挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
クニトリ物語 作者:マサル
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

14/47

第十三話 縄張り主張


「それで、これからどうするんだ?」

 アリスが荷台に積んでいた大根にシャクリと歯を立てた。
 彼等は今、馬車を背に昼食をとっている。クーヤが空のカップをアリスに突き出せば、すかさずアリスは力を使いカップの中に水が満たされる。アリスから受け取った水で喉を潤し、クーヤは短い息を吐き出した。

「ふぅ……まずは家造りから始めないとな」

 隣ではラビが燻製された肉を咥えながら、先程川で取った魚を火で炙っていた。その辺に落ちていた枝を削り、魚に突き刺して焼いている。
 調味料は何もかけていない。今度いつ手に入るか分からない貴重な調味料はなるべく使わない事にしていた。料理器具は未だ荷台に梱包されているため、ただ食料を腹に収めるだけの原始的な食事を行っている。

「家を造るのは賛成だけど……最初に何をしたらいいの?」
「そうだな……とりあえず――」

 クーヤは目の前に並ぶ木の群生を眺めた。程よく焼かれた魚を片手に、アリスから渡された大根を口に含む。素材その物の味を楽しめるといえば聞こえがいいが、実直な感想を述べると味気ない食事に溜息を吐いた。

「目の前の処理からじゃないか?」

 木々の隙間から多数の鈍く光る光源がこちらを見つめていた。



第十三話 縄張り主張


 轟、と木々の隙間を抜けて炎が駆け巡る。
 地を這う蛇の如く、炎の波は朽ちた操り人形の集団を舐めていく。ウッドゴブリンと呼ばれる人の形を成した人面樹は、ギチギチと木々が擦れる音を発しながら炎に包まれた。

 掲げられたアリスの手に無数の氷が空中に現れ、そして振り下ろされた。雹々と降り注ぐ細かい氷の粒が地面に突き刺さる。
 その進路上に居たウィスプと呼ばれる人魂達は魔力の篭った氷をその身に受け、淡く光るその風体を霧散していった。

 ラビとアリスは次々と湧き出てくる魔獣の群れと応戦していた。

「まったく!きりが無いわね」
「水場が近いしな。それに食料もあるときた日には集まってくるだろうよ」

 荷台とラビとアリスに視線を這わせながら、傍らの流水を見つめた。
 馬車の隣に流れている川は魔女の家の隣に流れていたものだ。騎士に追われ迂回した旅路の末にその下流に辿り着いた。簡素すぎる地図ではあったが、何とか合流出来てクーヤは胸を撫で下ろしていた。

「というか、クーヤも手伝ってくれない――か!」

 地中から生やした氷柱で魔獣の腹を突き破りながらアリスが愚痴る。額の中央に目が一つだけある狼が絶命したのを確認し、次の敵を探しながらなので視線は向けていない。

「そうよ、葉巻なんて吸ってないで――さ!」
「おいおい、そうしたら一体誰が荷物を守るんだよ」

 荷台を背にしながらクーヤはのん気に葉巻を吹かしながら寛いでいる。会話をしながら続々と集う魔獣を倒していく様子にまだまだ余裕がありそうだ、と彼女達が戦う様子を観察していた。
 目の前の脅威には何一つ気にかけていない。その程度の事よりも紫煙を吐きながら荷台に積んでいる葉巻のストックが切れたらどうしよう、と真剣に悩んでいた。

「言い訳にしか聞こえないが――な!」

 がさりと頭上の葉が揺れる。
 3人の敏感な聴覚はその音をすぐに聞き取ったが、ラビとアリスは自分達に殺意を向けられていない事を知ると目の前の処理に意識を戻した。

「ここでおさらいだ」

 煙を頭上へ吹きながら、葉巻の火種で空中に線を描いた。宙に留まった火の軌跡は円を三重に形取り、その軌跡の中にはうっすらと文字が浮かんでいた。クーヤは空中に描かれた3つの魔方陣に左手を翳す。

 奇怪な雄たけびと共に、木の上からサルが3体荷台に飛び掛ってきた。トロルモンキーと呼ばれる目がぎょろりとし、鼻や耳が異様に大きいサル型の魔獣だ。
 クーヤが魔方陣に魔力を込めるとバチバチと火花が弾け、短い叫び声の後トロルモンキー達が一瞬硬直し絶命して地面に落ちた。

「魔術というのは魔力を使って現象を起こす術と捉えられる傾向にあるが、本来魔術とは魔力を操る術にある」

 彼女達は戦闘に集中しながら、その言葉に耳を傾ける。
 一体その二つの違いはどこにあるのか、と疑問に思いながらトロルモンキーを始めとするその他の魔獣を葬っていった。接近させないよう炎や氷の魔術を次々と使い、牽制または殲滅していく。

「魔力を操るというのは、魔素を操るという事。魔素をどのように操るかを想像し、原子に干渉する。
 今行ったのを例えとしてあげるなら、煙という物質に魔素を干渉させ、雷の属性を加える。ま、お前達が暴走してた時に周囲に溢れていたのもそういったものだ。ただそれだけじゃ意味は無い」

 それはそうだ、と彼女達は頷いた。属性が決められた余剰分だけが周囲に満ちているだけでは暴発はしない。
 属性が決められた魔素というのはつまり、火薬がそこにあるという事。火薬があるだけでは爆発はしない。火種、導火線といったきっかけが必要だ。

「そこで起爆剤として今度は葉巻の火種に魔素を干渉させ、火の光よる魔方陣を描いたわけだ」

 確認する事となるが、クーヤの魔力保有量は少ない。
 先生から受け取った知識はあるため、数多くの属性を操る事が出来る彼だが魔力量の関係により満足に使えるその殆どが下級魔術。広く、浅く、オールラウンダー。所謂、器用貧乏な魔術師である。

 煙に干渉した魔素も多くはない。
 魔力の絶対的な不足を補うためにクーヤが書いた魔方陣には次の意味が込められている。
 一つ。『雷系統の魔術』
 二つ。『威力強化』
 三つ。『指向性』

 一つ目は起爆剤としての雷の下級魔術。二つ目はその雷の威力を増幅させるための補助魔術。三つ目は煙に誘爆した雷の威力をなるべくロスすること無く、目標に当てるための道しるべ。
 魔術を行使する過程で魔術の方向性の想像はあるが、電撃は性質上扱いが難しい。正確に心臓を打ち抜くために魔方陣によって条件を付け加えていた。

 最初の魔方陣に魔力を込め雷の下級魔術を放ち、次の魔方陣により威力を強化、その次の魔方陣により3体のトロルモンキーの心臓付近に陰電子を付け加え、狙いを定める。
 そして最後に、空中に漂う魔力の込められた煙に引火し四方八方から敵を狙う。

 追記として空中に書く魔方陣であるが、地面や物質に描いた魔術文字のような長期的な持続性は無い。魔方陣として描かれているので文字の端から漏れる事はないが、円の中を巡っていた魔力が尽きたときその魔術文字に込められた魔力をも喰いつぶして虚空へ消える。
 地面や物質に描いたように魔力が切れたら再び魔力を注げば使えるという類ではない。

「結論を述べると、魔術――魔素を操るという事はこの世の物質、原子に干渉するという事だな。つまり渡した武器に干渉することも可能だ」

 彼女達の右手にはクーヤが製作したショートソードが握られていた。
 その剣は肉厚で、お世辞にも切れ味が良いとは言えそうに無い。彼女達が使う災害のような魔術を抜け出て切り込んできた魔獣の牙を、まるで盾のように防御するものとして扱っていた。

「その剣は盾としての意味もあるし、杖としての意味もある。武器としての切れ味はいまいちだ」

 その刀身には魔術文字が描かれている。双子である彼女達とそろうようにその剣の姿はまったく同一。だがその内情は似て非なるものだった。

 本来銘を刻む部分に『耐久強化』の魔方陣が刻まれているのは同様。刀身の片側に描かれた『系統魔術』の術式、もう片側に描かれた『熱変化防止』の術式が回線のように配置されている。
 字にすると同じであるが、書かれたその魔術文字と内容が異なっていた。

 ラビの刀身に描かれた中級魔術に該当する火系統の術式。そしてその反対側に描かれた術式には高熱による金属の膨張、歪みを防止する効果があるものだ。

 アリスの刀身に描かれた水系統の術式。反対側に書かれているのは勿論冷気による金属の凍結を防止する効果がある。金属が凍結してしまうと硬くはなるが粘りがなくなり、砕けやすくなってしまうのを防止するためだ。

「お前達の弱点は魔術を放った後にインターバル……魔術を使えない間が5秒程ある事だな」

 それは彼女達も理解している。
 力を一度行使した後に存在するわずか5秒という間。後衛としてならば何も気にならない短い時間だが自分達を守ってくれる前衛が居ない場合、その時間は致命的だ。命の取り合いが刹那で行われる戦闘では5秒という時間はあまりにも長すぎる。

 思考と行動が同時に行われる。頭はクーヤの言葉についての意味を考え、身体は群がる魔獣たちの殲滅に動く。

 ラビは考える。
 つまり自分達に渡された剣はその5秒という空白を潰す為のもの。炎を前方に振り払いながら頭上から飛び掛ってきたトロルモンキーの一撃を剣で受け止めた。インターバルの後、自分とトロルモンキーの間に爆発魔術を使い、距離をとった。

 アリスは考える。
 剣に干渉する事が出来ると言ったが、そのままの意味ではないだろう。鉄をそのまま凍らせてしまうと、いくら熱変化を防止する術式があったとしても金属の変化を避ける事は出来ない。この術式にそこまでの強制力は無い、と事前に説明されていた。

 二人は考える。
 なぜこんな状況でクーヤは自分達に語るのか――決まっている、戦闘を行いながら手にした武器の使い方を自分達で身に付けろ。魔術を使いながら別のところで魔力を操る技術を身に付けろ。考えながら戦う方法を身に付けろ。そう言いたいのだ。

 一度広範囲の魔術を使い、魔獣達との距離をとる。
 一息つきながら、ラビとアリスは自分の体に巡る魔力の流れを感じ取り始めた。そして再び考える。先程の解説でクーヤが煙や火種といった媒介を用いていた事を。

 思い出す。自分達が暴走していた時に媒介としていた物はなんだったかを。

 次に放つ魔術の方向性を想像しながら、左手に魔力を溜める。それと平行し、右手に握る剣に魔力を送った。魔素の行き先は剣に内包された魔術文字、そして――大気。

「正解だ」

 ラビの剣が燃え上がり、アリスの剣はその刀身を氷で包んでいった。

「剣に魔力を流し込め。魔素を操り留め続けろ。その剣はお前達の願いに答えてくれるはずだ。いい相棒になると思うぞ」

 ラビとアリスに渡した剣に切れ味は悪い。温度による金属変化も抑えられている。刀身の術式は起爆剤。魔力を注げば放出し続けるだけで留めることはかなわない。そこで彼女達は魔素を操り剣の表面に塗りつける。

 ラビが左手に溜めた魔術を前方に撃ちながら駆け出した。
 放出した無数の火球が腐乱した犬の群れを打ち抜きながら、炎を纏った剣を振りぬく。近くに居たウッドゴブリンの硬い胴体を焼き切った。

 アリスは氷の弾丸を降らせながらさらに剣に魔力を込める。刀身に纏った氷は研ぎ澄まされ、切れ味を増していく。横から飛び掛ってきたトロルモンキーの腕を切り落とし、振り向きざまに真横からその胴体を断ち切った。

 まだ回りには30体ほどの魔獣が取り囲んでいる。しかしそれも、すぐに始末されることだろう。
 先程よりも危なげない彼女達の戦いぶりを見て、クーヤは再び葉巻を吹かし始めた。



「あー、つっかれた!」
「お疲れさん」

 半刻ほど戦闘し続けると、周りを囲んでいた魔獣達は姿を消していた。集まっていた魔獣をラビとアリスの二人で殲滅し続け、時間が立てば立つほど逃げ出す魔獣が増えていき、周囲に魔獣の気配が無くなっている。

 悪気も無い様子で労いの言葉を吐くクーヤにラビはギロリと睨んだ。

「本当に何も手伝わなかったわね」
「いっそ清々しいだろ?」
「うっさい」
「しかし……こんな所に住む事なんて本当に出来るのか?」

 ラビがクーヤを小突きながら、アリスが質問をはさむ。
 アリスの疑問は最もだろう。これ程多くの魔獣がひしめく所に安心できる住みかが出来るとは思えない。
 またいつ集まってくるかわからない。今度襲って来る時は今のものよりももっと大規模かもしれない。先程蹴散らした程度の魔獣ではなく、さらに強力な魔獣が来るかもしれない。
 安眠する事などできず、常に神経を張り詰めていなければならない生活を思うとアリスは頭が痛くなってきた。

「こんな所だからこそ、国が手出し出来ないぞ」
「それはそう、だが……」
「まぁ、そんなに気になるんだったら、縄張りを主張しようか」
「どうやって?」
「こうやって」

 スタスタと歩き木の前に立ったクーヤはその幹にナイフで文字を削る。再び歩き四方に同じような文字を刻んだ。
 4本目の幹に文字を刻んだ後、手を翳し魔力を送る。文字が刻まれた木からそれぞれの隣り合う木の間に薄い膜のような魔力が繋がった。

「……なに、これ?」
「結界という。魔方陣の亜種みたいなものだな。簡易的なものだが、出来る限り魔力を注いでおいたから一日くらいなら安心して過ごせるぞ」

 淡々と説明するクーヤに最早呆れ顔で彼女達はため息を吐いた。一体彼は他にもどんな術を使えるのだろう、ここで生活するにあたって逞しくも思えるがなぜか脱力が伴った。

「よし、それじゃ此処を拠点に周囲の探索、そして家造りを始めるぞ」

 身体を休めた後、周囲を探索しながら材木を集め始めた。

 彼等の生活がここから始まる。




「初めて私達の戦闘らしい戦闘が出たわね」
「家造りから始めようとしたらいつの間にか戦闘で終わっていた」
「どうしてこうなった」
「魔術の設定を書き始めたら止まらなかったらしい」
「でも力を見せ付けたし、襲ってくる魔獣も減るでしょう?」
「そのまま魔獣のボスになりそうな勢いだがな」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ