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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第百四十三話 ゾヌターク王国復興?

「このままでは、魔族は衰退する! 余は魔族の王国を復活させるのだ!」

 いきなり俺達に会いに来て、魔族の王国を復活させると宣言した魔王様(年齢十歳の少女)。
 正直なところ、好きにやってくれという感じだ。
 俺達が関わると内政干渉となりゾヌターク共和国政府を刺激するから、当然手は貸せない、貸す理由もないけど。

「建国ともなれば、将来的にはヘルムート王国やアーカート神聖帝国とも対等な同盟を結びたいところ。よって、今日は無心にきたわけではないぞ」

「下手に援助を受けると借りになってしまいますし、ゾヌターク共和国側が警戒するでしょうから……」

 宰相であるライラさんには、まともな判断力があるようであった。

「でも、どうして今なの?」

 ルイーゼは、今のこの時期に王国建国の宣言をした理由を訪ねる。

「魔族はこれまで、一万年以上も一国で安定した統治を行っていた。あまりの安定ぶりに魔族の本能が衰えてしまうほどだ。だが、ここで人間の国家が二つも確認された。これからの魔族には大きな変化が訪れる。いい点も悪い点も多かろうが、ゾヌターク共和国が正常な判断をする保証もない。よって、余達は立つ事にしたのだ!」

「国が二つあった方が、どちらかが生き残れるという現実的な理由もあります」

 この魔王様、十歳にしてはまともな事を言うな。
 女の子だから、ませているのかもしれない。
 宰相のライラさんも冷静である、今の魔族は女性の方が優秀なのであろうか?

「魔族が人間に滅ぼされる? そんな事があるのか?」

 魔族は全員が魔法使いで、魔導技術も人間側を圧倒している。
 どう考えても、人間に滅ぼされるとは思わない。
 むしろ逆を心配した方がいいであろう。

「魔族はご覧のとおり少子化で人口が減っております。一方、人間は数が増えるばかり。リンガイア大陸の開発が終われば、他の島や大陸にも勢力伸ばすでしょう。確かに魔族は魔導技術に優れておりますが、それも時間が経てば追い付かれるかもしれません。長期的な視野に立ち、今女王陛下は立ち上がったのです」

「立ち上がったのだ」

 胸を張りながら、堂々と宣言する魔王様。
 だが、残念ながらまだ背と胸が足りなかった。
 志は立派だと思うんだけどなぁ……。

「でも、そんな急に独立できるの? 共和国の警備隊に鎮圧されて終わりじゃないの?」

 まあ、普通に考えればイーナの言うような結末になるよな。
 ゾヌターク王国には問題も多いけど、分裂するほど混乱していないのだから。

「独立などまだ先の話だ。余が生きている間には不可能であろう。だが、その根拠地を整備する事は可能! まあ、余達の活躍を見ているがいい」

「陛下、そろそろ家に戻る時間です」

「うむ、学校の先生が暗くなる前にお家に帰りなさいと言っていたからな」

「「「「「「「「「「あららっ!」」」」」」」」」」

 国家の独立云々言っていたような気がするんだが、学校の先生の言うことはよく聞く魔王様か。
 何というシュールな存在なんだ……。

「それではまた会おう!」

「失礼します」

 言いたい事だけ言うと二人は部屋を去り、俺達は彼女達の発言の真意について考え込んでしまう。

「あなた、これは危ないお話なのでは?」

 エリーゼが心配するのもわかる。
 この国では既に力はないと思われていた魔王が、俺達と会見した直後に共和国からの独立を図る。
 俺と、その後ろにあるヘルムート王国が魔族を分断させようと目論んでいる。
 そういう風に捉えられかねないからだ。

 ところが、そんな心配を一笑に付す存在がいた。
 新聞記者であるルミであった。

「心配いらないと思うっすけどね」

「おい、新聞記者。ここは、そういう陰謀があるって読者を煽るのが普通だろう?」

「うち、民権党の政治家の言いなり上司が多くて問題視されてるっすけど、これでも一応売り上げトップの新聞社っすから。イエロージャーナリズムじゃあるまいしって感じっすね」

「クォリティーペーパーだって言いたいのか?」

「それっすよ! それ! 自分、後輩達と違って、真面目に就職活動したんすから」

「「「俺達もしたんだよ!」」」

 ルミの言い分に、モール達がムキになって反論した。
 真剣に就職活動をして全滅か……。
 俺なら心が折れるな。
 前世では仕事が大変だったけど、ちゃんと就職できてよかった。

「第一、警備隊がまったく警戒していないっす! たまに不祥事で批判されるし、反軍思想の矢面に立ってある層に嫌われているっすけど、基本警備隊は優秀な人が多いっすよ」

 就職するにしても、競争率が高そうだからな。
 公務員で収入も待遇も安定しているだろうから、優秀な人が集まりやすいのであろう。

「心配ないと言っておくっす」

「ならいいけど……」

 そして翌朝、魔王と宰相による独立宣言の詳細が明らかになった。
 ルミがエブリデイジャーナルの朝刊を持参したのだ。

「出てたっす。この記事っす」

「どれどれ」

 その記事は生活面にあった。
 王政国家が独立する話なのに、なぜか記事が生活面。
 この違和感は何なのだ?

「ええと……『歴史あるゾヌターク王国の女王陛下、新生ゾヌターク王国の国王に就任』。肝心な記事の内容は……」

 記事を読んでいくと、こういう風に記されている。
 彼ら魔族の住まう島は、現在四分の一ほどの領域しか人が住んでいない。
 昔は四分の三ほどまで人が住んでいたが、徐々に人口が減って放棄された。
 無人となった土地は荒れ果て、自然に戻り、古い放棄地には魔物の領域に戻ってしまった場所もある。
 これら放棄地を、職がなかったり、待遇が悪い暗黒企業を抜け出した若者達が再生する活動が始まっている。
 彼らは基本的に自給自足の生活を送り、生活に必要なインフラ設備も、放棄されたものを修理、維持している。
 彼らの主な収入源は生産した農作物の販売益などであり、その平均収入は総じて低いが、自給自足生活のおかげで困窮はしていない。
 むしろ、精神的に豊かな生活を送っていると言えよう。

 この挑戦が上手く行くのか?
 注目していきたいところである。

「……」

 この記事を読むと、俺には既視感しか感じられなかった。
 これって、地球の国々でもあった活動だよな。
 若者が、廃村や耕作放棄地を利用して生活を始めるってやつ。

 確か、農村再生運動とか、ロハスとか言ったかな?

「ルミ、お前知らなかったのか?」

「そりゃあ記者っすから、こういう活動があるのは知っているっすよ。でも、担当が生活部だから担当外っす」

「お前、役人みたいな事を言うな」

「バウマイスター伯爵さん、魔族の社会を理解しすぎっす!」

 いや、魔族の事に詳しいんじゃなくて、ただ単に日本によく似ているから知っていただけなんだけど。

「これ、独立なのか? 俺にはただの農村復興運動に見えるけど……」

「さあ? 俺にはさっぱりわからん」

 俺の問いにエルは首を傾げた。
 新聞の記事を前にみんなで悩んでいると、そこに再び魔王様と宰相が姿を見せた。

「今日は略装で失礼するぞ」

「陛下は、今日は学校でして」

 今日の魔王様は、普通のワンピース姿であった。
 そして、ランドセル……。
 魔族の国の子供は、学校にランドセルを背負って行くようだ。

「これが独立運動ですか?」

 イーナが、二人に新聞の記事を見せた。

「然り! 共和国の連中が放棄した土地に、職がなかったり、今の生活に不満がある連中を集めて集団を形成する。千里の道も一歩から! こうやって臣民を増やし、最終的には王国の独立を目指すのだ!」

 臣民というよりも、組合員や団員と呼ぶ方が適切かもしれない。
 王国を名乗っているが、これもどちらかというと団体名や社名に近かった。

「陛下は、この活動を行う非営利団体の会長に就任しております。私は、副会長兼会計役に専念する事になったのです。陛下は休日以外は学校がある身、普段は私がこの団体を取り纏める予定です」

 放棄地の各所にある農村を取り纏める非営利団体ねぇ……。
 共和国政府が無価値だと思っている土地で、魔王様と宰相が無職の若者を集めて自立の道を模索している。
 生活保護でなくなる者が増え、わずかではあるが税金も納めていれば、それをわざわざ妨害するのは不利益しかないわけだ。

 第一、魔王様達が武装しているとも思えない。
 それは警備隊が何も言わないわけだ。
 そもそも、魔王様達と共和国政府は対立すらしていないのだから。

「だが、それが甘い。余の生存中は難しいであろうが、子や孫の世代には我らの組織は大きく拡大していよう。武力闘争に頼る事なく分離独立が可能なのだ」

「さすがは陛下。非常にクレバーな作戦です」

「何の、ライラの献策のおかげではないか」

 それは独立したというよりも、ただ単に組織が拡大しただけのような……。
 非営利団体側も、そのための神輿として魔王様を選んだのであろうし……。
 幼女魔王様なら軽い神輿でお上に警戒感も与えない。
 それに庶民って、実は王様とか王女様が好きだからな。
 独裁でもされて迷惑を蒙らなければ、この幼い魔王様を微笑ましく見ているだけであろう。

「陛下、そろそろ学校のお時間です」

「もうそんな時間か。余も皆に愛される魔王となるべく、よく勉強して努力せねばなるまい」

 魔王様は、宰相の送迎で学校へと向かった。
 学校は休まないでちゃんと勉強しているようだ。

「ちゃんと勉強しても、職に就けない俺達みたいなのもいるけどね」

「本当、現実は残酷」

「「「ヴィルマちゃん! 酷いよ!」」」

「この方達、実は何か問題があるのでは?」

「「「カタリーナさんも酷い!」」」

 モール、そんな夢も希望もない話は聞きたくないぞ。

「あなた、問題にならなくてよかったですね」

「そうだな」

 そして放課後の時間になると、再び魔王様は姿を見せた。
 エリーゼが淹れるお茶を飲み、今日は別の高級洋菓子店で購入したケーキを食べながら宿題をしている。

 というかこの魔王様、なぜか俺達の部屋に通うようになってしまったな。
 フリードリヒ達がいるから、勉強には向かないと思うんだけど。

「バウマイスター伯爵の赤ん坊は可愛いな。子は国の宝だからな。次は、分数の割り算か……」

 魔王様は、宿題である計算ドリルを解きながら眠っている赤ん坊達を時おり見ていた。

「余も、大人になったらよき後継者を産まねばな。問題なのはお見合い相手がいるかだが……」

「恋愛結婚すればいいじゃないですか。政略結婚なんて今どき流行りませんよ」

「何を言うかと思えば……我ら高貴な身分の者達はお家やお国のために結婚するのだ。恋愛結婚も結構だが、教授を含む四名は結婚すらしておらぬではないか」

「陛下、言う事がキッツいわぁーーー」

 モール達は魔王様から独り者である事を指摘され、揃って凹んでいた。

「我が輩は、研究が恋人であり妻なのであるな」

 勿論、アーネストは気にもしていなかったが。

「確かに、貴族や王族の結婚にはそれが一番求められると思います。ですが、素晴らしい旦那様と出会える可能性もありますから」

「エリーゼは、よき旦那と出会えたわけか?」

「はい」

 面と向かって言われると恥ずかしいけど、エリーゼにそう思われると嬉しいな。

「余にも、白馬の王子様が現れる可能性があるわけだな。少しは期待しておくか。ところで、バウマイスター伯爵。この計算がわからん」

 魔王様は、学校の宿題である計算ドリルを俺に見せた。
 どうやら、魔王だから宿題をサボるという選択肢は存在しないようだ。

「分数の割り算か……」

 魔王様が授業中にやったと思われる問題には、すべて×がついていた。
 なぜなら、割り算なのに分数の分子と分母をひっくり返さないで計算していたからだ。
 これでは、分数の掛け算と変わりがない。

「二分の一÷三分の二は、四分の三だ」

 学業から離れて大分経つが、小学校でやる分数の割り算くらいならそう忘れる事もなかった。

「バウマイスター伯爵、なぜ分数の割り算は分子と分母をひっくり返してからかけるのだ?」

「それは、そっちにインテリが沢山いるからそっちに聞いてください」

 アーネストは有名大学の元教授で、学歴はこの国の最高学府の院まで出ている。
 モール達も、実はこの国で五本の指に入る大学を院まで出ており、宰相のライラもいい大学を出ていた。

 俺に聞くよりも確実というわけだ。

「ヴェル、凄いね!」

 小学生の算数の問題が解けただけなのに、なぜか俺はルイーゼからえらく尊敬されてしまった。
 リンガイア大陸で生活するには、文字の読み書き、簡単な四則計算ができれば十分だからか。
 分数の割り算とかは、アカデミーに行かないと必要ないと思う。
 あそこは、エリーゼですら引くくらいの学者バカが集まっているそうだし。

 ちなみに、俺はアカデミーには行った事はなかった。
 だって、話が合わなそうだから。

「まあ、簡単な問題くらいはね……」

 ここで下手に調子に乗ると、もっと難しい問題を聞かれて自爆する可能性がある。
 みんなほどよくお勉強している魔族に押しつけるのが一番だ。

「我が輩、専門は考古学なのであるな」

「俺も文系だから」

「俺も!」

「算数は意外と難しいんだよ。数学ならなぁ……」

 ところが、アーネストとモール達は俺の期待に応えられなかった。
 分数の割り算くらいはできると思うが、なぜ計算する時に分子と分母をひっくり返すかの説明ができないのであろう。

「お前ら、ここで役に立たないでどうするんだよ!」

「バウマイスター伯爵、心外であるな。我が輩、遺跡発掘では役に立っているのであるな」

 そう言われると、アーネストは大きく貢献はしているか。

「じゃあ、モール達は?」

「俺達の仕事は、この国に滞在するバウマイスター伯爵達の補佐であって、分数の割り算の理論を説明する事じゃないし……」

「そうそう」

「俺、文系」

 モール達も駄目なので、ここは宰相家の血を引く才女ライラさんに説明をお願いする事にした。

「分数の割り算ですか……」

「はい。なぜ分子と分母をひっくり返すかです」

「それは、学校の先生にお聞きになってください。かの者は、そのために存在しているのですから。陛下は、仕える家臣の特性を理解し、得意な分野で用いる事が肝要ですので。ところで陛下、明日からのご視察ですが……」

 誤魔化したぁーーー!
 ライラさん、自分もわからないものだから、話題を切り替えて魔王様からの質問に答えなかった。
 それにしても、上手いかわし方である。

「視察か。楽しみだな」

「はい、どの村の住民達も、陛下の来訪を心待ちにしております」

「うむ。余の臣民候補達じゃな」

 ただの農村再生運動の神輿にされているような気もしなくもないが、下手に革命だとか言わないだけマシか。
 そんな事をしても、まず防衛隊相手に勝ち目がないからな。
 ライラさんは、現実主義者というわけだ。

「バウマイスター伯爵、一緒に来ぬか?」

「そうだなぁ……」

 今の今まで、肝心の交渉はまったく進んでおらず、このゾヌターク共和国では俺達の事が話題になる回数が大幅に減った。
 何でも、有名な歌手が結婚するとかで、そちらの方が話題になっていたのだ。

 俺達は歌手よりも下かと思ったら、テラハレス諸島で交渉を続けている両国の交渉団の事などほとんど記事になっていない。
 ルミからのリークによると、洒落にならないくらい交渉が進んでいないので、民権党の支持率下落に繋がると、政府から新聞社にあまり報道するなと圧力がかかっているそうだ。

「おい、民主主義!」

「バウマイスター伯爵さんにそう言われると耳が痛いっす! 民権党には新聞記者上がりが多いんすよ。元上役から書くなと言われると厳しいんす。ほんのちょっと政治欄に記事が出ているのは、若手の可能な限りの反乱なんす!」

 酷い話だが、そういう事情もあって俺達は暇であった。
 農村に遊びに行くのもいいであろう。

「問題は、防衛隊が認めてくれるかだな」

 これが唯一の懸念であったが、防衛隊はあっさりと認めてくれた。

「ああ、例の農村再生運動ですね。いいですよ。変な運動家がいない分、護衛も楽ですから」

「えっ? いないの?」

「ほら、この運動は魔王様がお飾りとはいえトップでしょう? 変な左側の運動家は近寄りませんよ」

 そういう運動家は、王様なんて大嫌いな人種が多いからな。
 魔王様がトップの時点で近寄らないか。

 許可も出たので、翌日から俺達はゾヌターク共和国内を色々と巡る事にするのであった。






 翌日の五の日。
 五の日とは、日本で言うと曜日みたいなものだ。
 一の日から七の日まであり、五の日から七の日までは学校がお休みのようだ。

「随分とお休みが多いのね」

 イーナだけじゃなく、俺達人間はみんなそう思っていた。
 ローデリヒなんて、よほど特別な事でもないと週に一度しか休みをくれないのだから。

「そんなに急いでカリキュラムを達成しても、上が詰まっているからさ」

 モールの説明によると、これも教育期間を伸ばす苦肉の策らしい。
 早く教育を終えても、就職先が少ないから無職が増えてしまう。
 無職が多いと政府への批判が強まるので、休みを増やして教育期間を伸ばしたというわけか。

「先延ばしとも言うのであるな」

「アーネスト、それはぶっちゃけすぎ」

 自分には職があるからって、その言い方は酷いと思った。

「バウマイスター伯爵殿、到着しました」

 その村には古い港があると聞いていたので、俺達は自家用の小型魔導飛行船で過疎地に移動していた。
 もう一隻、小型の警備隊の船も同行している。
 すぐに注目されなくなったが、一応国賓である俺達の護衛のためであった。

「陛下、ようこそお越しくださいました」

 魔王様と一緒に村に到着すると、百名ほどの若者達が出迎えてくれた。
 見た目はみんな二十前後に見えるが、魔族はなかなか年を取らないので本当の年齢はわからない。
 だが、みんな百歳にはなっていないはずだ。

「皆の者、今日はわざわざの出迎え感謝する。村も活気が出てきて余は嬉しく思うぞ」

「みんな、やる気を出していますからね」

「陛下、農業って楽しいですね」

「なかなか作物が育たなくて落ち込む時もありますが、収穫した物を手に持った時の重みでそれも吹き飛びます」

「陛下、自分は鶏を飼い始めたのです。ようやく卵を産んでくれるようになりました。前の年寄りに高価な羽毛布団を売りつける仕事よりも充実していますよ」

 若者がなかなか就職できない社会ってのは深刻なんだと思った。
 それでも、農村で暮らす事に生きがいを感じ始めたのだから、お飾りでも魔王様はみんなのお役に立てているのだな。

「今日はお客さんも多いのですね」

「うむ、遥か東リンガイア大陸にあるヘルムート王国より、バウマイスター伯爵とその家族が来てくれた。余の客人である」

「それでは歓迎しないといけませんね。今日は、芋の収穫を利用して芋掘りをしようと思うのです」

「芋掘りか! 楽しみだな!」

 いくら魔王様でも、やはり年相応の子供だ。
 村の代表から芋掘りができると聞くとはしゃいでいた。

「芋掘り? 楽しそうだな」

 勿論、俺も楽しみにしている。
 というか、あの何もないホテルで待機する生活に飽きていたのだ。
 政府の対応が適当すぎて、俺達は何のためにここにいるのだという気持ちになってきてしまうから。

「芋ならフリードリヒ達に離乳食を作れるかな?」

「いいわね、それ」

「ボク達も芋料理が食べられるね」

 イーナとルイーゼも乗り気となり、フリードリヒ達を船内のメイド達に預けて、みんなで芋掘りに参加した。
 俺も魔法など使わず、自力で芋を掘っていく。

「あれ? 小さい?」

「旦那の掘る芋は小さいのばかりだな」

 気合を入れて芋のツルを引っこ抜いたから、ついている芋はすべて小さかった。
 それを見たカチヤが、俺を笑っていた。

「言うほど、カチヤの芋も大きくないじゃないか」

「あれ? 芋はうちの実家の得意技なんだけどなぁ……」

 確かにサツマイモに似ているけど、マロ芋とは違うんじゃないのか?

「合成肥料を用いておらぬから、大きさもまばらなのだ」

 合成肥料?
 化学肥料みたいなものか。
 魔王様の言いたい事はわかる。

 要するにこの村で行われている農業は、日本でいうところの有機無農薬栽培なのであろう。

「農作物規格には合わぬから、通常の流通路には載せられぬ。だが、この運動の支援者達が購入してくれて評判もいいぞ」

 ますます、日本で見た事があるような運動だな。
 農業を古い方法に戻し、それを支援者に販売して経費をねん出するわけか。
 有機無農薬野菜ファームとか、そんな名前をつけたくなる。

「旦那、合成肥料って何だ?」

「魔導技術を用いた肥料だよな?」

「作物の成長に必要な成分だけを抽出した、工場で生産される肥料と学校で習ったぞ」

 魔王様が俺の問いに答えてくれた。
 芋掘りに夢中で鼻の頭に土がついているが、これもご愛敬。
 しっかりはしているが、年相応の子供なんだよな。

「陛下、お鼻に土が」

「うむ、大儀である」

 それに気がついたライラさんが、ハンカチで土を拭った。
 こうしているのを見ると、君臣の関係というよりは母娘に見えてしまう。 

「へえ、それがあったら兄貴ももっと楽になるのかな?」

「わからない。第一、交易に関する交渉が纏まらないと輸入も困難だろう」

「あいつら、あんな誰もいない島で毎日よく無駄な話し合いができるよな。旦那もそう思うだろう?」

 無駄かどうかはわからないが、話し合いがまったく進んでいないのは事実だからな。
 カチヤの言い分もわからなくもない。

「兄貴も、肥料作りが大変そうだからな」

 そういえば、ファイトさんは自然肥料だけでマロ芋を育てているのだった。
 もし合成肥料を輸入したら、もっと楽に大量のマロ芋が作れるのか?

「合成肥料も一長一短がありますからね。画一的に大量の作物を作るには有利ですよ」

 ようは使い様、時に自然肥料と使い分ける事が重要だと村の代表を務める青年が教えてくれた。
 この青年はとある大農場の子供で、実家の大農場では働かず、この運動に賛同して参加者達に技術指導をしている。
 魔王様は、未来の農業大臣候補だと勝手に言っていた。

「うちの場合、合成肥料の購入費もバカにならないから自然肥料使っているのですがね」

 金をかけずに生活するための運動だから、肥料代で苦労したら意味がないか。
 農薬の類も同じで、肥料と農薬の会社ばかり儲かって農家が困窮しては意味がないのであろう。

「自然肥料でもちゃんとやれば美味しい作物は取れますしね。害虫に使う忌避剤も自作ですし。除草剤は使わずに草取りで。収穫した作物は大きさや形がいいものを支援者に送り、残りを自分で食べる。これで十分です」

「ヴェル、これは大きいわよ」

「へへん、ボクの方が大きいよ」

「たまにはこうして童心に返るのも悪くないのである!」

「娘を連れてくれば喜んだかな?」

「たまには土に塗れるのも悪くないのであるな」

 若者から、約三名いるおっさんまで、みんな芋掘りを楽しんだ。
 通常の収穫作業も兼ねていたので、村の芋畑にあるすべての芋は村民達により無事収穫される。

「これで子供達に離乳食を作るか」

「ヴィルマ、フリードリヒ達はまだ歯がないから、なるべく薄く伸ばしてな。ペースト状にするんだ」

「ヴェル様、詳しい」

 前世で、離乳食を扱った事もあったからな。
 なぜか少子化の時代に大手商社を真似して販売に関わり、見事に失敗した。
 俺は『離乳食ってこういう風に作るんだ』って感じで勉強になったが、責任者の課長、中国の支社に飛ばされて可哀想だったな。
 奥さんから、『中国は大気汚染が酷くて子供の健康によくないから単身赴任して』と言われて送迎会で涙目だったけど。

「赤ん坊にあまり濃い味はよくないから、素材の甘さを生かす方向で。おっと、ハチミツは使うなよ」

 某グルメ漫画で赤ん坊に食わせて批判されていたからな。
 乳児ボツリヌス菌が混入している可能性があるから、一歳以下の赤ん坊は避けるべきだ。

「ヴェル、相変わらず妙な事に詳しいんだね……」

「勉強したんだ」

 前世でという条件がつくけど。
 大した知識でもないけど、この世界だと凄いと思われるものは意外と多い。

「バウマイスター伯爵は、この国の人間のようだな」

 日本と魔族の国って、似ている部分が多いからな。

「エリーゼ、裏ごしした方がいいと思うが」

「そうですね、味付けはこのままでいいと思います」

「十分に甘いですからね」

 エリーゼ、テレーゼ、リサ達が離乳食を仕上げ、それをフリードリヒ達に少しずつあげていた。

「だぁーーー」

「そうか、美味いか」

 エルとハルカも、夫婦でレオンに離乳食を与えていた。

「子供が多いのは羨ましいな。我らには子供がいない」

 魔王様自身が子供だと思うのだが、彼女を除くと確かにこの村に子供はいなかった。

「国にとって子は宝だと思うのだが、我らの運動に賛同して参加した者達の大半は元無職。全員が未婚で、当然子供がいるはずもない。建国計画は苦難の連続だな」

「それでも、ここで出会って結婚した者達もいます。お腹に子供がいる者も数名いるので、そう悲観したものでもありません」

 魔王様はともかく、ライラさんはそう状況を悲観していないようだ。

「でも、学校はどうするの?」

 ここは、人が住んでいる町から大分離れている。
 元々廃村になったところを再利用しているため、近くに子供を通わせる学校がなかった。
 魔王様自身が、お休みにならないと視察に来れないくらいなのだから。

「教育は必要だろう」

「教師を引退した者や、この中にも教員資格を持っている者が複数いる。何とか、義務教育を行う学校を作りたいのだ。幸いと言っていいと思うが、元々学校だった建物もあるからな」

「許可が出るの?」

 俺が一番心配したのはその点だ。
 ここが日本に類似した国だとすれば、新しい学校を作るのにどれだけの書類を出さなければいけないか。
 ライラさんが主となって役所と交渉するのであろうが、その道は遠く険しいはず。

「確かに、必要な書類や条件が多すぎて困難です」

 せっかく子供が産まれても、その子を学校に通わせるためにこの村を離れなければいけないのでは本末転倒になってしまう。
 今お腹にいる子供達が通える学校が建設できなければ、村の規模拡大は難しいであろう。

「もう一つ、医療をどうする?」

「治癒魔法があるではないですか」

「それがさ、この国は医者の資格がないと治癒魔法禁止なんだって」

「本当ですか?」

「それが驚いた事に事実なんだ」

 エリーゼのみならず俺もビックリしたが、今の魔族の国では無資格者が治癒魔法をかけると、最悪投獄される危険がある。

「そんなバカな事があるのか?」

 テレーゼからすれば、使うと便利な治癒魔法の使用に制限をかけてしまう魔族の国というのが信じられないようだ。

「理由を聞くとバカらしいけど……」

 魔族の国は、豊かになるために魔導技術を高めに高めた。
 その結果、今のこの国の繁栄は非常に燃費のいい魔道具の普及によって支えられている。
 生まれつき魔力量が多い魔族は、無理に鍛錬をして魔力量を上げる必要が少ない。
 むしろ便利な魔法など使われたら、量産された魔道具が売れない。
 売れないと、国が不況に陥ってしまう。

 そこで、かなり厳しい魔道具と魔法の使用禁止規定が存在していた。
 例えば、食料を長期間そのままで保存できる魔法の袋の使用禁止だ。
 他にも、医師としての資格がない者の治癒魔法の禁止、これは『医療について素人なのに、治癒魔法で治療を施して何かがあったらお前は責任を取れるのか?』。
 こう言われてしまうと、確かに困ってしまうな。
 攻撃魔法の類も、練習する者はあまりいないそうだ。

 警備隊の面々も、肉体的な訓練と支給されている武器の使い方……これは魔力を送り込めば使えるから本人が魔法を使う必要がない……あとは地球にある先進国の警察や軍隊に類する訓練を行っているらしい。

 例えばテロリストが現れた時……仕事を寄越せというデモくらいらしいが……警備隊が攻撃魔法で彼らを鎮圧して死傷者が出ると、マスコミや人権団体に非難されてしまう。
 人死にが出ない程度の電撃系の魔法というのは加減が難しく、普段魔法を訓練していない魔族には使える者がほとんどいないのだ。
 だが、魔力を流せば適量の電撃が出る麻酔銃のような装備はある。
 これを使えば楽なのだから、魔族で無理に魔法を使う者は少ないというわけだ。 

「せっかく素質があるのに勿体ないの」

「町中で魔法なんて使うと、職務質問されますからね」

 モールがテレーゼに説明する。
 魔道具の使用なら問題ないが、魔法を使うと非難されるのだ。
 『いきなり攻撃魔法を放たれ、怪我人が出たらどうするのだ』という警戒感から、魔族は人が多い場所では絶対に魔法を使わない。
 魔道具の場合は、魔力を送り込んだ時の効果が見ればわかるようになっている。
 だから、みんな魔道具を使うのに必要な魔力があればいいと思っているわけだ。

「この村では、一部魔法を使っています。何分長年放置されていたインフラが多く、修理できないものは魔法で補うしかありません」

 魔法に関する資料は大量に残っているので、それを参考にして重い物を運んだり、畑を耕したり、道を整備したりしているそうだ。

「昔に戻ったというわけじゃな」

「お金がありませんので、自分で何とかできる事は自分でするというのが、この村の決まりです。幸いにして、薬剤師の資格を持つ者がおり、この近辺には薬草の類も生えております」

 魔法薬を生産し、それで怪我や病気に備えるというわけか。

「医師の資格を持つ治癒魔法使いの方がこの村に興味を持っているので、治癒魔法の件はじきに解決すると思います」

 魔王様を村長とした村は、着々とできあがっているわけか。

「難しい話はそれくらいにして、余はお腹が減ったぞ」

「俺もお腹が減ったな」

 収穫した芋を使ったベビーフードも完成し、フリードリヒ達はそれを美味しそうに食べていた。
 これからは、徐々に離乳食の割合を増やしていけばいいであろう。

「他の料理も完成しました」

 エリーゼ達も手伝い、天ぷら、大学イモ、キントンなども完成し、村人達と一緒に食べ始める。
 自分で収穫した作物を調理して食べると美味しいものだ。
 気のせいかもしれないけど、味覚は舌だけで感じるものじゃないからな。

「見よ、バウマイスター伯爵。我が臣民候補達は楽しそうではないか」

 若い村人達が、収穫した作物を一緒に調理して美味しそうに食べている。
 それぞれに持ち寄った料理、酒、お菓子などもあり、まるで収穫祭のようであった。

「職がない、結婚できない、そんな者達でこの村に興味があれば、余は何人でも受け入れるぞ。そして時がくれば、ゾヌターク王国復活も十分にあり得る」

「陛下、その準備も着々と進行中です。この村の作物を卸す店舗も決まりました。生産者の名前と顔をお客様に知らせ、少し高くても安心して購入していただく仕組みです」

「おおっ! 素晴らしい手ではないか!」

 何だろう。
 その手法って、日本だと当たり前のようにあるんだけど……。

「他にもいくつかの廃村を再生させ、その中から首都に一番近い村に産品を集め、定期的に市を開きます。作物を材料に使った特産品も開発しましょう。これを販売する市を『道の駅』と命名しました」

「いいアイデアだな! ライラ!」

「……」 

 あの……ライラさん。
 それって、日本の農村だと当たり前のように存在しています。
 だから何って言われると困るけど……。

「このまま順調に規模を拡大させれば、必ずやゾヌターク王国の復興が成るでしょう」

「おおっ! まさに王国再興千年の計というやつじゃな!」

「ねえ、ヴェル」

「本当に王国が復興できるかもしれないし、本人達が喜んでるんだ。気にしない方がいいよ」

 イーナが何か言いたそうに見えたが、俺はそれをやんわりと止めたのであった。





「バウマイスター伯爵、新聞を持ってきたっすよ」

 農村の見学が終わり、翌週の一の日。
 新聞記者であるルミが、今日の分のエブリデイジャーナルを持参した。
 魔王様と宰相による王国復興運動……と思っているのは本人達だけなので、ルミが取材を行った農村復興運動が記事になったので、俺達に持ってきてくれたのだ。
 記事には、ゾヌターク共和国政府に放置されている俺達もその農村を表敬訪問したという記述も書かれていた。

「これは、外交に当たるのかの?」

「そんな事を考えるアホはほとんどいないっすよ。第一、あの農村の人達って、別に共和国の統治から外れたわけでもないですし」

 ルミが笑いながら、テレーゼの問いに答えた。

 独立を目指すと言っているのはあの二名だけであり、村民……現状は廃村という扱いなので正式な村民ではないのだが、多少の現金収入もあり、わずかだが納税もしている。
 国を離脱しようとする人間がちゃんと納税をするとは思えないから、外部の人間が見ればただの農村再生運動にしか見えないのだ。

「それもそうかの。第一、防衛隊に勝てるはずもない」

 武装すらしていないので当然だ。
 俺達について来た防衛隊の人達は、彼らに何ら脅威を感じていなかった。  
 ただの農業従事者だと思ったのだから当然だ。

 逆に、農村の連中が食事を差し入れしようとしたら、『すいません、こういうものは決まりで受け取れないのです』と恐縮する有様であった。
 ルミがいたから、賄賂だと思われたら困ると思ったのかもしれない。

『このくらいはいいような気もするんすが、先輩記者で喜々として防衛隊批判を始める人がいるから、警戒する気持ちは理解できるっす』

 全員を見たわけじゃないけど、防衛隊の面々は真面目な人が多いように思えた。

「ところで、今日、バウマイスター伯爵領に戻るって聞いたっす」

「このままここにいても、何も状況は変わらないからな」

 妻と子供達まで連れて親善外交モドキを行ってみたが、外交交渉の方は相変わらずだし、俺達も最初は注目されたけど、あとは他の話題の方に夢中で相手にされなかった。 
 ゾヌターク共和国の国民は、基本的に外国に対してほとんど興味がない。
 アーネストのような魔族は本当に特殊な存在だったわけだ。

「また陛下の命令で来るかもしれないけど、今度は『瞬間移動』ですぐに来れるから」

「羨ましいっすね。移動に時間がかからないって」

 魔族で『瞬間移動』が使える人間はいない。
 その代わりに魔導技術を用いた乗り物が進化しているのだから、俺は魔族の方が進んでいると思うのだが。

「バウマイスター伯爵、俺達はお役御免?」

「連れて行くわけにいかないからさ」

 モール達は魔族で外国の者達だ。
 アーネストは陛下が黙認しているからいいけど、モール達も連れて帰ると色々と問題になりそうだからな。

「約束の日当に、一時金で色をつけるからさ」

「初めて働いて金を貰ったのに、非正規で短期!」

「うぉーーー! 新卒キップを逃した俺達に正社員への道はないのか?」

「この世の、何と残酷な事か!」

 三人の話を聞いてると、俺の心が次第に寒くなってきた。
 まさか、魔族の国で就職残酷物語を聞くとは……。

「あのぅ……魔王様の農村で働けばいいのでは? あそこなら、発掘などもできるかもしれませんよ」

 見かねたリサが、先週出かけた農村で働けばいいと意見を述べた。

「その手があったか!」

「希望者は受け入れるって言っていたよな」

「あそこなら、結婚できるかも!」

 モール達は、未来への展望が開いたと三人でテンションをあげた。

「「「ライラさぁーーーん!」」」

 ライラさんか……。
 綺麗な人だけど、果たしてモール達に可能性はあるのだろうか?

「そうだ! 彼女を上手く補佐できれば!」

「いける!」

「お前らには負けん! ライラさぁーーーん!

 三人は俺から報酬を貰うと、ライラさんの下へと駆け出した。

「ようやく、教え子達が就職したのである」

 ホテルをチェックアウトした俺達は自分の魔導飛行船に登場し、暫し滞在したゾヌターク王国を後にする。
 だが、両国の交渉は未だにその糸口すら掴めていなかった。
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