挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

190/205

第百四十九話 こっちの世界でも、安定の独眼竜。

「という統治方法に徐々に持っていくが、不満はあるかな?」

「いいえ、滅相もない!」

 降った南部晴政達に俺がこの島の統治方法を伝えたが、彼らは反対しなかった。
 俺達がいなくなってから反抗する可能性も否定できなかったが、俺は『瞬間移動』ですぐここに来れる事。
 バウマイスター伯爵家に逆らわなければ、魔導飛行船を用いた交易も始まると伝えたらとても喜んでいた。

「この島に入植したご先祖様は、魔導飛行船を所持していませんでした。製造、維持ができる技術者もおりませんでしたので……」

 同じ名族でも、この島に入植した秋津洲家は神官の出であった。
 もう一方の瑞穂家は、一族や分家に職人や技術者が多かったそうだ。
 ミズホ公爵領ですら今の領地に腰を据えるまでに失った技術が多かったのだから、アキツシマ島は余計にそうなのであろう。
 外部との交流もなかったわけだから、おかげで魔導技術も大分衰退してしまったようだ。

「同じ民族であるミズホに支援を要請するか?」

「それは反発が大きいと思います」

 すっかり従順になった南部晴政が、自分はともかく他の領主層の反発が強いはずだと断言する。

「一万年も前とはいえ、瑞穂家と秋津洲家は仲が悪かったそうです。昔は、互いに当主を暗殺しようと暗殺団を定期的に送り込んでいたとか……」

「昔の事なのに、随分と詳しいんだな」

「南部家は、元々秋津洲家に仕えていた警備隊幹部の子孫なので、大昔の書物などが残っているのです」

 一万年も続く名族か……。
 ヘルムート王国でもビックリなお話だな。

「ハルカ、そうなのか?」

「私も、父や兄から聞いた事があります。なぜ同じ民族で行動を別にしたのかといえば、仲が悪くて一緒にいると内輪揉めをどころか、殺し合いになる危険があったからだと」

「でも、一万年経っているけど」

「ミズホ側としても、無償での支援は難しいと思います。新しい領地の開発や入植で忙しいでしょうし……」

 内乱鎮圧の功績で加増されたミズホ家は、加増された新しい領地の把握と統治で忙しかった。
 こんな遠く離れた島の支援は難しいというわけだ。
 一万年以上も離れていたのに、突然同族だから支援してというもの難しいか。
 アキツシマ島側にもプライドがあり、支援してもらったがために下に見られるのも嫌だろうし。

「こちらとしても、瑞穂側に支配される危険性を考えますと……瑞穂家に支配されるくらいなら、バウマイスター伯爵家に従った方がマシという領主も多いでしょう」

 戦に負けた俺達に従うのは仕方がないが、負けてもいないミズホから下に見られるのは嫌という事だ。
 それにしても面倒な……。
 一万年以上にも及ぶ確執か……。
 でもそのおかげで、彼らはバウマイスター伯爵家に素直に降伏したとも言えるのだから。

「まあいい。領地は没収だが問題ないな?」

「はい」

 これも揉めるかと思ったが、意外と素直に受け入れられた。
 領主を廃止するのは、彼らはバウマイスター伯爵家の家臣になるわけだから、寄子になって独立でもしなければ領地を与えられないからだ。
 とはいえ、今統治している領主の代官には任じる予定だ。
 彼らは代官として統治を行い、バウマイスター伯爵家の代わりに行政、徴税、治安維持などを行う。
 ミスがなければ、跡継ぎを代々代官に任じる。

 そんな彼らを纏めるのが細川家と秋津洲家というわけだ。
 領地を没収とはいえ、今の時点ではあまり変化もないとはいえる。
 南部家はその家柄と元々持っていた領地に比した屋敷と土地の所有を許され、代官職の他にも商売をおこなったり、大規模農地の経営もできるからだ。

 ただ、領民達に対し、バウマイスター伯爵家で決められた以上の税や労役を課す事はできなくなった。
 彼らの土地や家屋の所有も正式に確定され、そこから上がる収入から決められた比率の税をバウマイスター伯爵家に収める。
 元領主達は代官として税の徴収をおこないバウマイスター伯爵家に納め、代官としての給金はバウマイスター伯爵家が金で支払うわけだ。

 最初は上手く行かないかもしれないが、代官としてミスが多ければ解任もあり得るとは言ってある。
 反抗すれば、すぐに鎮圧可能なので問題ないであろう。

 それに、彼らを統括する予定の雪は優秀だからな。
 彼女が同じ方式で何の苦もなく旧秋津洲領と七条領を統治していると聞き、ローデリヒが『部下に欲しいです』と言っていたくらいなのだから。

「こちらの統治を受け入れれば利益も供与する」

 まずは、一万年も待ちに待った外部との交易だ。
 彼らは水上船しか持たず、しかも少しこの島を出て海を北上すると海竜の巣があった。 
 今までに外部との交易を目論んで海に沈んだ者はほぼ全員だそうで、普段は島の周囲で漁をするくらいだったそうだ。
 その漁ですら、この島はほぼ断崖絶壁に囲まれており、砂浜や港になる場所はほぼ限られていたので規模は大分小さいくらいなのだから。

「今、みんなで井戸を掘っている」

「ありがたいです」

 この島には、河川や湖沼が異常に少ない。
 中央部にある琵琶湖とそこから伸びた短い支流くらいだ。
 大半の領主は、大昔に掘られた井戸や、雨水を溜めるため池に頼っている。
 井戸は深く掘らねばならず、水脈の上に『黒硬石』という特殊な岩盤の層があり、これを破壊するのは上級以上の魔力を持つ者でないと難しい。
 中級以下では削れもせず、ここ数百年優秀な魔法使いが出ていない彼らは新しい井戸を掘れなかった。
 昔に掘った井戸が次第に枯れる事案も発生し、彼らは水の確保に懸命であったのだ。

「一度枯れた井戸も、もう一層岩盤を砕けば復活するみたいだな」

「おかげで、みんな助かっています」

 名族南部家の当主晴政をもして、水の確保は容易ではなかった。
 琵琶湖を持つ三好家の力が、いかに強大であるかの証拠もあったのだ。 

「ただ、琵琶湖の水を持ってしても中央の民が豊かに暮らすのが限界なのです」

 だから三好家は、地方に手を出さなかった。
 晴政も年に一度贈り物を持って挨拶に行き、すると三好家から返答の贈り物が貰える。
 その贈り物は、琵琶湖で獲れる魚を干したり、塩漬けにしたもので、これを転売すると大きな利益が出るそうだ。

 アキツシマ島の住民は日本人に似ているので、彼らも魚が好きなのは同じようだ。

「あとは、行商に来てくれる頻度が上がります。三好家は、挨拶に来る領主には気前がいいですね」

「それで地方が大きく荒れないのなら、安い買い物なんだろうな」

 下手に地方に介入すると経費ばかりかかって赤字なので、地方領主を贈り物と交易の利益で従わせるのが三好家の方法なのであろう。
 彼らが、新しいこの島の支配者であるバウマイスター伯爵家に対しどう出るかはわからないな。

 その前に、色々とやらねばいけない事が多い。

 上級の魔力を持つ魔法使いは、降った南部家以下の領主達の領地を回っている。
 新しい井戸を掘ったり、過去の枯れた井戸の再生を行っているのだ。
 ただ、彼らの実力を持ってしても一日に一度全力で岩盤を砕いて五日から一週間かかる。
 それでも、今まで黒硬石を砕ける魔法使いがいなかったので、我々は大いに歓迎された。
 命の水を提供してくれる新しい支配者を素直に受け入れている。

 使える水の量が増えるという事は、彼らの好きな米を作れる量が増える事にもなる。
 歓迎されないわけがないのだ。
 エリーゼと涼子は無料で領民達の治療を行い、これも好評だ。
 強大な魔法で脅すという方法で従わせたので、飴の政策も必要というわけだ。

「貨幣についても感謝しております」

 ミズホには独自の通貨があったが、この島にもないわけでもなかった。
 だが、その質はお世辞でもいいとは言えない。

 この島は金と銀が少ししか採れず、銅は島内数箇所に銅山があるので銅銭が主流であった。
 形は時代劇に出てくる奴によく似ている。
 ところがその銅貨が、まったく統一されていないのだ。

 秋津洲家が島全体を押さえていた時に発行された古い銅銭『秋津通宝』。
 ただしこれは、最後に作られたのが五百年ほど前だ。
 鋳造技術がいいので価値は高いが、ほとんど市場に出回っていない。

 次に、三好家が製造している銅銭『三好通宝』。
 一番数が流通しており、そう作りも悪くない。

 最後に、それぞれに地方領主や商人が勝手に鋳造している通称『雑貨』。
 質はピンキリの上、地方貨なので現地でしか使えない。
 少なくとも中央では、贋金扱いなので絶対に使えなかった。

 地方領主の大半は、外部との決済用に三好通宝を、地元で使う雑貨の両方を備蓄していたわけだ。
 銅銭がなくて、金片、銀塊、水晶などの宝石、岩塩、塩、いまだに物々交換が主流の地域もあるそうで、誰が考えても不便なのは確実であった。

 そこで、金、銀、銅の量を計ってセント貨幣に交換する事を義務付ける事にした。
 施行は北部を完全に把握してからになるが、その頃にはバウマイスター伯爵領から交易船も来るので、セント貨幣で色々な品が買えれば不満もないはずだ。

 バウマイスター伯爵領となった以上は王国のセント貨幣しか使えないので、特に私鋳した雑貨などは撤廃させないといけない。

「今は北部の平定に全力を傾ける」

「本故地は、やはり米沢ですか?」

「あそこが一番便利だ」

 北部一の名族伊達家の本拠地とあって、そこを押さえれば北部支配が容易となる。
 そこに涼子と雪の屋敷を置き、常備兵を兼仲に任せる。
 統治の補佐として、晴政達に文官を出さえてまずは北部の支配権を強固にする計画だ。

「(まるで、リアル〇長の野望だなぁ……)兵力を常備兵主体として、北部の開発も推進。井戸ももっと掘らないとな」

 魔法で海水を真水にしてもいいのだが、俺が常にこの島にいられるはずがない。
 この島は島なのに地下水が豊富なので、岩盤を魔法で撃ち砕き続けるしかないのであろう。
 人口が増えた場合は、バウマイスター伯爵領に移住だな。
 土地は余っており、降伏した旧領主達の子弟には仕官先も提示できる。
 既に、バウマイスター伯爵家に仕官してしまった者達もいた。

 領主やその家臣の一族でも、行き先がない者が多かった。
 基本的に水不足なので、じゃあ開墾しようというわけにいかなかったからだ。

 若い彼らは外の世界に出られるとあって、みんな目を輝かせてうちに仕官した。
 今は俺直属の常備兵部隊を編成し、訓練の合間に街道の整備などを行っている。

「次は最上家か伊達家か」

「最上家の攻略が先ですね」

「なぜ晴政は、そう思う?」

「両家は親戚同士ですが、元は仲が悪かったですから」

 少しでも関係を改善しようと、現伊達家当主に、前最上家当主が妹を嫁がせた。
 だが、一代の婚姻くらいで両者の関係はなかなか改善しないであろうというのが晴政の考えだ。

「伊達家は、最上家に援軍を送らないのか?」

「伊達家は、うち以上に重臣の力が強いですからね。いまだに最上家との婚姻に反対している者も多く、援軍を送れるか疑問なところです」

「詳しいんだな」

「ええ、南部家はアキツシマ島北部三大名族と言われておりますが、その力は最下位です。伊達家と最上家の動きには常に注意を払っていました」

 生き残るためとはいえ、名族の当主というのもなかなかに大変なようだ。

「井戸掘りがひと段落したら、次は最上家だな」

 やはり黒硬石の岩盤は強固であり、俺が加わっても領民達から支持される数の井戸を掘るのに二週間かかってしまった。
 その間にエリーゼと涼子は領内での無料治療を行い、兵士達は兼仲が訓練を施したり、領内の街道整備、開墾なども行っている。

 次は、北部三大名族の中で二番目に力を持つ最上家。
 その当主である義光の決断が気になるところであったが……。

「降ります。一門の清水、大山、上野山、山野辺、楯岡、松根、家臣の鮭延、寒河江、日野、志村、延沢、氏家他全員、一人残らず降ります」

「はい?」

 動員兵力でいえば南部家よりも多いはずの最上家は、当主義光が自ら来て俺達に降ると宣言した。
 念のため雪が事前に降伏条件を認めて送っていたが、まさかこちらが力を見せる前に降るとは思わず、雪ですら唖然としていた。

「魔法勝負を挑むとかしないのか?」

「最上家当主である私の魔力は、残念ですが南部晴政殿とそう差がありません。勝てない勝負を挑むほど我々はバカではないのです」

「領地は没収だぞ」

「代官職の世襲と、子弟の仕官、バウマイスター伯爵領への移民も認められるそうで?」

「ああ」

「では、問題ないですな」

 この最上義光という人物、本心からそう言っているのだろうか?
 みんな、代々数千年以上も領主としてその土地で暮らしていたというのに。

「領地に未練はないのか?」

「ないと言えば嘘になりますが、このままですと我らはジリ貧ですから」

 段々と当主とその一族の魔力が減少していき、このままでは領地の開発も侭ならない。
 ちょうど強者が外部から来たので、過酷な条件が出たわけではなく、むしろいい条件なので降って当然だと義光は述べた。

「領主が独立独歩でやっているといえば聞こえはいいですが、この数百年で我らは衰退する一方なのです。三好家も中央にしか興味がありませんので。バウマイスター伯爵様が強者で我らに利益を与えてくれるのなら降ります」

「そうなんだ……」

 俺はもっと『先祖代々の土地がぁーーー!』と必死で抵抗するかと思った。

「そこにおられる秋津洲高臣様には申し訳ありませんが、せめて秋津洲家が島内に統一した強固な統治体制を維持していればと思います」

「それがあったら、俺はヘルムート王国に朝貢させていたから」

 今のところは順調に平定作業が進んでいたが、収支でいえば完全な大赤字である。
 アキツシマ島が安定的に統治できるようになっても、このままだと元を取るのに数十年規模でかかるであろう。
 もっとも金がないわけでもないし、俺も妙に貯め込むよりも派手に使った方が王国も安心であろうから、俺は金を使う。
 浪費癖も大層な趣味もないからな。

 というわけで、俺は大金をかけてこの島を平定しなければいけないのだ。
 いくらまで使うのかは、ローデリヒの胸先一つだけど。

「我らは降りましたが、伊達家はどうなるかわかりません」

「義光は、伊達家当主の義兄だと聞くが」

「そうですね。伊達家当主政宗の義理の兄になりますか」

 伊達家の当主は政宗というのだな。
 もしかして、片眼で眼帯をしているのであろうか?

「それともう一つ」

「何かあるのか?」

「それが、現伊達家当主政宗は急病で床に伏せているという噂が。我らも探ってみましたが、勿論そう簡単に探らせてもらえるはずもなく」

「これはまた厄介な……」

 当主が降ってくれれば楽だったのに、もし病状が悪化して亡くなりでもしたら、今度は御家騒動か?
 とにかく状況がわかるまで、最上領の慰撫に務めるしかない。

「つまり、ボク達やヴェルは井戸掘りなんだね?」

「他にできる人がいないからな」

 本当、黒硬石って硬すぎだよ。
 この島の基礎の大部分がこの石でできているのだから。
 魔法にも強いので、井戸掘りで砕いた石を王都の魔道具ギルドに見せたらサンプルに大金を支払ってくれた。
 魔族が作る高度な魔道具に危機感を抱いているが、金はあるし、何か新しい技術のヒントが欲しいと思ったのであろう。

 だが、黒硬石は硬すぎて加工すら難しい。
 オリハルコン製の工具でしか削れないらしく、これを使った製品の実用化には膨大な年月がかかると予想される。
 要するに、今の時点ではただの固すぎる岩であった。

「井戸を掘りつつ、体制を整えて伊達家と戦わねばならないわけだ。ところで、現当主はどの程度の魔力を持つんだ?」

「実は、我々とそう違わないです」

 伊達家も犠牲を出さずに降せるだろうか?
 そんな事を考えながら俺達は併合した旧最上領や、服属領主達の旧領に井戸を掘り、開墾を行い、街道を整える。
 あとは伊達家の対応を待つのみであったが、俺達は予想外の敵と戦う事になるのであった。






「父上、お加減はいかがですか?」

「すまないね……藤子。私が元気なら、すぐに北の敵と対応するのに……」

「父上は、心安んじあれ」

 今、俺の父伊達政宗は病床にあった。
 医者に見せたが病状はよくない。
 そこで、最北に領地を持つ名族秋津洲家の当主にして高名な治癒魔法使いである高臣殿の招聘を計画していたところ、予想外の出来事が発生した。
 その高臣殿が、外部から来たバウマイスター伯爵を名乗る集団に降り、この島の北部領域の平定を始めたのだ。
 その動きは早く、彼らは難なく南部家と最上家、その他対数の小領主達を呑み込んだ。
 当然次は、父上が当主を務めるこの伊達領が標的となる。

 本来ならばその対応は父の仕事なのだが、今は重病で床から離れられない。
 ならば、父の唯一の子である私、次期伊達政宗を継ぐ伊達藤子がバウマイスター伯爵に対抗しなければいけなかった。

 これ以上、余所者に好きにはさせない。
 名門伊達家の意地を見せてやるのだ。

「大体、伯父上も不甲斐ない!」

「しかしながら、義光殿は優れた人物。彼が降るほどの実力を持つバウマイスター伯爵家は危険だ。私が動ければなぁ……」

「父上、ここは俺にお任せを。バウマイスター伯爵とやらは優れた魔法使いと聞きますが、俺とて父上を超える魔法使いと言われているのですから」

 俺は父上よりも魔力が多い。
 父上が病床にあって無理をできない以上、俺が一族と服属領主達を率いて戦わねばならないのだ。

「しかしだな。藤子はまだ……」

「父上、事ここに至っては年齢など関係ありません。みなの補佐を受けつつ、バウマイスター伯爵とやらを撃退してみせましょう。なあ、小十郎、成実」

「お館様、我ら必ずや藤子様をお守りいたします」

「他の一族もついておりますれば、お館様は病状の回復に専念していただきたく」

 俺の付け家老の片倉小十郎と従姉の伊達成実も、俺の代理出陣に賛成してくれた。
 父上は、病気が治ってからまた伊達家で辣腕を振るえばいいのだ。

「わかった。藤子の意志を尊重しよう。だが、くれぐれも無理をしないように」

「心得ました」

 父上から許可はいただいた。
 見ていろ、バウマイスター伯爵め。
 南部家、伯父上と立て続けに降していい気になっておるようだが、俺の魔法で必ずや島から追い出してやる。
 そう決意した俺は、全軍を率いて出陣するのであった。






「聞け! バウマイスター伯爵! お前如きの対応でわざわざ父上が出陣するまでもない! この次期伊達家当主、政宗の名を継ぐ伊達藤子が相手をしよう!」

 雪が伊達家にも降るように、外の世界の情報を含めて文を送ったのだが、伊達家は降らずに軍勢を発進させた。
 こちらもそれに対抗し、今は両軍が睨み合っている状態だ。
 そんな中で、俺達に対し伊達家の当主代理である伊達藤子を名乗る者が堂々とした態度で言上を述べているのだが……。

「まあ、可愛らしいですね」

「あの子が伊達家の次期当主なの?」

「ふっ、ボクの方が大人だ」

「ルイーゼ、当たり前」

「ヴィルマ、それはわかっているから言わないで! ボクはいつになったら大人の女性になれるんだ!」

「ヴェンデリンさん、魔法で勝負なされるのですか?」

 エリーゼ達は、伊達藤子を見ると戦意を失ってしまった。

「先生、あの子……」

「ナナちゃんとそれほど年齢が変わらないのでは?」

「先生、本当に戦うのですか?」

 アグネス達が心配するのも無理はない。
 何しろ、伊達藤子はとても賢い子のようだが、どう見てもナナと同じくらいの年齢にしか見えないのだ。

「藤子ちゃんは、いくつなのかな?」

「誰が藤子ちゃんだ! バウマイスター伯爵とやら、俺をバカにするのか!」

 バカにはしていないが、彼女はどう見ても五~六歳にしか見えない。
 そんな彼女と本気で戦ってしまったら、俺が大人気ないじゃないか。

「藤子ちゃん、女の子が俺なんてよくないですよ」

 エリーゼは、彼女と戦う気などまったくないようだ。
 『女の子なのだから、自分を俺なんて呼んではいけませんよ』と優しく注意した。

「ムキィーーー! ちょっとくらい胸が成長しているからって、俺を子供扱いか! 俺は次の伊達政宗になるのだぞ!」

 俺にとっては物凄く有名な人の名前だ。
 この世界の伊達家は、当主が代々政宗を名乗るらしい。
 雪が細川藤孝を名乗るのと同じだな。

「旦那様、あの子は眼帯をしていますが、何か目の病気なのでしょうか?」

 そして、この世界の次代伊達政宗は黒い眼帯をしていた。
 前の世界で独眼竜と呼ばれた政宗と同じく、隻眼なのであろうか?
 リサはまだ小さい女の子なのにと、彼女を心配した。

「おーーーい、ガキンチョ」

「誰がガキンチョだぁーーー!」

「あのよ、目はちゃんと治療した方がいいぞ。エリーゼもいるから」

 というか、次期伊達政宗こと藤子ちゃんは、伊達幼女政宗であった。
 カチヤもまったく藤子ちゃんに戦意を持てないでいた。 
 むしろ、彼女の眼帯を見て心配で堪らないようだ。

「この眼帯か? 聞くがいい! なぜ俺が独眼竜と呼ばれているのかを! この眼帯は、俺の片目に封じている竜を封印するためのものなのだ!」

「すげえ! 聞いたか? ヴェル」

「聞いたけど……(そんなわけがないよな?)」

 魔法についての知識が薄いエルは、藤子ちゃんの発言を信じてしまったようだ。
 目に竜を封じるなんて格好いいと一人興奮していたが、そもそもこの世界の魔法技術で目に竜を封印なんてできない。
 封印魔術は、とてつもない大掛かりな装置が必要であり、しかも古代魔法文明時代以後ロストした技術であった。

「あれ? でも、もしかして?」

「あーーー、それはねえから」

「万が一、この島には秘術として残っていたとか?」

「ないない。第一、あの娘っ子の目にそんな反応がねえよ」

「じゃあ?」

「口から出まかせなのである!」

 ブランタークさんも導師も、藤子ちゃんの目に竜が封印されているという彼女の言い分を即座に否定した。

「誰が出まかせか! この筋肉達磨! この目の奥に封印された暗黒竜は、常に俺の目に施された封印を破ろうとしており、俺はそれを懸命に押さえているのだ! うっ目が疼く……まだだ! まだ表に出てはいけない……」

「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」

 みんな呆れ返っていたが、俺には理解できた。
 前世で中学の頃、クラスメイトに似たような事を言う同級生が存在していたからだ。
 彼は右手に包帯をしており、『いつ魔王の封印が解かれるやもしれぬ!』と定期的に周囲にアピールしていた。
 他の同級生に聞いたところ、彼は厨二病とやらを患っていたそうだ。
 俺はその方面に詳しくなかったので、世の中には色々な人がいるものだと感心したものだ。

 藤子ちゃんも幼くして、その厨二病に蝕まれていた。
 彼女はちょっとマセているので、件の同級生氏よりも早く目覚めてしまったのであろう。

「藤子ちゃん、もういいから」

「こらぁ! 人を可哀想な子のように言うな! もう怒ったぞ! 食らえ! 『暗黒紅蓮竜』!」

 怒った藤子ちゃんが眼帯を外すと、本当に目から黒炎で構成された竜が飛び出してきた。

「ヴェル、本当に封印されてたぞ!」

「いや、そんなわけないから……」

「あなた、あれは魔法ですよ」

 魔法使いではないハルカにも理解できてしまう事であった。
 藤子ちゃんは片目に竜など封印しておらず、ただ黒炎の魔法を竜の形にして目の近くから放っただけだ。

「変な集中法だな」

 そう、ブランタークさんの言うとおり、これは藤子ちゃんなりの精神集中法なのだ。
 一見無駄に見えるが、こうする事で魔法の威力が上がるのであればそれは正解である。
 魔法使いとはそういうものなのだ。

「じゃが、恥ずかしいの。妾ではよう真似できぬわ」

 テレーゼだけじゃない。
 ここにいる藤子ちゃん以外の魔法使いは、みんなそう思っているはずだ。

「ヴェンデリン、大丈夫か?」

「勿論」

「ふんっ! 我が紅蓮の黒竜に焼き尽されて死ぬがいいわ!」

 随分と自信満々のようだが、藤子ちゃんも今の時点では中級魔法使いでしかない。
 俺が彼女の『炎竜』に対抗し『水竜』を作って絡ませると、藤子ちゃんの黒炎でできた竜は大量の水蒸気を発して消滅してしまう。

「バカな! 俺の暗黒紅蓮竜が!」

「藤子ちゃん、残念ながらこの世の中には上には上がいるのさ。それを理解するがいい」

 俺は藤子ちゃんの五倍以上の『炎竜』を作り、それに頭上でとぐろを巻かせた。
 いつでもこの竜をけしかけられる状態だ。

「大きい!」

「藤子ちゃんは魔法の才能があるみたいだね。でも、まだ修行不足だ」

「ううっ……」

 蛇に睨まれたカエルの如く、藤子ちゃんは俺の頭上にある炎竜に圧倒されてその場から動けなくなってしまう。
 元から魔力量にも差があり、藤子ちゃんも段々とその事実に気がついてきたようだ。

「俺よりも圧倒的な魔力か……。まさかここまでとは……」

「さて、どうする? ここで素直に降るか、この炎の竜に軍勢ごと焼かれるかだ」

 なるべく犠牲は出したくないが、こちらも慈善事業をやっているわけではない。
 逆らうのであれば、それなりの犠牲は払ってもらわなければいけない。

 こちらが強く出ると、藤子ちゃんの顔に迷いの色が出てきた。

「悩むまでもないと思うが」

「俺一人の問題ではないのだ。俺は自ら父上に進言して代理役となった。ここで一戦もせずに降るのは伊達家としての矜持に関わる」

 矜持って……。
 まだ幼いのに、随分と難しい言葉を知っているのだな。
 次期伊達家当主としての責任感が、ここまでさせるのであろうか?

「つまり、勝負を続けるという事か?」

「……」

 俺からによるこの質問で、藤子ちゃんの後方にいる軍勢に動揺が走った。
 残念ながら、伊達軍や服属領主の軍勢に中級以上の魔法使いの存在はない。
 こちらが魔法使いを投入すれば、戦はほぼ間違いなくこちら勝ちであろう。

 みんなそれに気がついているので、藤子ちゃんには降ってほしいと思っている。
 でも口には出せない。
 そんな風に、俺には見えた。

「時に家臣や兵の事を考え、降る決断をするのも上に立つ者の役割だぞ」

「わかっておる! だが……「藤子、もう降ろう」」

 藤子ちゃんが俺達に降るかどうかで葛藤していると、その後らから落ち着いた男性の声が聞こえた。
 その声の持ち主は輿に乗っていたが、それでも顔色は真っ青であった。

 彼が、噂の病床にある当代の伊達政宗なのであろう。

「父上! お加減はよろしいのですか?」

「あまりよくはないが、やはり戦で当主不在はよくないからね」

 声は優しかったが、その芯にはとても強いものを感じた。
 病床にあって弱っていても、伊達家の当主というわけだ。

「本当ならば、私が決断せねばならない重要な選択だ。いくら病気とはいえ、藤子に任せてしまった私は……」

 当代政宗は、娘の藤子に対し申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「父上、私にすべて任せてお休みください!」

「いや、これは伊達家当主である私が決める事だ。バウマイスター伯爵、我々は降ります」

 政宗の決断に、伊達軍の将や兵士達の大半は安堵の表情を浮かべた。
 ところが、一部この決定に反対の者達がいた。
 初級魔法使い数名が、突然こちらに攻撃を仕掛けてきたのだ。

「バウマイスター伯爵さえ倒してしまえば!」

「北部を、伊達家が統一するのだ!」

 伊達家は古くからある名族のため、忠誠心過多の者達が一部存在するようだ。
 彼らは刀を抜いてこちらに襲い掛かってくる。

「エッホを思い出すな」

「妾がいなくなって、エッホも大分落ち着いたと聞くぞ」

「へえ、そうなんだ」

 テレーゼと軽く会話をしたあとには、雷撃系の魔法を食らって地面で痙攣する四名の魔法使い達がいた。
 残念ながら、彼らの魔力では上級魔法使いの魔法はレジストできない。

「魔法が駄目なら!」

「じゃあ、もっと勝ち目がないわよ」

「無謀」

 続けて十数名の敵兵も突進してきたが、イーナとヴィルマが魔力を篭めた槍と大斧の大振りで吹き飛ばした。
 魔力が中級レベルにまで上がっている二人ならば、このくらいの芸当は十分に可能なのだ。

「次は首を刎ねるか?」

「大人しく降りなさい」

 エルとハルカもオリハルコン刀で兵達の武器のみを切断して破壊し、これで伊達軍において抵抗する者はゼロとなった。

「家臣が申し訳ない」

「痛い目に遭わせたから、これで大人しくなるでしょう」

「私はともかく、家臣達には寛大な処置をお願いします」

 顔色が真っ青な伊達政宗が俺に頭を下げ、一か月と立たない内にバウマイスター伯爵家はアキツシマ島の北部およそ五分の一の領域を支配する事に成功するのであった。



「ねえ、ヴェル」

「何だ? ルイーゼ」

「あの子、『暗黒紅蓮竜』って言っていたけど、どの辺が紅蓮なの?」

「……さあ?」

それは俺にもわからないが、何となく詳しく聞いてはいけないような気がしたのは確かであった。




「とにかく、今は無理をなされない事です。この薬を必ず毎日二回、朝と晩に飲んでください。あと、毎日私が治癒魔法をかけます」

「敵対した私にまでこのような情けをかけていただき、大変にありがたい」

 伊達家の降伏により、俺達は島内における本拠地を伊達家の本拠地米沢へと移した。
 日本にも同じ地名があるなと思いつつ、俺は領地の整備と新しい統治を進めていく。

 そんな中で病床にあった伊達政宗は、エリーゼから投薬と治癒魔法を受けて徐々に回復しつつあった。
 彼の病気は、ヘルムート王国では治せる病気であった。
 治療薬も高価だが存在したので王都から取り寄せ、さらにエリーゼが治癒魔法をかけるので、あと一か月ほどで完治する予定だ。
 だが、疲れていると再発する可能性があるので、もう半年ほどは無理ができない状態である。

 彼は元々文官肌の人間で、さほど体力に自信があるわけでもない人間だ。
 それでも、将来島の北部を統括する代官に就任してもらう予定なので、今は雪や南部晴政に任せて静養した方がいい。
 彼はエリーゼの治療に感激し、とても感謝している。
 きっと、この島の安定した統治に貢献してくれる人物になるであろう。

「お館様、暫くは北部領域の統治ですね?」

「ああ」

「三好家についてはどうなされますか?」

「今は警戒しつつ無視する」

 一時の安定を求めるのなら、うちが北部を平定しました。
 『責任を持って安定化させるのでよろしく』と挨拶に行けばいい。
 ただしそれをした時点で、この島の常識ではバウマイスター伯爵家は三好家の家臣になったと宣言したに等しくなる。
 実利があれば一時欺いてもいいのだが、それを王国に知られるとまずい。
 王宮にいる俺が気に入らない貴族達が騒ぐ可能性があるので、三好軍の侵攻に備えつつ、今は体勢を整えている状態だ。

 また黒硬石の岩盤を砕いて井戸を堀り、街道を広げたり、魔導飛行船で北部慮領域の測量を行い、新しい道の整備、田畑の開墾、村や町の建設候補地の選定を行っている。
 来たる中央、東部、西部との戦に備えて軍の再編と訓練も行われており、今は三千人ほどが訓練をしながら街道整備などを手伝っていた。

 常備兵なので金がかかるが、仕方がない。

「実は三好長慶も病床にあるという噂です。そうと思われないために牽制で兵を出してくる可能性否定できませんが。まず攻めてこないかと」

「ただ、商人が来なくなった」

 個人レベルの行商人は来るが、規模の大きな商人が中央から交易品を持ってこなくなった。
 このままだと領民達から不満があがるのは確実であり、今アルテリオと連絡を取って定期的に交易船を出す計画を立てている。
 勿論海は危険なので、中小の魔導飛行船を週に二~三隻出す予定であった。

 これと合わせて、計画していた貨幣の交換を行う。
 領内において銅銭の流通を禁止し、すべてヘルムート王国発行のセント硬貨に移行するわけだ。
 交換比率は、雪の進言で銅銭に使用されている鉱物の量を基準にする事にした。
 この島の貨幣は種類も多く品質もバラバラなので、結局これが一番効率がいいのだ。

 この島の銅銭は厚ぼったいので、一番品質が低い私鋳銭でもセント銅貨一枚半~二枚分ほどの量が使われている。
 交換しても損はないので、みんなこぞって銅銭をセント銅貨と交換していた。
 金片と銀塊も、ヘルムート王国の相場に従って貨幣との交換に応じている。

 セント硬貨を手に入れた領民や、兵士達は早速日々の生活で使用していた。
 セント銅貨は一種類しかないので、みんな買い物が楽だと喜んでいる。

 他にも、エルとハルカに俺の魔法の袋に入っている商品の売買を任せていた。
 これはアルテリオが品を持ってくるまでの緊急処置であり、そのため少し安く販売したので好評だった。

「三好領にいる商人達に不満はないのか?」

 確かに俺達は得体の知れない新勢力だが、北部領域は安定に向かいつつある。
 井戸やため池が増え、農地も広がり、道も整備され、貨幣も統一されつつあるのだ。
 俺は中央から来た商人達の活動に掣肘は加えておらず、行商人達は普通に商いをしていた。
 そこに加われないのでは、色々と不満が溜まるかもしれないと俺は思うのだ。

「セント硬貨の件もあります。元々この島には多くの種類の銅銭があるので、北部以外でも使われるでしょうが、三好家は気に食わないでしょうね」

 気に食わないが、今は当主重病のため北部を攻めるわけにはいかない。
 中規模以上の商人の出入りを禁止し、経済的にダメージを与える戦法なのであろう。

「ならば、この北部はバウマイスター伯爵領、王国、帝国との交易で発展させる」

 ようは、北部の住民が不便さを感じなければいいのだ。
 水と道は増やしているので、少なくとも領民レベルではバウマイスター伯爵家の支配は好評であった。
 元の領主達も大半が旧領の代官となり、あまり仕事内容に変化がないので不満も少ないのかもしれない。

「さてと、弟子達の様子を見に行くかな」

 政宗との話を終えた俺は、伊達屋敷を出て米沢城内にある庭へと向かう。
 北方の雄伊達家の居城はなかなかに立派な作りで、庭も広い。
 今はバウマイスター伯爵家の代官府となっている。

 伊達家は私財を持って、城に隣接する大きな屋敷へと移っていたのだ。
 今は、俺達と涼子、雪もここで生活をしている。

「ヴェンデリン様」

「ルル、ちゃんと訓練していたかい?」

「はい」

 俺が面倒を見るようになった元村長である幼女ルルは、俺の弟子兼お嫁さんを自認し、毎日魔法の特訓に励んでいた。
 彼女はなかなかに才能がある魔法使いで、俺やアグネス達の教育で日々成長していた。

「次は私も連れて行ってください」

「未成年は戦場に連れて行けないよ」

 いくら優秀な魔法使いでも、ルルはまだ五歳だ。
 戦場には連れて行けない。

「ふふふっ、ルルはまだお子様だからな。ここは、次の伊達政宗である俺がお館様をお助けするのだ」

 先日の戦いで伊達政宗代理を務めた藤子は。降伏すると妙に俺に懐いてしまった。
 押しかけで魔法の弟子になり、同じ年のルルと毎日切磋琢磨している。
 藤子もなかなかの才能の持ち主で、もしかしたら久々にこの島出身者で上級魔法使いになれるかもしれない。

 なるほど、わずか五歳の幼女が総大将代理でも軍勢が機能していたわけだ。
 みんな、藤子ちゃんの将来に期待していたのだ。

「藤子ちゃん、私と同じ年じゃない。それに私も村長だったもの」

「うっ、俺は次期伊達家当主として、色々とやっていたのだ」

「色々って何を?」

「色々とだ!」

 藤子ちゃんは五歳にしてはしっかりしているが、やはり子供なのでなかなか統治の実務には関わらせてもらえなかったはずだ。
 降伏後、政宗は幼い娘に負担を強いていた事を大いに反省した。

 そこで、あとは成人するまで自由に過ごしていいと宣言したのだ。
 おかげで、俺の傍には幼女が二人になった。

 アグネス達もおり、奥さん達もいるわけだから、俺の周りは女性ばかりなのだ。
 男がいても、俺の尻を狙うような奴ならいらないけど。

「俺も、導師様みたいに海竜退治に行きたいな」

「もう少し大きくなってからだね」

 導師とブランタークさんは、ちょっと近くの海まで海竜退治に出かけていた。
 中型の島内連絡船で少し島の沖合いに出て、自分達を食おうとする海竜を魔法で倒すのだ。
 これを領民達に日当を与えて解体させ、素材や肉を販売する。
 この売却益も、北部を統治する費用に化けるというわけだ。

「私ももっと強くなって、海竜を倒してみたいです」

「ルルならちゃんと訓練すれば大丈夫さ」

「ヴェンデリン様、ルルはいいお嫁さんになれるように頑張りますね」

「そうだね……」

 ここで否定すると泣かれそうだし、変に認めてしまうと回りが勝手に納得してしまう。
 なかなかに悩ましいところである。

「ルル、俺もお館様の嫁になると父上が言っておった。ただ強いだけじゃなく、ルイーゼのように大人の女になるのだ」

「……」

 藤子も藤子で、どうやら政宗に言われたようだ。
 大きくなったら俺に嫁ぐとか言っている。
 魔法使いの弟子になったのは、当然魔法の上達もあるが、俺と一緒にいる口実を作るためであろう。

 あと、ルイーゼが大人かぁ……。
 初見だと、ほぼ子持ちだと思われないんだがなぁ……。

「アグネス達が不満そうだが、お館様ならあの三人も嫁にするのだから、目くじら立てる必要はあるのか?」

「私もわからない」

 まずい。
 俺は刻一刻と、女性達に包囲されていっているような……。
 そして、俺に沢山奥さんがいても何とも思わない幼女二人。

 この世界の価値観には、今も完璧に対応できないな。

「相変わらず、バウマイスター伯爵の回りには女性が多いな」

「いやあ、ここはいい島だね」

「あとで海水浴とかしたいな」

「ただ、もっと開発が必要だろうね」

 さらに、民主主義全盛の魔族の国において、今も魔王を自称する少女まで姿を現した。
 実は、俺が人手不足だから呼んだのだけど。
 彼女は、モール達を護衛として連れてきていた。

 魔王様は夏休みに入り、魔族の学校の夏休みは三ヵ月もあるとかで、出稼ぎ兼社会勉強兼バカンスに来たわけだ。
 随分と血生臭い社会見学もあったものだが、彼女に従う宰相ライラさんに『王として必要な事だから』とここに来ていた。

 魔族の国では、魔王様を会長、ライラさんを社長とする農業法人が設立された。
 農村で自給自足をしていた若者達を組織し、農作物や畜産物の販売が主な業務となっている。
 最初はなかなか作物が売れなかったそうだが、今では会社の経営も安定してきたそうだ。

 アーネストの教え子であった元ニート三人組も、無事に就職を果たしている。
 経営は順調なようだが、それでも当座の金は欲しいと俺の誘いに応じてくれた。
 魔族が人間の国で働いていいのか疑問であったが、考えてみたら両国はまだ交渉中であった。
 帝国も交渉に加わったようで、余計に事態の収拾が難しくなっていく。
 決まりがない以上、魔王様とモール達がここで働いても問題はない?
 最悪、脱法行為で違法じゃない。
 ここは俺達が平定作戦中の島であり、関係者以外誰も来ないもの大きいか。

 勿論、魔族の国には王政、封建制に対しアレルギーがある連中が多いので、俺の『瞬間移動』でこっそりと来ている。

「余は夏休み中、田舎の村ですごす事になっているのだ。余は魔族の国を出ていない事になっておる」

 あくまでも、ここに来ているのは秘密というわけだ。
 この島はバウマイスター伯爵領という扱いだが、平定作戦中なので他の王国貴族が来るはずがない。
 ブランタークさんと導師がわざわざ外部に漏らして大騒ぎするはずがないので、魔王様とモール達はこの地で農業指導と開発の手伝いをする事になっていた。

「魔王様が、出稼ぎをするのか?」

 藤子は、自ら働いて金を稼ぐ王様という存在が信じられないようだ。
 彼女は民主主義など理解の範疇外なので、今魔王様が置かれている状況を理解していないからなのだが。

「余は皆に愛される魔王様だからな。というのは冗談として、現実的に金が必要なのだ」

「農業法人の経営は順調なんだよね?」

「そちらは大丈夫だが、急に金が必要になってな」

「金がですか?」

「学校の建設資金だ」

 廃村に魔族の若者達が集まり、そこで自給自足の生活をしながら生産した作物を売って現金収入を得る。
 魔王様が会長になり、優秀なライラさんが社長として実務を取り仕切る。
 モール達も、元々一流の大学を出て優秀な人材なのだ。
 他にも、最初に就職して失敗したり、酷い待遇の会社で心を病んでリタイアしていた若者が無事に再生したので、農業法人の経営は順調であった。

「生活が安定した社員同士で結婚し、子供が産まれる者も増えてきた。となると、子供には学校が必要となる」

 廃村に学校にできるような建物がないそうで、今すぐ必要ではないがその時に備えて資金が欲しいのだと魔王様は言う。

「学校ともなれば、それなりの規模の建物が必要となる。長期間使うからな。子供がある程度集まれば、役所としても学校については検討してくれるそうだ。教員についても、教員免許を持っている従業員がおってな。彼らを臨時で採用すれば、中央からの派遣は最小限で済む。ところが、校舎がないと駄目だと言われたのだ」

 田舎に学校を建設する。
 どの世界でも、先立つものが必要というわけか。

「そこで、我らが魔法や技術でバウマイスター伯爵を手助けする。相応にお礼が貰えれば、余達も嬉しい。お互いに得をするわけだな」

 バウマイスター伯爵領内でアルバイトをすると、俺の事が大嫌いなプラッテ伯爵達がいらぬ讒言を陛下にするかもしれない。
 この島なら関係者以外誰もいないので、是非能力を発揮してもらいたいものだ。

「モール達が護衛なのですか」

 就職してから短期間で、随分と信用されたものだな。

「この者達は恩師と同じで普段の言動はアレだが、仕事はできるからな。魔力も並以上はあって魔法の修練もちゃんとしておる。護衛としても役に立つぞ」

「というわけだから、バウマイスター伯爵」

「それにさ、ここで働くと給料以外に手当てが出るんだよね」

「遠隔地手当てだね」

「そんなに物入りなのか? お前ら」

 あまり詳しくは聞けないが、農業法人って給料が安いのだろうか?

「俺達さ、結婚するんだ」

「となると最低限の式は挙げたいし、子供が産まれた時に備えてちょっと蓄えも欲しいじゃない」

「そこでこの話が出たのだから、飛びつかねば男じゃない」

 この三人と知り合ってそう月日も経っていないのだが、次々と人生の転機が襲ってきているな。

「そういえば、先生は?」

「もう少ししたら来る予定」

 アーネストは、もう少し島の状態が落ち着いたら調査に来る予定だ。
 もっとも、この島には古代魔法文明時代の遺産が存在しない。
 純粋な学術調査なので、ローデリヒがバウマイスター伯爵領の遺跡調査を優先させているのだ。

「何だ、いたらご祝儀でも貰おうと思ったのに」

「残念だな」

「そのうち来るんじゃないの?」

 お前ら、あのアーネストがそんな気の利いたものを出すと思うのか?

「俺は祝儀は出さんが、報酬に色をつけるからあとは魔王様の器量に期待してね」

「そうだな。バウマイスター伯爵が余の臣下に褒美を渡すと問題だからな。よくわかっているではないか。お主が余の婿なら色々と楽なのにな」

「それは、同じ魔族の婿さんで適格者を選んでください」

 今でも、涼子、雪、藤子、ルル、アグネス、ベッティ、シンディに迫られていて大変なのだ。
 魔王様を嫁にするのは勘弁してほしいと、俺は心の中で思うのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ