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クニトリ物語 作者:マサル
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幕間5 クーヤの手紙~銃造り編~

物事っていうのは、入るときと出るときは簡単なんだ。
子供が障子を突き破って抜けるように、頭と足はすんなり通る。問題は身体が通るかということだ。
あんたが今抱えている悩みや、怒りは、障子の枠にハマった子供と同じだろ。
泣いて諦めるか、枠を壊すかはあんたの勝手だ。


幕間5 クーヤの手紙~銃造り編~


 火薬作りは上手く行ったが、俺は頭を抱えていた。勿論銃に関する事だ。ここでその悩みを整理しよう。

 まず初めに、自動拳銃の夢は諦めた。不可能とは言わないが、なにしろ細かい部品が多すぎる。合金など強固な金属が作られていない現在、小さい金属の耐久性に不安を覚えた。
 それに一からの手作業となるのだ。動作不良や弾詰まり(ジャム)がおきやすい機構は止めておくべきであろう。その考えに至ると、選択できる幅は狭まる。

 結論として、六発式の回転拳銃リボルバーと中折れ式の単発拳銃シングルショットを造る事になった。この二つならば構造がとてもシンプルなので現実的だろう。シンプルだからこそ、堅牢に出来る利点もある。
 銃身の製作は鋳型に金属を流して造ろうと思っているので、今は鋳型の模型となる木を削っている最中だ。父と旅を続けながら、脳内にある設計図通りに鋳型を作成させていく。

 そして俺はその過程で躓いていた。銃身の筒は思いの外に楽だったが、回転弾倉シリンダーの部分を造るのに苦戦しているのだ。何事もトライ&エラーの繰り返しとは理解しているが、中々上手く行かない。

 そんな悶々とした日々を過ごしていたある日、俺は気晴らしに鍛練でもしようと町の外へ向かっていた。左右の腰には刀と短剣。手には夜食として買った串物。闇夜に奏でられる虫の声。月がぽっかりと昇る夜道。その途中の出来事だった。

「……ん?」

 路地裏でけたたましい音がする。硬いものが道に散らばったような、いくつもの音。その音が止むと、それっきり辺りは虫の鳴き声と風の音だけとなる。何事かと、少し路地裏へ足を進めた。

「……うぅ」

 そこに居たのは浮浪者と思える風貌の二人組み。
 そいつ等は路上に捨てられた野良猫のように身を震わせながら路地の壁を背に蹲っている。夜の闇と身体を覆う外套により二人の容姿はぼんやりとしているが、その表情と頭から生える耳を見る限り猫亜人の女性だろう。
 別に珍しくは無い。少し大きな街へ行けば奴隷の商品としてその姿を見かける事がある。
 そう、商品として。二人のように手足に枷も付けられず、町中で見かける事など無かった。枷を外して逃げ出したのか、それともわざわざ人間が住む街へと忍び込んだのか。

「さて、どうしたものか」

 問題は俺がどうしたいか、という所だ。今まで亜人に興味を抱いてこなかったが、互いに身を寄せ合う姿に俺は足を止めてじっと眺めた。
 そのまま立ち去った方が諍いもなく平穏に過ごせる。前の俺ならば真っ先にその選択を選んだはずだ。そう理解しつつも、俺の足は動いてくれない。間違いなくファールト博士達の影響だろう。

「お~い、そこの青年。この辺りに亜人を見なかったか?」

 手を差し出そうか迷っていると、俺の背中側から足音が聞こえてくる。少し移動し、路地裏を背にして二人の姿を覆い隠した。やがて、屈強な男二人がやってくる。

「亜人? さぁ、見なかったが……奴隷が逃げ出したのか?」
「いや、違うぞ」
「ならどうして追っているんだ?」
「何言ってるんだ。商品じゃない亜人が街をうろつく事が問題だろう」

 単純明快で、アホらしい。こいつ等に付き合うつもりはさらさらなかった。
 あまり注視され続けると後ろの様子がばれる可能性が高い。俺は一つ手を打つと、指先を彼等の前へ突きつけてスッと横へずらしていく。

「そう言えば、あっちへ走っていく人影を見かけたな。後ろ姿しか見てないから、亜人かどうか解らないが」
「そうか、すまなかったな。おい、急ぐぞ」

 男達が去っていく。まぁ精々見つからない相手を探して給料を貰ってくれ。
 彼等の後姿を眺めながら俺は懐から皮袋を取り出し、最近吸いなれてきた葉巻に火をつける。港で乾燥させた葉だけ購入し、巻く作業は自分でやっている。長さや太さも自分で調節できるし、なにより安上がりだ。

「ふ~……んで。背中に押し付けてるモノをどけてくれないか?」

 背中に感じる硬い感触。後ろから突き刺さる殺意。
 やれやれ、無闇に手助けするもんじゃないな。助けた者に刃物を向けられるとは。知らない誰かを助ける時は、その者に敵意を向けられる覚悟を持つ事を今度から心がけようか。

「何故……嘘を吐いたんですか?」
「別に、単なる気まぐれさ。捕まりたかったのなら大声で叫んでやるぞ」

 脅されたから二人を庇った訳ではない。刃物が押し付けられたのは男達が去った後の事だ。その庇った者へ刃を向けるのが亜人流の礼儀なのだろうか、なんて馬鹿な事を考える。
 それにしてもおかしい、亜人達との距離はそこそこ離れてたはず。後ろに人の気配も無い。しかし背中に刃物を押し付けられている。気になる。

「そろそろ後ろを振り向いてもいいか?」
「そのまま立ち去りなさい。振り向いたら……貴方は今まで見た事も無い化物を目にしますよ」
「そう、かい――それは楽しみだ」

 刃物が押し込まれないよう、身体を横にずらして振り返る。

「なっ」

 驚いた。彼女達は元居た位置から動いていない。若い亜人が年上の亜人を抱えながらこちらを睨んでいる。もう一人の方は、気を失っているらしい。
 仰天だ。家二件は離れている場所から猫亜人の一人が腕を伸ばしている。いや、この言い方は正しくない。まるで別の生き物のように腕が伸びている。

「…………どうです? 化物を助けた感想は」

 だが、それ以上に感動だ。その切っ先は鈍く輝く金属色をしていた。
 変化における三つの分類。俺の知識の中に有る、知識の中にしか無い、この目で見た事など無い変化の一つ。

「凄いな」
「えっ?」

 本物の錬金術。
 気づけば俺は彼女の肩から伸びる、腕とも剣とも言いがたいそれを触っていた。質感は鉄だ。数年以上鍛冶仕事をしてきたんだから間違えようが無い。

「な、何してるんですか!?」
「おっと、許可無く女性の身体に触れるのは失礼だったな。すまない」

 謝罪したにも関わらず彼女は呆けた顔を返してきた。なんだその見当違いの答えが返ってきた表情は。
 それにしても凄い。この力が有れば、今苦戦している回転弾倉シリンダーの部分が簡単に出来上がるんじゃないか。

「なんで……怖がらないんですか? 腕が伸びてるんですよ? 途中から刃物に変わってるんですよ? 異常ですよね。異様ですよね。気味悪い。気持ち悪い」

 何を言っているんだか解らない。彼女はその力を錬金術と理解していないで使っているのか? ああ、そんな存在を俺は良く知っている。亜人でその存在は初めてお目にかかるが。

「お前がどう思おうが勝手だ。だが俺は、その力は凄いと思う」
「――っ! う、嘘を吐かないで下さい! 人間に何が解るんですか!?」
「俺はほんの少しだけ世界を知っている。詳しく知りたいのなら話そう……が、ここじゃ人目につく。少し移動したい」
「来ないで下さい!!」

 一歩近寄ると拒否の言葉が返ってきた。人間を信じられないのも仕方が無い。だが、何時までも此処にいては捕まるのが目に見えている。

「じゃぁどうするつもりだ? そいつが目を覚ますまで待ってるとでも?」
「貴方に心配されなくても、私一人で母さんは守れます!」
「オイ……強がるなよっ」

 出た言葉は自分でも吃驚するくらい低かった。彼女がビクリと震える。聞き分けの無さに、つい語気に怒りがこもってしまったようだ。

「人を守りながら戦う難しさを理解していないのか。お前の不要なプライドで相手の命を危険に晒すんじゃない。そんなのは自分で殺すのと同じ事だ」
「あ……う……」
「……心配しなくても街の外へ出るだけだ。信じられないなら、さっきみたいに刃物を突きつけながら着いて来ればいい」

 これ以上の譲歩をする気は無い。これでも拒否するようならば後の事はもう知らない。
虫の声が一斉に止み、沈黙だけがその場にあった。相手の反応を待っていると、彼女は一度だけ頷いた。

 気を失った亜人を背負い、俺達は街を抜け出す。
 町中では何かと人目や耳があり、彼女達を探している者も居る。今は人気の無い夜の街道へとやってきた。
 念には念を。道から外れた草木の中へと向かい、葉巻の火で地面に魔方陣を描いていく。魔力を注ぐと土が盛り上がり、即席の土のかまくらが出来上がった。中に入り中央へさらに魔方陣を描いて、火を灯す。

「今……何を……」
「これがお前の力の根源にして基礎中の基礎さ」

 気を失った亜人を横に寝かし、俺は彼女にその力についての説明をする。魔術文字について、魔方陣について、魔素を、魔術を、錬金術を。そして、今まで出会った魔女達について。
 一頻り説明し終えたらかなり時間を要してしまった。折角外へ出る途中に見つけた屋台の串焼きが冷めている。まぁ、火であぶって暖めればいいか。

「嘘……です」

 理解出来ない者にとって、俺の知識は単なる狂言だ。信じられないのも仕方ない。だが彼女は俺の話を理解しているように感じる。解っているからこそ受け入れる事が出来ない。俺はそれを逃げだと思うが、人の生き方に口出しするつもりも無い。

「俺の言葉を信じようが信じまいが勝手にすると良い。受け入れられない事も、そうやって逃げようとする感情も理解はしている」
「だって……この力が…………追い出され……」

 ボソボソと喋り続けるが俺の耳には届いてこない。俺の声もこれ以上は届かないだろう。
 急激に新しい知識を詰め込むのは精神上あまりよろしくない。実際に俺も体験したから良く解る。少し整理する時間が必要だ。

「今日の所はこれで帰るとするか。明日また此処に来る。串焼きの残りは喰ってくれ」
「あ……」

 一本だけ手に持ち、食べながら宿への夜道を歩いていく。
 月を見上げながらぼんやり考える。たまには善行を積むものだな。彼女の力には感動した。錬金術があれば、少々複雑な部品も簡単に出来上がる。滞っていた銃開発に光明が差した。

「あ…………居なくなったりしてないよな」

 ちょっとした危惧。暫く考えた後、月に向かって紫煙を吐き出した。まぁ、また明日様子を見に行ってみよう。俺の予想では、逃げる事は無いだろう。






「昨日の説明だけでは理解も出来ませんし、納得もいっていません」

 翌日、仕事を終えた後に土のかまくらへと訪れると、そこには二人の姿があった。もしかしたら何処かへ移動しているかもと思ったが……やはりこいつ等には行く当てが無いらしい。気絶していた者も目が覚めていたが、衰弱が激しい様子だ。

「ですから、貴方の言っている事が本当か……私の力について納得のいくまで確かめたいと思いました」

 驚いたな。昨晩はあんなにも落ち込んでいたというのに。嫌な部分であろうと、自分を知ろうと前向きな姿勢は好感が持てる。この子は強い子だ。
 うん、良い事だ。恵まれない境遇だろうと、前を向く勇気があるヤツは手助けしたくなる。こちらにはやってもらいたい事もある。代償としてこちらも出来うる限りの手を貸そう。

「それにはまず、互いの自己紹介からだな」

 年上の方がアムという名らしい。俺よりも年上なのだからさん付けした方が良いのだろう。詳しい話を聞くと、住んでいた村では薬剤師を行っていたようだ。アムさんの薬学知識は俺よりも遥かに詳しかった。

 若い方がアムさんの娘であるルーシィ。錬金術という魔女の力を持つ亜人。少し長ったらしいから合わせて魔人という名称を付けておこう。

 ルーシィ達は住んでいた故郷から追い出された。理由は明白。ルーシィが魔女の力を持っていたからだ。
 人間の世界でも嫌悪されるその力。亜人達の狭い世間で、その力を持つ者は邪神として崇められるか、人間以上に異端として扱われるか。彼女は後者だったらしい。

 忌み嫌われ、里から追い出され、食料を求めて人里までやって来たという。
 なら俺から提供出来るモノは決まった。この二人で生きていけるよう、環境を整える手助けをするとしよう。何処まで出来るか分からないが。

「そうか……少しの間になるが、よろしくなルーシィ、アムさん」
「はい、よろしくお願いします。クーヤさん」

 彼女達にこの世の理について説明してみると、思いのほか飲み込みが早かった。分子や原子を理解するのは難解と思っていたが……この親子はかなり賢い。

「一つだけ、聞かせて下さい。何故クーヤさんは私達亜人を……私の力を恐れないのですか?」

 理解が及んだ所で検証に移ろうと思ったら、ルーシィから質問を投げかけられた。
 何度も聞いたような質問だ。魔女の力という特異な力を持つ者は周囲から畏怖の対象として扱われる。俺のように受け入れる者へ不安を抱くのも当然か。

「俺には魔女の友が居て、人間と亜人が一緒に生活している風景を知っている。魔女だから、亜人だからという理由で迫害するつもりはない」
「亜人と人間が……」
「だから俺は、魔女だろうと亜人だろうとまずは人として受け入れていくつもりだ。ま、その後の関係はその人物それぞれ変わるだろうがな」
「そうですか……変な質問して申し訳ありません。クーヤさん、これからよろしくお願いします」
「ああ、それじゃあまずは――」

 その後ルーシィの力について色々検証してみた。結果として、彼女の体外での錬金術が出来ない事と、造り上げた物を切り離せば体重が減る事が解った。質量保存の法則が適応されているのか。あまり大量に物を作らせるのは過酷だろう。
 回転弾倉シリンダーは作ってもらったが、能力の制約が無ければ本来は薬莢部分を大量に作ってもらいたかった。この世界の技術では同一の規格で物を作るという作業が難しいのだ。

 だが、ルーシィの身体の事を考えると無理はさせられない。諦めて他の方法を模索してみると、ルーシィに鋳型を作ってもらう方法を思いついた。彼女の力ならば、同じ形の鋳型を作る事が可能だろう。そしてそれは同一の規格にかなり近い物が出来上がる。

 身体から切り離さなくとも、鋳型の部分に溶けた金属を流せば――と話している最中にはたと気づく。いや、何を言っているんだ俺は。これではどの道彼女を傷つけてしまう。

「いいですよ。神経を通さなければ熱さも痛みも感じませんし」
「いやしかし、鋳型と生身の結合部分が火傷するだろう」
「直ぐに水につければ大丈夫でしょう。それに……私みたいな化物が、忌むべき力が役に立つというなら喜ばしい限りです」
「おい、自分を卑下するような事は止めろ。ルーシィがどんなに否定しようが、俺はその力にとても助けられている」
「……ふふっ、本気で怒ってくれるんですか。案外優しいんですね」
「うるせぇよ」

 心外だ。こちらが一方的に利用する関係が気に入らないだけだ。そこにあるのは偽善でしかない。

「それに…………ぃさんの役に立てるのなら」
「うふふ」

 ボソボソと喋られたので聞き取れなかった。隣に居るアムさんの耳がピクピクと動いて、なにやら嬉しそうだった。
 まぁ、これ以上俺が駄々をこねても仕方が無い。ルーシィが拒否しないのならば存分に甘えさせてもらおう。

「そうそう、これからどう生活するかについて一つ提案があるんだが――」

 その代わりにこちらも彼女達のこれからについて考える。
 俺の提案はアムさんの薬学知識を活用し、薬を作り町へ売りに行く事を勧めてみた。勿論、彼女達亜人が堂々と町中を歩く事は出来ないが、ルーシィには優れた力がある。

 錬金術の力を上手く使えるようになれば、別の人物に変化出来るだろう。所詮人間と亜人の違いなど外見でしか気づかない。
 そう、人間の容姿に変わる事が出来れば、町へアムさんが作った薬を売りにいける。まるで人間の町へ潜入するスパイのようだが、少しずつ慣れていけば問題は無いだろう。

「そんな事……可能なのでしょうか?」
「無機質に変化する方が難しいと思うが……氷を扱う方が得意な魔女も居たからな」

 ああ、そのためにはこんな土の穴じゃなくて普通の家が欲しいな。それに薬を作るための道具も必要か。色々必要になりそうだ。そのための資金はこちらで出す事にしよう。

「お手数をおかけしますクーヤさん」
「気にする必要は無い。むしろ俺はこの出会いに感謝している」
「そういう事をさらっと言うんですね……ぃさんは」

 ルーシィのおかげで銃造りはかなり進んだ。
 省略出来たその分の時間や費用は彼女達への報酬にするべきだ。とりあえずは、ルーシィが人間の容姿へ変化が可能にならなければならない。

「まずはそうだな……俺に化けてみるか」

 ルーシィ達と共に過ごす時間が酷く懐かしい。
 こうやって強大な力の制御を模索し、その使い道を考えるのは何時振りだろう。秘匿されているのか、もう既にこの世に居ないのか。長い事色んな場所へ訪れたが、子供の頃以外魔女という存在に出会ったためしは無い。

 手紙は今でも送っているが、あの時以来エトワールを訪れる機会は無かった。あいつ等はいまどうしているのだろう……今そんな事を考えても意味ない事は解っている。今はルーシィの力を伸ばす事が先決だ。

「それじゃ今日は街へ行ってみるとするか」

 ルーシィが人間に化けるのを上手く出来るようになった。
 俺の顔をベースに人間の女性へと化けたルーシィ。その手にはアムさんが作った薬を持っている。これから人間の振舞いを学ぶためにルーシィと町中を歩き、ついでに薬を取り扱う場所を案内する予定だ。

「はい、よろしくお願いします。兄さん」
「……兄さん?」
「あっ……い、いえ、違うんです。これは、その、ですね。そういう意味では無くて……」
「うふふふふ」

 慌てふためくルーシィを眺めながら、暫し思考の凍結。ルーシィの意図する所がよく解らない。解りはしないが、アムさんの物凄く嬉しそうな笑顔がなんだか酌に触った。

「兄と呼んだのは、ですね……そう! 役作りです。今から人間の街へと訪れるんです。それなら私達の関係も決めておかなければなりません。むしろ決めておかなければ会話がギクシャクとしてしまいます。それ以上に深い意味はありません」
「なるほど、確かにそうだな」

 俺の顔をベースとしているのだ。何か聞かれた場合、血族関係の方がしっくり来るだろう。そう言い訳をし、自分を納得させる。

 しかし父と呼ばれたり兄と呼ばれたり。いつの間にやら家族が増えているな。家族か。人は何か繋がりがある事で安心するのかもしれない。

 そのルーシィの家族であるアムさんはため息を吐きながら、なんだか失望した視線を俺に向けていた。そんな目で見るなよ。こちらもなんとなく解ってはいるんだ。
 だがルーシィが必死に搾り出した可愛い嘘なんだ。指摘する方が無粋でしかない。知らないふりをするのが思いやりってもんだろう。

 その日の夜。ルーシィを家に送り届けてから俺は、町中で見かけた亜人の奴隷達を思い返していた。その場で交わした会話が鮮明に思い出せる。

「あの人達は助ける事は出来ないのですか……」
「悪いが俺は神じゃない。あいつ等を解放できるような、力も金も暇も無い」
「人間と……亜人や魔女が普通に暮らせる場所は無いのでしょうか」
「各地を巡ってきたが、そんな所何処にも見当たらなかったな」

 あの亜人達も元は故郷が有っただろう。それが今や奴隷という身分に陥り、単なる商品として売られていく。

 ……故郷か。そもそも俺には故郷が無い。そもそも故郷とは一体どんな所なのだろう。気の許せる者達が集る共通の場所? 昔育った場所? 忘れる事が出来ない場所? どれもが正解のようで、そしてそのどれも俺には無い。

「故郷……ねぇ」

 一つため息を吐く。答えの出ない問答を切り上げ、止まっていた手を動かす。

 銃を作るのに必要な部品は全てそろった。頼りない明かりの下、後ろで眠る父を起こさないように作業をこなしていく。
 ルーシィに造ってもらった部品や、鋳型から造り上げてきた部品をかき集め脳内にある設計図を元に組み立てる。少し寸法がずれていた部分はヤスリをかけ、ピタリとはまるよう形を整えながら銃造りは進んでいった。

 加えて弾丸を作る作業も行う。
 金属で包んだ雷汞――雷管を薬莢の底へ取り付け、中の空洞へ黒色火薬を詰めていく。先端に弾頭を乗せ、弾丸組み立て用に少々改良した万力で押し込んで蓋をした。間違って発火しないよう、一つ一つ慎重に組み立てる。

「できた……な」

 朝日が昇る頃には目の前に無数の弾丸と、二丁の拳銃が仕上がった。正常に動くか動作を確認しつつ両手で構えてみる……うん、動作に申し分は無い。
 構想から数年、やっとの思いで造りあげた銃は自分が思っていた以上に綺麗に仕上がった。ただ、何か腑に落ちない感情だけが俺を取り巻く。

 あんなにも苦戦し、ルーシィの力を借りて造りあげたというのに……刀を造った時ほどの歓喜は沸いてこなかった。火薬作りをしていた時の感動は何処へいったのだろうか。
 上手く表現出来ないが、手を出してはいけない領域へ足を踏み入れた感覚だ。

 そもそも俺は、何故誰も知らぬ武器を手にしたいと思っていたのか。遠距離武器を手にしたかった? 先生が扱っていた得物だから? 知識を晒したかったのか? それを形にしたいと思ったのか?

「……どれも違う気がする」

 とりあえず念願だった銃を造り終えたんだ。今は素直に喜んでおこう。今日の仕事は早めに切り上げ、実射して性能を確認する予定を立てる。脳には黒い霧がかかったように、何時までも釈然としない感情がずっと渦巻いていたけれど……。

 父がまた移動すると言っている。ルーシィ達の生活が軌道に乗ってきた頃、俺は彼女達と別れを告げて父と共に発った。

 その父は最近、痩せたように見える。少し体調もよく無さそうだ。あまり無理をしないように進言するが、何かに取り憑かれたみたいな鬼気迫る表情を返された。俺もそれ以上は何も言えないまま、小さく見えるその後ろ姿を見つめるしかなかった。

 向かった先はアルトが住む港町。旅の中では珍しく三度目の訪問となる。物流が豊富な港町では何かと入り用なものが手に入るからよく立ち寄る。丁度良い、葉巻のストックも切れてきたんだ。
アルトやファールト博士の様子も伺おう。彼等の顔を見ればこの胸の中で渦巻く靄も晴れるかもしれない。

 数年ぶりに訪れたが、相変わらずの風景で懐かしい感覚が蘇る。
 しかし、その郷愁に近い感情を見事にぶち壊す雰囲気が街中に蔓延していた。皆が皆、殺気立ってピリピリとした空気がなにやら不穏だ。一体どうしたのだろうか。

 宿屋に着いた後、俺はアルトを探すために彼のいきつけの酒場へと向かった。カウベルが音を響かせ、カウンターの一席へと腰をかける。アルトの姿は無かった。昼間というのもあるが、室内はやけに物静かだ。

「……らっしゃい。注文は?」
「定食一つ、それと訊ねたい事がある」
「……なんだい?」
「なんだか街の中がせわしないが、何かあったのか?」
「ふんっ、たちの悪い盗賊が暴れているんだよ。結構前から噂は聞いちゃいたが、最近は特に酷いよ。こっちも商売あがったりだね」
「なるほどな……それとアルトという青年が此処の常連だったが、今でもよく来るのか?」

 店主が持っていたカップが手から滑り落ちる。ガラスが砕ける音が店内に響いた。音に驚いて店主を見上げると、俺以上にその人物は顔を強張らせていた。
 店主の身体が震えている。動揺が見て取れた。まるで化物を目にしたような脅え振りだ。

「あ、あんた……あいつ等の仲間かい!?」
「いや……よく解らないが、アルトと一度此処に来た事が――」
「よしとくれ! 今はその名前を聞きたくないよ!」

 癇癪を起こした店主にそれ以上対応出来ず、俺は店内から逃げ出した。一体どういう事だ。店主は何故あんなにも恐れていた。解らない。
 …………いや、店主との会話を思いだすとうっすら浮かび上がってくる解答。確信は持てない単なる想像だ。だが、真実に近い予想。嫌な予感がする。

 俺はその場から駆け出した。俺の取り越し苦労なのだと考えて。たちの悪い杞憂だと信じて。ちょっとした思い違いである事を願って。
 それが解りきった答えであると、否定し続けながら。






「あ~~、だっりぃなぁ。見張りなんて退屈すぎんだろうがよぉ」
「黙って見張りを続けろ。それに最近俺達に討伐命令が出たって噂だ」
「へっ、馬もろくに走れない天然要塞だぜ? 一体誰が来るっていうんだ?」
「しかも、お頭に懸賞金が付いたらしい。無謀な冒険者が狙いに来るかもしれんだろ」
「おいおい、頭はあの呪われし魔女様だぜぇ? 誰が敵うっていうんだ?」
「だから楽観するなと……もういい、黙って見張りを続けろ」
「へいへ~い……しっかし暇だな。こんな暗闇を見つめて何しろってんだよ。お前もそう思わないか? なぁ?」
「…………」
「ちっ、小言の次は無視ですかい。あ~、はいはい偉いですねぇ。見張りなんてつまんねぇ役割で、しかもツレがこんな無愛想なヤツとは俺もついてねぇ」
「………………」
「おい、多少は何か反応しやが――」
「――ガ、ガカ――ゴブッ」
「えっ……おい、な、何でお前首から血が――ムグッ!」

 もう一人の見張りの背後へと回り、先程と同じよう首筋を掻っ切る。口を塞いだおかげで悲鳴が漏れる事は無かった。息絶えた盗賊をその場に放り捨て、俺は彼等のねぐらへと忍び込む。

 街で盗賊の情報を集めた俺は儚い願望が砕け散り、真相を確信すると数日をかけて準備を進めた。
 犯行地点、姿を眩ませた場所、そこそこの人数が隠れられそうな地形。それぞれの情報を加味して見つけたこの場所。昼間このアジトを発見し、半日かけて見張りの配置などを確認した。
 盗賊の頭に会うには犯行現場へ罠を張る方が良いと思ったが、そいつと対峙して話をしたいという我侭により潜入という強行へ至った。

「何やってんだあいつは!」

 途中の部屋で寛いでいた者を恐喝し、頭の部屋を聞き出した。足音を殺しながらその場所へと向かう――廊下の奥に人の気配。角で立ち止まり、息を殺して迎え打つ。
 爪先、指先、鼻先が角から出た時点で頭の位置、そして首筋の場所を予想して飛び出した。暗い廊下に血飛沫が落ちる音だけ聞こえる。物音を立てないよう床へ降ろし、先を急ぐ。

 相変わらず人を殺す事に慣れない。
 こいつ等の報いだと自分を誤魔化しても、自らの手で人を殺した事実と感触は残る。血を拭っても、罪悪感は拭えるものではない。だがこうしないとあいつの下へと辿り着けない。一生向き合い続けるモノとなろうと、俺は甘んじて受けよう。

「――誰だ」

 一際大きな扉を開けると、そこには月の光を頼りに外を眺める一人の人物が居た。途中で見かけたどの部屋よりも広く、豪華な装飾品に囲まれるその空間。壁際に立つその人物は、窓に映るその瞳で俺を射抜く。

「…………ああ、なんだ。クーヤか」
「――アル、ト?」

 誰だこいつ? 本気でそう思った。
 外見にそれほど違いは無かったが、前に会った時とはまるで違う。振り返った彼の頬は少し痩せ、危うい雰囲気を纏っている。特に目の色が異様だった。

「久しぶりだ。ってか、よく此処まで来れたな。見張りの奴らに止められなかったか?」
「……仕事の疲れが溜まってたんだろう。ぐっすりと眠っていたぞ。途中で合うヤツ皆、な」
「……ハッ。おいおいひでぇな。目に付くヤツ全部ぶっ殺してきたのか」
「なに、お前達がしてきた事に比べりゃ些細な事さ」
「子供の頃一緒に追い払ったヤツ等が居ただろ。下僕の中にはそいつ等も居たんだぜ。長い間つるんできたヤツが亡くなるとは、ああ、心が痛いね」

 あいつ等本当に賊に成り下がったのか……笑えない冗談だ。

「んで、ご苦労にも忍び込んでまでクーヤは何をしに?」
「アルト……お前何やってんだよ」
「はぁ? なんだそりゃ? そんな事聞くためだけに来たんじゃねぇよな」
「なぜ賊に成り下がった。力を行使してまで」
「おいおいマジかよ。クーヤ、お前馬鹿じゃねぇの?」
「答えろ、アルト」

 アルトは肩を竦めて冷たいため息を吐いた。

「俺は力を持ってんだぜ、その力を活用しようと思うのは当たり前だと思わねぇか?」
「…………」
「活用っても魔女じゃ兵士にゃなれねぇ、となると賊になるのが当たり前」
「隠して生きれば――」
「ざけんなっ!! お前に何が解る!」

 怒鳴り声が部屋に響く。アルトの怒りは最もだ。なるべく隠すよう警告した俺でさえ、誘惑に負けて刀と銃を造り上げた。誰も知らない、誰も持っていない知識や力を隠して生きられるほど、人は強くない。

「クーヤは良いよな。平凡な人間だ。何も持っちゃいねぇ……俺の中にある力がずっと囁いてんだよ、使え、使え、使え、使えってな。何の力も持たないお前に何が解んだ!」

 俺には刀や銃といった閉じ込めるアイテムがあったが、アルトにはルーシィのように生活での活用方法が見つからなかった。そして力に翻弄され、力に溺れ、現状に至ったのだろう。
 同情するべきなのかもしれない。だが、アルトが犯した罪は許容出来ない。罪を犯した者には罰を。それが人という集合体に定められたルールだ。

「アルト、お前は罪を償おうとは思わないか?」
「償う? どうやって? 兵士に捕まりゃ俺は磔の上に死刑だ。クーヤは俺に死ねと言ってるのか?」
「だよな……馬鹿な事を言った。アルトをさらし者にする気は無い。お前は、俺がこの手で止める」
「ハハッ、んだよそれ。つまり俺を殺しに来たってことかい?」
「力に溺れた今のお前を、見ていられない」
「素直に言えよ、クーヤ。お前は昔からそうだったな。立場の弱い者を助けて自己満足に浸る、最高に! 最低な! 偽善者だ!」
「俺にそんな高尚な考えは無い。俺にとっての価値観は興味が有るか無いかだ」
「それが偽善だってんだよっ!」

 そうかもしれない。だが、この世の善意など何かと理由を取ってつければ全て偽善に成り代わる。そのまた逆も然り。善意と偽善の違いが理解出来ない程に、アルトは過酷な日々を送ってきたのだろう。

 自作の葉巻を一本取り出し、火をつける。紫煙を吐き出し、頭のスイッチを戦闘体勢へと切り替えた。

「無意味な問答は終いだ。お前の暴走は俺が止める」
「来いよクーヤ! 俺を殺してみろよ!!」

 刀の柄に手をかけて構えると、アルトの足元から槍のように鋭い影が数本飛び出し俺に襲い掛かる。

「闇は俺の領域だぁ!!」

 月明かりのみの薄暗い闇の中ではアルトの力に対して不利だ。視認しにくい影に対し机を蹴り上げ、棚を倒して盾にする。隙間から這い出てくる影の穂先は殺意を頼りに紙一重でかわしていった。

「少し明かりを灯させてもらう」

 影の槍を避けながらの詠唱。狙いは定めていない。とにかく多く、可能な限り長く火の下級魔術を行使する。火は部屋の木材や布に引火し、煙を巻き上げた。

「それがどうしたぁ、俺からも丸見えだ!」

 標的をはっきりと見つけた影の槍はさらに本数を増やし、俺の命を狙って迫り来る。俺はその力の使い方に軽くため息を吐き出した。

 日々の訓練を欠かした事など無い。
 相手がどんな力を使ってこようと、基礎が出来てなければ何の意味も無い。相手の目線、仕草、機微。そして特に濃厚な殺意。それらを隠そうともしない力任せの暴力が俺に当たる事は無い。
 避けられるものは避け、不可能なものは刀と短剣の二刀で捌いていく。

「くそっ、いい加減当たれってんだよ!」

 当たる事は無い、しかしこちらから近寄る事も出来なかった。流石に力を扱い続けただけの事はある。力の使い方が上手い。接近できる隙が全然見当たらなかった。
 見え難い風の魔術を放っても影がアルトの身を覆い守った。敵を近寄らせないような使い方、そして魔術に対する防御も備えている。魔術師への対策も完璧か。これは苦戦を強いられるはずだ。

「めんどくせぇ、ちょこまかと逃げてんじゃねぇぞ!」
「ちっ、これは不味いな」

 均衡に焦れたアルトが防御に使っていた影すらも攻撃に回してくる。避けるのも捌くのも徐々に間に合わなくなり、衣服は破れ肉が裂ける。
 だがこれは俺にとっても巡ってきた好機。俺はとっさに両手の武器を手放し、腰の後ろへと手を伸ばす。

「くたばれぁ!」

 怒号と轟音が交差する。
 室内に雷が走ったかのような閃光と、衝撃として自分の身体を叩く音の波。俺の右手には単発式の拳銃であるコンテンダー。その先端からは煙が立ち上る。俺の左手には同様に煙が立つ葉巻を握っていた。

 俺は魔力が少ない事を十分理解している。だからこそ、その役割はすでに決まっていた。攻撃へ繋げるための牽制、回避へ繋げるための牽制、そして防御そのものだ。

 アルトから放たれたクレイモアの爆発を感じさせる影の雨。そのほとんどは横に逸れ、後ろの壁に突き刺さっている。俺の目の前には結界の濃縮版である障壁が展開されていた。
 ただ、引き金を引くのに気をとられ、障壁の展開が少々遅れた。俺のわき腹には熱した棒を押し付けたような痛みが走っている。腹筋に力を込め状態を診断――大丈夫だ、行動に支障は無い。

「んだよこれ……なんなんだよこれは!?」

 壁を支えに起き上がるアルトの体。
 その腹に小さく開いた穴。その中心から服へとシミを広げていく紅い液体。アルトはそこを撫で回し、血の付いた掌を両目で見開いて呆然としていた。

「――クーヤアアアアアアアアアアアアア!!!」

 アルトが吼える。彼に生まれる激しい動揺。訳の分からない傷に気が逸れたのか周囲を覆っていた影が霧散していく。今の期を逃すべきでは無い。
 足に力を込め、走り出す。床に転がっていた刀を拾い、左手を腰に挿した回転式の拳銃を掴み取る。

 炎に揺らめく俺達の影。その二つが重なるまでに、六発の銃声と無数の影は交じり合い、反発し合い、壁へと吸い込まれていく。
 影が重なる瞬間、アルトが腰に携えた短剣と俺の刀が交差した。






 部屋の中には炎が燃え盛る音だけが聞こえてくる。そして部屋の外からは扉を叩く音と大勢の人の気配。部屋に入る時に鍵をかけ、強化魔術を施している。幾ら蹴破ろうとしても直ぐに壊れる事は無い。

「裏切り者……」

 刀身を伝い、アルトの血液が俺の手を汚していく。
 がたいが良くなろうとも、どんなに力が強くなろうとも、こいつは力に溺れて基礎を疎かにした。俺達の間における勝敗の差など、それっぽっちの事だ。

「裏切り者裏切り者裏切り者うらぎりもの――ウラギリギモノ」
「……悪い」
「どうすりゃよかったんだよ――この世は俺のような魔女の存在を認めてない。どうすりゃ良かったんだよ!!」
「……そうだな」
「解ってる、解ってるよ! 人を傷つける者は傷つけられる覚悟をしろとお前は言った……でも、仕方がないじゃないか……どんなに穏便に済ませようとも、他のヤツは魔女を怖がるんだ――どうすれば良かったんだよ!」

 血の混じった咳を繰り返しながらアルトは恨み言を呟いていく。俺はただ、彼の訴えを黙って聞くしかなかった。

「こんな力……欲しくもなかった」

 力は自身の一部だ。持っている物はしょうがない。俺からしたら羨ましい限りだったが、今となっては強大過ぎる力を持つ者が不憫でならない。
 俺にはそんな特別な力なんて持っていないが、無いからと言って途方に暮れるつもりもない。俺はただ、自分に出来る事をやるだけだ。

 ああ、だからこそ……か。
 自分の持ってる知識を吐き出したいだけじゃない。強力な、特別な力を持っていないからこそ、俺は道具で補おうとしていたんだ。俺が何故刀や銃に執着していたのか、その本当の理由が今解った。
 造り終え、使ってから本心を理解するとは……俺はどれだけ劣等感に苛まれていたんだろう。馬鹿らしい。

「人間の弱さを、許して欲しい」
「まったく、人間ほど弱い生き物を俺は知らない」

 アルトが愚痴を零した。口角から血が一筋流れ、雫が床に一滴落ちる。あれほど激しかった鼓動が、段々と弱まっていくのが伝わってきた。

「一つだけ……頼みがある」
「なんだ?」
「俺のようなヤツをこれ以上増やさないで欲しい」
「……解った」
「出来ればそいつらの居場所を与えてやってくれ……ハッ、言ってて無理ありすぎだろ」
「そうだな。だが、やる価値はあるだろう」
「……クーヤになら出来そうな気はするけどな」
「あまり期待するなよ」

 ハハッと彼は笑った。俺を恨んでくれてもいいのに笑顔を向けるなんて……お前も間違っていた事は十分承知だったんだな。

「あばよ……親友」

 アルトは震える手を持ち上げ、俺もそれに習って掌を掲げる。

「それじゃな、親友」

 パシンッ、という乾いた音が俺の鼓膜を震わせた。手に伝わっていた鼓動が途切れる。彼が息絶える感触。

 俺は、

 友と呼んでいた者を、

 この手で、

 殺してしまった。






 その後の事はよく覚えていない。
 ドアを叩く盗賊達の怒声に身体は反応し、部屋のカーテンを命綱に窓を蹴破って外へ飛び出した気がする。目が覚めればそこは泊まっていた宿の天井が視界に映っていた。

 それから数ヶ月後、アルトに続いて父も亡くなった。
 先生の中の記憶にはいくつもの死という場面が残されている。今更、涙を流すような感情は出てこない。だが、やはり肉親が亡くなるというのはどうにも押さえられない感情がある。

 これからどうするかと空を見上げながらぼんやりと考えてみると、各街で出会った魔女や亜人の顔が浮かんできた。怒涛の日々が続いていたため、最近あいつ等にも手紙を出していない事に気づく。とりあえず、鍛冶屋兼鉱石商人として生活を成り立たせながら会いに行くか。どうするかはその後考えよう。

 そして俺は歩き出す。
 魔女だろうと亜人だろうと人として受け入れる場所を探すため。世界にとって大きな歯車である魔女達の間に立ち、上手く回る場所を望んで。

 アルトの遺言を叶える場所を求めて。

 自分にとっての故郷を、見つけるために――


「さて、やっと過去編が終わったが、何か感想は?」
「もうちょっと掘り下げて、描写を細かく書きたかった……と言っているな」
「三編に分けてるのに? 一体どんだけになるつもりだったのよ」
「今回長くなった一番の要因は……俺が故郷を造ろうと思い立つ理由を加えた事だろう」
「当初は単なるエルフと自称錬金術師とルーシィの出会い程度のものだったからな」
「今回の教訓は、無理に話を付け加えるな、という事だ」
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