、聖光。三つの魔法を同時に展開か。なるほど、素晴らしい才能の持ち主のようだな」

「左様ですな、陛下」

 そこで、陛下の言葉に賛同する人物がいたが、その七十歳近い男性は豪華に飾り付けられた司祭服を着ていた。
 きっと、教会関係者なのであろう。
 しかも王城に出入り出来る立場なので、教会の本部でもかなりのお偉いさんのはずだ。  

「ホーエンハイム枢機卿もそう思うか?」

「はい。しかも、これほどの聖光を発動させられる魔法使いは少ないのでは」

 聖の魔法は、本当に扱える人間が少ない。
 魔法の才能が無くても、教会で聖職者として修行する過程で、己の持つ微小な魔力が聖の属性を帯びる事はそう珍しい事ではない。

 当然、そうなった聖書者はこの世界では存在している悪霊などが近寄らないし、聖の力を付与された魔道具を使えば退治も可能となる。

 ところが、戦術・戦略クラスの聖の魔法を発動させる事が出来るのは、大抵は聖職者でもない魔法使いだ。

 どうしても才能の問題もあるし、別に強力な聖の魔法が使えなくても真面目で清貧な聖職者は世間の支持を受けるし、逆に欲深くて金と権力に執着する聖職者は、やはり世間から冷ややかな目で見られる。

 ただ、それだけの事であったのだ。

「ヴェンデリン殿におかれては、後日に聖教会本部において本洗礼を受けるべきかと」

「本洗礼ですか?」

「ヴェンデリン殿は、まだ若いし南部の生まれ。知らなくても当然ですかな」

 要するに、俺は田舎者という事らしい。
 ホーエンハイム枢機卿からの説明によると、本洗礼とは、簡単に言えば生まれた時に地元の教会で行う洗礼よりもワンランク高いとされている洗礼であった。
 しかもこの洗礼、一度地元の教会で洗礼を受けていても行える物なのだそうだ。

 具体的な効果としては、世間からは敬虔で優れた信徒だと思われるという事だけ。
 別に本洗礼を受けたからと言って、アンデッドが触れるだけで塵になる効果とかは無いそうだ。
 あと、王族、大貴族、大商人などは、本洗礼を受ける時に高いお布施をするらしい。

 箔を付けたい金持ちな信徒達と、金が欲しい教会側の妥協の産物とも言えなくはなかった。
 簡単に言うと、『セレブ向けの洗礼』と言うのが正しいのであろうか?

「(目的は、囲い込みと寄付金?)」

「(寄付金が一番の目的じゃないのさ。簡単に言えば、己の宗派への囲い込みなんだから)」

 アルテリオさんが小声で教えてくれたが、要は宗派間の信徒の取り合いらしい。
 有名な人や世間で成功した人など、そういう人間が自分の宗派に所属していればそれは宣伝になる。

 なお、ホーエンハイム枢機卿は、この国の国教にもなっている正統派カソリックの枢機卿らしい。
 他には、最近信徒を増やしている古い清貧の教義に立ち返ろうという新教派プロテスタント。

 更に過激な原理主義を打ち出している懐古派、その地方の原始宗教と結び付いた数十はあると思われる自然派各派など。

 神は一人のはずなのに、所属している人達で色々と揉めるのは、どこの世界でも同じようであった。
 本当、宗教とは厄介な物であった。

「(一度本洗礼を受ければ、他の宗派もおかしな勧誘はかけて来ない。時間が空いたら受けておけ)」

 宗派間の仲は悪いが、暗黙の了解で信徒の強奪行為は禁止されているそうだ。
 アルテリオさんは、『はい』と言っておけと耳打ちする。 

「(わかりました)王都滞在中に伺わせていただきます」

「ヴェンデリン殿も、敬虔な神の子であらせられたか。良かった、良かった」

 俺が素直に本洗礼の誘いを受けたので、ホーエンハイム枢機卿は満面の笑みを浮かべていた。
 ただ一つ言えるのは、俺が敬虔な神の子ではないという点であろうか?

 向こうも、そこまでは期待していないと思うのだが。

「それとな。余からも、そなたに頼みたい事があっての」

「はい、その願いとは何でしょうか?」

「今回、そなたが取得した古代竜の骨と魔石を売って欲しいのだよ」

 なるほど、なぜアルテリオさんがオークションにもならないと言ったのか、その理由が良く理解できる。
 あまりに高価で貴重なばかりではなく、戦略物資扱いなので絶対に王家が確保しようとすると見抜いていたのだ。

「実は、あの魔石と骨があれば、場所塞ぎの巨大魔導飛行船が動くのでな」

「巨大な魔導飛行船ですか?」

 陛下の話によると、現在稼動している魔導飛行船以外に、船体は遺跡から発掘されていても、適度な大きさの魔晶石がなくて動けない船がもう何隻か存在しているらしい。

「王都の郊外に、古代魔法文明時代に造られた造船所跡の遺跡があっての」

 俺達が乗って来た魔導飛行船の四倍、全長四百メートル超えの超巨大船がドッグ跡で眠っているらしい。

「小さな魔晶石を連結して動かすという案もあったのだがな……」

 極端な燃費の低下に、連結部の異常な加熱で、とても危なっかしくて採用できなかったそうだ。
 古代魔法文明時代には当たり前のように普及していた、多数の小さな魔石を材料に巨大な魔晶石を作る方法は、今ではとっくに失われてしまっている。
 現在も研究は進んでいるが、まだ目に見える成果は上がっていないそうだ。
 魔力が尽きた魔晶石にそれを補充するのであれば、小さな魔石を沢山使用しても、というか魔力の高い人間が複数人で魔力を補充しても結果は同じ。
 だが、材料の魔石よりも大きな魔晶石を作り出す事は、いまだに一度も実験が成功していなかった。

 大きな魔晶石を手に入れたければ、遺跡に眠っている物を発掘するか、属性竜クラスの強力な魔物から巨大魔石を手に入れて加工するしかなかったのだ。

「他にも、ドックに入っていた船なのでな。色々と部品や装甲などが外されておるのだ」

 複雑な構造だったり、製造に物凄い技術が必要なわけでもないのだが、とにかく強度が必要で、それに最適な材料として古代竜の骨は必要らしい。

「古代竜の骨を加工して、それを足りない部品や装甲として利用すれば、巨大魔道飛行船は安全に稼動するのだ。どうだ? 売ってくれるか?」

「はい、それは勿論。喜んで提供させていただきます」

 まず、どう考えても断れる情況ではないであろう。
 それに、もしここで断っても誰も買ってはくれないであろうし、それで王国に目を付けられれば実家にも迷惑をかけてしまう。

 あの実家は俺に親切だったわけではないが、決して虐めたり迫害をした事はなかった。
 このまま共に波風を立てないで、俺が独立をすれば良いのだ。

「そうか、それは良かった。それでは、白金貨千五百枚で骨と魔石を買おう」

「陛下! いくら何でも出し過ぎです!」

 陛下の隣にいる、重臣と思われる初老の貴族が買取り金額に異議を唱える。
 どうやら彼は、王国の財務を担当している人物らしい。

「世間では、相場であろう? のう、アルテリオよ。定期的に王国に必要な物を卸している政商のそなたなら、余の考えが正しいとわかるであろう?」

 陛下は、俺の隣にいるアルテリオさんに魔石と骨の相場を尋ねていた。

「はい、あの大きさの魔石が白金貨千二百枚を下回る事はありますまい。骨も同様です。竜の骨など、稀に遺跡で出る出土品から剥がして再利用しているくらいではありませんか。あれだけの大きさのを丸々一体分など、何千年後に手に入るのか想像も付きません。骨も、白金貨三百枚は妥当だと思います」

「しかし、予算の方が……」

「あの巨大船の再稼動に計上している予算は、白金貨二千五百枚だと聞いている。材料費に千五百枚。その他諸経費に幾らかかるのかは知らぬが、まさか白金貨一千枚を超えるはずもない。十分に、予算の範囲内かの」

 まだ食い下がる財務担当者に対し、陛下は十分に予算内に入っているのだからと自分の考えを曲げないでいた。

「とは申せ、ここで節約がなれば、他の予算不足で遅れている案件や事業が行えるわけでして」

「のう、ルックナー財務卿よ。確かに、予算は無限ではない。同じ事をするのに銅貨一枚でも節約できれば、それに越した事はないのかもしれぬ」

「では、陛下」

「しかしな。ここで功績を挙げた者に対してその褒美をケチるような真似をすれば、それはこれから王国のために貢献しようとする者の士気を殺ぐ事となろう。もし、この者が魔石と骨をオークションにかけたとする。アルテリオ、どうなると思う?」

 陛下は、再びアルテリオさんに質問をする。

「はっ、魔石と骨の標準評価額は白金貨千五百枚です。ですが、オークションとなればこれを意地でも手に入れようと考える者も多いはず。私には手が出ませんが、大身の方々なら余裕で白金貨二千五百枚まで競るでしょうね。そして、いかに苦労して手に入れたのかと言いながら、王国に対し高額の手数料を取るでしょう」

 通常、商人が依頼された品を競り落とすと、その金額の五%~十%を利益として取る仕組みだ。
 なので、手数料がかかった時点でとっくに予算を超えてしまう計算になる。
 アルテリオさんは、白金貨千五百枚なら王国側の大儲けであると陛下に説明していた。

「ルックナー財務卿、白金貨千五百枚で材料は全て手に入れた。稼動にあと幾らかかるかの?」

「はい。材料の加工と、機関部への魔晶石の搭載作業。その他部品や装甲の装着作業に、試運転と最終艤装などで白金貨三百枚ほどかと」

 さすがは、全長四百メートルの超巨大飛行船。
 再稼動にかかる予算を聞いただけで、眩暈がしてくるようだ。

「節約された白金貨七百枚分は、予算の圧縮に成功したルックナー財務卿が、優先したい項目に重点的に割り振るがよい」

「ははっ!」

 この一言で、ルックナー財務卿は二度と反論を口にしなくなってしまう。
 巨大魔導飛行船の稼動予算をの大幅削減に財務大臣が成功し、その削減した予算の割り振り先の優先権を彼に与える。
 陛下の見事な腹芸に、他の廷臣達も、俺も、アルテリオさんも。
 もはや何も言えなくなってしまったのだ。

「そうそう、素材の売買の件はただの取り引きに過ぎない。もう一つ、余はそなたに褒美と名誉も与えなければならぬ」

「褒美と名誉ですか?」

「そうだ。そなたは、稼動に白金貨八百枚をかけた魔導飛行船を古代竜のブレスから守ったのだからの。報告を聞くに、ブライヒレーダー辺境伯の所のブランタークも貢献は大だが、そなたがいなければ、いつかは船は落とされていたであろうしな」

 確かに陛下の言う通りで、ブランタークさんの魔法障壁は古代竜のブレスを防げたが、防御をしながら攻撃魔法で古代竜に致命的な一撃を与える事は不可能であった。
 次第に魔力が尽きて魔法障壁が張れなくなれば、船は古代竜のブレスで破壊されていたであろう。

「その後に、この王都を襲撃されれば大損害であった。普通に考えても、そなたはドラゴンスレイヤーなのだから。それに相応しい名誉を与えなければなるまい」

 そう陛下が言うのと同時に、一人の文官が何かを載せたお盆を持って後ろから現れる。

「アンデッド化した古代竜を討ち、魔導飛行船を守った功績により、ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターに双竜勲章を与える」

 謁見の場はいきなり叙勲の場と化し、俺は陛下から双子の竜をあしらった金とエメラルドで出来た勲章を左胸に付けて貰う。
 すると、それと同時に周囲から大きな拍手が起こっていた。

 どうやら、かなり名誉な勲章らしい。
 前世から表彰などには縁が無かったので、全く調べた事が無かったのだ。

 貰えないと思っていた勲章を調べるのに時間をかけるくらいなら、俺は魔法の特訓をする。
 そういう男であったからだ。

「続いて、我、ヘルムート王国国王ヘルムート三十七世は、汝、ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターに第六位準男爵位を授ける事とする。さあ、バウマイスター卿よ」

「???」

「(ヴェンデリン、叙勲の際の宣誓の言葉だ。短いから覚えているだろう?)」

 突然の事で硬直していると、横からアルテリオさんが小声で助け舟を出して来る。

「我が剣は、陛下のため、王国のため、民のために振るわれる」

 そういえば、小さい頃に母に聞いた事があったのを今思い出し、それを慌てて口にしていた。
 まさか、人生でこの言葉を述べる時が来るとは思っていなかったし、同時に俺が剣など振っても大した成果は出ないだろうななどと、つい下らない事も考えてしまう。

「さて、これでバウマイスター卿は王国の臣となった。とはいえ、別にそなたを官職などで縛ろうとは思わん。兄の結婚式に参加し、王都の街を堪能し、冒険者の道を自由に歩むが良い」

 立て続けに起こる予想外の事態に、俺はただ流されるだけであったが、とにかく俺はまた大金を手に入れ、勲章と爵位を手に入れたらしい。
 そしてなぜか、俺の隣でアルテリオさんが苦笑をしているのが、大きく印象に残るのであった。  
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