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第十話 魔法のお師匠様との出会い。

「ようやく、波長の合う人間と出会えた。君の名は?」


 父から語り死人の話を聞いた翌日、いつものように森へと入った俺は、そこで青白い肌が特徴の三十歳前後の人物に話しかけられるのであった。





「私の名は、アルフレッド・レインフォード。生前は、ブライヒレーダー辺境伯領でお抱え魔法使いをしていた人間だ」


 この突然話しかけてきた人は、どうやら話題の語り死人であったらしい。

 しかも彼は、俺の探知魔法にも一切引っかからず、採集のために下を向いているところを突然話しかけられたので、俺の心臓はバクバクしたままであった。


「驚かせてしまったようだね。つい、波長の合う人間に会えて焦ってしまったようだ。すまない」


 この、容姿も言動も名前も紳士でイケメン兄さんは、驚く俺にすまなそうに頭を下げていた。

 イケメンで性格も良いなんて、俺が女なら惚れてしまいそうなほどの好男子だ。


 これで肌が青白くなければ完璧なのだが、その肌の青白さこそが語り死人の特徴なので仕方が無いとも言えた。


「年齢のわりに、探知の魔法が上手なようだね。というか、これほどの探知魔法を使える魔法使いが貴重とも言えるね。ああ、私が探知に引っかからなかった件だけど、何も死霊系の魔物がコレに引っかからないという事ではないからね。私が、探知を誤魔化す魔法の名手だからという事だけなんだ」


「物凄い魔法ですね」


「そうだね。この大陸で十人が使えるかどうかという魔法さ。当然、君にも覚えてもらう予定だけど」


「はい?」


 突然の語り死人からの提案に、俺は思わず変な声をあげてしまう。


「語り死人を成仏させる方法は聞いているよね?」


「はい、その話を聞いて願いをかなえるとかで」


「私の願いは、この三十年の人生で得た魔法を授ける弟子に出会う事さ。君は魔力に長けているし、独学でほぼ一流の技量を得る事に成功している。魔法の会得とは、ほぼ独学で成し遂げる物だけど、一週間も私からコツを聞けば、その習熟は早まるはずだからね」


 そんなやり取りの後、俺はこの元ブライヒレーダー辺境伯のお抱え魔法使いであったアルフレッド・レインフォード氏の弟子となる。


 朝、武芸の簡単な訓練を終えてから森の奥へと向かうと、そこには家族を誤魔化すために俺に持たせる獲物や採集物を準備した師匠が笑顔で待ち構えていた。


 狩猟と採集の時間を、なるべく魔法の訓練に当てるためだ。


「しかし、凄い物ですね」


「魔法を使えるとね。生活の糧には困らないものさ」


 やはり師匠も、素早いホロホロ鳥などを魔法で上手く落としているようだ。

 しかも、あっと言う間に俺のボウガンの魔法を真似して習得までしていた。


「じゃあ、始めようか」


「まずは何をするのですか?」


「うん、器合わせという修練方法だよ」


 完全に独学の俺は知らなかったが、これは短期間で一気に魔力の量を上げる修練方法らしい。

 お互いに両手を握り合って輪を作り、双方の体に徐々に大量の魔力を循環させていく。

 すると、魔力の少ない方の魔力量が、魔力が多い方と同量になるらしい。


「ただ、これは可能性の問題でね。最初からその人の最大魔力量が決まっているから、それを越して魔力量が増えるような事は無いんだ」


 要するに、魔力量が10の人と100の人が魔力合わせを行った場合、理論的には魔力量が10の人は100になる。

 だが、その人の魔力限界値が10の場合は成長しないし、30だと30までしか上がらない。


 もし200の場合でも100までしか上がらないので、これをしたからと言って修練をサボって良いわけでもないようだ。


「それでも私は、君の十倍以上の魔力量を持っている。まだ魔力が成長している君には十分に役に立つはずだ」


「あの、そんなに魔力量を急に成長させて大丈夫ですか?」


「はははっ、破裂とかはしないから。ただ限界魔力量が低い人に一気に大量の魔力を流すと、魔力酔いで二~三日具合が悪くなるようだね。命の危険は無いけど」


 そんな説明を聞きながら、俺と師匠は両手を繋ぐ。

 やはり師匠は死んでいるらしく、その手は少し冷たかった。


 それから目を瞑り、双方が魔力を沸き上がらせながら、お互いに繋いだ手から相手の魔力路を通して魔力袋へと魔力を流すイメージを思い浮かべる。


 すると、次第に師匠の手から膨大な魔力が流れ込むイメージが頭に思い浮かんでくる。


「ほう、これは予想以上に」


 十分間ほどこの状態が続いていたが、突然一気に魔力の流れが止まってしまう。


「よし、これで器合わせは終わりだね」


 器合わせなる儀式が終わって双方が両手を話すと、師匠は目を輝かせながら俺に話しかけてくる。


「やはり見込んだ通りだね。今の君は魔力量だけなら私に匹敵するレベルになっている。でも、まだそれが限界でもない。君は、歴史に残る素晴らしい魔法使いになれるよ」


「そうなんですか?」


「私が保証する。君は、私を超える魔法使いになれる。慢心しないで着実に鍛錬を続けていれば」


 それから一週間、俺は師匠から細かく魔法の訓練を受け続ける。

 さすがに広範囲の上級戦闘魔法の練習は出来なかったが、これは後で人のいない場所で一人で行っても何も問題は無いと師匠から言われたので、他の難しい特殊な魔法の鍛錬を中心に続けていた。


「師匠、その棒は何ですか?」


「私の作った、魔力剣の柄の部分だね」


「師匠は、魔法具の作成も行えるんですね」


「簡単な方だけだけどね」


 魔法具の製作は、魔法使いの中でも特殊な才能を持つ者にしか出来ないと書物には書かれていた。

 ただ、師匠に言わせると、この書物の記載は正確ではないらしい。


「魔法具には、二種類があるんだ」

 

 そう言いながら、師匠は自分の持ち物である書物を俺に見せる。

 本のタイトルはずばり、『魔法具の作り方と、その設計図』であった。


「作り方は、その通りさ。基本さえ掴んでいれば、多少雑な作りでも問題なく使える」


 確かに、本に書かれた魔法具には普通の日用品のような物が多い。

 唯一違う点は、そこに米粒大の魔晶石が付けてあるという事であろうか?


「えらく小さい魔晶石ですね」


「そうだね。それは、発動用の魔晶石だし」


 つまり、これに魔力はさして篭められていないらしい。

 どちらかと言うと、魔法使いが体内から流した魔力を道具本体へと繋ぐバイパスのような役割をしているようだ。


「あれ? という事は?」


「魔法使いにしか使えない魔道具なんだよ。もっとも、魔力さえあれば自分が使えない魔法を発動可能なので、大抵の魔法使いは複数持っているし、これを作れる魔法使いは多い」


 逆に、滅多に作れる魔法使いがいないのは、これに大量の魔力を蓄えた電池のような魔晶石が付いた魔道具なのだそうだ。

 これは、魔法など使えない人でも使えて汎用性が高い。


「ただ大容量の魔晶石を付ければ良いというわけでもない。下手に付けると使用時に道具が爆発するからね。だから、汎用性のある魔道具は値段が高いわけだね」


 それと、魔晶石の魔力が尽きたら魔力の補充が必用であった。

 当然、魔力の補充が出来るのは魔法使いだけ。

 なるほど、容易には普及しないわけだ。


「魔法使い用のなら、君でも簡単に作れるさ」


「なるほど、そういう事だったのですか。ところで、その剣ですけど……」


「対魔物用とも言えるかな? 属性魔力を刀身にして出すための魔法具さ」

 

 そう言うと、師匠は柄だけの剣から、青白い一メートル半ほどの細い炎を出す。

 

「青い炎は温度が高い。これの攻撃を防ぐと、鋼の剣でも溶け切れるだろうね」


 続けて、氷、風、なぜか岩で出来た刀身を次々と柄から発生させていく。


「魔物には、弱い属性がある物が多いからね。火が苦手な魔物には火の刀身を、水なら氷、岩製の刀身については、見た目がアレでも土属性が苦手な魔物には効果が絶大なんだよ」


 説明の後、俺は無事にこれらの魔法や、魔法使い専用の魔道具に取り付ける魔晶石の作り方についてもレクチャーを受け、それを習得する事に成功する。


 魔晶石は、魔物の体内から出る魔石が原料になっている。

 この森には魔物が居ないので、材料は師匠持ちとなっていた。


「意外と時間がかかりませんね」


「基本の鍛錬はね。実戦は、私でも油断すればこうなるのさ」


 この一週間、俺は師匠が優れた魔法使いである事を確信していた。

 だが、それほどの実力を持つ師匠でも、下手を打てば簡単に死んでしまうのがこの世界なのだと。


「数の暴力の前には、個人の強さも無力という現実があるのさ」


 魔法の鍛錬の間に、俺は師匠から色々な話を聞いていた。

 自分は孤児であった事や、それでも魔法の才能があったので冒険者として稼いでいた事。

 その実力を買われてブライヒレーダー辺境伯のお抱えになったものの、最初の大きな仕事が、あの魔の森への進軍であった事などをだ。


「上司運が無いんですね」


「小さいのに、難しい言葉を知っているね。極論すると、そうなるかな」

 

 せっかく栄達したのにすぐに死んでしまい、師匠は悔しくは無いのだろうか?

 そんな事を考えていると、師匠が俺の心を見透かしたように言葉を続ける。


「悔しくないと言えば嘘になる。でも私は、語り死人になってまで自分の魔法を伝える弟子を見付けた」


「それが、俺であると?」


 優れた魔法使いほど、他の優れた魔法使いの気配に敏感らしい。

 魔法を使う時以外は、魔力は魔法使いの体内に篭っていてそれほど探知しやすいものではないそうだが、第六感とでも言うべきなのか、何となく察知できるものらしいのだ。


「ですが、俺は……」


「君の場合は、この周辺に魔法使いがいなかったからね。でもこれからは大丈夫。君は、私の存在を覚えた。これからは次第に、他の魔法使いの気配に敏感になるはずだよ」


 師匠は、魔の森で主君であるブライヒレーダー辺境伯を魔物の大群から守り続け、多分数千匹は魔法で殺したらしい。

 しかしそこで魔力が尽き、呆気ない人生の幕引きを迎えたそうだ。


 そしてその死後、未練のあった師匠は語り死人に生まれ変わった。

 近くに、自分が歩いて行ける範囲に、自分の魔法の技を伝える魔法使いが現れるまで。

 

「君の気配を感じた時は、これほど嬉しかった事はないね。でも、この楽しい時間ももう少しで終わりだ」


 師匠との秘密の鍛錬は、既に予定の一週間を超えて二週間に達しようとしていた。

 その間俺は、一秒でも長く師匠と居られるように、お昼の弁当まで準備して貰って森に向かっていたのだ。


 多分家族は、俺が狩猟や採集を楽しんでいると思っているのであろうが。


「最後に、特殊な系統魔法である『聖』を教えようと思う」


 『聖』の魔法は、性質的には水に近い物だと本には書かれていた。

 聖職者がアンデット系の魔物を退治する時に必ず使うのだが、厳しい修行を経た聖職者は魔法使いの才能が無くても、この魔法を発動する事ができる。


 神に祈りを捧げながら、アンデット系の魔物には硫酸のような効果を示す聖水を作ったり、胸元の十字架に祈りを捧げてその動きを止めたりと。


 ただ、本当に真面目に修行をしていないと効き目がないそうで、そこまでの厳しい修行に耐える聖職者の存在自体が貴重ではあるらしい。


 教会で偉い、出世競争にばかり感けている枢機卿が碌に聖水すら作れないケースも多々あり、これは世間では公然の秘密になっている。


 あとは、数は少ないが魔法が使える聖職者の存在であろうか。

 

 聖の属性を持つ光線のような魔法を放って呪われた人を治療し、純粋な回復魔法で怪我の治療を行い、教会に所属する戦士の武器に聖の属性を一時的に添付してアンデット系の魔物を倒したり、ゾンビの集団を滅ぼす広範囲に作用する聖光と呼ばれる魔法を使ったりと。


 前世で言うところの、某RPGのような聖魔法が存在しているようなのだ。


「君ならば必ず習得できる。そして修行の卒業試験として私を成仏させて欲しい」


 珍しく師匠は、真剣な表情で俺にお願いをするのであった。

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