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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第七十九話 フィリップ公爵家の女当主。

「我が必殺の! バースト・ライジング!」

「おおっ!」

「相変わらず凄いな」

 親善訪問団と一員としてアーカート神聖帝国に到着した翌日、今日は両国の魔法使い達による魔法の披露会が行なわれていた。

 皇宮傍にある、武芸大会などが行なわれるコロシアムには多数の観客がつめかけ、主賓には皇帝陛下の姿もある。
 ここで順番に、自分が得意な魔法を順番に披露していくのだ。
 普段はなかなか見られない攻撃魔法を見るチャンスだと平民達にも人気があり、チケットの入手は困難を極めるらしい。
 中にはこれを、『手品ショーの延長』だと揶揄する人もいたが。

 民間では、初級の魔法使い達による演芸扱いの魔法ショーは存在しているが、親善訪問団来訪の時には普段は見られない両国の高名な魔法使い達の魔法が見られるとあって人気がある。

 まずは中級レベルの者から、見た目が派手な攻撃魔法が設置された標的や巨岩などに炸裂する。
 決闘方式ではないのは、万が一にも貴重な魔法使いを死傷させないためであった。

 魔法の披露が進み、今は導師がクルトに使った火柱の魔法で全高十メートルほどの岩を全てマグマ状に溶かしていた。

 観客はその威力に、大きな歓声と拍手をあげている。

「導師からすれば、欠伸が出るような実技だろうな」

 導師が本気で自分の実力を見せれば、周囲に大きな被害が出てしまう。
 そこで、二十メートルほどの火柱をあげてそれでお茶を濁していたのだ。

 そしてその光景を、俺も貴賓席に座って見学していた。

「あの男なら、万の軍勢でも余裕で蹴散らすであろうからの」

「でしょうね」

「軍事の常識を根本からひっくり返す男じゃからの。それは、ヴェンデリンも同じであるか?」

「……」

 その貴賓席の隣の席には、あのお騒がせ肉感美女であるテレーゼ様が座っていた。
 俺はなぜか彼女に気に入られてしまい、好きに抱いても良いという権利までいただいている。

 正妻なので俺の反対側の席に座っているエリーゼは、彼女に大きな危機感を抱いているようだ。

 種付けの許可を貰った件についてはまだ話していないが、言えば余計にエリーゼがヤキモチを焼くので、今は秘密にするのと同時に、どうやってこの期間を無難に過ごすかで俺の心の中は一杯であった。

「(テレーゼ様と子供なんて作ったら、また面倒な事ばかり増える)」

 俺は五人の美しい妻を持つ成功者のはずなのに、なぜか心が優れない。
 しかも面倒な事に、前のカルラとは違ってテレーゼ様が俺の男心をくすぐる抱きたくなる女だから性質が悪い。
 誘惑されないように近付きたくないのだが、彼女は俺達魔法使いの世話役になっている。

 彼女が俺の傍にいても、何ら不思議はない。
 というか、それが彼女の仕事なのだ。

「皇帝陛下もお喜びのようですね」

 話が種付けの件にいかないように、俺は導師の魔法に拍手をしている皇帝陛下の事を聞いてみる。
 事前に得た情報では、彼の名はウィルヘルム十四世であり今年で七十八歳、在位三十八年になるおじいさんであった。

「陛下はメッテルニヒ公爵家の出でな。貴族会議の投票で三十八年前に即位された」

 この国の皇帝は、中央の皇家と七家の選帝侯に任じられている公爵家の当主から立候補した者達から、貴族議会の議員による投票で選ばれる。
 こういうシステムになっているのは、多くの他民族国家を内包しているが故の苦肉の策でもあるようだ。
 中央の皇家と公爵家で皇位を流動させて、なるべく権力を平等にという事らしい。

 些か不安定にも見えるが、昔から統一が早かったアーカート神聖帝国の方が南部のヘルムート王国を圧倒していたので、さほど問題になっていない。
 後にギガントの断裂よりも南部の領域を失うが、停戦によってヘルムート王国は北上をしなかった。

 共に魔物の領域の開放や未開地の開発に労力を割き、今ではあまり国力に差が無く戦争をするにもリスクが大きい状態になったからで、今の平和は両国の均衡によって支えられているというわけだ。

「御歳なので、そろそろご引退も考えておられるそうじゃ」

 もう一つ、ヘルムート王国の王位は死ぬまで放棄できないが、皇帝は病気や老齢による引退が認められている。  
 辞めても次の皇帝は選挙で決めれば良いのだし、その方が他の候補者達にも都合が良いからだ。

 なお、引退した皇帝は上皇と呼ばれて年金を貰って余生を送る。
 名誉はあるが、何の実権もない存在になるそうだ。

「そんな噂もあるので、他の公爵共は通商協定の改定や、技術交流などの世話役で忙しいようじゃ」

 次の皇帝になるつもりなので、半分お遊びの魔法使いの実技披露会は女性であるテレーゼ様や年寄りの陛下に任せて、自分達は実利のある交易技術促進の方に集中しているのであろう。
 露骨な功績稼ぎともいえ、良くわかる話ではある。

「テレーゼ様は、ご出馬なされないのですか?」

「前の陛下は、我が曽祖父での。あまりうちの出身者ばかりが皇帝になるのも問題なのじゃ」

 あまり一つの家ばかり皇帝が出ても問題になるので、立候補の段階で多少の談合も行なわれるそうだ。

「それよりも、次はヴェンデリンの番ぞえ」

「みたいですね」

 伯爵様なので貴賓席にはいるのだが、魔法も披露しないといけないわけで、俺は急ぎ杖を持って競技場の中に移動する。
 杖は別にいらないのだが、見世物なので杖を振るうアクションも必要というわけだ。

「あなた。頑張ってくださいね」

「あまり派手なのは出せないけどな」

 妻らしく振舞ってテレーゼ様を牽制しているエリーゼから声援を受けつつ、俺は競技場の真ん中に移動していた。 
 先ほど導師が魔法でマグマ状にしたのと同じ大きさの岩が置かれ、それに魔法をかけて破壊すれば良いというルールで、魔法の系統や種類は問わない事になっている。

「(威力よりも、精度で……)」

 杖を構えて精神を集中すると、数秒後に旋風が発生して岩に直撃する。
 ただ大した威力には見えないので、一見岩には何の変化も起こっていなかった。

「失敗?」

「何も変化ないよな?」

 観客達が騒ぐが、既に魔法は無事に発動している。
 足元から拾った石を岩に軽く投げ当ててからその場を後にすると、岩が一センチ角ほどのサイコロ状に切れてその場に崩れてしまう。

「すげぇ……」

「これが戦争なら、兵士がみんなサイコロ状にカットされるのか……」

 俺の魔法の結果を知った観客達からは、歓声と共に畏怖の声が上がり始める。

「へえ。少しは俺の指導の成果が出ているな」

 均等にサイコロ状に切れた岩を見て、次に魔法を披露する予定のブランタークさんは一応の合格点を与えてくれた。

「次は、ブランタークさんですね」

「俺も、あまり派手なのは苦手でな……」

 次は、ブランタークさんの出番であった。
 彼も俺達と同じく杖を構えて岩の前に立つと、氷弾ではなくて冷気で岩を極限まで凍らせてから、そこに小さな氷玉をぶつける。
 ほぼ絶対零度まで凍っていた岩は、氷玉が当たった衝撃で粉々に砕けて地面へと落ちていく。
 砕けた岩はその途中でダイヤモンドダストのような輝きを見せて、一種幻想的な光景を観客に見せていた。

「些かも衰えておらぬか」

「テレーゼ様。まだそんな年じゃないですよ」

「新婚じゃからの」

「それに拘りますね。テレーゼ様は……」

 貴賓席に戻ってきたブランタークさんにテレーゼ様が声をかけるが、その様子を見てアーカート神聖帝国側の魔法使いがヒソヒソと話をしていた。

 一応敵国同士なので、不謹慎だとでも思っているのであろうか?

「次は、カタリーナだな」

「そなたの奥方の一人か。出来る魔法使いらしいの」

 元々ヘルムート王国でもトップクラスの実力を持つ魔法使いなのに、俺との夜の生活で魔力が増えている。
 軽く岩を包み込む竜巻魔法をかけ、それが止むと岩は細切れにされてその場から消えていた。
 極限まで切り裂かれて砂になったので、風で周囲に飛び散ってしまったのだ。

「準備運動にもなりませんわね」

「それは仕方が無いよ。まさか、戦いをするわけにもいかないし」

「ヴェンデリンの言う通りよの。そなた達が決闘で魔法を駆使すれば観客にも被害が及ぶであろうし、一応両国は停戦中での。下手な怪我人や死人はいらぬ対立を増やす要因ともなる」

「それはそうなのですが……」

 カタリーナとて、そのくらいの事は理解しているはず。
 ただ、何食わぬ顔で俺の隣の席を独占し、俺をヴェンデリンと呼び捨てにしているテレーゼ様に含む物があるだけなのだと思う。

「次は、アーカート神聖帝国側か。それで、どうなんです?」

 テレーゼ様とカタリーナとの間に広がる微妙な空気を察知したブランタークさんが、話をこれから魔法を披露するアーカート神聖帝国側の魔法使いの話に切り替える。

 本当は俺がやらないといけないのかもしれないが、今の俺にはそういう精神的な余裕がなかった。

「十年前は、アームストロングショックがあったからの」

「導師がですか?」

「あの男の規格外な魔力が知れ渡ったというわけじゃ」

 導師の魔力の成長パターンは、完全に大器晩成型である。
 二十年ほど前の導師の魔力は中級程度で、しかも彼は放出系の魔法が苦手であった。
 今は有り余る魔力で蛇の放出魔法を使うが昔は使えなかったそうで、親善訪問団に加われる実力を持っていなかったそうだ。

「そんな男が、十年後に化け物クラスの実力を発揮した。しかも、今も魔力が成長しているそうではないか。騒がれて当然じゃの」

 そんな理由で、前回は導師が注目の的であったそうだ。

「今回はそれに加えて、お主と『暴風』殿も加わっておる。治癒・浄化魔法特化ではあるが『聖女』殿もおるし、ブランタークも相変わらずの実力を見せておる。ヘルムート王国の魔法使いの層は厚いの」

 実力者が集まっているのでそう感じるのかもしれないが、言うほどアーカート神聖帝国側も劣ってはいないはず。
 平均すれば、そう変わらないと思うのだが。

「うちも、この十年でそれなりに実力者も出ておるからの。まあ、良く見ておくがよい」

 そうテレーゼ様から言われて魔法の実演を見学するが、アーカート神聖帝国側にも優れた魔法使いは多かった。
 国家の威信もあるので、数を揃えたのであろう。
 筆頭魔導師であるブラットソンさんから始まり、他の魔法使いも中級の上程度の魔力を持つ者が多い。

 そして後半に入ると、会場が大きな歓声で包まれていた。

「ピーチュ四兄弟だ!」

「四兄弟が出るぞ!」

「有名人なのですか?」

「然り。ピーチュ四兄弟は、今の帝国で最も有名な魔法使いじゃからの」

 俺の問いに、テレーゼ様が頷きながら答える。

「兄弟で魔法使いなのですか」

「正確に言うと四つ子じゃの」

 魔法の才能は遺伝しないので、親兄弟が使えるからと言って自分が使えるわけでもない。
 だが、ピーチュ四兄弟は四つ子なので、同じ才能を持ち魔法を使えるというのだ。

「(遺伝子が同じだから? 多分、二卵性とかだと駄目なんだろうな)」

 会場に姿を見せた四兄弟は一卵性の四つ子のようで、確かに四人とも同じ顔をしている。
 黒い髪に黒い瞳だが、日本人顔というわけでもない。
 西洋系の顔でそれほど容姿に優れているわけでもなく、ハッキリと言えば普通の顔。
 年齢は十八歳くらいに見え、身長は175センチくらいで痩せ型、どこにでもいる普通の青年に見える。

 四人ともローブを着ていたが、なぜかその色は赤・青・黄・緑と全員が違う色であった。
 それも鮮やかな原色系で目立つ色のローブなので、もし俺ならば恥ずかしいので遠慮したいところだ。

「(戦隊物みたい……)」

 彼らを見て一番最初にイメージしたのは、前世で子供時代に見たヒーロー戦隊物のテレビ番組であった。
 一人足りないとは思うが。

「あの四つ子は、それぞれに得意な系統魔法が違うのでの」

「そうなのですか」

 魔法の才能は遺伝子も関係しているようであったが、同じ遺伝子なのに得意な魔法の系統が違ったりする。
 もしかすると、そちらは後天的な原因で変わるのかもしれない。

「長男のアインスは、火の系統が得意であると聞いておる」

 赤いローブを着た青年が杖を振るうと、火炎が岩を包んでからマグマ状に溶かしてしまう。

「次男のツヴァイは、水の系統じゃの」

 青いローブを着た同じ顔の青年が杖を振るうと、水のカッターで岩をズタズタに切り裂いてしまう。

「三男の……」

「(もしかして、ドライなのであろうか?)」

「ドライは、土の系統魔法が得意じゃ」

 この四兄弟の名前は、全てドイツ語の数字からきているようだ。
 この世界にドイツ語があるのかは不明であったが、人の名前はドイツ系が多いので不思議ではない。
 黄色のローブを着た青年は、高速の岩弾を多数ぶつけて岩を砕いてしまう。

「最後に、四男のフィーアじゃの」

 緑色のローブを着た青年は、風のカッターで岩をズタズタに切り裂く。
 なるほど、なかなかの実力の持ち主である。

「我が国も、それなりに粒は揃っておるわけじゃ」

「四男のローブが緑色なのは、風だからと言って青系統にすると次男の青と被るからかな?」

「お主は、しょうもない事を気にするのじゃな」

 四人で全ての魔法実演は終わりを向かえ、観客からは大きな歓声と拍手があがる。
 国に仕えている魔法使い達が凄腕ならば、今の平和は長く続くと思っているからであろう。

 我が国の導師が強力な抑止力であると共に、あの四人を筆頭とした粒の揃った魔法使い達はアーカート神聖帝国の強力な抑止力というわけだ。

「……」

「あなた。どうかしましたか?」

「あの連中とは、顔見知りというわけでもないと思うのだが……」

 実演を終えた四人が俺に視線を合わせてきたので、ただそれだけが気になってしまうのであった。




「ヘルムート王国にも、優秀な若い魔法使いが現れたようだの」

「確率論的から言えば、両国の人口比を考えると同じ数くらいは出てきますから」

「若いのに、うちの内務大臣のような事を言うの。面白い子だ」




 その日の夜は、皇帝陛下主催の晩餐会が行なわれていた。
 親善訪問団の中から選ばれた人のみが招待され、その中には俺と導師とカタリーナも入っていた。
 エリーゼは正妻なので同じく招待されていたが、エル、イーナ、ルイーゼ、ヴィルマは限られた招待客しか入れない皇宮パーティーには出られない。

 その下の迎賓宮で行なわれる、身分が低い招待客専用のパーティーに出席している。

『護衛役は必要だと思うんだけどな』

 エルが愚痴を溢していたが、皇宮でのパーティーに護衛を伴うのは禁止だそうだ。
 少し危険な気もするが、国内外の大切な招待客に何かあればアーカート神聖帝国の威信は地に落ちてしまう。

 ヘルムート王国側も、ここで国を代表している自分達が怯えてパーティーに出席しなければ臆病者のレッテルを張られてしまう。

 この二百年間で特にトラブルも起こっていないそうで、エル達には迎賓宮でのパーティーを楽しむようにと言っていた。

『運命の可愛い娘とかいないかな?』

『エルには、一応私達の護衛の仕事があるんだけど……』

『わかっているけど、三人とも必要ないように感じるな』

『それでも、仕事なのよ』

 真面目なのでちゃんとエルに仕事をするようにと言うイーナと、それを仕方なしに聞き入れるエル。
 いつもの光景と言えば光景である。

『イーナ。失恋したエルに少しはチャンスを』

『それは思っても言うなぁーーー!』

 ヴィルマの少し毒がある発言に、エルは半分涙目で怒鳴っていた。
 やはりそう簡単には、カルラにフラれたダメージから回復はしないようだ。

 そんな事情もあって分かれてパーティーに参加していたのだが、その席で俺はウィルヘルム十四世陛下から直接話しかけられるという名誉に与っていたのだ。

 内心では、特に名誉だとは思っていない事は秘密である。

 陛下は七十八歳の老人であり、そんな彼からすれば俺などまだ子供なのであろう。
 ニコニコと笑う陛下から『面白い子』と呼ばれ、数分間世間話を中心に話をしていた。

 内容は主に、俺の生い立ちとか竜退治の話である。
 最近では良く聞かれるので俺も大分話に慣れていて、上手く要約して話せたと思う。

「陛下。ご歓談中のところを申し訳ありませんが……」

「もう時間か。これでも皇帝なので、声をかけねばならぬ所が多くての。バウマイスター伯爵はこの国を楽しんでいってくれ。テレーゼがそなたを気に入っているようだから、案内でもさせるがよい」

 立ち去る陛下を四人で見送ると、今度は先ほどの四つ子の魔法使いが近付いてくる。
 あの色分けされたローブ姿のままであったが、魔法使いにとっては正装なので別に問題ない。
 カタリーナは女性なのでドレス姿になっていたが、俺も新しい綺麗なローブに着替えてそのまま出席していた。

「お初にお目にかかります。バウマイスター伯爵殿。私の名は、アインス・ジーモン・ピーチュと申します」

 赤いローブを着た四兄弟の長男アインスは、自分に続けて三人の弟達を紹介していた。

「これはご丁寧に。ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターです」

 確かアーカート神聖帝国では、お抱えの筆頭魔導師が黒で、上位者が灰色、見習いや下級者が白色のローブを着ける決まりであったと聞いていた。
 なのに、この四人は特別な色のローブが認められている。

 それだけの実力者という事なのであろう。

「話に聞くと、竜を退治したり、一万人の軍勢を瞬時に戦闘不能にしたとか?」

「一部大げさな噂もあるようですね」

 一万人の軍勢を戦闘不能にしたのは、ブランラークさんとカタリーナの三人で成した成果であった。
 なので、そこは間違いであると訂正する。

「素晴らしい成果ですな。同じ魔法使いとして私も頑張らなければと思いますよ」

 アインスも他の兄弟達も、同じ顔で俺の功績を褒め称えていた。

「ですが……。そのくらいならば、私達にでも十分に可能でしょう」

 しかし、すぐに話の流れが変わってしまう。
 四人は、自分達でも竜退治くらいなら余裕で出来るのだと少し顔を歪めながら話していた。

「(ええと……。対抗心? 嫉妬?)」

 どちらかはわからないが、あまり良い性格はしていないようである。

「我らは子供の頃から、帝国の秘蔵っ子と呼ばれていましてね」

 どんな生まれかは知らないが、四つ子が生まれて全員が上級の魔力を持つ魔法使いなのだ。
 帝国としても、是非に囲いたかったのであろう。

「そのせいで、討伐などに出させて貰えなかったのですよ」

 別に聞きたくもないのに、青ローブの次男ツヴァイが話を続ける。
 才能のある若い魔法使い達なので、最悪死ぬ可能性もある魔物の領域の解放などには使い難かったのであろう。

 両国の人口と魔法使いが生まれる比率が同じならば、在野にいる高位の魔法使いに依頼すれば良いのだし。

「当然、やれと言われれば余裕ですがね」

「まあ、そうでしょうね」

「認めるのですか?」

「はい」

 両国で魔法使いが生まれる比率が極端に違うという話も聞かないので、ヘルムート王国の魔法使いに出来ればアーカート神聖帝国の魔法使いでも可能であろう。

 俺はそのように思い、その考えを正直に話していた。 

「(というか、こいつらは何を言いたいんだ?)」

「我らも、これからはバウマイスター伯爵殿に負けないようにしないとな」

「すぐに追い抜きますとも」

「はあ……。そうですか……」

 それから暫く、彼らは自分達の魔法がいかに優れているかとか、期待されているからこそ秘蔵されていたのだという話に終始していた。

「(貴族って、こんな下らない話を長時間聞かないと駄目なのかね?)」

 心の中で欠伸をしたフリをしながら、表面上はにこやかに四兄弟の話を聞いていた。
 前世でも、能力が微妙な癖に説教魔の上司がいたので、その人の話を聞き流すために覚えたスキルを発動させたのだ。

「じきに、バウマイスター伯爵殿をも超える功績を立てる事になると思いますよ。正直、少し悪いとは思うのですが……」

「そうですか……」

 『頑張って』というと怒りを買いそうであるし、『負けませんよ』とか言うのはキャラに合わない。
 曖昧な返事になってしまったが、彼らは俺にベストな回答など望んでいないようだ。
 話すだけ話すと、別の来賓の下へと向かってしまう。

「何なのです? あの方々は?」

「さあ?」

「年下であるあなたに功績で負けているから、嫉妬しているのでは? その気になれば、すぐにあなたを超える功績をあげられると」

「それしかないよね」

「微妙な宣戦布告じゃの」

 カタリーナが首を傾げ、エリーゼが彼らの考えを予想して話をしていると、そこにテレーゼ様が姿を見せる。

「ようやく挨拶が終わっての。あとは、ずっとヴェンデリンの元に居られるぞ」

 やはり俺は、彼女に気に入られてしまったようだ。
 またすぐに腕を組まれてしまうのだが、不意に後方から殺気のような物を感じてしまう。
 視線を向けると、そこには鋭い視線を向けるピーチュ四兄弟の姿があった。

「彼らは、テレーゼ様狙いなのですか?」

「そんなところじゃの」

 まだ貴族にはなっていないが将来はそれが確実であるピーチュ四兄弟は、上手くテレーゼ様の婿に納まろうと色々と画策しているらしい。
 物凄い自信の表れと言えよう。

「あの者達ならば、妾の婿か子の父親になる条件に一致しておるからの」

 魔法の才能があって貴族にはなれるが、新興貴族で家の力など皆無に等しい。
 逆に言えば、外戚の専横を防げるのでフィリップ公爵家としては都合が良いとも言える。

「同じ顔で、妾を取り合っているという噂じゃの」

「良い婿候補なのでは?」

「妾が嫌じゃ。せめて少しは選ぶ権利くらい欲しいわ」

 テレーゼ様が言うには、たまに彼らが見せる露骨なまでの下心が嫌悪感を抱かせるらしい。

「それに、そなたの方が顔も能力も優れているからの。心根も素直であるし」

「そうですか?」

 どう控えめに考えても、中身が四十歳近い俺が少年のような心を持っているとは思えなかった。
 性格も、王都などに碌でもない貴族ばかりいるせいでひねくれているはずだ。

「ブロワ辺境伯家との紛争では貴族として大変であったようじゃが、初めてにしては上手く動いておるようだし、至らぬ部分もあるが可愛い物じゃて」

 若干二十歳でフィリップ公爵領を支配する女傑から見れば、俺なんて半人前貴族が精々であるようだ。
 更に四つも年下なので、半ば弟のような扱いなのかもしれなかった。

「妾の気を引こうとしているのに、自分達よりも年下の若造に魔法使いとしての功績で負けておる。彼らにも不幸はあったのじゃが……」

 上級レベルの魔力を持つ四つ子の兄弟という事で、彼らは子供の頃から帝国に囲われて訓練の日々を過ごしていた。
 帝国としても、中途半端な実力の内に無理をさせて死なれても困るわけで、今まであまり上位の魔物などを狩った経験も無いそうだ。

「(温室育ちなのかよ……)それで、なぜ俺に対抗心を?」

「そなたが、十二歳から活躍しておるからの」

 一方、実家がアレで自立が早かった俺は、偶然の要素が強かったが十二歳の時には竜を退治している。
 彼らからすると、俺のせいで相当な焦りを感じたというわけだ。

「ピーチュ四兄弟の慎重な育成方法に批判的な者もおっての。彼らが、『ヘルムート王国のヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターは、十二歳で竜を二匹も退治しているのだがな』と嫌味を言ったそうじゃ」

 失わないように慎重なのもいいが、過保護なのもどうかという意見が軍部などにはあるそうだ。

「(はた迷惑な……)」

 それでも、どうせ向こうは伯爵である俺に表立って何か出来るわけでもないし、滞在期間が終われば最低十年は会わずに済む。
 適当にあしらっておけば、特に問題はないはずだ。

「人に嫌味を言う暇があったら、今すぐにでも竜退治に行けばいいのに」

「それも、上から許可や命令が出ないと奴等は動けないからの」

 義務で出たので特に面白くもなかったパーティーが終わり、俺達は迎賓館へと戻る。
 いつの間にかテレーゼ様がいなくなっていたが、忙しいのであろうと思い自分の部屋のドアを開ける。

「遅かったの。ヴェンデリンよ」

「テレーゼ様?」

 すると、ベッドの上で絹のナイトガウンを羽織ったテレーゼ様が待ち構えていた。
 昨日と同じく酒瓶を持って。

「夜の退屈な時間を 妾と共に過ごすのも悪くあるまい。それとの……」

 いきなり着ていたナイトガウンを脱ぐと、その下からはスケスケのネグリジェ姿が現れる。
 色は紫色で、ブラジャーやパンティーも同色であった。

 見てはいけないと思いつつも、つい見てしまう。
 彼女の色気に、俺は完全に圧倒されていた。

「貴族や皇族でも、時にプライベートな時間は必要じゃからの」

「そうですね……」

「この部屋で何が起きても、妾の手の者達は口が堅いからの。安心して欲情するが良いぞ」

「(えーーーっ! モロに誘惑されているやん)さすがに、互いの立場上拙いかと……」

「安心せい。子が出来ても、妾の子として育てるからの」

 何が安心なのかは知らないが、そう言われながら彼女に近付かれると心臓がバクバクしてくる。
 誘惑に抗わないといけないのだが、彼女の色気は本物である。
 とても処女だとは思えないほどだ。

「(拙い……。誘惑に負けるかも……)」

 そう思うのと同時に、突然部屋のドアが開いて複数の人間が雪崩れ込んでくる。

「テレーゼ様。さすがに看過できませんが」

 部屋に入って来たのは、テレーゼ様と同じくナイトガウンを羽織ったエリーゼ達であった。

「公爵様ともあろう方が、はしたないですよ」

「旦那泥棒は感心しないね」

「いくら格下の伯爵相手でも国が違う。ヴェル様はもっと強く拒否しても構わない」

「テレーゼ様。高貴な身分の方とは思えないお姿ですわね」

 イーナ、ルイーゼ、ヴィルマ、カタリーナにも続けて非難され、テレーゼ様は『邪魔が入った』という表情を一瞬だけ浮かべていた。

「思ったよりも、そなた達の結束は固いようじゃの」

「そのくらいしないと、いちいち奥さんにしていたらキリがない」

 ヴィルマの言う通りで、今でも隙あらば愛人でもいいから押し込もうとする連中が後を絶たない。
 俺からしても、元々一夫一妻制が当たり前の世界で生きていた人間なのだ。

 俺だって普通にハーレムに憧れていた一般庶民であったが、実際には五人で限界なくらい。
 それでもストレスが溜まるので、極秘裏にアマーリエ義姉さんと密会をしているのだから。
 何とも矛盾した一言ではあるが。

「そういうわけでして、今夜は私達がお相手をしますので。これからも、ヴェンデリン様の夜の時間に空きはありません」

 エリーゼはキッパリと言い放つと、テレーゼ様を部屋の外に強引に押し出してしまう。

「他の部屋からベッドを持って来て繋げば大丈夫ですね。あなた。今日からは六人で寝ましょう」

「はい……」

 いつものように笑顔ではあるが、エリーゼから染み出る迫力に俺は逆らう事の無意味さを知る。
 それに、テレーゼ様の色気のせいで妙に高ぶっていた事もあり、その日はベッドを繋いでそのまま夜の時間に突入する。

 そしてその翌日……。

「これは酷い……」

 ベッドの上の惨状を見て、ベッドメイキングに来ていたメイドがその場に絶句しながら立ち尽くす。

「メイドさん」

「はいっ! すぐに綺麗にしますので!」

「ええと。頑張ってね」

 俺はそっと、メイドに数枚の銀貨を握らせるのであった。



「妾の想い人は、見た目とは違って性豪であったか。それは、好都合」

 朝食の席で、昨晩俺の部屋から追い出された事をおくびにも出さず、テレーゼ様は楽しそうに俺の事を話していた。

「魔法使いの男なら、使える人は多いですよ。『精力回復』」

 実はこの魔法、魔力が初級クラスしかない魔法使いでも結構使える人が多い。
 効果に差が出るが、元々自分にしか使えない人が大半なので難易度が低い魔法と見なされるのだ。

 ただ、効果が効果なので未成年者への伝授が半ば禁忌とされているわけだ。
 俺も結婚した時に、初めて師匠の本の袋閉じを開けたわけだし。
 なお、『週刊誌のヌードグラビアの袋閉じでもあるまいし』と思ったのは、俺だけの秘密だ。

「まだ何かを企んでいらっしゃるので?」

「そう怒らないでくれ。妾はエリーゼ殿達との和解を望んでおるのだから」

「和解ですか?」

「そうよ。国内の貴族から婿を取る難しさは、エリーゼ殿にもわかろうて」

 旦那の実家が、フィリップ公爵領の統治に口を出してくるからだ。

「ですが、それはバウマイスター家でも同じですわよ」

「カタリーナ殿。新興のバウマイスター伯爵家と、歴史が長いフィリップ公爵家では事情が違うのじゃ」

 バウマイスター伯爵家は新興なので、これから親族・譜代による家臣団の形成を行なわないといけない。
 中央や南部貴族の親族が大量に流入しているが、パイが大きいので今のところは席に不足は無い。

 実家との縁も、次代以降になると薄れてバウマイスター伯爵家が優先になる。
 元々跡継ぎでもなく余っていたから送られてきたので、実家が最優先というような者も少ない。
 もし居ても、そういう者は次第に排除されるそうだ。

「新興故に、逆に融通が利くわけじゃ」

 ところが、フィリップ公爵家は既に家臣団が完璧に整備されている。
 利権なども割合が決まっていて、あまり余剰がない。

「妾が婿を入れたとして、それを盾に婿の実家が見返りを求めてくる。もし妾がそれを受け入れたとすると、そこから弾き出される者が出てくるわけじゃ」

 家臣の人数や予算の枠などほぼ決まっているので、新しい人を入れれば今までの人が押し出される計算になる。

「親族や譜代で割を食う者が出るであろうの。実際にそれが原因で、過去に殺傷沙汰もあったの」

 いきなり当主の婿の実家から来た人間に、己の職や利権を奪われるのだ。
 追い詰められてそういう行動に出る者の気持ちも理解できなくもない。

「そんな事情もあり、妾は二十歳で嫁き遅れが心配される年まで婿が決まっておらぬ。そこで、ヴェンデリンじゃ」

 元から正式に婿にはしないし、子供が生まれても俺の子供だとも公表しない。
 ただテレーゼ様の子供であると発表すれば、周囲はそれで納得するであろうと。

「女当主とは、本当に面倒なのじゃ。どうせ次は兄達が自分の子供に継がせようと運動するであろうから、特に後ろ盾もない妾の子は分家の当主にでもして苦労させたくないものよの」

「それって、何かメリットがあるのですか?」

「あるぞ。妾が幸せになる」

「……」

 予想外の返答に、全員がその場で絶句してしまう。

「そなたは、魔法で移動可能であろう? 妾も領主として忙しいからの。週に一度くらい遊びに来てくれれば十分じゃ。妾があまりに恋しくなった時には、もっと来てくれても構わぬぞ。夜は長いからの」

「テレーゼ様。あなたは……」

「エリーゼ殿達の序列は乱さぬよ。妾とて貴族なので、それくらいは理解しておる。それで、返答は?」

 怒涛の勢いで攻めてくるテレーゼ様に、エリーゼは珍しく対応に苦慮していた。
 エリーゼも上級貴族の娘としてなかなかの知恵を持っているが、テレーゼ様は上級貴族その物なのでそれを上回っている。

「ルイーゼ。どうする?」

「ヴェル次第じゃないの? ヴィルマ」

「私は、元々下級貴族の娘だから。カタリーナは?」

「ついこの間貴族になったばかりの私には難しい問題ですわね……」

 こういう問題をエリーゼに丸投げしてきたツケが出て来て、四人も回答に苦慮しているようだ。

「(ここで、もし俺が受け入れたらどうなるんだ?)」

 口では面倒とか言いながらも、実はテレーゼ様の色香に迷いつつある俺としては、かなり悩ましい問題であった。

「(昨日のネグリジェ姿とか凄かったからな)痛ぇ!」

「ヴェルは、何を考えているのかな?」

 などとスケベな妄想を浮かべていたら、ルイーゼに素早く蹴りを入れられてしまう。

「……。事は、外国の貴族同士の内縁婚になりますよね?」

「それが一番近いかの」

「ヴェンデリン様や私達が認めたとしても、陛下が認めるかどうかです」

「それはそうじゃの」

 それ以前に、俺やエリーゼ達が認めなくても、陛下が命令を出せば俺とテレーゼ様はそういう関係にならないといけないという現実もある。

 何しろそれは、主君命令なのだから。

「では、何とか許可を貰うとするかの」

「難しいと思いますが」

「一応、努力はしてみようと思う。許可が出たら、受け入れて貰うからの」

 朝食と話が終わると、テレーゼ様は今日は予定があると素早く迎賓館を出ていく。
 彼女の『言質を取ったぞ』という得意気な表情の理由が判明するのは、それから数時間後の事であった。



「エリーゼ殿は、してやられましたな」



 アーカート神聖帝国滞在三日目で一番大きな予定は、自国の親善訪問団員達との途中経過を報告する会議であった。
 メインである、通商や技術交流などを担当する役人や貴族達が交渉や交流会の途中経過を報告し、最後にオマケで魔法使いが技の披露会から得たアーカート神聖帝国の有力な魔法使いの個人情報や得意な魔法などの報告を行う。

 この報告は、特に軍部などから切望されている情報だ。
 席に座っている武官や軍官僚が真面目にメモを取っていた。

 なお、なぜか報告をしているのは俺である。
 本当は導師がしないといけないはずなのだが、面倒だからと押し付けられてしまったのだ。

『ブランタークさんがしてくださいよ』

『陪臣の俺はパス』

 ブランタークさんにも逃げられ、俺はカタリーナが取っていたメモを参考に何とか無事に報告を終える。
 報告を終えると、俺は隣の席に座っていたカタリーナにお礼を言う。

「メモは助かったよ」

「ヴェンデリンさんは、もう少し他の魔法使いに敏感になった方が良いですわ」

 正論なのだが、自分がどんな魔法を使えるのか試しながら習得するのが好きなので、他の人がどんな魔法を使おうとあまり興味が無かったのだ。

「メモのお礼は、あとで肉体的に返すよ」

「言い方がいやらしいですわね」

「嫌なのか?」

「嫌とは言っていませんわよ。むしろ、嬉しく……って! 今のは無しです!」

 真面目な報告が全て終わると、今度は世間話的に砕けた話が主流なる。
 その中で最初に貴族達の話題の中心になったのは、露骨なまでにテレーゼ様からアプローチを受けている俺であった。

「あれほどの美人からアプローチを受けるとは、バウマイスター伯爵は女性にモテますな」

「羨ましい限りです」

「そうよな。ワシももう十歳も若ければ、声をかけられるのを待っていたかもしれぬの」

 他人事なのをいい事に、中年以降の貴族達からえらくからかわれてしまう。
 根堀り葉掘り聞かれ、続けて『どうするのか?』と聞かれたので、エリーゼが陛下の名前を出して断ったという話をすると、商務閥でアーカート神聖帝国との交易を担当しているシュルツェ伯爵がエリーゼに同情的な視線を向ける。

 彼は、まだ二十代半ばくらいの線の細い金髪の美青年であった。
 口調も穏やかで、見た目は文系イケメンそのものである。

「してやられた?」

「陛下が許可を出す可能性が、無きにしもあらずなのです」

「まさか……」

「実は、水面下で通商の拡大が計画されていましてね」

 もう二百年も停戦しているので、いい加減に不戦条約を結んで人と物の流れを拡大してはどうかという意見が出ているのだそうだ。

「軍部では、強硬派も結構な勢力を保持していますからね。一応慎重に話を進めていましたが、彼らも別に反対でもないんですよね」

 今はお互いに首都しか入れないものが他の貴族領や都市に出入り出来るようになれば、戦争になった時の情報収集に役に立つし、戦争には金がかかるので税収が増える交易の拡大には賛成であると。

「それに、不戦条約があっても戦争になる時はなりますし」

 かなりあけっぴろげな意見ではあるが、確かに条約があれば戦争が防げるという話でもない。
 その気になれば条約破りなど普通なのが、人類の歴史なのだから。

「強硬派とは言っても、あまり極端なのは少ないですしね。結構、フリの人もいますし」

 いつ戦争になっても大丈夫なように、常に隣国への危機感を説いて戦争の準備を怠らない。
 という名目で、最近減り続ける軍への予算を確保しようと運動している者も多いのだそうだ。

「通商に限って言えば、反対する者なんてほとんどいませんよ」

 両国の首都同士だけで、決められた回数の魔導飛行船を飛ばして貿易を行なう。
 これに関わる商人も特別に許可を得た数名だけで、これでは経済の発展に寄与しないと、特にギガントの断裂と領地を接している貴族達から陳情が上がっているそうだ。

「ギガントの断裂の向こうと貿易をしたいでしょうし。まあ、実は密かにしていますけど」

 たまにある亡命者の行き来や、夜中にロープを張っての密貿易などは少量ではあるが行われているらしい。

「最初は全て取り締まっていたんですけど、今は少量なら黙認ですね」

 密入国者などに手を貸せば処罰の対象であったが、小規模の密貿易は黙認されている。
 ただこういう状態は良くないと考えたようで、交易を行なえる港を増やしたり、首都限定になっている商人の行動範囲を正式に広げたいのだそうだ。

「あとは、他国の貴族同士の婚姻許可ですか」

 友好の架け橋となるか、それとも外患の原因となるのか?
 これも水面下では話し合いが行なわれていて、解禁される可能性があるらしい。

「試しに、フィリップ公爵の内縁の夫にバウマイスター伯爵が認められる可能性があるのです。交易促進推進派が賛成に回る可能性があるので」

 反対派からすれば、バウマイスター伯爵家がヘルムート王家の後ろ盾を使用してフィリップ公爵家の相続に口を出してくるか、または逆のパターンがあると言って反対してくるはず。

 だが、それさえクリアーしてしまえば、認められてしまう可能性があるのだ。

「フィリップ公爵閣下は、エリーゼ様が陛下の名を出すと予想していたのでしょうね。だから、それを言わせて言質を取った。陛下が許可をすれば、バウマイスター伯爵を内縁の夫に出来ますから」

 エリーゼでもこれなのだ。
 俺なんて、テレーゼ様からすれば簡単に落とせると思われているのであろう。

「相続直後はあの方は傀儡でした。ですが、五年ほど前からはほぼフィリップ公爵家を掌中に納めております。情報によると、兄達ですら表向きは逆らわない状態だと。あの方は女傑ですね」

 シュルツェ伯爵からの情報を聞き、俺達は改めてテレーゼ様の強かさを知る事となる。
 さて、帰国するまでどう逃げ切るとかと考えていると、そこに親善訪問団の一員である若い役人が血相を変えて駆け込んできた。

「どうかしましたか?」

 通商目的が一番強いために親善訪問団の団長にも選ばれているシュルツェ伯爵が声をかけると、その役人は声を声を上ずらせながら報告する。

「大変です! 先ほど執務中にウィルヘルム十四世陛下が倒れられ、治療の甲斐もなく崩御なされたとの事!」

「それは、ちょっと前例の無い事ですね……」

 この二百年で、親善訪問団が訪れている時に崩御した皇帝陛下や国王陛下は存在していないらしい。
 シュルツェ伯爵は役人らしい言い方ながらも、その顔には驚きの表情を浮かべていた。

「これは困りました。もう通商交渉どころではありませんね」

 せっかく話を纏めつつあるところに、それを承認する皇帝陛下が崩御してしまったのだ。
 新しい皇帝が決まってその人が許可を出さないと、話がストップしたままになってしまう。
 通商交渉の責任者であるシュルツェ伯爵からすると、困った問題のはずだ。

「滞在期間の延長を陛下に通信して、許可を得ないと……」

 加えて新しい皇帝陛下の情報収集や、外交儀礼としての即位式典への参加などもある。
 だがその詳しい予定は未定で、予想外の出来事に俺達はこれからどうなるのかと思案に耽ってしまうのであった。
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