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クニトリ物語 作者:マサル
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第十六話 食料危機



第十六話 食料危機


「クーヤ朝だぞ。早く起きるんだ」
「あっさよ~、とっとと起きなっ――さい!」

 体をゆさゆさ揺らされる感覚にクーヤの意識は覚醒した。勢いよく掛け布団が剥ぎ取られ、肌寒い空気が全身を襲い一気に目が覚める。秋も深まり、気温も段々と下がり始めている早朝の気候に季節を感じた。
 頭の片隅に残る眠気を欠伸と共に吐き出し、クーヤは体を起こして腕を伸ばした。体の至る所でぱきぽきと音がする。

 どうやら久しぶりに熟睡できたようだ。
 長いこと野宿生活を続けてきたが、中々慣れるものではない。壁や屋根がある場所で寝るというのはやはり落ち着けるものだ。そんな安心感を改めて認識した朝だった。



 昨日の残り物で朝食を済まし、囲炉裏を前に三人が輪になって食後の茶をすする。茶葉が切れたら白湯になるかな、と少し暗い未来を想像しつつ彼女達に仕事の進み具合を聞いてみた。

「アリス伐採状況はどんな感じだ?」
「ラビに手伝ってもらったおかげで、川までの道を広く作れたぞ。これからどうしたらいい?」
「そうだな……ラビ畑の様子は?」
「順調よ。さっき様子を見に行ったらもう芽が出てたわ。ただ……収穫が早いものでもまだ一月以上かかるでしょうね」
「アリス食料の残りは?」
「もって2、3週間と言ったところか」
「ふむ……」

 クーヤは茶で唇を湿らせながら、思案にふける。
 このまま行けば1週間以上は水と魚の生活になってしまう。川魚も何時まで獲れるかも分からず、それ以上に畑の作物もどの程度収穫が見込めるか確証が持てない。

 とりあえずの目標は食料の確保が最優先だろう。

「ラビは今まで通り畑の耕作と炭作りを頼む」
「ん、やっとくわ」
「アリスは周囲の探索に加わって欲しい。此処から西側の地域だな。今まで書いた地図を渡しておくからそれを参考としてくれ」
「うん、わかった」

 森の中に建てられたクーヤ達の拠点から東側の奥に川が流れている。南に行けば海があり、西側は家を造る前にクーヤが探索した場所だ。書きかけの地図を手渡し、続きの製作を頼んでおく。

「俺は川向こうの東側を探索してみる。ちょっと遠くまで足を延ばしてみるつもりだ。何かあった時の為に魔力を残したいから、結界をラビ用に変えておくぞ」
「りょうかーい」
「よし、それじゃ作業開始だ」

 これからの予定が決まり、三人はそれぞれの目的を達成すべく行動を開始した。




 別々に行動した彼等が再び合流したのは昼をとっくに過ぎ、夕方に差しかかろうとしていた頃だった。

「あ、お帰り~。どうだった……って聞くまでもなさそうね」

 アリスが西側の森から帰ってくるが、その表情は暗く沈んでいる。

「なんなんだ此処は……見た事の無い果実や茸ばかりだったぞ!」
「あー、食べられそうになかった?」
「わからない。もしかしたら食べられるかもしれないが、毒があるかもしれない危険性があるからな。ラビの方は何か変わったこと無かったか?」

 人差し指を頬に当て、空を見上げながら今日の様子を思い出す。指を折りながら今日の出来事を一つづつ話していった。

「畑は今のところ順調。土の性質がいいからかしらね、元気よく育ってるわよ。
 炭作りも結構慣れてきたわ。空気が入らないように炎で囲むのに結構気を使うけど、一月分くらいは出来たんじゃないかしら。
 あ、そうそう時々魔獣達もやってきたわね。近づいて来た魔獣は結界を越えようとしたら燃え上がったけど。新しい結界は越えたら炎に包まれるみたい」
「結界というよりも罠だなそれは。まぁ特に何も無かったか」
「そうね。いつも通りよ」
「普段通りだな」

 川から離れているとはいえ、此処にも魔獣はやってくる。数は散発的だが、姿を表さない日はあまりない。アリスも道すがら何度か遭遇したが、数は多くなかったので対処は難しくなかった。
 クーヤの言ったとおり魔獣の住みかは近くに無さそうだったが、住みかを作らず単独で行動している魔獣はそれなりに居るようだ。

「ただいま」
「クーヤお帰り~」
「お帰り。そっちはどうだった?」
「正直……やばいかもしれん……」

 クーヤは探索の結果を二人に話した。
 一般的な獣の姿も発見できず、木に生った果実はクーヤでも初めて見るものばかりだった。獣が見つからないのは魔獣によって喰い荒らされた結果によるものだろう。辛うじて薬草は見つけてきたが、これも成分が変化しているかもしれない可能性がある。

 ここの生態系は狂っていると、クーヤは森の様子を伝えた。

「そんなぁ。食料も少なくなってきたのに」
「いっそ魔獣でも食べるか?」
「止めておけ。普通の獣でも肉食のヤツは筋ばかりで旨くもないが、魔獣はさらに高濃度の魔素汚染がある」
「魔素汚染?」
「瘴気、妖気とも呼ばれるものだ。俺も詳しく調べたわけじゃないが、毒性をもった魔素といったところだな」

 獣と魔獣の違いはその姿もさることながら、その体に汚染されたオドを内包しているところにある。魔獣の中でも知力の高いものはその汚染したオドを使って魔術を行使する種族もいる事も相違の一つだ。

 どのように汚染されているかは定かでは無い。一説には妬み恨みがマナを狂わせて変質してしまったと伝えられる。

 また聖十字教会では、汚染されたマナによりただの獣が魔獣へと変わり果てたとも記されている。

 噂ではあるが、魔獣を食べた者は身を裂かれるような激しい痛みが全身を襲い、精神を破壊され発狂し、目や口から血を撒き散らして事切れたという話しもあった。

 此処の植物も魔獣から放たれる汚染されたオドによる影響を受けて変質してしまったのだろう。草や木は生命力が高いため影響は少ないが、果実や茸といったものは気候や環境による変化が顕著に出る。

「じゃぁ、どうするの?畑の野菜は収穫にはまだかかるし、魚も獲り過ぎたらすぐいなくなっちゃうわよ」
「……影響のなさそうな虫ならいたな」
「それだけは、い・や!」

 体の前で手を交差しバツ印を描いて拒否をした。

「好き嫌いは良くないな、貴重なタンパク源になるんだぞ」
「……食べた事あるのか?」
「そりゃあ、世界を回ってきたからな。道中食料が無くなった時には世話になったぞ。虫を主食にしている地域も結構ある」
「うえ~~」
「俺も好んで食べる事はしないが……ま、いざとなったらだ」

 囲炉裏を前に夕食を取っていると、明日は私も探索に加わる!とラビが声を荒げていた。
 どうしても虫を食べる事は拒否したいらしい。
 クーヤは森を出ない程度に北上して探索するように言葉を伝えておいた。




「さて、今日はどうだった?」

 夕刻間近に3人は拠点へと戻ってきて、それぞれの成果を報告しあった。

「木の上から周囲を見てみたが――」

 アリスの報告はこうだ。

 巨大な氷を足場にして木の背丈よりも高い位置から周囲を見回してみたが、西側の森はずっと続いているとの事。ある程度進むと小高い丘があり、その先はまだ探索していないようだ。

 ただ気になる事が、その丘の向こう側に数多くの気配を感じたと言っている。もしかしたら魔獣の住みかがあるかもしれない、という情報をクーヤは大雑把な地図の方にその場所を書き込んでいった。

「ふむ。ラビは?」
「ん~、森の出口近くなら普通の獣も居るみたい。魔獣に食べられた死骸があったわ」

 ラビの報告も後に続く。

 彼女は此処に来るまでの道のりを少し外れて周囲の調査を行っていた。海を眺めた丘の周囲は探索せず、ひたすら平原や森の中の平地を駆け回ったようだ。
 傾斜のある場所を避ける事により探索の範囲を広げる様子から、それ程までに虫を食べたくないのかとクーヤは呆れていた。

「北に行けば獣がいるらしいというのは朗報だな。しかしあまり良い状況とはいえないが……」
「最悪上等だ。後は這い上がるだけでいい」
「……クーヤってローテンションなのに前向きねぇ」
「前向きでなきゃ、やってられん」

 ガサゴソとクーヤは今日の成果を彼女達の目の前に差し出す。

「そんな悪条件な状況から一歩踏み出す事にしよう」

 ラビ達に見た事の無い果実に目を丸くして眺めた。数種類の果実や木の実が彼女達の前に置かれていく。

「……何それ?って聞くまでも無さそうだけど」
「不思議な木の実だ。味も食べ方も、喰えるかどうかもわからん」
「おい……それをどうする気だ?――まさか」
「これを喰ってみよう」

 信じられない様子でクーヤに視線を合わせる。彼女達はクーヤの正気を疑った。

「何考えてるんだ!止めておけ!」
「そうよ!それにクーヤが言ったんじゃない。此処の果実は魔素汚染されてるって!」
「心配するな。植物の魔素汚染はそれ程強い物でもない。まぁ気になるからとりあえず浄化の魔術を使って消毒してみるがな」

 魔獣のように濃い魔素汚染はこの果実からは感じられない。魔獣を浄化する事は無理だが、自分の魔力でもこの程度の浄化なら出来る。と彼女達に話すが、あまり納得がいっていないようだった。

「それでも毒があるかもしれないだろ?」
「そうだな……味見役は俺がやる。毒があった場合に備えてアリスには胃洗浄のやり方を、ラビには活性炭の作り方を教えておく」

 確かな解毒剤が無い場合でも対処法は存在する。
 毒物の摂取に関する治療法として胃洗浄と活性炭の経口投与を彼女達に説明した。本当に効果が有るかは分からないが、クーヤが教える事だからまったく意味が無いとは思えなかったので真剣に聞く。

「それじゃまず、この木の実からだな」

 魔術を使い、魔素汚染を浄化したラズベリーのような木の実を口に放り込んでみる。
 彼女達は恐る恐るといった感じでクーヤの様子を伺った。

「ど、どうだ?」

 アリスの質問にうんっと頷いてその木の実の感想を伝える。クーヤの顔がくしゃと歪んだ。

「渋い、まずい、喰えたもんじゃない」

 隣に置いておいた桶に口の中のものを吐き出す。
 色鮮やかなその木の実は染料としては使えそうだが、食用には適さないものだった。

 渋みで口の中が狭まる嫌な感覚を消すために淹れた茶で口を漱ぎながら、今度はりんごのような果実に手を伸ばす。口に含んで咀嚼しながら味を確かめ、飲み込んだ。
 クーヤの様子を心配した面持ちで尋ねてみる。

「そ、それはどう?」

 再びうんっ、と頷いた後顔を真っ青にしながら倒れ込んだ。
 ラビとアリスの悲鳴を聞きながら、息も絶え絶えな様子でその果実の感想を二人に伝えた。

「こ、これは毒――ぐふっ」
「きゃーー!アリス早く洗浄してあげて!」
「ラビも活性炭を水と混ぜておいてくれ!」

 毒物を体内に入れた場合、治療法として現代でも使われる手法は胃洗浄と活性炭の経口投与だ。

 活性炭とは炭化したものを賦活という反応操作で多数の微細孔を生成したもの。賦活とは炭化した原料を水蒸気、空気などのガスを700~1000℃の温度で反応させ細かい孔を開ける作業だ。
 活性炭を経口投与する事でその微細孔に毒物が吸着し、体内の毒物濃度を下げる効果がある。口当たりはまるで砂を飲むような感じではあるが。

 また、この活性炭には浄水、下水処理、脱臭、脱色等にも用いられる。不純な物質を吸着し除去する目的として現在でも多く使用されているものだ。

「あー、死ぬかと思った」
「心配かけるな!このクーヤのアホ!」
「うん、あれだ。果実は最後の手段だ。餓死直前までもう試したくない」
「自決手段としか思えないがな」
「それでこそ最終手段だな」
「上手くない、上手くないから。絶対突っ込んでやらないから」
「だが結局、状況は変わらずじまいか」
「なぁに、まだ別の手段がある」
「……どんな?」
「やっぱ虫だな」
「それだけは、いっ、やーーーーーーー!」

 心からの叫び声は森の中まで響き渡った。
 残りの果実はもう試す気が無くなり、それから数日間クーヤは時折訪れる激しい腹痛に悩まされるのであった。




 ガサガサと森の中を歩み、今日も探索は行われた。

「あ~、やっぱ見つからねぇな」

 探索の範囲をどんどん広げて行くが、食料となるようなものは未だ発見出来ていない。よく分からない木の実等はそこらに生っているが、腹をさすり視界から消し去っている。

 今は果実を見ただけでも数日前の悪夢が蘇る。クーヤは心と腹に深い傷を負っていた。

「やっぱ、虫でも喰うかね」

 ラビは嫌がるだろうが、空腹になったら手を出すかもしれない。帰るついでに獲っていくのもいいだろう。
 そんな事を考えながら歩いていると、ふと視界の隅に見覚えのある輪郭があった。

「お!あれは――」

 草葉の間から長い耳が見える。兎だ。
 この森に入ってから初めてまともに見る獲物の姿に、クーヤは興奮する心を落ち着かせ、慎重に近寄って行った。気配を消し、足音を殺し、ゆらりゆらりと距離をつめる。

 視線の先には兎の耳。
 そして目の前まで近づいたその耳を、目にも止まらぬ速さで掴み取った。
 暴れるかと思ったが、抵抗が無い。不思議に思い、耳の付け根からその下を眺めていく。

「……これは喰えるのか?」

 クーヤが捕まえた耳の先には、気を失った兎型の亜人がそこに居た。



「ただいま」
「お帰り。随分大きな得物を獲ってきたな」
「やったー!!にく~~!」
「……ああ、これってやっぱり喰えるのか」
「んなわけあるか!」
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