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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第百二十六話 ヴェンデリン先生、実戦指導をする。

「バウマイスター伯爵、新しい遺跡が呼んでるのであるな」

「呼んでいるって……そう思っているのはお前だけだと思うぞ」

「勿論そうであるが、バウマイスター伯爵にも利益があるのであるな」

「そこは否定しないんだな……しかし急にやる気を出したな」

 エリーゼ達が安定期に入った頃、俺達が屋敷で一緒に朝食を摂っていると、そこに魔族の考古学者アーネストが姿を見せる。
 一緒に食事とは珍しい事もあるものだなと彼の分も準備させると、突然新しい遺跡の探索について話を始めた。

 これまでは、ニュルンベルク公爵領にいた頃に探索した分も合わせて論文の執筆に大忙しだったのだが、それもようやく終わって新しい地下遺跡の探索を始めたいようだ。

 俺に対して、熱心にその位置などを解説し始める。

「エリーゼ達が産休中なので延期だな」

 せっかくのお誘いだが、完全に戦力不足である。
 今の俺が手薄なパーティで冒険者としての仕事をしようとしても、まずローデリヒが許可を出さないので無理だ。

「おおっ! 何たるアクシデントなのであるな。だが、この地下遺跡は安全なので、それほど戦力はいらないはずなのであるな」

 アーネストが探索を希望する地下遺跡の位置は、確かに魔の森の中ではなかった。
 まだ開発の手は入っていない、バウマイスター伯爵領にはよくある広大な平原の地下にあると、彼が地図を指差しながら言う。

「エリーゼ達の産休が終わるまで待ちな」

 エルが、地下遺跡の探索は暫く中止だとアーネストに語った。

「まったく、ようやく奥方達に子供ができたと思ったらほぼ一斉にとか。多少は家族計画を立てるべきであるな」

「こっちにも事情があるんだよ」

 バウルブルクより北方では、俺に沢山子供が生まれてほしいと願うオジサンとジイサン達が一杯いるからだ。
 それに、いつもアーネストの希望に従うわけにもいかないからな。

「しかしながら、さすがは先祖返りであるな。」

「先祖返り?」

 俺が首を傾げると、アーネストは古代魔法文明時代に存在した人工魔法使いについて語り始める。
 性行為によって異性の魔力量を増やし、産ませた子供やその子孫もかなり先の子孫まで魔法使いになる。

 この技術のおかげで、古代魔法文明時代には多くの魔法使いが存在したのだと。
 そして、俺がその人工魔法使いの先祖返りだとアーネストが言うのだ。

 というか、もし本当だとしたら、こいつはなぜ今の今までそんなに重要な情報を俺に教えなかったのか?
 その理由と判断に迷ってしまう。

「そんな話は初耳だがな。第一、子供ができたのと、人工魔法使いに接点はあるのか?」

「当然であるな。そういう性質を持つ人工魔法使いには女性が多く集まり、多くの子供が生まれて魔法使いの数が増える。それを狙っての人工魔法使いなのであるな。人間という生物の性を利用した、効率のいいシステムであるな」

「人間の性ねぇ……」

「そうであるな、エルヴィン殿。優秀な魔法使いは稼げるから、沢山の女性が集まって子供を産もうとする。人間も動物の一種なので当たり前であるな」

「実も蓋もないな話だな……」

 知ってはいたけど、聞きたくもなかったとばかりにエルが渋い顔をした。

 アーネストの説明によると、周りに女性が増えるのは人工魔法使いの宿命なのだそうだ。
 人間のというか、全生物の性かもな。
 女性も安全に子供を産んで育てようとすれば、生活が安定する裕福なパートナーを探すわけだし。
 『貧しくても愛し合っていれば』とか、前世ではよく聞いたけど、やっぱり金持ちには女性が多く集まるのが現実だ。

 この世界にいると、そんな現実をまざまざと見せつけられてしまうケースは多かった。
 一部の例外のせいで、たまに俺の心は大きく揺るがされるけど。

「その人工魔法使いという存在は理解できたが、そういう重要な情報はもっと早く教えてくれよ」

「聞かれなかったから仕方がないのであるな」

「元々知りもしない情報を聞けるか!」

「そこは、想像の翼を羽ばたかせてほしかったのであるな」

 一欠けらも悪気がなさそうに語るアーネストに、『そういえば、こいつはこういう奴だったよな』と心の中で納得した。
 きっとニュルンベルク公爵も、俺と同じような苦労をしたのであろう。
 その点についてだけは、彼に同情できる。

「つまり、生まれてくる子供はみんな魔法使いになるのか?」

「個人差はあるのであるが、どんなに少なくても中級以上の魔力は持って生まれるのであるな」

 俺と子供を作ると、生まれてくる子供は全員魔法使い。
 そんな予感はしていたが、それが実際にわかると逃げ出したくなる。

「ちなみに、その話を誰かにしたのか?」

「ニュルンベルク公爵だけにはしたのであるな。彼が外に漏らしたかまでは我が輩の関知するところではないのであるな」

「そうかよ……」

 本当に、こいつはいい根性しているなと俺は思ってしまう。

「その話は、他の人にするなよ」

「我が輩は生物学者や医学者ではないので、意図的に外に漏らす必要もないのであるな」

 その前に、自分の専門分野外なので興味がない。
 あくまでも、前に人から聞いた話だという態度をアーネストは崩さなかった。
 人というか、魔族の国で他の魔族から聞いたのであろうが。

「口止め料代わりに、地下遺跡の探索を手伝おう」

「毎度ありなのであるな」

 なぜ毎度ありなのかは知らないが、地下遺跡の研究で静かになるのだから安いものである。
 それにしても、アーネストの研究のためなら手段を選ばない態度は恐ろしい。
 何とか長期間バウマイスター伯爵領で生活をしてもらわないと……地下遺跡発掘を必ず手伝うしかないか……。

 何かしらの利益になるからいいけどね。

「でもよ、戦力がないぜ」

 この日はエルとハルカも一緒に朝食を食べていたが、そういえばエル以外で戦力になる人間がいない。
 ハルカも妊娠中なので、連れて行くわけにはいかなかったからだ。

「ブランタークさんを呼ぶにしても……」

 俺、エル、ブランタークさん、そしてアーネスト。
 戦力的には十分だと思うのだが……。

「何か、野郎ばかりでむさ苦しくないか?」

「そうだな……」

 ここで講演活動に忙しい導師を誘ったとしても、やはり余計にむさ苦しくなる。
 安全度は確実に増すが、導師とアーネストは相性が悪いという理由もあった。
 共に『いい性格』をしているため、近親憎悪のような感情を抱くのであろう。

「地下遺跡の調査はバウマイスター伯爵家で行うんだから、冒険者予備校の生徒から優秀なのを連れていけば? いい経験になるだろうし」

「それは俺も考えたけどな……」

 絶対に安全な地下遺跡など存在するはずもなく、そこに未成年者を連れて行くのはどうかと思うのだ。
 もし何かあれば責任問題になってしまうし、貴族のゴリ押しは世間の外聞も悪くなってしまう。

「ちゃんと報酬を出せば、その手の批判はかわせるだろう。優秀なのを厳選すればいいじゃないか。冒険者なんだし、そのくらいの危険は織り込み済みのはずだ。あんまり過保護なのもどうかと思うぞ」

「我が輩もその意見に賛成であるな。どうせ、連れて行くのはあの三人の娘っ子達であろう?」

 アーネストの奴、普段はまったく外に出ない癖に、予備校の生徒達をよく知っているようだ。
 アグネス、シンディ、ベッティは、既に現役の冒険者に引けを取らないくらいの実力を保持している。

「我が輩でも魔力を探れるのであるな。その三人は、人間にしてはなかなかの魔力を持っているのであるな」

 年齢も若く、まだ魔力も成長途上にある。
 連れて行っても、そうおかしいとは思われないはずだとアーネストが太鼓判を押した。

「本人に直接聞いてみるか……」

「それが一番なのであるな」

 次の日の放課後、俺は早速三人に対し、地下遺跡探索のアシストをする気があるかと訪ねてみた。

「是非、参加したいです」

「未成年なのに、これはチャンス」

「先生もいるし、安全ですね」

 アグネス達は躊躇うことなく要請を受け入れ、早速アーネスト、エル、ブランタークさんと共に現地へと飛ぶのであった。





「先生、地下遺跡がありません」

「埋まっているからなぁ……」

 俺達は現地に到着し、ベッティーが地下遺跡があるとされる草原を見渡していた。
 何も見つからないが、もし何か目印があれば俺が子供の頃に見つけていたはずだ。
 地下遺跡はアーネストの情報どおり、完全に地下に埋まっているのであろう。

「この辺を掘るのが正義なのであるな」

 地下遺跡なので、まず発掘をしないといけない。
 俺は、アグネス達と共に土魔法で地面を掘って地下遺跡の痕跡を探し始める。

「頑張るのであるな」

「アーネスト、お前も手伝えよ」

「調査への気力を残しているのであるな。あとは、娘っ子達に任せるのであるな」

 トンネル並に苦労するかと思ったが、地下遺跡入り口の発掘作業は一時間ほどで終わった。
 運良く、すぐに入り口があるポイントを引けたからだ。

「先生、入り口を掘り当てました」

「よくやったな、シンディ」

「えへへ、先生に褒められました」

 シンディは運がいいようだ。
 大体の場所しかわからない地下遺跡の入り口を、わずかな時間で掘り当てるのだから。
 冒険者には運も必要なので、彼女は冒険者に向いているのかもしれない。

「何か、ボロいのな……」

 俺達は、掘り当てた入り口から『探知』で探りながら地下遺跡の中に入る。
 先頭のエルは、カビ臭い地下遺跡の空気に顔を顰めさせていた。

「残念なのであるな。中は全滅なのであるな」

 この地下遺跡は、ハッキリ言って外れであった。
 トンネルのように高度な『状態保存』がかかっておらず、中はボロボロで朽ち果てている。
 元が何であったのかもわからないほどの荒廃ぶりだ。

「それでも、何かあるかもしれないのであるな。すべてを探索するのであるな」

 全員で半日かけて地下遺跡内を探索するが、一万年の歳月とは残酷である。
 中にあった物は、腐るを通り越して埃やカビとなっていた。

 地下遺跡とは、本来こういうものがほとんどなのだそうだ。
 今まで俺達は運がよかった……悪かったとも言えるか……。

「たまには、こういう事もあるさ」

「この建設様式と、壁面の文様については……」

 こんなにボロい遺跡でも、考古学者であるアーネストには価値があるようだ。
 ルーペで壁面の半ば崩れ去った装飾を確認しながら、一人熱心にメモを取っていた。

「何もないじゃないか」

「俺は早く帰れるから別にいいけど」

 今朝からテンションが異常に低いブランタークさんは、地下遺跡は外れでも残念そうな顔をしていない。
 それよりも、明らかに早く帰りたそうな表情をしていた。

「子供が生まれると違うよな。ブランタークさんが家に帰りたいなんて。以前なら、歓楽街に直行していたのに」

「エルヴィンも子供が産まれるってのに、下品な物言いは嫌だね。歓楽街って……」

「ブランタークさん、急にそういう風に言われると、逆に怖いけど……」

 究極の独身主義者から、生まれた子供が可愛くて仕方がないマイホームパパになってしまったブランタークさん。
 そのあまりの変わりように、エルは本気で引いていた。

「フランツィスカへのお土産がないのは残念だな」

 ブランタークさんの子供は娘であった。
 奥さんは『跡取り息子でなくてすいません』と言ったそうだが、ブランタークさんは気にもせずに可愛がっているそうだ。
 婿を取るという選択肢もあるので、本当に気にしていないのであろう。

「じゃあ、俺の子供と結婚させます?」

「はあ? エルヴィンは何を言っているんだ?」

 ブランタークさんは、エルの冗談に本気で顔を顰めさせる。
 どうやら婿を取るとか以前に、まだ娘を嫁にやるという考え自体に至っていないようだ。

「家の存続のために止むなしだが、俺が認めた男しかフランツィスカの婿として認めないぞ。エルヴィンの子供は、親の性質を受け継いでいそうだからヤダ。女遊びとかしそうだし」

「ブランタークさん、よく人の事が言えますね……」

 自分に女遊びを教えたのはブランタークさんなのに、娘が出来たら途端に手の平を返した。
 エルからすれば、わけがわからない裏切りに見えるのだと思う。
 でもなエル、世の中の人はそうやって心に棚を作るものなのだ。
 ダブルスタンダードともいうか。

「俺は真面目な男なんだ」

「俺も真面目ですよ」

 二人でトンチンカンな会話が続いている間も、アーネストは崩れた壁の装飾の分析に忙しい。
 そして、連れてきたアグネス達は……。

「あれ? いないな」

 どうやら、他の場所に行ってしまったようだ。
 ここは退屈だったらしい。

「ブランタークさん、ちょっと探して来ます」

「娘っ子達には退屈だったのかな? ここは罠も魔物もいないから、別に構わないけど」

 ブランタークさん達がいる部屋を出て広い廊下を歩き、既に探索を終えている一番奥の部屋へと向かう。
 その部屋は広かったが、いくら調べても何も見つからなかった。
 昔は何かあったのかもしれないけど……。

「アグネス、シンディ、ベッティ。何かを見つけたのか?」

「いいえ、何かあったらいいなと思いまして……」

 アグネスが代表して答えるが、ようは退屈して何となく地下遺跡を散歩していただけのようだ。

「冒険者を襲う高度な罠、迫り来る古代魔法文明時代の遺産ゴーレム、大量のお宝。全部ありませんでした」

「そういう事もあるのさ。勉強になっただろう? ベッティ」

「同じ勉強になるにしても、もっと何かあった方が……」

 大陸中で古代魔法文明時代の遺跡は見つかっているが、すべてにお宝があるわけではない。
 このように、完全なハズレの遺跡も一定数存在しているのが普通であった。

「今回は運がなかったな。アーネストが調査を終えたら帰るとしようか」

「そうですね」

「成人したら、物凄い地下遺跡を見付けるぞーーーって、シンディは何をしているの?」

 珍しく俺と話をせず、俺達に背中を向けて壁をいじくっているシンディにベッティが声をかける。

「この壁の装飾が崩れていて、その中に綺麗な玉が。もしかして、お宝!」

「どれどれ」

 シンディが見つけた玉を俺達に見せようと、それを掘り出そうとして触れるのと同時に、突然地下遺跡が揺れてシンディの前にある壁が上にせり上がっていく。
 どうやら、シンディが見つけた玉は隠し部屋を開けるスイッチだったようだ。

「先生、何か動きましたよ!」

「どれどれ。ああ、これは……」

 装飾の小さな像に隠されていた玉は、特殊なスイッチであった。
 魔法使いが魔力を送ると、それに反応して隠し部屋への扉が開く仕組みになっていたのだ。
 魔法使いが魔力を送らないと発動しないし、なかなか『探知』にも引っかからない種類の魔道具であった。

「シンディの運は、神がかっているな……」

 スイッチの玉は壁の装飾品である小さな像の中にあり、これは像が経年劣化して崩れていなければ誰も玉の存在に気がつかなかったはずだ。
 しかも、魔法使いが触らないと反応しない。

 この地下遺跡の入口を見つけた件といい、シンディは本当に運がいいと思う。

「さてと、奥の部屋は……ゲッ!」

 隠し部屋はかなり広く、その奥には金色の輝きが見える。
 お宝部屋であり、大量に金貨や宝石、高価なアクセサリー、装飾された剣、美術品などが見えた。
 部屋の状態も悪くない。
 どうやらこの地下遺跡の持ち主は、一番大切なこのお宝部屋のみを厳重に保管していたようだ。

「凄い!」

「お宝だぁーーー!」

「やりましたね!」

 三人は大喜びであったが、その前には全長三メートルほどのドラゴンの像が置かれていた。
 これに見覚えがあった俺は、瞬時に意識を戦闘モードに切り替える。

「三人とも、『魔法障壁』を準備」

 俺はすぐ、アグネス達に戦闘態勢に入るようにと命令する。

「えっ? どうしてですか?」

「だって、あのドラゴンの像は……」

「お宝の一つですよね?」

「いいや、あれはお宝の守護神さ」

 俺がそう言った直後にドラゴンゴーレムが咆哮をあげ、俺達はそのままなし崩し的に戦闘に突入するのであった。




「性能的には、帝国でニュルンベルク公爵が使用した量産タイプか……」

 ドラゴンゴーレムとの戦闘が始まったが、俺はまだ攻撃を開始していない。
 アグネス達も含めて『魔法障壁』を展開し、相手の出方を待った。
 ついでに、ドラゴンゴーレムの戦闘能力解析も行っている。

「体が小さい分、装甲に混ぜてあるミスリルの比率は少し高め。ブレスの威力は低めだが、小回りが利くな」

 小型のドラゴンゴーレムは、今までに対峙したドラゴンゴーレムに比べると機動力が高い。
 低空を飛行しながら爪で俺達を引き裂こうとしたり、滞空したままでブレスを吐いたりした。

「エネルギー源は、あの台座か……」

 派手に攻撃を加えると、一定の間隔で台座の上に座る。
 使用した魔力を、あの台座に設置された魔晶石で回復させているのであろう。

 まるで携帯電話の充電器のようである。

「ヴェル!」

「伯爵様……って! 何でこんなのがいるんだよ!」

 ドラゴンゴーレムの騒音と魔力に気がついたブランタークさんとエルが慌てて飛び込んできた。

「アーネストは?」

「あの程度の玩具、バウマイスター伯爵なら余裕だから、調査を続けるって」

「あの野郎……」

 確かに、この程度のドラゴンゴーレムに負けるはずはないが、スポンサーを助けもしないで調査とか、本当にいい度胸をしている魔族である。

「新人達は駄目か?」

「まあ、無理もない」

 二人は、突然のドラゴンゴーレムに怯えているアグネス達を見て納得したような表情を浮かべた。
 普通の冒険者は、一生の内にドラゴンゴーレムに遭遇する機会などまずない。

 それが、成人前に遭遇して襲われているのだ。
 いくら魔法使いでも、動揺して当然であった。

「俺達で倒すか?」

「いいえ。アグネス!」

「はいっ!」

 俺が大声でアグネスを呼ぶと、ようやく彼女は恐慌状態から脱したようだ。
 シンディとベッティと共に、俺に顔を向ける。

「三人でやれば勝てる相手だ。俺達が倒してもいいが、やるか?」

 今の三人で協力して戦えば、あのドラゴンゴーレムは勝てない相手ではない。
 だが、初めての実戦で怯えがあるのも事実だ。
 それにまだ未成年なので、あえて無理をさせる必要はない。
 戦うも戦わないも、本人達次第というわけだ。

「やります!」

「先生だって、私と同じ年齢の時に骨竜を倒したんです! いけます!」

「あんなガラクタ! 魔法でぶっ飛ばしてやります!」

「その心意気やよし! 最低限の支援はするが、なるべく助けはないものと思って戦ってほしい」

「「「はい! 先生!」」」

「講義の内容を思い出すように」

 三人は、一番年齢が上のアグネスがリーダーとなって小型ドラゴンゴーレムとの戦を始めた。

「ベッティ! 『魔法障壁』を!」

「任せて!」

 まずアグネスは、竜種との戦闘で一番大切な防御を『魔法障壁』が一番得意なベッティに命令する。
 俺の『魔法障壁』から外れた三人は、ベッティの『魔法障壁』によってドラゴンゴーレムからの攻撃を防ぐ。

「『魔法障壁』の強度は合格だな……」

「伯爵様、えらくスパルタじゃないか」

「本当に、十二歳から十四歳にあのドラゴンゴーレムをやらせるとは」

 三人の戦闘を監視していると、ブランタークさんとエルが傍まで来る。
 共に軽口は叩いているが、いつでも救援が可能な態勢になっていた。

「俺の師匠の師匠は、十二歳の子供を一人でアンデッドドラゴンと戦わせましたけど」

「それは当時坊主、今は伯爵様が、娘っ子達三人を合せたよりも強かったからだ」

「初めての実戦で、あれはないと当時は思いましたけどね」

「何とかなって、今も元気に生徒に指導まで出来ているんだ。気にするな」

 ブランタークさんと話をしている間に、アグネス達は攻撃に転じていた。
 ベッティに『魔法障壁』での防御とコントロールを任せ、アグネスは追跡型の『ファイヤーボール』を、シンディは『土槍』を飛ばして小型ドラゴンゴーレムを狙っていく。

「威力は十分か」

 魔力量の節約のために極限まで収束した魔法を飛ばしているので、当たればダメージがあるはず。
 ただ、小型ドラゴンゴーレムは素早い。
 巧みに、二人の攻撃魔法をかわしてしまう。

「小型な分、機動力に長けるか……」

「ブランタークさん、小型っていうけど全長三メートルはあるぜ」

「エルヴィン、あの程度だと小型の部類に入れるのが常識なのさ」

 今までに見たどのドラゴンゴーレムよりも小さいが、他の魔物に比べれば十分に大型であろう。
 そして、見た目に反して恐ろしくスピードが速く、決して広いとはいえない隠し部屋に激突する事なく動き回っている。
 超低空飛行まで行っているので、よほど優れた人工人格を持っているのであろう。

「埃っぽいな」

 エルが、ドラゴンゴーレムの高速機動で舞い上がった大量の埃を手で払いながら文句をいう。

「当たらない!」

「アグネス、二人の魔法で部屋の隅に追い込もうよ!」

「うん、タイミングを合わせよう!」

 早速自分達なりに工夫を始めたようだが、小型ドラゴンゴーレムは部屋に隅に追いやられても二人の魔法を難なくかわし、そのついでとばかり攻撃を加えていく。

「アグネス! シンディ! 急いで!」

 常時展開してる『魔法障壁』により徐々に魔力量が減っていくのがわかるベッティは、焦りからか二人への口調を荒げた。

「そんな事を言われても、魔法が当たらないのよ!」

「クソっ! また外れた!」

 まだ魔力量でいえば十分に戦闘可能であったが、初めての実戦で三人には余裕がなくなっていた。
 このままだと、徐々に魔力を削られて負けてしまう展開である。

「先生、助言しなくてもいいのか?」

「そうですね」

 この年齢でこれだけ戦えれば十分であろうが、できればあの小型ドラゴンゴーレムの弱点に気がついてほしかったものだ。
 確かに高性能なのだが、こんな朽ちた地下遺跡の隠し部屋に置かれていた物だ。

 やはり、他の超一流のお宝を守るゴーレムには性能的に劣る。
 お宝の量から考えると、ゴーレムの費用を多少ケチったのかもしれない。
 ゴーレムにお金をかけすぎて置く宝がないというのもどうかと思うので、この地下遺跡の持ち主の判断が間違っているわけでもないのだが。

「アグネス、あの小型ドラゴンゴーレムには弱点があるぞ。わかるか?」

「えっ? 弱点ですか?」

「少し考えれば子供にでもわかる。初の実戦で動揺しているから思いつかないだけだ。冷静に考えてみろ」

「はい……」

 アグネスは暫く考え続けていたが、ようやくその弱点に気がついたようだ。

「先生! 弱点を見つけました! いきます!」

 アグネスは『ウィンドカッター』を展開すると、それを小型ドラゴンゴーレムが鎮座していた台座へと放つ。

 そう、この小型ドラゴンゴーレムの弱点は、燃費の悪さと魔力を補充するための台座にあった。
 いくらゴーレム本体が高機動性能を発揮しても、その台座まで素早く動けるわけではないのだ。

「ただ、それは小型ドラゴンゴーレム側とて理解はしているからな」

 ブランタークさんの予言通りに、小型ドラゴンゴーレムはその身で『ウィンドカッター』を受けて台座を守る。
 小型ドラゴンゴーレムは損傷したが、まだその戦闘力に衰えはない。

「それでも、攻守は逆転しました!」

 シンディも台座に向けて『ウィンドカッター』を放つと、小型ドラゴンゴーレムはその身で攻撃を防ぎ、損傷を蓄積させてしまう。
 何とかアグネス達の魔法攻撃を防ごうとブレスを連発するが、それはベッティの『魔法障壁』によって完全に防がれた。

「このまま押し込みます!」

 ここが勝負時だと思ったのであろう。
 アグネスとシンディは魔法を台座に向けて連発し、防ぎきれなくなった一発が台座の上部に命中して破片が飛び散った。 

 これで魔力を補充する装置が破壊されて、二度と魔力が補充できなくなった。
 それを認知した小型ドラゴンゴーレムは、恐ろしい勢いで三人に襲い掛かる。
 魔力切れで停止する前の、最後のひとあがきというわけだ。

「凄い力……」

「私も手伝う!」

 アグネスとシンディが協力して、小型ドラゴンゴーレムの隙を突きながら『ウィンドカッター』を放つ。
 次第にドラゴンゴーレムの胴体や首の部分に亀裂が増えていき、遂にその高機動力を生み出している羽を切り離す事に成功した。

 これで、低空飛行による高機動は出来なくなったはずだ。

「先生、やりました!」

「止めを刺します!」

 墜落して身をバタつかせる小型ドラゴンゴーレムに対し、アグネスとシンディは更に魔法攻撃を続ける。
 『ファイヤーボール』、『岩槍』、『氷弾』、『ウィンドカッター』とありとあらゆる魔法攻撃を交互にぶつけていき、次第に小型ドラゴンゴーレムはボロボロになっていく。

「もう少し!」

「これで最後よ!」

 これで止めとばかりに、二人は威力を増した『ウィンドカッター』をぶつけ、これにより小型ドラゴンゴーレムは完全に動きを停止した。

「アグネス、シンディ、やったの?」

「活動の停止を確認」

「ベッティ、やったよ」

 ようやく強敵を倒せたので、三人は抱き合って大喜びしていた。
 だが、まだそれは早い。
 やはりまだ新人なので、経験が浅く油断があるのであろう。

「まだだ! 三人とも、『魔法障壁』を全開!」

「えっ? あのゴーレムはもう……」

「急げ! 命令だ!」

「「「はいっ!」」」

 俺からの強い命令で 三人は急ぎ強固な『魔法障壁』を張る。
 そしてそれと同時に、大破した小型ドラゴンゴーレムは自爆してその破片を隠し部屋中にばら撒いた。
 爆発で勢いがついた破片が、次々と『魔法障壁』に当たって激しい音を立てる。

 もし生身であれを受けていたら、間違いなく重傷か最悪死亡していたであろう。

「まさか、自爆するなんて……」

 アグネスは、それを見抜けなかったのが悔しいようだ。
 小型ドラゴンゴーレム討伐の喜びも忘れて、唇の端を噛みしめている。

「先生は、なぜわかったのですか?」

「微量だが、残骸にはまだ魔力が蠢いていた」

 残存していた魔力が残っていただけかもしれなかったが、俺にはその残存魔力が動いているように感じた。
 小型ドラゴンゴーレムは大破しているので、つまりは最後に何か一つ企んでいるであろうという勘というか予想であった。

 素早く三人に『魔法障壁』を展開させて正解だったというわけだ。

「さすがは先生です。私は油断してしまって……」

「反省します」

「地下遺跡のゴーレムって怖いんですね……」

 王国にある地下遺跡からの出土品で、自爆機能がついているゴーレムは初めてであった。
 なぜ気がついたのかと言うと、帝国内乱で大量に使用されていたからであろう。
 俺はそれだけ疑り深くなったというわけだ。

「おおっ! せっかくの出土品が! 自爆では、あまり資料が集まらないのであるな!」

 そして今頃になってから、アーネストが乱入して小型ドラゴンゴーレムの残骸に近寄っていく。
 貴重な資料が壊れてしまった件だけを悲しんでいるのであろう。
 まったく戦闘に参加しないで文句だけを言うとは、とんでもない魔族である。

「お前が手伝えば、ほぼ無傷で鹵獲できたかもしれないのにな」

「結局は自爆したであろうから同じであるな。それに、我が輩は戦闘は苦手なのであるな」

「言ってろ」

 小型ドラゴンゴーレムは胴体の部分がほぼ吹き飛んでいたが、運良くとでも言えばいいのか頭の部分はほぼ無傷で残っていた。
 という事は、あの動きを司る人工人格が無事の可能性がある。
 だが、以前のゴーレム軍団から鹵獲した人工人格の解析すら出来ていない魔道具ギルドには『猫に小判』、『豚に真珠』かもしれない。

 それでも、絶対にほしいと言うのだろうけど。

「それは後で考えるとして、三人とも大丈夫か?」

 俺は、アグネス達に声をかける。
 俺からの強い指示で、小型ドラゴンゴーレムの自爆前に『魔法障壁』を張れたが、予想以上の爆発の威力に呆然としていたのだ。

「先生……」

「私達……」

「三人だけでは……」

「最初は仕方がないさ。それに、三人はまだ未成年じゃないか」

 爆発が怖かったようで、三人は目に少し涙を浮かべていた。
 いくら魔法の才能があっても、そこは年相応の少女達というわけか。

 慰めるために頭を撫でてあげると、ようやく落ち着きを見せ始める。

「失敗は、次の成功の糧となる。最後の『魔法障壁』の張り忘れ以外は大体上手くやっていたと思うぞ」

「「「先生っ!」」」

 アグネス達の顔にようやく笑みが浮かび、俺は何とか先生として慰める事に成功したと安堵する。
 一番幼いシンディとは五歳差、来年成人するアグネスでも三歳差だが、こんなに幼いものかなと思ったが、俺は中身がもう四十歳近いのでそう感じるのかもしれない。

「先生か……モテモテだな、ヴェルは」

「エル君、お仕事があるでしょうが」

「もうやらせているよ」

 何を勘ぐっているのか知らないが、エルが俺をからかってくる。
 しかし、俺からすればアグネス達は生徒なのだ。
 この辺のケジメはちゃんと付けないといけない。

 それにまだ幼い……ルイーゼとそんなに見た目は変わらないか?
 いや、そんな事は関係ない。

 この三人は、俺の初めての生徒達である。
 無事に育て上げ、卒業させないといけないのだ。

「伯爵様よ。この隠し部屋にあったお宝だけどよ」

「吹き飛んでいるな……」

 人様に渡すくらいなら、小型ドラゴンゴーレムの自爆に巻き込んで吹き飛ばしてしまえという発想だったのであろうか?
 それとも、そこまで予想できなかったとか?

 金貨などはそれほど傷も付いていなかったが、宝石、装飾品、美術品などは壊れたり傷だらけで価値が落ちてしまう物が多いそうだ。

「このお宝の持ち主って、財産をあの世にも持っていけると思っていたのかね?」

「さあ? もしかすると警備用の小型ドラゴンゴーレムで不良品を掴まされたとか?」

「それはねえよ。ダメージが蓄積するか、魔力の供給が不可能になると自爆する仕組みだったんだろう」

「あの魔力の補充システムは欠陥だと思うんですけど……」

 台座のジョイント部分を破壊すると魔力を補充できないなんて、俺には不良品にしか思えなかった。

「そうでもないさ。あの機動力と戦闘力だからな。よほどの魔法使いが対応しないと、台座への攻撃すら不可能だし」

 ブランタークさんに言わせると、不良品ではなくそれなりに高性能な防衛装置というわけか。

「しかし、それはそれとして、こんな地下遺跡に資料的な価値なんてあるのかね?」

 ブランタークさんは、隠し部屋の床をルーペで調べているアーネストに不可解な生き物でも見るかのような視線を送る。
 経年劣化してボロボロの床だったので、調べる価値があるのかと思っているのであろう。

「考古学者ってのは、こういう生き物では?」

「そういえばそうだったな。俺も現役冒険者時代に地下遺跡まで警護したけどよ。壁や床の文様とか何時間も見ていて、本当に理解不能な人種だったわ」

 地下遺跡の探索は一日で終了したが、俺達にはどんな歴史的な価値があるのかわからない。
 それでもお宝は出たし、三人も初めての実戦経験が積めたのでよしとしよう。

「この隠し部屋の形式は、古代魔法文明時代後期に特注で作られたケースが多かったタイプの……」

 俺達が撤収の準備を始めても、アーネストはルーペで地下遺跡の壁や床を観察し続けるのであった。
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