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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第百六十二話 それって、八つ当たりじゃあ……巨大ゴーレム登場!

「ヴィルマ、旦那がヤバイ。早くこいつを無力化するぞ」

「頑張る」

「させるか!」



 暗殺を目論むオットーという魔族と戦っていた旦那が、突然消えた。
 魔法的な要因のより、別の空間に飛ばされてしまったのだ。
 早く助けに行かないといけないが、あたいとヴィルマで担当しているリライという魔族が邪魔をしてきた。
 こいつの動きは十分予想の範疇であったが、実際にやられると腹が立つな。
 だが、ここで慌てては相手の思う壺だ。
 とにかく、今は一旦冷静になる必要がある。

「カチヤ、どうする?」

「あたいに聞くのか?」

「カチヤの方が先輩」

「お前なぁ……こういう時だけ先輩扱いかよ」

 普段の落ち着きぶりを見ていると、ヴィルマの方がよっぽど先輩に見えるけどな。

「現実問題として、先輩だから。妻としての扱いは平等だけど」

「はいはい。この魔力だけバカを倒す算段をつければいいんだな?」

「そう」

「誰が、魔力だけバカだ!」

 暫く戦ってみて気がついたんだが、こいつらはどこか歪なんだ。
 魔法の展開や使い方はそれなりに訓練されている。
 ところが、実戦には疎いというか……。
 訓練で獲得した魔法を、上手く実戦的な動きに組み込むのが下手というのが正しいのか。
 ヨーゼフとかいう魔族は、ルイーゼがおこなった初歩の初歩、魔力量の隠蔽に騙されて倒されてしまうし。
 このリライという魔族も戦法は単純だ。
 小規模の魔法を連発して放ち、命中力を高めようとしている。

 ところが、スピードに長け二刀流のあたいには通用しない。
 旦那のおかげで魔力も増えたからな。
 武器屋に注文して作らせたミスリル製の双剣で、魔法を弾いたり、切り裂けば済む問題だ。

 ヴィルマも、普段の大斧から特別注文で作らせたミスリル製の片手斧二本に武器を切り替えている。
 あたいと同じく二刀流で器用に敵の攻撃魔法を切り裂き、回避していた。

「でも、キリがない。どうしようか? カチヤ」

「そんなのは簡単だ。いいか、ヴィルマ……」

 あたいは、ヴィルマに作戦を伝えた。
 そんなに難しい作戦じゃない。
 ちょっとでも実戦経験がある奴には引っかからないと思うけど、あいつなら大丈夫。

「わかった。私が先に行く」

 ヴィルマは片手斧の二刀流をやめ、今度は魔法の袋から普段使っている大斧の倍以上もある特大の斧を取り出した。
 それにしても、よくあんなに巨大な斧が持てるよな。

「これで真っ二つ」

「ばぁーーーか! 当たるものかよ!」

 ヴィルマの特大斧を見たリライが、彼女をバカにし始める。
 確かに、常人ならあんな特大斧を振るって標的に当てられるはずがないからな。

「そうでもない。結構当たる」

 ここでヴィルマが、自分の体に大量の魔力を流した。
 爆発的に身体能力をあげたヴィルマは、一気にリライとの距離を詰めた。
 大量に向かってくる魔法は、無造作に特大斧の刃で弾いている。

「バカな! しかし!」

 リライも咄嗟に両腕に強固な『魔法障壁』を纏わせ、ヴィルマが上段から振り下ろした特大斧の刃を防いだ。

「残念だったな! 俺を切り裂けなくてよ!」

「そうでもない。目標は達した」

「はあ? お前は何を?」

「動きが止まっている。隙だらけ」

「お前は何を? がはっ!」

 だから言っただろう。
 そんなに難しい作戦じゃないって。
 ヴィルマの全力攻撃を防いで動きを止めたリライの後方から、あたいが同じく大量の魔力を篭めた双剣でリライの背中を切り裂いただけだ。
 スピードでは、ヴィルマよりもあたいの方が上だからな。
 突進するヴィルマの後ろに隠れているように見せて、リライがヴィルマの一撃を防いだ時にはもう後ろに回り込んでいたのだ。

「他のみんなは大丈夫かな?」

「私達でも勝てたから大丈夫」

「それもそうだ」

「生きている?」

「何とか生きているみたいだな。ちょっとだけエリーゼに治してもらってから、拘束しておこうぜ」

「それがいい」

 リライという魔族を倒す事に成功したあたい達は、エリーゼの元に向かっちゃのであった。







「そんなに名をあげて為政者になりたいのか?」

「貴様にはわかるまい。政治の無能が、我々庶民を痛めつけているのだ!」

「まあ、妾も魔族の政治状況をちょっとばかり調べてみたが……」

「ならば、わかるだろうが!」

「飢え死にしないだけマシだと思うがの」

 最近減りつつあるとはいえ、王国にも帝国にも貧民は存在する。
 さすがに飢え死には滅多にないが、劣悪な環境で病気になっても医者や治癒魔法使いにかかれず死ぬ者も多い。
 元フィリップ公爵である余からすれば、魔族の国はそう悪くないと思うがの。

 だが、それを奴に言っても議論は平行線であろう。
 それよりも、早く別の空間に飛ばされてしまったヴェンデリンを救う算段を立てぬとな。
 妾は正式な妻ではない事になっているが、領内では妻として扱われておる。
 よき夫で、産まれた娘のよき父でもあるし、妾が見染めた男じゃ。
 早く目の前の自称参謀男を倒して、ヴェンデリンを救う手立てを考えねばなるまい。

「妾は元大貴族であるから、庶民であるお前の気持ちなどわからぬのじゃ。どうせわかり合えるはずもない。とっととかかってくるがいい。徐々に仲間が倒れて減っておるからの。後ろから攻撃されるやもしれぬぞ」

「……」

 妾と戦っているカイツェルという魔族は、自称オットーの参謀役。
 頭で考える事が多いはず。
 こちらで危機感を煽れば、勝手に考えすぎてくれるはずじゃ。

「長期戦というわけにはいかぬか……。急ぎお前を倒して、戦力差を縮めなければならぬか……」

 そうそう、それでいいのじゃ。
 それにしても、バカ正直に己の戦術を口に出してしまうとは。
 やはりこいつらは、どこか甘い部分があるようじゃの。

「それができればいいの」

「やるのですよ。私が」

 そう言うと、冷静な口調に戻ったカイツェルは魔力で作った火炎剣を身構えた。
 放出系の魔法ばかりかと思ったら、魔法剣を作れる魔族もいるのか。

「ヨーゼフとリライは。自分が傷つかないよう、遠くから一方的に攻撃しようと思うから負けるのです。まあ、私は違いますけどね。剣術の経験もあります」

「経験があると言っても、一回だけ数分剣を振るっても経験ではあるぞ」

「ふんっ、私はこれでも学生の頃、模擬剣術の大会で準優勝をした経験がありましてね。さて、あなたはどうでしょうか?」

 模擬剣術?
 よくわからぬが、実戦に即したものではないであろう。
 早くケリをつけるとするかの。

「どうでもいいからかかって来るがいい」

「お前は何様なのだ!」

「ただのバウマイスター辺境伯の女じゃ。別に覚えてくれなくてもいいぞ」

「死ね!」

 やはり、魔力を全身に回して速攻で攻めてきたか。
 しかしな。
 妾は土系の魔法が得意でな。
 自分の周りを何重にも土壁で囲って、カイツェルの侵入を防ごうとした。

「無駄だ! この程度の『土壁』など!」

 カイツェルは、魔法剣で次々と『土壁』を斬り割いていく。
 ところが、妾の『土壁』には特徴があっての。
 『土壁』を剥いても剥いても、次から次へと新しい『土壁』が出てくるのじゃ。

 ヴェンデリンにアドバイスを受けたのじゃが、あいつは『タマネギ』と一緒だと言っておった。
 あいつは、本当に食べ物関連の話が好きじゃな。

「どうじゃ? 妾に辿りつけそうか?」

「当たり前じゃないですか。あなたのような素人には負けませんよ」

 自信があるようじゃな。
 妾も魔法使いとしての経験が薄いので仕方がないか。
 だが、妾も魔法はともかく、遊び剣術の自称達人であるカイツェルには負けぬ。
 これでも、実際に敵兵を斬った事だってあるのだからな。

 それに、この『多重土壁』にはもう一つ特徴があってな。

「おりゃ! おりゃ! おりゃ! もうすぐ中心部だ!」

 カイツェルの奴、随分と熱心に火炎剣を振るって『土壁』を崩しているではないか。 
 これだともうすぐ中心に辿りつけるはず。

 だが、そこに妾の張った罠があるのじゃ。

「これで最後の土壁だ! あれ?」

 そう、実は多重土壁の中心部に妾はいなかったのじゃ。
 必ずいなければいけない理由もないからの。
 中心点を定めておけば、外部からでも『多重土壁』を張る事は可能であった。
 そしてカイツェルが中心部に辿り着いた瞬間、外側の『土壁』が復活して内部が別の物質で充満する。
 その中身は『砂』であった。

「窒息させるのが狙いか!」

 カイツェルは火炎剣を振り回して『砂』を振り払おうとするが、『砂』が切れるはずがない。
 もがけばもがくほど、カイツェルは肺の中の酸素が減って窒息するまでの時間が早まっていく。

「こら! 卑怯だぞ!」

「自称参謀役が言う事か? 卑怯? 元フィリップ公爵の妾からすれば、最高の褒め言葉じゃの」

「このアバズレ女がぁーーー!」

「失礼な。妾は、ヴェンデリンとしか男女の関係にないぞ……もう聞こえぬか?」

 数分で、カイツェルの声が聞こえなくなった。
 どうやら窒息して気を失ったようだ。
 もしくは死んだか?

 『土壁』と『砂』を取り除くと、カイツェルは白目を向いて気絶していた。
 どうやら死んではいないようなので、拘束してから蘇生させる。

「頑丈じゃの。魔族は。これであと五人か」

 妾の仕事は終わった。
 今はヴェンデリンを救う方法を考えるべく、エリーゼ達の下へと向かうのであった。






「……」

「どうかしたのかしら?」

「私の対戦相手が個性的すぎますわ」

「何よ。文句でもあるの?」

 十名で襲撃してきて、私の担当がオカマ魔族ってどうなのでしょうか? 
 テレーゼさんもリサさんも、気味悪がって対戦相手を交替してくれませんでしたし。

「私はオカマじゃないわよ。女性が好きだし、ただ女装が好きな男の子なの」

「男の子という年ですか?」

 ああ、もう。
 私には、どうしてこんな個性的な方が。

「オットーちゃんに頼まれて参加したけど、私って荒事が苦手なのよね」

 荒事は苦手ですか。
 ならば、今回参加してもらわなくても結構でしたのに。
 私も、普通の魔族と戦いたかったですわ!

「こうなったら、早く済ませてしまいましょう」

「っ!」

 わずかに殺気を感じて身を引くと、私のドレスの端が切り裂かれていました。
 どうやらこの人、『カマイタチ』系の魔法が得意みたいです。
 ですが、風系統なら私も得意です。
 ほぼ同じ魔法でオカマさんを攻撃します。

 彼女……彼ですか、紛らわしいですわね。
 特注と思われるドレスの端が、私の『カマイタチ』で切り裂かれました。

「もう、私の体の大きさだと自作かオーダーメイドしかないのに。それを破くなんて酷いわ!」

「私も高いお金を出してオーダーメイドしているのです。お互い様ですわ!」

 どうやら、この方。
 見た目に反して、なかなかの実力をお持ちですわね。
 切れてしまったドレスはあとで修繕できるでしょうか?
 キャンディーさんに……この方も同類なのでしょうか?

「もう、私はただの女装好きの男の子なのに」

「そうですか……」

 何か、この方は話していると疲れますわね。

「私はこういう人だからお友達が少なくて、だから参加したのだけど、ぶっちゃけ暗殺が成功してもしなくてもどちらでもいいのよね」

 知人に頼まれて暗殺に参加?
 一体どういう方なのでしょうか?

「まあいいわ。とっととケリをつけましょうか?」

「願ったり叶ったりですわね」

 早く、別の空間に消えてしまったヴェンデリンさんを救出する算段をつけなければ。
 ですが、オットーさんは知りませんが、実はこの方が一番魔法に精通しているのでは?

「あなた、結構やるみたいね。じゃあ、お互いに一番の大技を繰り出しましょうか」

「わかりましたわ」

 ここで負けるわけにはいきません。
 範囲を極限まで狭めた『竜巻』で、この方を吹き飛ばしてさしあげましょう。

「行くわよ」

「行きます」

 お互いに『竜巻』の魔法を繰り出しますが、その威力も精度もほぼ互角。
 やはりこの方、他の人達が戦っている魔族よりも一段上の実力があるみたいです。

「暇だからって魔法の練習ばかりなんて嫌になってしまうわ。あとは自分のお洋服を作るくらい」

「そういうお仕事をなされてはいかがですか?」

「魔族も案外保守的なのよ。私みたいな子って、就職できないの」

 確かに、ちょっと嫌かもしれませんわね。
 となると、キャンディーさんのように独立するしかないのでは?

「洋裁で独立するにも、まずは修行をしないと駄目だし、そのチャンスすらないのよ」

「だから、オットーの企みに参加したのですか?」

「そういう事ね。お金が手に入れば、何とかなるかもしれないし」

「そでですか」

 私、戦っている相手の人生相談を聞いている場合ではないような……。
 お互いの『竜巻』は、まるで駒のように二人の間でぶつかり合っています。
 ここで魔力を加えてもうひと押し……。
 相手側に押し込んでしまえば、二つの『竜巻』があの方を吹き飛ばしてしまうはず。
 逆に、私が吹き飛ばさてしまう可能性もありますが。

「ここが正念場ですわ」

 お師匠様もいるのに、ここで無様を曝すわけにはいきません。

「やるわね」

「あなたも」

 実力が伯仲した者同士、私とミランダさん……本名ではないようですが……お互いに追加の魔力で『竜巻』を相手の方に押しやろうとします。

「しぶといわね! もう少し!」

 少しだけ、私の方に二つの『竜巻』が押しやられ、私の方が不利なようです。
 力押しだと、私の方が少し弱いようですわね。
 ならば、お師匠さんに教わった別の方法で戦うしかありません。

「(私が作り出した『竜巻』をエネルギーにして、ミランダさんが作り出した『竜巻』を再び押し返す。繊細な魔力のコントロールが必要になりますが、今までの修行の成果を生かして……)」

 私よりも年下である、ヴェンデリンさんもできる事です。
 私にできないはずは……。
 一瞬で一度発生させた私の『竜巻』を魔力に還元しつつ、ミランダさんの『竜巻』の魔力の質を瞬時に察知してコントロールを奪う。
 非常に難しい魔法ですが、私はヴァイゲル家の当主。

「やってやれない事はありませんわ!」

 私の目論見は無事に成功し、今度は一つに合体して強化された『竜巻』がミランダさんへと向かっていきました。
 これで、彼女に……ではなかった。
 彼に再び押し返されなければ。

「しまったわ。まだ魔法の鍛錬が足りないわね」

 一度は再び『竜巻』を押し返されると思っていたのですが、ミランダさんはそのまま『竜巻』に巻き込まれて上空へと飛ばされていきました。
 その後、地面に叩きつけられた彼は、気を失ってしまいます。

「この方、実はわざと負けた?」

 今はそれを考えている余裕がなく、私もエリーゼさんの元へと向かうのでした。






「おばさんと俺は、同じ氷系の魔法が得意なんだ」

「『ブリザード」の威力を確かめますか?」

「俺の勝ちだけどな」

 私の相手は、無礼で軽薄そうなミハエルという魔族です。
 そして彼の得意魔法は氷系、彼は連続し『氷弾」を放ってきますが、少しコントロールが甘いようです。
 同じ『氷弾」をつぶけて落としていきます。

「コントロールいいな。おばさん」

「口のなっていない失礼な魔族ですね。魔族も色々ですね。基本的な礼儀もなっていない野蛮人がいるようです」

「おばさん、蛮族如きが生意気じゃないかな?」

 どうしてそこまで自分が偉いと思えるのかわかりませんが、こんな私を妻にしてくれた旦那様への救援が先です。
 こうも失礼な男なら、凍らせても構わないでしょう。

 こう見えても冒険者としての生活が長く、導師やブランタークさんと同じく無法を働いた同朋を極秘裏に始末した経験もありますので、必要とあらば殺人も厭いません。

「おっ、冷えてきたね『ブリザード』で俺を凍らせるのかい? でもな、俺も得意なんだよ。『ブリザード』が」

 それぞれ放った『ブリザード』が、お互を凍らせようと体を侵食しようとしてきます。
 なかなかの威力ですが……旦那様が私に放った『絶対零度』には及びません。
 『ブリザード』を極めるために冬山に籠った私でしたが、これ以上寒くならない寒さが存在するなど知りませんでした。
 最初は旦那様の話す『絶対零度』の概念がなかなか理解できず魔法に反映できませんでしたが、最近ようやく習得する事ができました。

 これを持って、あなたを凍らせてさしあげましょう。

「おばさん、俺の魔法にビビった?」

「別に……。まあまあじゃないですか? それに……」

「それに何だよ? おばさん」

「誰におばさんなんて口を利いてんだよ! お前はムカつくから凍らせてやる!」

「はあ? そんな事は……足が!」

 甘い甘い、その程度の習得度で偉そうにしているんじゃねえよ! 
 クソガキが!
 人をおばさん扱いしやがって! 
 魔族のテメエらの方が年上だろうが!
 このまま氷のオブジェにしてやるぜ!

 やはり、魔法の訓練ゴッコしかしていないので長時間魔法の精度が保てないようだね。
 最初は互角だったけど、徐々に私の冷気に浸透されて足元から凍っていく。

「ひいっ!」

「泣き言かい? 甘いね、坊ちゃん!」

「助けて」

「残念! もう間に合わないね」

「綺麗なお姉さん! 助けて!」

「そんなお世辞が通用するか! 旦那様以外の男性に綺麗だって褒められても嬉しくねえんだよ! 助けてほしいか?」

「はい! 是非!」

「助けるか、バーーーカ! 凍れ!」

 最後に大量の魔力を消費してひと押しすると、ミハエルという魔族は完全に凍りつき、完全に動きを止めました。

「運が良ければ、解凍しても生きているでしょう。もし倒れて体が割れでもしたら駄目ですけど」

 つい、メイクもしていないのに昔の口調に戻ってしまいました。
 気をつけないと。

「リサ、お前、怖いわ」

「あら、ブランタークさん。担当の魔族はいかがなさいましたか?」

「ああ、あんなのは雑魚だからな」

「うるせえ! ジジイ! 死ね!」

「今までに出会った上級魔法使いで、一番稚拙な奴だ」

「では、救援は必要ありませんか?」

「そういう気遣いは無用だ。早くエリーゼの嬢ちゃんのところに行ってやれ」

「エリーゼさんは、もう二十歳を超えていますよ。お嬢ちゃんはそろそろお止めになられたらどうです?」

「その内にな。じゃあ」

「では、ご武運を」

 ミハエルという魔族を倒した私は、他の方々と同じく急ぎエリーゼさんの下に向かうのでした。





「ひゃひゃひゃっ! この炎の竜の口に食われて骨まで焼かれやがれ!」

「あのよぉ……」

「ジジイ、死ね!」

 俺が担当したウィッツとうかいう魔族、こいつは駄目だな。
 今まで多くの上級魔法使いに出会ってきたが、こんなに使えない魔法使いは珍しい。
 中級以下の魔法使いなら勝てないが、辛うじて上級の俺でもこいつには余裕で勝てる。

 前の帝国内乱で、蘇ったアルが技量だけで辺境伯様を翻弄した事があったが、今は俺がその時のアルのような状態だ。
 こいつ、見た目が派手な魔法は沢山使えるんだが、ただ見た目のいい魔法の鍛錬ばかりしていたようで、回避するのが簡単なんだよ。

「『デスドラゴンヘッド』を食らえ!」

「大仰な魔法名だな」

 ただ炎で、口を開いた巨大な竜の頭を再現して飛ばしているだけだが、威力は相当なものだ。
 当たれば、人間なんて骨も残るまい。
 中級以下の魔法使いなら脅威かもな。
 技が稚拙でも、魔力量の多さからくる威力は相当なものだからだ。

「焼かれろ! 黒焦げになれ!」

「ならねえよ」

 俺は体の回りに『氷障壁』を纏わせると、こちらに向かってくる竜の頭に飛び込み、そのまま走り抜けて突破した。
 竜の口の中は高温で『氷障壁』は一瞬で消滅したが、その前に俺は竜の頭を突き破っている。
 一旦突破してしまえば、一度放出した魔法をバックさせるのは難しい。
 そういう機動性を持たせるため、火魔法を小さな球状などにする魔法使いは多いが、こいつはわざわざ巨大な竜の頭にしているから、一度魔法を放ってしまえばバックさせるのが難しいわけだ。

 こいつが、魔法の見た目にしか拘っていない証拠でもある。

「クソっ!」

 今度は、もうちょっとマシな魔法が出たな。
 小さな鳥の形をした『ウィンドカッター』を飛ばしてくる。
 距離を縮められたのが嫌で、牽制のために出したのであろうが。

「予想どおりだ」

 俺は小さな『火球』を出して、次々と『ウィンドカッター』を相殺していく。
 風は火に弱い。
 少ない魔力で相殺可能だ。
 向こうはわざわざ『ウィンドカッター』を精巧な鳥の形にしており、俺が適当に作った『火球』よりも余計に多くの魔力を消費してしまった。
 こういう無駄な魔法の使い方を見れば、こいつが素人なのは一目瞭然だ。

「それで? 次はどんな手品を見せてくれるんだ? ちょっと興味が沸いてきたぜ」

 どんなに下らない魔法でも、時に優れた新しい魔法のヒントになる事もあるからな。
 そういう意味では、こいつのイリュージョン魔法にまったく意味がないわけでもない。

「ちょっとくらい経験があるからと言って威張りやがって!」

「俺は威張ってねえよ。お前が根拠のない自信に満ち溢れているだけだ」

「きぃーーー!」

 逆上した奴が次の魔法を放ったが、何を目論むかは大方予想がついた。
 俺は急ぎ『飛翔』で空中に退避する。
 俺がいた場所には、地面から数本の『岩棘』が突き出していた。

「串刺しか。相手の隙を突くという点においては悪くないな」

「なぜわかった?」

「お前の目線が、俺の足元を向いていたからな」

 魔法の種類がわからなくても、それだけでお前の意図がみえみえなんだよ。
 まだまだ未熟だな。

「こういう風にやらないとな」

「痛ぇーーー!」

「致命傷は防いだか」

 すぐに俺もお返しで、奴の足元から『岩棘』を数本出してやった。
 ギリギリで反応して急所への命中は回避したが、一本だけ奴の太ももを貫通したものがあり、その痛みで奴は悲鳴をあげた。
 今まで大怪我なんてした事がないんだろうな。
 泣き叫ぶだけで、もう完全に戦闘力を失っている。

「おい、早くその『岩棘』を抜いて治療した方がいいぞ」

「痛ぇよぉーーー!」

「駄目だこりゃ」

 辺境伯様が負傷した時には、もっと冷静に対処していたがな。
 いくら多くの魔力を持つ魔法使いでも、負傷して泣いているのは論外だよな。

「俺も暇じゃないから、もう終わらせるぞ。それでいいな?」

 子供でもあるまし、叫び声うるさいので、もう片方の太ももにも『岩棘』を貫通させると、奴は痛みで気絶してしまった。

「魔法使いとしての素養と、戦闘力が比例しない典型例だな」

 俺は、気絶した奴を拘束してから周囲を見渡す。
 オットーのために足止めをしている魔族達は、あと二人しか残っていないか。
 一人、援軍が来た時に牽制する役割の魔族もいたはすだが、今は連中が圧倒的に不利だ。  
 こちらの数を減らそうと仲間の援軍に入っているが、まさか導師に襲いかかるとはな。

「バカなんじゃねえの……」

 数を減らすのを目標とするのなら、なぜ導師を狙う?
 一番強いから、最初に消すと有利になると思ったのか?
 だが、残り二名となった時点でその戦術はあり得ねえよ。
 やっぱり、素人臭さが目立つ連中だな。

 魔力は多いのに、こいつらは本当にチグハグだ。

「導師! 手伝いはいるか?」

「無用である!」

「何が無用だ!」

「このまま我々二人に一方的に攻撃されて死ね!」

 バーストとバトゥという名の魔族だったか?
 二人は協力して魔法を連発し、一方的に導師を攻撃していた。

「何が王宮筆頭魔導師だ! バウマイスター辺境伯の傍にいた時にはヒヤヒヤしたが、我々の攻撃に手も足も出ないではないか」

「そうだな、バースト。俺達にもできそうだな。王宮筆頭魔導師」

 二人の魔族は、導師がまったく反撃せず一方的に魔法を食らっていたので油断していた。
 だが、俺にはわかる。
 お前らの魔法は、導師にはまったく通用していないのを。
 一見派手に魔法が炸裂しているが、強固な『魔法障壁』に阻まれてまったく効果がないのがわからないのだから、こいつらもやっぱり荒事には無縁だったのであろう。

 魔族ってのは、お上品な存在だったんだな。

「じゃあ、あとは任せるわ、導師」

「任されたのである!」

 俺もエリーゼの嬢ちゃんの下に行くが、果たしてあいつら、あと何分保つかね?





「意外としぶといな!」

「俺達の魔法をこれだけ食らって無傷のはずがない! もう少しだ!」

 それにしても、魔族とはこうも惰弱なのであるか?
 いや、軍に所属している者達は違った。
 こいつらが、大量に持つ魔力を有効的に活用できないだけである!
 もしアルフレッドが見たら失笑するであろう。

 中級以下の魔法使い相手なら、その魔力量と魔法の威力だけで脅威なので、こいつらは自分の未熟さに気がつかなかったのであろう。
 魔法も、見た目の派手さや使える種類を増やす事ばかりに傾倒しているようである。

 動かない的に魔法を当てるような練習ばかりしていたのであろう。
 使える魔法は高度でも、全体的な戦闘力はあまり高くない。
 正直、少々ガッカリしたのである!

 これなら、バウマイスター辺境伯やルイーゼ嬢の方が遥かに強いのである!
 様子見は、もう十分であろう。

「もうそろそろくたばるか?」

「そんなわけがないのである!」

 奇妙な魔道具を使ってバウマイスター辺境伯を陥れたオットーの件もあるのである!
 雑魚は早く始末するに限るのである!

 某は、『魔法障壁』を強化してから『飛翔』で一気に二人の魔族に詰め寄った。

「まだそんな元気が!」

「当たり前なのである! ノーダメージなのであるからして」

「そんなバカな!」

「涼やかな風のような魔法なのである!」

「「ふざけるな!」」

 二人は再び魔法を連打し始めるが、そのような小さな魔法を数打っても意味がないのである!
 大方、命中率に不安があるから数を打っているのであろう。

 次々と向かってくる霰のような魔法を腕で振り払い、二人の目前に立つ。

「ひぃーーー!」

「防御だ! 防御だ!」

 慌てて『魔法障壁』を張ったが、その程度の『魔法障壁』ではな。
 思い切りが足りないのである!

「ふんっ!」

 拳に魔力を篭めて二人を『魔法障壁』ごとぶん殴ると、二人は地面に叩きつけられた。
 少し地面が凹んだようであるが、『魔法障壁』のおかげで死んではおらぬか。

「クソ……体が……」

「アバラが折れたか?」

「某、お主らの体の心配などしておらぬし、重傷でも魔法は放てるのである! 悪いが……」

「「ひぃーーー!」」

 最低でも暫く寝ていてもらうのである!
 再び拳に魔力を篭めて二人をぶん殴り、続けて足に魔力を篭めて蹴りを入れる。
 常人なら即死であろうが、二人は『魔法障壁』を張れる。
 まあ、死にはすまい。

「まだ戦うのであるか?」

「「……」」

 どうやら運よく気絶したようであるな。
 体中の骨が骨折しているので、痛覚を誤魔化すために体が意識を切ったのであろう。

「では、バウマイスター辺境伯の援護をするのである!」

 ただ一つだけ残念だったのは、エリーゼの下に駆けつけた時には、魔王陛下とライラ殿があっくに救出案を練って、それが実行寸前だった事であろう。
 うーーーむ。
 別空間にいる魔族の親玉と戦いそびれてしまったのである!






「という映像があるけど、いる?」

「いるっす! 超特ダネっす! 我が社の独占スクープになるっす!」

 オットー達による暗殺未遂事件から三日後、バウマイスター辺境伯邸の中でとある上映会が行われていた。
 それは、オットー達が俺を暗殺しようと襲い掛かり、それに俺達が応戦している映像であり、撮影者はエリーである。
 ライラさんからエリーゼと一緒に後方に下がるようにと言われ、後方からすぐさま私物の魔像撮影機で撮り始めたそうだ。

 魔族のテロリストが、バウマイスター辺境伯である俺を暗殺しようとした。
 そのバックを含めて、エブリディジャーナルの新人記者ルミから見たら褒章物の特ダネ記事というわけだ。

「ほしいっす! 絶対に記事にするっすから!」

 興奮したルミは、俺に証拠をくれと迫って来た。
 その迫力に、俺は思わず後ずさってしまう。

「でも、撮影者はエリーなんだよ。俺に権利はないんだよなぁ」

 迫ってきたルミを、俺は正論でかわした。

「しかも、余の私物じゃぞ。この魔像撮影機は」

「ううっ……若いのにしっかりしているっすね……」

 俺を救出にきただけでなく、密かにオットー達の犯行を撮影していたのだから。
本当、十三歳とは思えないほどしっかりしている。

「余としては、別の新聞社に映像を売ってもいいわけだからな。何しろ、エブリディジャーナルは……」

「民権党贔屓で有名ですからね」

 ライラさんが、冷たい視線でルミを見つめた。

「それって、おかしくないっすか? オットー達は極めて国粋的な政治結社をやっていた連中っすよ。バウマイスター辺境伯の暗殺を目論んだのは、交易拡大に反対する国権党の議員なのでは?」

 ルミは、オットー達の黒幕が国権党の議員だと思っているようだ。
 だが、実はそうじゃないと俺達は捕えたオットーの仲間達から情報を得ていた。
 オットーがこの世から消滅した事を知ると、目を覚ました奴らはとても大人しくなった。
 今は魔力を抜かれながら、軟禁生活を送っている。
 犯罪者にしてはいい環境にいると思うが、抜いた魔力が魔道具のエネルギー源として活用されているので、そのくらいはいいであろう。
 常に魔力を抜かれているので脱走する気も起こらないらしく、今は大人しくしている。

 オットーは党首としては秘密主義者だったようでわからない事も多かったが、彼らは常に『世界征服同盟』の本部にいたので、暗殺を依頼した人物については知っていた。
 そしてそいつが、実は民権党の議員であった事もだ。

「オズワルド・ジャック。ルミは知っているか?」

「民権党の議員じゃないっすか! でも、奴ならあり得るかもしれないっすね」

「どんな奴なんだ?」

「機に聡い悪人っす」

 政治信条などなく、自分に利益があれば何でもいい。
 議員になる前は詐欺に近い商売をしていたり、アンダーグラウンドな連中と懇意だったり、知恵は回るので上手く動き、いつの間にか民権党の候補者になって当選してしまった。
 議員になってからは、政治活動よりも議員特権を生かした商売に熱心で、同僚からも胡散臭い目で見られているらしい。

「さすがに民権党議員の大半が、彼を胡散臭い目で見ているっすね。議員特権を使って悪事を働いているという噂もあるっすから」

「そいつが、オットー達に俺の暗殺を依頼したそうだ。その後ろにも誰かいるだろうけど」

 さすがに、黒幕の存在はオットーしか知らなかった。
 残りの連中は、オットーの指示で動いたにすぎないわけだ。

「そういうわけでして、これがもし報道されれば民権党政権にトドメとなるでしょう。エブリディジャーナルの元記者で民権党議員も多い。あなたでは、記事にする前に上層部に潰されるのでは? 他に新聞社がないわけでもありませんし」

「議員に圧力を受けて、新聞社の上層部が記事をストップするわけか」

 日本でもあったからな。
 同じ大学で新聞記者になった奴がいたけど、政治家、大物官僚、大企業、金持ちの圧力で取材した記事がボツになる事がたまにあったそうだ。

「バウマイスター辺境伯、私の知り合いに『ゾヌターク日報』の記者がいますけど、そちらの方にリークした方がいいのでは? 第二位の新聞社です。あそこは、現政権に批判的ですから」

「それがいいかもな」

 確実に報道された方が、魔族社会に衝撃を与えられる。
 俺は、自分を暗殺しようとした連中を許すつもりはなかった。
 とにかくオズワルドという議員を官憲に逮捕させ、裏の依頼者の正体を見つけなければ。

「そういうわけなので、今回は縁がなかったという事で」

 俺は、ルミに対し丁重にお断りを入れた。

「自分を呼んでおいて、それはないっすよぉーーー! 必ず記事にするっすから! 自分、結構脱ぐと凄いっすよ」

 と言って、いきなりツナギのような服装の肩の部分をめくり、扇情的なポーズをするルミ。
 残念ながら、まったく色気は感じなかった。
 結構綺麗な人なんだが、色々と残念臭が漂っている。
 この人は、このまま一生結婚できないかもしれない。
 というか、新聞記者が色気で特ダネを提供してもらっていいのか?
 時に手段を選ばずとも思えなくもないが、やはりTPOは弁えないとな。
 あと、エリーの機嫌がわかりやすいほど急降下した。
 ネタの提供者を怒らせてどうするよ?
 新聞記者!

「エリー、どうするんだ?」

「どうしようかな? 余はまだ子供だが初めて知ったぞ。新聞記者の仕事に、取材先の男性を誘惑するというものもあるのか」

「ううっ! それは……」

 エリーから痛いところを突かれ、ルミは顔を引きつらせた。
 子供にとんだ誤解を与えてしまったと思ったようだ。

「バウマイスター辺境伯、助けてくださいっす!」

 ルミの誘惑にまったく興味を示さなかった俺に対し、彼女は懇願の表情を浮かべた。

「ルミ、ヴェンデリンには、若くて綺麗な奥さんが沢山いるのだ。今もどうにかして妻、愛人になろうと奮闘している女性も多い。そんな見え透いた誘惑が、ヴェンデリンに通用するわけないであろうが」

「ううっ……自分、そんなに駄目な女っすか?」

「そなたが、モール達にフラれたと聞いているぞ」

「ううっ……彼らは一生無職で、一人くらい自分のために主夫になってくれると思ってたんすが……」

 ルミ、残念ながらその後輩達は、もうリリの会社で課長になって、奥さんと子供までいるんだ。
 今は毎日仕事で忙しいが、充実した毎日だってさ。

「魔像撮影機の映像と、拘束中の暗殺未遂犯達の証言を録音したものは渡せる。コピーが取れるからな。それで、いつ新聞に記事を載せられる?」

「バウマイスター辺境伯さんが『瞬間移動』で送ってくれたら、明日の朝刊に間に合わせるっす!」

「ならばよかろう。もし明日の朝刊に載せられなかったら、ライラの知人であるゾヌターク日報の記者にデータを渡すから同じだな」

「絶対に明日の一面を飾るっすよ!」

 データを得たルミは、俺に送ってもらうとすぐに会社に掛け合って俺の暗殺事件を記事にした。
 魔像撮影機の映像を写真にして、魔族の跳ねっ返りがヘルムート王国の大貴族を、それも前に来訪した事があるバウマイスター辺境伯の暗殺を試み、主犯は死亡、残りのメンバーは拘束、彼らが使用した魔導飛行船も拿捕され、そこからも色々と証拠が出てきた。

 暗殺未遂事件の主犯は、自称政治団体『世界征服同盟』の当主、オットー。
 彼にバウマイスター辺境伯の暗殺を依頼したのは、民権党の現役議員オズワルド・ジャックで、彼も何者かから報酬を得てバウマイスター辺境伯の暗殺を請け負っている。
 事件の詳細を知るためにも、オズワルド・ジャック議員の殺人事件容疑での逮捕が必要なのではという記事が掲載された。

「今年の社長賞はいただきっす。バウマイスター辺境伯さん、今度焼き鳥でも奢るっすよ」

「いいねえ、焼き鳥」

 ルミも悪い人じゃないからな。
 上手く上層部の圧力をかわして記事を掲載できたのを喜ぶとしよう。
 それに、その日の内に新聞を持ってきてくれたのだから。

「ヴェルが載っているね」

 ルイーゼが、興味深そうに新聞の写真を見ていた。
 リンガイア大陸では、写真はあるが、それを印刷する技術はないからな。

「オットーと戦っているところね。いつも違って真面目でいい男じゃない」

「イーナ、真面目にやらないと死んでいたんだから当たり前じゃないか」

 新聞を見たイーナが、珍しく褒めてくれたと思えばこれだ。 

「インチキだとか、嘘だとか言っている人はいないのか?」

「極わずかっすね。オズワルドの胡散臭さは有名っすから。今までは上手く逃げて捕まっていなかったんすけど、交渉中の他国の貴族を暗殺しようとしたんすからね。仲介役でも、政府はカンカンっすね」

 今まで人権がどうの、男女平等がどうの、動物愛護はどうのとリンガイア大陸の人間に偉そうに言っていた癖に、その仲間が暗殺を目論んでいたのだから立場がないというわけだ。

「そうでなくても、今の民権党政権は死に体っすからね。政府からの圧力が減った警備隊は、オズワルドの拘束を狙っているようっすね。何しろ、殺人未遂の仲介役っすから」

 実際に新聞が出てか、テラハレス諸島で行われていた交渉は一時中断となっている。
 俺が陛下に報告して、それが三か国の交渉団に知られたからなのだが。
 王国、両国双方の貴族に真実かどうか問われ、交渉団のトップであるレミー団長は政府に問い合わせると言って逃走してしまったそうだ。

「バウマイスター辺境伯さん、もう情報をリークしたんすか?」

「俺は王国貴族だからな」

 それに、今の政権では交渉などもう纏まらないであろう。
 私貿易が順調なので、俺達としては政権交代後に正式な交渉が締結されても何も困らないのだから。

「オズワルドの逮捕もあるのか」

「ただ、外国での犯罪なので、罰せるかどうか法律の解釈が難しいようっすよ。本人も黙秘するかもしれないっすから」

 ところが数日後、別件で逮捕されたオズワルドは『仲介はしたが、それは古い魔道具の輸出についてだ。オットー達は運搬役にしかすぎない。まさか暗殺を目論むとは……』と堂々と言い放ったらしい。

 確かに、オズワルドもリンガイア大陸に中古魔道具を輸出する仕事に参加し、莫大な利益を得ていた。
 当選以降、奴はほとんど議会にも来なかったそうだ。
 議員になったのは、一期でも務めれば元議員の肩書がついて後に有利になると思っただけという事らしい。

 ある意味、清々しいレベルの悪党である。

「いやぁーーー、驚きの言い分っすね。でも、誰の仲介をしたかは話しているっすよ。ええと、プラッテ伯爵と魔道具ギルドの会長っす」

「はあ? どうして魔道具ギルドの会長が?」

 プラッテ伯爵は不思議に思わないが、魔族が作る魔道具の輸入阻止で動いていた魔道具ギルドが、俺の暗殺に金を出した?
 なぜなんだ?

「私貿易はしているが、魔道具ギルドが作れない魔導具しか輸入していないのにな」

「そういう態度が逆に、魔道具ギルドのプライドを傷つけたんじゃないの?」

「ルイーゼ、俺はあのジジイ達にそこまで気を使わないといけないのか?」

 思えば、沢山の古代魔法文明の遺産を売ってあげたじゃないか。
 それなのに、今の今まで新しい成果が出たという話を聞いた事がなかった。

「魔導ギルドの方は、多少成果はありましたよね?」

「そうだな。あのとんでも魔法陣の改良とかしているからな。今もベッケンバウアーが色々とやっているよ」

 ブランタークさんが、俺も知り合いである魔導ギルドの技術部長であるベッケンバウアー氏の現状を教えてくれた。

 魔力を使うと、遠方から色々な品を移転させられる魔法陣。
 あれは、魔導ギルドが地下遺跡にある古代魔法文明時代の魔法陣を改良した品であった。
 今も研究は順調だと、前にベッケンバウアー氏から聞いていたから、むしろ魔導ギルドの方が魔導技術の研究が進んでいるわけだ。

「あの魔法陣か。ボクのブラを『移転』させてエッチな魔法陣だよね」

「そうね。私のパンツもよ。あの魔法陣、研究している人のスケベさが滲み出ているわね」

 パンツとブラを『移転』させられてしまったルイーゼとイーナは、その時の事を思い出して嫌そうな表情を浮かべる。

「ブラとパンツを魔法陣で召還?」

「そうなんだよ、テレーゼ。セクシーなボクに似合うお気に入りだった黒のブラを、ヴェルが実験で召還してしまうから……」

「ルイーゼ……」

「あっ!」

 ペラペラと事情を話してしまったルイーゼに対し、イーナが呆れたような表情を浮かべる。
 あの実験では、当時フィリップ公爵として領地で視察をしていたテレーゼのパンツも召還してしまい大騒ぎとなってしまったからだ。
 彼女の下着が突然消えてしまった理由が、魔法陣の実験のせいだと喋ってしまったようなものなのだから。

「ほほう、やはりそういう事か。ブランタークも、ヴェンデリンも怪しいと思っておったわ」

「ルイーゼ……」

「ヴェル、ごめん」

 ルイーゼが珍しく、しおらしい態度で俺に謝った。

「ヴェンデリン、ルイーゼを責めてやるな」

「怒っていないのか?」

「今さらじゃし、下着も買えぬほど困窮しているわけでもないからな。妾は器の大きな女のなのじゃ」

「ありがとう、テレーゼ」

 テレーゼは優しいなぁ。
 履いている下着を魔法で召還した事をまったく気にしていないのだから。

「照れるではないか、ヴェンデリン」

 俺はテレーゼに抱きつきながら、魔法の袋から彼女の下着を取り出した。

「やはり持っておったか。しかし、これはフィリップ公爵家の家紋がついているから使えぬの」

 今のテレーゼは、フィリップ公爵家の人間ではない。
 だから、家紋の入った下着は使えないわけだ。

「あとで別の下着を買ってあげるから」

「そうか、見に行く時はつき合えよ。ヴェンデリン」

 新しい下着を一緒に見に行くくらいで済むなら安いものだ。

「てっ! ヴェル、話がそれているわよ」

「そうだった」

 イーナから冷静に指摘されたので、また話を元に戻す。

「魔導ギルドの方が、魔導技術の研究が進んでいるのですか?」

「ああ、この三年でな。魔導ギルドは基礎研究と試作品の製造くらいしかいないが、技術力は相当上がっているようだ。試しに話を聞いてみるか?」

「そうですね」

 早速みんなで、魔導ギルドへと向かう。
 俺の『瞬間移動』も、リリとの器合わせのおかげで一度に移動できる人数が二十名にまで増えていた。
 やはり、リリと倒したオットーの魔力は人間では考えられないほど多かったようだ。
 そして、俺の魔力はリリをも超えてしまった。
 俺って人間なのに、どうしてそんなに魔力があるのだろう?
 やはり、転生者である事に意味があるのか?

「久しぶりですな。バウマイスター辺境伯」

 相変わらず魔道具ギルドとは仲が悪い魔導ギルドであったが、技術部長ベッケンバウアー氏の顔色は明るかった。
 徹夜でもしたのか目に隈が浮かんでいるが、本人はとても気分がいいようだ。
 疲労しすぎてランナーズハイになったのかもしれない。

「バウマイスター辺境伯と実験した魔法陣ですがあれから相当研究が進みまして、目的に応じて魔法陣を書き換える事により、様々な効果が発揮できるようになったのです。刻む魔法陣のパターンは組み合わせがほぼ無限なので、これから法則を探るのと、もっと色々な効果が出るように魔法陣を改良しているのですよ」

「そうなんですか……」

 目の下に隈を作りながら、とても嬉しそうに説明を続けるベッケンバウアー氏。
 だったら、これからも研究しないといけないのだから、まずはちゃんと睡眠を取ってほしいと俺は思った。

「ベッケンバウアーさん、ちゃんと寝ないといけませんよ」

「『聖女』と呼ばれているエリーゼ殿からそう言われたら、寝ないといけませんな。今までは魔道具ギルドを出し抜くレベルまで研究を進めるのに無茶をしていたのですが、ようやくそれも達成しました。今日からは平常業務でいきますよ」

 ブランタークさんの言うとおり、魔法陣の改良はかなり進んでいるようだ。
 目に隈のあるベッケンバウアー氏が、自慢げに俺達と地下の研究室に案内した。

「ヴェル、久しぶりね」

「ボクとイーナちゃんは、下着を取られて文句を言いに来て以来だね」

「そうだな」

 魔導ギルドの研究室では、数十名の魔法使いが様々な魔法陣に魔力を流し、それがどのような現象をもたらすかメモを取っていた。
 魔法陣の刻む文字のパターンを、根気よく探っているのであろう。

「この魔法陣、魔道具にも応用できるのだ」

「どうやってですか?」

「この極微量のミスリルを塗布した板に魔法陣を刻むと、最低でも数十年は文字が薄れないで効果を発揮し続ける。今までの魔道具よりも軽量化が進むな。法則を見つければ魔力量の消費量も減らせる。何よりも、魔道具を製造する手間が大分減る。将来はもっと高性能にできるし、魔道具を構成する部品も減る」

 ベッケンバウアー氏が見せてくれた十センチ四方の板に魔法陣が刻まれたものを見て、俺は半導体みたいだと感じた。
 この魔法陣、もしかするともっと研究が進めば、魔族の魔道具を技術力で超える可能性があるわけだ。

 地球でも、トランジスタやICが発明されて歴史が変わったのだから、これもその類の発明品というわけだ。

「ちなみに、バウマイスター辺境伯が中古品を購入したり、地下遺跡から発掘した車両という魔道具。こちらも一台だけ試作に成功したぞ」

 研究室の奥には、ジープに似た簡素な造りの車両が置いてあった。

「へえ、こういう魔道具の方が武人の蛮用に耐えるかも」

「そうですね。ちょっとした移動なら、むしろこの車両の方がいいかもしれませんね」

 エルとハルカは、早速魔導ギルドが試作した車両を試しに少し動かしていた。

「はははっ! ざまあみろ! 魔道具ギルドめ!」

「正確悪いなぁ……」

「そうだな」

 ヴィルマとカチヤのみならず、発言したベッケンバウアー氏以外の全員が首を縦に振る。

「量産はせぬのか?」

「残念ながらうちは魔導ギルドなので、量産に必要な職人が揃えられないのですよ」

 ベッケンバウアー氏は、テレーゼに魔導ギルドはあくまでも魔導技術の基礎研究が目的なので、魔道具は試作品しか作れないのだと説明した。
 魔道具を作るには多くの職人が、魔法使いだけじゃない。
 大型で複雑な構造の魔道具ほど、魔法使いじゃない職人が多数必要になる。

「長年、職人達は魔道具ギルドとの繋がりが強いので、うちが頼んでも無駄なのです。魔道具ギルドに睨まれたくないから、うちの仕事を受けるわけがないですな」

 ベッケンバウアー氏は、テレーゼに事情を説明した。

「一台しかないのでは、あまり役に立たぬの。それにしても、帝国ではもう少し融通が利くぞ」

 組織なので多少の派閥争いはあるが、帝国の魔道具ギルドは魔導ギルドの下部組織なのでそこまで仲が悪くないらしい。

「でも、魔族が作った魔道具の輸入阻止をしているのは一緒よね」

「明日食えなくなる危機じゃから、それは仕方がないかの」

 そこは徐々に魔導技術の開発を進めつつ、徐々に輸入枠を増やす方向で交渉するしかないわけだ。
 もっとも、帝国の魔道具ギルドはこの三年で大分態度を軟化させつつある。
 いまだに頑ななのは、王国の魔道具ギルドの方なのだ。

「そこで、魔導ギルドは陛下にも報告しているのです。こちらが魔法陣を刻んだ板の量産に集中するので、それを使った魔道具の量産を始めてはいかがかと」

「それでどうなったのじゃ?」

「魔道具ギルドが断りました。自分達で開発すると」

「実際に開発できておらぬのであろう?」

 というか、そういうアイデアすら出ていないはずだ。

「テレーゼさん、そこは魔道具ギルドのプライドの高さと既得権益の大きさを侮ってはいけません」

 リサも魔導ギルドの所属だが、過去に魔道具ギルドの傲慢さを直接経験した事があるようだ。

「その魔法陣を刻んだ板でしたか。それが重要部品で、それがないと新しい魔道具を作れないとなると、魔道具ギルドは魔導ギルドに頭が上がらなくなります。そんな事を今の上層部は容認しないでしょう」

「ジジイばかりだからな」

 ジジイは酷いと思うが、カチヤの言うとおりであった。
 前会長の死後、魔道具ギルドは後継会長を決めるのに散々揉め、挙句にまた九十近い元副会長を会長に添えた。 
 前会長の方針を継承するといえば聞こえがいいが、前と何も変わらないのに、魔道具ギルドの指導力は落ちてしまった。
 若い会員の中には組織の改革を求める声も大きいが、彼らは年寄りなので変化を嫌う。
 別に今のままでも儲かるのだから、無理して新しい事をする必要はないわけだ。

 そんな彼らが一番恐れる事は、帝国と魔族の国から魔道具が輸入される事である。
 今までのほぼ独占状態が崩れるのだから。
 昔からミズホ製魔道具の存在は知られていたが、あそこは帝国への販売で手一杯。
 王国には、極少数しかミズホ製の魔道具は存在しなかった。
 シェアを考えると、そこまで脅威でもない。

 だが、魔族が作った魔道具は別だ。
 向こうは生産力も十分持っているのだから。

「一つ聞きたい事があるのですが」

「何かな? リサ殿」

 リサは高名な魔法使いである。
 当然、ベッケンバウアー氏とも知己の関係にあった。

「板に極少量のミスリルを塗布と言いましたが、板の素材は決まっているのでしょうか?」

「色々と試しておるだが、基本は二種類。ミスリルの板でも大丈夫だが、これはコストの問題で駄目。高級品なら問題はないかなと。あとは、性能が低めの量産品には焼き物の板が一番いいように思う。ただ、使っている土や焼き方で性能にバラつきがあってな。割れやすいという欠点もあるし、試行錯誤しておるよ」

 土という事は、高純度なケイシリコンで作るシルコンウェハーのような板の方が、魔法陣を刻みつけやすいのであろう。
 なるほど、この世界の近代化にもシリコンの活用が重要なわけだ。
 割れやすいのは、ケイ素以外の不純物が多いからであろう。
 自然界にある土を焼いただけでは、当然そういう結果になって当然だ。

「バウマイスター辺境伯、何かいいヒントはないかな?」

「そうですね……自然界にある土では、板の形成に必要な物以外の不純物が多いのでは?」

 試しに研究室にあった焼き物用の土から魔法でケイ素以外の物質を抜いて薄い板を形成し、単純な結晶の塊にしてみた。
 これなら、性能もよくなるはず。

「急ぎ試験させてみますが時間がかかります。結果が楽しみですな」

 知っているからとはいえ、俺がこの世界でシリコンウェハーを作ってしまうとは。
 あくまでも類似品だが、これで魔法陣を刻めて、板を取りつけた魔道具の性能が上がれば大成功か。

「もう一つ、これは高級品向けですな。バウマイスター辺境伯が作れる『極限鋼』も安定した金属なので板の素材に向いています。欠点はコストと、加工にオリハルコン製の工具が必要な点ですな」

 今の俺が定期的に作っている『極限鋼』。
 これが、板の素材に向いているとベッケンバウアー氏は言う。

「つまり、新しい魔道具の重要部品は魔導ギルドとヴェルが握っているわけだ。じゃあ、ヴェルの暗殺を魔道具ギルドが目論んでも当たり前なのかな?」

「技術の進歩を否定するのか? 魔道具だって、もっと高性能なものが安く量産可能なのかもしれないのに?」

「ヴェンデリンは、重要な部分が抜けておるの。魔道具ギルドの上層部は年寄りじゃ。変化を嫌うし、世の中全体が便利になっても自分の収入が落ちたら嫌であろう。今のままの、魔道具生産を独占できる立場が続けばいいと思っておる」

「ヴェルが魔族の国から私貿易で中古魔道具の輸入始めた時点で、ヴェルが敵になったようね」

 全体の利益よりも、自分達の組織の利益か。
 別にそれでも構わないといえば構わないが、俺を狙った時点で腹が立つ。
 喧嘩を売られた以上は、これはやり返さないと駄目であろう。

 貴族が他人に舐められると、次の不埒な輩を産む事になるのだから。

「あとは、プラッテ伯爵か?」

「ベッケンバウアーさん、よくご存じですね」

「バウマイスター辺境伯、魔導ギルドも大きな影響力を持つ。王宮の噂も手に入るからな。プラッテ伯爵のバウマイスター辺境伯嫌いは有名さ」

 息子を豚箱にぶち込んだ俺を許せないのは当然か。
 あの時は、あの方法が一番穏便に解決する手段だったので仕方がない。
 元凶たるあいつも、どうせ反省もしていないだろう。
 プラッテ伯爵の息子が嫌な奴で、積極的に助けてやろうという気が起こらなかったのもある。

「バウマイスター辺境伯が試作した板の性能が好調なら、ワシが陛下に奏上しておこう」

「では、その時にプラッテ伯爵と魔道具ギルドの罪状も報告させます」

 貴族同士の犯罪なので、まずは様子見でローデリヒに奏上させて陛下の反応を見た方がいい。
 ただ、プラッテ伯爵は法衣貴族である。
 領地貴族だと自分の領地に籠って逃げられるケースも多いが、法衣貴族の管轄は王国政府にある。
 しかるべき証拠があれば、陛下もプラッテ伯爵を処罰しない事はないはずだ。

 そして数日後……。




「バウマイスター辺境伯、貴殿が開発した板はいいな。前よりも微量のミスリルでこれまでの焼き物板以上の性能を発揮する。魔法陣も刻みやすいと評判だぞ」

 ベッケンバウアー氏は、試作した四輪魔導車の重要部品を俺が作ったシルコン板に魔法陣を刻んだものに変えたところ、性能と稼働時間が大幅に上がったと報告してきた。

「使用する部品数も減ったし、魔道具の軽量化とコストダウンもできそうだ。何より、魔道具ギルドが作れない物を魔導ギルドが作れた。万々歳だ!」

「魔導ギルドと、魔道具ギルドか。仲が悪いのだな」

「色々と歴史的な背景もあってね」

「余から見ると、同じような組織に見えるがな」

 今日は、魔王様とライラさんも俺達に同行していた。
 バウマイスター辺境伯暗殺未遂事件の仲介役オズワルド議員は逮捕され、警備隊によって家宅捜索も行われた。
 そこに、ゾヌターク王国では産出しない宝石や、出所が不明な金塊が見つかり、彼も王国のプラッテ伯爵と魔導ギルドからのものだと証言したそうだ。

「もっとも、奴は中古魔道具の取引代金だと言い張っておるがな」

「そいつ、起訴されるのかね?」

「殺人未遂では困難じゃな。我が国の法では、国外での犯罪を裁く法がないからの。金の流れが相当怪しいので、政治資金規正法と脱税くらいかの?」

 オズワルドの逮捕と家宅捜索も、実は別容疑での別件逮捕にあたるそうだ。
 バウマイスター辺境伯領内での事件で、彼を裁くには法律が整備されていないわけだ。

「となると、魔族はリンガイア大陸で犯罪のし放題か」

「その危険性はあるが、逆に言うとリンガイア大陸で捕まれば現地の法で処罰される。政府は口出しもできない。そこはお互い様だな」

 その辺は、これから交渉していかなければいけないのであろう。
 それは責任者に任せるとして、なぜエリー達を連れてきたかというと、陛下が魔族の王と会ってみたいと言い出したからだ。
 暗殺未遂事件の依頼者がプラッテ伯爵と魔道具ギルドであるという証拠を持参したついでという建前と共に、陛下は魔族にも王族がいて安心したというのが本音かもしれない。
 上手く繋がりをもっておき、もし魔族が王政国家を作ろうと志したら手を貸して同盟でも結んでおきたいという本音もあるのであろう。

 いわば魔族国家の分裂に期待しての事だが、国家同士の関係に綺麗事などない。
 エリーもライラさんも、それは期待しての参上かもしれなかった。  
 あくまでも、非公式の会見ではあったが。

「魔族の国の魔道具には、このような板は?」

「いや、魔族の国の魔道具は、従来の人間が作る魔道具の仕組みと同じじゃぞ。機能を達成でできるように魔晶石と人工人格が取りつけてある。人間のものよりも大分性能は上だがな」

 加えて、品質管理と規格化により生産力が高く、同じ魔道具などに性能バラつきがなく、魔力消費量が少ない。
 人間にはいまだ生産できない種類の魔道具を作れる強みもあった。

「この魔法陣を刻む板は凄いな。魔族にもない技術だ」

「そうですね。こう言っては失礼ですが、まさか技術力が劣る人間の方が新しい魔道具の仕組みを開発してしまうとは」

 シリコンウェハーと極限鋼にミスリルを吹き付け、そこに魔法陣を刻んだものが魔道具の重要部品になるなんて、二人は聞いた事がないようだ。

「新しい板の素材をバウマイスター辺境伯が作るとはな。魔道具ギルドからすれば、余計にバウマイスター辺境伯には死んでほしいというわけだ」

 どういうわけか、エリーは俺をヴェンデリンと名前で呼ばなかった。
 そうか、ベッケンバウアー氏や王城の人間が不思議に思うからか。
 この娘は若いのに、こういうところも頭が回るな。
 だからライラさんも、彼女に忠誠を誓っているのか。

「この技術の開発が進めば、人間の魔道具も我ら魔族に対抗可能になるであろうな。魔族の技術でないのが残念であるが。あとはヘルムート王国の王にオズワルド議員がプラッテ伯爵と魔道具ギルドにどう対応するかだが、それは余の領分ではないからな」

 プラッテ伯爵は知らないが、魔道具ギルドへは混乱を防ぐため、現在の会長やそのシンパを組織から排除し、新しい人事体制にして魔導ギルドから『魔法陣板』の供給を受けて新しい魔道具の開発と量産を進めるという点でケリであろうか。

 要は、今の古い体質がなくなればいいのだから。
 俺達は悪事の証拠を握っているので、まさか魔道具ギルドの会長も拒否はすまい。

「では、陛下の下に向かいます」

 魔導ギルド本部を出た俺達は、そのまま城内へと入った。
 事前に知らせは受けていたようで、門番はそのまま素直に入れてくれた。
 俺が有名人なので、まさか入れないという選択肢は存在しないのかもしれないが。

「陛下、バウマイスター辺境伯です。お客人をお連れしました」

「よくぞ来てくれた。魔族の王よ」

「民主制を信奉するゾヌターク共和国では何の力もない王だがな。バウマイスター辺境伯暗殺未遂事件に関する情報をお持ちした」

 エリーとライラさんは、新聞記事のみならず、独自に国権党議員などとも連絡を取っていたようだ。
 三か国の交渉を進めるため、お飾りでも王が役に立つとその政治家が理解したのであろう。
 少なくとも、国権党の方が民権党よりは話がわかるようだ。

「プラッテ伯爵め。こやつはまだいい。バウマイスター辺境伯暗殺の報酬は私財から出しているからな。だが、魔道具ギルドは許されない。我が王国が、一体いくら補助金を出していると思っておるのだ!」

 陛下が怒って当然だ。
 本来、魔道具研究に使うための補助金を、俺の暗殺に使用したのだから。
 魔道具ギルドは貴族ではないが半ば公共的な組織なので、資金の不正な流用は許されるはずがなかった。

 挙句に、このところ新しい魔道具の開発が進んでおらず、魔族との交渉では魔道具の輸入阻止を目論んで政府と交渉団に圧力をかけ、前会長の死後、新会長の選出に手間をかけて組織を一時機能停止にした。
 ようやく就任した新会長は、前会長の方針を受け継いでいまだ魔道具の輸入阻止をたくらんでいる。

 今、魔導ギルドが新しい技術を開発したが、職人に圧力をかけて魔導ギルドに協力できないようにしている。
 陛下見ても、今の魔道具ギルドは害悪な存在でしかない。 

「魔導ギルドは話にならない。まだいいとは言っても、プラッテ伯爵も無罪のはすがないがの。私財没収と改易を命じよう」

 王国のために貢献している俺を殺そうとしただけでなく、公式な交渉ルートではなく私的に魔族と接触して不法行為の報酬を支払った。
 私貿易ならまだ許せるが、敵対する貴族の暗殺を魔族に依頼するなど、今度模倣犯が出るかもしれないと考えると、陛下としては絶対に許さないはずだ。

「魔導ギルドも、今の上層部は首を挿げ替える。こちらの足を引っ張りおって! ワーレン!」

「はっ!」

「アームストロング軍務卿に命じろ! プラッテ伯爵の屋敷と魔導ギルド本部に兵を送り、連中の身柄を確保せよと」

「畏まりました」

 陛下はワーレンさんに対し、エドガー軍務卿のあとを継いだアームストロング伯爵に今回の暗殺未遂事件の犯人を捕縛せよと、伝えてくるよう命じた。

「そういえば、プラッテ伯爵の奴はおらぬの」

「普段は、城内にいるのですが……」

 法衣貴族で空軍閥の重鎮であるプラッテ伯爵は、いつも城内にたむろしている。
 俺の悪口を言い、反バウマイスター辺境伯家派閥の組織化に忙しかったようだが、そんな貴族など珍しくない。
 人というのは、所属する集団の中で必ずソリの合わない人物が出てくるのだから。

 それにしても、プラッテ伯爵。
 俺憎しで、家を潰すとはな。
 そして、魔道具ギルド。
 今までそう関係は悪くなかったと思ったのだが……。

 早速ワーレンさんが伝令に走り、アームストロング軍務卿が王国軍を編成してプラッテ伯爵の屋敷と、魔道具ギルド本部の制圧に入った。
 ところが、プラッテ伯爵の屋敷に本人の姿はなかった。

「残された家族が言うには、魔道具ギルドに出かけていると」

「察知されたか?」

 ワーレンさんからの報告に、陛下は首を傾げた。
 オットー達の襲撃を切り抜けた俺達が王城に姿を見せた時点で、プラッテ伯爵は自分の関与が知られたとすぐに察知してしまったのかもしれない。
 自分だけで、慌てて魔道具ギルドに逃げ込んでしまったようだ。

「どちらにしても、魔道具ギルドを押さえれば済む話だ。すぐにアームストロング軍務卿に命じて……」

「何だ? 地震か?」

 突然、地面がかなり激しく揺れ始めた。
 王城が倒壊するほどではないが、かなり大きな揺れだ。
 急ぎ謁見の間からバルコニーに出て震源を探すと、魔道具ギルドのある場所に鋼鉄の巨人が立っていた。
 大きさは五十メートル近いと思う。
 形は、ニュルンベルク公爵が最後に乗って戦った巨大ゴーレムによく似ていた。

「ヴェル!」

「ああ……」

 魔道具ギルドの地下に、あんな巨大ゴーレムが鎮座できるようなスペースがあったとは。
 父が、子供の頃に見たというロボットアニメの出撃シーンにそっくりだ。
 残念ながら、あの巨大ゴーレムは正義の組織のロボットではなく、王国軍の捕縛に抵抗するプラッテ伯爵と、魔道具ギルドの会長……。

「エリーゼ、今の魔道具ギルドの会長って誰?」

 元副会長が会長に横滑りという面白みも欠片もない人事だったはずだが、あの葬儀の席にいたどの爺さんが会長になったのか知らなかった。

「ヴェル、お前はいい加減、そういう重要な地位にいる人の名前と顔を覚えろよ!」

「別に覚えなくても不都合はないし」

「ある! 俺達が恥ずかしいじゃないか!」

「覚えなくても生きていけるし……」

 エルの文句に、俺は反論した。
 そういう偉い人の顔と名前を懸命に覚える生活なんて、前世で卒業したのだから。

「貴族が、紋章官の仕事を覚えるのはよくない」

 それに、普段よく接している貴族の名前と顔はちゃんと覚えている。
 つまりだ。
 魔道具ギルド会長の名前と顔が覚えられないという事は、その必要が一切ないというわけだな。

「滅多に顔を合せない貴族の名前と顔を覚える手間があったら、新しい魔法でも覚えた方がマシだって」

「そんな屁理屈はどうでもいいけど、あの巨大ゴーレム。こちらに向かってきていないか?」

「そう言われるとそうだな」

 魔道具ギルドの建物は、巨大ゴーレムが地下から出る時にその余波で完全に破壊されてしまった。
 続けて、向いにある恨み重なる魔導ギルドの建物も破壊されている。
 どうやら、魔道具ギルドの会長はよほど魔導ギルドが嫌いであったようだ。

 プラッテ伯爵と魔導ギルド会長以下執行部の捕縛を行おうとしていた王国軍は、突如出現した巨大ゴーレムに驚き、恐怖して統一して応戦するどころではなくなった。

「怯むな!」

 陣頭指揮を執っていたアームストロング軍務卿が、冷静に王国軍の統制を取り戻してから魔法と弓矢で攻撃を始める。
 王国軍にいる複数の魔法使いが魔法を放つが、残念ながら初級魔法使いの『ファイヤーボール』では、ゴーレムの装甲に傷一つつかなかった。

「これは駄目だ。バウマイスター辺境伯!」

 アームストロング軍務卿は、王国軍による巨大ゴーレム撃破を諦めた。
 巨大ゴーレムに人々が押し潰されないよう避難誘導を行い、先に崩れた建物から生き埋めになった人々の救援を行う。

 巨大ゴーレムは、魔導ギルドの建物以外には攻撃を加えなかった。
 だが王城へと進路を取り、その進路上にある建物を踏みつぶしていく。
 運悪く、自分の店や家を潰される不幸な人が続出した。

「なぜこちらに?」

「帝国へ向かっておるな」

「陛下?」

 いつの間にか、俺のすぐ後ろに陛下の姿があった。

「攻撃力は凄い巨大ゴーレムであるが、我々を殺して王国の支配者となるのは無理だ。そこで、北上して帝国に亡命を試みる。今の皇帝が連中を受け入れるのかという疑問はあるが、彼もいまだ帝国すべてを掌握していないであろう。分裂を怖れて渋々ながら受け入れる可能性がある」

「ないとは言い切れませんねぇ……」

 仮想敵国の王城を破壊した、恐ろしい破壊力を持つ最新鋭の巨大ゴーレムと共に亡命する。
 帝国には喉から手が出るほど欲しい勢力があるかもしれない。
 その勢力が大きければ、ペーターも配慮しなればいけないのか。

 となると……。

「破壊しないと駄目ですか」

「そうよな。余個人にとっても思い出が多く歴史の長い王城である。壊れてほしくないのが心情だ」

「わかりました。俺も死にたくないから出ますよ」

「バウマイスター辺境伯、それはどういう?」

 陛下からの問いであったが答えている暇はなかった。
 俺は急ぎバルコニーから『飛翔』で外に飛び出し、巨大な『魔法障壁』を張る。
 なぜなら、巨大ゴーレムの胸の部分に砲塔のようなものを確認したからだ。
 巨大ゴーレムは、魔砲の試作品を搭載しているようだ。

 俺が張った『魔法障壁』に膨大な魔力で発射された直径一メートルほどの砲弾が命中した。
 砲弾は魔力によって威力を強化されており、容赦なく『魔法障壁』を砕いていく。
 次々と新しい『魔法障壁』を展開し、バルコニーの手前ギリギリで砲弾を防ぐ事に成功した。
 威力を失った砲弾は王城の正面に落下し、正面門前に設置されている石像などを破壊する。
 門番はすでに避難していたので、犠牲者がいなかったのが幸いだ。

「バウマイスター辺境伯、助けは必要であるか?」

「導師も、他のみんなも、避難者の誘導や救助を頼みます」

「わかったわ、ヴェル」

「エリーゼも、怪我人がいたら治療を頼む」

「はい、ご武運を」

 まさかこの世界で、二度も超巨大超合金ロボットモドキと戦う羽目になるとはな。
 こちらに歩いて来るだけで、足元の住宅や店舗が踏みつぶされていく。
 ゴーレムの撃破を諦めた王国軍が住民の避難誘導をしているので、犠牲者はほとんど出ていないようだが、やる事が滅茶滅茶だ。

「プラッテ伯爵は頭がおかしいな」

『恨み重なるバウマイスター辺境伯め! この魔道具ギルドが密かに開発した巨大ゴーレム大魔神には勝てまい!』

「ネーミングセンスが皆無だな」

「エル、そんな事を気にしている場合じゃないと思うけど……」

 予想どおり、巨大ゴーレムにはプラッテ伯爵が乗り込んでいるようだ。
 操縦席内で喋った声を拡声する機能もあり、彼の話し声はよく聞こえた。
 それにしても、名前が『大魔神』とはネーミングセンスが欠片もない。
 これは多分、帝国内乱でニュルンベルク公爵とアーネストが乗っていた巨大ゴーレムを参考に試作されたのであろう。
 残骸を回収して、戦後魔道具ギルドに販売したからな。

「ダサイ名前だな」

『私がつけたのではないわ! シャーシェウド会長の命名だ!』

「シャーシェウド会長? 誰? それ」

 初めて聞く名前だな。

『ふざけるな! 魔道具ギルドの会長であるこの私を知らないだと?』

 もう一人、拡声器から老人らしき声が聞こえてきた。
 彼が魔道具ギルドの会長のようだ。
 前にエリーゼから教えてもらったような気がしたが、すぐに忘れてしまったのだ。

「そういえば、会長って言っていたな」

『バカにしおって! この裏切り者が!』

「どうして俺が裏切り者なんだよ?」

 むしろ、魔道具ギルドのために色々と貢献してきたじゃないか。
 俺は本来、魔導ギルドの会員なのだ。
 それなのに、様々な古代魔法文明時代の品を研究用として売却してきたのだから。

『魔族から魔道具を購入しおって! 我々がいなくなったら人間の魔導技術は衰退し、魔道具はすべて魔族によって牛耳られてしまうのだぞ! そうなれば、王国のみならず人間が魔族によって支配される要因にもなりかねないのだ! その遠因となった私貿易! これを最初に行った貴様は罪深き存在だ!』

 そうは言われても、俺はちゃんと配慮はしていたぞ。
 いくら低性能で高額で無駄にデカくて重くても、人間が製造した魔道具があればそっちの方を購入して利用していた。
 魔族との私貿易では、あくまでも人間が作り出せない魔道具しか取引していないのだから。

 そうやって現物を手に入れ、それの修理や解析で人間の魔道具職人も技術を上げられる。
 模倣から新しい魔道具を作れるかもしれない。
 第一、魔導ギルドが魔法陣板を試作したのに、それを使用した魔道具の生産を拒否したのは魔道具ギルドじゃないか。

 今のまま、一切進歩しない魔道具生産を独占して楽したいだけのジジイに言われたくない。
 まあ、これは立場の違いか……。

「最初から全面輸入禁止では、魔族の進んだ魔道具に人々が触れるチャンスがなくなるじゃないか」

 それに、交易で輸入超過にならないように王国政府も関税と輸入量制限などの条件も考えている。
 一切の例外を認めず、とにかく魔道具の輸入阻止を目論む魔道具ギルドの方が頭がおかしいのだ。

「成果がないとか抜かして、それは何だよ? 革命でも考えていたのか?」

 王城近くの魔道具ギルド本部地下で、お前らはどうして巨大ゴーレムなんて作っているんだよ。
 そんな暇と資金があったら、もう少し高性能な魔道具を作れ。
 ああそうか。
 巨大ゴーレムは、あくまでもニュルンベルク公爵が使用したゴーレムの改良品でしかない。

『見たか! 我々の力を!』

 思いっきり方向性が間違っているな。
 それにしてもこの巨大ゴーレム、まさか手足を吹き飛ばすとどこかから予備の手足が飛んで来るとか……。
 それはないか。
 魔道具ギルドの建物と、巨大ゴーレムが置いてあった地下施設は完全に崩壊している。
 このまま手土産代わりに王城をぶっ壊し、帝国に亡命するつもりなのであろう。
 ペーターが受け入れるかどうかは知らんが。

『今まで魔道具ギルドはずっと上手く行っておったのだ! それをお前が色々と発掘してしまうから! 同じ物を作れ? そんなすぐにできるか!』

 シャーシェウド会長は、一人ぶち切れていた。
 実は俺達が、地下遺跡を発掘して様々な古代魔法文明時代の魔道具を手に入れている事が気に入らなかったようだ。
 入手してしまった以上は、魔道具ギルドはそれを複製するために努力しないといけないからだ。
 きっと今まで努力はしてみたが、上手く行かなかったのであろう。
 何が悪いのかは、俺は研究者や職人じゃないのでよくわからないけど。

『お前は、我がプラッテ伯爵家に恨みでもあるのか?』

 もう一人。
 プラッテ伯爵は、魔導飛行船の入手や、空軍軍人の天下り先、息子への対応で俺に激怒しているのはわかった。
 俺も同じ立場なら激怒したであろうが、さすがに暗殺は目論まないと思うので、やはりプラッテ伯爵は堪忍が足りない部分があるのであろう。

 少し悪いとは思ったが、俺も聖人君子ではない。
 バウマイスター辺境伯家の方が大切であり、自分のためにプラッテ伯爵家を陥れる事があっても仕方がないと思っている。

「息子には配慮したんだがな……」

 表向きは、リンガイアと乗組員達を救出するため、貴族の義務としてゾヌターク共和国に残ったという事にした。
 王宮にいる貴族で実情に気がつかない人はいないが、貴族は建前を大切にする。
 プラッテ伯爵の息子が、貴重なリンガイアと乗組員達のために豚箱にぶち込まれたという嘘を公式の事実にする事に疑問を投げかける貴族は少なかった。

 その配慮も、プラッテ伯爵の暴発ですべて無駄になったが。
 出所してもプラッテ伯爵の息子は貴族でなくなっており、爵位も屋敷も私財もないただの無職の庶民になってしまうのだ。

『あれのどこが配慮だ! もういい! お前を殺し、王城を破壊して、それを功績に帝国に亡命してやる!』

『大魔神の素晴らしさに、帝国の魔道具ギルドの連中も感激するであろうな』

「そうか?」

 巨大ゴーレムは確かに強力な兵器ではあるが、稼働率や燃費、整備性に大きな問題があると思うのは気のせいであろうか。
 それに陛下としても、今は巨大ゴーレムの生産よりも魔導技術の進歩であろう。
 民生品でも技術力が上がれば、それだけ新兵器の生産も容易いのだから。

 特に車両類の生産は必須だ。
 軍で採用されれば、機動力と補給にどれだけ貢献できるか。
 馬を使う戦いが大きく変わる可能性があるというのに、こいつらはそれに気がついてもいない。
 プラッテ伯爵は空軍閥の重鎮で魔導飛行船にも詳しいはず。
 それなのに、車両の利便性に気がつかないとは……。
 シャーシェウド会長は論外だ。
 こんなデカブツの試作よりも、魔導ギルドに先を越された車両の試作が優先であろうに。

『大魔神の価値がわからぬとは愚かな。バウマイスター辺境伯、王城と共に貴様も倒してやる!』

 どうやらプラッテ伯爵もシャーシェウド会長も、俺を殺さないと気が済まないようだ。
 ならば相手をしてやるとしよう。

 不毛な会話であったが、その間に王国軍とイーナ達が上手く住民を避難させてくれたようだ。
 エリーゼは、避難先で負傷者の治療にあたっている。
 ここで戦うと町に損害が出てしまうが、王城を破壊させるわけにもいかない。
 巨大ゴーレムを食い止めつつ、活動停止に追い込むしかないな。

「魔力は上がっているんだ。いけるか?」

「バウマイスター辺境伯、某も手伝うのである!」

 突然導師の声が聞こえたと思ったら、遥か上空から猛スピードの塊が飛んできて、巨大ゴーレムの胴体を直撃した。
 落下速度と『魔法障壁』の硬さを利用した、導師必殺の体当たり攻撃である。

 俺は、絶対に真似しようとは思わないが。
 痛くはないと思うが、衝撃で脳震盪でも起こさないかと心配になってしまうのだ。

「ううむ……胴体に傷一つつかないのである!」

 もの凄い速度で巨大ゴーレムの胴体に体当たりした導師であったが、何事もなかったかのように『飛翔』で俺の隣まで上昇してきた。
 巨大ゴーレムも無傷であったが導師も無傷であり、俺は彼の人間離れした頑丈さに恐怖した。

『当たり前だ! 大魔神には、極限鋼を大量に使用しているのだからな」

 人が作った極限鋼をそんな使い方するとはな。
 研究用だからって売ったのに、それは橋の橋脚や鉄筋代わりに使うのが本来の目的だ。
 魔銃や魔砲の素材としての需要もあるとは聞いているが、まだそっちの方がマシな使い方だ。

「あの巨大ゴーレムの装甲をすべて極限鋼にしたのか……」

 どれだけの経費を使ったのであろうか?
 魔道具ギルドの金満ぶりに驚きつつも、そんな金があったらもっと使える魔道具研究に回せと俺は思った。

「導師、無茶すんなよ。ほら、魔法の効果が薄いじゃないか」

 避難誘導を終えたブランタークさんも俺と導師に合流し、試しに『火球』を巨大ゴーレムに放ったが、『火球』は極限鋼製の装甲に弾かれてしまう。
 自分で作っておいてなんだが、極限鋼が軍事機密に指定されているのは当たり前か。

「おおっ! 幻の反魔法金属ではないか!」

「バウマイスター辺境伯が再現に成功していたとは……多くの企業や研究所が試作を繰り返しているのですが、いまだに成功していない古代のロストテクノロジーです」

 王城にいたエリーとライラさんも俺達に合流したが、二人は巨大ゴーレムの装甲に使われている極限鋼を見て驚いていた。
 極限鋼は古の魔族も製造していたが、今は完全なロストテクノロジー扱いらしい。
 いつの間にか製造技術が失われ、魔族の間では幻の錬金金属なのだそうだ。

「さすがはヴェンデリンだな」

 エリーは、嬉しそうに俺と腕を組んだ。
 彼女の胸はまだ小さいが、俺の腕に押しつけられるとその感触が心地よい。

「ヴェルも鼻の下を伸ばさない」

「ルイーゼ、俺は鼻の下は伸ばしていないぞ」

 目の前に王城に向けて魔砲を連発する巨大ゴーレムがおり、『魔法障壁』で防ぐのが忙しい。
 それどころではないのだ。
 エリーも『魔法障壁』の展開に協力してくれており、決してそういう意図で俺と腕を組んでいるわけではない……よね?

「そうだ、ルイーゼ殿。これは余とヴェンデリンが協力して『魔法障壁』を張るのに必要な行為なのだ」

 避難誘導を終えて合流したルイーゼが、突然後ろから話しかけてきたので驚いてしまった。

「ライラさん、いいの?」

「害のある方との交友については諫言いたしますが、バウマイスター辺境伯様については特に何も」

 ルイーゼはライラさんに、俺とエリーが腕を組んでいるがいいのかと尋ねたが、彼女は気にしていないようであった。

「古の魔族とは、魔力の多い者を尊敬、敬愛する存在なのです。バウマイスター辺境伯様は陛下の魔力すら超えてしまわれている。陛下が親密になろうとするのはわかります」

「魔族は本能に忠実だねぇ……」

「ルイーゼ殿、魔族が欲望に忠実だなんて、それは大昔の書物などの記載のみです。人間とそう変わりませんよ」

 その誤解は解いておくといった感じで、ライラさんはルイーゼの発言を訂正した。

「こんなしょうもない理由で巨大ゴーレムを出撃させる人間の方が、よっぽど本能に忠実なのでは?」

「ううっ、それは否定できない……」

 確かに、誰が見てもあの二人は大バカでしかないな。

「ヴェル、イーナちゃん達が怒らないといいね」

「なぜ俺が怒られないといけないんだ?」

 別に浮気をしたわけでもないし……。
 それよりも、住民の避難誘導はすべて終わったのであろうか? 

「そっちは大丈夫、王国軍も協力してくれたから。エリーゼは怪我人の治療を始めているよ。でも、あのデカブツが少しでも進路を変えると、また逃げないと駄目だけどね」

 こんな、よく東京を破壊する某怪獣のような巨大ゴーレムだ。
 人が住む場所で動かしていいような代物ではない。

「まったく、貴族の風上にも置けない方々ですわ」

「近くで見ると、本当に大きいですね……」

「マックスが乗り込んだものの巨大版か。戦闘力は高そうに見えるが、オリジナルティーは薄い。今の魔道具ギルドの問題点を具現化したような代物よな」

 カタリーナ、リサ、テレーゼも合流し、これで戦力は整った。

「旦那様、どうやって破壊するのでしょうか?」

「どうしようか?」

 リサに巨大ゴーレムの倒し方を聞かれたのだが、俺もさっぱりわからなかった。
 装甲が極限鋼製なので、かなり高威力の魔法でもあまり効果がなかったからだ。

 導師による一撃でも無傷なのは痛い。

「えーーーっ、ヴェルは何か案があると思っていた」

「あったんだけど、できない事が判明した」

 いくら極限鋼でも、俺が魔法で素材構成を変えてしまえば強度が脆くなってしまう。
 そう考えて接近戦を望もうとしたら、巨大ゴーレムには特殊な『錬金阻害塗料』が塗布されており、素材構成を変えて極限鋼でなくしてしまう案が使うのが困難であった。
 その前に、あの巨大ゴーレムに長時間取りつかせてくれるほど、プラッテ伯爵達も甘くはないであろう。

「どうしようか?」

「派手にぶち壊す」

「ルイーゼさん、ここでは無理ですわ」

 下手に高威力の魔法で破壊すると、何しろあの巨体を動かす魔晶石が搭載されているのだ。
 魔晶石は高威力の魔法に曝されると誘爆するケースがあり、もしそうなれば王城もその周辺区画もただでは済まない。

「ただ勝てばいいというわけにはいきません」

 リサの言うとおりだ。 
 それでいいなら、とっくに導師が全力で戦っているはず。
 破壊できても、王城とその周辺地域に被害があったら意味がない。
 その点、既に家族まで見捨てて帝国に亡命するつもりのプラッテ伯爵達は自由に行動できた。
 巨大ゴーレムが動く度に足物の建物が踏みつぶされていくが、気にする必要もないのだから。

「ヴェンデリンさん、導師様。どうなされますか?」

「どこか、人のいない場所に運ぶのである!」

「また無茶を言うな、導師」

 ブランタークさんは呆れ顔だ。
 全長五十メートル近い巨大なほぼ極限鋼製のゴーレムを、王都の中心部から人がいない郊外へと運ぶ。
 どう考えても、物理的に不可能だからだ。
 一体、あの巨大ゴーレムが何トンあると思っているのだ。
 しかも持ちあげて数十キロ先の無人の土地まで運ぶ。
 そんな魔力は、いくら導師でも持っていないはずだ。

「策ならあるのである!」

「どんな策だ? 導師」

 ブランタークさんが、そんなものがあるのかと懐疑的な表情を浮かべた。

「某、いまだ魔族とは器合わせをしておらず、つまりまだ魔力が増える余地があるのである!」

 導師は、四十をすぎていまだ魔力が増え続けている特殊な人だ。
 これまでは魔族との器合わせを拒否していたが、遂にそれを実行する決断をしたわけだ。

「導師なら、今の辺境伯様の魔力に迫れるか?」

「あのデカブツを倒すのに、バウマイスター辺境伯は魔力を保持していてもらわないと困るのである!」

 今の俺なら全力を出せば巨大ゴーレムは倒せるはずだが、ここで倒せば被害は甚大なものとなろう。
 被害を抑えようと攻撃を手加減して失敗したら目も当てられない。
 そこで、導師が全力で巨大ゴーレムを王都郊外にある無人の土地に運ぼうと言うのだ。

「いい策だな。じゃあ、早速器合わせを」

「というわけである。陛下」

「えっ? 余がか?」

「左様、バウマイスター辺境伯とライラ殿は忙しいゆえに」

 実はこんな話をしながらも、俺達は忙しかった。
 大魔神を操るプラッテ伯爵達が、容赦なく巨大ゴーレムの腹部に配置された魔砲を連発していたからだ。
 そのままにすると王城が壊れるので、みんなで『魔法障壁』を張って防いでいるのだ。
 『魔法障壁』によって弾かれた砲弾が落下して一部貴族の屋敷に被害が出ているが、みんな避難して無人なので犠牲者は出ていない。

 あとで、屋敷を壊された貴族から文句を言われるかもしれないが、今はそんな事を気にしている場合でない。

「導師、早くぅ!」

「ちっ! 胴体だけじゃねえのかよ!」

 王城に被害が出ない事に焦ったプラッテ伯爵達は、腰、太腿、肩にも装備されていた魔砲を連発し始めた。
 ブランタークさんは、防ぐ砲弾が増えて途端に機嫌が悪くなる。

「急ぐのである」

「嫌じゃ」

「「「「「「「はあ?」」」」」」」」

 まさかの器合わせの拒否に、俺達全員一斉にエリーを見てしまった。

「余も『魔法障壁』の展開を手伝おうかな」

「いえ、それよりも器合わせです。陛下、何か嫌な理由でもあるのでしょうか?」

 魔族には、異性同士の器合わせに関する風習など存在しない。
 それなのに、導師の器合わせを拒否したリリに対し、ライラさんがその真意を問い質す。

「ヴェンデリンと器合わせをした時。こう体がポカポカと温かくなって、気分が落ち着いて、心地よい気分になったのだ。昔、ライラと器合わせをした時にはそんな感覚はなかったのに不思議なものよ。つまり……」

「つまり?」

「もうヴェンデリン以外とは器合わせをしたくない。同性はいいが、異性は断固拒否する!」

「なっ……」

 エリーのあんまりな言い分に、ブランタークさんは顎が外れるかと思うほど口をあんぐりとさせていた。

「じゃあ、俺が代わりに……」

「辺境伯様は守備の要だ! 魔王様に代理はできない!」

 まだ巨大ゴーレムが魔砲を隠し持っている可能性があった。
 これ以上魔砲を連発されると、エリーでは対処できないであろう。
 経験不足で、咄嗟にリサ、カタリーナ、ルイーゼ、ブランタークさんの補佐に入れない可能性があり、彼女に任せられないのが現状なのだ。

「それに、今の辺境伯様はそれどころじゃない」

「それどころじゃない? ゴーレムからの攻撃に対する防戦で忙しいからですか?」

「違う。ある意味もっと厄介かな?」

 ブランタークさんからそう言われた直後、俺は複数の殺気を一斉に感じた。
 順番に見てみると、俺の妻達がいわくあり気な笑顔を浮かべている。
 よく見ると、目が笑っていない。

「ヴェル、また?」

 ルイーゼの言っている事の意味がわからないな……。

「ヴェンデリンさん、今度は魔族の方ですか?」

「私は別に異論はありませんが……」  

 カタリーナ、リサ、本当に誤解だから。

「今にして思うと、別空間に飛ばされたヴェルの救出に行ったくらいだから、魔王様もねぇ……」

 イーナ、だからそれは友情であって、恋愛感情は一切なくて……まったくないとは言えないか?

「今さら一人くらい増えても同じ」

「だよなぁ。何かもう慣れちゃったし」

 ヴィルマ、カチヤ、だから誤解なんだって!

「ヴェンデリン、お主は見ていると退屈せぬの。エリーゼが何と言うか興味あるの」

 テレーゼ、俺の人生はテレーゼの娯楽じゃないんだぞ!

 散々な言われ方であるが、別に俺とエリーは男女の関係になどないし、種族の壁もある。
 彼女と結婚なんてするわけがないじゃないか。

「あなた」

「エリーゼ?」

 ここで、救助した怪我人の治療を終えたエリーゼがエルとハルカを護衛にイーナ達と合流した。
 残念ながら、今までの一連のやり取りをすべて聞かれてしまったようだ。
 イーナ達と同じく、底冷えのしそうな笑みを浮かべている。

「あなた、今はそれどころではありません。ご武運を御祈りいたしております」

 以外にも、エリーゼはエリーについて何も聞いてこなかった。
 確かに、今はそれどころではないのだが。

「終わったらお話がありますから」

 やっぱり、そう来たか!
 せっかく巨大ゴーレムを倒しても、そのあとで俺はエリーとの関係についてエリーゼから尋問されてしまう。
 というか、俺がエリーを口説いたわけでも、浮気をしているわけでもない。
 ただ、エリーが導師と野器合わせを拒否しただけなのに、こんなに理不尽な事はないと思う。

「ライラ殿はどうであろうか?」

 エリーから器合わせを拒否されたショックを見せず、導師はライラさんに器合わせを頼んでみた。

「私もできれば遠慮したいです……」

「導師、人気ないな」

「某、何か悪い事でもしたのであろうか?」

 それについては、他者から見ても思い当たる節が複数あるような気がする。

「じゃあ、作戦が実行できないじゃないか「待つのであるな!」」

 導師の魔力を器合わせで増やすという策が駄目になるかと思われたその時、突然あの男が現れた。
 最近、まったく存在感がなかったあの男。
 監視はつけているが、遺跡発掘、レポート作製、食事、風呂、睡眠以外は何もしない、外出も発掘の時だけというある意味究極のヒココモリ、アーネストが突然姿を見せたのだ。

「どうやって王都に?」

「我が輩、王国の依頼で地下遺跡の場所を探る仕事をしていたのであるな」

 えっ? 
 そんな仕事、お前、いつの間に受けていたんだ?

「エリーゼ?」

「ローデリヒさんが、陛下から依頼を受けまして。アーネストさんに逃亡の危険はないと判断したそうです」

 こいつは、地下遺跡が沢山ある場所なら喜んで滞在するからな。
 バウマイスター辺境伯領の地下遺跡探索が大分進んだため、王国に猜疑心を抱かれないよう、直轄地の地下遺跡調査も請け負うようになったらしい。

 今日はたまたま王都郊外にいたため、ここに駆けつけてきたわけだ。

「我が輩なら、アームストロング導師と器合わせができるのであるな。これも、あの巨大ゴーレムが万が一にも地下遺跡に害を成さないようにするためであるな」

 アーネストの魔力は、エリー、オットーに次ぐ多さであった。
 実はライラさんよりも魔力量が多く、器合わせをする相手には向いていた。

「お主であるか?」

「今は個人的な嗜好を優先させる時ではないと、我が輩は思うのであるな」

「うぐっ……」

 導師にとってアーネストは苦手な部類の人間に入るが、この状況で個人的な感情を優先させるべきではない。
 アーネストから言われ、導師は余計に顔を顰めさせた。

「すぐに器合わせをするのである!」

「戦闘は任せるのであるな。我が輩、基本的に頭脳労働者なのであるな」

「元々、期待していないのである!」

 導師は言われんでもという顔をしながら、アーネストと手を繋いで器合わせを開始した。
 その間、俺達は防戦に務めていが、無事に器合わせが成功した。
 導師がパワーアップしたのがよくわかる。

「では、早速やるのである!」

 魔力容量が増えた分は魔法の袋に入った魔晶石で魔力を補給し、導師は大量の魔力を使って身体能力を強化した。

「いけそうである! 続くのである!」

 導師は、先頭となって巨大ゴーレムへと接近を開始する。

『させるか!』

 プラッテ伯爵が巨大ゴーレムの操作を手伝い、装備された複数の魔砲を乱射し続けるが、それらはすべてルイーゼ達が『魔法障壁』で弾いていく。

「ふんぬぉぁーーー!」

 無事に巨大ゴーレムに取りついた導師は、両腕でその胴体を抱え込み、唸り声をあげながら『飛翔』で上昇しようとする。
 このまま巨大ゴーレムを持ちあげてから、王都郊外へと運ぼうとしているのだ。

「うぬぅおぁーーー!」

 だが、巨大ゴーレムは一ミリも地面から浮かび上がっていなかった。

「駄目だな」

「そうですね……」

 いくら導師の魔力がアーネストクラスになったといえ、そう簡単にあの巨大ゴーレムを持ちあげられるはずがないと思うのだが。
 俺とブランタークさんは、この試みは失敗したと思った。

「バウマイスター辺境伯以外、手伝うのである!」

「えーーーっ! ボク達も?」

「そうである! もう少しなのである!」

 一緒に巨大ゴーレムを持ちあげるのを手伝ってほしい。
 そう導師から頼まれて、ルイーゼは微妙な表情を浮かべた。
 間違いなく、ルイーゼ達が救援しても成功しないと思っているはずだ。

「もう少しなのである!」

「わかったよ。ほらみんなも」

「本当に大丈夫なのですか?」

「魔族でも、あれほど巨大なゴーレムを持ちあげる奴などおらぬぞ」

「そうですよね、陛下」

「他に手がないと、ここで壊して被害が甚大になる方を選ばなければならぬ。やるだけやってみようではないか」

「私、『身体強化』系の魔法は少し苦手なのですが……」

「気をつけて手伝うぞ」

 ブランタークさんの指示でルイーゼ達も巨大ゴーレムに取りつき、『飛翔』で一緒に浮かび上がろうとする。
 怪力の導師が駄目なのに、力は常人のブランタークさん達が手伝っても同じような……。

 と思ったら、本当に巨大ゴーレムが宙に浮き始めた。

『このカトンボ共が! 大魔神を持ちあげるな!』

 プラッテ伯爵が苦情を述べるが、みんなそれを無視して巨大ゴーレムを上空百メートルほどまでに浮かせた。
 途中、巨大ゴーレムがその腕で取りついた導師達を振り払おうとしたが、その前にライラさんとリサが両腕に取りついて上空へと飛んでいく。
 巨大ゴーレムは万歳をしたような格好となり、身動きが取れなくなってしまった。

『この野郎! 叩き落としてやる!』

「死ぬぞ。プラッテ伯爵」

「どういう事だ? バウマイスター辺境伯」

 それはそうだろう。 
 魔法で飛べない人間が、高度百メートルから落下して生きていられるはずがない。
 巨大ゴーレムの操縦席には魔法でGや衝撃を緩和する機能があるかもしれないが、ないかもしれない。
 巨大ゴーレムごと落下したら、プラッテ伯爵は水風船のように破裂すると思う。
 人間はそんなに頑丈にできていないのだから。

「ちょっとした教養から得た知識で忠告しておく」

 もし巨大ゴーレムに張り付いているルイーゼ達に手を出すと、人数が減って巨大ゴーレムを『飛翔』で浮かせておく事ができなくなるかもしれない。
 そうなれば、そのまま落下してプラッテ伯爵達は死ぬであろう。

「それを思うと、持ちあげた時点で勝ちなのか」

 何も考えていないように見えて、実は導師、ちゃんと計算しているとか?
 ……たまたまか。

『バウマイスター辺境伯、今までの無礼許してやらんでもない。私をこの巨大ゴーレムから救出したらだが』

「おい……」

 死ぬぞと言われて恐ろしくなったのか。
 プラッテ伯爵は、俺との和解を求めてきた。

「バカなんじゃないの」

「今さらですわね」

「陛下から生死を問わずで捕縛命令が出ているので、救出はあり得ません」

「こんな大騒ぎを起こしておいて、今さら降伏か? お主にできる事を教えてやろう。このまま反逆者として死ね」

 ルイーゼ、カタリーナ、リサ、テレーゼは、容赦なくプラッテ伯爵を批判、死刑宣告を出した。
 確かに、これだけの騒ぎを起こしておいて、今さら助けてくれとは虫がよすぎる。

「ヴェンデリン、このまま上空から叩き落とせば壊れるかの?」

「どうだろう? 一応、最新鋭の魔道具だからな。そういう時のために安全装置がついているかもしれないけど……」

 逆に言うと、これだけの巨体だ。
 上空から地面に叩き落とされると想定していないかもしれない。
 操縦者は呆気なく死んでしまえば、それはそれで楽か。

「ならば、すぐにこのまま巨大ゴーレムを郊外に運ぶのである!」

 導師は躊躇なく、抱えた巨大ゴーレムを王都郊外まで運ぼうとした。
 ルイーゼ達も協力し、上空に浮いたゴーレムは王都郊外へと向けて移動を開始した。

『おいっ! シャーシェウド会長! 大丈夫なんだろうな?』

 降伏が許されなかったプラッテ伯爵は、同乗しているシャーシェウド会長に巨大ゴーレムが地面に叩きつけられた時の安全性を訪ねていた。
 その口調の必死さから見るに、二人はそれほど仲がいいというわけでもないわけだ。
 俺への憎しみと、謀略がバレテしまったので、帝国に亡命するまで組んだだけにしか見えなかった。

 慌てたプラッテ伯爵が拡声器のスイッチを切っていないようで、二人の会話まで外に聞こえていた。

『大丈夫だ。ニュルンベルク公爵が乗って敗北したゴーレムをさらに改良してある。操縦席に過剰な衝撃がかかった時、それを緩和する装置が働く』

『おおっ! さすがは最新鋭の魔道具』

 そんなものを開発する暇があったら、魔導四輪を実用化すればよかったのに……。
 この巨大ゴーレムといい、魔道具ギルドの連中はどこかズレているような気がした。

『聞いたか? バウマイスター辺境伯。我々を地面に叩きつけても、我々には何のダメージもないのだ』

『ついでに言うと、巨大ゴーレムも極限鋼のおかげでダメージは受けない。わざわざ郊外まで運んでくれてこちらとしては大歓迎だ。帝国との距離も縮まったからな』

 王城を破壊して、それを手土産にする話はどうなったのであろうか?
 周辺区画には損害を与えたので、それで十分だと思ったのか?

「ペーターがいい顔をするとは思えないんだろうけどなぁ……」

 今のペーターに必要なのは、帝国を立て直すのに必要な平和な時間だ。
 巨大ゴーレムは兵器として魅力的かもしれないが、王国に敵意を持たれては意味がないと思うのだが、帝国も一枚岩ではない。
 何かの切り札に使えるかもと、プラッテ伯爵達の亡命を受け入れる可能性もなくはないのか。

「どのみち、某達の方針に変更はないのである! このガラクタをぶち壊す時に周辺への被害を考えると、無人の場所で行った方がいいのである!」

『好きにすればいい。アームストログン導師、お前も他の魔法使い達も、大魔神の輸送で莫大な魔力を消費した。これで、我が大魔神を破壊できる可能性は減った』

「バウマイスター辺境伯がいるのである!」

 そのために俺は魔力を温存しているのだが、果たして極限鋼で覆われた巨大ゴーレムに歯が立つのか。
 不明な点は多い。

『どう転んでも、私と大魔神に何ら影響はない。帝国の魔道具ギルドと組んで、この大魔神をさらに強化すれば、帝国も私を蔑ろにはできないはずだ』

 さすがは、ジジイ。
 自分の安全は必ず確保するわけだ。
 そういう部分は老練なのであろう。

「あれ?」

「どうかされましたか? 陛下」

 大魔神を運んでいるライラさんは、リリが首を傾げたのでその理由を尋ねた。

「『私と大魔神』は? プラッテ伯爵とやらは駄目なのか?」

『別に駄目じゃない。些か操縦席の改良に手間がかかってな。安全機構があるのは、私が座っている席だけなのだ』

「それって、つまり……」

「巨大ゴーレムが地面に叩きつけられた場合、シャーシェウド会長は無事でも、同乗者のプラッテ伯爵は無事にはすまないというわけです」

「なるほど、それはこの高度から地面に叩き落とされればな」

 それにしても、プラッテ伯爵。
 シャーシェウド会長から見捨てられるとは、やっぱり貴族としては微妙な人だったわけだな。

『私が座っている席が安全ではないと? こら! そちらに座らせろ! ベルトが外れないぞ!』

『ふふふっ、お前なんぞ、便宜上組んだだけの事。そもそも私は貴族など嫌いなのだ!』

『貴様、プラッテ伯爵である私に対して、何たる無礼な口を!』

 シャーシェウド会長は、加齢で衰えたとはいえ魔道具ギルドのトップになれるほどの人物であった。
 だが平民の出なので、出世のため偉そうな貴族に本心を隠して気を使っていたのであろう。
 今は、陛下から改易された『元貴族』であるプラッテ伯爵に使う気などないわけだ。

『仕方なしに組んでいたが、本当に使えない奴よ』

『貴様ぁ! 平民の癖にぃーーー!』

 この状況で仲間割れできるのが凄いと思うが、彼らに残された時間は残り少なかった。 
 遂に、巨大ゴーレムを王都郊外にある無人の平原上空まで運ぶ事に成功したからだ。

「ごちゃごちゃうるさいので、とっとと地面に叩き付けるのである!」

「そうだな。運よくどこか壊れてくれるかもしれないからな」

『こらっ! ちょっと待て!』

 巨大ゴーレムが地面に叩きつけられたら確実に助からないプラッテ伯爵が苦情を述べたが、ブランタークさんと導師が聞く耳など持つはずがない。
 哀れ、巨大ゴーレムは地面に叩きつけられた。
 ただみんな手を離して落としただけだが、あれだけの重量物だ。
 爆発したかのようなもの凄い音と共に、落下地点に盛大な土煙があがった。
 それが晴れると、巨大ゴーレムは深く地面にのめり込んでいる。

「搭乗者が死んでいれば楽なのに」

『残念だな! バウマイスター辺境伯! 私はピンピンしているぞ。見たか! これが魔道具ギルドの力だ!』

 あの高さから落下しても搭乗者にまったくダメージがない操縦席か。
 未来になると、魔力で動くロボット人間が操縦して戦争をするなんて未来もあるかもしれない。

「ちなみに、プラッテ伯爵は?」

『死んだに決まっておろうが。うるさいだけでクソの役にも立たない。貴族の家に跡継ぎとして生まれた以外、何も取り得もない奴だ。挙句に操縦席を汚しおって。死ぬ時まで迷惑しかかけないとはな』

 よほどプラッテ伯爵の事が嫌いだったのであろう。
 シャーシェウド会長は、嬉しそうに彼の死を報告した。
 あの高さから落下したのだ。
 プラッテ伯爵の死にざまは、誰にでも容易に想像できる。
 俺は後片付けしたくないな。

『次は、お前がプラッテ伯爵のようになるのだがな!』

「それはどうかな? お前は存在感がないから」

『人が気にしている事をーーー!』

 巨大ゴーレムは、シャーシェウド会長が操縦している。
 戦闘を優位に進めるために彼を挑発してみたのだが、彼が副会長からの横滑りで、しかもギルド内の支持も薄く、外部からも存在感が皆無だと思われている事を随分と気にしていたようだ。

『お前は、私の名前すら知らないで!』

 それはしょうがない。
 俺が生きていく上で、別に魔道具ギルドの会長の名前を知らなくても、何の不都合もないからだ。

「俺は魔導ギルドの所属だし」

『前会長の死後、私がいかに苦労して魔道具ギルドを纏めてきたか! お前のように、魔法の才能だけでお気楽に切り抜けている貴様にはわかるまい!』

 それは誤解だ。
 確かに魔法は便利だが、絶対じゃない。
 俺だって、ジジイにはわからないかもしれないが、色々と苦労しているのだから。
 まあ、彼にそれを言っても無駄であろう。

 戦闘を優位に進めるため、もっと挑発しておくか。

「お前も魔法使いだったな。でも、組織で成り上がらないとうだつが上がらないほどだ。俺のように魔法だけで何とかならないから、こういう姑息な手を使うんだろうな」

『お前は! 殺す!』

 完全にブチ切れたシャーシェウド会長は、巨大ゴーレムに搭載された魔砲を発射した。
 半分ほど落下のショックで暴発し、完全に壊れてしまったが。

「なるほど、完全に無傷ってわけでもないんだな」

「それにしても、極限鋼とは頑丈である! 内蔵している魔砲が暴発しても、本体には影響ないのである!」

「そこ、冷静に評論していないで下がって」

 巨大ゴーレムを運ぶ時に大量に魔力を消費したので、導師以下俺以外は全員既に戦える魔力が残っていなかった。
 ここは俺に任せて退いてほしいとところであった。

「足を引っ張るのも何なのである! バウマイスター辺境伯、任せるのである!」

「無理そうなら退けよ。あとで壊すって手もあるんだから」

 導師とブランタークさんは、急ぎ俺の近くから離れた。

「ヴェル、無理しないでね」

「こいつの歩みは遅いようですので、明日また挑戦する手もありますわ。ご無理をなさらないように」

「旦那様、ご武運を」

「無理するなよ、ヴェンデリン」

 巨大ゴーレムの運搬で魔力が残り少ないルイーゼ、カタリーナ、リサ、テレーゼも、俺の邪魔な衣ならないように俺から距離を置いた。

「すいません、私も魔力を使いすぎました」

 巨大ゴーレムの運搬では、魔力量が多いライラさんにも負担が大きかったようだ。
 逆にいうと、ライラさんとリリがいなければ巨大ゴーレムは運べなかったはず。

「あのゴーレムは重たかったからな。ヴェンデリンに任せる。これは勝利のためのおまじないだ」

 最後に、突然エリーが俺の頬にキスをしてきた。

「勘違いするなよ。これはあくまでも真面目な勝利のおまじないだからな」

 とは言われたのだが、心なしかエリーの顔が赤いような気がする。
 俺の勘違いか?

「痛っ!」

 そして、遥か遠くから小石が飛んできて俺の頭に当たった。
 遠方から微妙な威力で小石を当てられる人物は、間違いなくルイーゼであろう。

「ヴェンデリンの妻達はヤキモチ焼きが多いの。では」

 ライラさんとエリーが離脱し、その間に巨大ゴーレムが起き上がって一対一の戦いが始まろうとしていた。

『お前一人なら、この大魔神の圧倒だ!』

 プラッテ伯爵が死んで気が晴れたのか。
 シャーシェウド会長は嬉しそうな声で、巨大ゴーレムに搭載している壊れていない魔砲での攻撃を再開した。
 ところが、数発を撃った時点で砲撃は止んでしまう。

「壊れた? 違う! 砲弾切れだ!」

 当たり前の事だが、いくら巨大ゴーレムでもそれほどの砲弾は積めない。
 魔砲は弾がないと撃てないので、今までの砲撃で弾を使い果たした以上、これ以上の砲撃は不可能であった。

「駄目じゃん」

『次の手はある! 『魔貫通熱線』を食らえ!』

「っ!」

 魔砲が撃てなくなった巨大ゴーレムは、手の平の部分を俺に向けた。
 咄嗟に嫌な予感がして回避すると、目にも留まらない早さで俺の真横をビームのような光線が抜けていく。
 少し俺の『魔法障壁』に掠ったのだが、簡単に貫通してしまうほどの威力であった。

 俺は背中に冷や汗をかいた。
 まさか、『魔法障壁』を容易に貫通してしまうビーム砲のような魔法があるなんて。

『はははっ! 見たか! この『魔貫通熱線』を手土産に帝国へと亡命だ』

 もっと強固な『魔法障壁』なら貫通しないと思うが、そうすると防御で尋常ではない魔力を消費してしまう。
 中級以下だと完全にお手上げであろう。

 まったく、こんなものばかり開発しやがって。
 軍人でもないのに、頭がおかしいんじゃないのか?

『『魔貫通熱線』に貫かれて死ね!』

 ただ威力は凄いが、『魔貫通熱線』には弱点があった。
 発射口が手の平なので、射線の特定が容易であり、発射前に手の平からズレれば、簡単に回避できてしまう。
 俺も最近、ブランタークさんの言う魔法の精密さを身に着けつつあるのかもしれない。

『なぜ当たらぬ?』

「さあな? こっちは回避で精一杯だ」

 油断すると貫かれてしまうので、こちらも必死であった。
 もう一つ、ここで巨大ゴーレムの魔力を消費させておこうという作戦であった。

「どのくらい頑丈なんだ?」

 俺は巨大ゴーレムが放つ『魔貫通熱線』を回避しつつ、適当な大きさの『火球』をぶつけてみた。
 極限鋼は伊達ではないようで、呆気なく弾かれてしまう。
 『火球』がぶつかった後にも、傷一つついていなかった。

「駄目だな。こりゃあ」

 続けて『魔貫通熱線』を回避しながら、どうやってこのデカブツを倒すかを考える。
 攻撃魔法で破壊するとなると、相当な威力のものを放たないといけないはず。
 もしそれでも駄目だった場合、ブランタークさんのように歩行速度を考えると逃がす心配はないが、また居住地域に行かれると面倒だ。

 ならば……。

「ちょっと面倒だが……」

 極限鋼の原子構成に手を加え、まずはその強度を落とすか。
 自分で『錬金』したものだからそのくらいは容易なのだが、問題は巨大ゴーレムの全身に塗布されている『錬金阻害塗料』であろう。

『はははっ! 錬金阻害塗料を剥ごうなどという安易な策は通じないぞ!』

 どういう仕組みなのか?
 今、ちょっと巨大ゴーレムに取りつき、ミスリルナイフで塗料を剥ごうとしたら、まったく歯が立たなかった。
 試しに『錬金』の魔法を装甲に浸透させてみるが、特殊な塗料のせいで極限鋼の層まで届かない。
 だが、まったく届かないというわけでもないらしい。
 それが確認できたので、俺は一旦巨大ゴーレムから離れた。

「さて……やはりあそこにしがみ付くしかないか……それも最低でも数分間は……」

 覚悟を決めた俺は、先日リリがオットーに対して使用した『フラッシュ』の魔法を仕掛けた。

『眩しい! 目がぁーーー!』

 巨大ゴーレムの操縦席に、外部からの閃光を防ぐ機能はなかったようだ。
 直接『フラッシュ』を見てしまったシャーシェウド会長は、あまりの眩しさに暫く目が見えないはずだ。
 その間に俺は背中に取りつき、巨大ゴーレムに使用されている極限鋼の再『錬金』を始めた。
 綿密に規則正しく結びついた原子配列に魔力で介入し、その組成を変えてしまう。
 レアアースやレアメタル成分を抽出してしまえば、極限鋼はただの鋼になってしまう。
 そうすれば、高威力の魔法で簡単に壊せるはずだ。

 ところが……。

「魔力の介入が阻害されてしまうな……」

 どうやら『錬金阻害塗料』だけでなく、他にも『錬金』を阻害するものが巨大ゴーレムには搭載されているようだ。
 強く魔力を篭めたおかげで、『錬金』が錬金阻害塗料の層を突破したのは感じられたが、また別の何かに『錬金』が阻害されてしまった。

「バカめ! 魔道具職人である私が、『再錬金』への対策を立てないと思ったのか?」

 いくら頑丈な極限鋼でも、錬金で少しでも成分に変化があればただの鋼や鉄合金に戻ってしまう。 
 それを防ぐための装置が、巨大ゴーレムには設置されているようだ。
 多分その元は、あのニュルンベルク公爵が発掘し、アーネストに稼動させた魔法を阻害する装置であろう。
 壊しはしたが装置の回収はしていたので、戦後それを魔道具ギルドに販売していた。
 修復して小型の装置を試作し、それを搭載しているのであろう。
 極限鋼で覆われた巨大ゴーレムの欠点は、『錬金』されて装甲が極限鋼でなくなってしまう事なのだから。

『はははっ! 我々魔道具ギルドの力を見たか!』

「そこまでできるのなら、魔族の国の魔道具も複製しろよ。それにお前が直接作ったわけではないだろうが」

 シャーシェウド会長は、既に現役の魔道具職人ではない。
 きっと、この巨大ゴーレムの製造で一秒たりとも作業には参加していないはずだ。

「ちゃんと会長職にまい進していればいいのに、余計な事をして。これだから、プライドと権力欲が肥大した年寄りは厄介なんだ」

 そういうのを、日本では老害という。
 魔道具ギルドは特にその傾向が強く、魔道具職人としては引退している年寄り連中が魔道具ギルドで余計な政治活動を始めるから、魔族の国との交渉がなかなか纏まらなかったり、既得権益を守るため俺の暗殺を試みたりする。

「とっとと引退すればいいのに。引き際って肝心だな」

 俺も気をつけないとな。

『言わせておけば! この大魔神に手も足も出ない癖に!」

「果たしてそうかな?」

 確かに『錬金』は阻害されているが、この装置には欠点がある。
 それは、魔法の阻害に打ち勝てる強大な魔法を使えばいいだけなのだ。
 帝国内乱で使われた巨大魔法阻害装置では難しいが、巨大ゴーレムに搭載された小型装置なら強力な魔法を使えば阻害を無効にできるはず。

 以前の俺なら魔力が保たないが、今の魔力が増えた俺なら大丈夫なはずだ。

「(精神集中……)」

『無駄な事を!』

 まだ視力が回復していないシャーシェウド会長であったが、俺に巨大ゴーレムは破壊できないと思っているので、その口調は余裕そのものであった。

「できる。地味な『錬金』にここまで魔力を使うのは珍しいが……」

 最初は魔力の浸透を阻害され、なかなか『錬金』が発動しなかったが、半分以上の魔力を使用したところで巨大ゴーレムに使われている極限鋼にアクセスできた。
 ここから、少しずつ混ぜられているオリハルコン、ミスリル、その他レアメタルやレアアースを抽出していく。

 数分で巨大ゴーレムの装甲がただの鉄になる予定だが、魔力の消耗が予想以上に激しい。

『まだ諦めないのか!』

 視力が回復したシャーシェウド会長は、巨大ゴーレムの背中に張りついた俺を振り落とそうとする。
 巨大ゴーレムの手が背中に届かないので、大きく体を揺すり続けた。
 俺は振り落とされそうになるが、何とか背中にしがみ付いて『錬金』を維持し続ける。

『ええい! 落ちろ!』

「嫌だね」

 ここでやめたら何の意味もなくなってしまう。
 『錬金』が成功して極限鋼がただの鉄になってしまうか、その前に魔力が尽きてしまう心配もあったが、器用に魔法の袋から予備の魔晶石を取り出し、魔力を回復しながら『錬金』を続けた。
 そして数分後……。

「成功だ!」

 俺には、巨大ゴーレムを覆っていた極限鋼がただの鉄になってしまったのに気がついた。
 これから、俺の魔法で簡単に破壊できるであろう。

 すぐに巨大ゴーレムの背中から離れ、トドメの一撃とばかり魔法を放つ魔力を練ろうとして……。

「いかん……魔力が足りない」

 予想以上に極限鋼の変性で魔力を使ってしまったようだ。
 今は何とか飛べているが、もう数分で地面に落下してしまう。
 その前に、一時撤退も視野に入れなければいけなくなった。

「私の大魔神がぁーーー! バウマイスター辺境伯め!」

 どうやらシャーシェウド会長は、ご自慢の大魔神の装甲がすべてただの鉄になってしまった事に気がついたようだ。
 激怒しながら、連続して『魔貫通熱線』を連発し始めた。
 回避はそう難しくもないが、今は飛んでいるので回避のたびに魔力を余計に消耗してしまう。

「できれば、ここで倒しておきたいんだが……」

 魔力を回復する前に、他の町で暴れたりすれば犠牲が出てしまう。
 今、この場でトドメを刺したかった。

「どうしたものか……」

 遠方に退避したみんなも、もう魔力に余裕がない。
 今の俺の魔力では、絶対に巨大ゴーレムは倒せない。

「あなた!」

 残留か、撤退かで悩んでいると、突然後方からエリーゼの声が聞こえた。

「エリーゼか。どうやって?」

 後ろを見て確認すると、ルイーゼとカタリーナがエリーゼを抱えて飛んできてくれたようだ。

「ルイーゼ、カタリーナ。危ないぞ」

「あの光線みたいな魔法だね」

「『魔法障壁』を相当強くかけないと貫通してしまう魔法ですか。確かに、私とルイーゼさんの残留魔力では回避以外できませんわね」

「じゃあ、エリーゼをヴェルに渡して撤退だ」

「ヴェンデリンさん、エリーゼさん。あとはお任せしますわ」

 二人は、俺にエリーゼを渡すと再び巨大ゴーレムから離れていく。
 自然と俺はエリーゼをお姫様抱っこしていた。

『逃がすか!』

「残念、ボクは回避の方が上手なの」

 ルイーゼはカタリーナを抱え、自分達を襲った『魔貫通熱線』をダメージを受けないギリギリで回避してから徹底して行った。

「あなた、あの指輪をお持ちしました」

 攻撃魔法と『飛翔』を使えず、後方で今回の事件の怪我人を治療していたエリーゼには、俺がプレゼントした指輪の魔力がまだ残っている。
 それを持ってきて、俺のピンチを救ってくれた。
 さすがは、俺の正妻というわけだ。

「やっぱり、エリーゼは頼りになるな」

「はい。沢山奥さんが増えましたが、私はあなたのただ一人の正妻ですから。それは譲れません」

「俺はどこか抜けている部分があるから、エリーゼがいてくれて助かるよ」

「私も望んであなたの妻となり、一緒にいるが楽しいのですからお気になさらずに。あなたと一緒にいると、人生退屈しませんし」

「そう言ってもらえると嬉しいな」

「私もです」

 二人で話をしている間に、指輪の魔力をすべて吸い上げ、巨大ゴーレムを倒す魔法に使う魔力を練り始める。
 どうやって倒すかだが、ここは非効率な事はやめて、操縦席を貫く魔法の方がいいであろう。
 生かして捕えるという選択肢もあるが、ここで変に手加減をした結果、負けてしまっては意味がない。

「あの『魔貫通熱線』という魔法、俺もあとで練習してみよう」

 今はいきなり使えないので、無属性の太い槍を作って操縦席をぶち抜くだけだ。
 その前に、あの巨大ゴーレムの操縦席だが……。

「あなた、あそこです」

 エリーゼは、巨大ゴーレムのヘソの部分を指差した。
 極限鋼で覆われていた時には気がつかなかったが、今の状態なら魔力の反応がしっかりとわかる。
 それにしても、シャーシェウド会長。
 自分のいる場所をカモフラージュすらしないとは、魔法使いとしては既に終わった存在のようだ。

「シャーシェウド会長、これで終わりだ!」

『貴様のような奴がいるから! 前の方が王国も圧倒的に幸せだったのだ!』

「老人の昔はよかった発言に興味なんてない!」 

 俺は、無属性の魔法の槍をエリーゼも指摘した巨大ゴーレムのヘソの部分に向けて投げた。
 極限鋼の装甲なら傷もつかないが、ただの鉄なら余裕で貫通してしまう。

『がはっ……バウマイスター辺境伯ぅーーー! 貴様、必ず呪ってやるぞぉーーー!」

 魔法の槍は、見事に操縦席に座っていたシャーシェウド会長を直撃した。
 苦しそうなシャーシェウド会長の声が聞こえる。

「呪わせなどいたしません。そのために私がいるのですから。シャーシェウド会長、あなたのせいで数は少ないですが死者も出ています。あなたこそ、その罪を悔いるべきだと思います」

『銭ゲバの似非宗教家の孫娘がぁーーー!  私は魔道具ギルドにおいて、並ぶ者なき力を持つ会長なのだ! 私達こそが、魔道具でこの世を支えている。その仕組みを破壊しおってぇーーー!』

 まだ絶命していないようで、シャーシェウド会長は自分の言いたい事を喋り続けた。

「うるさい! 犯罪者の戯言など真面目に聞いていられるか」

 俺は追加で無属性の槍を先ほどと同じ場所に投げた。

『バウマイスター辺境伯めぇーーー!」

 それがシャーシェウド会長の最後の言葉となり、操縦者を失った巨大ゴーレムは立ったままで活動を停止させる。

「エリーゼ、終わったな」

「はい」

「あれ?」

「あなた……」

 巨大ゴーレムを倒し一安心したところで、再び俺とエリーゼに緊張が走る。
 搭載されている膨大な魔力を蓄えた魔晶石、その反応はとっくに察知していたが、シャーシェウド会長が死ぬのと同時に魔力がうごめき始めたのだ。
 こういう感じ方をした時、すぐに必ず大規模な魔法が発動する。

 どんな魔法が発動するか、魔力のうごめきのみで判断するのは難しいが、今回は前後の状況で簡単に予想できてしまった。
 シャーシェウド会長が死に際に、俺達を撒き込もうと巨大ゴーレムの自爆装置を作動させた。
 これが一番可能性が高いであろう。

「あのジジイ!」

「あなた、これだけの魔力が一気に爆発魔法に転換されれば……」

 かなりの広範囲に甚大な被害が出るはずだ。
 ここは無人の土地であるが、もしかすると王都にも影響が出るかもしれない。
 その前に、残り少ない魔力で少し距離を置いているルイーゼ達が爆発に巻き込まれかねなかった。

「止めるぞ!」

「はい!」

 大量に消費されたが、これだけの巨大ゴーレムを動かす魔晶石だ。
 残存魔力は非常に多く、俺とエリーゼだけなら『魔法障壁』で防御可能……という保証はできかねなかった。
 ならば、危険を承知でこの巨大魔晶石から魔力を吸い上げるしかない。
 間に合わないかもしれないが、今さら逃げるわけにはいかなかった。

 エリーゼだけでも逃げて……というのも不可能だ。
 彼女は『飛翔」を使えないのだから。

「私の指輪も使いましょう」

「逃げた方がよかったかな?」

「あなたの決断でしたら私は尊重いたします。もし失敗して死んでも、あの世で夫婦一緒にアルフレッドさんから魔法を習えばいいのです」

「そうか」

 エリーゼがそういうのであれば、俺もこれ以上は何も言わない。
 この魔力を大分消耗している俺の体に、巨大魔晶石から吸い出した魔力を蓄えるだけだ。
 もし吸い出し終わる前に爆発すれば、俺もエリーゼもひとたまりもないであろう。

「それにしても、どれだけ魔力を集めているんだよ」

「魔道具ギルドなので、魔法使いは沢山いますから」

「その魔法使いを、もっと別の仕事に使えばいいのに……」

「そうですね、あなた」

 こんな試作品のエネルギー源に使うくらいなら、もっと魔道具を生産しやがれと俺は思ってしまう。
 予想以上に吸い上げられそうな魔力量が多いが、今はそんな事を気にしていられない。
 エリーゼも指輪のみならず、予備の魔晶石にまで魔力を吸い上げていく。

 魔力が少しでも残れば、爆発して至近にいる俺達はひとたまりもないであろう。
 作業の性質上、『魔法障壁』を張るわけにはいかないのだ。

 数秒の時間がえらく長く感じた。
 さっきまでの戦闘のおかげで、また少し魔力量が上がっている。
 俺の予想では、巨大魔晶石に残った魔力はゼロになるはずだ。

「あなた?」

「大丈夫」

 集中して、巨大魔晶石から素早く魔力を吸い上げていく。
 間に合わなければ爆死、あまり早く吸い上げすぎても爆死だ。
 ギリギリのところで、なるべく多くの魔力を吸い上げるコントロールは、師匠からの教えに従い毎日鍛錬していた。
 失敗はしないはず。
 俺だけでなくエリーゼがいるので、失敗するわけにはいかなかった。

「……あなた?」

「ふう……」

 これで、巨大魔晶石からすべての魔力を吸い上げたはず。
 作業は成功だと安心していたら……。

「あなた!」

「えっ?」

 咄嗟にエリーゼが俺に飛びかかり、二人が巨大魔晶石から離れたところで、巨大魔晶石の周辺機器が爆発を起こし、破片を飛び散らせた。
 どうやら、自爆を防ごうと魔晶石の前で作業をしている人を爆死させる罠だったようだ。

「エリーゼ!」

 エリーゼが俺を庇ったので、負傷したのではないかと慌てて彼女を抱き起こした。

「エリーゼ、大丈夫か?」

「はい。咄嗟に『魔法障壁』を張ったので」

 俺は、作業に成功して完全に油断していたようだ。
 もしエリーゼがなければ、大怪我をするか死んでいたかもな。

「本当、エリーゼがいてくれてよかったよ」

「ちょっと嫌な予感がしたのです」

 嫌な予感か……。

「さすがは、神官という事かな?

「それもあるでしょうが、私はあなたの正妻ですから。夫を最後に助けるのは、やはり正妻である私の仕事なので」

 確かにそういわれると、そんな感じがしてきた。

「エリーゼのおかげで、最後にバカみたいな理由で死ななくて助かったよ。これで俺達の仕事は終わりだ。あーーー、疲れた。明日は王都に遊びにでも行こうか?」

 死んだプラッテ伯爵とシャーシェウド会長、完全に活動を停止した巨大ゴーレムの後片付けは王国に任せて問題ないであろう。
 疲れたから、明日はエリーゼとデートにでも行こう。

「美味しい物が食べたいな」

「そうですね」

「エリーゼは、何か希望でも?」

「あなたのお好きな物でいいのですが、ご褒美に二人だけで出かけたいです。特に、エリーさんは駄目ですよ。そういえば、随分と彼女から好かれているようですね」

「その話かぁ……彼女は魔族でも、年齢的に妹みたいなものだからなぁ……」

 まだ、エリーゼ達が心配するような関係じゃないのだから。

「将来はわかりませんよ。あなたにはどういうわけか女性が寄ってきますから」

「そこは否定しないけど……」

「お気をつけてくださいね、あなた」

「できる限り気をつけます」

 どうにも、エリーゼには叶わないな。
 以上を持ってして、王都に被害を出した巨大ゴーレムは完全に停止し、俺の暗殺を目論んだプラッテ伯爵と魔導ギルドのシャーシェウド会長は俺達に返り討ちにされて死んだ。
 きっと暫くは王国政府も大騒ぎであろうが、別に俺は中央で役職に就いているわけではない。

 あとは知らないと思い、エリーゼと手を繋ぎながら、ほっと安堵のため息をつくのであった。
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