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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第十五話 エーリッヒ兄さん達との別れ。

「この森は我が家専用の森だから、遠慮しないで魔法で獲物を獲ると良いさ。僕が同伴なのは、狩りの成果が僕メインであると言う方便のためでもある」

「ああ。それで今までに、他の狩人の人とかが来なかったんですね」

「うちの専用にしても、領民から苦情とか来ないからね。うちの領地、無駄に土地が余っているから。自由に狩猟や採集が可能な森も多いし。魔の森の開拓なんかより、移民でも募って普通の無人地の開発に専念していれば良かったのに」

「ですよねぇ」

 俺の魔法が家族に黙認されていた話に、加わりたくも無い相続争いの原因が俺であるという話を聞き。
 ますます早く家を出たいと考えてしまう俺であったが、さすがに十五歳にならない者を独立させるわけにはいかないらしい。

 あと、俺が毎日ホロホロ鳥を狩ってくれるので、それがいなくなると夕食のおかずが減ってしまうという。
 冗談なのか?
 本気なのか? 
 いまいち良くわからない理由でも、俺は毎日の森行きを黙認されていたようであった。

「黒パンと野菜スープのみの夕食から、ヴェルのおかげで肉や自然薯やキノコや果物が付くようになったんだ。こんなに嬉しい事は無かったね」

「あの、父上や他に兄さん達は狩りには?」

「五年前に、多くの成人男性が戦死したからね。彼らの穴を埋めるために、父上ですら自ら畑を耕している状態なのさ。当然、僕らも言わずもがなさ」

「そうだったんですか……」

「とはいえ、来るクルト兄さんの結婚パーティーで、黒パンと野菜スープのみというわけにもいかず。ここは、ヴェルに期待するよ」

 確かに、結婚式のパーティーでそんなメニューを出したら、貴族しては終わりのような気もする。

「エーリッヒ兄さんは、弓を構えていてくれれば」

「自分で探さなくて良いのは楽だね」

 それから半日ほど、俺はいつもは避けている大物の獲物に探知魔法で探って接近をし、弓の腕前ではバウマイスター家一のエーリッヒ兄さんが放つ矢を魔法で強化する。

 どうやら本当に、エーリッヒ兄さんの弓の腕前は優れているらしい。
 矢の方角や進路の修正は全く必用なく、魔法で威力の上がった矢は容赦なく猪、鹿、穴熊、ホロホロ鳥などの急所に命中していく。

 俺とエーリッヒ兄さんは、心臓か脳天に矢の一撃受けて絶命した獲物の血を急いで抜き、皮も後でなめせるように塩などをまぶしていく。

 正直、七歳児には辛い仕事なのだが、さすがは身体強化の魔法。
 特に問題なく、獲物の処理を終わらせていく。

「やっぱり、今までは遠慮していたのか」

「猪とかを一人で狩れる七歳児って変でしょう?」

「実は、優秀な魔法使いだとそうおかしくもない」

 エーリッヒ兄さんの話によると、生まれ付き大きな魔力を持って生まれた魔法使いの中には、下手をすると俺よりも下の年齢で魔物まで狩ってしまう猛者も少なからず存在するらしい。

 最低でもソフトボール大のファイヤーボールが撃てれば、魔物化した大型動物や、ゴブリンや動きの遅いゾンビなどは簡単に殺せるからだ。

 あとは、俺のように自分の身体能力を強化して弓や槍などで戦うタイプもいるらしい。
 何と言うか、地球とは違って子供が大活躍である。

「魔法というのは凄い物だね。僕の放った矢の威力をここまで強化できるなんて」

「エーリッヒ兄さんの場合、狙いが正確だから威力だけ弄れば良いので楽でしたね」

「お褒めに預かり光栄だね」

 俺は最初、わざわざ土系統の魔法で鏃を自作して、それを獲物まで飛ばすという魔法で獲物を狩っていた。
 ところがエーリッヒ兄さんから、『どうしてわざわざ、そんな面倒な事をするんだい?』と言われてしまう。

 確かに、俺は子供用とはいえ自分の弓矢を持っているのだ。
 普通に矢を放ってから、その軌道や威力を修正した方が無駄な魔力を使わないで済むであろう。
 多分、魔力の量を増やすためにわざと無駄に魔法を使っていた、師匠と出会う前からの癖であろうと自分では分析していた。

「さて、今日はこの辺で良いかな」

「はい」

 二人の前には、既に血抜きを済ませた獲物が大量に積まれていた。
 何しろ、普段は俺くらいしか出入りしていない森である。
 その気になれば、この荒らされていない森はいくらでも獲物を恵んでくれるのだ。

 しかも、領内にはこのような平原や森がまだ多数存在している。
 魔物は住んでいないが、熊や狼などの凶暴な野生動物がいるので、女子供達や、戦闘力のある男でも一人では狩猟・採集には行けない。

 だが、父が陣頭指揮を執って人手を集めれば、農地や居住地の開発はそう難しい事ではないはずだ。
 実際に、今でもそれを行っているのだから。

「五年前の出兵は、どうやらブライヒレーダー辺境伯に唆されたとまではいかなかったが、乗せられてというのが真相らしい」

 土地の開発などは二の次で、一番の目的は一攫千金も狙える魔物の素材や肉に、魔物の住む領域でしか獲れない魔法薬や霊薬の材料などが目的であったのであろう。

 特に需要が高いのは、怪我や病気を治す魔法薬の原料である薬草や動植物の素材であるとエーリッヒ兄さんは説明する。

 魔物の領域内で取れる薬草。
 それらは、基本的に前世で生薬の原料であった物とさして違いはない。
 ファンタジー物のお約束である、使用してすぐに傷が塞がったり、病気が治ったり、果ては死人を生き返らせたりする薬だとかは。
 魔物の領域で採取した薬草などを使っているか、魔法使いの中でも原料に魔力を込めながら製造を行える薬師としての才能があるか、治癒の魔法が使えるかのどれかで。

 そういう便利な物には、手間賃が上乗せされてお値段が高くなっているのが現状であった。

「うちの魔の森は、まだほとんど誰も入った事が無いから初い。入り口近くにでも、貴重な薬草や採集物が残っているのさ」

 逆に、ブライヒレーダー辺境伯領内かその周辺にある魔物の領域では、もうかなり奥に入らないとそれらの材料が手に入らないのであろう。

 乱獲に注意していても、魔法薬の材料になる薬草の成長には通常の薬草の何倍もの時間がかかる。
 それに、いくらブライヒレーダー辺境伯などが乱獲を禁止しても、魔物の領域の中でまで冒険者達がルールを完璧に守っているのかなど確認のしようが無いのだ。

「まさか、素材獲りだけのためなんて父上には言えなかったんだろうね。名分を整えるための大軍を整えて、それで魔物を刺激してしまったんだから僕達としては笑うしかないんだけど」

 エーリッヒ兄さんは、内心では先代故ブライヒレーダー辺境伯に文句でも言いたいのであろう。
 彼の我が侭に付き合った結果、バウマイスター家も困窮してエーリッヒ兄さんはこの家を出る時期が少し遅れたのだから。
 きっと、他の場所で狩りをしている他の兄さん達も気持ちは同じなのであろう。

 しかも、俺達はこうやって結婚パーティーのご馳走の材料を狩らされているわけだし。

「今日は、もうこんな所でいいかな。まだあと三日間も狩りをしないといけないんだ。根を詰めるのは良くない」

 俺もエーリッヒ兄さんの意見に賛同し、急ぎ二人で獲物を載せたリアカーモドキを引きながら屋敷へと戻るのであった。

 なお、俺とエーリッヒ兄さんは他の兄さん達や村の狩人達よりも沢山の獲物を獲って来たらしい。
 それから三日間も、なぜか物凄く狩りの成果を期待されるようになる。

 そして五日後、ようやくにして長旅をして来た長男クルトの嫁さんとその護衛一行が到着し、教会の老神父が取り仕切る結婚式が行われる。

 前の世界のキリスト式と同じく、やはり結婚式は教会がで行われるらしい。
 お嫁さんであるアマーリエは、今年で十八歳。
 些か年が離れているような気がしないでもないが、この世界ではさして気にする人間はいない。
 身分の高い王族や貴族や成功した大商人ともなると、連れ合いを亡くしたとか、純粋に若い嫁が欲しいと。
 このくらいの下級貴族の娘と再婚したり、妾を増やしたりする事が良くあるからなのだそうだ。

 それと、この年で結婚するアマーリエであったが、この世界ではほぼ平均的。
 男顔負けの活躍をする女冒険者などは結婚が遅れる風潮があるようであったが、庶民も貴族なども女性は二十歳前で結婚するのが普通らしい。

 それでも個人差があるので、二十代前半くらいまでは周りが余計な陰口を叩くような事はしないようだ。

 ただし、二十五歳を過ぎると、これはもう世間では大年増扱いされるらしいが。

 アマーリエの実家であるマインバッハ家は、うちよりは財政状態はマシな騎士爵家であり、彼女は一生に一度の晴れ舞台に相応しく高そうなドレスをあつらえて貰っていた。
 他にも、引き出物の家具なども質は良さそうに見え、それだけこういう時の貴族の見栄の張り方は重要という事なのであろう。

 俺は貴族ではなくなるので、そんな見栄とも縁は無いはずであったが。

「あと一週間……」

 式の間に、エーリッヒ兄さんがふとこう漏らしていた。
 一週間後、今度は次男ヘルマンが名主の家に正式に婿入りをする。
 それを見届けてから、三男パウル、四男ヘルムート、五男エーリッヒは父から支度金を貰い、ようやく家を出る事が出来るのだ。

 みんな、王都で兵士や下級官吏の試験を受けるらしい。
 合格出来れば独自に生計を立てられるので、みんな空いた時間に必死で剣の訓練や勉強をしているようだ。

「……」

「ヴェルは、まださすがに独り立ちは無理だろうからね」

 やろうと思えば出来なくもないであろうが、如何せん今の俺は見た目がまだ七歳のガキでしかない。
 この状態で家から出せば、最悪父や母が『貴族の癖にいらない子供を捨てた』などと非難されかねない。

 俺は、あと最低八年くらいは我慢するしかないのだ。

「俺、クルト兄さんやヘルマン兄さんとほとんど話をした事が無いんですけど」

 年齢が親子ほども離れているし、俺には魔法の才能という、バウマイスター家の相続問題で地雷になりかねない問題がある。
 結果、どう話しかけて良いものか良くわからないのであろう。

 嫌われてはいないのだが、何となく距離を置かれているのは簡単に理解できてしまっていた。

「(はあ……。また俺のボッチ人生のスタートか)」

 それから一週間後、次男ヘルマンの結婚式も無事に終了し、それを見届けたエーリッヒ兄さん達はバウマイスター家から幾ばくかの相続権放棄の謝礼も込めた支度金を貰い、うちに商売に来ていた隊商の帰路に同伴して王都への旅に出ていた。

「大きくなったら、王都に遊びに来ると良い。歓迎するから」

 優しいエーリッヒ兄さんは、俺に気遣ってそのような言葉をかけてくれたが、他の兄さん達とは特に話をする事もなかった。

「(はあ……。マジで俺のボッチ伝説が始まるな)」

 少なくとも、暇を潰す手段は引き続き確保しよう。
 俺は、次第に遠ざかるエーリッヒ兄さんの姿を視界に入れながら、これからの事を考え続けるのであった。
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