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群青の燭影  作者: 狐塚仰麗(引退)
1.薔薇色の火のScherzo
7/30

そっちの方が。

「ロゼ公、入学式はどうだったよ」

 と、掲示された通りの教室に向かっていた所、廊下で舞阪に声をかけられた。

「体育館が広いのでびっくりしました、って言うのはおかしいですかね」

「いや、俺も最初に思ったのはそんなもんだった。中学とはだいぶ違うだろ。しかし、あそこに全校生徒が収容できるってんだから、生徒総会なんて有った日にゃあこれが窮屈でかなわんわけよ。入学式だから広く見えたんだ、それだけの事さ」

「それにしても、どうしたんですか、私が通るの待ってたんですか」

「おいおい、面白い事を言うじゃないか。暇だったから自動販売機んとこ行ってただけだ。それでクラスはどこになったよ」缶コーヒーを開けて、それをグビグビと飲む。良く見たらブラックだ、それを、まるでスポーツドリンクでも飲むみたいに。

「一年B組でした。それでは、私はこの辺で、もう行かないと」

「そうか。……」

 普段全く表情の変わらない舞阪だが、今の一瞬は少し驚いたような顔をした。

「では、また後で」

「ん、……俺も後から行く」

「え、同じクラスなんですか」と、歩きはじめていたロゼッタは立ち止り振り返った。

「――出来ればそうしろとは言っておいたんだが、うまくいくもんだな」ぼそっと舞阪は呟いた。

「え、何ですか」

「独り言だ。早く行け」

「あ、はい。それじゃあ」そう言ってロゼッタは教室の方へ走って行った。

「廊下は走っちゃいかんぞー。まあ、聞こえてないか」



 ⇔



「えっと、担任の徳田久典とくだひさのりだ。これから三年間よろしく諸君。ところで、このクラスには一人、先輩がいるんだ」

 教室が少しどよめいた。まあ、おそらく中学ではこういう事は無かっただろうからなぁ。出席番号順、つまり名前順で並んでいる教室のまん中の列の一番後ろで頬杖を付いている舞阪は、我関せずと言った調子で、あくびをした。

 朱鷺沢――ロゼッタは右隣の列の二つ前だ。時折舞阪の方をちらちらと見ていたが、今は担任徳田の発言で思いっ切り舞阪を見ている。周りの生徒もロゼッタが見ているほうを気にして、間もなくほとんどの生徒が舞阪を見ている格好になった。しかし、当人は微動だにせず、あくびを続けている。机にはさっきの缶コーヒーが置いてある。舞阪があくびばかりしているので、きっと眠かったからブラックを飲んでいたんだな、ロゼッタはそう思った。

「…………舞阪、大丈夫か」

 徳田が舞阪に話しかけた。少し心配している様子だ。きっと知り合いなんだろう、気心を知れていると言うような雰囲気もある。

「問題ないですよ、ノリさん。…………留年して同じクラスになった舞阪です、みなさんよろしく。先輩とか思わないで、気軽に何でも聞いてくださいな。そんなところです、あとよろしくノリさん」

「うん、そう言うわけだから、そうだな、まずは俺の自己紹介からだ。俺の担当は現国だ、それと――」

 担任は長々と良く解らん話をしてくれたが、後は適当にクラスメイト達の自己紹介だ。

 

 ――確かにどこからどう見てもロゼッタは女っぽい。それは仕方ないが、このクラスには当たり前だが女子だっている。そいつらを味方にすればいいと思うんだが、そうもいかんだろうしな。

 舞阪はスマホを取り出し、画面を見てみる。メールが一見、雲雀からであった。数分前に送られたものらしい。

 ――どうせ、〈誰も話しかけてこない、助けて〉とか書いてあるんだろうな。仮にも一年一緒に過ごしてきた仲間じゃねえか、そんなん何とかなると思うんだがなあ。

 そう思いながらも、無視はせずにメールを開いて読んでみる舞阪であった。

 ――ああ、なるほど。

 ロゼッタの自己紹介が始まる前に、舞阪はスマホからロゼッタにメールを飛ばした。


 送信者 舞阪さん

 Sub あどばいす

 お前にだって環境とかしつけとかで色々有ったんだと思うがとりあえず提案だけ聞け

 自分の事を話すときに【私】と言うの、これからはやめておけ

 もちろん先生の前とかでは今まで通り【私】で構わない

 相手によって言葉を使い分けるのが日本語だ

 だからその点は気にしなくて良い

 しかしこれからは自分の事を話す時は


「えっと、初めまして、――――僕は朱鷺沢ロゼッタと言います、です」


 なるべく【僕】と言え



 ⇔



「よう、うまくクラスに馴染めたようで良かったよ」舞阪は咲矢間神社の脇を通っている所で、おもむろに喋りだした。

 せっかく一緒に帰っているのに、この人は全然会話をしない。隣には雲雀だって居るのである。それなのに、雲雀もここまで一言も発しなかった。

 ただ黙々と、間に挟まれる形でロゼッタは帰り路を歩いていた。不思議な気持ちだった。

「ありがとうございます、今まで、……僕は姉二人と過ごしてて、ずっとそれに慣れていたんです。こんな簡単に、自分は男ですってアピールできるなんて」

「そういう提案だと思ったろ、でも本当は、あたしが柳刀に〈ロゼッタは僕っ子の方がかわいい、今のままよりそっちの方が良いと思う〉ってメールで噴きこんでおいたんだ」

「え、え? なんですって?」

「うんまあ、そう言う事らしいぞ」

 舞阪は相変わらず、無表情だった。

「でも運が良いな、お前ら同じクラスなんてさ……あるんだなこう言う事」

「それは、――たまたま同じアパートにうちの新入生が住む事になったんだが、一年生のクラスに溶け込む自信が無いから、出来たらそいつと同じクラスにしてくれないかなって、個人的に偉い人にお願いしておいたんだ」

「なんだそれ、お前がそんな殊勝な事言うなんて失笑モンじゃないか。――――マジか、マジかよオイ、それが通ったのか?」

「らしい」何の感慨もなさそうに言う。

「あたしは一年一緒に居るのに馴染みの無いクラスで寂しい思いをしてるってのに……お前らときたら何なんだよそれは、セコすぎんだろ、その偉い人にお願いしたっての、ないわー、ないわー」

「何言ってんだか。お前も、友達作ったら良い」

「簡単に言うなよ……」また半べそ状態の雲雀である。今日一日どう過ごしていたのか、まだ何も――寂しいとは言っていたが――詳しい状態は聞いていない。

「じゃあ、僕はもう助けてもらったから、次はツグ先輩の友達作りですね」

 ロゼッタは笑顔でそう言った。もちろん悪意は無いのだが、

「………ロゼッタのばかぁぁぁ」

 雲雀はなきべそかいて、咲矢間神社へ走って行った。

「ロゼ公、お前が連れて帰ってこい。俺は面倒だ」

「え、わた、僕ですか」

「俺は帰って寝るから」

 そう言って舞阪はあくびを一つ残して行ってしまった。

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