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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第二十一話 冒険者予備校。

「これより、冒険者予備校の入学式を開始します」

 父の妾の父親でもある名主クラウスから、バウマイスター家の次期当主になって欲しいと言う、おかしな要求をされてから一年。

 ようやく十二歳になった俺は、実家を出てブライヒブルクにある冒険者予備校へと入学を果たしていた。
 思えばこの一年間、俺はクラウスからの度重なる勧誘をかわすのに傾倒する羽目になっていた。

 何でも、俺にその気があれば他の支持者と一緒に父を説得すると言って俺に決意を促していたのだが、俺からすれば、何が悲しくてあんな僻地の領地を継がなければいけないのであろうか。

 それに、前世はしがない二流商社の平社員であった俺に、領地の運営など不可能である。
 中身の人格に、貴族の義務とか責務といった殊勝な心がけは存在していないし、あの小さな領地からある程度自由に生活できる糧を得る労力があれば、俺が個人で魔法を駆使して冒険者をやっていた方がよほど金にもなる。

 というか、便宜上の将来の夢は冒険者になっているが、別に魔法を使って生活の糧を稼ぐ自由業であっても問題はないのだ。
 瞬間移動で自由に未開地や海岸へと移動し、そこで金になる物を魔法で作る。

 もう既に五年もやっている事だが、思えば五年間の成果で俺はもう残りの人生が何百年あってもプーやニートとして生きて行く事が可能だ。

 そう、俺はもう自由なのだ。
 二度と実家になど戻るものかと俺は考えていた。

 父も母も兄も、俺の意見には賛成らしい。
 いくら貧しい領地でも、俺が魔法で領民のために貢献すれば、それは新しいお家騒動を招いてしまう。
 もう招いているのだが、間抜けな事に父は気が付いていないらしい。
 かと言って、それを下手に報告して藪を突くと、今度は蛇が出て俺に害が及ぶ可能性もある。

 なので、俺は一切クラウス達の動きを報告していなかった。
 クラウスにしたって、ここで簡単に父に漏れるような謀しか出来ないのであれば、もうとっくにこの世には存在しないはず。

 父や兄は、さすがに薄々とは何かが変だと思っているようだが、俺は聞く気にもなれなかった。
 俺の気のせいで、実は何にも気が付いていないのかもしれないし。

 さて、面倒な実家の話はこれで終わりにして、今は冒険者予備校の入学式だ。
 壇上でギルドのマスターと思しき初老の男性が長いスピーチをしているが、どうやら学校とはどこも似たような物らしい。

 冒険者を育てる予備校なので、さすがに倒れる生徒は一人もいなかったが。
 全員、椅子に座って話を聞いているというオチがあったとしてもだ。

「諸君等は、十五歳になると同時に魔物の領域で活躍できる人材となるべく……」

 この予備校の目的は、王家の法によって十五歳にならないと冒険者ギルドに入れないという不利を補うため。
 つまり、いきなり十五歳の素人を冒険者として魔物の領域へと送り出す非効率を避けるための物らしい。

 素人をいきなりそんな場所に送ると確実に死んでしまうので、どんな人でも最低三ヶ月はギルド主導の元で基礎訓練を行う。
 それでも、最初に任務で十人に一人は死傷してしまうのが冒険者の世界らしい。

 何とも厳しい話だが、金にはなるので一旗上げようとか、色々な事情で人生詰んでいる人には人気の職業となっていた。

 更に、この大陸全体では開発と人口の増加が進んでいる。
 当然、魔物の領域で採集可能な素材などの需要は鰻昇りであり、それを獲る冒険者は常に新規参入者大歓迎の状態になっていた。

 冒険者予備校は、下限十二歳の男女を十五歳になるまで鍛えるか、十五歳以上の人間は最低一年間は基礎訓練を行うために設立された学校である。

 入学試験はあるが、基本的には全員が入学可能だ。
 試験を行うのは、成績優秀者に学費などで優遇を行い、卒業後も気持ち良く冒険者ギルドブライヒブルク支部の専属となって貰いたい。

 これが、最大の理由となっていた。

 どこの冒険者ギルドも、優秀な冒険者の確保に必死なのだ。

 俺は入学式の一ヶ月前から家を出て、すぐに入学試験を受けている。
 試験は、基本的な地理、歴史、生物学、魔物学、地方ごとの風習などとなっていて、これは冒険者には必用な基礎知識となっていた。

 あとは、得意な武器を使った指導教官との模擬試合や、魔法使いは魔法の試技などがある。

 正直、剣や弓などは基礎訓練しかやっていなかったのだが、さすがは末端でも貴族家伝来の訓練であったらしい。
 試験を受けた中では、かなり高位の評価を受けていた。

 主に、弓の方がであったが……。

 それと魔法であったが、これは適当に手を抜く事にする。
 今の俺は、ブライヒレーダー辺境伯のお抱え魔法使いであった師匠よりも魔力量では上になっていたのだから。

 幸いにして、ここには師匠のように勘の鋭い魔法使いは存在していなかったらしい。
 ドッジボール大のファイヤーボールを的に飛ばして燃やした俺に絶賛するのに夢中で、魔力の隠蔽には気が付かなかったようだ。
 師匠の言っていた、優れた魔法使いは他の優れた魔法使いの存在に敏感になるが実証された形となった。

 魔法使いは、特に優れた魔法使いは貴重な存在である。
 なので、魔法が使えれば合格な予備校の試験会場に現れるはずなどなかったからだ。

 しかも、優れた魔法使いは他の優れた魔法使いの存在に敏感になるが、実は魔力を察知しての事ではない。
 ある種の勘に基づく能力であった。
 いくら魔力量が大きくても、別に魔力が人の体から温泉のように湧き出ているわけではない。
 普段は別の次元の体内にある魔法袋に貯められていて、あとは魔法回路を巡回しているだけだからだ。

 しかも、大規模魔法を発動させても、それで使用した魔力は既に魔法の結果へと具現化していて魔力など残っていない。

 魔法使いが、他の人間の魔力量をなかなか察知できない理由でもあった。
 一部を除き、精々魔力を微量だけ持っている一般人と、火種くらいは出せる魔法使い以上との差がわかる程度であろう。

「中級クラスの魔法使いとは貴重だ。君は特待生試験に合格だ」

 どうやら、中級までの魔法が使えれば前の筆記試験や武器の実技など関係なしに学費が免除になるらしい。
 そのくらい、魔法使いは貴重な存在なのだ。

「いいなぁ……。魔法が使えて」

「俺は使えるけど、初級クラスだからあまり特待生試験に考慮されない」

 他の受験者達から羨ましいという声があがる中、俺は無事に特待生試験に合格し、冒険者予備校に入学を果たすのであった。





「ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターです。名前の通りに、一応は隣のバウマイスター家の八男ですが、領地は継がないので冒険者を目指して入学しました。よろしくお願いします」

 入学式後にクラス分けが発表されるが、どうやら特待生は全て同じクラスに編入されたらしい。
 年齢は俺と同じくらいから、上は十八歳くらいまでであろうか?

 剣の技に優れている者、弓が得意な者、槍が得意な者、初級ながら魔法が使える者と。
 そして最後に、俺は中級魔法が使えると自己紹介をして終わる。
 それから担任のギルド職員からカリキュラム表を渡されるが、授業は座学が三割に、実技が七割くらい。
 しかも、冒険者になるための技術のみを学ぶので、授業は午前中までしか無かった。
 加えて、週休二日という楽さだ。

「みなさんは、十五歳になるまで魔物の領域に入れません。十五歳以上の方も、一年間は入れませんから。授業が少ないのは、アルバイトをして生活費を稼ぐためでもあります」

 なるほど、いくら特待生で学費が免除されていても、みんなが実家から通っているわけでもなく、むしろ故郷からブライヒブルクに上京して来た人が多い。
 当然、家賃に生活費と自力で稼がないといけないわけだ。

「うへぇ。そういえば、そうだった。何のアルバイトをしようかな? ところで、バウマイスターは実家から仕送りとかは?」

 入学式から隣の席で仲良くなった同じ年の男の子に、俺は仕送りの有無を聞かれていた。
 稀にいるのだが、実家が大商人だったり、大貴族なので、相続できなかった侘びを込めて仕送りが貰えたりする人も一部に存在していたのだ。

「騎士爵家の八男は、何年も前からそんな夢は見ない事にしている」

「だったよなぁ……。俺も同じ立場だけど……」

 この十二歳になってようやく百六十cmまで身長が伸びた俺よりも、更に十cmほど背が高く、ブラウンの髪を角刈り風に短く纏めた目付きの鋭い少年は、俺と同じく西部の小領主の息子で、その名をエルヴィン・フォン・アルニムと名乗っていた。

 実家は人口五百人ほどの村を有する騎士爵家で、財政状態はうちと似たり寄ったり。
 エルヴィンは、その家の五男だそうだ。

 当然家は継げないので、特待生試験に受かるほどの剣の才能を利用し、冒険者として生計を立てる計画だと彼は話していた。

「一応実家から支度金は貰っているし、今まで狩りで得た獲物を売って金は貯めているのさ」

 俺はそんな物が無くても実は余裕で生きているのだが、さすがにそれを公にするわけにはいかなかった。

「俺も、小額だけど支度金は貰ったな。狩りの成果は、みんな親に取られちまった。早くアルバイトを探さないと」

「魔法の袋に、売れる素材とかも保存しているし」

「いいなぁ、魔法使いは。なあ、アルバイトは俺と一緒に狩りでもしないか?」

 アルバイトの内容は、お店の店員やら街の清掃にベビーシッターなどに。
 他にも、冒険者ギルドの仕事で魔物の住む領域に入らないで完遂できるものから、他のギルドで出されている低レベルの仕事などが主になっていた。

 あとは、野生生物に襲われる危険があったが、街に食肉や毛皮などを供給する狩りなどで。
 これは、戦闘技術の向上に役立つと冒険者ギルドからは推奨されている。

「バウマイスターは……」

「名前がヴェンデリンだから、ヴェルと呼んでくれ。家族にもそう呼ばれていたし」

「そうか、じゃあ俺はエルと呼んでくれ。下の子なんて、適当に略して呼ばれるのが当たり前だよなぁ。ヴェル」

「だよなぁ。宜しくな、エル」

「ああ。宜しく、ヴェル」

 俺は無事に冒険者予備校へと入学し、そこで久しぶりに同年代の友を得る事に成功するのであった。
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