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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第十八話 大都会だよブライヒブルク。

「すげえ! 久しぶりの大都市だよ!」

 ブライヒレーダー辺境伯の治める南部最大の商業都市ブライヒブルクを見下ろす山の高台で、俺は久しぶりに見る大都市に感激していた。

 人口は、二十万人くらいであると聞いている。
 前世である平成日本の都市で言えば大した事はなかったが、ここ一年以上も人口数百人の寒村で暮らしていた影響で、俺には物凄い大都市に見えてしまうのだ。

 更に、ここまで到達するのに俺は一週間の時間を要していた。

 バウマイスター騎士領との間に横たわる山脈には、数ヶ月に一度は商隊が荷を持って来るので、一応は山道が存在している。
 しかし、そこを通っても彼らは往復で一ヶ月程度の時間がかかってしまうらしい。

 『良く、碌な特産品すらないうちに商売に来るよな』などと思ってしまうのだが、これはほぼ利益無しの半分公共サービスでもあるらしい。

 南方最大の貴族にして、この南方地域の貴族の取り纏めをしているブライヒレーダー辺境伯が、寄り子であるバウマイスター家やその領民のため、赤字を切ってまで定期的に行っているのだそうだ。

 この話は、前にエーリッヒ兄さんから聞いたのだが、更に五年前の無理な出兵でバウマイスター家も相当な人的・金銭的な被害を受けている。

 しかもこの出兵は、ブライヒレーダー辺境伯側が求めて来たものなのだ。
 父の鼻面欲も相当にあったのであろうが、寄り子が寄り親の頼みをそう簡単には断れない事情もあったようで、この出兵の後には、今までは年に二回しか来なかった商隊が年に三回来るようになったらしく、これは詫びというか批判封じという側面もあるようであった。

 その辺の事情は、全てエーリッヒ兄さんが教えてくれたのだが。

 そんな事情もあり、一応は山脈には道が存在している。
 俺は身体機能を強化し、周囲を探知しながらその道を進む。
 この山脈には、魔物がそれなりに出るらしい。
 一応魔物の領域扱いになっているのだが、どういうわけか山道沿いには滅多に現れず。
 だが、かと言ってゼロではないし、普通の熊や狼などは頻繁に現れるので警戒は必須であった。

 それと、俺が飛翔の魔法を使わない理由。
 それは、山の方に視線を送った家族や領民達に、飛翔で飛んでいる俺の姿が目撃されないようにするためである。

 あとは、多少は体力強化のための運動という理由もあったが。

 一日で進める限り進んでから瞬間移動で家へと戻り、翌日は昨日までに進んだポイントに瞬間移動で戻って移動を開始する。
 そんな面倒な事をしたので、余計に時間がかかってしまったのだ。

 もっとも、魔法のおかげで、商隊の半分ほどの時間で山を越える事に成功していたのだが。

「どうした? 坊主」

「お使いで、町に買い物です」

 感動の後に、俺はブライヒブルクの入り口へと移動する。
 近くに、冒険者達が篭る魔物領域ブライヒブルク大森林があるので、このブライヒブルクは高さ三メートルほどの防壁によって囲まれている。

 とはいえ、魔物が今までに己の領域から外へと侵攻した例は一回もなく、多分これは対人間用なのであろう。
 戦争など長らく無いヘルムート王国であったが、全く荒事がないわけではない。
 貴族同士による、領地や水利権などが原因の小規模な小競り合いなどは、数年に一度は必ず発生するからだ。

 特に、領地が接している貴族同士にはこの手の争いが多い。
 実際にブライヒレーダー辺境伯も、近隣に数家仲がよろしくない貴族家が存在する。

 ちなみにバウマイスター家には、そんな利権争いをする貴族などは存在していない。
 山脈によって、物理的に隔離されているからだ。

「坊主、身分証はあるのか?」

「無いです。商業ギルドで会員証を作ろうかと」

「そうか。入街税の銅貨一枚は払えるのか?」

「大丈夫です」

 実は身分証は持っているのだが、さすがに八歳のバウマイスターの八男がブライヒブルクに現れたとなれば、それは大問題になってしまう。

 そこで俺は、近隣の農村の子供として街に入り込もうとしていた。
 身分証は街で住んでいる住民はほぼ全員が持っているが、農村などでは発行してくれる場所が無いので持っている人間は少ない。
 発行して貰うには、わざわざブライヒブルクまで出向く必要があったからだ。

 ならば、買い物などで街に入りたい田舎者はどうするのか?

 答えは、ギルドに加入するというものであった。
 本当は冒険者ギルドが一番相応しいのだが、あそこは最低でも十五歳にならないと入れないルールがある。
 戸籍など無い世界なので少々の年齢の誤魔化しは効くが、さすがに今の俺が十五歳を自称しても無駄であろう。

 そうなると、残りは職人ギルドか商人ギルドという事になる。

 職人や商人の世界では、俺くらいの年齢の子供でも丁稚奉公をしている人が多い。
 しかも、師匠や親方の命令でブライヒブルクにお使いに行くケースも多く、比較的簡単に身分証を作れるようになっていた。

「なるほどな。そのウサギを売るのか」

 門番の兵士は、俺が腰にウサギの皮を数枚ぶら下げているのを確認する。
 これは、山道の途中で得た物であった。

「はい、何かを売る際には商業ギルドの会員証が必要だと聞きましたので」

 正確には、身分証が必要であったのだ。
 街の住民は最初から身分証を持っているし、各種ギルドに所属していれば会員証がその代理を果たす。

 品物の売買の際には、防犯のためにこれを提示する義務があった。
 意外と厳格ではあったが、実は裏町には身分証無しで売買をする店もあるらしいし、そもそもギルドの会員証自体が外部の人間には作り放題という罠も存在していた。

 そのおかげで、俺も簡単に会員証が作れて万々歳なわけだが。

 俺は、門番に入街税銅貨一枚を支払ってからブライヒブルクへと足を踏み入れる。
 この入街税は、街に入る際には必ず払わなければいけないようだ。

 銅貨一枚なので、それほどの金額でもないのだが。

 ちなみにこの世界の通貨制度であったが、これはリンガイア大陸では全て統一されている。
 ヘルムート王国とアーカート神聖帝国では貨幣のデザインが違っていたが、条約によって使われている金・銀・銅などの量が統一されていたので、別にどちらを使っても問題にはならなかった。

 あとは、貨幣の種類と価値であったが、お金の単位はセントが採用されている。
 ただ、貨幣経済に触れる機会が数ヶ月に一度来る商隊から売り買いする事くらいしかなく、普段は物々交換で済ませてしまう我がバウマイスター騎士領では、滅多に耳に入らないワードではあった。

 銅貨一枚で一セント、銅貨十枚で銅板一枚で十セント、銅板十枚で銀貨一枚で百セント、銀貨十枚で銀板一枚で千セント、銀板十枚で金貨一枚で一万セント、金貨十枚で金板一枚で十万セント、金板十枚で白金貨一枚で百万セント、白金貨十枚で白金板一枚で1千万セントとなっていた。

 銅貨一枚でリンゴが一個は買えるし、頻繁に支払う入街税も同額なので、一セントで日本円に換算すると百円くらいなのであろう。

「商業ギルドへようこそ。会員証の発行ですね。必用事項をこの書類にお願いします」

 門番のお兄さんに教えて貰った商業ギルドのある大きな建物へと入ると、そこには様々な用件で訪れた人達でごった返していた。
 会員証発行窓口と書かれた窓口で座る若いお姉さんに話しかけると、彼女は口調は丁寧ながらもマニュアル通りのような対応で俺に書類を書かせる。

 とはいえこの書類、書くのは名前と出身地と年齢くらいであった。
 年齢は普通に書き、住所はここから少し離れた寒村の名前を適当に、名前はヴェンデリンのみで姓を持たない平民の子供の振りをする事にする。

 虚偽記載ばかりであったが、この程度の虚偽では問題にはならないらしい。
 中には、平気で名前すら偽る人もいるようなのだ。

「初回の会員証発行は無料です。ですが、再発行には再発行手数料として銀貨一枚がかかりますので失くさないように注意してください。それと、バザーで品物を売る際には、常駐の責任者に位置の指定を受け、品物が売れた際には売り上げの一割を納めるように。ルール違反には、厳しい処置が待っているので悪しからず」

 どこまでも事務的な受付のお姉さんの元を辞した俺は、バザーなる物が行われている場所へと移動を開始する。
 受け付けのお姉さんの説明通りに、街のメインストリートに繋がる少し細い路地に入ると、そこでは数百人もの老若男女が道の端でゴザを広げて様々な物を売っていた。

 中には、俺とさして年の違わない子供もいて、なるほど俺が商業ギルドの会員証を求めても、受付のお姉さんは特に驚きもしなかったはずだ。

「坊主、お父さんの手伝いなのか?」

 バザーを仕切るギルド職員の中年男性に話しかけると、彼は俺が親が狩った獲物を売りに来た孝行息子だと思ったようで、優しく声をかけてくる。

「自分で罠を仕掛けて獲りました」

 別に魔法が使える事実を公表する必要も無いので、俺は自分が住んでいる村の近くで罠を仕掛けてウサギを獲ったのだと言う事にしていた。
 良く見ると、他にも同じように罠などでウサギなどを獲って売っている子供の姿もあるようだ。

「へえ、小さいのに腕が良いんだな。あそこの空いている場所で売ると良い。ウサギの毛皮と肉か。常に足りない状態だから、すぐに売れるだろうさ。今の相場は、肉と毛皮で一羽銅板五枚くらいかな?」

 日本円で、五千円くらいらしい。
 確かに、指定された場所に行く途中で他にも狩ったウサギの毛皮と肉を売っている人を見たが、値札はみんな銅板五枚からプラマイ銅貨五枚くらいであった。

 つまり、四千五百円から五千五百円くらいだ。

 俺は細かな利益率の上昇に時間をかけたくないので、普通に銅板五枚を売価に設定し、持参したゴザの上に四羽のウサギを並べる。

 すると、すぐに声をかけてくる男性がいた。
 見た目はいかにも商人風の、四十歳前後の男性であった。

「お父さんのお手伝いかな?」

「いえ、自分で罠を仕掛けて獲りました」

「ほう、その若さで良い腕をしているんだね。それに、肉も新鮮だし毛皮のなめし方も良い」

 血抜きも、解体も、皮のなめしも。
 魔法で簡単に行えるので、プロの最高級品には劣るものの、そこそこの品質で行えるので当然といえば当然であった。
 その魔法を習得する手間と、獲物の解体への抵抗感の方が最初は難題であったほどだ。

 前世では、肉はスーパーなどでパック詰めした物しか買った事が無いので当然と言えよう。
 特に困ったのが、血や内臓を抜く行程であった。
 アレは、元現代人にはそう簡単に慣れる物では無いとだけ言っておこう。

「全部貰おうかな。また売りに来てくれると嬉しいな」

「ありがとうございます」

 ウサギは全部で銀貨二枚で売れ、売り上げの一割の銅板二枚をギルド職員に納める。

「この後はどうするんだ?」

「父に頼まれて、米を買って来るようにと」

「相場は、十キロで銅板五枚くらいかな? 産地とか、品種とかでもかなり違うけど」

 俺はギルド職員にお礼を言い、近くの米屋で十キロ銅板五枚の米を買ってから家へと瞬間移動で戻るのであった。

 勿論、早く買った米を炊くためであった。
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