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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第八十話 どこかで聞いたような眠たい政治の話₀

「ただいま」

「何か大変な事になったみたいね」

 情報交換のための会議は、最後にウィルヘルム十四世陛下の崩御という大ニュースで幕を閉じていた。
 昨日まであんなに元気だった人が突然死んでしまうなど、高齢ではあったとはいえ年寄りとは本当にわからないものである。

 会議を終えて迎賓館に戻るとイーナ達が出迎えてくれるが、館内の使用人やメイド達も自国の皇帝陛下崩御でかなり動揺しているようだ。

 数人で集まって、ヒソヒソと話をしている光景が目につく。

 普段ならすぐに上司からに怒られるのであろうが、その怒るはずの偉い人達まで集まってヒソヒソと話をしているので、よほどの大事件というわけだ。

「それで、これからどうなるの?」

「親善訪問団の行事は、来年に延期だそうだ」

 魔法使い達の仕事は終わっているが、他の通商や技術交流部門の仕事は終わっていない。
 向こうの担当者も皇帝陛下の葬儀で忙しくなるし、親善訪問団が来ている間は本来バルデッシュは賑やかになるはずが、今は亡くなった陛下の喪に服さねばならない。

 親善訪問団の大半の人員は、これで帰国という決定が出されていた。

「それもそうか。ボク達が観光や買い物で騒いだりとか不謹慎だものね」

 新皇帝が決まるまでは、バルデッシュ市街で遊べない事に気が付いたルイーゼは残念そうだ。
 ただし、全員が帰国というわけではない。
 両国は皇帝や王が死ぬと互いに弔問団を派遣しているので、一部は残ってそのまま弔問団を形成する事になっていた。
 どうせ既にバルデッシュにいるので、時間と経費を節約するために親善訪問団の団員から選ばれるわけだ。

「他にも、新陛下の即位式典に出る人員とかね」

「時間がかかりそうね」

 イーナは、『どれくらい拘束されるのやら』という表情を浮かべていた。

「長くても、二~三週間くらいだってさ」

「後継者選びに時間がかかれば、ヘルムート王国に隙を見せる事になる」

「そう。ヴィルマの言うそれだよ」

 ヴィルマの言う通りで、ここで下手に時間をかけて皇帝不在という権力の空白を作ってしまうと、今の仮想敵国ではあるヘルムート王国に隙を作る事になってしまう。
 皇帝陛下の葬儀が終われば、すぐに臨時の貴族議会が開かれて新皇帝の決定投票が行なわれるそうだ。

「皇帝を投票で選ぶのね」

「普通の一般庶民が立候補とかは出来ないから、王国とそう変わらないさ」

 貴族議会を構成している議員の九割は貴族である。
 残りの一割も政商クラスの大商人だったり、大規模な工房を営んでいる大親方だったりするので、特に波乱もなく決定される事が多いそうだ。

「中央の皇家当主と、七名の選帝侯からしか立候補できないから」

「という事は、テレーゼ様も?」

「前に言っていたじゃない。今回は辞退するって」

 間隔が短かったり続けて同じ家から皇帝が出ると不平等になるので、今回もフィリップ公爵家は出馬しないとテレーゼ様が言っていた。
 本人がそう言っているので、間違いないのであろう。
 あとは、女当主なので立候補するとまた別の問題があるのかもしれないが。

「出身家のバランスとか……」

「完全に談合」

「だよなぁ……」

 ヴィルマの指摘通りであるが、別に自分の国でも無いので気にしない事にする。
 閣僚職の分け合いとか、うちの国でも普通にあるのだし。

「それで、俺達は残れるのか?」

 状況が状況なので、既に一部の人員は帰国準備を進めている。
 特に大物貴族が随伴させた妻や子供達などは、帝国中が葬儀の準備で忙しいうえに喪に服しているバルデッシュでのん気に遊んでいる光景を見せるわけにはいかないので、全員帰国の準備が進められていた。

「護衛だから残れる」

 エルは純粋な護衛として、エリーゼ達も冒険者であるので半ば護衛扱いで残れる。
 家族や随員を帰すとはいえ、他の貴族達も同じくらいの執事や護衛などは残すのだから当然の権利であった。

「楽しかった海外旅行が、お葬式と、緊張しかしない新皇帝即位式典に早代わりか……」

 エルが溜息をつきながら愚痴を漏らすが、俺も気持ちは同じだ。
 旅行先で葬式とか、雨男よりも性質が悪い。
 少なくとも、俺が葬式男では無い事を祈るしかなかった。

「葬儀に使える正装を持って来て助かったね」

「確かに……」

 ルイーゼが言うように、出発準備をしている時にローデリヒから言われて、魔法の袋に全員分の葬式にも使える正装を仕舞っておいたのだ。
 俺は魔法使いなので別にローブでも構わないのだが、出来ればそちらに着替えて自分達と服装を揃えて欲しいと残る貴族達から言われていた。

「ローデリヒさんて、お母さんみたいね」

「言えてるなぁ」

 確かに、イーナの言う通りだ。
 そういえば、前世の母親も子供の頃に出かけようとすると、『天気予報だと雨になるかもしれないから、折り畳み傘を持っていけ』と良く言っていた。
 それと良く似ているといえば似ている。

「ヴェル様。テレーゼ様が帰って来ない」

「さすがに戻って来れないでしょう」

 それは致し方ない。
 彼女は選帝侯にも選ばれている公爵なので、葬儀の準備を主導しないといけないのだから。
 きっと、夜通しで準備に奔走しているのであろう。

「葬儀はいつなのでしょうか?」

「そう先でもないと思う。一応、皇帝陛下の葬儀だから」

 エリーゼは、葬儀の日程が気になるようだ。
 とはいえ、日本の葬式のように明日明後日の話ではない。

 まさか外に遊びに行くわけにもいかないので、俺達は迎賓館の庭などで剣や魔法の修練に時間をかけるが、葬儀の日程は一週間後に決まる。
 正式に使者が来て、招待状を置いていったのだ。

 それとテレーゼ様は、相変わらず迎賓館に戻って来ない。
 葬儀の準備で大忙しなのだと思う。

「地方の貴族の方々は間に合うのでしょうか?」

「全員は間に合わないでしょう」

 葬儀後には次の皇帝を決める貴族議会の開催もあるので、議員になっている貴族などはそれに間に合うはず。
 いや、間に合わないような奴は議員に相応しく無いと見なされる。

 だから、一週間後の葬儀でも問題ないのであろう。
 俺は、カタリーナに自分の考えを語る。

「貴族議員に選ばれると、屋敷に魔導通信機が置かれるそうである!」

「導師。今まで、どこに行っていたんです?」

「買い食いである!」

「そうですか……」

 他の貴族ならば、遊びに行くと見せかけて実は何か情報種集をとか考えられるのだが、俺に会議の報告役まで押し付ける導師にその可能性は薄い。

 普段は本当に道化に徹するのが、陛下のお気に入りである導師の処世術なのだから。
 ただし、本人は心から楽しんでいるので、気を使う必要は一切無かった。

「携帯用の小型ではなく、過去に地下遺跡から大量に出土した魔導通信機で連絡をしていると聞いたのである!」

 大型の無線機が魔道具化したような物で移動は難しいが、貴族議員に選ばれると貸与されて屋敷に設置されるそうだ。
 緊急の連絡などはそれで受けられるので、彼らは葬儀や次期皇帝選出のための会議に間に合うというわけだ。

「遅れると、議員の資格無しで最悪資格剥奪もあるらしいな」

 続けて、ブランタークさんも姿を見せる。
 彼も、ブライヒレーダー辺境伯の代理として残留組に指名されていた。

「魔導通信機の所有権は帝国にある。議員になると貸与されて、議員から外れれば返還しないといけないからな」

 毎年、数名ずつではあるが議員の交代は発生する。
 家が繁栄して新たに指名される者と、逆に衰退して議員から外される者。
 辞めた議員の屋敷から帝国の役人が魔導通信機を回収する光景は、帝国では本に書かれるほどの物悲しい光景なのだそうだ。
 逆に、議員に指名されて屋敷に魔導通信機が来ると、パーティーやお祭りをする者もいるらしい。
 まさに、栄枯盛衰というやつである。

「情報が早いから、議員連中は本葬儀に間に合う。中央の法衣貴族や領地がバルデッシュから近い貴族も間に合うな」

 間に合わない人達は、葬儀終了後も予備葬儀が行なわれるのでそこに参列したり祈りを捧げにいくそうだ。

「そこで、上と下に分かれるんですね」

 俺達は、本葬儀に招待されているのでそれに出るわけだ。

「それで、次の皇帝選出のための議会でしたっけ?」

「議員の投票で決めるわけだな」

 議員の定数は、五百名だそうだ。
 そこから議員でもある皇家と七つの公爵家から立候補者が出て、彼らは決められた時間の中で所信演説を行なう。
 決められた時間内に内政・外交の方針を語り、それを聞いて議員達が一番良いと思った人に投票を行なう。

「過半数を取れば勝ちだな」

 票が割れた場合は、最下位の候補者を外してもう一度投票だそうだ。
 この辺のルールは、地球でも良くある物であった。

「とはいえ、今回は四名しか出ないからそう時間もかからないだろうな」

 亡くなった陛下は、メッテルニヒ公爵家の出だと聞いた。
 その先代は、テレーゼ様の曽祖父なのでフィリップ公爵家も立候補はしないと言っている。

 そうなると、六名が出ていないと駄目なような気もするが。

「二人は、老齢だから辞退したのさ」

 当主しか立候補できないし、その当主が六十歳を超えていると辞退するという慣例があるらしい。

「すぐに死なれるとまた選定で手間がかかるし、一人の皇帝の統治期間が長い方が治世が安定するという考え方だな」

 駄目な人が長期間政権を維持して国が衰退する可能性もあるのだが、それを排除するための投票なのであろう。
 必ずしも絶対でないのは、どこの世界でも同じなのであろうが。

「それ、一日で終わるんですか?」

「さすがに三日はかかる」

 演説・質疑応答で一人半日ほど持ち時間があり、四人なので二日間。
 最終日に投票を行なって決めるので三日間の日程らしい。

「長いなぁ。別に参加するわけじゃないからどうでもいいけど」

 どうせ新皇帝が決定するまでは、迎賓館に篭もる事になるのだ。
 新皇帝が即位するまでは、アーカート神聖帝国中が喪中なので身分の上下に関わらず遊び目的の外出は自粛され、劇場や歓楽街なども休業となるのだから。

「いや、俺達も会議場に行くんだけど」

「どうしてですか!」

「隣国の皇帝が選出されるから、普通に情報収集だろう。伯爵様の大切なお仕事さ」

 ブランタークさんが、『何を当たり前の事を……』と言った表情を浮かべる。
 訪問親善団は王国が派遣した物なので、その団員が残る以上は新皇帝の政策や人と成りを調べて報告する義務がある。

「この国は、そこまで皇帝の力が強いわけでもない。落選した他の候補者だって、得票数によっては無視できない政治勢力なんだ」

 有力野党のような物だから、これの情報収集も必要なのであろう。

「それはわかるんですけど、なぜそれに俺達が出ないと行けないんです?」

「親善訪問団の一員だから」

 ブランタークさんの当たり前な意見に、俺達はガックリと肩を落とす。
 前世では選挙にすら行った事が無い元無党派層の俺は、これから半月以上は続く退屈さを予想して、早く家に帰りたいと切に願うのであった。



「ふわぁーーー」

「寝るなよ。伯爵様」

 皇帝陛下の急死から八日後、俺は皇宮の近くにある貴族議会会議場の見学席で欠伸をしながら長い演説を聞いていた。

 昨日行なわれた葬儀は、テレーゼ様達の準備によって無事に終わっていた。
 葬儀には貴族から平民まで多くの参列者が訪れ、俺達もヘルムート王国代表としてかなりの上座で神官の説教を聴く羽目になっていた。

 こういう席では、どこの世界や国でも共通して坊主の説教が長い。
 朝の鍛錬で汗をかき、風呂に入って朝食を食べて来た俺達には眠りの魔法の呪文にしか聞こえず、何度も居眠りをしそうになっていた。

 怒られるかと思ったのだが、良く見るとシュルツェ伯爵達も少し眠そうであった。
 彼らは飾りの俺達とは違って、情報収集などで忙しかったので余計に疲れていたのであろう。

 そして、今日の皇帝選出臨時議会でも同じだ。

 まだ一人目のブランデンブルク公爵の時点で、みんな眠たそうであった。
 良く見ると、ただの見学者である俺達とは違って議員なのに、平気で寝ている奴がいる。

 葬儀で忙しかったのであろうが、当事者が寝ているのはどうなのであろうか?
 帝国の政治が、少し心配になってしまう。

「議員が寝ていますね」

「悪い大人の見本だな」

「ブランタークさん。隣にも悪い見本がいるけど」

 ルイーゼの指摘通りで、やけに静かだと思ったら導師が軽くいびきをかいて寝ていた。

「導師はいいんだよ」

「なぜなんです?」

「目が開いているじゃないか」

「こんな事を言うと失礼だと思うけど、本当に不気味ね」

 確かに導師は居眠りはしているが、その目は開いたままであった。
 随分と器用だなとは思うが、イーナの言うようにただ不気味だ。
 その外見と合わさって、子供が見たら確実に泣くであろう。

 シュルツェ伯爵達などは、導師に視線すら送らないで演説を眠気と戦いながら聴いていた。
 導師に面と向かって居眠りを非難するリスクを避けたのであろう。

「別に聞かなくても、演説の原稿は貰えるけど」

 後の質疑応答と合わせて、速記官が記載してから紙に纏められて議員や関係者には配られるそうだ。
 こちらにも貰えるそうなので、一応居眠りをしても問題はない事になっていた。

「ただ、重要な事なんですけどね」

「とは言ってもな。誰がなっても、そんなに政策に変化は無いんだよ」

 平和で安定している時代の皇帝選出なので、保守中流に寄って誰がなってもそう政策に変化は無い。
 停戦を続けて、徐々に不戦条約の締結と通商の拡大を進めていく。

 人の出入りも、もう少し解禁しましょうか?
 魔物の領域を開放したり、未開地の開発を進めて、国力を増大させる努力は続ける。
 魔法技術の開発も、今まで通りに進めましょう。

 午後からはバーデン公爵が演説と質疑応答を行なうが、二人の政策にそう違いはなかった。
 開発重点地域が違うのは、自分の領地のある地域を優先しているからだが、これはどの候補も同じ事を言う。
 そうしないと、同じ地域出身の議員の票を得られないからだ。

 人は、利権がないと動かないのだから。

 それにしても、昼食を食べた後なので死ぬほど眠かった。
 前世で居眠りをしている国会議員を『けしからん!』などと言っていたが、これは確かに眠い。 
 議場の議員も、ほぼ全員睡魔と戦っているようであった。 

「明日もあるのかよーーー!」

 エルは俺の護衛で一日中立っていたので、無駄に疲労していた。
 立ちながら呪文のような演説を聞いているだけなのに、動いている時よりも疲れているようだ。

「話を聞くだけで丸一日は、冒険者には苦痛ですわね」

 カタリーナも、眠い目を擦りながら迎賓館への道を歩いていた。

「眠いし、お腹減った」

「早く帰って何か食べましょうね」

「はい。エリーゼ様」

 ヴィルマも途中で居眠りをしていたが、エリーゼは完璧超人なのでメモを取りながら最後まで話を真面目に聞いていた。
 常人には真似できない偉業である。

「エリーゼは、眠くないの?」

「『聖』の治癒魔法には、眠気を醒ます魔法があるのです」

「知らなかった……」

 この魔法は、神官が上司の説教などで居眠りをしないようにと開発されたそうだ。
 なるほど、寄付以外では教会に近寄っていない俺には接する事が無かった魔法である。
 それと、神官も所詮は人間という事らしい。

「明日は、一人気になる方の演説がありますから」

「気になる?」

「少し政策が違う方がいるそうです」

「そんな情報、良く知っているね」

「お爺様からなので、教会経由です」

 ヘルムート王国の国教がカソリックで、アーカート神聖帝国の国教がプロテスタントという違いはあったが、実はアーカート神聖帝国の国民の三割はカソリックである。
 そこから教会は、独自に情報を得ているのであろう。  

「ほう。ニュルンベルク公爵を知っておるのか」

 突然後ろから声が聞こえ、それと同時に腕を組まれてしまう。
 この腕に感じる素晴らしい柔らかさは、間違いなくあの人であろう。

「陛下の逝去からお久しぶりですね」

「妾は、葬儀の準備で皇宮に泊り込みだったのでな。久しぶりのヴェンデリンじゃの」

 腕に更に胸を押し付けられ、俺はその柔らかさに至福の感覚を感じていた。

「(まるで、麻薬のような……)それで、ニュルンベルク公爵とはどんな人なのです?」

「少々過激な男じゃの」

 他の皇帝候補者は軒並み三十代半ばから四十代半ばくらいで、政策は逝去したウィルヘルム十四世陛下の政策の踏襲でしかない。

 ところが、ニュンベルク公爵は今年で二十二歳。
 鍛え上げられた大柄の体に、短く刈り上げた金髪と、鋭い鷲のような青い目をした若き野望家なのだそうだ。

「領地は皇家直轄領に隣接していて、代々武門で栄えた家でな。当主は少しばかり元気なのが多いのじゃが、当代のマックス殿は純粋培養でガチガチの国粋主義者じゃの」

 これ以上のアーカート神聖帝国の成長を望むのであれば、南征こそが必要で今はその準備を整えるべき。
 こう周囲に発言して憚らないそうだ。

「危険ですよね」

「危険な可能性もあるの。じゃが、ブラフの可能性もある」

 立候補者はみんな同じような事しか演説で言わないので、目立つために過激な事を言うかもしれない。
 だが、現状では戦争など難しいので、もし実際に皇帝になっても戦争になる可能性は低いのではないかと。

 テレーゼ様は、そのように予想していた。

「軍部の支持を得るために、予算の増額とか?」

「普通にあり得るかの」

 それがわかるのは明日なので、これ以上俺達だけで予想しても無駄であろう。
 話を切り上げて迎賓館に戻り、風呂に夕食と楽しんでから自室に入ると、またそこにはネグリジェ姿のテレーゼ様が待ち構えていた。

「テレーゼ様?」

「この部屋は落ち着くの。陛下が亡くなり、妾も葬儀に忙しくて戻れなかったからの」

 テレーゼ様は、またアクアビットのお湯割りを飲みながら俺に話しかけてくる。

「亡くなられた陛下にはお世話になっての」

 わずか十歳でフィリップ公爵家を継いだばかりで、何もわからないでいたテレーゼ様の後見役として、大変に良くしてくれたそうだ。

「でなければ、妾など今でも傀儡であったろうよ」

 更に、自分の婿取りの件などで無駄に心労が重なって寿命が縮まってしまったのかもしれないと、テレーゼ様は表情を暗くさせてしまう。

「(カルラに続き、憂う美人は美しいか……)皇帝陛下の公務は激務と聞いていますので、何もテレーゼ様だけのせいではありませんよ。それに、陛下はテレーゼ様を可愛がっていたのでしょう? そんな暗い顔では、陛下は安心して天国に行けません」

「ヴェンデリン。そなたは、優しいの」

 そう言ってしなだれかかってくるテレーゼ様の感触に、俺は理性を奪われそうになってしまう。

「テレーゼ様。時期的に不謹慎では?」

 何とかかわそうとするが、テレーゼ様からとんでもない発言が飛び出す。

「陛下も、妾の婿の件は心配しておったからの。安心させるために、妾を存分に種付けする権利を与えるぞ」

「(またかよ!)」

 またも飛び出す過激発言であったが、今日も乱入者達によってストップがかかっていた。
 テレーゼ様に対抗して、絹のナイトガウン姿のエリーゼ達が室内に入ると一斉にそれを脱ぎ出したのだ。

「良くそんなスケスケなの持ってたね」

「この前、ランジェリーショップで買いました」

 テレーゼ様に対抗すべく、エリーゼは黒、イーナは青、ルイーゼは赤、ヴィルマは緑、カタリーナは黄色と。
 スケスケのネグリジェ姿を俺達に披露していた。

「テレーゼ様。これからは夫婦の時間ですので」

「残念でした」

「すいません。夫婦が優先です」

「そう。夫婦が優先。色が、この前の晩餐会にいた四つ子みたい……」

「割り込みは厳禁……。みなさん。これって恥ずかしくないですか?」

 五人のネグリジェ姿に圧倒されているテレーゼ様であったが、すぐに怪力を誇るヴィルマに抱えられて部屋の外に出されてしまう。

「あなた。これからもみんなでガードしますのでご安心を」

「助かるけど、大丈夫か?」

 俺の、テレーゼに対する態度には迷いが多い。
 前世から引き続き女慣れしていないので、あまり強く否定してしまうと悪いような気がしてしまい、同時に彼女は大物貴族なので両国の諍いの原因になるかもとも思ってしまう。

 向こうがそれを利用しているのはわかるのだが、始末の悪い事に彼女は女性として魅力的なので困ってしまう。
 実は最近になって気が付いただが、俺は思ったよりも年上の女が好きなのかもしれない。

「あなたはお立場上、テレーゼ様に面と向かって拒否し難いと思いますので、私達が排除したします。貴族同士としてではなく、純粋に女同士の争いだと思わせてです」

 俺が直接テレーゼ様を排除すると貴族同士の関係と取ってしまう人が出るが、エリーゼ達が排除するのであれば女同士の争いの結果だと思わせる事ができる。
 エリーゼは、俺にそう説明していた。

「その代わりに、あなたは私達を十分に愛していただかないと」

「エリーゼの言う通りよ。夫婦の不仲説はテレーゼ様に付け入る隙を与えるし」

「つまり、ボク達以外には目もくれるなという事だね」

「テレーゼ様はしつこい。徹底的にやらないと駄目」

「ヴィルマさんの言う通りですわ。あの方はヴェンデリンさんが思っている以上に強かですから、少しくらい強く言っても大丈夫ですのに」

 迷いの多い俺を救ってくれたエリーゼ達であったが、当然それには恩で答えなければならない。
 その日の夜は喪中なのも忘れて、五人からたっぷりと搾られてしまうのであった。



「ヴェルも、結婚という監獄に捕らわれたか。これじゃあ、新皇帝陛下が決まっても歓楽街に遊びに行けないな」

「エルヴィンさん。前にも言いましたが、ヴェンデリン様に遊びの女はいけません」

「エルも相変わらずね」

「そういう事を言うから、本命の女性にフラれるんだよ」

「エルには、誠意が無い」

「ですわね。もし来世で出会っても、あなたとは結婚しませんわ」

 翌朝、風呂から上がると早朝の鍛錬を終えたエルから昨晩の事でからかわれたが、逆にエリーゼ達から言葉による反撃を食らって朝からノックアウトされてしまう。

「みんな。容赦なさ過ぎるぞ。俺は失恋のショックを癒そうと……」

 また出かける支度をしてから貴族議会会議場の見学席に入ると、早速三人目の候補者が演説を開始する。
 育ちの良さそうで、あまり派手ではないが高価な服を着た、落ち着いた感じの三十代半ばくらいの青年であった。
 ブライヒレーダー辺境伯と同じくらいの年齢であろう。

「中央の皇家から立候補したワルター殿だな」

 アーカート神聖帝国は皇帝を投票で決めるのだが、中央で直轄地を管理する皇家が存在している。
 爵位は公爵よりも上の大公爵家という名称で、この家から皇帝が出ないと彼らは皇帝を支える官僚機構と同じ扱いになる。
 皇帝は決められた予算内で自分が使う人材の雇用も可能であったが、それで全て賄えるわけではない。
 帝国の統治には、皇家の協力が必要であった。
 その部分は、皇家が有利な点かもしれない。

「他家から来た皇帝は、皇家に気を使うわけだな。これが」

 彼らは直轄地を管理して予算を捻出する存在なので、かなり気を使うわけだ。
 なるほど、投票で他の家の者が皇帝になっても、皇家からすればさほど問題でもないわけだ。

「あまり革新的な事は出来ないんですね」

「そういう事だな」

 どうりで、立候補者達が皆似たような事を演説で言うわけだ。

「それでも、皇帝陛下だからな。皇家は取り戻そうとするし、他の家の者も名誉や利益があるから立候補する」

「なるほど」

 中央のエリートであるワルター大公爵の演説は、前日の二人とさほど差は無かった。
 今の政治状況で、斬新な政策というのも難しいのであろうが。

「彼が当選すれば、アーカート十七世陛下になるわけだ」

 皇帝の名前であったが、これは中央の皇家の者が当選するとアーカートの国号に、他家の者がなると幾つかの候補の中から選ぶ。
 先代の陛下は、無難に評価が高い皇帝が多いウィルヘルムを選んでいる。
 逆に、前者の評判が悪くて二度と選ばれない皇帝名も複数あるそうだ。

「やっと最後のニュルンベルク公爵殿だな」

 かなりのタカ派だと聞いているが、果たしてどんな演説をするのか?
 少し興味があって耳を傾けるが、彼の演説は過激であった。

「我がアーカート神聖帝国は、現在重大な危機に直面している!」

 いきなりの一言に、上座の議員席に座るテレーゼ様や、他の候補者達、更には立候補していないホーエンツォレルン公爵、マイセン公爵なども驚きで目を見開いていた。

「現在、隣国ヘルムート王国は大きく成長しようとしている! それはなぜか? 英雄が現れたからだ!」

 ニュルンベルク公爵がその鷹のように鋭い視線を向けた先は、見学席に座っている俺であった。
 導師もかもしれないが、彼はこの状況に至っても目を開けたまま軽いいびきをかいている。

 脅威の精神力と言えよう。

「(えっ! 俺?)」

「その英雄は十二歳で伝説の古代竜を倒し、老属性竜を倒してパルケニア草原を開放した。現在、パルケニア草原は大穀倉地帯として開発が進んでいる」

 確かに、俺達が開放したパルケニア草原は大規模な穀倉地帯として開発が進んでいる。
 ニュルンベルク公爵は、隙なく情報を集めているようだ。

「更に! 古代の名工イシュルバーグ伯爵の工房に、即時に稼動可能な大型魔導飛行船も増えている! 既にその数では、両国との間に倍以上の差がついている! 加えて、この大陸の名を冠した超巨大魔導飛行船の試運転と訓練も行われているのだ! これの正式配属は時間の問題であろう!」

 両国ともそれに見合う大きさの魔晶石が無く、発掘されていても動かない大型魔導飛行船をそれなりの数保管している。
 そのバランスが、俺達のせいで崩れているのは確かであった。

「南端部未開地の開発も始まっている! 更に、大鉱山地帯ヘルタニア渓谷の開放も成った! この差を埋めなければ、我が国は将来的にヘルムート王国の北征を避け得ない状態となるであろう!」

 歯に衣を着せぬヘルムート王国脅威論に、見学席にいたシュルツェ伯爵達も絶句している。
 過去にも、たまにヘルムート王国の貴族達が議会の見学を行なっているそうだが、その席で堂々と我が国の脅威を論った者はいなかったそうだ。

「外交的に無礼になるというか、妙なのを刺激するからでしょう?」

「その通りだ」

 停戦から二百年以上、既に実戦経験者など存在しない。
 喉元を過ぎれば熱さを忘れるというか、非主流派や若い世代などから戦争を望む意見も無視できないくらいには育っていて、両国ともにその鎮火に労力を使っているのだ。

「年寄りや主流派の連中は、今の状態を良しとするからな」

 逆に、非主流派でどうにか上に上がりたい者、軍部では出世の糸口にしたい者、商人などでも戦争になれば儲かると考える人達も多い。

 彼らに、全体の利益を考えろと言っても無駄である。
 今の体制では自分達はのし上がれないので、戦争による現状の破壊を望んでいるのだから。

 現に、軍部で強硬な意見を言うのは、中堅で燻っているような連中が多かった。

「国内の開発の促進に、交易の拡大などは当たり前である! だが、同時に軍の強化も必要と考える! 現実に、ヘルムート王国の軍予算は微増傾向にある!」

 パルケニア草原の開放で防衛管区が増えた分は兵士の数とポストも増加していたし、空軍は地下遺跡に隠されていた魔導飛行船用のドッグを本拠地にするために人員の増加を行なっている。

 ヘルタニア渓谷も、警備隊の仕事とポストが増えた。
 必要な事なので、僅かではあるが軍事予算が増えているわけだ。

「これに対抗すべく、我がアーカート神聖帝国でも軍備はその量と質を充実させなければならない!」

 演説を聴いている中で、軍と関係の深い議員達から歓声と拍手が沸き起こる。
 軍に携わっている者からすれば、予算が増えるのは大歓迎なのだ。
 そこに、戦争をどうしてもしたいからという理由はあまり含まれていない。

 軍の上の方にいる連中からすれば、予算が増えるのは結構だが、負けた時のリスクを考えると戦争自体は反対というスタンスの者達が多かった。

「(国力が増えている隣国への脅威論を理由に、軍の予算を増やして欲しいと。そういう事だろうな……)」

 扇動的な演説ではあるが、支持を増やす手法はなかなかに強かである。
 皇帝にならなくても、この若き野望家ニュルンベルク公爵はヘルムート王国が注意しなければいけない人物であろう。

「今までが安泰であったからと言って、それに胡坐をかいていては滅亡への一里塚である! 次の皇帝は、大きく変動する両国の関係に対応して、時には痛みを伴う改革を行う必要があろう! 私、マックス・エアハルト・アルミン・フォン・ニュルンベルクこそが帝国の真の繁栄を導くと約束しよう!」

 ニュルンベルク公爵の演説に、かなりの割合の議員達が大きな拍手を送っていた。
 前の三人の当たり障りの無い演説に比べれば、聞く価値はある物であったからだ。

 後の質疑応答でも、ニュルンベルク公爵はテキパキと質問に答えている。
 鋭い目付きと視線は気になるが、それも特徴となって目立っているし、若くて顔も悪くない。
 何より演説が上手い。
 質問への答え方を見ても、彼がとても頭が回る人物なのは確かであった。

「(ただなぁ……)」

 地球には、過去にヒトラーとかムッソリーニとか演説が上手い独裁者が存在していた。
 そして彼らを選んだ国民は、後に不幸に遭っている。

「(気のせいかもしれないし、ヘルムート王国の事ではないからなぁ……)」

 多少の引っ掛かりを感じながらも、四人の候補者による所信演説が終わったので俺達は迎賓館へと戻るのであった。



「ニュルンベルク公爵の評判かえ? 悪くはないの」

 夕食後、さすがに毎日ネグリジェで押しかけられても迷惑なので、リビングにみんなを集めて話をする事にする。
 テレーゼ様に導師やブランタークさんも集まっていて、彼らと俺は酒を、エリーゼ達はお茶を飲みながら二日間の所信演説の話をしていた。

「彼の、過激な南進論をぶちまける姿は昔からじゃからの。ただ、自領であるニュルンベルク公爵領では財政規律をおかしくするような軍備の増強は行なってはおらぬよ」

 その代わりに、精鋭化には自ら陣頭に立って積極的に取り組んでいるそうだ。

「軍の訓練内容に魔物狩りが入っておる」

 冒険者達を先導役に雇って集団での狩りを行い、魔物の集団が活性化しない内に上手く撤退する。
 他にも、陣地構築訓練と称して街道の整備や開墾の手伝いを行なったり、失業者を軍属に雇ってそれに参加させたりと。
 そのおかげか、ニュンベルク公爵領の失業者は他よりも少なく、軍が訓練であちこち動いているので治安も悪くないそうだ。
 施政も基本的には善政であり、領民達からの人気が高いとテレーゼは断言する。

「『軍は、団体で精強たれ』だそうじゃ」

「間違ってないな」

 導師のような存在など滅多にいないので、軍は団体行動に慣れている方が戦争になれば強い。
 別に個人の武芸鍛錬を怠っているわけでもないそうで、ニュルンベルク公爵家諸侯軍はアーカート神聖帝国一精強であると知られているそうだ。

「魔法使いの方はどうなんです?」

「それは、他の公爵家とあまり変わらん」

 どうしても中央が優れた魔法使いを囲う傾向にあるので、公爵家でもなかなか魔力量が上級の魔法使いを雇えない。
 限られた魔法使いを上手く回しているそうだ。

「それで、ニュルンベルク公爵は次期皇帝になれそうですか?」

「難しいであろう」

 若くて有能なニュルンベルク公爵に期待をしている人達は多かったが、別に今までのアーカート神聖帝国の政治が極端に悪かったわけではない。

 政策に関しても、今までの流れに少しずつ変化をつければ良いのではないかと考える人も多いわけで、大方の予想では大公爵が勝利して、久しぶりに皇帝の名がアーカートになるのではないと噂されているそうだ。

「確かに、賭けでは大公爵が一番人気であるな」

「賭けなんてしているのですか?」

「皇帝選出の際には、必ず行なわれる名物だと聞いたのである!」

 そう言いながら、導師は一枚の木製の掛札を俺達に見せる。
 見ると、意外と堅実に一番人気の大公爵に賭けていた。

「穴狙いで、他の人にしないのですか?」

「バウマイスター伯爵よ。賭けとは勝たねば意味が無いのだ!」

「納得の一言だけど……」

「その前に、色々と疑問が出てくるなぁ……」

 導師の立場で賭けをしても良いのかとか、その賭け行為自体が違法ではないのかとか。
 イーナとルイーゼは、かなり気になっているようだ。

「賭け自体は、胴元が帝国なので問題ないぞえ」

「帝国主催なのですか?」

「然り。陛下の葬儀代やら、娯楽関連の施設が新皇帝即位まで営業を自粛するからの。下々には、多少の娯楽も必要であろう?」

 テレーゼ様の説明に、カタリーナは驚きを隠せないようだ。

「全くもって、理解できませんわ」

「賭けは、胴元が一番儲かるから」

「ヴィルマはボソっと辛辣な事を言うの。面白い奴じゃ。逆に『暴風』殿は真面目じゃの」

 実はヴィルマの一言にはお上に対する毒が混じっているのだが、それに気が付いたテレーゼ様は笑いながら彼女を褒めていた。

「何をするにしても、先立つ物が必要じゃからの。何しろ、予算は有限じゃからな」

「何かの間違いで、ニュルンベルク公爵が次期皇帝になるとか?」

「エリーゼ殿は、ニュルンベルク公爵を警戒しておるのか?」

 俺と同じく、エリーゼもニュルンベルク公爵に警戒をしているようだ。
 彼女は祖父経由からの情報を基に、俺は前世からの知識と勘でしかなかったが。

「得票数では、上手くすれば三位にはなるかの? 今回はそう波乱は無いと思うぞ」

 いくら人気があっても、投票するのは議員である。
 地縁・血縁・派閥・利権などで他の人に入れざるを得ない人が多いと言うわけだ。

「さて、明日に備えて早めに寝るかの」

 その日はテレーゼ様の夜這いも無かったので普通に寝た翌日、遂に次期皇帝を決める投票がスタートしていた。

「誰かが過半数の票を得るまでは、投票を繰り返すらしいが……」

 まずは、最初の投票が行なわれる。
 議員達が一枚の投票札を持ち、それに羽ペンで記載して投票箱に入れるのだ。
 議員全員の投票が終わると、すぐに開票されて集計が始まる。
 この作業は、不正を防ぐために全て議員達の前で行われる。

「結果は、もう一度投票です!」

 集計係をしていた役人の宣言により二回目の投票に入る。
 最初の結果は本命である大公爵が221票、ニュルンベルク公爵が111票、あとはブランデンブルク公爵が97票、バーデン公爵が71票であった。

 テレーゼの予想が外れて、ニュルンベルク公爵の得票数は二位であった。
 予想以上に、彼は人気があるらしい。
 まずは最下位であるバーデン公爵が抜けて、残り三人で再投票が行なわれる。

「次で、大公爵が過半数を取って決まりか」

「テレーゼ様は、そう読んでいるようだな」

 今日も目を開けたままで眠る導師を見ない事にして、俺はブランタークさんと話を続けていた。

「得票数の比率から言っても、そんな感じかな?」

 ところが、次の投票で波乱が起こる。

「結果は、もう一度投票です!」

 議場では予想が外れたせいであろう、ざわついている議員達が多かった。

 大公爵が249票で、過半数を取れなかったのだ。
 あとは、ニュルンベルク公爵が154票、ブランデンブルク公爵が97票となり、ここでブランデンブルク公爵の脱落が決まる。

 ブランデンブルク公爵が驚いているが、彼は自分が皇帝になれるとは思っていなかったらしく、むしろニュルンベルク公爵が二位になっている事態に驚いているみたいだ。

「うーーーん。大公爵の勝ちは確実だと思うが……」

 問題なのは、テレーゼ様ですら票の流れを読み切れていなかった事だ。
 最初の投票で四位であったバーデン公爵の71票。
 この半数以上がニュルンベルク公爵に流れたのは、大方の予想では勝ちが決まっていると噂されていた大公爵に投票をしても、別に優遇もされないであろうという考えなのかもしれない。

「あとは、商人票が流れたのか?」

 議席の一割は、非貴族枠になっている。
 下手な貴族など圧倒する財力を持つ大商人や大工房の大親方などが大半を占めていたが、彼らはニュルンベルク公爵の新しい経済政策などに期待したいという考えなのかもしれない。

「これで、最後の投票です!」

 三回目の投票が始まり、また素早く開票と集計が進んでいくが、その結果に議場中から溜息が漏れていた。

 大公爵が267票で、ニュルンベルク公爵が233票。
 結果は最初の予想通りになっていたが、ニュルンベルク公爵の人気が侮れないという結果になっていたからだ。

「これは、今度の皇帝はニュルンベルク公爵に一定の配慮が必要ですね」

 予想外の結果に、見学席にいたシュルツェ伯爵達は報告書の草案の記載に入っていた。
 まだ若く過激なニュルンベルク公爵の台頭に、警戒感を抱いての事であろう。

 何しろ彼は、南進論者なのだから。

「まだ若いですから、次の皇帝選挙に出る可能性もありますね」

「無いとは言えないな」

 とはいえ、その脅威は数十年後の事であろうし、それに対応するのはその頃のヘルムート王国である。
 今から気にしても仕方がなく、俺達は早く即位式典を終えて領地に戻りたいと心より願うのであった。
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