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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第百四十八話 俺は、戦国時代ぽい島で統一を目指す。

『なるほど。では、お館様が一刻も早く島を統一せねばなりますまい』

「やっぱり?」

『手を出してしまった以上は』

「……」

 子供の頃、俺は捨て犬を見つけた。
 とても可愛い子犬だったが、両親に飼っていいか尋ねると『最後まで面倒を見られたらな』と言われてしまった。
 『拾うのはいいが、ちゃんと最後まで面倒を見ないと保健所に連れて行く』とも言われ、決断できなかった俺は結局子犬を飼わなかった。

 今にして思えば、俺はちょっと考え込んでしまう石橋を叩いて渡るタイプの人間だったのであろう。
 そんな俺が珍しく、南方探索で見つけたアキツシマ島という島の内乱に手を出してしまった。

 導師もノリノリで参加し……彼はあくまでも陛下の代理人だから気楽なものだ。
 事情を聞いたら、島内は五十を超える領主によって分割され、小競り合いも多い場所との話であった。

 陛下としては、遥か遠方にあるそんな面倒な島はいらないのであろう。
 元々アキツシマ島は我がバウマイスター伯爵領と区分した海域にあり、見事に押しつけられてしまった。
 この島の南を探索し、そこで他の無人島やあわよくば大陸でも見つけた方が得だと思ったのであろう。

 こうして、戦乱の島が俺に押しつけられたわけだ。
 ただ戦乱とはいっても、ルール無用で敵は皆殺しとまでは行っていないようだ。
 秋津洲軍と七条軍は、戦う前に己の考えを主張していたくらいなのだから。

 これがもし問答無用状態なら、ただ先に軍勢を集めて敵の領地に雪崩れ込んだであろう。
 その辺にはまだ救いがあるというわけか。

『何か産物を交易できれば御の字であろう』

 陛下から、携帯魔導通信機越しにそう言われてしまった。
 現在、ヘルムート王国の国王として魔族の国への対応で忙しいから、そんな中途半端な島はいらないというわけだ。

 続けて携帯魔導通信機でローデリヒに相談すると、俺が何とかするようにと言われてしまった。
 俺が領主でローデリヒが家宰のはずなのに、なぜか俺が命令されているような……。
 バウマイスター伯爵領は、ローデリヒがいないと回らないから仕方がないか。

 それでも、ルル達が住んでいた島を探索する冒険者グループの手配、あの島を冒険者の拠点とすべく村の測量や建設を行う人員の手配は済んだそうなので、さすがはローデリヒというわけだ。

「とはいえ、先は長いよ」

 かつて島を統治していた名族最後の生き残り秋津洲高臣、男みたいな名前だが、見た目は巫女美少女であった。
 年齢は十七歳、結構スタイルもいい。
 名族直系最後の一人にして、治癒魔法の名手、領地は小さいが善政を敷いているようで領民達には好かれていた。

 まあ、悪政を働くおっさんよりは、善政を敷く美少女の方が人気があって当然だ。
 俺も後者を支持するであろう。
 もしおっさんが善政を敷いていたら……やはり美少女の方か……。

 悪政を働く美少女と、善性を敷くおっさん。
 これは悩むかもしれない。
 現実なら、悩まず善政を敷くおっさんだけど。

 話を戻すが、この島の名族は当主になると決められた『当主名』を名乗る。
 だから、当主が女でも男みたいな名前になるわけだ。

 ミズホとは、少しシステムが違うようだ。
 実は秋津洲さん、幼名というか以前の名は涼子というらしい。

 だから、細川さんはお涼様と呼んでいたわけだ。

 秋津洲さんを補佐している細川藤孝さんも、本名は別にあるようだ。
 俺達には教えてくれなかったけど。
 細川家は、代々筆頭家老として秋津洲家を支えてきたらしい。

 共に両親を失い、直系の子供が女子一人だけとなっても、二人は小さな領地を懸命に守ってきた。
 二人が家督を継いだのは、他に男子がいないので仕方がない面もあったからだ。

『お館様、統治体制の確認をお願いします』

「確認?」

『左様です。このまま島の領主達を降したとして、どうアキツシマ島とやらを統治していくのか? その確認が必要だと言っております』

 さすがはローデリヒ、俺よりも貴族としての才能に溢れているな。
 彼が領主で俺が筆頭お抱え魔法使いなら、それはそれでとても上手く行っていたような気がする。

「俺がトップだよね?」

『勿論それはそうなのですが、あまり前面に出てしまうと島の住民達から不満が出るかもしれません。何しろ、一万年以上も鎖国していたのと同じなのですから』

 異民族の、それも若造に支配されるのが嫌で彼らが反抗的だと、いちいち騒動を鎮圧しないといけないから統治コストが跳ね上がってしまう危険があった。
 バウマイスター伯爵本領の開発も残っており、ローデリヒはその手間を嫌がったわけだ。

 これは、王家に押しつけられるわけだ。

『バウマイスター伯爵領は常に伸長を続けており、王城には嫉妬に近い感情を抱く者も多いのです。陛下がこの島を押しつけたのは、お館様への温情とも取れますね』

 そういう考え方もあるのか。
 どちらにしても俺は王国の家臣なので、命令どおりこの島を安定化させなければ。
 それで、島の統治体制の確認に戻るが……。

「誰か代官を立てろと?」

『それが一番無難ですね』

 代官が矢面に立った方が、この島の住民も従いやすいか。

 勿論島外の人間では駄目なので、この島の住民でないといけない。
 現時点で、統一したアキツシマ島全体の代官職が務まりそうな人物。
 俺の視線は、ある女性へと向かう。

「私は駄目ですよ」

 俺が候補に選んだのは、秋津洲領の統治を担っている細川藤孝さんであった。
 彼女なら、能力面から見ても十分に勤まると思う。

 何しろ、今まで秋津洲領を実質統治してきたのだから。

「お涼様を差し置いて、そのような大役は受けられません」

 細川家は、代々秋津洲家の家臣であった。
 ここまで秋津洲家が縮小しても忠実に仕えているのだから、主君を差しおいて代官職を受けるはずがないか。

「でも、秋津洲さんは忙しいんでしょう?」

 普段の秋津洲さんは、治癒魔法を用いた領民達への治療で忙しいそうだ。
 領外からも患者が多数押しかけ、御所は多くの人達で賑わっているらしい。

 領地は狭いし、実務は細川さんが代行しているが、この地域では一定以上の影響力はあった。
 残念ながら、統治者にはまったく向いていないらしいが。

「雪、あなたの秋津洲家への忠誠は嬉しいのですが、血筋ばかりで力なき私が代官になっても島が混乱するだけです。遠慮しないで引き受けてください」

 俺達には教えてくれなかったが、細川さんの本当の名は雪というようだ。
 クール系美少女なので、雪という名はよく似合っていると思う。

「遠慮などしておりません! 私はお涼様の家臣で十分に満足しているのです」

 細川さんは、秋津洲さんから随分と信頼されているようだ。
 秋津洲さんも、島が平和になるのなら自分が支配しなくてもいいと言えてしまうところが、器の大きい部分とも言えた。
 彼女は、今さら自分がしゃしゃり出ても碌な結果にならないと思っているのであろう。

『お館様、では、秋津洲殿を代官に、細川殿を副代官とし、細川殿に実務を任せたらいかがでしょう?』

「それがいいかも」

 秋津洲さんは治癒魔法使いとして多くの支持者がいるし、この島で一番の名族だからな。
 一番上にいるだけで、反抗的な人は大分減るか。
 口の悪い人は神輿だって言うかもしれないけど……。

「細川さんは、どう思う?」

「お涼様はお優しすぎるので、統治の仕事には向かないのです。普段は治癒魔法使いとして、御所で治療にあたっていただきます。これは昔からそうですが」

 優しいというのは、統治者としては必ずしも褒め言葉じゃないからな。
 それでも秋津洲家が小領主として生き残れていたのは、代々続く治癒魔法使いとしての能力のおかげだそうだ。

「魔法使いとしての能力が遺伝しているのか。凄いな」

「ですが、代を経るごとに能力は落ちております」

 前にアーネストが、古代魔法文明時代に存在した人工魔法使いについて話してくれた。
 この島の名族連中は、間違いなく先祖がそうだったのであろう。
 随分と長い間遺伝が続いていたようだが、これもこの島の閉鎖性が原因かもしれない。
 他にも原因はあるかもしれないけど。
 だが、その閉鎖性を持ってしても、代を経るごとに魔法使いとしての実力が落ちているわけだ。

「そうみたいだな。我々の基準で言えば、秋津洲殿の魔力量は中級のど真ん中ってところだ」

 ブランタークさんは、彼女の魔法使いとしての実力を中級でしかないと分析した。
 治癒魔法使いは貴重だが、エリーゼに比べるとかなり実力は落ちる。
 もしかすると、俺の治癒魔法の方が威力だけはあるかもしれない。

「兼仲も、中級の真ん中がいいところである」

「外の世界には、もの凄い魔法使いが一杯いるのだな」

 俺に破れて家臣になった七條兼仲も、中級レベルの魔法使いでしかない。
 導師にそう指摘され、彼は外の世界にいる魔法使いの実力に驚いていた。

「とはいえ、まだ鍛えられる部分もあるのである」

 導師が、まるで獲物を見つけた狼のように兼仲を見つめ始める。
 どうやら暇潰し……じゃなかった、見どころがあると思い彼を鍛えようとしているのであろう。

「あの……お館様?」

 呆気なく俺に破れてしまったが、兼仲は実力者である。
 相手の力量を見抜く目はあり、超がつく実力者である導師に目をつけられて恐怖を感じたようだ。
 主君である俺に縋ってくる。

「兼仲」

「はい、何でしょうか?」

「俺は数年間、導師から指導を受けたんだ」

「ボクもだよ」

 俺の隣にいるルイーゼもそうだと聞き、兼仲の顔色はさらに悪くなった。
 彼はルイーゼも実力者だと見抜いており、俺とそんな彼女に指導ができる導師という存在と、彼から弟子に指名された事に恐怖を感じたようだ。

「俺とルイーゼが逃げられなかったんだ」

「君にも、無理無理」

「というわけなので、俺は兼仲がもっと強くなってくれる事に期待しているから」

「大丈夫、多分死なないから」

 俺とルイーゼに肩を叩かれた兼仲は、顔面が一気に蒼白となった。

「ここはバウマイスター伯爵の領地である! 某は開発等に手を出せぬし、兼仲はこの分野で役に立たないのである! さあ、楽しい修行の時間である!」

「お館様ぁーーーー!」

 兼仲は、導師に連れて行かれた。
 彼に引きずられた兼仲の声が次第に小さくなっていくが、これも彼がもっと強くなるため。
 俺とルイーゼは、心を鬼にして彼を見送った。

「先生、私達はいいのですか?」

「あのな、アグネス」

「はい」

「人には向き不向きがあるのさ。それは個性のようなものだから、決して向いていない事が悪いわけじゃない。魔力を用いた格闘戦闘は、彼らやルイーゼに任せよう」

 俺は信じている。
 兼仲が、これから始まる統一戦争において先陣として活躍してくれる事に。

「まあ、兼仲殿は昔からずっとああなので、統治にはまったく役に立たないのですよ」

「細川さん、じゃあ誰が七条領の統治を?」

「あそこは、分家の名主とかが優秀なのです。当主である兼仲殿は近隣では最強の魔法闘士です。小競り合いの時に顔を出せば、ほぼ有利な条件で講和が結べますから」

 七條兼仲、とても領民に慕われ腕っ節も強かったが、残念ながら脳筋であった。






「ルル、こういう風にするんだよ」

「はい」

「アグネスは、広げた道に石畳を敷いてくれ」

「はい」

「ベッティは、荒れ地を急ぎ開墾だ」

「任せてください」

「シンディは、どうだ?」

「用水路の掘削は順調です」




 探索で見つけたアキツシマ島を統一する事になったが、まずは余所者でしかない俺が領民達に認められるためには、税を集めるよりも与える事が重要となる。
 というわけで、まずは領地の把握と、忠誠心をあげるための施しを行う事となった。

 まるで戦国シミュレーションゲームだな。

 施しといっても、金や食料をバラ撒くわけじゃない。
 ちょうどため池の底を塞いでいた黒硬石を砕き、豊富な地下水が得られるようになったので、用水路を広げ、今まで水不足で耕せなかった土地を開墾し、街道の整備を行い。
 古来より、公共工事は現地住民からの支持を得るのに有効な方法であった。

「秋津洲領は七条領を事実上併合し、領地はほぼ倍に、人口も合計で千二百五十七名となりました」

 アキツシマ島を統一するにおいて、形式上は代官である秋津洲家が全島を統一して統治する事になった。 
 その上に、バウマイスター伯爵家がいるというわけだ。

「細川さん」

「お館様、私の事は雪と呼んでください」

 初めは本当の名を教えてくれなかった細川さんであったが、領内の大規模開発が始まると随分と好意的になってくれた。
 当主名でなく、本当の名前で呼んでくれというのだから。

「いいのか?」

「はい。是非そうしてください。私は、秋津洲領の統治をお涼様から託された身でしたが、結局私では、お涼様に安寧の日々を与えられませんでした……」

 秋津洲さんと細川さんが家督を継いだ時点で、もう秋津洲領は衰退が激しかったそうだ。
 それを、秋津洲さんの治癒魔法と細川さんの統治能力でどうにか七条家に対抗可能な状態にまで持っていった。

「あの争いで兼仲殿が先陣で力を発揮していたら、我々は不利な講和を結ぶしかありませんでした」

 細川さんは武芸にも優れているそうだが、魔法使いである兼仲には勝てない。
 同程度の魔力を持つ秋津洲さんも治癒魔法使いであり、確かに勝ち目はなかったかもしれない。

「その兼仲殿をお館様は圧倒されました。私は感謝しているのです」

 クール系美少女に感謝される。
 悪い気はしないな。

「痛ぇ!」

「お館様。どうかされましたか?」

「何でもない……」

 鼻の下でも伸ばしたのかと思われたのか? 
 俺は、隣にいたルイーゼから尻をつままれてしまった。

「ヴェル、可愛い女の子に好かれてよかったね。探索すると女の子が増えるって、ヴェルは凄いなぁ」

 それを俺に言われても……。
 元々ルイーゼは、アグネス達は認めている。
 だから探索に同行しても何も言わなかった。

 だが、今も魔法を教えながら傍に置いているルルと、美少女巫女秋津洲さん、そして雪。
 ルルは幼いから違うかもしれないが、二人には思うところがあるのかもしれない。
 いや、俺はもう嫁を増やしたくないのだが……。

「ええと、ところで、秋津洲領ってどのくらいの広さなのかな?」

「これが地図です」

 とにかく話題を切り替えないと……。
 俺は、雪にこの島の勢力図について聞いてみた。

「狭いね……」

 俺達は北からこの島を訪ねたわけだから、秋津洲領と旧七条領は島の最北端にある。
 これからは南の敵勢力にだけ注意すればいいから、まだ少し楽になったわけだ。

「この島の人口は、約四十万人です」

 四十万分の千二百五十七。
 辛うじて、0.25パーセント以上は押さえているわけか。
 押さえていると自慢できる数字じゃないな……。

「兼仲だけじゃなく、旧七条領の領民達が素直に降ってくれてよかった」

 おかげで犠牲者はゼロだった。
 死人が出ると禍根となるので、それはよかったと思う。

「お館様が兼仲殿を圧倒したからでしょう。すぐに開発を始めたのもよかったです」

 旧七条領は、秋津洲領に併合された形となった。
 兼仲は家臣となったのだが、元々彼は領内の統治を名主達に丸投げしている。
 さほど状況に変化があったわけでもなく、兼仲も武官に専念できると喜んだ。
 彼に統治の仕事はまったく向いていないから、みんな幸せになったわけだ。

「これで人口が増えても、食料のあてができました」

 この島は、黒硬石の塊の上に人が住んでいるようなものであった。  
 そのため、島の中心部にある巨大な湖周辺以外は、基本的に水が不足している。
 農業生産に限界があるというわけだ。

 なぜか地下水は豊富なので、昔は優秀な魔法使いが岩盤を魔法で砕いて井戸を掘った。
 ところが、現在の魔法使いにはそれはできない。
 黒硬石という石で覆われた強固な岩石を砕かないと地下の水脈に届かず、それを砕くには強大な魔力が必要であったからだ。

 井戸や池には長い年月の間に枯れる場所もあって、みんな水不足に脅威を感じていたのだ。
 そのため、各家や領内中に雨水を溜めるため池やタンクが置かれていた。

「水田も増やせそうです」

「雪は、やっぱり米があった方がいいのか?」

「はい! 我らは昔からお米が好きなのです!」

 とても元気な声で答える雪。
 とはいえ、この島の現状を考えるとそれほど沢山米は作れない。
 主食は雑穀、麦、サツマイモの原種に近いイモが大半で、米はなかなか食べられない高級品だそうだ。

「大昔のご先祖様は毎食お米を食べたそうです。この島では難しい話なのですが……」

「島の中央には湖があるんだよな?」

「はい。琵琶湖というのですが、ここの水利と豊富な漁業資源、琵琶湖から流れるいくつかの河川を利用した水運をすべて握る三好家は、この島における一番の大領主です」

 しかも、その三好家の当主は、代々三好長慶を名乗っているそうだ。
 一族や家臣も多く、彼はこの島で事実上の『天下人』と呼ばれているらしい。
 湖の名が琵琶湖なのも含めて、俺は心の中で乾いた笑みを浮かべた。

「米ならミズホの連中は毎日食べているな。俺も一日一食か二食は」

「凄い! 北に逃れた同朋は、楽園に住んでいるのですね!」

「それなりに苦労はあったみたいだよ」

 ミズホは、帝国との戦争で多大な犠牲を出して独立を保ったからな。
 帝国の方も散々だったみたいだけど。

「北方にあるから冬は寒いしね。ここは寒くないのがいい」

 南方だから冬も暖かい、むしろ暑い日が多いくらいか。
 標高が高い場所が多いので朝晩が寒い地域もあって、常夏からは少し離れているという感じであった。

「水があれば、上手くやれば稲作が年に二回できるか? 開墾と田んぼの拡張はアグネス達にお願いして、土の土壌改良を魔法で行えば初年度からもそこそこ米が採れるか」

 押さえた土地を開発しながら統治し、徐々に秋津洲家の当主が代官を務めるバウマイスター伯爵領を増やしていく必要があるな。
 ただし、あまり軍勢を助っ人には呼べない。
 敵対勢力が『秋津洲家は他民族に島を売り渡した!』と宣伝しかねないからだ。

 そこで、数少ない戦力になる助っ人を呼ぶ事にする。




「それで私達?」

「俺とハルカは、ヴェルの護衛だな」

「古に別れた同朋ですか……昔の歴史書には記載されていましたが、本当に実在していたとは……」

 イーナ、エル、ハルカは個人でも十分に強いので、俺の護衛役に。
 ハルカは、同朋である秋津洲さん、雪、兼仲の存在に驚いていた。

「瑞穂一族は発展を遂げたようですね。我が秋津洲家は、不甲斐なくて忸怩たる思いです」

 瑞穂家と秋津洲家、共に大昔は一二を争う名族だったそうだ。
 それが、片方が独自の、他民族にも負けない力を持ったのに、自分達は完全に力を落としてしまった。
 秋津洲さんは、先祖に申し訳がないと表情を暗くしてしまう。

「お涼様の責任ではありません! 秋津洲家は元は神官の出です。政治には不向きな血筋であすから仕方がありません!」

 雪の説明によると、秋津洲家にあまり優秀な政治家はいないらしい。
 代々と当主や一族が使える治癒魔法を駆使し、領民達を治療して慕われる。
 政治の実務は、細川家他いくつかの名族で分担していたそうだ。

 元から秋津洲家は、君臨すれど統治はせずという状態だったわけだ。

「なら、ちゃんと秋津洲家を上に据えればいいのに。三好家だっけ?」

「五代前の秋津洲の当主は、残忍な性格で有名でした。治癒魔法の練習と称して領民を斬り、死なせてしまうと『間違えて斬り殺してしまった。次はもっと浅く斬ろう』で済ませたそうです」

 諫めた四代前の三好家の当主が無礼討ちにされ、それに激怒した三好家が徐々に秋津洲家当主の領地や利権を奪っていき、今に至るというわけだ。

「先祖の罪が祟ったのか。秋津洲さんに罪はないし、むしろ治癒魔法で領民達から好かれているのにね」

 三好長慶は優秀な人物だそうだが、もうお爺さんであった。
 ならば、美少女巫女である秋津洲さんの方が人気が出ても仕方がないか。
 とはいえ、今の秋津洲家は北部でわずかな領地を持つのみ。
 中央の三好家に対抗するのは難しい。
 先祖の恨みもあって、簡単には言う事を聞かないであろう。

「事情は大凡こんな感じなので、今は押さえた領地を開発して力を蓄える必要があるのです」

 元々、この島の領主で大量の常備兵を整えられる者は少ない。
 今の内に開発を進めて収穫を増やし、次の戦いに備えて食料を備蓄した方がいい。
 どうせ秋津洲領と接しているか、近い領主は零細ばかりで農民を徴兵しないと軍勢を整えられない。
 向こうがとち狂って攻めてきても、俺、ブランタークさん、導師、ルイーゼ、イーナ、エル、ハルカ、エリーゼ達もいるから過剰戦力であろう。

「まだまだである!」

「負けぬぞぉーーー!」

「その心意気やよしである!」

 いい領主様だけど、頭の中身は残念(領民達談)な兼仲は、導師から特訓を受けていた。
 魔力の伸びはほぼ期待できないが、彼はこの北方で一・二を争う猛将という評価を受けていた。
 彼が金で雇われるフリーの専従武官になったのだ。
 さすがに攻めてくるアホな領主はいないと思う。

「それにしても、エリーゼ様は凄いですね。私よりも遥かに優れた治癒魔法使いではないですか」

 秋津洲さんは、自分よりも圧倒的に実力があるエリーゼに素直に感心していた。

「救われる方が増えるのはいい事です」

 秋津洲さんは、とてもいい子であった。
 残念ながら領主としては向かないは明白であったが、エリーゼに嫉妬しないで怪我や病気を治せる人数が増えたと心から喜べるのだから。

「なぜ雪が、秋津洲さんを支えるのかわかったな」

「お涼様は素晴らしいお方です。ですが、こんな世の中ではその優しさが仇となる事もあります」

 彼女を守るため、雪は自分が汚れ役になる覚悟があるというわけだ。

「俺は、雪も優しいと思うけどな。雪の能力なら、三好家辺りでも出世できたのでは?」

「三好家で働く私は予想できませんでしたから、発想力が低いのでしょう。それでは、三好家での出世は難しいですね。秋津洲家の筆頭家老で私は満足しております」

 照れてそう言っていたが、雪は心から秋津洲さんが好きなのだと思う。

「昨日までは色々と大変でしたが、お館様のおかげで少し余裕ができました。ありがとうございます」

「へえ、ヴェルはホソカワさんをユキって名前で呼ぶのね?」

「せっ、戦友だから……一緒に兼仲と戦ったのさ」

 俺が勝手に兼仲を倒してしまっただけだが、そう言って誤魔化しておく。
 物語でも、戦場で生死を共にした仲間を名前で呼ぶようになったケースがよくあったじゃないか。

「あれは、俺がお館様に倒されただけ……「あーーーっ! 色々と大変だったな! 雪?」」

「そうですね、兼仲殿は北部でも名の知れた猛将だったので」

 雪も、すぐに状況を察して俺のフォローに回ってくれた。
 さすがは、この島の実質的な代官職を任せようと考えた才媛である。

「そうなんだ。私は、またヴェルに奥さんが増えるのかと思ったわ」

「それは……ねえ? 雪」

「私如きがあり得ない話です(まあ、機会があれば……むしろその機会が多いので、大いに期待できる?)」

「ホソカワさん?」

「いいえ、何でもありません!」

 雪は、何をブツブツと独り言を言っていたのであろうか?

「先生、今日も予定よりも十パーセント増しの進捗率です」

 アグネス達も魔法の特訓になるからと、街道整備や田畑や用水路の造成を続けていた。
 ルルを連れて、魔法の訓練がてら頑張っている。

「シンディとベッティは?」

「シンディは、用水路を広げに行きました。ベッティは、ルイーゼさんと井戸掘りです」

 用水路を掘るくらいなら、黒硬石の層の上にある普通の岩や土を掘るだけだ。
 なので、魔法使いならさほどの難事でもない。
 ところが井戸を掘るとなると、必ず十メートル以上もある黒硬石の層をぶち破らないといけないのだ。
 これができる導師は兼仲の訓練に忙しく、俺も領主として色々と忙しい。
 そこで、ルイーゼがアグネス達に岩盤を魔法で打ち砕く方法を伝授していた。
 あの三人は上級なので、多少日数がかかるにしても黒硬石を打ち破れるからだ。
 一度に大量の魔力を使うので、魔力を増やす鍛錬にもなる。

「えらい事に首を突っ込んでしまったが、魔族との交渉で何も動きがないからなぁ……」

 ブランタークさんは、ヘルムート王国と魔族の国との交渉がまるで進んでいない事実に呆れ顔だ。
 もし交渉に進展があったら、俺に出番があるかもしれないのでアキツシマ島ばかりに構っていられない。

 ところが、向こうはまるで音沙汰なしである。
 双方に自由貿易が始まると損をする人物や団体があり、そこが手を変え品を変え妨害しているらしい。
 王国側は魔道具ギルドが露骨に圧力をかけているから、あのユーバシャール外務卿だと厳しいだろう。

 暫くはこちらの問題に専念できると思う。

「ブランタークさんは、ブライヒレーダー辺境伯から何か言われていますか?」

「俺の場合は、元々伯爵様担当だからな。バウマイスター伯爵領が広がれば交易とかで商売も広がる。王国がさらに南方の探索を始めれば、新しい島や大陸が見つかるかもしれないから、これはもう新しいフロンティアだ。手を貸して貸しを作っておくのは悪くないじゃないか」

 ブランタークさんの言うとおりに、南方には夢があるかもしれない。
 東方にも同じように夢があり、西方は魔族との交渉次第か。
 唯一北方のみは、アーカート神聖帝国があって探索ができない。

 王国もブライヒレーダー辺境伯家も、これからを見据えて未発見の土地に唾をつけておこうという算段だな」

「南に移民し航路を拓くにあたって、バウマイスター伯爵領が安定していないと意味がないからな」

 アキツシマ島は、南方探索開発の中継拠点として安定していなければならず、ブランタークさんも手を貸してくれたというわけだ。

「まあ、先は長いけどな……」

 確かに、現在バウマイスター伯爵家で押さえているアキツシマ島の領地は全体の二パーセントちょっと。
 残念ながら、一番家柄がいいはずの秋津洲家はこの島で一番小さな領地しか持っていなかった。
 七条家も似たり寄ったりであり、早期に勢力を拡大する必要があるであろう。

「開発は進めます」

「基本、俺らは余所者だ。支持を得るためには、明確な飴が必要となるか」

 いつの間にか俺の参謀ポジションについたブランタークさんが、この島の地図を見ながら呟く。

「五十くらいの勢力に別れているとの細川殿のお話だったが、実際にはもっと多いんだな」

「ええ。小領主は、時にある大きな領主につき、また別の大きな領主につきと、そんな感じですので……」

 大きな領主に圧迫されて臣従したが、そこが力を落とすと別の大きな領主を頼る。
 一種の戦乱なので戦はあるのだが、あまり敵を追い詰めないルールらしい。

「兼仲はルール破りをしようとして負けたのかよ」

「そこまでは考えていなかったそうです」

 脅せば、御所の水を使えるくらいの感覚で軍を集めたそうだ。
 実は上手く行く可能性があったのだが、俺達の乱入で失敗した。
 彼は領主として、とことんツキがなかったのであろう。

「今は武官になれてかえって喜んでいるのか。導師と同種類の人間に見えるからな」

 兼仲は、村を統治して税を集めるなんて作業がとことん苦手だからだ。
 今は雪が担当している。
 仕事量が倍に増えたわけだが、彼女は有能なのであまり苦にしていないようだ。
 旧七条領の名主達も、『兼仲様はお優しいのですが、そういうお仕事がちょっと……』と口を揃えて言い、雪を歓迎した。

 なお、名主達に脳筋扱いされた兼仲はちょっと切ない表情を浮かべていた。

「体制としては、ここはバウマイスター伯爵領であり、代官は秋津洲家、副代官である細川家が実務を担当ですね」

 秋津洲さんは島一番の名族の出なので、君臨すれど統治はせず、領民達の治療をしながら島民達に慕われるのがお仕事というわけだ。

「それで、導師が鍛え直していう兼仲が武官なわけだな」

 彼が先陣に立てば、大抵の人間は震えあがるからな。
 俺達魔法使いは例外だが、本来上級なんて滅多にいない。
 ましてや、この島には上級の魔法使いが一人もいなかった。
 中級の兼仲がトップクラスの実力の持ち主なのだ。

 彼に勝てる奴など、滅多に存在しないわけだ。

「早速、南に調略をかけます」

「言う事を聞くかな?」

 ブランタークさんと雪、イーナ、アグネスと共にこの島の地図を見る。
 各領主の勢力分布図まで書かれたかなり詳細なものであり、これを調べた雪の力量を示すものであった。

「この地に来た商人やお涼様から治療を受けた者達から聞きました。島の地図自体は、元々秋津洲家は島を統治していたので所持していたのです。小領主はコロコロと所属を変えるので、現時点では多少の変化があると思ってください」

「とりあえず、島の北方を統一しないと駄目か……」

「しても、中央の三好家と争いになるけどな」

「どうせ争いになる以上、少しでも多くの領地を押さえないと」

 それに、事実上の天下人と呼ばれている三好長慶ですら、完全に押さえているのは中央との周辺領域だけ。
 北部、東部、西部、南部に複数の有力大領主がおり、その下で小領主がその時に応じて所属を変えたりしていた。

「(子供の頃にやった戦国シミュレーションゲームみたいだな……)雪、この北部で強いのはどこだ?」

「一番の大身は伊達家ですね。秋津洲家とも遠縁で名族、自領も広く、従えている小領主も多いです。次は最上家。我らと至近にある南部家も侮れません」

 どの家も、某戦国シミュレーションゲームや歴史ドラマではお馴染みの名前であった。
 勿論苗字と名前が同じだけで、本人は出てこないはずだ。

 ……この世界に転生してきたとかないよね?
 ちょっと不安になってきた。

「当主は、雪や秋津洲さんのように女性なのか?」

「いえ、大半の当主は男性ですよ。我々はあくまでも例外なのです」

 もし当主が全員女性だったら、日本の創作物を参考に神が何かしたのかと疑う事態だったな。
 二人の場合、あくまでも直系に女性しかいなかったからのようだ。

「そんなわけでして、私は細川家の跡取りを産まないといけないのです」

「そうなんですか……」

 雪、そうやって俺に期待の視線を向けるのはやめてくれないか?

「ヴェル、モテモテでいいわね」

 イーナさん、その笑顔が物凄く怖いです。

「とにかくだ! まずは田植え、種まきを終えたら出陣だ!」

 俺達バウマイスター伯爵家は、まずは北部統一に向けて動き出す事になる。





「総数二百か……で大丈夫なのか? ナンブって、結構大物領主なんだろう?」

「ブランターク殿、こちらは田植えと種まきが終わったとはいえ、農作業等で忙しいのでこれが限界、向こうも同じ状況なので戦力比は変わりませんから」

 秋津洲領と七条領を併合したバウマイスター伯爵家は、第一目標としてアキツシマ島北部平定に乗り出した。
 王国と魔族による交渉の行方がわからないので、なるべく急いだ方がいい。

 俺達はエリーゼ達も含めたフルメンバーで、フリードリヒ達が心配だが、ここは涙を呑んでアマーリエ義姉さんやメイド達に任せている。
 何日かに一度、『瞬間移動』で戻って顔を見る予定だ。

 ただ、この予定も計画どおりに作戦が進んだらという前提条件がある。
 昔の地球の貴族や大名も、忙しくて子供になかなか会えなかったりしたから、為政者というのは色々と大変なのだ。

「あなた、まずは慌てずに平定作業を進めましょう」

「そうだな」

 従軍神官の仕事がすっかり板についたエリーゼに焦らないようにと諭され、俺は少し落ちついた。

「まあ、バウマイスター伯爵様と奥様はいい御夫婦なのですね」

「はい、私達はもう出会ってから長いですから」

 俺の隣に、名目上の代官にする予定の秋津洲さんがいる。  
 彼女はエリーゼに比べると治癒魔法使いとしての実力では劣るが、島一番の名族の出で、普段は領外からも来る患者の治療で活躍しており、北部で彼女の名は不動のものとなっていた。
 領民達にも好かれており、彼女は看板に相応しい人物というわけだ。

 本人もとても優しい子で、エリーゼとも仲良さそうに話をしているのだが、どこか引っかかるんだよなぁ……。

「アキツシマさんにも、そのうちにいい旦那さんが現われますよ」

「そうでしょうか? でも、意外と近くにいるかもしれませんね」

「遠くの方かもしれませんよ」

「それはそれで面白いかもしれません」

 エリーゼと秋津洲さん、一見ほのぼのと会話をしているように見えるのだが、やはりどこか引っかかるものがある。

「エリーゼ様、私達は臣下となったのです。そのまま涼子と呼び捨てにしてください。ヴェンデリン様もです」

 秋津洲さんは、エリーゼのみならず俺にも名前で呼んでくれと言った。

「ヴェンデリン様、家臣をさんつけはおかしいですから」

 秋津洲さん……じゃなかった。 
 涼子の言い分は正しかった。
 だが、どこかエリーゼの機嫌が悪いような……。
 俺の呼び方も突然ヴェンデリン様になっており、でもあまり違和感は感じないな。
 やはり、久々の巫女服は偉大である。
 自分を名前で呼んでくれというのも、先にエリーゼに頼んで既成事実を作ってから、俺にも言った?
 主君の奥さんが涼子って呼んでいるのに、俺が秋津洲さんって呼んだらおかしいので、間違ってはいないんだ。

 でも、実は涼子って意外と強か?

「私はこの島の平和のため、ヴェンデリン様の下で一生懸命に働かせていただきます。残念ながら、お飾りの代官職と治癒魔法使いとしてですが……」

 自分に統治者としての資質がないと自覚している涼子は残念そうであったが、それでも島一番の名族の出だ。
 その血は、この島を纏めるのにとても役に立つ。

 彼女がいる事で反抗する者が少なくなるのなら、これはもう万々歳であろう。
 できれば、これからも秋津洲家が代々この島の代官職を世襲し、それが多くの人達に認められるよう、バウマイスター伯爵家と婚姻関係を結んで……あれ?

 俺が涼子を見ると、彼女はとても可愛らしい笑顔を浮かべた。
 エリーゼの方は、その笑顔が何か怖い……。

 これ以上深く考えるのはやめよう。
 今は北方平定の方が先だ。

「あなた、ちょっと失礼しますね」

 行軍の合間に休憩に入ったのだが、いつもなら俺の傍を離れないエリーゼが席を外した。
 彼女は十分ほどで戻ってきたが、何と普段の服装ではなく涼子と同じく巫女服姿であった。

「似合うね、エリーゼ」

「ありがとうございます」

 俺に褒められたエリーゼは、とても嬉しそうだ。
 金髪巫女服も、これはこれでとてもいいな。

「でも、どうして?」

「涼子さんと同じです。この島では、女性の治癒魔法使いはこういう格好をするのが常識のようなので、郷に入れば郷に従うを実践したのです」

 この島に治癒魔法使いは少なく、女性はさらに少ない。
 巫女服姿なのは涼子だけなので、エリーゼは女性治癒魔法使いはみんな巫女服を着るものだと思っているようだ。

「そうなのか? 涼子」

「私の場合、秋津洲家は元々神官の出なので……」

 この島には神道に似た宗教があり、秋津洲家はその宗教の神官の出だそうだ。
 徐々にその力は落ちているが、代々優秀な治癒魔法使いを排出しやすく、治療と神官としての仕事、昔から世俗的な権力よりも宗教的な権威を利用して君臨していたわけだ。

「そのため、分家やそのまた分家の神官連中に利用される危険性もあり、この北方に領土を確保しました」

 唯一の本家の人間である涼子を取り込み、本家を乗っ取る算段だったのか。
 それにしても、雪は本当に忠臣だよな。

「お涼様が普段おられる場所は『御所』と呼び、本家の健在を誇示しているわけです」

 普段涼子がいる御所は、名前は立派だが大きな屋敷程度でしかない。
 近くにふんだんに地下水が湧く場所があり、そこを領地が水不足だった兼仲が狙ったわけだ。

「第一段階の目的としては、伊達家が本拠を置く『米沢城』を確保し、そこを本拠地にして北部を掌握する事かと」

 米沢って、確か伊達家の本拠地だったような……。
 まさか、本拠地まで同じ地名とは思わなかった。

「それはいいけどよ。その前にまずはナンブじゃないのか?」

 エルからすれば、まずは最初に戦いになる南部家の方が気になるようだ。

「雪さん、南部家とはどれくらいの力があるのですか?」

 エルに同調したハルカも、雪に南部家の戦力を問い質した。

「そうですね……南部家で千人程度は動員可能かと思いますが、我々とは違って田植えや種まきが終わっていません。半分動員できれば大したものだと」

「ですが、主家の危機なのでは?」

「それはですね、ハルカさん」

 南部家は大領主ではあるが、大半は領地は小領主の集合体であり、本家の領地はそこまで大きくない。

「農繁期に動員なんてかけたら、小領主達はそっぽを向くでしょうね。無理強いすれば、他の大領主に裏切るなんて日常茶飯事ですから」

「……大変なのですね……」

 ミズホ公爵領ではミズホ家の力が強く、ハルカはこの島の現状が信じられないようだ。
 大領主が兵を挙げると、それに近隣の小領主が従う。
 それで勢力が増えたように見えるが、他の領主が兵を挙げると今度はそちらに従って勢力図が塗り替わる。
 これを延々と繰り返すわけだから、この島の戦乱は一向に終わらないわけだ。

 従わない小領主を殲滅するという手法を取りそうな気がするが、それはタブーなのだそうだ。
 たまに領地を奪われる領主もいるが、彼らは一族は追放処分で終わってしまう。
 逃げ延びた領主一族は、追放した領主に対抗している領主の世話になったり、中央の三好家などに仕えたりするらしい。

 戦乱とはいえそこまで血みどろというわけではないが、これだと永遠に島の統一は難しいだろうなとは思う。

「そこで、膨大な魔力を持つお館様の存在が役に立つのです」

 俺、導師、ブランタークさん、エリーゼ、ルイーゼ、カタリーナ、テレーゼ、リサ、アグネス、シンディ、ベッティ。
 上級魔法使いがこれだけおり、それだけで過剰戦力といっても過言ではない。

 イーナ、ヴィルマ、カチヤは中級クラスの魔力を持ち、この島では頂点に近い実力を持つ。
 エルとハルカはオリハルコン刀を持ち、残念ながらこの島の鍛冶技術で作られた刀では歯が立たない。
 雪によると、この島ではオリハルコンが採れないそうだ。
 外部からも持ち込めておらず、それどころかミスリルすら存在しない。 
 鋼で作られた刀や槍が最高品質の武器であり、エルやハルカとまともに斬り合えないのが現実であった。

「でも、戦力比が圧倒的な方がいいな」

 犠牲を少なく平定するには、強大な力で脅すしかない。
 統治を安定化させるには、これは時間をかけないと駄目であろう。
 それにしても、陛下はよくわかっている。
 俺にこの島を押しつけてしまうのだから。

「ヴェル、あの内乱よりは楽だと思うよ」

「そうね、この島には古代魔法文明の遺産もないだろうから」

 ルイーゼとイーナに励まされ、俺は行軍を続ける。

「ぷっ、ヴェル様」

 不意にヴィルマが俺の腕をトントンと叩くので振り返ると、彼女の横にエリーゼに続き、巫女服に着替えた三名がいた。
 カタリーナ、リサ、ベッティである。

「なぜ?」

「軍勢の中で、治癒魔法が使える者を区別するためです」

 この中で一番の治癒魔法の使い手であるエリーゼが巫女服に着替えたので、うちの女性陣で治癒魔法を使える者は全員着替えたそうだ。
 カタリーナは、水系統の治癒魔法で軽傷者には対応できる。
 リサも、ブリザードの二つ名から水系統の治癒魔法が使えた。
 ただし、カタリーナと同じく軽傷者にしか対応できないそうだ。

 俺の弟子である三人娘の中では、ベッティが唯一水系統の治癒魔法が使えた。
 ただし、二人と同じく軽症者にしか対応できなかった。

「ヴェル様、カタリーナが変」

「うーーーん」

 カタリーナの巫女服姿が似合わない理由は簡単であった。
 洋風そのものの縦ロールの髪型と、和風そのものの巫女服の相性が最悪だからだ。
 リサとベッティは、涼子ほどではないがよく似合っているのだから。

「私、元のドレス姿に戻りたいですわ」

「従軍中なので、そこは我慢していただく方針でお願いします」

「仕方がありませんわね」

 カタリーナは意外と真面目なので、雪から軍規の関係でと言われると何も言い返せなかった。
 兵士達からすれば、誰が治療してくれるかわかった方が安心であり、その数が多い我が軍の士気は高く保たれるわけだから。

「リサさんは、よく似合っていいですわね」

 すっぴんのリサは落ち着いた感じなので、巫女服が似合っている。
 ベッティはまだ未成年で幼いので、やはりとても可愛らしかった。

「負傷しても、これなら安心だな」

「そうだな」

「んだんだ」

 従軍している兵士達は、自軍にいる治癒魔法使いの多さに安心していた。
 みんなが巫女服に着替えたのは、決してコスプレ趣味というわけではないのだ。

「治癒魔法使いを準備できない領主の方が多いので、我々は物凄く贅沢だと思います」

 秋津洲家は元々治癒魔法使いの家系だからこれは例外で、大半の領主は一族に多くても二~三名くらいしか魔法使いがいないそうだ。
 その中から治癒魔法使いはというと、数代で一人出れば御の字らしい。

「まず一番最初に当たる南部家は?」

「それでも、服属領主の当主や一族には魔法使いがいるので、十名ほどはいるかと。ただし、みんな初級です。治癒魔法使いは、一人いればいいですね」

「そんなものなのか……」

 最近、どこの名族でもなかなか魔法使いが出なくなって困っているらしい。
 そのため、今では魔法使いの子供が産まれると問答無用で跡継ぎにされるケースが多いそうだ。

「血が濃い方が魔法使いが出やすいので親戚同士で婚姻を行うも、子供が産まれなかったり、産まれても体が弱くて長生きできなかったりしますね」

 一つの島で一万年以上も暮らしてきたので、そろそろ遺伝的に限界が来ているのであろう。
 ただ、閉鎖的な島で生きてきたからこそ、逆に魔法使いの才能が何とか遺伝してきたという現実もある。
 地球のハスプブルク家のように、大分遺伝状態の悪化が進んでいたようだが。

「ゆえに、外部から優秀な魔法使いの血が入る事に私は歓迎です」

「そうですね。昔は島一番の魔力の持ち主と謳われた、秋津洲家の当主である私がこの程度なのですから……」

 涼子は、ここ数代で秋津洲家の当主が持つ魔力量が大幅に減ってしまったと俺に説明した。

「ですが、私とヴェンデリン様の子供が秋津洲家の当主となれば安泰ですね」

「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」

 涼子の発言で、その場の時間が一瞬止まってしまった。

「あれ? おかしい事でしょうか? 秋津洲家の代官職がお飾りだとしても、秋津洲家の当主は代々優秀な治癒魔法使いの方が求心力があるではないですか」

 涼子の言い分は正論だ。
 正論だからこそ、俺は答えに窮した。
 エリーゼ達がどんな顔をしているのか、見るのが怖い。

「細川家も、できればお館様の血が入っていた方がいいですね。何より、私もお涼様も一族唯一の生き残りとなってしまいましたので」

 更に、雪も爆弾を投下した。

「ええと……そういう事はあとで決めるのが……「前方に敵軍あり!」」

 ちょうどいいタイミングで俺達の前面に敵軍が姿を現した。
 実は南部家にバレるよう行軍を続けていたのでこれは想定内であり、俺からしても更に嫁が増えるかもしれない話を先延ばしにできたので、心の中で南部君に拍手を送ったくらいだ。

「全軍、応戦準備!」

 先陣と味方の軍勢を纏める兼仲が、素早く隊列を整えて敵軍と対峙した。

「どのくらいいるかな?」

「うーーーむ、総勢で六百というところである!」

 ブランタークさんと導師は、まるで物見遊山のように南部軍を観察している。

「攻撃してこないな」

「先に大将の物言いがあるのが我々の決まりですので」

 相手の隙を突き、奇襲をかけるような戦争は滅多に起こらないらしい。
 互いに軍勢を出し、大将同士がそれぞれに要求などを言い、それから戦闘になるそうだ。
 敵軍から三十ほどと思われる男性が馬に乗ったまま、数騎のお供を連れて姿を現した。

「我こそは、南部家の当主南部晴政である! 秋津洲の女当主よ! 何ゆえ兵を挙げたか?」

 南部家の当主は晴政というらしい。
 俺は歴史に詳しくないので、彼が戦国時代の人物と同名なのかわからなかった。
 従っている連中は、服属している小領主のようだ。
 みんな、魔法使いだとわかる。

「ブランタークさん、これぞという強者はいませんね」

「そうだな。あのナンブとかいうのがもう少しで中級かなってところだ」

 南部家は名族らしいが、当主の魔力が減少していく宿命から逃れられていなかった。
 他の小領主達はみんな初級クラスだ。
 小領主で中級の兼仲が、北部で一番の猛将だと評価されるわけだ。

「細川藤孝! 説明を求めるぞ!」

 秋津洲家の実務は、細川家が見ている。
 この事実は周知のようで、晴政は雪にどういう事かと尋ねていた。

「見てのとおりです。外から膨大な魔力を持つバウマイスター伯爵様がこの島の平定を決意なされ、我が主秋津洲高臣様がこの島全体の代官に任じられました。素直に降って従うのならよし。嫌ならば、バウマイスター伯爵様とその配下の方々の魔法で消し炭にされるのみ。信じるも信じないも、貴殿のご自由ですが」

「呆けたか! 小娘!」

 随分と傲慢な言上であったが、元からこう言って晴政を挑発するのが作戦の内であった。

「その若造がバウマイスター伯爵とやらか。それほど凄い魔法使いだというのか?」

「あーーーあ、だそうですよ。ブランタークさん」

「この島の魔法使いの劣化は酷いな」

 何しろ、他の魔法使いの力量を見抜けないのだから。
 兼仲は俺達の強さに気がつき、恐怖に慄きながらも戦った。
 晴政達は、俺達の魔力の量にすら気がついていない。

 確かに、この島の魔法使いの劣化は酷いと思う。

「試してみるか?」

「何を試すのだ?」

「俺達で決闘して、勝った方が総取りだ」

「総取りだと?」

「そうだ、お前が勝てば秋津洲領も七条領も南部家の領地になる。お前が負けたら、我々が南部領を併合する。わかりやすいだろう?」

「そのような条件、あとでお前らが負けてもやっぱり嫌だと言うかもしれないじゃないか」

「それはないな」

「ほう、なぜそう言い切れる」

「絶対に俺が勝つからだ。むしろ、お前が負けてやっぱりなしという危険の方が高いな」

「言わせておけば! ここに居るすべての兵達が証人だ! いくぞ、バウマイスター伯爵とやら!」

 思ったよりも簡単に挑発に乗ってくれた。
 あとは、俺が晴政を撃ち破るのみだ。

 とは言っても、彼は所詮は初級。
 師匠のような技巧派というわけでもなく、俺は軽く『魔法障壁』を張って彼の魔法を防いだ。
 晴政は連続して『火球』を放って俺にぶつけようとするが、すべて簡単に弾かれてしまった。

「全然効かないな」

「舐めるな!」

 晴政はもっと巨大な『火球』を作ってぶつけるが、やはり俺が張った『魔法障壁』には通用しない。
 しかも、彼は初級でしかない。
 すぐに魔力が尽きてしまった。

「降伏するか?」

「お前は俺の攻撃を防いでいただけではないか!」

「つまり、攻撃を食らいたいと?」

「守るのは得意なようだが、果たして攻撃はどうかな?」

「じゃあ、攻撃してやる」

 俺は直径三メートルほどの『火球』を作り、晴政の上空に浮かせた。
 それを見た晴政は、絶句したままその場で動けなくなってしまう。

「念のために聞いておくけど、これをお前の体に落としてもいいか? 多分、骨も残らないと思うけど」

「……」

 次第に、晴政の顔色が真っ青になっていく。

「南部家の家臣の人達、及びに服属領主の方々。南部晴政殿につき合って滅びの美学を追及されるのなら、俺は止める気はないけどね。それで、返答は?」

「我ら津軽家は降るぞ!」

「九戸家も降る!」

「北家も降ります」

「八戸家もだ!」

 晴政を除く全員が、彼よりも先に降ってしまう。
 そして最後の残された晴政も遂に決断した。

「南部家も降ります……」

「それはよかった。じゃあ、この『火球』は邪魔だな」

 俺が作った『火球』を不要とばかりに少し離れた場所にある岩山へとぶつけると、その岩山はドロドロに溶けてなくなってしまう。
 それを見た晴政達は、全員その場で腰を抜かした。

「悪辣よのぉ、ヴェンデリン」

「殺すよりはいいさ。魔族の件もあるから、なるべく早くに島を統一し、あとの統治で徐々に支配力を増す方法で行く」

「まあ、それがよかろう。どうせこんな特殊な事情のある島じゃ。王国も無茶は言うまい。我々に押しつけた罪悪感も多少はあるであろうから、あとで支援なり援助を集るのを忘れるでないぞ。名目は『将来王国が南方探索をするための後方拠点整備費』あたりかの。もっともな理由をつければ、役人は納得する生き物じゃからな」

 圧倒的な力で脅かして、相手の気力を折ってしまう。
 この作戦を俺に提示したのは、兼仲には難しい軍政面で協力してくれているテレーゼであった。
 伊達に元フィリップ公爵ではないわけだ。

「わかったよ、テレーゼは頼りになるな」

「この程度の忠告、大した事でもあるまいて」

 我がバウマイスター伯爵家、秋津洲家合同軍は、犠牲ゼロで北部の有力領主南部家を降す事に成功するのであった。
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