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群青の燭影  作者: 狐塚仰麗(引退)
2.酒気帯兎のdistance
11/30

金髪、赤メッシュ。

 ――舞阪は本当によく解らん。最近の学生って言うのはみんなあんなもんなんだろうか。無気力でやる気が感じられない。

 とかくに草食系だなんだと言われているが、そんなもんが居るから何だと言うのだろう。女がガンガン喰いに行けって言うんだろうか。失礼な話である。日本の女はな、奥ゆかしいんだよ。差別だなんだと馬鹿らしい、あたしは女だし、ずっとこの国の外に出ずに縮こまっていた訳じゃあない。狭い範囲ではあるが文化の違う世界を見て来た。

 階段を上がりながらそんな取りとめも無い事を考えていた長谷堂であったが、現在の彼女は全く奥ゆかしくなんかないのは誰が見ても確定的に明らかである。

「――新入りか」

「え、あ、はいっ」

 下の舞阪と同じように窓を開けて佇んでいたのが、新入りであるロゼッタ朱鷺沢である。美しい顔立ちに薄い灰色の髪、狼かなんかを思わせるが孤高と言う感じではない。男とも女ともつかぬ中性的な顔立ち。

「あたしは長谷堂。下の104号室に住んでるフリーター。佐緒里とは職種が違うけど、あんまり大した仕事はしてない。あんたは」

「あ、私は朱鷺沢ロゼッタと言います。春から高校生になります、よろしくお願いします」

 髪、だな。

 こいつは今、あたしの髪を見て多少警戒心を抱いている。だがツグのやつほど思い切った色ではない。金髪に赤メッシュを放り込んであるだけだ。――戻って来た時に黒髪にしても良かったが、もともと向こうに居る時に染めて習慣になったものだ。

 見た目はどっこいだ。

 しかし。

「これな、ツグだってあれ染めてるんだよ。あんたのそれは地毛だろうけど」

 もしかして、目付きが悪いからというのもあるかもしれない。たれ目がちなのに寝起きでさらに細く鋭利になっている気がしなくもない。

「あ、そうですね、すいません。でも、赤ってびっくりするじゃないですか」

 ロゼッタは自分の毛が地毛だと理解せられた事を疑問には思わなかったらしい。そのまま長谷堂の派手な髪について言葉が及んだ。

「まあ、朝から見ると余計きついかもな。どう、ここは住みやすそうかな」

「はい、良くしてもらいました」

 長谷堂は、ぼんやりと考える。そうか、歓迎パーティをやってたはずなんだな。最近良いもの食べてないから、ちょっと参加したかった。

「まあ、あたしもあんたの前に入ってきた新入りだからね。見た目ほど年とってもいないから、あんまりかしこまらないでいいよ」

「あ、はい。長谷堂さん」

「それと、あんた……」

「はい」

「…………いや、大丈夫、問題なさそうだ。もう少ししゃきっとなさいよ。ちょっと挨拶に来ただけだから、戻るわ」

「はい、また」

 長谷堂はそのまま自室へ戻るため階段を下りた。

 廊下にはまだ舞阪がいた。

「なにそれ」長谷堂は、舞阪が抱えているモノを指差して言った。

「アウトドア用の簡素な椅子だ。折りたたんで持ち運べる」質問に答えながら、舞阪はその椅子とやらを広げて見せる。肘置きに飲みモノを入れておけるメッシュのポケットが付いている。

「廊下でそれを広げてどうするのよ」

「ここで本でも読もうかと思ってな。部屋の戸も窓も開けてある。換気も兼ねてな」

「そう。ほどほどにしとけよ」

「ああ。ロゼッタには会ったか」

「挨拶しに行ったんだから、そりゃ会えたわよ」

「大人しいが、あいつは男だぞ」

「……は? 何言ってんだお前。見れば解るだろ」

 長谷堂のその言葉に、舞阪は流石に驚きを隠せない表情を見せた。と言っても、多少目を見開いた程度の変化であったが。

「そうなのか。ああ、そうだったか」舞阪としては、ロゼッタがどちらでも当然のように大した問題ではなかったのだが、ロゼッタが勘違いされたままだと困ると思い、念のために長谷堂に忠告したまでのことである。

「それ、何読んでんの」

「ん、〈誰かうちの姉をもらってください〉ってやつだ」

「なんか腹立つタイトルだな」


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