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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第百五十一話 東方DQN三人娘。

「バウマイスター伯爵、島の平定は順調ではないか。夏休みの自由研究で、その詳細を発表したいところだ」

「魔族の学校でですか?」

「冗談だ。魔族という種族は、民主主義を過剰に崇拝し、王政を憎んでいる偏った連中も一定数いるからな。戦乱の渦中にある島を平定する伯爵の話などできない。民主革命で開放するのが正しいと騒ぐはずだ。我らは、農業指導、土地の改良で報酬が貰えればいい」

 アキツシマ島に上陸してから二か月半。
 現在バウマイスター伯爵家は、島の北部、西部、中央を完全に制圧した。
 三好家の本拠地大津はバウマイスター伯爵家の本拠地となり、降伏した三好義継以下三好家の面々は生活の場を大津にある屋敷へと移している。

 とはいえ、この島の統治にバウマイスター伯爵家側から大量に人員を割けない。
 三好家の力は必要であり、彼らは領主から代官になって統治に必要な人員を提供した。

 現在、西部で兵を集めて俺達に対抗した三好義興も降伏したので、西部の統治体制の確立に大忙しであった。
 その土地の領主を代官に任じて、バウマイスター伯爵領の法や税制を受け入れさせる代わりに、魔法使いは井戸を掘り、道を拓き、農地を開墾し、新しい作物の種子や苗を提供し、その栽培方法を伝授する。

 農業指導については、魔王様が連れてきた魔族が担当していた。
 その成果に応じて、俺が魔王様に代価を支払う予定だ。

「まだ夏休みも残り半分ほど、あまりに長いと逆に疲れるな」

「羨ましいですけどね」

 夏休みが三ヵ月って……あれだけ学生の期間が長いから当たり前なのか。

「モール達も頑張っているな」

 魔王様の農業法人に入社してまだ短いので、彼らは農業技術を勉強中だそうだ。
 元々いい大学を出ているから、覚えはとてもいいようだが。

 モール達は、その農業法人で知り合った女性達と結婚するのに色々と物入りなので、手当てが出るこの仕事に志願した。
 今日は、雪の手伝いをしているはずだ。
 それにしても、俺達と出会いついて来た時からそうだが、あの三人は異常に決断が早いな。
 色々と考えてしまう俺からすると、とても羨ましく感じてしまう。

 今の俺達の課題は、バウマイスター伯爵家が命じた島全体の代官秋津洲家と、副代官細川家の力をいかに増やすかであった。
 秋津洲家は飾りでも仕方がないが、細川家に実務能力がないと、再び降伏した領主達が反抗しかねない。

 支配体制の強化には長い年月がかかるが、今は俺達魔法使いの実力をその目で見たので大人しく従っている。
 飴として各所で井戸を掘り、開発も進めているので、領民達の支持が厚いのは幸運であった。

 細川家当主である雪の負担は大きいが、臨時でモール達と、バウマイスター伯爵家からも文官を派遣し、今までに降した領主の一族や家臣からも人を出しているので、今のところは特に大きな問題もなかった。

「あっ、そうそう。バウマイスター伯爵に頼まれた魔道具だが、手に入れてきたぞ」

「早いですね」

「在庫が余りに余っていたからな。とても安かったぞ」

 俺が魔王様に頼んだものとは、海水を真水にろ過する魔道具であった。
 この島は、中央にある琵琶湖から離れれば離れるほど水不足に陥りやすい。
 琵琶湖から流れるわずかな支流や水路を広げてはいるが、黒硬岩の地形に阻まれるとそこでお手上げになってしまうからだ。

 そこで、魔族が持つ海水を真水にろ過する装置が役に立つというわけだ。
 魔族が作る魔道具は性能もいいので、海岸沿いの岩山の上に置いてホースで水を引いても十分な水量が確保できる。
 井戸と合わせれば、北部と西部の農業生産量は増大するであろう。

 ろ過した塩分とミネラルも、上手く加工すれば塩になる。
 この島は塩も不足気味なので、水と塩を握るバウマイスター伯爵家の支配力は増すはず。

「結構な魔道具というか、王国でも帝国でもまだ実用化していない装置ですね」

 海水を真水に変える装置など、今の魔道具ギルドでは研究すらしていないかもしれない。
 俺は魔道具ギルドに所属していないので、実はこっそりとやっている可能性もあったけど。
 それでも、実用化していなければ意味がない。

「我々の国は、元々水資源は豊富だからな。昔はそれなりに需要があったのだが、今は人口減と水道屋の仕事がなくなるから、すべて倉庫の肥やしとなっておる。装置の一部は災害用に保管され、あとは中古市場で叩き売られたが、漁業関係者がたまに買うくらいかの。と、ライラが言っていた」

 この装置もそうだが、魔族が作る魔道具は魔力効率もよく、頑丈で、性能もいい。
 そりゃあ、交易交渉が上手く行かないわけだ。

 ローデリヒからの情報によると、とにかく魔道具ギルドの妨害が凄いらしい。
 彼らも失業の危機なので、必死なのはわかるのだが……。

「バウマイスター伯爵は、勝手に魔族の魔道具を購入して大丈夫なのか?」

「この島だけなら」

 バウマイスター伯爵領本領で、魔族が作った魔道具を使用していたら問題になるであろう。
 でもこの島だけなら、バウマイスター伯爵家の人間以外立ち寄らないので問題はない。
 というか、異民族で人口三十万人の島を領有して統治しなければいけないのだ。

 時間もないし、これくらいのズルをしてないとやっていけない。

「結局、バウマイスター伯爵領と確定した島で、入植可能な島は百を超えました。海竜のせいで海上船舶の使用が難しいので、開発には魔道具の力が必要ですね」

 南の僻地なら、魔道具ギルドも口を出せないはずだ。
 暫くは政情不安定という理由からバウマイスター伯爵家の人間以外立ち入り禁止なので、魔族から購入した魔道具を開発に使う予定だ。

 いまだ王国と魔族の国との間に正式な交易協定は結ばれておらず、両国の法に他国から魔道具を輸入してはいけませんと書かれているわけではない。
 王国の法には帝国と勝手に交易をしてはいけないと書かれているが、魔族の国については想定外なので書いていないのだ。
 帝国との交易も、実は一部北部諸侯が帝国と密貿易をし、それを王国政府が黙認していたのは公然の秘密であり、法の運用は結構曖昧だったりする。

 つまり、俺のやっている事は違法ではない。
 脱法とでもいうべきか?
 王宮にいるプラッテ伯爵などから攻撃されそうなので、今はこの島でしか購入、使用していないけど。

「まだ他にも色々と頼むかも」

「手間賃が貰えれば大歓迎だ」

 魔王様達は、魔族の国の市場に流れている中古魔道具をこちらに持ってくるだけで利益が稼げるので、俺からの提案に大喜びであった。
 メンテナンスについては、現在この島の魔道具職人を集めて教育中であった。

 魔王様の農業法人にも魔道具のメンテナンスに詳しい人がいるので、最悪その人に頼めば修理はできるので問題ない。
 魔道具を動かす魔力については、バウマイスター伯爵家側の人間の方が優秀な魔法使いが多い。
 魔道具が便利で多用されるほど、バウマイスター伯爵家の支配力が増す仕組みだ。

「農地を耕す耕運機など、市場では余りに余っていて叩き売られておるぞ」

「魔族の国の農業では、それら魔道具をよく使うのでは?」

 どう考えても、鍬で畑を耕すような農業はしていないと思うな。
 アメリカのように、デカイ耕運機とかで広大な畑を耕していそうだ。

「段々と、企業経営で農地が大型化しておるからな。古い小型の農機具が余って、中古市場が飽和しておるのだ。趣味で農園をやる人間くらいしか客がいない。しかも、壊れにくいからな」

 贅沢な話ではあるが、この島以外では使えないか。
 いや、待てよ……。
 前に魔の森の地下倉庫から大量に得た魔道具の数々、もし魔族の国と交易が始まれば、あの品々でもあっという間に性能が悪い古い品々という扱いになってしまう。
 盗難を怖れてほとんど死蔵していたが、ここは積極的に用いてバウマイスター伯爵領本領の開発を進めるべきか。

『それがよろしいかと思います。特にトンネルの方からは苦情が多いので』

『ああ、馬糞の臭いが凄いんだっけ?』

『はい』

 早速携帯魔導通信機でローデリヒに連絡を取ると、彼は魔道具の積極的な活用に賛成してくれた。
 特に開通したトンネルで、そこを通る馬が出す馬糞の臭いが問題になっていたそうだ。
 警備を担当するトーマスからも『馬糞拾いに任務のかなりの部分が割かれ、何かあった時に対処が遅れる。あと、物凄く臭いです』と苦情が入っていた。

『トンネルの両端に拠点を持つ商人なら、大型車両でトンネルを輸送してあげて手間賃を取ってもいいよな』

『トンネルは長いですかね。トンネルを通る人足に支払う割増賃金を考えますと、運賃を取っても苦情は出ないどころか喜ばれると思います』

 発掘された魔道具にはトラックも多いので、これをトンネル内で往復させればいい。
 個人商人だけなら、通るレーンを指定すればそれほど馬糞も出ないはずだ。

 軽トラのような車両で、馬糞を拾う掃除夫を雇ってもいいな。
 臭いから、少し給金をよくすれば希望者もいるはずだ。

 集めた馬糞は、前から肥料に加工しているから問題ないはず。

『本領では、発掘魔道具の使用を。アキツシマ島では、魔族の国から購入した中古魔道具で開発を促進する』

『畏まりました。早速手配します』

 俺が方針を伝えると、ローデリヒはすぐに対応すると返答した。
 この手際のよさ、やはりローデリヒが領主でも問題ないよな。

「というわけなので、これから中古魔道具の仕入れを頼みます」

「ライラがいうには、違法ではないが騒ぐ輩も多いので、上手く誤魔化しながら購入を図ると言っておったぞ」

「それは理解しています」

 魔族でも国粋主義的な連中が、『売国奴だ!』と魔王様達を批判するかもしれない。
 ライラさんは優秀なので、そういう危険は犯さないのであろう。
 向こうでは需要が少ない中古魔道具でも、こちらでは十分に使い道がある。
 メンテナンスや簡単な修理くらいなら、こちらの魔道具に詳しい人間にでもできるのだから。
 エネルギー源である魔力も、俺達の他に魔の森で採れる魔石で十分に補えるから問題ないであろう。
 ルルがいた島の大半を占める魔物の領域、ここも探索と冒険者の活動が始まれば、採取できる魔石の量が増えるはず。
 不便な場所にあるが、アキツシマ島の人達なら、魔導飛行船の航路を作ってあげれば冒険者として狩猟に励んでくれるかもしれない。

 統一後には軍縮が進むであろうし、農地の拡大で余った人員を吸収しきれなかったり、農民には向かない連中の仕事として、冒険者稼業も悪くないであろう。
 強い不満を溜めて反抗的になったり、犯罪に走るよりかは、冒険者稼業でひと山当てるという方に持って行った方がいい。

 いわば、ガス抜きの一種だ。

「順調で何よりだ。余も力を蓄え、余の代では無理でも、子や孫がみなさまに愛される魔王様になれるよう、ここは金稼ぎをしておこう。おっと、もうこんな時間か」

「何か予定でも?」

「夏休みの宿題をしなければ。特に日記は毎日必ずつけなさいとライラが言うのだ」

 この魔王様、年の割にはしっかりしているのだが、やはり小学生なんだよな。
 夏休みの宿題が気になってしまうのだから。

「陛下、夏休みの日記でしたら、日記を書くのを忘れたとしても、必ず天気はメモしておいた方がいいですよ。それも、向こうの天気をです」

 魔王様は、ここにはいない事になっているからな。
 ここの天気を日記に書いてしまうと整合性が取れなくなってしまう。

「ライラの事だから、毎日の天気はメモを取ってくれていると思う。日記の内容は当たり障りのない記述にしているぞ」

「魔王様のクラスに何人クラスメイトがいるか知りませんが、天気が間違っていなければ、担任の教師もわざわざ日記の記述が本当か、確かめたりしませんよ」

 これらの知識は、主に小学生の頃の記憶から出ている。
 学校では当然夏休みの宿題が出て、一番面倒なのは絵日記であったが、俺は絵が下手なので難儀したものだ。
 日記には天気を書く欄があり、一週間ほどサボると天気を忘れてしまう事もあったが、昔とは違ってインターネットで調べられるのは救いであった。

 父に聞くと、昔は天気を忘れると大変だったらしい。
 真面目に日記をつけている同級生から情報を得たりしていたそうだ。

「自由研究はどうです?」

「毎日農業に関わっておるからな。二十日大根とホウレンソウをプランターに植えて、世話をしながら観察しておる」

 野菜を育てて観察日記をつける魔王様。
 とてもシュールな光景である。

「収穫したら、バウマイスター伯爵にも振る舞ってやろう」

「ホウレンソウはお浸し、ラディッシュは浅漬けとか、炒め物も美味しいですね」

「うーーーむ、バウマイスター伯爵は料理にも詳しいな。楽しみにしているがよい」

 魔王様は夏休みの宿題をしようと、大津城内に用意された自分の部屋へ向かおうとした。
 ところが、急に何かを思い出したように振り向き、俺に頼みごとをしてくる。

「バウマイスター伯爵、時に台形の面積の求め方を知っておるか?」

「はい」

 前世では、一応それなりの大学は出ている。
 記憶が怪しい部分もあるが、小学生の算数くらいならほぼ何とかなる。
 数学ですか?
 残念、俺もモール達と同じく文系の学部だったのだ。

「モール達も忙しくて、この城にほとんどいないからな。教えてくれる者がいないのだ」

「まあ、わかる範囲で教えますよ」

「すまんな。それにしても、バウマイスター伯爵は若いのに博識だな」

 たまたま覚えていただけだが、俺は魔王様の夏休み中、定期的に勉強を教えるようになるのであった。






「ヴェル、いつの間にそんな勉強ができるようになったの?」

「いつの間にっていうか……魔法を勉強するついでさ」

「ふーーーん、そうなんだ。魔法の本って、難しい内容のものも多いからね」

 昼食の時間、魔王様は嬉しそうに俺が勉強を教えてくれたのだと話をし、それを聞いたルイーゼは『なぜ自分達と同じく最終学歴冒険者予備校卒業の俺が、なぜ高等な算数を?』と聞いてきた。
 魔族の国は初等教育で習う図形の面積を求める公式も、王国と帝国ではアカデミーの入学試験合格を目指す予備校で習う高度な勉強であったからだ。

 地形の面積を求めるのに使えるが、下級でも役人になろうとしなければ習う必要はないからだ。
 不動産屋は土地の面積がわからないと損をするので、これは家伝みたいな形で子弟にのみに教育したりすると、前に胡散臭いリネンハイムから聞いた事があった。

 代々の役職がある法衣貴族には習わないといけない高度な勉学もあったりするが、領主でも文章の読み書き、それも漢字が混ざると読めない地方領主など珍しくもないので、魔族の国はそれだけ教育が進んでいる証拠であった。

「ボクも習おうかな?」

「ルイーゼ、これが算数のドリルだぞ」

「どれどれ……」

 ルイーゼは、魔王様から夏休みの宿題である算数のドリルを見せてもらう。

「……ボクはいいや」

 残念ながら、ルイーゼには合わなかったようだ。
 元々勉強するのが似合わないからな。

「あっはっは! 我らに勉学など不要! 要は強ければいいのである!」

「導師、俺らは魔法使いだ。さらに言うと、導師は筆頭魔導師だろう? 多少の教養は必要じゃないか?」

「某の次の筆頭魔導師に期待するのである!」

「げほっ!」

 突然導師から肩を叩かれ、食事をしていた俺はむせてしまう。
 相変わらずのフリーダムぶりだが、俺がこの島の開発に魔族から購入した中古魔道具を使っているのを黙認してくれているからな。
 導師が黙認しているんじゃなくて、陛下が黙認しているのだけど。
 その代わり、ちゃんと一定数の魔道具は陛下に献上している。
 ただ不思議なのは、陛下はその魔道具の存在を魔道具ギルドには一切知らせていないらしい。
 交渉の邪魔をしてくるので、知らせる義理も渡す義理すらない?
 魔族の進んだ魔道具が、さらに型落ちの中古品だと知ったら余計に妨害してくるかもしれないので、陛下も黙っているのであろう。

「俺ですか?」

「左様、バウマイスター伯爵はアルフレッドの知識と魔法を継ぐ知に長けた魔法使い。今は某が武に長けた魔法使いとして陛下に仕えているのである! こういうのは個性であり、どちらが上とかそういうのはないのである!」

「導師、誤魔化しただろう?」

 自分が武闘派なのは個性で、知識とか教養は自分の次の王宮筆頭魔導師である俺に任せる。
 つまり、このまま死ぬまで勉強なんてしないと導師は断言したのだ。
 まあ、導師が真面目に勉強しても何かの役に立つのか相当疑問があるのだが。

「いうほど、俺も勉強していませんが……」

 さすがに、前世で勉強した事は記憶が薄れつつある。
 忘れないようにたまにメモしているが、書く前に忘れてしまった事もあるからな。

「魔族ってのは、幼い頃から難しい勉強をするんだな」

 魔族の庶民の初等教育イコールリンガイア大陸では高等教育と同じなので、エルも魔族の教育水準に驚いていた。

「エルも勉強したら? ローデリヒさんを継ぐ立場を目指して」

「俺は武官でいいよ」

 ルイーゼから回ってきた算数のドリルを見て、エルはすぐにイーナに回した。
 どの世界の人間でも、基本的に勉強好きな奴なんて少ないからな。

「大体わかるけど、これで初等教育って凄いわね」

「イーナ、わかるの?」

「正式に勉強しているわけじゃないけど、たまにそういう本を見るから多少は」

「すげえ!」

 イーナは、分数の掛け算、割り算、平均値の求め方、平行四辺形、三角形、台形の面積の求め方など、小学生の算数レベルくらいは理解していた。
 空いている時間に、その手の本も読んでいたようだ。

 ヴィルマとカチヤが驚いていた。

「でも、このくらいならエリーゼも知っているわよ」

 それは俺も驚かない。
 彼女はホーエンハイム枢機卿の孫娘で教会に出入りしていたし、完璧超人であったからだ。

「教会は、やる気があれば色々と勉強を教えてくれますから」

 とても頭がいいのに、家が貧しくて勉強できない子供がいたとする。
 そういう子は、教会に面倒を見てもらいながらアカデミーや上級官吏の採用試験を目指す者が多かった。
 教会としても頭のいい将来有望な子供に恩を売れ、信徒も増やせるわけだ。
 教会のお世話になった人達は、老後に時間が空くと無料で子供達に勉強を教える。
 エリーゼも、空いている時間にそういう老人から勉強を教わっていたそうだ。

「なるほど。教会は、社会のセーフティーネットでもあるのか」

「セーフティーネットって何?」

「貧しい困った人達を救う最後の『安全網』、救済システムの一つだ」

「へえ、難しい言葉を知っているんだね」

「まあ、これでも魔王だからな」

 ルイーゼは、魔王様の知識に感心していた。
 確かに為政者を目指しているだけあってそれなりに知識はあるのだが、唯一の懸念は少し算数が苦手な部分かもしれない。

「うーーーむ、こういう勉学は、学者や専門家が習う内容じゃな。妾も基本的な事しか知らぬ」

「私のような下級貴族出身者は、勿論学んでおりませんわ。知らなくても困った事はありませんもの」

 テレーゼも帝王学を受けていたから、それなりに算数の知識もあった。
 カタリーナはそれどころではなかったはず。
 それに、分数の割り算や台形の面積の求め方を知らなくても、現状で困る事もないのだから。

「ヴェンデリン様、わかりません」

「うっ! 伊達家当主の俺がわからぬとは……」

 わずか五歳のルルと藤子が、算数を学んでいるはずがない。
 それよりも、まずは漢字の読み書きが先であろう。

「雪はわかるのか?」

「ええ、この島にも和算という学問がありますので。利息計算、運上金の計算、収穫量から税率の計算、不作の時の減免率の計算、開墾した土地の貢献度に比した分配、検地と。和算を使わないでは統治も侭なりませんので」

「雪はとても頭がいいのですよ」

 彼女と幼馴染である涼子は、雪が文武に長けた才女と呼ばれていたのだとみんなに教える。
 俺にもわかった。
 この中で一番頭がいいのは、間違いなく雪であろうと。
 当主名細川藤孝だものな。
 ゲームだと、ステータスが優秀な人なのだし。

「私達には魔法があります! お店のお手伝いをしているので簡単な計算くらいは……」

「私も商売人の家の子なので、会計の基本くらいはできますよ」

「私もです。お兄ちゃん、そういうの苦手だったから」

 アグネス、シンディ、ベッティ。
 別に、無理に雪や魔王様に張り合わないでも……。
 三人は商売人の家の子なので、会計の基本はできるというわけか。

「せっかくみんなが集まったので、これからどうするかなんだけど」

「えっ? あとは東部と南部の併合で終わりでしょう。魔族の事もあるから、早くしないと駄目なんじゃないの?」

 ルイーゼは、この島の統一を急ぐべきだと意見を述べる。

「それしかないわね。ユキさん、東部と南部ってどんな感じなのかしら?」

「ともに、複数の有力諸侯が勢力拡大を狙っている状態です」

 雪は、東部と南部の諜報活動にも力を抜いていなかった。
 まずは東部。
 ここは、農業と商業のバランスがいい地域だそうだ。

「今川家、北条家、武田家、上杉家、織田家などが有力諸侯ですが、飛び抜けた勢力はいません。この五家にしても、動員兵力は五百が精々ですから」

 聞いた事がある領主が多いな。
 織田家か……。
 やっぱり、信長さんがいるのかな?

「南部は、毛利家、長宗我部家、竜造寺家、大友家、島津家などが有力諸侯です。東部と状態は同じです」

 ドングリの背比べで、三好家のような大領主はいないわけだ。
 それで、小競り合いを続けていると。

「まずは、東部から併合していこうか」

「それがいいと思います」

 雪も賛同したので、バウマイスター伯爵家諸侯軍は五千の戦力で東部へと進撃しようとした。
 ところがその直前、雪が東部の様子を探らせていた忍びから思わぬ報告が入ってくる。

「大変です! 今川家の当主が討ち死にしました!」

「今川って、義元?」

「そうですが……お館様は、よくご存じでしたね」

「井戸を掘っている時に、噂話で聞いたんだよ」

「そうでしたか」

 まさか前世で同じ名前の大名がいたとは言えず、俺は噂で聞いたと嘘をついて誤魔化した。
 今は、今川家の当主の名前よりも気になる事がある。
 討ち死にしたって聞いたような……。

「討ち死にって言ったよな?」

 今まで何度か戦はしたが、敵味方双方に犠牲者は一人も出ていない。
 偶然かと思ったら、この島の戦はそんなもの。
 いや、討ち死にを出すのを極端に嫌がる傾向のようだ。

「由々しき事態です。織田のウツケが、まさか戦の決まりすら守らぬ女とは……」

「噂には聞いていたが……」

「しかも、当主を討つか? 普通」

 雪、三好義継、十河義興……彼には西部を任せるため、分家である十河の姓と家督を継いでもらった……は、戦で当主を討ってしまう織田家に批判的であった。

「でも、戦だろう?」

「お館様も今まで何度か参加して理解しているとは思いますが、戦で人殺しは所作見苦しいというのが常識です」

 この島の戦、ヘルムート王国の紛争とそう違いはないのか?
 でも、上に立って調停をする者がいない。
 戦自体も、魔法使いである大将同士の魔法比べや、武将同士による腕比べが主流のようだ。

「兼仲は、涼子と雪に降伏を迫っていなかったか?」

「あの時はとにかく水がなかったので、秋津洲家を力で抑え込んでも御所付近の水の優先使用権が欲しかったんです。討ち取ったり、滅ぼすつもりはなかったですよ」

 紛争と違うのは、時に利権や領地を奪われるケースがある事か。
 最後まで抵抗せず、利権や領地を渡してしまう。
 領主階級が魔法使いのため、兵や領民が自分の領主が魔法比べや腕比べに負けてしまうと抵抗しないで降ってしまう。

 こんな狭い島なので、本気で殺し合いの戦を始めると犠牲が大きくなりすぎてしまうと考えたのであろうか?

 でも、徹底して殺し合う気性でなかったから、俺の平定作業も順調なわけだ。
 ある意味、強大な魔力でゴリ押ししているとも言えたが。

「戦に負けても滅ぼされる領主なんてほとんどいません。降って所属を変えるか、領主とその一族が追い出されるのが普通です」

 もしくは、西の大領主が兵を出せばすぐに降り、東の大領主が兵を出せば今度はそちらに降る。
 犠牲は出ないが、島の統一も難しいというわけだ。

「織田家はルールを破ったのか」

「どういう方法か知りませんが、当主を討ち取るなど不作法もいいところです!」

「そうだな」

「織田のウツケに相応しい行動ではあるか……」

 雪、義興、義継は、織田家のやり方に反感を覚えたようだ。
 俺が思うに、こんな茶番をしているから島が一向に統一されないのだと、織田家の人がブチ切れてしまったのではないかと思ってしまうのだが。

「織田家の当主って、どんな人なんだ」

「当主は織田信秀、とても商売熱心な方だと聞いております。義元を討ったのは、その長子である織田信長」

「信長?」

 ここに来て、織田信長の名前が出てしまった。
 今川義元が討たれてしまったのだから、これはつまり桶狭間なのか?

「織田家の当主の通り名は信秀だよな? 現当主がそうなのだし」

「それが、織田のウツケは『代々同じ名前を継ぐなんて古臭い! 私は、新たに信長の名を継ぐのだ!』と言ったそうです。本当の名は吉子というそうです」

 この世界の信長は女なのか。
 そして、本名は吉子キチコ……。
 その今までの常識を打ち破る行動を見るに、似合っている名前ではあるのか。

「あんまり関わり合いになりたくない」

「そうだね。フジコの『眼帯の下の黒炎竜が!』なんてまだ可愛げがあるものね」

「ルイーゼ、この眼帯に下には本当に竜がいるのだぞ」

「はいはい、そうだね」

「こらぁ! バカにすると黒炎竜がルイーゼを焼き尽くすぞ!」

 ヴィルマ、残念だが東部を平定するのに織田信長との対決は避けて通れないんだ。
 ルイーゼ、藤子のはあくまでも魔法の威力を上げるメンタル強化方法だからな。
 彼女を挑発しないでくれ。
 あの炎の竜を出されると暑いのだから。

「どうせ戦わねばならないんだ。東部を速やかに平定するぞ」

 俺の命令で五千の軍勢は、一気に東部へと雪崩れ込んだ。

「降伏します」

 中央に近い東部領域に領地を持つ領主達は、バウマイスター伯爵家の情報を知っていたのですぐに降った。

「もう手に負えません。北条家も降ります」

 東部で大きな領地を持つ北条家の当主氏康は、一戦もせずにこちらに降った。
 彼の目の下には酷い隈が目立つが、原因は俺達ではない。
 この地で三つ巴の争いを繰り返す織田家、武田家、上杉家の存在のせいであった。

「織田のウツケ、武田の卑怯、上杉の戦闘狂。今は三者で睨み合っていますが、いつこちらに牙を剥くかわかりません。降伏の条件も厳しいものではありませんし、あの三家を押さえてくれるのなら……」

 氏康は三家の対処で身も心も疲れたらしく、何の抵抗もしないで降った。
 かなりの苦労性に見えてしまう。

「北条家は、今川家と武田家と同盟を結んでいたと聞きますが」

 ここで、俺の傍に控えていた松永久秀の娘唯が氏康に質問をした。

「いかにも。ここ最近、織田の小娘が今川に妙なちょっかいをかける事が多く、義元殿は忠告のために兵を出したのです」

 それが、いきなり奇襲を食らって今川軍は崩壊し、領地も大半が織田家によって併合されてしまったそうだ。
 更に、同盟を結んでいたはずの武田家までもが、どさくさに紛れて今川家の領地をかすめ取ってしまった。

「戦で当主を討つなど、卑怯にもほどがあります!」

「細川殿、義元殿は生きていますぞ」

「あれ? 死んだと聞きましたが……」

「戦場が混乱しておりましたからな。義元殿は負傷が激しく、軍勢も崩壊したので家臣がこちらに避難させてきました」

 おかげで死なずに済んだが、領地は織田家と武田家によって分割されてしまった。
 義元の家族も、処刑はされていないが、軟禁状態にあるという。

「織田のウツケ殿は、武田家を激しく非難しました。今川家の領地は戦に勝利した自分達のものなのに卑怯だと」

「間違ってはいないけど、『お前が言うな!』って感じね」

「ウツケのやり方に、信秀殿も抗議したのですが、逆に当主の座を奪われて領地を追放されました。彼女の弟である信勝殿も一緒に追放されております。武田家も同じです。現当主である信虎殿が追放され、長子の晴美が信玄を通り名として武田家を乗っ取ったのです」

 武田家の当主も女なのか……。
 どちらも気が強そうな女ばかりだな。

「最後の上杉家は?」

「あの家は、元々小領主でもある家臣の力が強い家なのです。それを前当主為景の急死後、その娘である竜子が反抗的な小領主を追放し、上杉家の力を増しました。彼女は、当主の通り名を謙信と改め、周辺の小領主を降すか追放して力を増しています」

「厄介なのが三人もいるじゃないか」

 この三名、当然魔法使いで中級レベルの実力者である。
 煮え切らないルールのため、一向に統一が進まないこの島の現状に憂慮し、力技を用いても統一すると決起し、三人は所領が近いので、勢力拡大の途中で激突するようになったのだと、氏康が説明してくれる。

「今川義元主従、信長に追放された義元殿の家臣、織田信秀、信勝親子、武田信虎殿、旧上杉家臣の本庄家、竹中家、新発田家など。他にもこの三家に領地を奪われた村上家、諏訪家、松平家、蘆名家、神保家……他にも多数です。みんな、なぜか北条家を頼ってきましてね……」

「一番の大身で、再び戦に負けて追放される危険性も少ないからな」

 エルの推察どおりだと思うが、三人が暴れたせいで中立的な小領主が減り、逃げ込む候補が減ったのも理由であろう。

「これだけの方々を養い続ける財力が……」

 北条家は東部のある有力五家で一番統治者として評判がいいのに、こんなに亡命者を抱え込んでしまうと増税でもしないとやっていけないはず。
 氏康は、信長、信玄、謙信の戦バカ達に恨みつらみがあるのであろう。

 彼らの身勝手な行動に頭を抱えていた。

「それで、彼女らは?」

「何でも、最終決着をつけるそうです。三人から、お前も加われと文が来ました。戦費なんてありませんけどね!」

 一番まともそうなのに、近所に三人ほどDQNがいるばかりに苦労するとは、この氏康というおっさんは不幸の星の下に生まれてきたのかもしれない。

「あなた、急ぎましょう」

「そうだな。義元殿は大丈夫なのか?」

「はい、応急処置がよかったので重傷の割には簡単に治りました」

 エリーゼは負傷して寝込んでいる今川義元の治療を行い、無事に回復したようだ。
 このおっさんも死亡説が流れたり、家族が信長に監禁されて不幸以外の何者でもないと思う。

「では、行くか……」

 あまり関わり合いになりたくない雰囲気を醸し出す三人であるが、こいつらを好き勝手させておくと、本物の血で血を洗う戦乱に突入しかねない。
 バウマイスター伯爵家諸侯軍は、三人の軍勢が睨み合う場所に到着した。

「おーーーい! 空気が読めないおバカ娘三人!」

「何だとぉーーー! お前が噂の侵略者バウマイスター伯爵か! 私は織田信長だ!」

 エルの単純な挑発に一番最初に乗ったこの世界の織田信長は、ヤンキー系美少女であった。
 染めたと思われる茶髪に、フルプレートに似た鎧、この島は一万年以上も鎖国をしていた癖に、リンガイア大陸風の軍装をつけている。
 どこから入手したのかは知らないが、舶来物好きなところだけは織田信長によく似ていると思った。

「俺は、バウマイスター伯爵の家臣! エルヴィン・フォン・アルニムだ!」

「お前には用がない! バウマイスター伯爵はいるか?」

「ぷっ、信長は雑魚だから相手にされないんじゃないの?」

「言ったな! このおチビが!」

「体の大きさなんて関係ないわよ。戦はここで勝つのよ。ここで」

 真っ赤な鎧をつけ軍配を持った小さな少女は、自分の頭を指差す。
 彼女が第二のDQN武田信玄のようだ。

「軍勢の数だけは立派ですね」

「ビビったのか? おチビ」

「何ですって! この脳筋娘!」

 信長と信玄は、俺達の存在を忘れたかのように醜い口喧嘩を始めた。
 レベルがほぼ同じ、とても低く安定している二人だ。

「敵がいくらいようと、すべて叩き潰すのみ!」

 三人目の少女は、僧兵風の格好に薙刀を持った黒髪の美少女であった。
 だが、三人目のDQNなので俺は勿論トキメキもしない。
 彼女が上杉謙信のようだ。

「これだから戦闘狂は……」

「常に卑怯な策ばかり考えているおチビには言われたくない!」

「あんた達、人をいつもおチビ扱いして!」

「レベルの低い言い争いだな」

「ああ……」

 俺とエルは、三人のくだらない言い争いを聞いてテンションを下げた。
 というか、そろそろこちらの相手もしてほしいところだ。

「外からの侵略者が何だ? 私は、おチビと戦闘狂を倒してお前に戦を挑む! この島を統一し、バウマイスター伯爵領とやらを併合し、ヘルムート王国、アーカート神聖帝国、魔族の国をも平らげて世界の王となるのだ!」

 この世界の信長も、気宇壮大であった。
 ただし、現実は見えていないようだが……。

「言い分は聞いてあげたから、本題に入るぞ。お前さんが頑張らなくてもバウマイスター伯爵家がこの島を統治するから、安心して降るように」

「バカにしているのか? ちょっとくらい魔法が使えるからって! 勝家!」

「おう!」

 信長に降るように言うと、彼女はキレてしまったようだ。
 後ろに控えていた身長二メートルはありそうな大男が、馬に乗ってこちらに突撃してくる。

「はははっ! 織田家一の猛将である勝家に勝てるかな?」

「戦いたい人は?」

「はーーーい」

 勝家って言ったから、柴田勝家風な人なのであろう。
 猛将という共通項はあるか。
 魔力も持っており、それでも初級くらいだ。
 小領主の小競り合いで、魔力をパワーに乗せて戦えばほぼ無敵だと思う。

 俺が戦うまでもないので希望者を募ると、ヴィルマが手を挙げた。
 許可を出すと、華麗に馬に飛び乗り、大斧を持って勝家へと突進していく。

「俺に勝てるか! チビ!」

「噛ませは、物語でもこういうセリフをよく言う」

「抜かせぇーーー!」

「あと、馬が可哀想」

 残念ながら、この世界の柴田勝家はヴィルマの挑発に簡単に乗ってしまう猪武者であった。
 この島の馬についてだが、外の馬に比べると一回り小さく、勝家ほどの巨体が乗ると馬が大変そうに見えた。
 ヴィルマはバウマイスター伯爵領から持ってきた馬に乗っているので、そんな事はない。

「馬上にてその大斧を振るうか!」

「別にどこでも使える」

「自信満々なのは今の内だけだぞ! 我が槍の前に破れるがいい!」

 二人は武器を構えながら馬を走らせ、一瞬だけ交差した。
 俺にはただすれ違っただけにしか見えなかったが、エルは違う意見のようだ。

「ヴィルマの勝ちだな」

「そうなのか?」

「一撃で決まったよ」

 エルの言う事に間違いはなかった。
 その直後、意識を失った勝家が馬から落ち、勝利したヴィルマが大斧を掲げたからだ。

「まあまあ強かった」

「勝家が……」

「駄目じゃないの。武田家が四天王を出してあげるわよ。信春、昌豊、昌景、昌信」

「「「「ははっ!」」」」

「弥太郎!」

「お任せを!」

 信長と信玄と謙信、共闘しているわけではないが、先に共同して俺達を倒した方がいいと判断したのであろう。
 この三人、実は気が合うのかもしれない。
 信玄は負けた勝家を出した信長に文句を言いつつ、多分四天王扱いの馬場信春、内藤昌豊、山県昌景、高坂昌信を、謙信は鬼小島の異名を持つ小島弥太郎を出してきた。

 なぜ彼らの名前がわかるのかと言えば、俺の傍にいる唯がそっと教えてくれるからだ。

「唯殿」

「以前から私の父は、長慶公の命で各地域の有力領主とその配下について調べておりました。その情報を、長慶公の後継者であるお館様にお伝えていただけです。雪殿は心安んじて軍政を担当していただきたく」

「くっ!」

 雪は、情報収集能力で松永親娘に先を越されたと、とても悔しそうな顔をしていた。
 唯姫は俺よりも年上だが、出しゃばらず頭もよく気が利く綺麗なお姉さんである。
 松永久秀自慢の一人娘であり、将来は婿を取って松永家を継いでもらうそうだ。

 俺は条件に合わないから、気楽につき合えていいな。

「ヴェル、行って来るわね」

「ボクも行く」

「あたいも」

「某も!」

「いや、導師は止めとけ!」

 ゾロゾロとムサイ兄さんや小父さん武将が出てきて一騎打ちを所望し始めたが、イーナ、ルイーゼ、カチヤが勝負を受けて戦い始めた。
 導師も暇なのか戦おうとするが、彼らはみんな初級魔法使いでしかない。
 どう考えても敵の方が可哀想なので、ブランタークさんが止めた。

 代わりに、導師が鍛え直していた兼仲が導師から与えられた六角棒を持って一騎打ちに臨んだ。

「信玄様以外の女子が、俺達に勝てるものか」

「女子は後ろでお菓子でも食べているがいい」

「勝負に負けて泣かないようにな」

「外の世界では、女子に戦わせなければいけないほど男が弱いらしいぞ」

 自称武田四天王の面々は、女性が一騎打ちに出てきたのでバカにし始めた。

「いやね、ああいう言い方をする人って」

「イーナちゃん、ああいう発言をする人って大抵それほど強くないから」

「あんまり強そうには見えないけど、旦那のためだ」

「うーーーむ、なぜかあまり強そうに見えない。師匠のおかげか?」

 イーナ、ルイーゼ、カチヤ、兼仲は武田四天王と一騎打ちに臨んだが、俺がどいつがどいつか見分けがつかないまま全員倒されてしまう。
 死んではいないが、暫く意識を戻さないであろう。

「なっ! 私の四天王が!」

「四人いるという事は、私の鬼小島の四分の一の強さなのでしょう。私の鬼小島は……
「あまり強くないのである! ガッカリである!」」

 ブランタークさんの静止を振り切った導師は、謙信自慢の猛将小島弥太郎を一撃で殴り倒し、その意識を刈り取ってしまう。
 殺してはいないが、脳震盪で完全に戦闘不能だ。
 残念ながら彼は、自慢の大太刀を抜く暇すら与えてもらえなかったようだ。

「駄目じゃねえか」

 ブランタークさんが、三人のDQN自慢の配下に駄目出しをした。

「実は織田軍で一番強いのは私だ! バウマイスター伯爵、勝負しろ!」

「奇遇だな、信長。私もバウマイスター伯爵と勝負しようと思っていたんだ」

「鬼小島がやられた以上は、私が出なければいけまい」

 自慢の猛将をうち破られたDQN三人組は、一斉に俺に勝負を挑んだ。

「三対一か?」

「何を言う。私は一騎打ちを望んだのだが、信玄と謙信が割り込んだのだ。私に譲るという選択肢はないので、あの二人がバウマイスター伯爵に同時に挑もうと私は関係ない」

 信長はとてもいい性格をしていた。
 彼女は、自分一人では俺に勝てないと瞬時に理解したのだ。
 だから三人で俺を倒そうとするが、あくまでも自分は一騎打ちを望んだ。
 信玄と謙信は、勝手に加わっただけで関係ないと言い放った。

 今までにない、清々しいまでの卑怯っぷり。
 勝つために手段は選ばない女なのであろう。

「信長が退かないが、時間はないので仕方がりません。私はあくまでも、一対一で戦いに挑んでいます」

 信玄も信長と同じく、ここは三人で俺を倒してしまい、あとでまた三人による戦いを再開しようと目論んでいるようだ。

「まあ、仕方がないな」

 戦闘狂と噂される謙信は、戦えれば卑怯も何も関係ない。
 それ以上に、勝てれば嬉しいタイプのようだ。
 結局同時に戦いを挑み、俺対信長、信玄、謙信の戦いになってしまう。

「いい性格をしていますわね」

「貴族や王としては間違っていないのじゃがな……」

 いい性格をしている三人に、カタリーナとテレーゼも呆れていた。
 元々大貴族であったテレーゼは三人の作戦を理解はできるのだが、今となっては卑怯としか言いようがないと思っているようだ。

「あなた、頑張ってくださいね」

「すぐに済ませるよ」

 俺はエリーゼにすぐ戻ると言ってから、三人の前に立つ。

「聞いたか? 信玄」

「聞いていないが、聞いている。この状況で随分と余裕だな」

「まあよかろう。我々ではなく、私が勝つのだ」

 この三人、先ほどまでそれぞれ軍勢を率いて睨み合っていたのに、俺という大敵の前ではとても仲がよかった。

「お前ら、実は仲いいだろう?」

 いい性格をしているという部分と、いきなりこれまでのルールを破ってしまうというKYな部分では似た者同士、とても気が合っているように俺には見えるのだ。

「誰が仲がいいものか!」

「あくまでも、たまたま攻撃の機会が一緒になっただけだ!」

「バウマイスター伯爵、降伏すれば命だけ助けてやるぞ」

「その言葉をそっくり返すよ」

 謙信の降伏勧告を、俺はそのまま三人に返した。

「いかに魔力に自信があるとはいえ、三人ならば!」

「まずはバウマイスター伯爵を降してから、東部、アキツシマ島全土と平定を進めるべきか」

「どのみち、信長と信玄とはケリをつけないといけない。先に倒されるがいい」

 信長は『火炎』魔法を、信玄は『カマイタチ』の魔法を、謙信は『氷弾』で俺に攻撃を仕掛けたが、すべて『魔法障壁』で防いでしまう。
 この三人、そこそこ有望な中級魔法使いという感じだ。

「三種類の属性魔法攻撃だ! 思い知ったか?」

 信長が魔法を連発しながら高笑いを続けているが、特に工夫もない攻撃魔法なので欠伸が出そうなほど暇だった。
 師匠のように、魔力が多い敵に対し色々と応用を利かせるというレベルに達する者は少ないようだ。

「もっと派手なのはないのか?」

 三人の大した事もない魔法が続くので俺は退屈してしまい、つい余計な事を口にしてしまう。
 それを挑発だと受け取った三人は激高した。

「言わせておけば!」

「ならば食らうがいい!」

「地獄で後悔するなよ!」

 三人は俺の挑発に簡単に乗ってしまい、信長は『火柱』魔法を、信玄は『竜巻』魔法を、謙信は巨大な『氷弾』を作って更に激しく攻撃を続ける。
 だが、こちらにはまったくダメージがなかった。
 魔力も向こうばかりが大量に消費し、俺は必要最低限の『魔法障壁』だけで三人の魔法攻撃を防いでいる。

「(もうそろそろかな?)」

 中級魔法使いが上級魔法使いが展開した『魔法障壁』をうち破らんとする時には、一撃で全魔力を用いるくらいしないと駄目だ。 
 それなのに、中途半端な威力の攻撃魔法をダラダラ連発している時点で、この三人の負けは確定した。
 もうこれ以上は時間の無駄というやつだ。

「はあ……はあ……」

「なぜバウマイスター伯爵の『魔法障壁』が破れない」

「こんなはずは……」

 三人は次第に口数も少なくなり、遂に大半の魔力を使い果たして動けなくなってしまう。
 だが、彼女達はここで逃げるわけにはいかない。
 三人は、魔法の強さで家臣や兵を率いてきたのだ。
 ここで逃げたら、その軍勢は崩壊してしまうであろう。
 そうでなくても、名だたる猛将達が俺の妻達に倒されているのだから。

「何か攻撃魔法を披露しないとな」

 犠牲を少なく勝利するためには、圧倒的な力を見せて相手の心を折らなければならない。
 そこで俺は、膨大な魔力を使って三人の前に巨大な『火柱』を派手に撃ちあげた。

「導師が『何とかライジング』とか言ってたな」

「バウマイスター伯爵、何とかでは格好がつかないのである! 『バースト・ライジング』である!」

「そう、それでした!」

 とにかく相手をビビらせる事だけが目的の魔法なので、『火柱』は高さ五十メートルを超えるものとなった。

「これは、思ったよりも熱いな……」

「それだけ派手な火柱をあげれば当然ですわ」

 ここは亜熱帯の島なのでとても暑くなってしまったが、脅しの効果は十分にあったようだ。

「ひぃ……」

「魔法の威力が違いすぎる……」

「勝てない……」

 巨大な『火柱』を見たDQN三人組はその場で腰を抜かし、兵達も何も言わないのに次々と武器を捨てていく。
 これにより、織田軍、武田軍、上杉軍は降伏し、三人のせいで混乱していた東部もバウマイスター伯爵家によって併合されたのであった。
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