挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
133/205

幕間二十七 とある殿下の事情。 

「殿下、帝都の様子が変です」

「変? 変ってどんな風に?」

「軍隊が動いているようです。他にも、一部の施設や建物からは火の手も」

 いつものようにクソ親父と優等生な兄達の嫌味を聞き流し、帝都郊外の森で狩猟の後にバーベキューパーティーとキャンプと楽しんでいたら、夜番をしている家臣がテントに飛び込んで来た。

 外に出ると、帝都から火の手が上がっている。
 こんな時間にもかかわらず、かなりの数の軍隊勢も動いているようだ。

 軍の夜間演習……のわけないよね。

「殿下……」

「やあ、エメラは寝起きでも綺麗だね」

「殿下、そのような冗談を言っている場合では無いのでは?」

 僕が個人的に雇っている魔法使いのエメラが自分のテントから出てきたけど、僕の褒め言葉を聞いて冷たい表情になった。
 僕は、場を和ませようとしただけなのにね。
 それにお世辞じゃなくて本当に綺麗だと言っているのに、エメラは冷たいんだから。

 まあ、そこが良いところでもあるんだけど。

「殿下、クーデターのようです」

「ああ、やっぱりそうだよね」

 いつの間にか横に控えていた護衛のマルクが、一言だけ言葉を発する。
 マルクは凄い剣士だけど、言葉数が少ないからね。
 気配も掴みにくいので、たまに傍に居ても気が付かない事があるんだ。
 僕を守る仕事で、手を抜くような人じゃないんだけど。

「誰がクーデターを起こしたのかな?」

「ニュルンベルク公爵しかあり得ません」

「だよね」

 皇帝選挙では、惜しいところまで行ったからね。
 若い野心家である彼からすれば、あの結果は満足できなかったのかな?

 でも、どう得票数を予想をしてもうちのクソ親父には勝てない。
 皇帝としての素養は圧倒的にニュルンベルク公爵だけど、今は乱世でもないからね。

 改革という名の混乱を嫌った保守派のせいで、無難にうちのクソ親父に決まったわけだ。
 若いニュルンベルク公爵からすると理不尽に感じるのかもしれないけど、改革は失敗すると今よりも状況が悪くなるからね。

 一国の政治の問題だから、そう博打も打てないと感じている貴族が多いんでしょう。

 ニュルンベルク公爵からすると、惰性で流されたと感じるかもしれない。
 そこは、世代間や身分間で発生するギャップというやつかな?

「これは困ったね」

 明日、どうやって帝都に戻ろうか悩んでしまうね。
 いきなり捕まって処刑されるのも嫌だし。

「とりあえず、ここは安全ですが……」

「エメラ、僕達は根無し草になってしまったのかも」

 今から皇宮に戻っても、もうとっくにクーデター軍に占拠されているだろうし。
 そういえば、クソ親父と兄達はどうなったのかな?

「どこかに逃げますか?」

「それも芸が無いね。暫く様子を見よう。その前に、最低限の見張りを立ててもう一眠り」

 この狩猟場は、僕達だけしか使っていない秘密のポイントだからね。
 クーデター軍も忙しいだろうし、朝になってから帝都の様子を確認してもいいでしょう。

「殿下……」

「どうせこんな場所にクーデター軍は来ないし、来ても逃げる場所はわかっている。明日からに備えて寝ておくのも生き残るコツだよ。それとも、エメラは僕と寝たいとか?」

「面白い寝言ですね」

「うわーーー、エメラのキツイ一言。じゃあ、僕は寝るから」

 そのまま就寝して翌日の朝、僕は何名かの密偵を放った。
 密偵とはいっても、僕の子分で酒場の主とマフィア幹部の息子なんだけど。

 クーデター直後で帝都の警戒態勢が厳しいから、貴族の子弟が入ると捕まってしまう。
 その点、帝都の裏道などをよく知っている彼らは情報収集には最適だ。

「暫くはここで待つしかないね」

 数日後、更に帝都から離れた森の奥深くに移動して彼らを待っていると、欲しかった情報を持って来てくれた。
 さすがは酒場の主とマフィア幹部の息子、クーデター後でも上手く動いて情報を持って来てくれる。

「皇家と選帝侯家の人間で、帝都にいた連中は軟禁状態にある?」

「殺されている可能性も、無きにしもあらずですが」

「クーデターの首謀者がニュルンベルク公爵なのは今さらとして、帝国軍はどうなの?」

「およそ、四割が参加した様子です」

「ふぇーーー、これはうちのクソ親父のせいばかりとも言えないか」

 手堅い内政家であった先帝陛下は、あまり軍事には詳しくなかったからね。
 間違いなく、彼の生前からニュルンベルク公爵は動いていたのだろう。
 でなければ、ここまで鮮やかにクーデターは起こせない。

 となると、これは先帝陛下の責任でもあるわけだ。

「それで、どうしましょうか?」

「どうするも、もう少し情報が欲しいね」

 それから一週間ほど、僕達は森の奥地に籠りつつ情報を集めた。
 ニュルンベルク公爵は、帝都の掌握にほぼ成功したようだね。

 普段は家柄自慢で威張っている癖に、命が惜しくてニュルンベルク公爵に尻尾を振る貴族の多いこと。

 ただし、一部失敗もしているようだけど。

「親善訪問団として来ていたヘルムート王国の使節団を軟禁、魔法使い数名を殺害か……」

「思いっきり外交問題だよね」

 せっかく二百年も停戦が続ていたのに、バカなんじゃないかと思う。
 こんな理由で仮想敵国に喧嘩を売ってどうするのだろうか?

「もし将来ヘルムート王国と戦争になるにしても、内乱終結までは手を出しちゃいけないのに」

「殺されたのが魔法使いなら納得できます」

「エメラ、その心は?」

「魔法を使えない兵士達からすれば、いきなり魔法を放たれるのは嫌なのです。過剰に反応して殺してしまったのでは?」

「魔法を撃たれるくらいなら、先制して斬ってしまえと?」

「はい」

 エメラは、魔法使い達がニュルンベルク公爵の命令で殺されたのではなく、兵士達が過剰防衛で殺してしまったのではないかと推論する。
 どんなに慎重に立てた作戦でも、実行すれば思わぬ齟齬も出るというやつかな? 
 ニュルンベルク公爵がいくら優秀でも、末端の兵士達の行動を全てコントロールできるはずもないし。

「魔法なんて食らったら、軽くても重傷だものね」

「軽い『ファイヤーボール』でも、当たれば大火傷です」

「確かに、それは嫌かも……」

 相手が魔法を放つ前に斬り殺してしまったか。
 でも犠牲は数名で、当然逃げ延びた者達もいる。

「バウマイスター伯爵とその一行の行方をニュルンベルク公爵が追っています。何でも、相当に派手にやったそうで」

「オズベルト、よく調べてくるね」

「鼻つまみ者のマフィアですけど、光ある所には影もある。影は、帝都の至る所に存在しますから」

 さすがは、マフィア幹部の息子。
 彼は、情報を集めてくるのが本当に上手だ。

「選帝侯ではフィリップ公爵だけが逃げ延びたようです。彼女が詰めていた迎賓館ですけど、地獄の惨状だそうで……」

 正視に耐えないクーデター軍兵士達の死体が散乱していて、その床は血で真っ赤に染まったそうだ。

「死体の片付けを、クーデター軍は乞食に頼みますからね」

 その乞食から情報を得るくらい、マフィアからすれば児戯に近いというわけさ。
 いくら優秀なニュルンベルク公爵でも、そこからの情報漏えいは防げない。
 彼も高貴な生まれだから、乞食やマフィアのような下々の行動は理解できないというわけだ。

「あとは、帝都北部にある駅馬車の待機場が壊滅しました」

 とてつもない高温に焼かれて、馬車も馬も全滅だとオズベルトが報告を続ける。
 何もかもが完全に焼けてしまったために、逆に後片付けは非常に楽だったらしいけど。

「クーデター軍からすれば、そんなことをする意味が無いよね」

 他の抵抗された軍事拠点でもあるまいし、馬と馬車を無事に抑えて輸送力を確保するのが普通なのだから。
 という事は、実行者はクーデター軍に対抗する者達の可能性が高い。

 ほぼ間違いなく、バウマイスター伯爵一行の仕業であろう。 
 彼の魔法ならば、このくらいの事は十分に可能なはずだ。

「逃げる際に、他の追跡用の足を潰したと?」

「そういう事になります」

 無事に、フィリップ公爵とバウマイスター伯爵一行は逃げ延びたというわけだ。
 状況から見て、両グループは合流したと考えるのが合理的だと思う。

「それはとんでもない獲物を逃がしたね。ニュルンベルク公爵は」

 ここでフィリップ公爵を捕えるなり殺していれば、クーデターは大成功だったのに。
 逃げられたのであれば、フィリップ公爵も生き残るために兵を集めるからね。
 自然と内乱に移行するわけだ。

「外国貴族であるバウマイスター伯爵のせいで、ニュルンベルク公爵のクーデターは躓きを見せるか」

 フィリップ公爵は北方諸侯を集めてニュルンベルク公爵に対抗する公算が高く、それにはバウマイスター伯爵一行も参加するのかな?

「船で帰るという選択肢もあるかな?」

 バウマイスター伯爵からすれば、帝国の内乱に参加する意義なんて無いからね。
 早く戻って領地の開発を進めたいだろうし。

「殿下、それはありません」

「どうしてそれがわかるんだい? エメラ」

「先ほど『飛翔』を用いて偵察を行おうとしたのですが、頭に激痛が走って発動しませんでした」

「魔法が使えない?」

「いいえ、正確には一部の魔法が発動しないのです」

 それは厄介な話だね。
 そういえばクーデター以降、帝都から飛び立つ魔導飛行船が一隻もない。
 エメラが『飛翔』を使えないのと同じ理由であろう。

「そういう魔法じゃないよね?」

「広範囲に一部の魔法が永続的に使えないようにする魔法なんて、少なくとも私は聞いた事がありません」

 魔力の消費量も凄そうだしね。
 エメラは帝国でも有数の魔法使いだけど、さすがにそんな芸当は不可能だろう。

「確か、ニュルンベルク公爵領には古代魔法文明時代の地下遺跡が多数あったよね?」

 何かいいお宝でも見付けて、それが自信の根拠になっているのかも。
 とにかく、今は安易に動けない。

 と思い、更に数日情報収集に努めたけど、これはどうにもならないね。

「ニュルンベルク公爵も、クソ親父と兄達を殺してくれれば良かったのに」

「殿下、不謹慎です」

「そうなっていれば、僕もニュルンベルク公爵討伐の兵集めが出来るのに」

 亡くなった父親にして皇帝の意志を継ぎ、ニュルンベルク公爵を討つのに全力を尽くす。
 皇帝の子に継承権は無いけど、今は帝国全体が混乱しているからいくらでもやりようがあったのに。

「では、北に逃げてフィリップ公爵様と合流しますか?」

「マルク、そういうのを昔に『船頭が多いと、船が山を登る』とか言ったそうだよ」

 僕なんかが行っても、それは新たな混乱を引き起こすだけだ。
 主導権争いで滅びる反抗軍か。
 歴史の教科書でバカにされそうだね。

 向こうもありがた迷惑でしょう。
 クソ親父や兄達ならともかく、三男で母親が平民の僕なんて。

「それでは、いかがなされます?」

「決まっているじゃないの。帝都に戻る」

「ニュルンベルク公爵に捕まってしまいますけど……」

「でも、殺されないから」

 そう、クソ親父や兄達が殺されていないのに、僕如きが殺されるはずがないじゃないか。
 ニュルンベルク公爵は、皇家の人間に何らかの利用価値を見付けたのだろうね。

 だから、それを探るためにも戻るとしようか。

「ただし、エメラやマルクは駄目だよ」

 優秀な人材だからね。
 僕を人質にして、きたるフィリップ公爵との戦いに駆り出される可能性がある。
 ここは、一旦僕を見捨てた事にして貰わないといけない。

「他のみんなもね。ここは忍耐の時でしょう」

 大半の家臣や遊び仲間達はこのまま森の奥で待機するとして、僕達は数名で帝都へと戻る。
 その前に、小汚い恰好に着替え、酒を大量に飲んでおく。

「何だ? お前は?」

「僕は皇帝陛下の三男で、彼らは僕の遊び友達だよーーーん」

 帝都の正面門で、僕は酔っ払いながら自分の身分を明かした。
 すぐに連行されてニュルンベルク公爵の前に引き出される。

 前に見て印象に残った鷹のように鋭い目と、帝都の掌握に成功して余裕の笑みも浮かべているようだ。
 でも、まだフィリップ公爵との戦いがあるんだけどね。
 僕は出ないけど。

「何をしていたのだ?」

「帝都の外でバーベキューをしていたんだけどね」

 夜に、帝都で騒ぎがあった。
 家臣達が地方に逃げて兵を集めようと進言したけど、それを無謀だと断った。
 そうしたら、みんな自分から離れてしまった。

 そう説明すると、ニュルンベルク公爵はなぜか満足している。
 僕に人望が無いのが嬉しいんだろうね。

「兵を集めれば良かったではないか」

「皇帝の三男で、母親が平民の僕なんて旗頭にもならないよ。それに、帝都にはアーヤちゃんやミレイちゃんもいるし」

「それは誰なのだ?」

「僕のお気に入りの娼婦です。ニュルンベルク公爵、早く色町の通常営業を認めてよ」

「……、その内にな」

 ニュルンベルク公爵は僕をさげずんだ目で見つめるけど、これは本当にそう思っているのかな?
 それとも、まだ疑っている?

 ならば、もっと油断させないとね。

 というわけで、僕も他の家族と共に軟禁されたけど、外出は監視付きならば認めて貰った。
 勿論、外出先は全て馴染みの娼館という設定なんだけどね。

「監視員君、僕がミレイちゃんを満足させているシーンも見るかい? 僕にそういう趣味は無いんだけど、君もお仕事だからね」

 最初にそう言ったら、監視員君は娼館の入り口で待つようになったけど。

「殿下ちゃん、こういうお店に来てそういう事をしないの?」

「君は魅力的なんだけど、僕にはエメラがいるから」

「あら、案外真面目なのね」

「真面目も真面目。僕は常に真面目に生きているよ」

「まあ、お金は貰っているからいいんだけどね」

 この娼館は、オズベルトの父親であるマフィアの幹部が仕切っているから、ナンバーワンの娼婦を指名して、その広い個室で体が鈍らないように剣の稽古をしたり、集めた情報を分析したり、知己で援助してくれるマイヤー商会に連絡を取ったりする。

「この部屋の中で何があったのかは、娼婦の仁義で話さないから安心して」

 安娼婦なら金で転ぶ可能性もあるけど、伊達にナンバーワン娼婦じゃないというわけさ。
 実質的なオーナーであるオズベルトの父親の意向もあって、彼女は監視員に聞かれても僕が頑張って腰を振っていたと言ってくれる事になっていた。

「僕がいかにテクニシャンであるかを報告しておいて」

「任せて、殿下ちゃん」 

 そして、帰る時には酒を大量に飲んで酔っ払った。
 本当、僕が酒に強くて幸いしたよ。

「代金は、皇家に請求してね」

 極めつけがこれだ。
 娼館での代金は全て皇家へと請求、クソ親父は大激怒しているけど、ニュルンベルク公爵は笑いながら『娼館の代金とはいえ、払わなければ商売人も困るであろう。払ってやれ』とクソ親父に言い放った。

 国家予算となる税収などではなく、皇家の私財から払えと言ったのだ。

 僕が親や家族の目を盗んで遊び、その代金をクソ親父が払わされる。
 ニュルンベルク公爵からすれば、僕は皇家の資産を痩せさせる便利な駒というわけだ。
 まあ、大した金額でもないけどね。

「あーーー、毎日酒ばかり飲んで疲れた」

「殿下は、酒精の中毒になって駄目人間になったのですね。あとは、娼館で色に塗れていたとか?」

 数か月後、帝都はフィリップ公爵率いる解放軍によって解放された。
 その前に、ニュルンベルク公爵は何もかも持って逃げてしまったけど。

 それに合わせて潜伏していたエメラ達が戻って来たけど、数か月ぶりの再会なのにエメラは冷たいね。
 僕を酒精中毒扱いなんて。

「ペーター! よくも皇家の資産で遊びまくってくれたな!」

 せっかく家臣達との再会を楽しんでいるのに、クソ親父が五月蝿いな。
 どうせ僕が散財しなくても、ニュルンベルク公爵に持っていかれたんだから同じじゃないか。
 本当、細かい事で五月蝿いんだから。

「お前はもう大人しくしておれ! 余は……」

「退位するよね? 当然」

 即位直後にクーデターをかまされた皇帝なんて、何の役にも立たないどころか害悪でしかないと思うけど。
 ここは潔く退位して、フィリップ公爵に譲る方が帝国のためというやつさ。

「ふざけるな! 余にもプライドがあるのだ! 女のテレーゼ如きに皇帝の座は譲れん! それに、ニュルンベルク公爵はこの手で討つ!」

 随分と勇ましいね。
 ニュルンベルク公爵がいた頃には、殺されないようにヘコヘコしていた癖に。

 結局、クソ親父は退位しないでテレーゼ殿と揉めている。 
 ニュルンベルク公爵は、僕達を殺さないわけだ。

「余自らが、ニュルンベルク公爵を討つのだ!」

「父上、私も参加したします」

「ペーター、お前は留守番だ!」

 クソ親父も兄達も、ニュルンベルク公爵がいないと勇ましいな。
 そして、ニュルンベルク公爵の思惑通りに討伐軍を編成しようとしている。
 商人達から借金までして、どう考えても勝てる要素が見当たらないんだけど。

「僕は、留守番で良かったと思うよ」

 クソ親父達はバラ色の未来のために忙しいようで、また僕がフラフラしても何も言わなくなった。

 遊んでいるように見せかけて、少しでもお金を貯めつつ人脈も作る。
 幸いにして、当座の資金は潜伏していたエメラ達が隠していた物に、潜伏中に魔物などを狩って得た素材などもあるんだけど……。

「ありがたいけど、僕の資金力だとねぇ……」

 第三の基軸にもなり得ないか。
 となれば、ここは大きく借金でもしないと駄目なんだけど、問題はスポンサーかな。

「そういえば、バウマイスター伯爵様ですけど」

「ああ、彼はやっぱり解放軍に参加していたね」

 僕と同じ年なのに、魔法使いとしても、冒険者としても、軍人としても大活躍していて羨ましい限りさ。
 領地も資金も豊富で、奥さんも沢山いる。

 しかし、その生まれは貧乏貴族の八男だとか。
 そういえば、ニュルンベルク公爵が妙に意識していたような……。

 クソ親父達は、成り上がりの下賤な貴族で相手にする必要は無いという評価だったな。
 諸々を押し付けてたかっている状態に等しいのに、自分達の思惑を外れて稼いでいるから腹が立っているんだろうね。

「新しい磁器の販売ですか」

「よく思い付くよね」

 サーカットの町も開発も進んでいるし。
 あの町の住民からしたら、バウマイスター伯爵が帝国の皇帝になった方がいいと思っているだろうね。
 僕だって、あの町の住民ならそう思うよ。

「外国貴族が皇帝にですか?」

「エメラ、ここまで帝国が混乱すれば可能性が無いという事もないさ」

 まだサーカット周辺だけだけど、彼は帝国臣民に希望を与えている。
 実利と共にね。

 ニュルンベルク公爵は、南部と自分に従う軍人、貴族だけ。
 テレーゼ殿は、北部と解放軍に参加した貴族だけ。
 クソ親父は、どちらにも相手にされなかった残りカスだけか。

「殿下の出番は無いかもしれませんね」

「いやいや、必ずしもそうとは言えないさ」

 サーカットの町にいるバウマイスター伯爵は、当初参加していた解放軍と距離を置いている。
 クソ親父なんて、本当なら顔も見たくないだろう。

 第三の勢力になった?
 正しくはあるけど、みんなは彼が願っている事を正確に把握していない。

「テレーゼ殿は、バウマイスター伯爵にえらく執心だったとか?」

「女帝夫君ですか?」

「そんな事は、バウマイスター伯爵は望んでいないよ」

 広大な、まだ開発しないといけない領地がある。
 資金は豊富だけど、開発には時間がかかるよね。

 それなのに、帝国に足を縛られるのを良しとするはずがないじゃないか。
 帝国の領地なんて欲しがらないだろう。

「ほぼ無人だった大陸南部最南端、全てのリソースはそこに注ぎたいよね」

 集中すれば、バウマイスター伯爵が死ぬまでには小国にも匹敵する豊かな領地になるはずだ。

「帝国にある飛び地なんて、邪魔だろうね」

 貰った以上は統治しないといけないからね。
 しかも、千年以上も帝国の統治下にあった土地に王国貴族が領主となる。
 そんな面倒な土地、いらないでしょう。

「だから、解放軍では当初傭兵扱いであったと?」

 マルクの考えているとおりさ。
 報酬を金や財宝に限定したのは、それを持ち帰って領地開発に使えばもっとはかどるからだ。

「貴族ならば、領地が増えて喜ぶと思っていましたが」

「バウマイスター伯爵は、ちょっと帝国の古い貴族とは違うようだね」

 普通の貴族なら、領地が増えるのを喜ぶからね。
 領地の広さイコール、自分の権威に繋がると考えているから。
 元々家を出て魔法使いで身を立てる予定だったみたいだから、土地よりもお金の方が使い勝手がいいと思っているのかも。

「バウマイスター伯爵は、領地の質に拘っているんでしょう」

 飛び地を得て、そこに開発のリソースを割きたくない。
 それをすると、どっちも中途半端になってしまう。
 そういう風に考えているのだと思う。

「だから、鉱山利権とか港湾利権しか受け取らないかも」

 これならば、適当に代官を置いてその利益だけ得ればいいし。

「欲の無い方ですな」

「それは正しい認識だけど、だから逆に怖いんだよ」

 何の拘りも無い帝国に対し、彼は確実にその痕跡を残しつつある。
 ミズホ伯国とはえらく懇意なようだし、サーカットの町の住民は完全にバウマイスター伯爵派だ。
 彼は帝国の領地を一寸も得ていないけど、そのシンパは増やしている。

「このままだと彼に払う報酬は莫大な物となるね。それを絞られた帝国は痩せ衰え、逆に得たバウマイスター伯爵はそれで自分の領地を肥えさせる。戦後には、ミズホ伯国とも直接交易をするだろうね。他にも、彼と交易を望む貴族は多いはずだ」

「殿下、それって……」

「経済的な侵略とも言えるね、エメラ」

 大体クソ親父は、ヘルムート王国がニュルンベルク公爵に壊滅させられた先遣隊の派遣しか行っていない理由を理解しているのかな?
 どうせ、現地の混乱に巻き込まれたくない、先遣隊の潰滅で臆病風を吹かせているくらいにしか考えていないのだろうけど。

「ヘルムート王国は、待てばどんどん国力が増すからね」

 バウマイスター伯爵がいるからね。
 最南端開発で金をジャブジャブ回しているから、その影響で王国経済も右肩上がりだ。
 他にも、王国は不要な魔物の領域を積極的に解放させるだろう。
 可住領域と人口の増加もある。
 戦争で柵のある帝国領地を奪うよりも、新規に開発した方が統治は楽なのだし。

「このままにしておくと、二十年、三十年後には両国の差は絶望的なものになるだろうね」

 だから、それに気が付いたニュルンベルク公爵は焦ったのかもしれないけど。

「内乱の隙を突いて攻めるよりも、後で攻めた方が楽じゃない」

 国力比が圧倒的なんだから。
 それに、バウマイスター伯爵が帝国侵攻軍に参加すれば……。

「ミズホ伯国は呼応するんじゃないのかな?」

 それは彼らが不義理だからじゃない。
 彼らとて、生き残るためにそういう選択肢をしなければいけないというわけだ。
 その前に、彼らは一応独立国でもあるんだよね。

「サーカットの町の住民などは喜ぶだろうね」

 昔の良き時代が帰ってくると思うだろうからね。
 歓喜の声で、バウマイスター伯爵を迎えるかも。

「思った以上に帝国は大変な事になっているのですね。ならば、バウマイスター伯爵の暗殺も視野に入れるべきでは?」

「それは一番の悪手だよ、エメラ」

 王国発展の希望を帝国人が殺してしまう。
 こうなれば、今は冷静な王国政府もぶち切れるだろうね。

「失った未来の収入を取り戻すために、帝国侵略を躊躇わないだろうね。バウマイスター伯爵を殺害した時点で、大義名分は立つし」

「ううっ……」

 エメラは、悩むとちょっと視野が狭くなるのが短所かな。

「エメラ殿、その前にどうやって暗殺するのだ。バウマイスター伯爵の周囲には手練れだらけだぞ」

 王国の最終兵器に、ブランタークもいるからね。
 奥さん達も現役の冒険者で、腕が立つという話だし。

「そうですね、殿下が揃えられるくらいの戦力では暗殺も難しいですか」

「エメラ、それは微妙に傷つく!」

 エメラ自体は帝国でも三本の指に入る魔法使いで……内乱で魔法使いは一杯死んでいるからな。
 もうトップかもしれないね。
 マルクは凄腕の剣士だし、駒の質は揃っていると思うけど、問題は資金と人数か。

「どうなさるおつもりで?」

「クソ親父は失敗すると思うから、その後だね」

 僕の忠告にも関わらず、クソ親父は集められる予定の軍勢の数に安心している。
 ほぼ間違いなく敗北するとして、まずは僕と同じ考えを持っている軍人、官僚、貴族に声をかけて勢力を形成するべきか。

 更に僕は、バウマイスター伯爵が欲しがっている物を知っている。
 だから、それを恩賞に彼を引き入れる。
 幸いな事に、バウマイスター伯爵はテレーゼ殿を鬱陶しいと思っているからね。

 いい女ではあるんだけど、彼女は立場と身分が面倒臭い。
 僕だって、彼女はゴメンだね。

「バウマイスター伯爵にも、一つだけ弱みがあるからね」

「弱みですか?」

「この帝国の大半を覆う奇妙な装置さ」

 『移動』と『通信』魔法を阻害する装置か。
 クーデターなんて違法行為を企むニュルンベルク公爵には良い装置なんだろうけど、これをそのままとか頭がおかしいと思ってしまう。

「まあ、バウマイスター伯爵達が怖いのはわかるけどね」

 精鋭魔法使いだけで帝都上空に飛来、魔法で奇襲攻撃なんて手を恐れているんだろうね。
 ニュルンベルク公爵は軍人だから、思考が軍人の方に寄ってしまう。
 本人は意地でも、表立ってはそれを認めないと思うけど。

「あの装置は僕達も欲しくはない。彼らに破壊の自由を与えればいいさ」

「宜しいのですか?」

「構わないというか、アレが王国に渡ってもねぇ……」

 将来、帝国に侵攻するとして、その装置を復元して使ったとしても、今度は王国軍が足を縛られてしまうからね。
 ギガントの断裂を、魔導飛行船で超えられないし。

「古代魔法文明時代の遺産なんでしょう? 明らかに欠陥兵器だと思うけど」

「その技術を元に、何か他の兵器を開発される可能性もあるのでは?」

「それはさ。うちも同じでしょう?」

 ニュルンベルク公爵領を抑えれば、かの地の地下遺跡から見つかったロストテクノロジーの現物が手に入る。
 これを研究して配備、王国への抑止力にすればいい。

「案山子の代わりにはなるさ」

 今の帝国は滅茶滅茶だけど、逆にチャンスとも言える。
 破壊の中からの再生というやつだね。
 そのためにも、上手くバウマイスター伯爵を引き込んで政権を取らないと。

「ですが、バウマイスター伯爵様と会えるツテがありません」

「どうせクソ親父が偉そうに呼び出すだろうし、それが駄目でもマイヤー商会があるから」

 高級な磁器を販売している以上は、マイヤー商会に卸した方がいいからね。
 あの当主ならば、上手く渡りをつけてくれるでしょう。

「どうせ僕達は何も持っていないんだ。ここで賭けに出てもいいでしょう」

「私は殿下の護衛ですから」

「同じく、魔法で護衛しているだけですので、ただ殿下についていくのみです」

 ならば、行こう。
 『皇家の恥さらし』が、皇帝に成り上がるか、失敗して死ぬか。

 その結果は、まさしく神のみぞ知るのであろうから。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ