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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第百三話 討伐軍出陣す。

「へぇーーー、大きいねぇ」

「甲羅がとても綺麗ね」

 ヴィルマの狙撃によって頭を撃ち抜かれた巨大陸亀はその活動を停止させ、急ぎ戻ってきたイーナとルイーゼはその死骸を見上げている。
 しかし、まさか陸亀王レインボーアサルトが二匹いるとは思わなかった。
 普段は一匹しか表に出ていなかったのであろうが、せめて導師は気が付いて欲しかった。

「あの甲羅のせいで魔力が感知できなかったので、仕方がないのである」

 あの虹色の甲羅の厄介な部分は、亀が頭と足を引っ込めると『探知』が不可能になる点である。
 攻撃を加えないと、あの虹色の甲羅は魔力を探知させてくれないのだ。
 甲羅が虹色に輝いているので目視なら簡単にわかるが、地面に埋まっていたのでは確認のしようがない。

「この数か月、見事に騙されたのである」

「どちらか一匹しか表に出ていなかったとしても、大きさが違うんだから気が付いて欲しかったな」

「ブランターク殿、人間あまり細かい事は気にしない方が長生き出来るのである」

「この場合は、気にした方が長生きできるけどな……」

 続けて戻ってきたブランタークさんも導師に苦情を言うが、精神がワイヤーロープ並に丈夫な導師が反省などするはずがなかった。

「もう一匹か。解体は大変じゃないの?」

「人手はいるから」

 これを持ってサーカットの町に凱旋すると、帝都の皇帝が噛みつく可能性がある。
 変に警戒されても嫌なので、現地で解体して魔法の袋に仕舞い、必要な時にペーターが帝都の臣民達に見せて力を誇示するわけだ。

「ヴェル、この甲羅ってかなり特殊だよね? 殿下はお金を払えるの?」

「払えるとも。出世払いで」

 ルイーゼの疑問に、ペーターは堂々と胸を張りながら答えていた。
 これまでは隠れるようにして同志達と金を貯めていたようだが、当然その程度では雀の涙なので、今の彼は借金だらけである。

 しかしながら、相変わらずまるで悪びれていない。

「(ペーターが、ユリウス・カエサルのような大物だといいがな……)」

 暫くすると、二匹の陸亀王レインボーアサルトの解体が始まる。
 場所は領域内であったが、既に大半の魔物が倒され、これも解体が進んでいた。
 肉を食料として確保し、他の素材は売却して軍資金にあてる予定だ。

「おっ、美味しそうな料理だな。さすがはエリーゼ殿」

 試しに、一部の素材でエリーゼが料理を作っていた。
 亀の肉は初めてであったが、果たしてどんな味がするのであろうか?

 野菜と共に煮込んだうま煮に、醤油と味噌ダレで焼かれた肉なども出てくる。

「亀、美味しい」

「好きなだけ食べていいから」

「ヴェル様、太っ腹」

 既にヴィルマが食べていたが、彼女は今回の功労者である。
 食べたいだけ食べて欲しい物だ。
 エリーゼが、次々と焼いた肉やうま煮をお椀によそってヴィルマに差し出していた。

「普通に美味しいな」

「いやあ、今日は美味しかった……ではなくて、大変であったな」

 陸亀の肉を大量に食べながら、導師が今日の出来事を思い出していた。
 陸亀が二匹いる事に気が付かず、自分は他の魔物狩りに集中していたという事実は指摘してはいけない。
 不可抗力の面もあったし、導師が暴れたので軍に犠牲があまり出なかったという点もあったからだ。

「他の魔物は、明日にもう一度虱潰しにして全滅させるのである」

「あとは、私が『ウィンドカッター』で木を切り倒していきます」

 同じく陸亀王レインボーアサルトとの戦闘に間に合わなかったカタリーナであったが、彼女は残存する魔物の始末と、この領域の木を切り倒す仕事を請け負う予定であった。

「ここに農村を作ると聞いていますが」

「サーカットの町に食料を供給する農村連合みたいな物?」

 この魔物の領域は、サーカットの町と北部の小領主連合の領地の間を塞ぐような形で存在していた。
 魔物の肉と素材で冒険者も集まっていたが、規模が小さいのでむしろ開発と通行を阻害する面の方が強かったそうだ。

「この魔物の領域が解放された事により、サーカットの町と帝国中央部北部領域とが繋がって開発が促進されるわけだね。虹色の甲羅という希少価値の高い物も手に入った事だし、これをもって僕は帝都に凱旋する」

「そうか、それは良かったな」

 力説するペーターに対し、俺はこれまでの分も合わせて仕事の報酬に関する詳細な請求書を手渡していた。

「うーーーん。テレーゼ殿は、ヴェンデリンに甘え過ぎ」

 ペーターがその金額を見て、今まで俺に報酬を払っていないテレーゼを批判する。

「殿下もあまり人の事は言えません」

「エメラ、こういう時くらいは僕の味方になってよ」

 ペーターは、主君に毒舌を吐くエメラに苦笑を浮かべていた。

「時に主君に厳しい事を言うのも、臣下としての役割です」

「正論だねぇ。僕は全て支払うよ。勿論後払いだけど」

「後で支払うというのは、テレーゼも皇帝も言っていたがな」

 この二人は、別に支払いを正式に拒否したわけでもない。
 ただ俺が勝手に、二人の皇帝としての資質に疑問を抱いただけだ。

「勿論分割になるけどね。同志に財務系で優秀なのがいるから、帝都に入ったら計算させる。僕の目が白い内に必ず返済するさ。だって、返済しないと帝国がヴェンデリンとその後ろにいるヘルムート王国に経済支配されてしまう」

「ほう……」

 そこまでわかっているのなら問題ない。
 もし支払えなければ後で設定する予定の担保を取り上げるだけで、それは帝国の領地と鉱山や港などの利権である。
 だから、返さなければ帝国が王国に侵略されてしまうのだから。

「きっと僕は、後世では借金帝とか呼ばれるね」

 ペーターは、笑いながら亀肉を食べていた。
 そしてその翌日、現場ではまだ後始末の最中であったが、王国軍組、帝国軍の中から五千人、ミズホ伯国軍五千人の合計一万五千人で帝都へと進軍を開始していた。

 帝国軍組はギルベルトさんが自ら指揮を執り、王国軍組はフィリップが、エルもその中の千人を率いている。
 ミズホ伯国軍は、ムネカズ・タチバナ・ミズホという重臣が指揮していた。

 導師、ブランタークさん、エリーゼ達も俺に同行し、サーカットの町の管理は代官とクリストフとシュルツェ伯爵に任せる。
 残存する兵力の統率は、ポッペクさんと彼にスカウトされた人材に任せれば問題ない。

「どうせ全員、すぐに帝都に来る羽目になるけどな……」

 さすがに訓練の効果もあって、軍勢は整然と素早く帝都近郊に陣を張っていた。
 早速に皇帝に呼び出されるが、これは割愛しておく。
 呼び出されて、すぐに自分達はすぐに出陣するので後ろで大人しく警備でもしていろと言われただけだ。

 口調はもう少し丁寧であったが、俺達を連れて行くつもりは無いようだ。

「父上は、豪華な特製の輿が完成してウキウキなんだろうね」

「馬に乗る練習をすればいいのに」

 さすがの俺でも、もう普通に馬には乗れた。
 その努力すらしない皇帝に、ただ呆れるばかりだ。
 まだ初老にも達していないのに。

「その豪勢な輿も、もうすぐで棺桶に早変わりか」

 皇帝に謁見した日の夜、帝都郊外に張った陣地で俺達は夕食を食べながら話をしていた。
 付いてきたペーターは、密かに帝都在住の仲間から情報を得ているらしい。
 それによると、華美に装飾された特注の輿を見て皇帝は満更でもない笑みを浮かべていたそうだ。

「総大将が馬にも乗れないって、どうなんだ? ペーター」

「そうだよね。長年戦場で戦って功績のある老軍人とかならともかく」

 過去の帝国軍には、そういう軍人もいたそうだ。
 だが、あの皇帝は軍の訓練にも碌に参加した経験が無い。
 皇家直属の諸侯軍の訓練も、今では跡取り息子達に任せてしまっているそうだ。

「ペーターのお兄さん達は優秀なんだな」

「優秀というか、言われた事を無難にこなすのは得意かな? さすがに馬に乗れないとかは無いけど、どうやってニュルンベルク公爵に勝つんだろうね?」

 今の帝都は討伐軍の出陣前という事もあって、ある種の熱気に包まれている。
 皇帝から兵士達に一時金が下賜されたので、それを使って命の洗濯とやらをしているのだ。
 最後になる人もいるので、それ自体に俺はどうこう言うつもりはない。

 というか、俺達はほぼ間違いなく彼らは負けると予想している。
 止められれば良かったのであろうが、結局彼らは数が多いという自信に基づいて一部貴族やペーターからの忠告を無視している。
 可愛そうだが自業自得とも言えて、こちらとしては複雑な心境を抱かざるを得なかった。

「最初は順調に進むだろうな」

「ほう、ヴェンデリンの戦術論か。聞いてみよう」

「そこまで大層な物じゃないよ。皇帝を討って、同時に大きな損害を与えればニュルンベルク公爵はずっと楽になる。だから、ニュルンベルク公爵領奥まで引き寄せてから、地の利を生かして一気に討つ方が楽だろうと」

 侵攻ルートが三つもあるので反撃するタイミングが難しい戦術ではあるが、その能力をニュルンベルク公爵は十二分に持っている。
 まず失敗はしないであろう。
 皇帝以外の息子達や幹部クラスも、なるべく討つか捕えるかしたいところだ。
 犠牲が多ければ多いほど帝都は混乱する。
 上手くすれば無血開城すら可能かもしれないと思えば、討伐軍の潰滅に力を注ぐであろうと。

「討伐軍の幹部達もそれは重々承知しているからね。『我らが無能だとでも?』と言われてしまえばね……」

「待つしかないさ」

 どのみち、俺だって皇帝の戦死を期待している部分があるのだ。
 ペーターにどうこう言えるはずもない。

「ペーターか。お前は、帝都周辺に騒動が起きないようにバウマイスター伯爵を上手く使って頑張れよ」

「それこそが、三男であるお前の役割だ」

 遂に、帝都の巨大な正面門から討伐軍が出陣する。
 最初に帝国軍の精鋭である騎馬隊が列をなして歩いて行き、次に豪華な輿に乗った皇帝が見送りの貴族や臣民達に手を振って応える。
 その中にぺーターもいるのだが、彼は一度目を合わせただけで何も言わなかった。

 行軍も中盤に差し掛かると、皇帝の後継ぎである長男と次男、つまりペーターの兄達が馬に乗って姿を見せる。
 彼らは皇家の諸侯軍を指揮していて、随分と気合が入っていた。

 彼らは次期皇帝ではなく、あくまでも皇家の後継ぎである。
 だが、他の選帝侯家の混乱に、今回の戦功も含めて皇家の継続的な皇帝位継承を狙っているそうで、今回の討伐は失敗できないというわけだ。
 もっとも、勝利後の甘い夢を見ているようで、嫌らしい笑みを浮かべながらペーターに目の上目線で話しかけていた。

「兄上達の勝利を願っています」

「我らの栄光は、お前のためにもなるからな」

 そう言い放って行軍の列に戻る兄二人に対し、彼らが見えなくなるまでペーターは恭しく頭を下げ続けていた。

「よく頭にきませんね」

「兄達の母親は大貴族の娘で、僕の母親は平民だからね。さすがに慣れたよ」

 そう言いながらペーターが下げていた頭を上げると彼は舌を出していて、イーナがぎょっとした表情を浮かべる。
 これまで誤魔化し我慢しながら駄目な弟を演じてきたので、特に思う事も無いのであろう。

「それで、俺達は何を?」

 討伐軍の最後尾を見送りながら、ブランタークさんがペーターに聞く。

「帝都には入れないから、僕達はその周辺で人気取りをするのさ。公式には、治安維持担当?」

 ニュルンベルク公爵が帝都を一時放棄し、幽閉されていた皇帝が再び政権を握って半年ほど。
 いまだに治安が悪化している地域なども珍しくなかった。
 そこで俺達は、その解消のために動いて様子を見る事になったのだ。

「軽傷の方は、こちらですわ」

「骨はくっ付きましたが、数日は安静にしていてください」

「某の治療を受ける者はいないのであるか?」

 カタリーナ、エリーゼ、導師は、各地の農村などを回って巡回治療を行い。

「作物泥棒は駄目だよ。自分で買わないと。あっ、抵抗する? じゃあ、気絶して貰うね」

「作物泥棒は、私の中では極悪人扱い」

「何で、こんな娘っ子二人に俺達が?」

 ルイーゼとヴィルマは、なかなか捕まらない犯罪者の摘発に精を出し。

「大分練度も上がったな」

「そうですね。エルさん」

「エル、この食料申請の書類。計算が間違っているわよ」

「えっ? 本当?」

「最後の合算で間違って台無しなのよ。ほら、ここ」

「本当だ……」

 エルとハルカは、フィリップの下で懸命に部隊の訓練に励んでいた。
 イーナは、軍の運営に力を貸している。

「この道をまっすぐにねぇ……。長いな……」

「しかし、俺らはいつまで工事をするんだろうな?」

「さあ?」

 俺とブランタークさんは、土木冒険者としての生活を送っている。
 治安維持とは何も関係ないような気もするが、これも討伐軍の状況次第であろう。
 今のところは、境界線を無傷で超えたとか、幾つかの村や町の解放に成功したなどの戦果が次々と入ってくる。
 自分達の功績を派手に宣伝したいからなのであろうが、詳細を聞くとほとんど戦闘を行っていない。

 討伐軍首脳部の考えでは、彼らは領地の奥でほぼ全軍を集めて最終決戦に臨むと思っているようだ。
 そしてそれが行われると、三倍の戦力を持つ自分達の勝ちであろうとも。

「ただ結果待ちなのがもどかしいな」

「ええ……」

 それでも、皇帝に付いて出兵しなくて良かったと思う。
 土木工事などに勤しんでいると、それを手伝う人夫達から良くない噂を聞いていたからだ。

「(ニュルンベルク公爵様が反逆者なのはわかるし、その討伐の必要があるのはわかるけど……)」

「(何かあったのか?)」

「(俺の友達が聞いた話なんだが、占領された村や町は地獄の惨状らしいぞ)」

「(それって……)」

「(そういう事だ。あんまり偉い人の前で言うなよ)」

 討伐軍は寄せ集めなので、兵員の統制が取れていないのであろう。
 戦争では定番の、民間人への略奪や虐殺が行われているらしい。

「そんな事だろうとは思ったけどね」

 その日の夜、ペーターに人夫達からの噂話を伝えると、彼はそれを不思議に思っていなかった。
 当然という表情をしている。

「皇帝は禁止の通達を出さなかったのか?」

「出しているよ。当然じゃないか。でも、決まり事って守らせるのが一番難しいでしょう?」

「そうだな。俺も実際に兵を斬っているからな」

 フィリップは、この遠い帝国で王国軍組の規律を守らせるのに苦労している。
 命からがら逃げたり捕虜になっていたせいで、その恨みを晴らそうと強盗や強姦に走った兵士が何名かいたのだ。

 これは、帝国人達を率いるギルベルトさんも経験している事だ。

「同じ帝国人とはいえ、住んでいる領地や地方が違えば同朋意識は薄いからな」

 昔の戦争をしていた時代ならば、もう少しそういう意識も強かったのかもしれない。
 だが、今の時代だとどうしても自分の家族や地元が最優先で、こういう非常時に他所の土地で悪さを働いてもと思う輩は一定数発生してしまう。
 これは、どこの世界の軍隊でも避けえない現実であった。

「ほぼゼロまで減らす方法はあるけどね」

 フィリップとギルベルトさんは、自らその兵士の首をサーカットの町の住民達の前で刎ねた。
 残酷だが、俺達は町に間借りしている状態なのだ。
 軍規を正さなければ、こういう犯罪はますます増えてしまうであろう。

「クソ親父と兄達は、綺麗事だけ言って何もしていないんだろうね」

「取り巻き連中も、皇帝陛下からの叱責と罰を恐れて耳には入れないであろうからな」

 そんな理由で失脚でもしたら、ニュルンベルク公爵討伐後に訪れる栄光を逃してしまう。
 結果、そういう都合の悪い不祥事を彼らの耳に入れないという結論に至ったらしい。 

「導師殿は、国王陛下にでも直言しそうだね」

「遠慮なく言うであろうな」

「ヘルムート王国の国王陛下は羨ましいね」

 陛下と導師は親友同士である。
 だからこそ、導師は親友のために耳が痛い忠告でもするつもりなのであろう。

 だが、皇帝にはそんな家臣がいない。
 それがわかるからこそ、ペーターは自分の父親を少し憐れんでいるのかもしれない。

「ニュルンベルク公爵の工作が静かに広がっているな」

「そうだね。ヴェンデリンの言う通りだ。討伐軍の悪行は事実だとしても、味方からはこんな不祥事は漏れない」

 ニュルンベルク公爵が残した残留諜報員達によって、徐々に皇帝達の悪行が帝国中に広がるようにしている。
 皇帝が内乱討伐で罪も無い住民を虐殺しているとも取られかねず……実際にそうだが、ニュルンベルク公爵は討伐軍との戦闘後の事も考えて動いているようだ。

「やはり負けますか?」

「エリーゼ殿、その町や村には教会もある。神官達のネットワークを舐めてはいけない」

 教会はニュルンベルク公爵の反逆に抗議する立場を取り、解放軍や討伐軍に従軍している神官も多い。
 だが、南部の教会には反乱軍に参加していたり、中立の立場を宣言して普段通りの活動を続けている神官も多いのだ。

「帝都の教会が正義と信じる討伐軍の悪行を見て、彼らはどう思うかな? 教会でも動揺が大きいと思うよ」

「そうですか……」

「さすがだな。ニュルンベルク公爵は。なるほど、テレーゼ殿だと倒し難いから、クソ親父を帝位に戻して力を割って倒すか……」

「生まれてくる時代を間違えたな。ニュルンベルク公爵」

「乱世にこそ、ああいう男は相応しいんだろうね」

 ペーターは、今の自分にはこの状況をどうにも出来ないともどかしい思いをしているらしい。
 口の端を歪ませているのを、俺は見付けてしまう。
 しかし、今の時点で下手に介入して皇帝を助けてしまうと、今度は上を抑えられたままの状態でニュルンベルク公爵と戦わないといけない。
 一時の犠牲に目を瞑って、皇帝には死んで貰わないといけないのだ。

「それで、その裸の皇帝陛下様は?」

「三日もすると、皇帝が率いる本隊はニュルンベルク公爵自身が自ら率いる部隊と激突するらしい。半分ほどの兵力で待ち構えているのだから、さぞや対策が一杯なんだろうね」

「地下遺跡の遺物かね?」

 前にも、爆発するゴーレムによって導師までもが翻弄されてしまった。
 魔法使いの数と質が落ちている討伐軍では、対策が遅れて致命傷を受けるかもしれない。

「今は、結果を待つしかない……」

 ほぼ負けるのがわかっている戦いの結果を待つというのは辛い物だ。
 それでも、時間が経てば結果は自ずと訪れる。

 それから十日後の夜、ペーターにより密かに討伐軍に潜らせていた密偵が早馬で彼の元に駆け込んでくる。

「お味方惨敗! 皇帝陛下は討たれました!」

「やはり……。それで詳細は?」

 急遽主だった者達が集められたテントの中で、息を切らせた密偵が詳細な報告を始めようとする。

「あの。これを……」

「ありがとうございます。奥方様」

 密偵は、エリーゼが急ぎ淹れたマテ茶を飲み干してから報告を始まる。
 細かい事だが、こういうタイミングにわざとぬるいお茶を淹れるとは、さすがはエリーゼというところであろう。

「敵は少数と、全軍で突撃をしましたところ……」

「大量の自爆するゴーレムによって軍列を崩されたか?」

「それは後です。金属製の竜のゴーレムが配置されていまして……」

「そんな物まで発掘していたのか!」

 王国の地下遺跡で出た以上は、帝国の地下遺跡でも発掘される可能性があったという事だ。
 そしてそれを自陣地に配置して、攻め寄せた討伐軍数千人が数発のブレスで溶けて無くなったと、密偵は報告する。

「その後に、大量の自爆型ゴーレムが……」

 十万人の大軍とはいえ、そこまでされたらあとは崩壊するだけだ。
 そこにニュルンベルク公爵が自ら攻め寄せて、皇帝の乗った輿がひっくり返された。

 泥に塗れた皇帝は剣を構えるニュルンベルク公爵に命乞いをしたが、『見苦しい』と一撃で首を刎ねられたそうだ。

「よくそこまでわかったな」

「私は後方にいまして、そこに真っ青な顔で取り巻きの一人が逃げて来ましたからね」

 その取り巻きは貴族なので、何とか皇帝を失って崩壊しつつある軍勢を纏めようと現地に残留した。
 密偵は、そのまま馬で飛び出してここまで逃げてきたそうだ。

「見事なまでの逃げっぷり。ガトラの早馬の技は称賛に値する」

 密偵の名は、ガトラというらしい。
 当然彼も、ペーターの同志でもあった。

「兄達はどうだ?」

「他の二つの軍の指揮を執っていたようですが、多分同じ結末でしょう」

「だろうね」

 何の事はない。
 ニュルンベルク公爵が一旦帝都から兵を退いたのは、地元に誘引すれば地下遺跡の遺物で勝てる自信があったからだ。
 ドラゴンゴーレムは重たいので、設置するなら工事に人手を使える地元という事なのであろう。
 当然、他二つの軍勢と指揮官であるペーターの兄達も無事ではないはず。

「予想通りになったね」

 ペーターの言う通りだ。
 ここにいる連中の大半は、そうなると予想して数か月も前から動ていたのだから。

「討伐軍は、半分は生き残れるかな?」

「そのくらいは生き残って欲しい。再編すればどうにかニュルンベルク公爵に対抗できるから」

 これから、勝ちに逸ったニュルンベルク公爵が軍勢を帝都に進める可能性が高い。
 それまでに、ペーターは帝国の実権を握って軍勢を再編しないといけないのだから。

「今のところ頼りになるのは、残留していた帝国軍と留守番に回された同志達か。あとは、ヴェンデリン」

 ペーターは、俺の肩に両手を載せる。

「君の王国軍組と、サーカットの町で編成した帝国軍。あとはミズホ伯国軍も当てにしている。外国の軍勢だからと騒ぐバカが多いと思うけど、今はスピードが勝負だ。クソ親父の死を公表して、一気に政権を握るぞ」

 やはり、朝まで一眠りというわけにはいかないようだ。
 全軍に出動命令が下り、陣地の中に兵士達の喧騒の声が広がっていく。

「ガトラ」

「はっ!」

「帝都に入って、バイエルラインとランズベルク伯爵に同じ報告をしろ」

「了解しました」

「ヴェンデリン。気になるかい? 僕の同志達だから、今は閉まっている帝都の正面門を開けてくれるわけさ」

 正門が開くのと同時に全軍で皇宮や帝国軍の施設を接収して、そのままペーターが帝国の実権を握る。
 これもクーデターではあったが、この際は仕方がないであろう。

 皇帝が死んだ以上は、誰かが権力を継承しないとニュルンベルク公爵に再び帝都を奪われてしまうのだから。

「ヴェンデリンは、僕の近くで見ているだけでいいよ。さすがに、この手の仕事は僕達が主導でやらないとね」

「そうか。でも、俺が傍にいると……」

 俺でも、看板の一枚くらいにはなると思うのだが……。
 事前の計画では、俺達は待機の予定だったはずだし。

「実際に事を起こすとなると、やはり手札を多くしたいのが心情でね。計画変更さ」

 ペーターは、俺を利用する気が満々なようだ。

「貸し借り無しを実現するために、お代はいただくけどね」

「それは勿論。じゃあ行こうか」

 それから数分後には準備が整い、少数の留守番だけ野外陣地に残して全軍で帝都正面門へと向かう。
 クーデター以降、死ぬまでニュルンベルク公爵に操られた憐れな皇帝アーカート十七世は、半年ほどという短い在位期間を終える。

 後に本で調べたのだが、彼の在位期間は二百七十八日。
 歴代の皇帝の中では二番目に短い数字である。

 なお、一番短い在位期間を持つ皇帝は、千百年ほど前に在位十七日で卒中で倒れたアーカート三世であった。
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