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八男って、それはないでしょう!  作者:Y.A
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第七十七話 レジャーに出かけてみる。

 俺が、エリーゼ達と結婚してから一か月半が経過した。
 結婚式や披露宴は面倒であったが、新婚生活は順調なのが幸いである。
 周囲の、特にローデリヒ辺りは呪文のように『お館様。跡継ぎを早く』と呟いているが、俺達はまだ十六歳。
 ヴィルマなどは十四歳なので、そこまで焦る必要も無いと思っている。

『とは思いますが、なるべくに早くとも焦ってしまうのです』

 便宜上、相続権は兄達の子供に設定されているが、これは俺に子供が生まれると順位が下げられる予定になっている。
 兄達は万が一という理由で引き受けているのに、既に『バウマイスター伯爵には何か持病とかありませんか?』などと聞いてくるアホな貴族がいたらしい。

 大方、幼い甥や政治には疎いと思われている兄達を操って、自分がバウマイスター伯爵領の実権を握るとか、痴人の夢を抱いているのであろう。

『ヴェルの強烈な存在こそが開発を促進させているのにね。バカな貴族とは本当に多いものさ』

 結婚式に参加したエーリッヒ兄さんは普段は王都にいるので、そういうバカな貴族と一番接する機会が多いらしい。
 溜息をつきながら、俺に愚痴を溢していた。

『早く子供を作って欲しいね』

『エーリッヒ兄さんまで、それを言いますか』

『言うさ。私や他の兄さん達の子供達の将来にも関わるし』

 相続順位が高いので、俺にもし何かがあると未開地利権の奪い合いや争いに巻き込まれてしまう。
 父親としては、それは容認できないのであろう。

『頑張って、子作りをしないと』

『はあ……』

 兄弟間の話題としては微妙であったが、貴族とはそういう物なのかもしれない。
 子供がいないと相続で面倒な事が増える。
 その争いの醜さや、それが原因で発生した事件や不祥事を考えると、まともな貴族ならば加わりたくないのであろう。

『あははっ。俺は頑張りますよ。師匠の魔法もありますしね』

 というわけで、この一か月半は頑張ってきたつもりだ。
 師匠が残した魔法の本の袋とじを開放し、精力を回復させながら毎日毎日貴族と夫としての義務を果たす。
 今もベッドの上では、俺の隣に裸のイーナが横になっていた。

「子供ねぇ……」

「ヴェルは欲しいの?」

 俺がエーリッヒ兄さんとの会話を思い出していると、イーナが申し訳なさそうに聞いてくる。
 だが、まだ新婚一か月半なのでそこまで焦る必要も無いであろう。
 子供が生まれないと妻は肩身が狭くなるらしいが、それはずっと先の事なのだし。

「それはいつかはね。というか、二十歳くらいまでに出来ればいいんじゃないの?」

「さすがに四年も子供が出来ないと、新しい側室を勧められるわね」

「なるほど。そういう事か。でも……」

 下品な言い方ではあるが、する事はしているのでその内に自然と出来るはずだ。
 ところが、イーナの表情は優れない。

「何か懸念でも?」

「ほら。私達って、最近魔力が上がったでしょう? 最初ははしゃいでいたんだけど、その副作用があるのでは無いかとね……」

 魔力の上昇が妊娠を妨げる。
 確かに、100%そういう副作用が無いとは言えなかった。

「でもさ。魔力の伸びは止まったでしょう?」

「さすがに止まったわね。でも、一か月で中級クラスの魔力だから大満足」

 魔法使いの中で、中級は十人に一人くらいしかない。
 使える魔法が少なくても戦闘力の嵩上げには貢献しているので、イーナは満足しているようだ。
 そういえば、この前ローデリヒと槍で試合をして彼が負けていた。

『さすがは、奥方様ですな』

 ローデリヒは笑っていたが、俺は知っている。
 彼が少しでも時間が空くと、また槍の訓練を再開しているのを。
 実は、ローデリヒは負けず嫌いだったのだ。

「魔力の上昇が止まった以上は、きっと普通に妊娠するはずだ」

「そうね。きっとそうよ」

「そういうわけだから、もう一回しておこう」

「ヴェル。もう少し言い方は無いのかしら?」

 無いとは言い切れないが、普段イーナが読んでいる本の主人公のようには言えないのだ。
 あんな恥ずかしい口説き文句、元日本人の俺には恥ずかしくて言えなかった。

「どうしようかしら?」

「おいおい。それはないだろうに」

 自身の肉体年齢的にそれはないと思ってしまう。
 俺の肉体はまだ十六歳なのだから。

「なんてね。嘘よ。アマーリエさんの所に予定以上に行かれても困るし」

「アマーリエ義姉さん? 何の事かな?」

「アマーリエさんの魔力は上がったのかしら?」

「それが全然」

「ヴェル。隠す気無いでしょう?」

 カマかけをされているのには気が付いていたが、わざと引っかかった振りをしておく。
 イーナは、すぐにそれに気が付いていたが。

「何だ。バレていたか」

「まったく。初めて出会った時には究極のお人好しだと思っていたのに」

「今も大概そうだと思うよ」

「それもそうね。私みたいなのを奥さんにしてしまうんだから」

 それからすぐに、まだ夜は長いので頑張ってみるが、いざ始めると一回では済まないのは世間の法則かもしれない。
 そして、またいつものように朝を迎える。
 ベッドの上の惨状はいつもの事として、二人で朝風呂に入るのは習慣になっている。

『女と混浴とか。ヴェル。モゲちまえ!』

 一人、エルが俺といる時だけ呪詛の言葉を吐いていたが、さすがに他の家臣がいる時には言わないだけの分別はあった。
 彼らからすれば、早く子供が生まれるような奥さんとのスキンシップは望ましいのだから。

「イーナは、髪が綺麗だな」

「ありがとう。実は、女として唯一の自慢かも」

 普段は束ねているが、イーナの燃えるような赤い髪は癖も無くサラサラである。

「カタリーナは、たまに髪が爆発しているからな」

「毎朝、時間をかけて整えているわね」

 彼女のお嬢様ドリルヘアーは、実は物凄い癖っ毛だからという理由も存在している。
 毎朝、強引にあの髪型にしているのだ。
 魔法で熱を出して髪を整えている様は、地球ならばパーマ機械無しで美容室が開けるのにと思ってしまう。

「ヴェルが作ってくれた髪の調整剤が物凄くいいわ」

 この世界にはシャンプーは存在していたが、リンスは存在していなかった。 
 貴族の子女などは、香油などでシャンプー後に髪を整えていたのだ。
 そこで、俺は酢を材料に天然リンスを作製して妻達に渡していた。
 評判は上々で、いつの間にかアルテリオさんが嗅ぎ付けて改良して販売する予定になっている。
 相変わらずの嗅覚の鋭さであった。

「それは良かった。じゃあ、その髪を洗ってあげよう」

「自分で出来るわよ」

「週に一回くらいいいだろう」

「ありがとう」

 他にも、体などを洗い合ってから風呂場を出てリビングへ行く途中に寝室の前を通ると、ドミニクが新入りのメイドにベッドメイキングの指導をしていた。

「いいですか? 現在のバウマイスター伯爵家には、このように秘する事案が多いのです」

「つまり、お館様は絶倫なのですね!」

「声が大きいです」

 イーナと二人で聞き耳を立てていると、ドミニクが若いメイドに注意事項を語っているようだ。

「お館様が絶倫……。つまり、私やドミニク姉さんにもチャンスが!」

「私は既婚者ですが……」

「しかしながら、ドミニク姉さんの美しさにお館様が欲情して!」

「ふんっ!」

 ドミニクは、不謹慎な発言をした若いメイドの頭に拳骨を落とす。
 俺達は、彼女の意外な一面を見たような気がした。

「いいですか? お館様は、そういう不道徳な事はしません」

 人の妻に手を出さないくらいの分別はある。
 俺はドミニクに随分と評価されているようであったが、アマーリエ義姉さんの件を考えるとそこまで評価してくれなくてもと思ってしまう。

「ヴェル?」

「エリーゼの幼馴染のメイドの過剰評価が辛いです」

「アマーリエさんの事はいいんじゃないの? あの人、今は独身だから」

「ううっ。ありがとう」

「泣かないでよ……」

 イーナの優しさに、俺は少し涙ぐんでしまう。

「いいですか? レーア。あなたは私の従妹だから推薦されたのです。余計な噂を流してあなたが処罰をされると、私の評価も落ちてしまうのですよ」

 コネで職を得たというと日本では非難される事も多いが、それで失敗すれば推薦してくれた人の顔にも泥を塗る事になる。
 決して、単純に楽とか羨ましいというわけでもないのだ。

「それに、お館様が絶倫だという噂が流れると、余計な押し売りが増えます」

 関係強化や利権欲しさに娘を差し出す貴族や商人が増えてしまう可能性があると、ドミニクは従妹である新人メイドに説明をしていた。

「それは即ち、エリーゼ様のお立場を悪くする可能性があるのです」

 後から入ってきた側室が、寵愛を受けて正妻を蔑ろにする。
 奥の和を乱す。
 貴族社会では良くある話ではあった。

「私もレーアも。エリーゼ様がお館様の正妻になられたからこそ、こうして恵まれた待遇を受けているのです」

「確かに給金は良いですよね」

 勤務地が王国南端の未開地なので、平均よりも大目に給金は給金は出していた。
 俺に言わせると、遠隔地手当のような物だ。

「おほんっ。というわけなので、静かにベッドメイキングをして他の仕事も早く覚えてください」

「わかりました。ベッドの上の惨状を見るに、特別手当は口止め料ですね」

「ふんっ!」

 再びドミニクが、レーアの頭上に拳骨を落とす。 

「子供の頃の楽しい思い出とか、教えて貰った仕事の記憶が飛びそうです」

「だったら、余計な事を言わない!」

「ドミニク姉さんが厳しい……」

 ドミニクに怒られてばかりだが、レーアというメイドは口は悪いが手際は良いようだ。
 指示通りに、素早くベッドメイキングをこなしていた。

「シーツとか凄いですね。ドミニク姉様。でもここまで凄いと、もしかして私もお館様の側室になれたりして」

「ふんっ!」

 三度、ドミニクがレーアの頭上に拳骨を落とす。

「痛いです。ドミニク姉さん。五歳の時に、レマン湖に泳ぎに行った思い出が消えそうです」

「消えていないじゃないですか。次の部屋に行きますよ」

 俺とイーナはすぐに寝室の前からリビングへと移動するが、途中の話題は全て新しいメイドに関してであった。

「あの娘。大丈夫かしら?」

「口が軽い部分はあるけど、仕事は手際が良かったな。ドミニクが上手く教育するだろう」

「それもそうね」

 二人でリビングに移動すると、朝食の準備が他のメイド達によって行われている。
 しかし、屋敷にメイドがいて色々と世話をしてくれる生活とは、なかなかに慣れない物である。
 元々の貧乏性のせいで、どこか落ち着かないのだ。

「お館様。本日はどちらを?」

「ご飯を」

「某はご飯を大盛りで!」

 屋敷での食事は、ご飯かパンかを自由に選択できるようにしていた。
 俺は大抵ご飯にしているが、最近王都に帰っている時間の方が少ない導師も、自前の大きな丼を差し出しながらメイドにご飯を頼んでいた。
 しかし、この人は王宮に出仕しなくてもいいのであろうか?

「導師。王城では公務などはないのですか?」

「正確に言えばあるのであるが、別に某が出なくてもいいのである!」

 王国の『最終兵器』でもある導師は、最終局面が来なければ基本暇であるようだ。

「某に仕事が無いのは、この国が平和な証である! ところで、今日はブランターク殿は?」

「お休みですよ」

 ブランタークさんは、俺が『瞬間移動』で迎えに行かなければここにはすぐに来れない。
 今日はその予定はなく、彼は最近働き詰めなので、暫くは新婚の奥さんと休暇を楽しむそうだ。

「バウマイスター伯爵の予定は?」

「今日は完全休養日です」

「なら、魔の森に狩りに行くのである!」

「いや、行きませんよ。休みだから」

 確かに趣味も兼ねているが、魔の森での狩猟は俺の仕事でもあるのだ。
 休みならば行く必要も無い。

「何と! つまらんのである!」

「その代わりに、海水浴に行きますけど」

「海水浴ですか?」

 実は予告無しのレジャー宣言なので、エリーゼ達にも話していなかった。
 突然俺から今日の予定を聞いて少し驚いているようだ。

「ヴェンデリン様。海水浴とは、暑い時期に海に行く事ですよね?」

「そうだよ」

 この世界にも、海水浴の習慣は存在している。 
 ただブライヒブルクや王都は海から遠いので、大半の人達は近場の川や湖で済ませてしまう。
 金持ちの人は、わざわざ休みを取って海まで出かける事もあるそうだが。

「私は、七年ほど前に東の海に行きました」

「エリーゼの実家はさすがね」

 イーナは、海水浴の経験があるエリーゼに感心していた。
 わざわざ内陸部にある王都から海まで移動する時間と費用とを考えると、そう海水浴の経験がある人はいなかったからだ。

「イーナは?」

「ブライヒブルク近くの川で泳いだくらいね」

「ボクも同じ。海なんて、そうそう行けないよ」

 イーナとルイーゼには、海水浴の経験は無いそうだ。

「ヴィルマは?」

「王都近くの湖に魚を獲りに」

 ヴィルマにとっての水遊びとは、魚獲りも兼ねないといけないみたいだ。
 泳ぐとお腹が空くからであろう。

「カタリーナは?」

「西部では海も近かったので一度。ですが、そんなに楽しい物ですか?」

「それは、カタリーナが一人で行ったからだろうな」

「どっ、どっ! どうしてそれを?」

 なぜかと問われれば、俺も元はボッチだったからだ。
 ボッチはボッチを知る。
 俺と出会う前のカタリーナを見て思うに、彼女が友達グループ同士で海に行く姿が想像ができない。
 そして俺の中での海水浴とは、未開地南端の海岸で塩を作り、魚貝類を獲って食べる事だったのだから。

「(海水浴に一人で行くとはレベルが高いな……)」

 人の事は言えないが、ある意味大した物だと俺は感心する。
 カタリーナの孤独力の高さにだ。

「バウマイスター伯爵家のプライベートビーチがあるから」

「そんな物があるのですか?」

「俺が設定したんだ。お昼はバーベキューでもして休日を楽しもうよ」

「それは面白そうであるな」

 導師がいち早く賛成したので、朝食後に早速『瞬間移動』でバウマイスター伯爵領南端にあるプライベートビーチに出かけるのであった。



「絶好の海水浴日和であるな!」

 朝食後に準備してから『瞬間移動』でプライベートビーチへと飛ぶと、導師は白い砂浜と青い透明度の高い海に大喜びであった。
 この中で一番年齢が高いのに、なぜか一番子供のようにはしゃいでいたのだ。
 今は季節的には冬であったが、未開地は北側の大リーグ山脈沿いの北部でも朝方に少し涼しいくらい。
 南部の海沿いは、一年を通して海水浴が可能なくらいに暑かった。
 それでも日本ほどは蒸し暑くないし、気温も体感では三十度を少し超えるくらいだ。
 日本ほど蒸さないので木陰に入れば涼しいし、過ごしやすい南国とも言える。

「ところで、エルヴィン少年はどうしたのであるか?」

「研修ですよ」

 普段は俺の警護役であるが、やはり将来的には諸侯軍を率いる仕事も任せたいので、トリスタンの元に定期的に研修に行かせていたのだ。

「熱心であるな。某に軍隊の指揮など不可能であるが」

 それは仕方がない。
 なぜなら、導師は単体か高位の魔法使いと組んで戦うのが一番戦闘力を発揮するからだ。
 陛下もそれがわかっているから、彼を普段は自由にさせているのであろう。

「さてと。海水浴といえば水着であるな」

「伯父様。ちゃんと準備はしてきましたよ」

「さすがは我が姪である!」

 エリーゼ達は自分で水着を持参してきていて、導師の分もエリーゼが準備していた。
 みんな早速、木陰に衝立を立てて着替えを始めるが、導師はいきなり俺の前でローブを脱いで着替え始めていた。
 ボディービルダーも真っ青な鍛えに鍛えられた鋼の筋肉がこれでもかと視界に入るが、男の裸など見たくはない。
 俺は後ろを向き、自分もローブを脱いで着替えを始める。

「変わった水着であるな……」

 ある程度予想はしていたのだが、導師は男なのに地球で昔の人が着ていたような膝と肘くらいまで布で覆われた古風な水着を着ていた。
 俺は、前に王都のお店で作らせていたトランクス型の水着である。

「着替え終わったよ」

「失格!」

「ヴェル。早っ!」

 そしてエリーゼ達も、色気もへったくれもない膝と肘まで厚い布で覆われた水着なので、俺はすぐにダメ出しをする。
 一番早くに着替え終わったルイーゼは、俺からの即時のダメ出しに驚いているようだ。

「ダメって……。水着ってこういう物だよ」

「色気がない」

「ヴェルの言わんとする事は理解できるけど、そう思うのなら新しい水着でも準備しておかないと」

「ほほう。言ったな。ルイーゼよ」

「ゲッ! もしかして準備してあるとか?」

「正解です。ルイーゼさん」

 俺は服には素人であったが、大体のデザインくらいは覚えている。
 そこで、当世日本で女性が普通に着ている水着を王都で一流の服飾職人に作って貰っていたのだ。

「こちらに着替えてね。当主命令である」

「うわーーーっ。布が少ないなぁ。当主命令だから着るけど、ボクへの初めての当主命令がこれってどうなの?」

「俺は間違っていない。なぜなら、俺は当主様だからだ」

「別にいいけどね。ここはプライベートビーチで他に誰もいないし。でも、サイズは?」

「ルイーゼ。結婚してもう一か月以上だぞ。妻の体のサイズくらいは把握している」

「ヴェルのエッチ」

 とは言いつつも、ルイーゼはノリノリの表情で他の妻達の水着も持って着替え用の衝立へと戻っていく。

「ルイーゼさん。ヴェンデリン様がこれを着ろと?」

「当主命令だって」

「ここで当主命令って……。ヘソとか丸見えね」

「肝心な部分は隠れているからいいんじゃないの? イーナちゃん。似合うよ」

「ルイーゼ。あんたねぇ……」

「動きやすくていいかも」

「ヴィルマさんは、そういう考え方ができて羨ましいですわね」

「カタリーナはスタイルがいいから羨ましい」

「私は貴族なので、周囲から常に見られていますから注意していますのよ」

 衝立の中からガヤガヤと話し声が聞こえてくるが、数分で着替え終わって俺と導師の前に姿を見せていた。

「なるほど。バウマイスター伯爵は、新しいファッショナブルな水着を普及させようと?」

「いいえ。純粋に趣味です」

 どうせここはプライベートビーチであるし、俺が作らせた水着が流行しようとしまいと関係ない。
 ただ俺が、エリーゼ達に着せたかっただけである。
 他に理由など存在しない。

「あの……。ヴェンデリン様。伯父様……。少し恥ずかしいのですが……」

「最初であるからそう思うのであろうが、某はじきに流行するような気がするのである」

 エリーゼは、黄色のビキニタイプの水着姿で恥ずかしそうにしていた。
 少し前かがみで、よく視線を送られる胸を隠していたのだ。
 しかしながら、やはりエリーゼの胸は凄いと思う。 
 それでいて、ウエストなども普通に細いのでまるでグラビアアイドルのようなのだ。

「エリーゼは素晴らしいな」

「そうですか?」

「どうせ他には誰もいないし、もっと堂々としていなよ。綺麗なんだから」

「はいっ!」

 俺が褒めると、エリーゼはとても嬉しそうであった。

「イーナも綺麗だな」

「ありがとう」

 イーナは胸は普通であったが、体を良く鍛えているのでスレンダーでスタイルが良かった。
 それが赤い髪と合わさって、少し格好良く見えるのだ。
 それと、最初は新しい水着を渋っていたが、実際に着ると意外と堂々としている。

「イーナさん。あまり無駄な脂肪が無くて羨ましいですわね」

「そうかしら?」

 プチダイエットの権化であるカタリーナが、イーナの体の細さを羨ましそうに見ていた。

「カタリーナ。ボクはもっと細いよ」

「ええと……」

「新しい水着も似合ってるでしょう? ボクの大人の魅力が前面に出ていて」

「そうですわね……」

 水色のビキニを着ているルイーゼは可愛らしかったが、エリーゼやイーナとは明らかにタイプが違う。
 可愛らしいというのが適切であろうが、それは彼女の魅力でもあった。

「可愛いと思うよ」

「ボクは、エリーゼやイーナちゃんとは別の路線で行くからね。でも、ヴィルマはいいなぁ……」

 同じ体が小さい枠に所属しているのに、ヴィルマは意外と胸が大きい。
 その点を、ルイーゼはとても羨ましいと思っているようだ。

「これ以上大きくなると動き難い」

「ううっ……。一度でいいからそんな事を言ってみたい……」

 ルイーゼは、ヴィルマの胸に強い視線を送っていた。

「ヴィルマも可愛いな。どうだい? 新しい水着は?」

「動きやすい。少し恥ずかしいけど」

 ピンク色のビキニを着たヴィルマは、俺の前でクルリと回って水着姿を披露していた。

「動きやすいから、沢山エビや貝を獲る」

「そうだね……」

 ただ、やはりヴィルマは食欲の方が優先なようだ。
 このプライベートビーチは、前に海竜を倒した現場なので海の幸も豊富であった。

「あの……。ヴェンデリンさん」

「どうかした? カタリーナは恥ずかしがりやだからワンピースタイプにしたんだが」

「ワンピースタイプでも、これは恥ずかしいではありませんか!」

 カタリーナは一番の恥ずかしがり屋なので紫色のワンピース型の水着を用意したのだが、まだ文句があるらしい。

「似合っているじゃないか」

「それは素直に妻として嬉しいですけど、なぜこの水着は股の部分の切れ込みが激しいのですか?」

「俺がデザインしたから」

 カタリーナの水着は昔の日本で流行したハイレグタイプで、加えて胸の部分の布を細くデザインしているのでほぼ胸の形がわかるようになっていた。
 なぜそうしたのかと言うと、単純に俺の趣味だからだ。
 他に理由などあるはずがない。

「似合っていると思うけど」

 見た目、カタリーナは高飛車でSに見えるので、こういう水着がとても良く似合うのだ。

「ダメか?」

「ダメとは言いませんが……」

「じゃあ。当主命令で」

「なぜにそこで連発いたしますの?」

 全員無事に水着に着替えたので早速に遊ぼうとすると、俺の肩を叩く人がいる。
 それは、導師その人であった。

「某だけ仲間外れなのはどうかと思うのである!」

「つまり、導師も新しい水着を着ると?」

「何か無いのであるか?」

「一応、ありますよ……」

 念のために男性用の水着も作って貰っていたのでそれをいくつか渡すと、導師はその中で一番あり得ないデザインの水着を選んでいた。
 俺が洒落で作った、競泳選手が着けるような極小ブーメラン型のブリーフタイプ黒であった。

「これが、某には相応しいのである!」

 いきなり目の前で最初の水着を脱いで着替え始めたので、俺達は全員が視線を逸らしていた。
 あっという間に着替え終わった導師は、まるでボディービルダーのようなポーズを取りながらその着心地を確認していた。

「(エリーゼ達の美しい水着姿の記憶が、導師の水着姿の記憶で上書きされていくようだ……)」

 地球でボディービルダーの大会に出ると優勝しそうな雰囲気ではあったが、生憎と俺はその方面には全く興味が無かった。

「さてと。着替えたので遊ぼうと思うのだが……」

 続けて導師は、何か液体の入った瓶を取り出していた。

「日焼け止めを塗らないと、あとで大変であろう」

 この世界には、日焼け止めが存在している。
 地球のように二酸化チタンや酸化亜鉛などは手に入らないであろうが、植物由来で効果が高い商品が存在している。
 その代わりに値段は相当な物で、よほど裕福で無いと手に入らない。
 貴族の女性は見栄も兼ねて海水浴に行くが、肌が荒れるのは防ぎたいようだ。

「バウマイスター伯爵よ。某に塗ってくれぬか?」

 導師からあり得ないお願いをされたので、俺は彼の姪であるエリーゼに視線を向ける。

「ええと……。エリーゼ……」

「お互いに塗り合いましょうか?」

「エリーゼの意見に賛成!」

「私も賛成よ」

「カタリーナには私が塗る」

「では、私はヴィルマさんに」

 しかし、導師の姪であるエリーゼですら、彼の体に日焼け止めを塗るのは嫌らしい。
 上手く女性陣同士で塗り合う作戦で、自分達のピンチを脱していた。
 当然俺は、見捨てられる事となる。

「(俺も混ぜて欲しかったぜ……)」

 エリーゼ達と日焼け止めを塗り合う計画が潰れ、逆に導師の体に日焼け止めを塗るという困難が待ち受けている。
 導師にソッチの気は皆無だが、それでも何が悲しくて筋肉隆々の四十代オヤジの体にサンオイルを塗らないといけないのであろうか?

「某も、バウマイスター伯爵に塗ってあげるのである」

「(それも、物凄く嫌……)」

 更にピンチに追いやられる。
 俺だって普通に、エリーゼ達に日焼け止めを塗って欲しいからだ。

「(考えろ! ピンチを脱する方法を……)」

 どうにか最悪の事態を避けようと考える俺の脳裏に、あるアイデアが浮かぶ。 
 非情な方法ではあるが、それも俺がピンチを脱するため。
 俺は心を鬼にしてから、すぐに水着の上からローブを羽織り、『瞬間移動』でバウルブルクにある警備隊の駐屯地へと飛ぶ。

「お館様?」

「エルに用事だ」

 門番の検問を顔パスで抜けて研修室に入ると、そこでトリスタンから講義を受けているエルを発見する。

「お館様?」

「トリスタン。エルを少し借りるぞ」

「えっ? 何?」

 事態を良く掴めていないエルの手を掴むと、俺はまた『瞬間移動』で砂浜に戻る。

「なあ。どういう用事で……。うひゃーーー。スゲェ水着」

 エルは、エリーゼ達の水着姿を見て鼻の下を伸ばしていたが、彼女達はエルを窘めなかった。
 なぜなら、俺の極悪な企みに気が付いたからだ。

「導師。エルがどうしても日焼け止めを塗りたいそうです」

「そうであるか。では、頼むぞ」

「えっ? 俺が何?」

 エルが声がした方を向くと、そこにはブーメランブリーフ水着を着用した導師が立っており、加えて日焼け止めの瓶を彼から渡されていた。

「エルヴィン少年よ。某に日焼け止めを塗ってくれ。全身にくまなく頼むぞ」

「おい。ヴェル……」

 ようやく俺の意図に気が付いたエルは、物凄く嫌そうな表情を俺に向けていた。

「エル。当主命令だ」

「お前は鬼だな。ヴェル……」

 エルは、初めての当主命令が導師の体に日焼け止めを塗る事という事実に、心の中で打ちひしがれているようだ。

「実は、俺は男性の肌に一分以上触れると蕁麻疹がな」

「一発で嘘だとわかるわ!」

 勿論、エルの言うように俺の嘘である。

「とにかく命令ね。俺は、エリーゼにでも日焼け止めを塗って貰おうかな?」

「地獄に落ちろ」

 間違いなく、俺がエルの立場でも同じ事を言ったであろう。
 他の家臣がいれば不敬罪も甚だしいが、軽く聞き流してエリーゼ達の元に直行する。

「万遍なく頼むぞ。エルヴィン少年よ」

「はい……」

 エルは、半ば放心しながら導師に日焼け止めを塗っていた。
 そして俺は、まだ日焼け止めを塗り終わっていないカタリーナに日焼け止めを塗る作業に入る。
 エルに任せるという早めの決断をした俺の勝利である。

「どうだ? 気持ちいいか?」

「何か聞き方がいやらしいような……」

「夫婦の間で、いやらしいも何もねぇ……。お尻にも塗ってあげよう」

「ヴェンデリンさん。私は別に構わないのですが、周囲の視線も考えてですね……」

 見た目とは違って、その手の方面で俺に押されるとカタリーナは大人しくなってしまう。
 それでも特に嫌がらずに、俺に日焼け止めを塗られていた。
 俺はカタリーナの全身に日焼け止めを塗り、俺もエリーゼ達全員によって日焼け止めを塗られていく。

「ヴェル。ボクもお尻に塗って」

「喜んでお引き受けしましょう」

「はぁーーー。気持ち良いねぇーーー」

 ルイーゼも、気持ち良さそうに日焼け止めを塗られていた。

「こういうのもいいな」

 これを堕落というのか?
 それとも、幸福というべきか?

 などと思っていると、エルに日焼け止めを全身に塗らせた導師がボディービルダーのようにポーズを取っていた。
 エルはちゃんと日焼け止めを塗ったようで、とても満足している様子だ。

「これで良し。あまり日に焼けると、肌が火傷をする事があるからな」

「導師なら、地獄の業火で焼かれても火傷一つ負わないと思いますが……」

「エルヴィン少年よ。某はそこまで頑丈ではないぞ」

 導師はエルが冗談を言っていると思っているようだが、間違いなく本心から出た発言だ。
 なぜなら、俺もエリーゼ達もエルの呟きに納得してしまっていたから。

「それで、俺の仕事は?」

「これで終わり」

「おい……」

 俺はエルが文句を言う前に、再び『瞬間移動』でバウルブルクにある警備隊の駐屯地へと飛び、トリスタンにエルを引き渡してから砂浜に戻っていた。
 可哀想だとは思うが、せっかく伯爵になれたのだ。
 導師の体に日焼け止めを塗るなどという苦行は、他の人に任せたかった。

「エルがちょっと可哀想じゃない?」

「エルは明日休みだから。それとも、イーナが代わりに塗る?」

「さっ。早く遊びましょう」

 イーナも、いくらエルが可哀想でも自分で導師に日焼け止めは塗りたくなかったらしい。
 すぐに話題を切り替えて誤魔化していた。

「遊ぶぞ! その前に……」

 今度は屋敷に『瞬間移動』で飛んでから、朝の仕事を終えて待機していたドミニクと新人メイドのレーアを呼び出していた。
 彼女達に、昼食や飲み物などの準備を任せる事にしたのだ。

「凄いですね。ドミニク姉さん。プライベートビーチとか」

 海沿いに領地を持っている貴族だと小身でも持っている者は多いが、領地内に海を持っていない貴族だとよほどの大物でないと持っていない。
 王都育ちのレーアからすると、物凄い贅沢に見えるのであろう。

「レーア。余計な事は言わずに飲み物と食事の準備です」

 男手が少ないので、俺と導師で魔法の袋から取り出したパラソルを立て、リクライニングチェアーを並べ、バーベキューパーティーをするので竈の設置などを行う。
 材料も準備していて、ドミニク達は肉や野菜を切ったり、魚を捌いたり、冷たいマテ茶を作ったり、フルーツでシャーベットやジュースなどを作っていた。

「野外のパーティーで高価な魔道具を惜しみも無くとは。お館様は凄いですね」

 レーアは感心しているようだが、全て魔の森の地下倉庫から手に入れた品である。
 あそこの魔道具は、日本の家電製品のようにコンパクトで使い勝手が良いのだ。
 コードが付いておらず、自分で魔力を補充して使えるのが良い。

 燃費も従来品とは段違いなので、あまり魔力の補充に手間もかからない。
 そういえば、これを買い取って行った魔道具ギルドは成果を出したのであろうか?

「拾い物だけどな。仕事の合間に適当に飲み食いしてもいいよ。今日は、他のメイドもいないし」

 屋敷内だと他のメイドや使用人達の手前もあって言えないが、ここには俺達以外誰もいないので今日は構わないであろう。

「ありがとうございます。お館様」

「今日はラッキーですね。ドミニク姉さん」

「まずは、お館様にお礼を言いなさい!」

「ふえい……。ありがとうございますぅ……」

 またドミニクは、レーアの頭上に拳骨を落としていた。

「ああ……。今度は、六歳の時に家族でピクニックに行った思い出が……」

「覚えているじゃないですか」

「何と言うか、ドミニクは大変だな」

「仕事の覚えも手際も良いのですが、口の利き方に問題が……」

 ドミニクは、年下の従妹のメイド教育に苦労しているようだ。

「それじゃあ、任せるから」

 ドミニク達に食事の準備を任せて海に向かうと、俺達は全員で海に入って泳いだり潜ったりして遊び始める。
 久しぶりの海水浴は心地よく、ヴィルマなどは深く潜ってエビや貝を獲り始めていた。

「この中で一番泳ぎが得意なのは、ヴィルマだな」

「そうみたいですね。あのヴェンデリン様。手を離さないでくださいね」

「エリーゼが泳げなかったのは意外だったなぁ……」

 俺は、エリーゼの手を引きながら彼女にバタ足から教えていた。

「海水浴の経験はありますが、女性は砂浜付近で遊ぶだけでしたので……」

 泳ぐという行為自体をした経験が無いそうだ。

「屋敷にプールでも作って、そこで俺が教えればすぐに覚えるさ」

「ありがとうございます。ヴェンデリン様」

「ヴェル。このクロールってスイスイ泳げるねぇーーー」

「平泳ぎも楽だわ」

 俺がエリーゼに泳ぎを教えている横では、クロールを速攻で覚えたルイーゼがスイスイと泳いでいた。
 イーナも、ノンビリと楽しそうに平泳ぎで泳いでいる。

 この世界では、泳ぎは古泳法のような物しか存在していない。
 重い鎧を着ても泳げるようにとか、水泳は男性だけの物という認識があったのだ。

「ヴェルは、良くこんな泳法を思いつくね」

「子供の頃は暇だったからな」

 実は、前世で中学・高校時代と水泳部だったからだ。
 勿論才能はなく、一通りの泳法は出来るがオール補欠でしたというオチはあったのだが。

 それよりも、ルイーゼとイーナは凄いと思う。
 一度泳ぎ方をレクチャーしただけで、すぐに俺よりも速く泳げるようになっているのだから。
 運動神経に関しては、二人に一日の長があるようだ。

「そして、カタリーナは……」

「手と足の動きが難しいですわね……」

 彼女も普通に泳げるのだが、新泳法の習得には苦労しているようだ。

「屋敷にプールを作るから、そこで教えるよ」

「ええと。手の動きがこうで……。足の動きがこうで……」

 カタリーナの運動神経は、俺とそう違いが無いようだ。
 クロールで手を動かすと足の動きが止まり、足の動きに集中すると手の動きが疎かとなり。
 俺が子供の頃と同じような失敗を繰り返していた。

「泳げなくても、魔法使いには魔法がありますから問題無いですわ」

「それを言うと、それまでなんだけどな」

 空気の泡を作ってその中で水中移動をする魔法があるので、魔力が尽きなければ泳げなくても問題は無いと言える。

「せっかくヴェンデリンさんが教えてくれるので、ありがたくお受けいたしますが」

「伯父様も、覚えるのが早いですね」

「導師はなぁ……」

 エリーゼは、少し離れた場所で盛大な水飛沫をあげながら泳ぐ導師を羨ましそうに見ていた。
 だが、彼はクロール、平泳ぎ、背泳ぎと全て無視してバタフライだけを素早く習得しただけだ。

「大型の魔物が泳いでいるみたい」

 本人は楽しそうであるが、傍から見るとルイーゼの言う通りに水生の魔物が接近でもしてくるかのように見える。

「話題にしたら、こっちに来たな……」

 恐ろしいスピードでこちらに泳いできた導師は寸前の位置で止まるが、大量の水飛沫が俺達を襲った。
 全員が水浸しになってしまう。

「この泳法は便利であるな!」

 導師は、バタフライをえらく気に入ったようだ。

「ところで、ヴィルマは?」

「確か、素潜りでエビや貝を獲っているはず……」

 そうルイーゼに答えた直後に海面が大きく盛り上がり、ヴィルマが顔を出す。
 その手には、獲物が入った網袋を持っていた。

「沢山獲れた」

「そうか。良かったな」

 ヴィルマにとっては、新しい泳法を習うよりも遊ぶよりも、ただ漁の成果だけが何よりも楽しみのようだ。
 そのまま砂浜へと上陸するが、袋の中には尋常ではない量のエビ、貝、魚などが入っていた。

「随分と一杯入っているけど全部食べられるのか?」

「魔法の袋に入れておけば鮮度は落ちないから、暫く楽しめる」

「シッカリしているなぁ……」

 ここでちょうどお昼となり、ドミニク達が準備をしていた昼食を取る事にする。
 メニューはバーベキューが主になっていて、網の上で焼いた肉、魚貝類、野菜などをタレに付けて食べていた。

「ショウユタレも、ミソタレも、シオタレも美味い」

 全て俺が独自に配合をして完成させた物であったが、導師はかき込むようにして大量に焼いた肉や魚を食べていた。

「伯父様。お野菜はいかがですか?」

「野菜は後日でも構うまい。今は、肉や魚貝類を優先するのである」

「あまり健康に宜しくありませんよ」

 導師はまるで子供のような事を言い、逆にエリーゼの方がお母さんのようであった。

「ヴェンデリン様は野菜も食べていますね」

「そのためのタレだもの」

 前世で高級な素材を使ったタレを作っているメーカーの品をパクったのだが、予想以上に味の調合に難儀していた。
 同じ材料が手に入らなかったり、入っても味などが違っていたり、大体の材料はわかっていたが配合比率で苦労したりと。
 この三種類のタレは、俺の苦労の結晶なのだ。

『そんな細かい配合比率で味が変わるのか?』

 人が苦労してタレの配合をしているのに、エルは横からよく茶々を入れていた。
 タレの配合にケチを付けるとはとんでもない男である。
 だからこそ、導師に日焼け止めを塗る刑を執行したとも言えるのだが。

「確かに、このタレは良く出来ていますね」

「アルテリオさんがレシピを売って欲しいだって」

「あの方は商売上手ですね」

「元冒険者だから目端が利くんだろうね」

「ヴェル様」

 エリーゼと話をしていると、今度はヴィルマが俺に声をかけてくる。

「何だい? ヴィルマ」

「お腹が溜まらない」

「某もである」

 どうやら導師と合わせて、肉や魚貝類ばかり食べているので炭水化物が不足していると感じたのであろう。

「あれだけ食べて、まだ食べるの?」

 イーナは、二人が焼いて食べたエビや貝の殻が山積みになっているのを見て呆れている様子だ。

「じゃあ。作るとするかな?」

「ヴェルが何かを作るの?」

「海に来たからには、ちょっと変わった物を食べないとな」

 俺は魔法の袋から鉄板を取り出すと、空いている網と交換して加熱を始める。
 続けて油を引き、刻んだ肉と野菜を入れて炒め、準備をしていた蒸した麺も入れる。
 味付けにはタレと同じく自作したソースを使い、ほど良く炒まったら皿に載せて紅ショウガと青のりを乗せて完成。

 俺は、夏の海の風物詩であるソース焼きそばを作っていたのだ。
 これの再現にも苦労したが、屋敷にいる料理人が優秀なので助かっていた。
 彼らにある程度の説明をすると、蒸し麺、紅ショウガ、青のりなどは準備してくれたのだから。

「別バージョンで具を魚貝にした塩焼きそばも完成」

「美味しそうですわね」

 焼けたソースと青のりの香りに、カタリーナも吸い込まれたようだ。

「貴族らしくない料理だけどな」

「ヴェンデリンさん。貴族とは、いかに珍しい料理を食べてパーティーなどで自慢するかですわよ」

 カタリーナは素早く焼きそばを皿に盛って食べ始めていた。
 えらく大盛りだが、いつも気にしているダイエットは良いのであろうか?

「美味しいわね」

「塩味の方も美味しいよ」

「初めて食べる麺料理ですね」

 イーナ、ルイーゼ、エリーゼも焼きそばを気に入ったようだ。

「美味しいけど、足りないからもっと作る」

「作り方は見ていたので、某がやってみよう」

 やはり二人には、量が物足りなかったらしい。
 ヴィルマと導師は、競うようにして焼きそばを焼き始める。
 麺などの材料は多めに準備していたのだが、それらは全て鉄板の上で焼かれていた。
 その量たるや、まるで縁日の屋台のようである。

 準備していた全ての具材が鉄板の上で焼かれて、ジュージューと音を立てている。 
 二人は、神妙な表情でコテを動かしながら焼き加減を見ていた。

「導師。全部食べられますか?」

「物足りないくらいであるな」

「導師様。前に義父が腹八分だと言っていた」

「エドガー軍務卿であるか。至言であるな」

 などと導師は言っているが、何十玉分の焼きそばをヴィルマと競うようにして食べている人が言っても説得力は無かった。

「良く胸やけしないわね」

 イーナの言う通りであったが、さすがに二人とも食後は、砂浜に置いたリクライニングチェアーに寝転がって昼寝を始めていた。
 導師から爆音のような鼾が聞こえ、その音量たるや魔物除けにでも使えそうだ。
 奥さん達は、どうやって一緒に寝ているのであろうか?

「ヴィルマさんは、見た目は可愛いですわね」

 カタリーナの言う通りに、ヴィルマは小リスのように丸まって寝ていて保護欲を誘う可愛さだ。
 とても、導師よりも食べるようには見えない。

「俺達も少し昼寝でもするか」

「はい。お腹一杯で少し眠くなりました」

「こういう時にダラダラ寝られるのもお休みの醍醐味さ」

「そうですね」

 結婚式以来、色々とあって疲れたので、俺達もリクライニングチェアーに寝転がって冷たいお茶やジュースを飲みながらうたた寝を開始する。

「贅沢な時間ですね」

「そうだな」

 共に十六歳なのに色々と忙しいせいで、エリーゼとはまるで老夫婦のような会話になってしまう。
 地球なら高校生で遊んでいられる年齢なのに、この世界の人間は生き急いでいる人が多い気がするのだ。

「エリーゼがいてくれて助かっているよ。俺は王都の貴族連中の事なんて良く知らないし」

「ヴェンデリン様にそう言っていただけると嬉しいです」

 俺に向けてニッコリと微笑むエリーゼは可愛かった。
 そして、やはり寝転がっても形が崩れない胸は最強である。

「そうね。私は陪臣の娘だから、その方面ではヴェルに助言できないから」

「ボクもだね。今まで世界が違ったからね。カタリーナは見かけだけだし」

「私は没落貴族なので仕方がありませんわね。見かけも宣伝には必要でしてよ。ルイーゼさん」

「確かにそれは言えている」

 イーナも、ルイーゼも、カタリーナも、エリーゼには一目置いている。
 俺がそれを再確認した時には、既にエリーゼは眠りの世界に旅立っていた。

「疲れているんだろうな」

 俺はエリーゼにタオルケットをかけ、自分も暫しの昼寝を楽しむ。
 そして数時間後、砂浜は夕日で赤く染まり、その美しさを際立たせていた。

「綺麗だなぁ」

 俺とエリーゼ達は、砂浜から見る美しい夕日に感動していた。

「本当に綺麗ですね。ヴェンデリン様」

「また来ましょうね。ヴェル」

「いやーーー。今日は休んだなぁーーー」

「美味しい物が沢山食べられた」

「プライベートビーチ。堪能いたしましたわ」

 かなり長い時間夕日を見てから屋敷に戻ろうと、片づけをしているドミニク達に声をかける。
 昼食後は、夕方までに片づけをしておいてくれたら、あとは自由に残った食材を調理して食べていていいからと任せていたのだ。
 ドミニクなら暴走はあり得ないと思ったのだが、あの新人メイドレーアが片付いた荷物の元で座り込んでいた。

「この娘はどうしたんだ?」

「お恥ずかしながら、純粋に食べ過ぎです」

「えっ! そうなの?」

「滅多に食べられない大量の海の幸。食い溜めを決行いたしました」

 片付けはちゃんとしたようだが、そこで限界がきて座り込んでいるらしい。

「限度があるでしょうが!」

 これで何度目か?
 ドミニクは、レーアの頭上に拳骨を落としていた。

「ああ。七歳の時に高級なレストランに家族で行った記憶が……」

「だから消えていないではありませんか」 

 真面目なドミニクと面白キャラのレーアとの組み合わせは、まるで漫才コンビのようであった。

「食べ過ぎなら、胃薬でも飲んでおけば?」

 魔法の袋から、生薬由来の胃薬を取り出してレーアに渡す。

「ああ。お館様のご慈悲がこの身に沁みます……」

「(この娘。面白いなぁ……)」 

 レーアに薬を飲ませた後、すぐに着替えてから『瞬間移動』で屋敷へと戻る。
 塩が体に付着しているのでシャワーを浴びてから夕食を取るためにリビングへと入ると、そこでは分厚い紙の束を捲って読んでいるエルの姿があった。

「何を読んでいるんだ?」

「軍隊指揮の心得。まずは、座学からだって」

「なるほど」

 トリスタンから、軍学書の中から必要な部分だけを束ねた物を貰ったらしい。
 それを熱心に読んでいた。

「それにしても、今日は酷いじゃないか」

「アレはなぁ……」

 誰もが筋肉ムキムキの導師に日焼け止めを塗りたくなかった結果、ふと頭にエルの存在が浮かんでしまっただけの不幸な事故であると俺は説明する。

「明日はお休みじゃないか」

「別に、導師の体に日焼け止めを塗らなくても明日は休みだ」

「やはり、それに気が付いたか」

「気が付かない奴を、むしろ俺は知りたいわ!」

 確かに、エルの言う通りである。

「代わりに、一人女の子を紹介してやろう」

「本当か?」

「ああ。なかなかに可愛い娘だぞ」

 俺は、嘘は言っていない。
 新人メイドであるレーアはドミニクよりも二歳年下だそうだが、スタイルはドミニクにも負けていないし、亜麻色の髪で可愛らしい容姿をしている。
 ドミニクに言わせると、『あの口の利き方が何とかなれば……』というくらい、実はメイドとしては優れていた。

「本当か? 誰なんだ?」

 あまりに嬉しそうに聞いてくるので、俺はレーアの名前をあげる。
 すると、途端にエルの顔色が曇り始める。

「えっ! あれ?」

「知っていたのか?」

「まあな……」

 教育係のドミニクに拳骨を落とされているのを、何度か実際に目撃しているそうだ。

「アレ。大丈夫か?」

「ちょっと口の利き方が微妙だけど、意外と良い娘だと思うよ」

 メイドとしての能力は、ドミニクにもそう負けていないはずだ。
 奥さんにするには良いと思うのだが。

「試しに、デートにでも誘ってみたら?」

「うーーーん。考えておく」

 翌日、エルは一人でバウルブルクの街中に休暇に出かけてしまったが、実はレーアもうちに来て初めての休日であった。

「ドミニク姉さん。もし私が街中で男性に声をかけられでもしたら?」

「しつこかったら、警備隊の人に言いなさい。お館様の屋敷に勤めてるといえば助けてくれますから」

 いつも拳骨を落としているが、ドミニクはレーアを可愛がっているらしい。
 初めての休日で街に出るレーアを屋敷の前で見送っていた。

「わかりました。では、早速に甘い物の探訪開始です」

「無駄遣いをしないように」

「わかっていますって。お土産を買って来ますね」

 元気に駆け出したレーアの姿が見えなくなったところで、俺はドミニクに、エルにレーアを勧めた件を話す。

「えっ? レーアをですか?」

「エルの親友としては、無理矢理に彼女を勧めたくないけど、選択肢の一つとしては選べるように」

「大丈夫でしょうか?」

 ドミニクに言わせると、あの微妙な口の利き方が気になって仕方がないのであろう。
 もう少し、自分が修正をしてからだと。

「可能性はあるかもとね」

「わかりました。一応、気にはしておく事とします」

 果たして二人が結婚する事となるのか?
 それは、今は神のみぞ知る未来であった。
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