ボーマン・ボーマン・4
―ワンス・ワズ・ア・ツルーラブ―
朝からボーマンは、仏頂面している。
それもそのはずで、
この間から、二人めが生まれるとか生まれないとか
兎に角も、おめでたい話しなのであるが
臨月が近くなってから急に安静をしいられて、
緊急入院になった母親の元を
置手紙1つで飛び出して来た甥っ子が
ボーマンの元にやってきたのである。
「僕が一人でいたら母さんも心配するだろうし、
父さんも仕事が忙しいのに困っちゃうよねえ」
と、随分親孝行な科白を吐いたものだから
ニーネがすっかり同情してしまって
「可哀相に。こんなに小さいのに
母さんと離れ離れで淋しいわよねえ」
ボーマンの返事も聞かないうちに
「伯母ちゃまで良かったら、なんでもしてあげてよ」
と、甥っ子の面倒を見る気になってしまった。
「なんだよ?もっと、近くに誰かいっだろうが・・」
ニーネとの間にまだ子どもを作らないのも
ボーマンはひとつに、ニーネに注がれる愛情を
一人占めしていたいが為だっていう噂を
きいたことがあるが・・・
どうやらそれはほんとのことであったらしく、
甥っ子の滞在もきにいらないみたいな言葉だった。
だが、一人でボーマンの所に来て
居候を決め込もうとしている少年のほうが
1枚上手だった様で
「だって、皆、小さい子がいるんだよ。
手が空いてる所なんかおじさんとこぐらいだよ」
と、いったのである。
「う・・・・」
こんな経緯で甥っ子は
この間から、ボーマンの所に居候を始めた訳である。
が、こいつはとんでもない食わせ物だったのだ。
やって来た初端から、
「おじさん、僕、どうしておじさん所に
子どもが生まれないか知っているよ」
って、そう言い出した。
「アー――ン!?なんだってんだよ?」
あんまし痛い所をつかれたくもないボーマンは、
そん時でもすでに無愛想だった。
でも、この甥っ子はそんな事ちっとも頓着なしで
「あのね。子供ができないのってね、
Hしてないか、Hしすぎてるか、どっちかなんだよ」
って、喋繰り始めた。
「な?・・なん?」
親の話しでも小耳に挟んで
訳も判らずにいってるんだろうって、
ボーマンも考え直していた。
だって、まだ八歳だぜ。
判ってる訳なんかないよな。
ところが
「あのさ、してなきゃできないの当り前だよね。
じゃ?なんでしすぎちゃできないか判る?」
と、さも答えは知ってんだぞって、
得意気な顔して言うもんだから、
よせばいいのにボーマンもそのクイズに乗っかってやった。
「うーん。わかんねえな?降参だ」
「あのね。薄くなっちゃうんだよ」
「う・・すく?ってなんがだよ?」
って、どきりとしながらボーマンは尋ねた。
「やだなあ。決ってるでしょ。ロケットから出て来る・・」
おいおい。
ロケットだなんてとんでもない業界用語(?)まで、
知ってやがる。
ボーマンは咳払いをした。
どうやらこいつはほんとに解って言ってやがんだ、
と、ボーマンは考えると、
「あっ・・」
大変な事に気がついた。
「おい。おめえ。
そんな事を、アイツの前で言ったりしてねえだろうな?」
「アイツって!?ニーネのこと?」
そう尋ね返したと思ったらアーサーは片目を瞑ってみせた。
「大丈夫だよ。そんなこというわけないじゃん」
「な?なんだよ」
やけにアーサーが笑いを堪えてるし、
おまけにボーマンの心配を
いかにも判ってますって顔で頷いている。
「そんな事言ったら、
ボーマンは何処で薄めてきちゃっているんだろって
ニーネに考えさせちゃう事になっちゃうんでしょ?」
「あ?ああーーん?」
余りにも図星なのである。
おまけにこんにゃろは、
ボーマンの秘密まで気がついているって事なのだ。
まさか、ステラの事まで知ってるわけない
って思ってたボーマンは
どうやら逆にアーサーに弱みを
握られてしまったって事になったのである。
「て、てめえ・・・」
「しいいいい。聞こえちゃうよ。だいじょうぶだって。
僕は叔父さんが不利になる事をニーネに喋ったりしないよ。ね?」
ボーマンはうまく誤魔化しきれないまま、
しっかりボーマンに【浮気癖】がある事を
アーサーに認めさせる事になってしまった。
だが、ここでしっかり皆に話しておかないといけない。
ボーマンのは浮気とか不倫とかいうものとは
違うんだぞ、ってこと。
前作でもボーマン自らセリーヌに主張していた様に
「恋なんだぞ」ってことであり、
もっと弁護すればボーマンにとっては
「せつねぇー」事な訳で…。
この際、我等が愛すべきボーマンの
勝手な主張を認める事にしないと話が進まないのである。
まあ、何処でどう間違ったら
ニーネにこんな甥っ子が出てくんだろ?
って、不思議な気持ちになりながら
ボーマンはもうひとつの気に入らない科白にいらついていた。
「男同士の約束だよ・・んふふふ。ね?叔父さん」
それだ。その科白だ。
その科白がボーマンをイライラさせてるなんて
アーサーは知る由もない。
本当にイライラさせた当の本人はレオンなんだけど、
ボーマンはまだ、随分傷ついているのだ。
レオンにじかに言えないままの未昇華なボーマンの恋心を
いとも簡単に一篇に押しつぶしたレオンの一言を
意味は違うけど同じイントネーションで繰返されると、
ボーマンがとうとう言放った。
「男同士の約束は判った。んでもなあ。
いいか!?俺のことを二度とおじさんって呼ぶな!」
「あは?きにしてんだ?」
アーサーが又何かを察している顔をしてる。
と、思ったのも束の間
「そんなの気にしてるって事は・・・。
ははーん。だいぶ年下のこだな?」
と、言出した。
ボーマンはそれで思わず手で口を抑えた。
こいつにはうっかり物を言ったら
何もかもばれちまうだけだってボーマンも気がついたからだ。そんなボーマンを
なんだか小気味良さそうに見ていたアーサーは
「あは。んじゃ。もうそう呼ばないよ。
ボーマンってよんでいいね?うん」
自分で返事しといて
「あ、そうだ。
ボーマンだけボーマンって呼んだら可笑しいから、
ニーネのことももう伯母ちゃまってよばないからね。
いいね?」
ボーマンを覗き込んだアーサーである。
「え、あ・・・」
たじたじのボーマンなのである。
良く気が付いて念のいった配慮ではあるが、
本人には伯母ちゃまって言ってたけど
さっきの会話の中でも
ニーネって気安げに呼び捨てにしてたのも
ボーマンは気にいらないのである。
が、それでもニーネ本人には
おばちゃまと一歩下がった呼び方をしていたので
ボーマンも取あえずは引下がっていたのである。
が、今度はニーネと丸で恋人かなんかを呼ぶように
親し気に呼ばれるとなると面白くないボーマンなのであるが、どうやら、その子ども地味たボーマンのやきもちまで
アーサーは感づいていた上で
念押しして来たのだとボーマンにも判った。
とんでもねえ食わせもんだって
ボーマンも何もかも察してしまうアーサーの顔を
見詰めながらどっかで
「え?こいつ?俺みてえになるんじゃねえのかよ?」
って、なんだか自分を見てるような気分になってきた。
そこに洗濯物を干し終えたニーネが入って来た。
途端にアーサーは
「ねえ。おばちゃま。
叔父さんが叔父さんの事ボーマンって呼んでいい、って
いってくれたんだ。んん。だから、あの・・・」
やけに思わせぶりな態度を取るとニーネも
「あら?良かった。ん?で?なに?」
しっかりアーサーの術にはまってしまって、尋ね返した。
「うん。あのね。あのね。
おばちゃまの事もニーネってよんでいい?おこんない?」
アーサーの可愛い科白にニーネも
「まあ。アーサー。そんな事気にしなくていいのよ。
伯母ちゃまもニーネって呼んでくれるほうが
もっと仲良しみたいで嬉しいわ」
って、答えたもんだから、
ボーマンがむっつりとした顔になってしまった。
ニーネはそんなこと、ちっとも気がついてないし
ボーマンはボーマンで
アーサーの有無を言わせぬ上手なやり口に
内心舌を巻いていたんだ。
そんなボーマンの気持ちを知ってるからなんだろうね?
ボーマンをボーマンってよぶことを
ニーネに不審を擁かせずに済ませられた事に
アーサーは気を良くしてボーマンに親指を立てて見せた。
糞面白くない顔をなんとか取り繕いながら
ボーマンはニーネに
「おい。コーヒーでもいれないか?」
って、頼んだ。
「そうね。熱くなってきたしアイスにする?」
って、ニーネが尋ね返してた所に
アーサーがおっかぶせる様にして
「あ。僕も・・欲しいなあ」
って、言ったもんだからボーマンは益々切れたね。
「がきんちょがいっちょまえに
コーヒーなんか飲まなくていいぞ」
仏頂面でアーサーに言放った。
「あら。困ったわね。アーサー。
じゃあ、オレンジジュースでも飲む?」
ニーネは相変らず優しい女性である。
コーヒーを禁止されたアーサーにそう尋ねると、
アーサーは
「うーん。じゃあね。アイステイーがいいな。
もちろん。アール・グレイだよ」
通な注文を言出した。
ますます生意気ながきんちょじゃねえか、
って、ボーマンが思うより先に
ボーマンはその一言にグッと胸を詰らせた。
『アール。グレイ・・・』
紅茶の銘柄を胸の内で呟き返しながら
ボーマンは少し沈んだ顔になった。
その目の前にニーネがアイスコーヒーを持って来て
ボーマンの顔を覗き込んだ。
「ボーマン?どうしたの?」
不思議そうな顔をしたニーネに覗きこまれると
ボーマンも慌てて
「あ!?いや。なんでもねえよ」
って、いったけど
ボーマンの顔付きはやっぱり何処か暗くなってる。
ボーマンは自分でもそれが判ってるから
「あ、俺。注文の品を作らなきゃいけなかったんだ」
コーヒーのグラスを片手に持つと
処方箋室にそそくさと逃げこむ事にした。
いきなり立ち上がってキッチンから出て行ったボーマンを
「あれ?ボーマン。どうしたの?」
一番気にしたのはアーサーだった。
アーサーの為にアイステイーを作り始めていたニーネも
「うーん。たまにね。なんか元気がなくなってしまうのよね。アーサーは気にしなくていいのよ」
アーサーに答えると
「アーサー。ゴメン。
アール・グレイは伯母ちゃまの所にはないわ。
プリンス・オブ・ウェールズでよくって?」
アーサーのご希望に添えない事を告げた。
「うん。いいよ」
アーサーは答えながら、
ニーネには聞こえないような小さな声で
『まだ・・・憶えてるんだ・・・』
って、呟いていた。
一方そのボーマンである。
グラスのコーヒーを飲みながら
例の焼け焦げた椅子に座るともう一度大きな溜息をついた。
『アール・グレイか・・・』
口にださないまま、ボーマンは同じ事を考えている。
幾ら待ってもボーマンはその溜息の理由を
話そうとはしないだろうから、仕方ない。
ここは作者が説明することにしよう。
アール・グレイというのは皆様もご存知の通り
紅茶の銘柄なんだけど、
ボーマンにとっては忘れる事の出来ない
ひとつのイノセンスなのである。
紅茶の銘柄としての思い出ではなく、
ボーマンにとって
一番哀しい思い出の人であるアシュレイ・グレーマンと
アール・グレイとが重なるのである。
アシュレイとボーマンの出会いは高等部から始まる。
燐の席に座ったアシュレイの端正な横顔に
ボーマンはグッと息を飲んだ。
思えばその瞬間にボーマンは恋におちていたのである。
「ア、ボーマン・・あ、そう呼んでくれればいい」
どこかいつものボーマンらしくなく浮いた調子で
アシュレイに懸けた言葉に、
実にさわやかにアシュレイは
「アシュレイ・グレーマン。志望は薬学部。宜しく」
と、返して来た。
「あ、アシュレイ?ASYLLY?」
ボーマンがアシュレイのスペルにまで
興味を持ったって事は
これはかなりボーマンが
アシュレイに魅かれてしまったって事なんだけど、
そんな事とは知る由もないアシュレイは
「ううん。LじゃなくてR。R・グレーマン…・」
「アール・グレー?」
ボーマンがどこかで聞いた事のある名前だ
と、思ったのもつかの間。
アシュレイの方からその解答を出してきた。
「あはは。それじゃ紅茶の名前だよ。
アシュレイ。
君の呼びやすい呼び方で呼んでくれれば良いさ」
こんな会話がボーマンの脳裏に
アール・グレイ=アシュレイ・グレーマンという連想を
植えつけさせる事になってしまったのであるが、
それが何故ボーマンの哀しい溜息になるかは
やっぱり順を追って話して行かなければならないだろうし、
ボーマンシリーズの中に必ず登場して来る
ステラという女性とのいろんな経緯も
全てこのアシュレイ・グレーマンへの恋から
始まったことなのであるから、
やっぱりどう考えても作者が話していかなきゃ
わかんない事なのではないかと思うのである。
いつだったか、ボーマンはアシュトンに
『なんで俺はまだ生きてんだろう』って、
タマンなく悲しくなる時があるって言っていたのを
君は覚えているだろうか?
そのボーマンの謎な台詞も実の所
やっぱり、
このアシュレイ・グレーマンのもたらした物であるのだけど、
その謎解きも兼ねて
ボーマンの深い溜息を
バックグランドミュージックにしながら
ボーマンとアシュレイの物語を
振り返って見ようと思うのだけど・・・
この際いいよね?
アール・グレイと言えば誰でも紅茶の事だと思うだろう。
けれどボーマンにとっては
茶色の髪に灰色の瞳を持ったアシュレイの事を
思い出させるだけだった。
アシュレイはボーマンと同じシニアスクールに通い
同じ薬学部を目指したライバルであり、友人であり、
そしてボーマンにとっては
永遠の恋人であったのかもしれない。
アシュレイは実に端正な顔立ちをした男で
スクールの中でも群を抜いて目立つ存在であった。
外見の整い方同様何をやらせても卒がなく
成績も常にトップクラスの中にいた。
そんなアシュレイが
ボーマンと無ニの親友であると言うのであるから
当然の如く学校の中の七不思議に数えられてしまっていた。ボーマンのどこが気に入ったのか
アシュレイもしげくボーマンのところへきて
おおよその事については
ボーマンと常に行動を共にしていたのである。
そう、ただ一つ、
ボーマンがあちらこちらの女性あるいは男性を
口説きに行く時以外を除いて。
アシュレイは色恋沙汰には興味がないのか、
一切そう言う気配を見せる事はなかった。
彼のパーソナルボックスの中には
いつも手紙やらプレゼントやらデートの誘いやらが
これでもかと言うほど詰め込まれていたのであるが
それを毎日の様に
持ち帰らなければならなかったアシュレイも
持って返るから読んでもらえる、受取ってもらえると
勘違いされ、余計に悪循環だと気がつくと、
それからは一切手をつけず見ようともせず
ボックスの中から出そうともしなかった。
だから彼のボックスの中には
色んな物が詰めこまれたまま
彼の用途としての私物入れとしては
一切役に立つ事はなくなっていた。
それを見ながら本当の所はほっとしながらボーマンは
「あーん?おまえ、あれどうすんだよ?」
アシュレイに尋ねてみた。
なんにも返事のないアシュレイに、
ボーマンはさらに確かめた。
「エー!?中には
良い線いく奴も居るかもしんないのに
もったいなくねえのかよ?」
当然ボーマンの言う良い線っていうのは、
ラストラインを超えられる良い奴って意味なんだから
ボーマンが既にこの頃から
いろいろと手広くやって居た事が窺えるってとこなんだけど、それを知っているのか、知らないのか、アシュレイは
「ボーマンこそ:・・今・・どうなのさ?」
誤魔化し半分に話しを反らせたのにすぎないのに、
きき返されたボーマンのほうが詰まってしまっていた。
「あ?あん?俺?・・俺?」
ボーマンだって
まさかアシュレイとの友情を
ぶち壊す事になるかもしんない自分の恋心を
曝け出すわけにはいかない。
だいたいボーマンって言う奴は
この頃からそうだったけど
本気になればなるほど手を出せない変な奴だったんだ。
だからアシュレイへの思いを胸の奥に秘めた。
ボーマンは、アシュレイを失いたくないから
じっと自分の恋心を抑えこんで居たんだ。
その反動も大きかった。
ボーマンは余計にあちこちで色々軽い恋と
肉体的なアバンチュールを楽しんではいたけど、
のめりこめない哀しさを余計に思い知らされるだけだった。そのボーマンが最近、ひどく年下の女の子に目を止めている。ボーマンにしてみても
ちょっと信じらんないくらい幼い女の子なのだ。
いい線にも持って行けそうもないような女の子に
のぼせてみたって面白くネエじゃねえかよ、
って、ちょっと前のボーマンなキットそう思った事だろう。ちょっと前・・・そうアシュレイを知る前ならね。
ボーマンが手も出せないような
とんでもない幼い女の子なんかの事が
気になる様になったのも
結句アシュレイのせいなんだ。
その女の子は眼の色も髪の色も
ぜんぜんアシュレイとは違っていたんだけど
ひどくアシュレイに似ていたんだ。
昇華出来ないアシュレイへの恋が
そのままその女の子に流れ込み、
ボーマンはその女の子に魅せられ始めていた。
だからボーマンはアシュレイの質問に
思わずボロを出しそうになったんだ。
その女の子がアシュレイに似てるから、
ひかれてるって事をね。
それを言出しそうになってしまいそうなのを
押し留めてボーマンらしくない事を言うのに
ボーマンは照れた。
「あー。俺。
今ちっとロリ方向にはしっちまいそうなんだよな」
「え?」
「まだ、ジュニアスクールにも
行ってねえような子なんだけど。
ハッ、これがかわいいの・・なんの・・」
そりゃそうだろう?
そいつお前にそっくりなんだぜ!
いっそ、そうぶちまけてしまいたい思いに駆られながら、
ンでも、し方ねえよな!?
お前、ンな気ねえもんなって
心の中でボーマンはアシュレイに語りかけていた。
「ボーマン・・あの」
アシュレイの瞳が何を言いたいのか、
その咎めるような眼差しにボーマンは慌てて言い返した。
「ア・・幾ら俺でも、そんながきんちょに手を出したり・・ンな事しねえよ」
だいたい、そいつに手をだせるくらいなら
とっくに本命のお前をどうにかしてるよ
って、ボーマンは胸の中で言い訳していたけど。
ボーマンの台詞を聞いて
アシュレイはホッとした顔を見せて
「ステラの事・・大事にしてやってほしいんだ」
と、アシュレイがいった。
それを聞いて驚いたのはボーマンの方だ。
「あー‐?知ってたのか?」
まさか、なんでステラに魅かれてるかまで
しってんじゃないんだろうな?って、
ボーマンは内心びくりとしながらきき返した。
「あ。うん。あのさ・・ステラは従妹になるんだ」
「ェ!?そんな事アイツいわなかった」
道理でお前に似ている訳だよなってボーマンは納得した。
その上、血の繋がりがあるんだと判ると
ボーマンには益々ステラがアシュレイと重なって思えた。
「ボーマン。あのサ、あいつに、
あの。頼むよ。変な事しないでやってくれよ」
そんな事を態々切り出して来るという事は
やっぱりアシュレイは
ボーマンの手の早さを知ってるって事なんだ。
ボーマンはちょっとばつの悪そうな顔で
「た・・たりめえだろうが。
いくつとしが違うと思ってんだよ。
そ、そりゃ。アイツが年頃になってそうしたい言われりゃ、
俺も男だしい・・」
しどろもどろになりながら
つい余計なスケベ心まで
素直に白状してしまったボーマンを笑いながら
「あは。ボーマンがそれまで待っていられるくらい。
本気なら・・そん時は僕も何もいわないけどさ」
と、アシュレイは答えた。
「ちっ。俺が誰でも彼でもやっちまうなんて
思われてんなら心外だぜ」
ェ!?俺お前にはなーんもできねえじゃねえかよ?
わかってねえんだから。
えー?
俺がお前の事何とかできねえから
辛くて切なくてふらふらしてるだけじゃねえかよ。
そこんとこ、どうにもいいわけ一つも出来ねえ俺の事、
そんなふうにいってくれるなよ。
タマンない思いでボーマンは
精一杯言い返してみたけど、
アシュレイはいともあっさりと
「あは?ボーマンでも、そうじゃない場合もあるんだ?」
念を押すような牽制をしかけてきた。
「ば・・・ばかやろう」
無理矢理でもなんとかなるなら
俺にゃおまえが一番なんじゃねえかよ!
え?だったらとっくにお前が俺のもんになってだろうが!?って、
ボーマンは切ない憤懣をグッと飲みこむしかなかった。
それからボーマンはアシュレイを交えて、
ステラと逢う事が多くなった。
ステラに対して妙な気で近づいているんじゃないんだ
って、事をアシュレイに表明したい思いもあったんだけど、一つにはアシュレイに逢う口実が出きることでもあった。
アシュレイにはああ言っては見たものの
ステラがアシュレイと血の繋がりがあるんだと判ると
ボーマンの中で尚更ステラと肌身を重ねて
アシュレイを感じ取りたくなって来てしまっていた。
そんな自分が激情に流されない為にも、
アシュレイを交え出したのである。
何よりも男同士の約束を守らなきゃ
アシュレイに見そこなわれてしまう
って、ボーマンも必死でもあったのである。
皆みんなが大学に入る為の試験勉強に
身を投じ始める頃になると、
流石のボーマンでさえノートを覗き込んでは
学習した事と必死に取り組む事になったのである。
が、その甲斐があってか
ボーマンも、当然アシュレイも
ストレートで医科薬科大学に合格したのである。
ボーマンは相変らずアシュレイと肩を並べて、通学し
同じ講座を拝聴する事になり、
ようやく一息つくとボーマンは思い出したのである。
そう言えば可愛い妹のようなステラとも
もう随分逢ってないボーマンだったのである。
「ステラ・・今年からジュニアスクールだったよな?」
ステラがどうなったのかそんな話しは
従兄であるアシュレイの方が話は早いのである。
ステラの事をたずねてみると
「あってないって聞いてたけど、
ほんとにあってないんだね?
もう、飽きたのかな!?って、ステラ泣いてたよ」
それもこれもアシュレイと同じ大学に入るために
ボーマンが必死に勉強にとりくんだ結果なんだけど。
「すまなかったよな。俺、ちょっと、
そう言う配慮にかけてたなっておもってるよ」
少し肩を落としてたボーマンだった。
「嘘だよ。必死に勉強してる、って、いってあるしさ。
それにアイツ、度胸あるって言うか。
はらがすわってるっていうか。
一度こうって決めたら、もう、一直線なんだよ。
例え、お前があいつの事飽きたって
絶対振向かさせるみたいに・・・必死になるような
一途なこなんだよな」
「う・・・ん」
「だから、お前が本気になれない子なら
おまえにとってつらくなるだけの子なんだ」
「え?」
ボーマンはアシュレイの言葉があまりにも意外だった。
従妹であるステラがボーマンなんかに
玩具ににされちゃ可愛そうだって
必死になってステラを大事にしてやってくれって
言ってたものだとばかり思っていたけれど、
アシュレイの方は長い付き合いの中で
ステラの性格をよくしっていて、
ボーマンが本気じゃないなら
ボーマンが苦しむ事になるんだって事を
本当は心配していたんだ。
ボーマンはこの時になって初めて知らされたのである。
「おまえ」
ボーマンはアシュレイの言葉に
胸が詰まってなんにも言えなかった。
「こんな事・・・ステラに言っちゃだめだよ」
やはり、アシュレイは
ボーマンの男としての気持ちを先に考えている。
若し、ボーマンが本当に完璧に
ステラをセックスフレンドくらいにしか
考えてなかったとしたら、
そして、そう言う関係になってしまったとしても
アシュレイは逆に遊びのつもりならそれでかまわないんだ。って、そう言う風にボーマンの男心を
うけとめてしまうってことでもあったんだ。
でも、ボーマンの心の底にある
「誰かに哀しい思いをさせちまったら自分をくるしめちまうって部分」を、アシュレイはよく判っていたのだ。
「ボーマン・・・本気ならいいんだよ。
例えどうなっても、君が自分を責めずにすむ。
それでも・・・僕は」
言いかけた言葉を途中でとめると
アシュレイは真直ぐ前を見た。
「ボーマン。時間だ」
教室の前の中央に設けられた机に
講師が携えて来た資料を置いて黙って一礼をすると、
本草薬学についての授業を始め、
アシュレイはもうそれにじっと耳を傾け始めた。
昼までの2時間を考えると長い講座ではあるが、
斜交いに見えるアシュレイの真剣な眼差しが
ひどく愛しくてボーマンもいつしか
とくにアシュレイが没頭する本草学に
一番興味を覚えるようになっていた。
この前にアシュレイが言葉を切ったままで
その続きが気になるボーマンではあったが、
どこか女々しく思えて気になりながら
そんな事はちっともおくびに出さないでいるボーマンだった。講師が教室を出て行くと
アシュレイがいつもの様にボーマンの傍に来ると
二人で肩をならべ学生食堂までぶらぶらと歩き始めた。
「今度の日曜、七時。出発!!」
アシュレイの言う事に
「へい、へい」
って、ボーマンは返事をしている。
草木学の現場体験として、外に出て
その場にある草木で薬剤を抽出して
サンプルを添えて報告論文の提出という課題が
出されたのである。
「たく。サンプルより先に
俺は目覚まし草をさがさなきゃ・・」
「おこしてやるよ」
くすくす笑いながらアシュレイはいっているけど
「たあー!おことわり!お前のは手加減なしなんだから」
ボーマンは必死に御断りをしている。
「ア.だって背中に入れたって知らん顔してるから・・」
「ェ!?だからって、パンツの中に
氷をつっこむやつがいるかよ!!」
「でも、おきたよ」
「たりめえだろうが。
ェ!?俺の息子は凍傷になりかけそうだったし
氷が溶けて来たおかげで、
いい歳こいて寝小便したみたいだし、
踏んだりけったりだったじゃねえかよ」
「まあ、いいや。鍵はあけておいてよね」
「おてやわらかにな」
「ああ」
実にさわやかな笑顔で返事を返してくれたアシュレイに
次の日の朝にはやっぱりボーマンは起こされている。
本当はとっくに起きているボーマンなんだけど、
こんな事でもして少しはアシュレイに
かまわれたいボーマンなんだから
この際知らん顔をしてあげよう。
やっとこせ起き出したボーマンに
こんな事だと判ってるアシュレイは
持って来たバーガーを突き出すと
「早くそれ食べて・・歯を磨いたらでかけるよ」
「バカヤロー。まだ6時半じゃねえかよ」
ちらりと見た時計はそんな時間だったけど、
アシュレイはボーマンの為に
もっと早い時間からおきて
出かけてきてくれてるって事なんだ。
「たく、おまえ・・いい嫁さんになれるわ」
「誰の?ボーマンみたいに手の掛かる奴は
他にいやしないよ」
「わるかったな」
バーガーをほうばりながら、
ボーマンはクーラーの扉に手をかけると
アイスコーヒーを引っ張り出した。
バーガーを胃の中に流しこむみたいに
アイスコーヒーをのむと
ボーマンは大急ぎで歯を磨き、靴をはいた。
「僕の分は無しか?まあいいや」
って、アシュレイは呟きながら、
ボーマンの使ったグラスにアイスコーヒーを注ぎ込むと、
ぐいと飲み干して
手早くコーヒーやらグラスやらを片付けると
ボーマンの後に続いた。
『おまえ・・』
アシュレイの無造作な様子に
知らん顔を決めこんでいたけど
なんだか、ボーマンは
とっても嬉しくなってしまっていたのである。
なんにせよ・・間接キスだったのである。
どっちかと言うと逆の順の方が嬉しくもあるけど。
アシュレイにそんな気なんか
さらさらないのは判っているボーマンなんだけど
どこかでひょっとしてアシュレイも
ボーマンに友情以上の物を
いだいてくれているんじゃないんだろうか
って、想像できるだけでも
ボーマンはしあわせであったのである。
そんな二人が家を出て
目指すサライナ高原に辿りついた頃には
お日様はもう天中高くあがっていた。
「ボーマン・・・翁草を探そう」
「え?」
「ニトログリセリンみたいに、軽い心臓発作に効く。
血圧を下げる効果もあるから
使い方を間違えると死に至ることもある。けど・・」
「いや、判ってるよ。判ってるけど・・・。
アレはもうすこし先じゃないと・・・」
「あるさ。今年はこんなに暖かいんだ。
出てきていてもおかしくない」
翁草の抽出法は非常に簡単で
アルコールに成分が溶け出して行くから
見つけてしまえば
もうサンプルが出来あがったも同然なんだけど、
草木資料集には全盛期は初夏となっているのである。
「初夏が全盛期なら、
今頃には萌黄色の芽をだしていなきゃおかしいだろ?」
ボーマンの不安を払拭するために、
アシュレイは重ねて言放った。
「今回はサンプルぶんだけあればいいわけだろ?」
「確かに・・な。おし、探そう」
二手に分かれて延びきった草の中を
掻き分けて探し出す事小1時間。
「あったあああああああ」
ボーマンの叫び声にアシュレイが駆け寄って来た。
「やったね。ボーマン、おまけに密集して這えてる」
アシュレイはボーマンと自分の採取瓶に
大事に何本か翁草を折り取り詰め込んだ。
「ここだね。覚えておこう。夏にもう一度取りにくるよ」
翁草に語りかけるアシュレイの横顔を見詰めてる
ボーマンの中にジーンと沸き上がってくるものがある。
ボーマンにはどうしょうもなく
アシュレイが愛しいんだって事を自分に付きつけられていた。
うっとりと翁草を見詰めるアシュレイを
その背中ごと抱き締めちまいたいって
伸びかけてしまう手を拳に作ってボーマンはこらえていた。
「ボーマン。僕は薬学の中で一番草木がすきなんだ」
アシュレイの言葉にハッと我を取戻したボーマンである。
「あ?ああ」
どこか間の抜けたボーマンの返事に訝る様子も見せず
アシュレイは
「僕は自然であるって事が大切なことだって思っているんだ。科学精製物は本来の人間の治癒力を無視する事が多い。
だから結局、別の副作用のせいで
新たな病気を作り出してしまう事がよくある。
それって詰まる所、病気自体を何とかしようとするせいだ。病気になってしまうような体質異変を改善しようとせず、
薬で病気だけを抑えこもうとするから身体に無理がいく。
それって自然じゃないよな?
無理ってやっぱ自然じゃないよな?」
「あ、ああ。確かにそうだと思うさ。けど・・」
「判ってるよ。そういう薬に頼んなきゃ、
もう間にあわないくらい病気が進行してる場合がある。
そんな時は仕方ないんだ。
でも、からだの中の自然治癒力まで破壊したり
あるいは身体自体の治癒力が
薬物を拒否したりするのが副作用だろ!?
それを抑える為に免疫抑制剤を
投入しなきゃならなくなったり・・・。
そんな薬はどう考えても不自然だろ?」
珍しく語気の荒いアシュレイに
ボーマンの方がグッと息を飲んだ。
「ボーマン。僕は・・・」
アシュレイはそこまでいうと言葉をとめた。
「あーん?なんだよ」
ボーマンが聴く体制でいるのを確認する為だったのか
アシュレイはゆっくりと言葉を進めた。
「僕には君とステラとの関係もそんな風にみえるんだ」
「え?」
薬学の話しから180度違うステラとの事を
突然持ち出されて来たボーマンは
アシュレイのいわんとする事の意味を考えていた。
アシュレイのいうことは確かに的を得ている。
アシュレイへの恋という病気を
ボーマンは確かにステラという製剤で抑えこんでいる。
そんな事ぐらいはボーマンにだって判っている。
問題はアシュレイがその事実を
どこまで認識しているのか!?
ずばりと言ってしまえば
ボーマンのアシュレイへの気持ちを
アシュレイ自身が気がついていて、
今ここでその気持ちを迷惑だといいたいのだろうか?
ボーマンはごくりと唾を飲みこむと探る様に尋ねてみた。
「おまえ・・・。
いつか、なんか言いかけて止めた事があったろう?
それって・・この事なのか?」
ボーマンの見詰めた面差しがこくりと首を落とした。
「僕には、君にはもっと本気になれる娘が
現れる気がしているんだ」
「俺がステラにまじじゃないって?」
「そうはいってないよ」
ボーマンはアシュレイが
どうやらボーマンの気持ちには感づいてないと、思えた。
軽く余裕を取戻したボーマンは
「んじゃ、なんだってんだよ」
と、アシュレイの続きを促がした。
「簡単に言えば・・・あわない」
「あわない?」
「ああ・・・」
「どういうふうに?」
「ステラはきっと君の為になら
どんな女の子にでもなるよ。
でも、そこが君とあわない。
いや・・・いずれあわなくなってしまうんだ」
「わかんねえな。
ェ!?そんなのって男名利もいいとこじゃねえかよ!?
喜ぶ事はあっても・・・」
「君は、自分の周りを回る惑星をもつ星のタイプじゃない。君自身がどうしょうもなく惹かれて
誰かの周りを巡る惑星になんなきゃ
君は軌道を失ってしまう」
コイツ、やっぱり俺の気持ちを
知ってんじゃねえのかってボーマンは考え込んでいた。
「俺、そんなにたよりねえか?」
「ああ、違う。違うんだ。ボーマン・・僕は」
「・・・・」
黙りこくってしまったボーマンに
アシュレイは覚悟を決めた様に
「ボーマン。僕は君の惑星にはなれないんだ」
と、告げた。
「あ?え?」
アシュレイはボーマンの気持ちに
気が付いていたという事だ。
「判ってるだろ?僕は・・僕達はそれじゃ不自然だ」
「お、男同士だからか?」
「そう。草木を見たってどの自然を見たって、
雌雄の結びつきがセオリーだ。僕は自分が許せない」
と、いう事は
アシュレイもボーマンへ気持ちはあるってことなのか?
「ンなこといっても、
思いはどうにもなんねえじゃねえかよ?
聖人君子じゃあるまいし、
こんな思い方しなきゃなんないって
定めたとおりに心が動いてゆくかよ?」
アシュレイはボーマンの言葉を聞きながら
困ったような切ない顔になった。
「ボーマン・・・否定しないんだ?」
「あーん?」
アシュレイは泣崩れそうな顔になっている。
「どんなに、つらかったか。
君がほかの奴ラの所にいっちまうときでも
僕は自分の気持ちをおさえこんできた。
それでも君が本気じゃないってわかっていたから
笑っていられたよ。
でもステラといるのを見た時、
僕は胸の中が煮え繰り返った」
「あ?」
「だろ!?君は君の恋を誤魔化している。
ステラに僕を同化させて
ステラで自分を誤魔化そうとしている。
そんな恋が本気なわけがない。
でも・・僕は君をうけとめない。
そんな僕に君を責める権利はない」
「いつから気がついていたんだよ?
ェ!?お前。いつから俺のこと」
「はじめから・・・。であった最初から・・」
「な?なんで・・」
「だまっていたって?」
ボーマンは軽くうなづいたけど
アシュレイのいいたい事は見えていた。
『不自然。いや、もっと肯定的に
アシュレイは(無理)な生き方だと考えていたんだ』
「俺、お前をきりくずしたりしねえだろ?」
「判ってるよ。判ってるから・・・・」
そんなボーマンだからこそ
なおアシュレイも本気になっちまったてことだったんだろう。
「俺、どうすりゃあいい?」
蛇の生殺しじゃないが、
ボーマンにとってはもっと辛い局面を迎えてしまった。
「いつか、いいこがあらわれるさ。
そん時は君も年貢のおさめどきだ。
僕も君にハッピイーウェディングっていってやるよ」
「ばかやろう・・・」
アシュレイの決心は固い。
ボーマンへの気持ちを認めても
その心通りには生きていこうとはしない。
「んでも。
ステラが俺の惑星になれるかもしんねえ理由だろ?
お前のいうとおりどんな女にでもなるなら、あいつが・・」
「否定はしないよ。でも順序がちがう。
君がステラの周りを巡る惑星になれるなら」
『今の俺はステラまでなくしちまいたくねえだけだ』
口に出せない呟きを胸の奥にしまいこんで
ボーマンはアシュレイを覗き込んだ。
「ェ!?俺をふっちめえやがって
後で後悔したってしらねえぞ」
「後悔してるよ。でも・・・僕はもっと後悔したくない」
「くそばかが・・・」
落ちてきそうな涙を堪えて
ボーマンはアシュレイの背中にまわると
「一度だけだ。これっきり、最初で最後だ。
この3年間の精算にしちゃ・・すくなすぎるけどな」
そういうとボーマンはアシュレイを抱きしめた。
「ボーマン。僕には充分だ。
どうしょうもない後悔で自分をせめさせてくれるなよ」
「?・・・」
「なんで、女にうまれてこなかったんだろうってね」
「俺はお前が男だろうが女だろうがどっちでもいいさ。
お前が俺とは友情で結ばれていたいって思ってんなら
俺はそうする。失せろというなら・・そうする・・」
「ボーマン・・・。僕を惑星にしちゃいけないんだよ」
「だよな。し方ねえ。俺のダチにしといてやらあ」
アシュレイの肩口に
ボーマンの泪が伝い落ちるのを
ボーマンは止める事が出来なかった。
それから二人の出した報告論文は
その年の優秀論文の候補として
大学の保管庫にしまわれることになったのである。
普段通りに授業を受け
普段通りにボ―マンとアシュレイは話しをしている。
時折ボーマンの切なそうな顔を見つけると
アシュレイは軽く苦笑して見せた。
ボーマンもこれで良いんだって考える様にしている。
何もなくしたわけじゃない。
考え様によっては踏ん切りがついたのであり
アシュレイにとっても生き方をかえずにすんだうえ
友情までをも失わずにすんだという事なのである。
放課後になるとボーマンはよく一人で
ステラのところに向かった。
「ステラんとこ、いってくるわ」
アシュレイにそういうと
「僕にいちいちことわりをいれなくていいよ」
「ん・・んでもな」
『君が僕をステラに重ねてなければいいんだ』
そんなふうにアシュレイの瞳が語りかけて来る。
「んじゃな」
ボーマンがステラんちの前まで来ると、
2階の窓縁に腰をおろして外を見ていたステラが
ボーマンに気が付いた。
「あがってきてよ」
「いいのか?」
「うん」
鍵の空けっぱなしのドアを開いて
ボーマンは2階のステラの部屋に上がって行った。
「なんだか、元気ないね?」
「んなことねえよ」
「そっかな?」
上がって来たボーマンの顔色を
ステラはいつも気にかけている。
ここしばらく逢う度に同じ会話から
二人が話し始めている事を
別段気に、とめないでいたけど
確かにボーマンが何となく元気がないのは嘘じゃない。
けど今日は少しだけボーマンが違っていた。
ここしばらく考えていた事を
ボーマンが、はっきり決意として口に出そうと
決めていたせいだろうと思う。
「あんなあ」
「ん?」
口篭もるボーマンを促がす優しい瞳が向けられると
ボーマンは一気に
「なあ、お前今十三だよな?
後、三年いや、おまえがシニアスクール卒業したら
俺と一緒になんねえか?」
「え?」
びっくりしたようなステラの瞳が大きく見開かれ、
ボーマンを見詰めたまま、わななくと
瞳が潤みだして大きな涙がぽたりと落ちた。
「うん、うん・・」
って、ステラは頷いた。
「俺、おまえとのこと・・まじに考えていきてえんだ」
ボーマンがアシュレイに対して見せられる誠意は
こんな形でしか実行できないんだって事を
ボーマンが知らされた日から
ボーマンはずうううっと考えていたんだ。
アシュレイの言う様に
ステラの事を諦めちまったら、捨てちまったら
それはボーマンにとっては
アシュレイへの思慕さえも否定するように思えていたんだ。アシュレイへの思いを貫きとおす為にも
ボーマンはこんな形の決意を考えついたんだ。
だけど。
結局それもボーマンが
やっぱりアシュレイとステラを重ね合わせているに
過ぎないことにボーマンは気が付いていなかったんだ。
それに気が付かされる時は
すぐそこまで来ていたんだけど
ボーマンがそんなことが判る訳もなく
今は只泪ぐんだステラを愛しい人として
しっかり胸の中にくるんだボーマンだった。
夏が来るまで
ボーマンとアシュレイのぎこちない調子が続いていた。
ステラに対してはアシュレイとの約束を守って
指一本ふれてなかった。
あっと、ちょこっとだけ
小さなキスくらいはしちゃったボーマンだったけど、
嫁サンに貰うまでこれ以上は
なーんもしねえって変な決心をしていたボーマンだった。
そんなある日。
幾ら待ってもアシュレイが講座に顔を出さなかった。
珍しく病気かよ?
そんな事を思いながらボーマンは
いつものカフエテラスの窓縁の席に座って
ステラがスクールから帰って来るのを待っていた。
30分も座っていただろうか。
読んでいた本の上に軽く人影が差しこんだ気がして
顔を上げたらそこにステラが立っていた。
「やほ」
「おう」
「なんか・・元気ないよ」
「あ、いや。アシュの奴こなかったから、
ちょっときになってな」
「あ、あの?ああ?ボーマン。何もきいてないんだ?」
「何もって、なんがだよ?」
俯いたステラの顔を覗きこむボーマンに気が付くとステラは、
「あ・・。家においでよ。そこで話すよ。
私もショックだったんだよね」
「な!?なんだよ?なんかあったのかよ?」
なんだか、ろくでもない予感を引きずりながら
ステラの家に付いて行ったボーマンが
そこできかされたことは、
私もショックだったというステラを
慰めている所の騒ぎでは無くなってしまった。
ステラが話し出した事にまずボーマンは
「それが・・・なんだっていうんだ?」
って、ききかえした。ステラはまず最初に
「西イーリアで戦争が勃発したっていうニュースは
知っているよね?」
と、ボーマンに尋ねた。
それがなんだってアシュレイと関係があんだよ?
そう聴き返そうとしたボーマンは
ステラの顔色の悪さにアシュレイに関係あんだな、
と、直感したんだ。
「あ、あのね、アシュレイが志願するっていいだして」
「へ?」
志願するって、
つまり、
戦争にいく?
参加する?
誰かを殺しにいくけど、
へたすりゃあ自分が殺されちまう・・・そ、
「ば・・か、うそ・・」
からかってんじゃねえだろうな?
聞き返そうとしたボーマンはステラの顔をみて
その言葉を飲みこんだ。
途端、ボーマンは、ステラの家をとびだし
アシュレイの家に向かって走り出した。
息を飲みこめないかと思うほど
大きな動悸が胸の中で鳴っている。
『嘘だろ!?嘘だろ?なんで?
お前がいかなきゃなんねえんだよ。
なんで、俺に一言の相談もなしに
そんな事をきめちまうんだ?』
震える指先でボーマンは
たどり着いたアシュレイの家の呼び鈴を鳴らした。
『いねえのかよ?いってくるよも言わずに・・・。
気が付いたときにゃ、顔一つもみねえままさよならかよ?え?ありかよ?アシュ・・』
呆然としたままボーマンはドアの前で突っ立っていた。
ノブの音が軽くカチャリと鳴ると
開かれたドアの中にはアシュレイが立っていた。
「やあ・・来ると思ってたよ。ステラから、きいたんだろ?」
ひどくさっぱりした顔でアシュレイはボーマンを迎え入れた。
「ちょうどいいところにきてくれたよ。
渡したい物があったんだ。
今日、あそこ・・ほら、あの翁草をとりにいってきたんだ」
戦争にいくなんてまるで嘘みたいなアシュレイの話し振りに、ボーマンは自分が
変なトリップをしたのか!?夢でもみたのか?と考えていた。が・・・・。
「一緒にとりにいけなくなっちゃったし、
コイツとも約束だったし・・・」
嘘じゃねえんだ。
トリップじゃねえんだ。
夢じゃねえんだ。
ボーマンは現実を受け止めるしかなかった。
「い・・いつ・・いつ、いくんだ?」
「明日・・・。午後の便で」
あまりにもはやすぎる展開に
ボーマンは事実を認める間もない。
なのに次々と新しい事実をつきつけられている。
「な・・なんで・・」
なんで俺に一言も相談せずに決めた!?
なんでそんなとこにいかなきゃなんない?
なんでおまえがいかなきゃなんない!?
ボーマンの頭の中には
色んな疑問と葛藤がうずまいていたが
どの言葉を先にだすことよりも、
アシュレイの人生はアシュレイのものであり
ボーマンがとやかくいう必要も権利もないんだ、
と、ボーマンに悟らすほど
アシュレイの決意は固くその表情の中の瞳の色は
不思議なほどに充実した光をおびていていた。
「だけど・・だけど。なんで、おまえがいかなきゃなんない?」
やっと出したボーマンの言葉はその一言だった。
「皆がそういったら?
皆がなんで俺が祖国をまもんなきゃいけないんだ?
そう言ったら?
誰がこの国をまもる?
僕は祖国を持たない流離人になりさがる。
国があって人がいる。
人がいて愛があって・・・。
そして幸せな生活がある。
根本の思いをなくして
人を救う小手先の薬学者がなにを救える?」
「・・・・・・・」
「ボーマン。
僕がそこまでしてこの国をまもっていきたいのは
この国に君がいるからかもしれない。
この国で君にいつかハッピーウェディングを
迎えさせるのが・・・僕の君への誠意、なぁ〜〜んちゃって」
冗談めかしてしまったアシュレイだったけど、
あるいはアシュレイなりの
けじめの付け方だったのかもしれない。
「・・アシュ」
「ステラといきてゆくつもりなんだろ?」
だったら僕をひきとめるな。
お前が巡る惑星はステラだろ!?
それを見せてみろ!
それがほんとうに僕を幸にしてくれる手段だよ。
腹のそこに、
そんなアシュレイの声が響いた気がしたボーマンだった。
「ば、ばか言ってら。
お前の話しを聞いてると
まるで死ににいく奴みてえじゃねえかよ。
ェ!?俺はお前がどうしょうが、こうしょうが、
ステラを巡って行くさ」
「ありがとう。でも、ボーマン。
君が幸せならその相手はステラじゃなくてもいいんだ」
「ちっ、まだ・・いってら」
既にアシュレイは
この先に来るステラとボーマンの別離を予測していたのだ。けれどアシュレイは
もう、ボーマンに何もいおうとしなかった。
ボーマンに最初に言ったように
ボーマンの恋という病気は
ステラという治療薬では治せない。
それは例えて言えばモルヒネように
痛みを忘れさせ
副作用で軽く甘い陶酔を与えてくれてはいるけれど、
けして病気自体が治っている訳じゃない。
アシュレイはそこに気がついている。
ボーマンだってそんな事くらい判りそうな筈なのに、
恋をなくしている痛みを感じさせないモルヒネを
手放せなくなっている。
その上それにステラへの恋であるという正当な理由をつけて、自分でもその理論を信じているものだから、
それが実はモルヒネである事を認められずにいるのだ。
だけど考えて見れば
ボーマンの惑星にならないと決めたアシュレイのせいで
ステラがモルヒネにされているんだって事であれば、
ただ、ただ、祈るしかないアシュレイなのである。
ボーマンが本当にステラの事を恋にしてくれる前に
ステラがアシュレイの替わりとして
擁かれるような哀しい事になってしまったら、
多分一生ボーマンはアシュレイに対して
責任を負う形でステラと暮らして行くだろう。
そして、
そのうちどこかで傀儡でしかなかったステラへの思いに
ボーマンが苦しんでゆく。
だからこそ、本ものになるまで
ステラをだいたりしちゃいけない。
アシュレイは自分がボーマンの傍にいるからなおのこと、
ボーマンがモルヒネがほしくなるんじゃないのだろうか?
って、ことも考えた。
全然別の道を歩む、
御互い別個の人間でしかなかったんだって
ボーマンのなかでいつまでもけりがつかないんだ。
自分がボーマンとしっかり決別しない限り
また、ステラもいつまでたっても
ボーマンのモルヒネでしかない。
アシュレイと決別できて
ステラを一個性の女性として
見詰められるか見詰められないかは
ボーマン次第なんだろうけど、
そのためにはアシュレイ自体が
ボーマンを吹っ切るしかないって考えていた。
そんな時にこの戦争が勃発した。
不思議なほど素直にアシュレイはいこうと思った。
僕は男だって、
男なら何よりも恋よりも自分よりも家族よりも、
国を祖国をまもりたいと、
本当に何故かわかんないけど素直にそう思った。
多分それは自然な気持ちなんだろう。
何の迷いもなく、
死ぬかもしんないって思うのに
やっぱりいこうって思ってしまったんだ。
そうなってしまったら、
自分にとってもボーマンにとってもステラにとっても
何もかもを変転できるよいチャンスまで
ついでについてきちやったって感じだった。
心機一転と言うのはこんな事なのかもしれない。
戦争から帰って来たら僕も恋をしよう。
一生を委ねられる可愛い彼女と巡り会おう。
そんな事をアシュレイは思った。
僕が守った祖国に根付いて
その土地に生まれた彼女と
その土地で暮らし、子供をもうけ育み
そして老いさらばえ、やがて、祖国の土に返る。
ボーマン・・・きみも同じ。
巡り会った人を大切にして
その人がいなきゃ生きて行けないくらいな恋をして
彼女と暮らせて行けるこの祖国がある事を
感謝できるくらいにしあわせに・・・。
「翁草の成分抽出・・・頼めるよね?」
俯いたボーマンが子供の様に思える。
父さん御仕事ばっかであそんでくんない。
そんな風に言いたいのに、いっちゃあいけないから
少し不貞腐れて小石でも蹴り上げて見せる。
そんな息子に
「でも父さんはそれでも仕事いくんだ」って言ったら、
きっと子供はうなづくんだろうな。
「あ、ああ。わかった」
「ステラもね。あのこはほんとうにいいこだよ」
「ん・・」
「らしくないよ!?
いつもならわかってるって煩そうに返事するくせに・・・」
「俺・・・」
「ボーマン。君とであえてよかったと思ってるよ」
「アシュ・・・」
「ん。じゃあ、元気でね。単位おとすなよ。
君の方が薬学にむいているっていつも、おもってたんだ。
本当だよ」
「か・・帰ってこいよ」
「当り前だろ。
ハッピイウェディングって言わなきゃなんないんだよ」
「は、当分さきだぜ。それまで戦争やってるつもりかよ・・・」
「あはは。手の早いボーマンがあ?
出来ちゃった結婚になんないって!?最高のジョークだ」
「ば、ばかやろ・・・」
「ボーマン。本物で、本気なら、それでいいんだ。
ステラでなくてもステラであっても君が本当に本気なら、
それだけわすれないでいておくれよね」
「わかった。ん。じゃあな」
ボーマンはそのまま外に出て行った。
とめられるものならどんなにしたってとめただろう。
でも、ボーマンにはそれが無理だって事が判ってしまった。かといって、ボーマンはアシュレイのような考え方で
自分も従軍する気にはなれなかった。
よほどついてゆこうかとも、思った。
けれどそれは国を守る為じゃない。
アシュレイの傍にいたいが為だ。
そんな動機のボーマンが
アシュレイの傍にいようとするには
アシュレイの志はあまりにも崇高すぎた。
俺が付いていっちまったらアシュレイの志を
ちゃちなものとして侮蔑しちまうことになるじゃねえか。
戦争をピクニック気分で考えてるみてえなもんだ。
それに俺にはできねえ。
死ぬかもしんねえって・・のに・・
ボーマンはこんなに悲しくて
おまけにどうしょうもなく
ちっぽけでつまんねえ自分に打ちのめされてもいた。
けれど同時にアシュレイって言う奴が
目先の惚れたはれたなんかじゃない
もっとでっかくて深い愛をもっている事に頭をたれていた。
「そんな、おまえだから、諦めきれねえんじゃねえかよ」
とんでもないほど遠くにいってしまうはずのアシュレイが
ボーマンの心のなかでもっと大きな存在として
一番ボーマンの心の近くにいついてしまったと、
ボーマンは感じていた。
次の日の午後。ボーマンはぼんやりと授業を聞いていた。
「今頃かな・・・・」
今頃アシュレイは出発して飛行機に乗って
ボーマンのいる空の下を見下ろしているだろうか?
俺はお前が守りたいって言った
この祖国でいきぬいていく。
なあ?それがお前がくれたプレゼントに答えることだよな?淋しげな顔がふっと窓の向こうの空の彼方をみあげたが
やがて、ボーマンはノートを取るために
きちんと前を向いて手を挙げた。
ボーマンの挙手に気がついた教授は
「なんだね!?ボーマン君」
と、たずねた。
「教授。さっきの所もう一度きかせてください」
早速ボーマンは用件を伝えた。
「ん!?説明が悪かったかね?」
「いえ、とんでもありません」
「どういうことかね?」
「きいていませんでした」
ムッとした顔が真顔に戻ると
「今日の講義はこれで終る。
このクラスで一番熱心で優秀な生徒が
聞く気にならないような授業だった事を反省する事にする」
教授が言放つと今日の講義の日程が
これですべて終えてしまった。
自分の招いた意外な結果にボーマンも虚を突かれていたが、そうなったら、し方がない。
ボーマンはふらりと外に歩き出した。
と、言ったって家に帰る気にもなれない。
ボーマンはとぼとぼと歩き出した。
いつもなら傍にいるアシュレイはいない。
ステラもこの時間だから、
まだスクールの授業の最中でしかない。
独りぼっちである事が
ボーマンにひどく重たくのしかかって来るように感じられた。
「たまんねえな・・・」
わかっているのにボーマンは
ふとアシュレイの姿を捜し求めている。
ひょっくり、眼の前の木の影から
ボーマンを待ち伏せしていたアシュレイが
とびだしてくるんじゃねえかって
ボーマンはつい思い込んでしまう。
「わけ、ねえよな」
こんなにもアシュレイが
ボーマンの心を占めている事を思い知らされるだけだった。
ぽつねんと一人座っているボーマンに
ここぞと粉をかけて来る奴がいた。
もの淋しさとぽっかり空いちまった物理的な傍らの空間を
意識したくなくて
ボーマンはそいつとの特別で特殊な時間を共有した。
「なんだよ?おわったら・・さっさとかえるのかよ?」
不服そうに言いながらも腕を絡めて来る相手に
ボーマンはにべない返事を返した。
「嫌なら、今回でおわり。もう・・あとはない」
「そ、そんなつもりでいったんじゃないよ。
ただ、もうすこし・・・」
「もう・・少し、なんだよ?」
「ね、もう一回・・・だめ?」
たいていの奴はこんな風にボーマンの虜になってしまう。
「ち、しかたがねえな」
妙な後腐れはごめんだけど、
なぜだかすっきりしてないボーマンも
今一度って気になってる。
「二度めは、せつなくなって、たまんないぜ、しらねえぞ」
ボーマンの動きにもう声を上げ始めた相手を
小気味よさそうに見詰めながら
ボーマンに訪れて来る一瞬の陶酔を追い求め始めた。
その瞬間がボーマンの全神経を快楽そのものにかえてくれる。何もない。
只ひたすら甘い陶酔がボーマンを酔わせてくれる。
「ああ・・いい、いっちまうぜ」
「あ・・や、まだ・・ね、ね」
だけど、ボーマンは相手の事を
道具としてしか考えちゃいない。
愛情もなければどうしょうもない独占欲もない。
いまはひたすら自分への至福の時を迎えたいだけでしかない。
それでも一層激しくなったボーマンの動きが止まる頃でも、相手はボーマンのいったとおり、
堪えきれない嗚咽を漏らし続けていた。
吐出しきっちまうと
やはり、ボーマンの中に淋しさがうずまきだしてくる。
くわえ煙草で服を着る頃には
今度は無性にステラに逢いにいこうって思い始めている。
身体の欲求がなんとか納まると
今度は心の欲求が頭を擡げているのに気がつかされた。
「ちっと、遅いかな」
呟いては見るが
ボーマンは思いついてしまった考えを
変える気にはならなかった。
灰皿の中に煙草をもみ消すとボーマンは外に出た。
背中からこんどはいつ逢えるって声がきこえたけど
ボーマンは返事もせずに歩み出した。
「ち、さっさと恋人きどりかよ」
ちとしつこさそうな相手だなと思うと
ボーマンは二度目はねえぜって呟いた。
ステラの家までやってくると
ボーマンは家人に迎え入れられた。
「ステラなら二階にいてよ」
と、青年の来訪の目的も判っていて、
かつ逢う事を快く承諾してくれる。
いや、むしろ勧めてくれていると言った方がいいだろう。
それもこれもアシュレイが
いかに絶大な信頼を寄せられているかを表わしている。
ボーマンだけを見たらどこの両親でもきっと、
夕刻すぎて女の子を訪ねてくる男の中の危険な匂いを
感じとることだろう。
それがボーマンでなくたって
「明日。出直してらっしゃい」
って、事ぐらいはいうだろう。
が、そこがアシュレイという存在のすごさだ。
アシュレイの友人であるボーマンならば
仮に娘といい仲になったとしても
むしろ望む所だとまで両親に思わせちまっていたに違いない。その証拠に二階に上がった
ボーマンの様子を見に来る事さえしなかったのである。
「よお」
「あ・・」
ほんの少しボーマンは照れている。
どっちかと言うとクールで自分から
女の子なんか追いかけまわすようなボーマンじゃない。
それが矢も立ても堪らなくなって
ステラの前に立っちまっているんだから、
なんだかバツがわるい。
「どしたの?」
机に向って座っていたステラが立ちあがって
ボーマンの側に寄って来ると
ひょいとボーマンを覗き込んだ。
「珍しいよね。でも・・うれしい」
ちょっと臥せ目勝ちになったステラがひどく色っぽい。
おまけにボーマンの今の気持ち。
「別に、なんでもねえよ」
と、いったボーマンの腕がステラを捕え
思いきり抱き締めていた。
細こくってそのくせ丸みのある
やわらかな少女の体がボーマンの腕の中にある。
『ちきしょー・・・やりてえ・・・』
たった今。
連チャンですませて来たはずのボーマンの中で
心も体も重なったセックスを求める気持ちがわいてきている。心の重ならないセックスなんてのを
いくらやってもボーマンを満足させるはずがない。
その証拠が今のボーマンだ。
ズボンの中でひどく存在を誇張している物には
それが当のボーマンより先によく判っているって事だった。
「ボーマン・・好きよ・・・大好きよ」
うっとりした声がボーマンのステラへの気持ちに答え、
なだらかに撫でるようにボーマンの胸の辺りで繰返され、
ボーマンにはステラの小さな息がひどく熱く感じられた。
『いけねえ・・・まだ、はやいぜ』
ボーマンは抑えきれない欲情を少しだけ解放したかった。
つもりだった。
胸の中に顔を埋めてるステラの顎の辺りに
手を差し延べるとボーマンの方に向けた。
そっとそのまま愛しいキスを交わそうとしたボーマンが
息を飲んだ。
そこにいたのは・・・・アシュレイ?
『アシュ・・・』
の、わけがない。
だが蒼い瞳を閉じたステラの顔は
そのまんまアシュレイだった。
それがボーマンを狂わせた。
どんなにしたって手に入らない。
そんなアシュレイへの狂おしいほどの激情が
一気に堰をのりこえて
ボーマンの心をがんじがらめにして行く様だった。
『アシュ・・・』
心の呟きをボーマンは塗り替えた。
「ステラ・・・愛してるんだ」
アシュレイに向けた思いをそのままステラに重ね合わせて
ボーマンは思いの丈をステラにぶつけ始めていた。
だから、もう、ボーマンを止める事は出来なかった。
ステラの体を抱きかかえると
ボーマンはスデラをベッドに横たえた。
ステラを覗き込んで、
ボーマンはスデラの唇をそっと指で撫ぜると
「俺のもんだ」
って、言ってステラの唇をボーマンの唇で塞いで行った。
ボーマンの舌が初めてステラの中に割り込んでゆく。
「ん・・」
入ってきた生温かい舌の感触に
ステラは少し驚いた様だったが、
じっとボーマンを受けとめていた。
いやと言うほどの舌での愛撫を繰り返しながら
ボーマンの手はステラのTシャツの中にさしこまれ
ブラの隙間を抉る様にしてステラの胸をまさぐり始めた。
「あ・・・」
ステラの中を走った感覚に堪えきれず小さな声がもれた。
その声に唇を離すとボーマンは
「気持ちいいかよ?」
って、尋ねた。
目を閉じたまま、ステラは小さく頷いて
自分の中に生まれた感覚を恥じる様に
体を横に向けようとした。
「・・・だめだって」
横を向こうとしたステラをボーマンは抑えつけて
Tシャツを捲り上げた。
「俺のもんだって事、お前・・・わかってねえだろ?」
ステラの白い肌があらわになっている。
ボーマンは小器用にステラのブラのホックを外しちまった。ステラの二つの丸いふくらみを曝け出すと
ボーマンはその突起の先を指でクルリと撫ぜた。
「あ・・」
次々と与えられる体の中を走る電撃の快さに、
初めての衝撃の大きさに、
ステラも逆らう事が出来ず
只じっとボーマンに味あわされているしかなかった。
「これも、俺のもんだ。だろ!?もっと、わからせてやる」
ボーマンはステラの胸を両手で揉み上げ、
双の乳房を持ち上げるようにした途端。
それにに舌を這わせていった。
尖った先端をボーマンは吸い上げ、
舌で転がしながら余った片一方の乳房の先端を
手の平で転がしながら指先で摘み上げた。
「あ・・あ・・ボーマン」
ステラの声がボーマンに快感のあまやかな事をおしえている。思ったより大人の体になっている少女に
ボーマンも夢中になっていた。
良いほどステラを享楽の中に落としこんでしまえば
ステラもその快感に逆らう事さえ出来ず
その快感に身をゆだねてしまう。
それがボーマンに全てを与えてしまうという結果を
自分が選び取った事になるとは考え及びもしなかった。
ボーマンの手は遠慮なく次の段階を求め始めていた。
ステラの足先からそれは除除に始まり
なで上げ刷り上げる手の動きが
ステラの太ももを触り始めると、
ボーマンは再びステラの胸から唇を離しステラの唇を塞いだ。そうしておいてボーマンの指先は
ステラの下着の中を弄りだし、
かすかに潤みだした場所にたどりつくと、
潤みを指に絡めてステラのコアにピタリと指を押し当てた。
やがてボーマンがステラの唇を塞いだ訳に納得するような、
ステラの切ない声が、激しいボーマンの指の動きに応え、
漏れ出して来た。
遠慮会釈ない、いきなりのハードぺッティングを
まともなキスさえ知らなかったステラに与え、
ステラ自身に女であることを
かくも、一遍に教え込まなくても良いじゃないか、
と思うほどボーマンの今日の遣り口はてひどい。
『おまえが、俺の最後の女になるんだぜ。
お前が俺を奪うんだ。なにもかも、俺のものになんなきゃ、
ゆるせねえ』
何時の間にかステラの下着はむしりとられ
短いスカートはたくし上げられその両足の付け根あたりに
ボーマンは顔を埋めている。
指先で女が一番脆く崩れてしまう場所をなでまわしながら
ボーマンはステラの部分をみつめている。
『ここが、俺を迎え入れたくなるスィッチ。
ェ!?ステラ、俺はもう、スイッチをいれちまったんだぜ。
お前のプシイがまだ女じゃなくたって
俺のロケットがおまえとドッキングしたいって
もう、いうこときかねえんだ』
ボーマンは自分のロケットに語りかけた。
『まってろよ。今。恋しいプシイにあわせてやっから』
ボーマンほど遊びなれてると、
逆に初めての女の子ほど厄介な代物はない。
さっきまで喘ぎに身を委ねていた女の子が
ロケットの挿入に苦痛を訴ったえだしはじめる。
そんな事さえきにならない程
抑えきれない欲情に突き動かされて、
やっちまうって事を何度か経験すると
適度に欲望のコントロールができ始めてくる。
さらにその声を聞きながら
痛め尽くす嗜虐的段階もすぎてしまうと、
よほど情が移った相手でもない限り
泣き叫ぶような苦痛を与えてまで
セックスする気にはなれなくなったボーマンであった。
「初手はごめんだぜ」
そういったボーマンが今、ステラを望んでいる。
軽くステラの口元を押さえ声を漏らす事を
牽制していたボーマンが
軽いコアへの愛撫を止めないまま
ステラの耳元まで顔を寄せる様に延び上がって行った。
「ステラ・・・」
「ん・・ん?」
「いいな?」
「ん?・・・うん」
ナニが起きるのか。
ボーマンが何を望んでいるのか。
ステラだって頭じゃ判ってる。
でも、その事は・・・
「気が遠くなるほど、つれえんだぞ」
ましてや十三歳。
おまけに身も心も馴らして行く段階も踏まず
いきなり本番。
ちっとやそっとの痛みじゃねえって事は
ボーマンには想像がつく。
かといってボーマン。
ステラがいやだって言ったらやめる気あんだろうか?
『やめれるわけねえだろうが、今更。
もう、だめだぜ。ェ!?いやだなんていわせやしねえよ』
と、ボーマンはこたえることだろう。
だったらステラに聞く必要もない気がすんだけど
ボーマンの持論はこうだ。
「俺はセックスしてえんだ。
アンタの言ってる事は、そりゃあファックだぜ」
さいですか!?
どう違うかしんないけど、
そんな議論は又今度ってことにして
場面を改めてステラの所に戻そう。
「俺のわがままだよ」
そんな事いいながら
ボーマンはステラへの愛撫をゆるめようとはしない。
心地良い最中に何言われたって
その愛撫をくれる相手の思うが侭でしかない。
それくらい汚い手をつかうボーマンが
絶対ステラにボーマンロケットを
味あわせてやる覚悟でいるのは良く判るのである。
が・・・。
汚い手といっても
もっぱら世の中の男の常套手段であるから
くれぐれもこれをお読みの女性諸君。
甘い吐息に負けてトーンでもない男に
「記憶」をうえつけられないようにね。
記憶は一生残っちまうぜ。
ボーマンはゆっくりステラの中に指をいれ込んだ。
「な、こんなふうに・・俺の・・・」
ステラは黙りこくってしまった。
その場所にはさっきみたいな強い快感はない。
その分、意識が覚醒され
ステラはどうしょうもないほど、
恥ずかしい場所に指を入れられてるんだって思わされ、
かあーと血が昇るような気がした。
「いや・・や」
やめてという前にボーマンが
「ステラ・・お前のここ、最高だぜ・・いい女だ」
ステラに切なさそうに囁いた。
ことわっておくがこれは常套文句なんかじゃない。
いや、つまり、ステラへの評価であるわけだけど・・・。
好きな男の切なそうな声を聞けば
誰だってなんとかしてやりたくなる。
ステラもやっぱり覚悟をきめかけはじめていた。
そんな態度をみせられれば
女って生き物はやっぱり受けてしまおう
って、考えてしまうのをボーマンはよくわかってる。
少し迷ってるステラの心を見抜くと
ボーマンは自分のロケットにステラの手を導いた。
「コンな大きいのがはいっちまうんだ・・・」
怖々と引っこめそうになる手をおさえつけて
ステラの手にボーマンのロケットを握らせた。
ステラの頭の中は得体の知れない物体の感触で
まともな思考も判断もできなくなってしまっている。
「かなり・・つらいぞ」
ボーマンはもう一度ステラに確かめた。
何時の間にかステラは最後の行為を向える事を
了承した事になっている。
避けられないことへの恐れでステラは更に黙り込んだ。
ボーマンはそれを察すると
「俺の我が侭だ・・ステラ。
嫌ならこんなことしなくていいんだ」
いやなわけじゃない。
ただ、怖い気がするステラだった。
「あ、あの、あの・・こんなことしなきゃだめなの?」
ボーマンは首を振った。
しなくても良いとも、
しなきゃなんネエとも言ってるように取れた。
そのボーマンの顔色がひどくさみしそうにみえた。
ボーマンはステラに掴ませていた物を
更にしっかりにぎりしめさせると
「男ってやつはしかたねえんだ。ここで確かめてえんだ。
ここでお前を俺だけの物にできるんだ」
「ん・・・」
ステラの瞳からぽろりと涙が落ちていた。
こんなにまでボーマンに望まれているのに
何を恐れる必要があるのだろうか?
「ボーマン。ボーマンの望むとおりにして」
この瞬間にステラが女になったんだ。
そしてボーマンの女になるための・・・、
ボーマンの物になるための儀式をむかえる。
夜おそくなってボーマンはステラの家を出た。
手にはなんだろう!?
袋をもっている。
ボーマンとの一線を越えてしまったステラは
ボーマンにこういわれた。
「な、俺が大学卒業して、くえるようになったら
お前は俺の嫁さんになるんだぞ・・いいな?」
「ん・・」
ボーマンの大きな胸の中に包まれてるだけでも、
充分幸せなステラだったのに
ボーマンはやっぱし以前に
ステラに言った事をくりかえしてくれる。
「俺。お前のバージン。
それまで取っとくつもりだったんだ」
「ん・・・」
ボーマンなりにステラの事を
真剣に考えているのは嘘じゃない。
「けど・・・。もう、遠慮しねえ」
「うん」
「俺にゃあ、おまえしかいねえんだぞ」
「ん・・」
「つらかったろ?ん?な、ステラ・・俺」
『ありがとう』
って、言葉がボーマンには言い出せなかった。
一生懸命ボーマンを受けとめたステラがいじらしくて
そんな言葉なんかいったらひどくちゃちになりそうだった。
「あんまし、おそくまでいると、
御袋さん達に睨まれてきずらくなるから、今日はかえるな」
朝までだって一緒にいて
ずっとステラを感じていたいボーマンだったけど
先の事を考えると適切な考慮だといえよう。
裸のままのステラをしっかり抱き締めて、
ボーマンはすくっと立ち上がった。
そのとたん。気がついた。
「あちゃ・・・」
初めての印がそこにあるのは当然だったけど、
これがステラの御袋さんにでも見咎められたら。
「もって帰ってやらあ」
「あ・・・」
今までの自分じゃなくなった証拠が、
ボーマンの物になった証拠が、
くっきりとステラの目に映った。
なくしてしまった子供の時間が
そこで哀しいよとないているようにもおもえた。
ボーマンはそんなステラの喪失感にきがついた。
「あいしているよ」
ボーマンの声にステラはハッと顔を上げた。
そこにはなくした物と引き換えに手に入れた愛が溢れていた。
「ボーマン」
「記念に大事にとっといてやらあ」
「ェ?や、やだ・・・」
「何で?お前が、俺のもんになっただいじな証拠だぜ」
「それがないと証拠になんない?」
ステラの言葉にボーマンはわらってみせた。
「ステラ。その答えはまた・・・こんどな」
「なに?それ?」
少し剥れて見せたステラだったけど、
その賢い頭でボーマンの言いたい事の意味を直ぐに悟った。
悟った途端ステラは赤くなって俯いてしまった。
つまり、
ボーマンのいう答えとは、俺のものだって事の確認作業。
つまりステラとのHを指してる。
量らずもステラは次のHを催促してしまったってことになる。だから赤くなってしまったのだ。
ステラを特別な女性にしたてあげちまったボーマンは
それからと言うものはわき目も振らず
粉をかけて来るあまたの男女の誘いを見事にけちらして
ステラの元に通い詰めていた。
ステラといる間
アシュレイのいなくなった空白感を感じさせられる事は
一切なくなっていた。
それがどう言う事なのかをボーマンは考える事はなかった。只只夢中でボーマンはステラを抱いた。
「ん・・・」
「まだ、いてえか?」
「大丈夫だよ・・・」
「ん、無理すんなよ」
無理すんなっていってる口の下から
ボーマンは容赦なく激しく動き出している。
「あ、ああ・・ステラ。ステラ・・ステラ・・」
ボーマンを襲う、たまらない絶頂感は
ステラが相手だからこそだろう。
こんな高みを与えてくれるステラの所に
ボーマンは毎日の様に訪れ
毎日のように最後の行為に及んでいる。
ステラの感覚が急激に大人の女になってくるほど
ボーマンはステラに対してやりたい放題のセックスを求めた。ステラの手答えを求めずにおれなかったのだろうけど
十三歳の女の子に
遊びなれたボーマンのセックスを教え込んでしまったのは
後から考えれば随分酷な事だったんだ。
無論ボーマンしか知らないステラが
そんな事に気が付くのはずいぶん後の事で
ステラもこれがセックスだってくらいの感覚でしか
受けとめてないわけで
ボーマンの求めにステラも必死で答えていたに過ぎなかった。
秋を向える頃にはステラもひどく女びて
それが尚更ボーマンを夢中にさせていた。
「戦争はまだ・・おわんねえな」
「あ・・んんん」
ボーマンの膝に後ろ向きで抱かれる格好で
ステラはボーマンにあえがされている。
首筋をボーマンは舐めあげて行くし
後ろから回したボーマンの手が
ステラの乳房をふたつともいじくりまわしている。
時折鋭くつまみあげられるせいで
ステラの体の中には鋭い快感がはしる。
「あ・・・」
思わず上げた声に刺激されるのか
ボーマンもここぞとばかりにプシイの中への
ロケットの動きを早めて行く。
「ボー・・ボーマン、止めて、ア、なんかへん、あ、や・・」
プシイが一つの感覚を覚え始めたその瞬間を
ボーマンがのがすわけがない。
感覚までがボーマンの物になってきたステラを
ボーマンはその動きを止める事なく見詰めていた。
そんなある日。
二つの事件があった。
一つはアシュレイのニュース。
これもステラからもたらされた。
薬学科に在籍という事実がアシュレイの所属を
医療班に位置かえさせることになったと言う事であった。
そこなら敵もこねえ。
医療班への攻撃は国際条約にひっかかる事であり
全世界を敵に回すような行為である。
と、なると・・・。
よし。後は戦争が終るのを待って
かえってきたアシュレイにステラとの事を報告する。
どういうふうに言おうか?
アシュレイが必死で戦争してるのを尻目に
ステラをボーマンの小猫にしちまったんだなんて、
ちっといいつらいことではある。
けど、判るか?アシュレイ。
ステラとのあの瞬間がどんなに甘美なものか。
じーんとくるようなステラとの事に思いを馳せていると
ボーマンの物がうずいてくるようだった。
「ち、今日は俺んとこにくるっていってたんだよな」
そろそろ家にかえってステラを待ってるかな
と、ボーマンはカフエを出た。
「なんだよ」
大学の講座が午前中で終えてしまったボーマンは
ステラがスクールから帰って来るまでの時間を潰していた。そのボーマンの目に映ったのはステラの同級生か?
ステラより幾分背の高い男の子がステラに寄り添っていた。二人は歩きながら何かのカタログをのぞきこんでいる。
ボーマンはズッと二人の側に歩んで行った。
ステラが楽しげに少年を見上げた目がボーマンをみつけた。が、ボーマンがステラにかけた言葉は既に怒気を含んでいた。
「ステラ?そいつ・・なんだ?」
「ア?あの・・」
単なる同級生でしかない。
来るべき創立祭でのクラスの出し物が決まって
その実行委員になった二人が必要な物を取り寄せる
打ち合わせをしながら歩いてきていたのにすぎない。
少なくともステラにはそれだけであったが・・・。
ボーマンが少年の目の中にある
ステラへの特別な感情を見ぬいてしまっていた。
いくつも下の少年に側から見れば可笑しいほど
ボーマンは嫉妬している。
が、ボーマンにして見れば
ステラはいくつも下の女の子なんかじゃない。
ボーマンの指先一つに喘ぐ事を知っている(女)なのだ。
その(女)である部分をみぬいて
少年が惹かれているのは間違いなかった。
「いくぞ・・」
「あ、うん。あ、じゃあ・・あしたね」
ステラは少年に手をふると、
ボーマンのご機嫌を確かめる様に腕を絡ませた。
「なんだよ、随分嬉しそうな顔してたじゃねえかよ」
どうやらボーマンの焼きもちだったとわかると
ステラも少しホッとしてた。
「あは・・うれしい」
「あーん?なんがだよ」
「だって、それ、やきもちでしょ?」
「ば・・ばかやろ」
なんて道々歩いてるボーマンは平気な顔をしていたけど
ボーマンの部屋に入った途端それは豹変した。
いきなりステラを抱き締めるとボーマンは
「おまえまで、どこにもいくなよ。
他の男なんかをみるなよ」
って、どうした事か。ひどくこだわってしまっている。
「ボーマン。変だよ。私、どこにもいきゃしないよ。
それにあの子のことなんか・・」
ステラの小さな肩にボーマンは額を押し当てていた。
そのボーマンの肩がかすかに震えている気がした。
『ボーマン・・・?』
「すまねェ。おまえまでなくしちまいそうに、
おもえちまって」
ボーマンはステラをみつめると
いつもの様にステラを求め出した。
その日のボーマンはひどくタフだった。
その上、行きつきそうになると間をあけて
頂点が登って来るのをじっとやりすごした。
わざと長い時間をかけてステラをはなそうとしない。
まるでボーマンのロケットだけが
ステラをつないでいるかのように
ロケットをぬいちまったら
これっきりになるんじゃないかと
惧れているにさえみえた。
「ボーマン・・・?」
こんなボーマンを置いて家に帰る事はできない。
ボーマンの気がすむまで側にいてあげるって決めると
ステラはボーマンの背中に手をまわした。
「愛していてよ。ボーマン・・・」
たった十三歳の少女を
こんなにも一途にさせてしまったボーマンは
「うん」
って、子供のようにうなずいていた。
ステラが渡してくれる愛情の御かげで
ボーマンも少し落ち着いて来た様だった。
だけど、ステラは気が付いてしまった。
『おまえまでなくしたくないって、ボーマンはそういった』
迂闊にいいわけをしたボーマンが
本音にかかわる事までをしゃべっちまっていた事に
ボーマン自身はきがついてはいない。
『誰をなくしてしまったっていうの?』
喉まで出かかったボーマンに聞いてみたい言葉を
ステラは呑み込んだ。
『おまえまでなくしたくない。そういってくれたんだもの。それにそれはもう、すんだことだよね?』
そうに違いない事だったけどステラははっとした。
この部屋に入ってきた途端にボーマンはステラをだきしめた。そして
『お前まで、どこかにいったりするな』っていったんだ。
どっかにいったのは誰・・?
「!・・・」
思い当たったその人にステラは愕然とした。
ボーマンはステラの胸に顔を埋めていたし
ステラはボーマンの髪を撫ぜながら
「私はここにいてよ。
何があっても私からボーマンの側をはなれることはないわ」
って、ささやいた。ふとステラを見上げたボーマンが
「うん」
って、子供みたいに返事すると
やっぱり子供みたいにステラにむしゃぶりついて甘えていた。
ステラはボーマンの安心した顔を見ながら
そっと後ろを振向いた。そこには鏡がある。
斜め後ろから鏡に映った自分の顔を見た
ステラは自分の確信を見届けただけにすぎなかった。
ボーマンはよくステラを膝の上に抱いた。
そうしておいてステラの背中から覗き込んでステラをみた。
「この角度からみるおまえが一番たまんねえな。
いろっぽくていいや」
って、ボーマンはいった。
『ボーマンのうそつき・・・』
ボーマンがたまんねえのも無理ない。
その角度だとステラの瞳がはっきりとはみえない。
そのせいでキレイなうなじの線と顎の線は
驚くほどアシュレイをおもいおこさせていたのだ。
アシュレイが前線にいってしまって
ボーマンがひどく元気をなくしたのは
友情ばかりのせいじゃなかったってことだったんだ。
『でも・・いい。ボーマンは私を選んでいる』
ここしばらくで深い関係を結んだ事が
ステラを勇気づけてくれていた。
結局、朝までボーマンはステラをだいたままだった。
朝ほんの少しうとうとした所をボーマンに起こされた。
「いこうぜ」
そこにはいつものボーマンの笑顔があった。
「いこうって?どこに」
「大事な娘さんをいただきますって・・。
もう、いわなきゃなんねえだろ?」
「あ、ボーマン?いいの?本当に私でいいの」
「アーン、なんいってんだよ。いまさら。
じゃなけりゃ・・手えつけたりしねえよ」
「ん」
「ま、なんだな。いただきますってのは嘘になるけどな」
「え?あ・・の」
本当はステラが欲しいってわけじゃないんだ。
ボーマンの心の底にすんでる人の名前がでてくるのかと
ステラは瞳をふせた。
「もう、とっくにいただいてますとはいえねえよな」
ステラの不安とは見当外れの事を言出したボーマンだった。
「ア、やだ・・ボーマン」
「やだってのは俺のほうだろうが」
「あ、あの・・」
だよね。
頂いちまった責任感で一緒になんかなりたくないよね。
ボーマンの愛情に自信をなくしかけてるステラに
不安が重たくのしかかる。
「ェ!?俺をこんなにしちまってよ」
「ん?」
「いくまえによ。な?ほしくなっちまっただろうが、
なんとかしてくれよ」
なんのことはない。
何とかしてくれなんて懇願して見せてるボーマンの手が
もうステラをつかまえて、ステラをなんとかしはじめてる。
「ボーマン・・あ、ん:・・いや」
ちっとも嫌じゃないくせに
ステラが拒むような言葉を出すと
ボーマンがますます必死になってしまうのは
どういうわけでしょ?
「嫌じゃ・・ねえだろ?」
「ん・・ん・・」
「俺のもんだろうが?
俺がこうしてやるのが一番いいんだろうが?だろ?」
朝から元気のいい若者の
こんな不埒な口説き文句もあったもんじゃないけど
確かにステラもこんなふうに
ボーマンの物にされてしまう事を喜んじまっていたんだから、どっちもどっちって事かもしれない。
それからボーマンはステラといっしょにステラの家にいった。ボーマンが案ずるより先にステラの両親は
とっくに二人の仲をさっしていた。
ボーマンは帰りがけに
ステラの御袋さんから小さな箱を渡された。
「あの?」
「ステラのこと、あなたのいうとおり
幾ら一緒になりたいっていってもまだ、はやいわよね?」
「あ・・すみません」
それが判っていながらボーマンのものにしちまったんだ。
謝る言葉しか出て来ないボーマンだった。
「あ、そんなことをとやかくいうつもりじゃないのよ」
「はい?」
「つまり・・それ・・そういうこと」
ステラの御袋さんはボーマンに手渡した箱を指差した。
「?あ・・あけてみていいですか?」
ボーマンは小箱をあけてみた。
「?・・あの」
小箱の中身は俗に言う、コンドームだった。
「あのね、あなたももう二十歳になる男の子だもの。
そう言う気持ちあって当然よね?
それに、そんなふうに気持ちにもなれない女の子となんか
一緒になろうなんて、
ましてや十三歳だもの、おもうわけないよね?」
「ア・・はい」
「あなたの中でステラは
充分に魅力的な大人の女性として思って貰えてるって事は
とても嬉しい事だし、
何よりもステラが一番喜んでる事だとは思うのよ」
「はあ・・」
「でもね。まだ、生活力もない状態で、
赤ちゃんができちゃったら、
あきらめなきゃなんなくなるよね?」
「ええ」
「そんな事で、
二人の心に傷をつくってしまうってこともあるわよね。
だから、あなたが気をつけてあげてほしいの」
「はい」
御袋さんが心配することはない。
ボーマンはそこらへんのとこでへまをやるほど
なれてない男じゃない。
けど、そんなこといえるわけはない。
それよりボーマンはこんなふうにステラとの事を認め
娘にたいしてさえ自然な考え方で
性をとらえることができる
この女性に内心した舌をまいていた。
「ありがとうございます」
「いつでも、いらっしゃい。私も歓迎してよ」
両親公認の仲になるのにボーマンは何の苦労もいらなかった。気兼ねなくステラのところにいけるようになったボーマンは
既に家族の一員にでもなったように
ステラの家族とともに時間を過ごす事が増えてきた。
バーベキューをするからテラスにでておいでと
ボーマンがステラと部屋にいるとお呼びがかかる。
温かで居心地のよい家族の存在が
更にボーマンにステラを魅了させていた。
「いいよな。愛されてるよな。大事にされてるよ。
そんなふうに育てられてるから、
お前もあったけえんだよな」
「ボーマン。はやく、たべにいこう」
しっかりだきしめられてるステラの首筋辺りに
ボーマンのキスがよせられている。
「俺。バーベーキューよりおまえのほうがいい」
「後でね?」
「ち、しかたねえな」
なんだかステラも上手くボーマンを
尻にしき始めているきがしないでもない。
じゃれあってるだけでも
二人は一つになりたいって思いに火がついてしまう。
確かめ合う為に御互いが与えられる陶酔を求め
あまやかで切ない時間を共有する。
御互いの不思議な場所を寄せ合う事で
二人が御互いの中に目くるめく快感を与え
そして、与えられる。
そんな時間を何度重ね合わせたことだろう。
だけど・・・。
二人は別れた。
逢っているだけで幸せでたまらないはずの二人は・・・
別れちまった。
それから八年の歳月が流れている。
ボーマンがニーネと結婚してるのだから
当然ステラと別れちまったって事は
皆にも判ってることだろうけど、
判れたわけも、
そして判れたはずのステラが何であんな場所にいて
なんでボーマンと相変らずHしてんのか?
腑に落ちない事だろうと思う。
それもこれも、やっぱり原因はアシュレイにある。
アシュレイをこれぽっちも責める気はないんだけど、
やっぱり、アシュレイのせいとしか言い様がない。
その事を・・・。
その当時の事をもう一度振りかえって話すのは、
色んな哀しい事実が多すぎて、
筆者としてもひどくつらいことなんだ。
でも、はなさなきゃなんないんだろうね・・・。
ボーマンとステラの関係は
やがてアシュレイの祝福を受けて
「年貢の納め時がきたか」って笑われながら
歩く権利があろうハズもないけど、
やっぱり御決まり通り
真っ白なウェデイングドレスに包まれたステラが
バージンロードをボーマンのエスコートで
歩いて行くはずだった。
その青写真が何で崩れちまったかって?
それは冬枯れた寒い日の午後だった。
毛布に包まれこんだボーマンの腕の中には
相変らずボーマンロケットにあえがされてるステラがいた。
思いきり不埒な言葉を投げかけて、
いかにステラがボーマンのものかを確かめている最中だった。
「きもちいいかよ?ェ!?誰にそんなふうにされてんだよ」
「あ、ボーマン・・ボーマン」
ステラの返事がそのまま快感の中にのみ込まれて行く。
「ボーマン・・・ボーマン・・ああ・・」
うわ言の様に呟く言葉が
何時の間にかステラを一端の女に育て上げちまった事を
証明していた。
そんな時に電話が鳴った。
両親は留守だ。
「でろよ」
ボーマンはほんの少しステラへの動きを止めて
そう言った。
ボーマンのものをいれこめたまま電話にでたステラに
ボーマンはここぞとばかりに自分の物をうごめかし始めた。
電話にも出れなくなるくらいな快感を
わざと与えてやることでステラに
どんなにボーマンの物に酔わされているか
思いしらせてやりたい。
ボーマンの心理はそんな単純なものだった。
「でろよ」
快感に飼い慣らされたステラはボーマンの言葉に服従した。が、喘ぎながら電話に出たステラの顔が・・凍りついた。
「な?どしたんだ?」
ボーマンの言葉に答えずステラは手で顔をおおった。
「あ?なんだよ」
なんかあったんだ。
泣崩れそうになるステラをだきよせると
ボーマンはも一度尋ねた。
「ア・・アシュレイが・・・」
突然の電話。
ステラの様子。
ボーマンの中を走る良くない考えをふりはらいながら
ボーマンは尋ねた。
「な?何の電話だったんだよ?」
「アシュ・・レイが」
「な?なんなんだよ?アシュになんかあったのかよ?」
「アシュレイが・・アシュレイが、う・・嘘だよ。
そんなこと」
仲の良かった従兄の事がステラに報告がはいるのは判る。
だが、なんでステラがその報告に顔をおおう?
ボーマンとの我を忘れる快感から
ステラを解放してまで、
手で顔をおおう哀しみがなんであるのか?
ボーマンの胸に暗雲が立ちこめる。
「ステラ、泣いてないで話さなきゃ」
ボーマンだって怖い気がする。でも・・・。
「あ、あ・・アシュレイが、アシュレイが・・・」
「・・・・」
「死んじゃった・・・」
「え?」
現実はいや応無しにボーマンを捉まえに来る。
ステラから告げられた事を信じたくないボーマンが
教室に行けば教授が沈痛な面持ちで
アシュレイの訃報をつげた。
地に足がつかない状態で家に辿りつけば
アシュレイの両親から仲のよかったボーマンに
最後を見送ってやってくれないかと懇願する電話が入った。
『嘘だろ・・冗談じゃねえぜ』
冗談なんかじゃない。
幾ら否定してもしきれない事実をボーマンは
やがて目の辺りにする。
急ごしらえに誂えた黒のスーツをきこんだボーマンは
出生の地にもどされたアシュレイの棺の前に立っていた。
「な・・なんで・・」
冗談だろ?
スーツを着るときは俺が白のネクタイをして
お前がコングラチレーションって
いってくれるはずじゃなかったのか?
ボーマンの震える肩を見つめがら
アシュレイの両親はボーマンにかたった。
「流れ弾に、額を貫通されてしまったの。
苦しまずに逝ったって、笑顔のまま逝ったって・・」
なんで?一番安全なはずの医療班にいて・・・。
「なんで・・・」
何で、お前にその玉が当らなきゃならなかったんだよ?
ボーマンはアシュレイの額を見た。
キレイに整形された額には
かすかな整形の後が残っているだけで
アシュレイのきれいな顔は見ていると
そのままむくむくとおき出してきそうに思えた。
だけど、アシュレイの体は冷たく、
死後硬直を向えピンと固まっていた。
「・・・・」
喉を押さえ、胸をおさえたボーマンの口から
鋭い叫び声が漏れるとそれが号泣に変った。
その日を境にボーマンが変った。
大学の講座にはでてゆくが、
その顔色は暗く沈みきっていた。
無理ない事だと思う。
クラスメートもはじめは
ボーマンが立ち直る事を祈る思いで見詰めていた。
だけどボーマンは誰とも一言も口をきかず
沈み込んだままだった。
長い月日がいつしか
『ボーマンはアシュレイの幽霊にとりつかれている』
と、までささやかせることになっていった。
そんなボーマンの胸の中に去来するのは
アシュレイと出かけた高原での出来事だった。
『あん時・・無理やりでも、俺のものにすりゃあ・・・。
お前は戦争にいかなかったのかよ?』
志願したアシュレイを止める一言さえ言わなかった事も
ボーマンの悔いを深くしていた。
どんなに悔いてみても
こうなってしまった現実をかえられるはずもない。
一方ステラのほうはなんとか哀しみを乗り越え始めていた。ステラにはボーマンがいる。
最愛の人をなくしたわけじゃない。
ボーマンがいる。
ボーマンの存在がステラの心を支えてくれていたのである。
ステラは塞ぎこんで
家と大学の往復だけになっているボーマンのところを訪ねた。
冬の日の翳りは早い。
なのに電気もつけずボーマンはベッドに寝転がっていた。
『ボーマン』
ベッドに倒れこんでいるボーマンは
ステラが入ってきたのに気がついていなかった。
憔悴しきったボーマンの様子に
ステラはかける言葉が見つからないまま
愛しい人の側によりその頭を撫ぜる様にふれた。
ボーマンは頭をなぜられた感触に目を開けた。
「あ・・・」
ボーマンは小さな声をあげるとステラを引き寄せた。
「かえってきたのか・・」
ボーマンの頭の中は混濁していた。
アシュレイの死を今以って信じたくないボーマンの目に
映った暗闇の中のステラは
ボーマンにはアシュレイに見えたのだ。
帰って来たんだとボーマンはそう思った。
ボーマンの心に答えるために、
遠く離れて見て
ボーマンへの愛しさに気がついたアシュレイは
もう何も恐れずボーマンの腕に擁かれる事を
一番のぞんでいる。
「待ってたんだ・・ずっと・・待ってたんだ」
ボーマンももう二度と手放したくない。
もう自分をおさえることなんかしない。
あんな後悔はしたくないって思っている。
夢現のままボーマンは現実を取り違えながら、
現実の後悔をやり直そうとしていた。
もう一度アシュレイを取戻そうとしていた。
その日のボーマンのセックスはステラには酷かった。
鋭い痛みがステラの違う場所を襲った。
男同士のセックスの局所にボーマンの物がはいってくる。
鋭い痛みにステラに声をこらえさせたのは
ボーマンの言葉だった。
その言葉がステラを更に打ちのめした。
痛みをこらえながらステラはボーマンの心のままに
ボーマンを受けとめるしかなかった。
ステラはボーマンを愛していたんだ。
そうするしかなかった。
「アシュレイ、、アシュレイ・・愛しているんだ・・。
愛しているんだ」
ボーマンは何度もそういった。
ステラとの行為の最中には
ボーマンはそんな言葉を言わなかった。
いつもステラが自分の物だって事を
強く念を押して囁き、
いかにステラがボーマンのものに
繋がれているかを思い知らせる囁きを繰返した。
そう・・・。
ボーマンはステラの中にアシュレイをみていたんだ。
ステラをなくす事はアシュレイをなくす事だった。
つまり、アシュレイをなくしたくない為に
ボーマンはステラを自分のものにしておきたかったのだ。
今夜、ステラの中に閉じ込められ、
ステラと一体になっているはずのアシュレイを
ボーマンはもとめだした。
そのアシュレイにかける言葉は
「愛している・・おまえだけだ・・」
って、そればかりだった。
哀しい思いを擁きながらステラはボーマンを受けとめた。
だって、どんなに思って見ても
もうアシュレイはこの世にはいない。
幾ら思ってもどうしょうもない。
思いを吐出す事もできなくなってしまったんだ。
そんなボーマンをアシュレイにかわって
受けとめてあげる事しか今のステラにはできない。
『愛していてよ・・ボーマン』
囁き返せない言葉を飲み込んで
ボーマンに与えられる肉の痛みを、心の痛みを受けとめた。
一際ボーマンの声が切ないものに変り
アシュレイに与えられた頂点の快さを訴え出した。
「ああ・・アシュレイ・・アシュレイアシュレイアシュレイ」
ボーマンの動きが際限なく大きくなるように思えた。
ずきずきする痛みの中、
ボーマンの物がグ―ンと反りかえり
発射の前の小さなどよめきが起きていた。
やがて気持ちの良さそうな嗚咽が
ボーマンの口からもれだし
ステラの中でボーマンの物が確かに
どくどくと波打って発射のときを迎えたのがわかった。
ボーマンはステラを抱きしめると
「ありがとう」
そういった。
そのままボーマンは軽い寝息を立て始めた。
心の不安が拭われ
大きな幸せがボーマンにやっと深い眠りを与えていた。
朝ボーマンは自分の現実が夢だったという事を知らされた。ボーマンの腕の中には張り詰めた哀しみを
こらえながらボーマンに抱かれたステラが眠っていた。
「え?」
いるわけもないアシュレイを一瞬ボーマンは探した。
『俺?』
ボーマンは昨日ステラに何をしたか気がついた。
アシュレイの代わりじゃない・・・・。
アシュレイをステラにもとめちまったんだ。
そうだとボーマンはきがついた。
『すまなかったな。つらかったろうに・・・。
おまえ・・おれのこと・・』
ステラに寄せられた思いにボーマンは頭をたれた。
ボーマンの心の中に一条の光が射し込み
ボーマンを悲しみの淵から救い出してくれる。
筈だった。
「ステラ」
ボーマンはステラを覗き込んだ。
「ん?・・あ・・おはよ・・」
「ああ」
久し振りに見たステラの顔は幾分か、やせてしまっていた。コイツだってアシュレイの死にうちのめされてたんだ。
それにも関わらず俺のことを心配してきてくれたんだ。
そんなふうにボーマンを受けとめちまい
ボーマンが甘えられる相手はステラしかいない。
「俺・・たよんねえやつだよな」
ボーマンはかすかにわらった。
「ううん」
お前の事、支えてやんなきゃなんねえはずだったのに・・。
ボーマンは限りなくやさしいステラに
そっとキスを送ろうとした。
ボーマンが今ステラにしてやれる事は
そんな事しかなかったし、
何よりもステラに対してだけのキスを渡す事が
ステラにアシュレイを求めた事の
せめてものボーマンのわびだった。
が・・・・。
『ち、がう・・』
昨日のことで
ステラと重なり、融合していたアシュレイを
分離させてしまっていたのだ。
ボーマンの心の中に渦巻いた思いは
ボーマン自身を困惑させた。
もう、ボーマンは
アシュレイとステラを重ね合わせて
ステラを求める事ができなくなってしまっていた。
ステラを見るとボーマンは
そこにアシュレイをみつけてしまう。
それが否応無しにボーマンを現実に引き戻した。
『ア、 アシュレイはもう・・いないんだ。
お前はアシュレイじゃないんだ。
アシュは死・・・死んだんだ』
ボーマンがステラに渡しかけたキスをとめて
ステラの肩をつかむとじいいいとステラを覗き込んだ。
掴んだ手の力が抜けると
ボーマンはステラにすがろうとせず
床に崩れ落ちると大きな声を上げて泣き出した。
ステラはボーマンをじっと見詰めていた。
その瞳から伝い落ちるとめどいない泪が
ステラの心を表わしていた。
『私じゃ・・・だめなんだ』
泣きくずれるボーマンがステラに縋ろうとはしなかった。
『私だから・・・ボーマンはもっと悲しいんだ。
私だからボーマンはアシュレイを思い出して
もっとつらいんだ・・・』
どうすれば良い?
どこにいけばいい?
このままボーマンの側にいても
ボーマンをくるしめるだけだ。
きっと、今だってボーマンは
ステラが手を差し延べればそれをふりほどくだろう。
いや、そうしなかったら苦しい思いに
顔を歪めながらステラの手をとるだろう。
『私がボーマンをくるしめてしまうんだ』
愛しい人を慰める事もできず
側にいる事さえボーマンをおいつめる。
ステラは溢れて来る泪を拭う事もせずに
じっとボーマンを見つめつづけた。
いとしい人の姿を目に焼き付けながら
『いつか・・もう一度、
今度こそステラだけを見てくれるボーマンになって
むかえにきてくれるよね。
この哀しみをのりこえてくれる・・・その日をしんじよう』
固い決心を心に刻み付けると
ステラはボーマンの側をはなれた。
「ごめんね・・・ボーマン」
最後のステラはそういった。
悪いのはステラじゃない。
でも、ボーマンは
ステラのさよならを引き止めようとしなかった。
どんなにかステラの悲しみが胸を刺してきて
ボーマンだって・・つらい。
でも、
ボーマンもステラと同じように気がついてしまった、今、
アシュレイをステラの中に戻す事もできないし
ましてや、アシュレイのかわりにしかすぎなかったと
わかってしまえば
ステラをもとめることができなくなってしまっていた。
「ご・・めん・・」
何もかもを察したステラの決断に
最後の最後まで甘えるしかないボーマンはやっとそういった。
けど・・・その声はドアを閉める音に重なった。
ステラはドアの外にもたれて泪を拭った。
『さよならじゃないんだよ。
でも、ボーマン・・私、約束まもれなかったよね』
私から離れたりしない。
せめてその約束だけは守りたかった。
でも、あの優しいボーマンに
ステラを捨てる言葉をいわせたくはなかった。
『ボーマンの嘘つき』
お前だけしかいねえって・・・。
あふれてくる泪がボーマンの言葉を
一生懸命かき消そうとしていた。
ステラはもう一度顔を上げると
泪を拭って外に飛び出した。
それっきりだった。
ボーマンはもうステラをたずねることはなかった。
あの後のステラがどんな風に苦しんだことだろうか。
そして
来なくなったボーマンの事を両親も尋ねることができず
ステラの哀しみを見守ることしかできなかったように
筆者もステラの哀しみを
何も言わず見ている事しかできなかった。
春が来てもボーマンは幽霊みたいにあおざめていた。
変らず講座は拝聴して単位は一つたりとも落としてはいない。けど・・・。
ボーマンが教室に入って来るだけで
御喋りに花を咲かせていた者が黙りこくる。
シーンと沈んだ空気がボーマンを包み込み
妙な存在感が皆を圧迫している。
「きもちわるいよな・・」
講座が終りボーマンが教室から出て行くと
やっぱりみんなはいいつづけてきている事を繰返す。
「どうにかなんないのかな?」
「むりだろう」
いつかボーマンといい事した奴がそういう。
とんでもなく不埒で性欲の塊みたいに
生きてる事を謳歌するように
次々と色んな相手とセックスを楽しんでた
馬鹿単純な男が一度あんなふうになったら何で救い出せる?
「粉かけることもできねえんだぜ。
誰もよせつけねえし・・。
セックスするきにさえなれねえんだろな。
と、いったって
あんなボーマンじゃこっちがおことわりだけどよ」
「やだ・・。まだ、未練たっぷりじゃない・・」
「馬鹿ね。あんた、ボーマンをしらないから・・」
「嘘?そんなにすごいの?」
ボーマンの相手をした事があるやつは
なんだか少し得意そうな顔をしたけど
「ま、かかわらないことよ。
と、いうより・・かかわれないけど・・」
皆がボーマンを見捨ててしまったけど
ボーマンはむしろその方がきらくだったことだろう。
自分でもコンなんじゃいけねえってボーマンも判ってはいる。けど・・教室にもアシュレイはない。
アシュレイと一緒に戦争に
ついていかなかったボーマンだったけど
アシュレイが望んだもう一つの道を歩んで行く事は
ボーマンにとって
アシュレイそのものに溶け込んで行くようにもおもえていた。
『お前が目指した薬学。
特に草木のエキスパートになってやる』
ボーマンの孤独な世界に住んでいるアシュレイに
ボーマンはそうやってしゃべっている。
陰気で孤独で暗くて・・・。
ボーマンの昔を知るものが見たら
あれはボーマンじゃないっていたことだろう。
そんなボーマンを救い出す者がいつあらわれるんだろう?
皆、ボーマンの側を避け
いつもボーマンの隣の席は空いていた。
知っていれば誰だってボーマンの隣になんか座ろうとしない。
だけどニーネは、
いつも空いてるボーマンの横の席を不思議に思うだけで
ボーマンに対して妙な噂を聞いてなかったんだ。
満席になってる教室を見渡して
ニーネは躊躇せずボーマンの側にやってくると
「隣をお借りしてもいいかしら?」
って、ニッコリと微笑んだ。
ボーマンに声をかけて来る奴なんていない。
珍しい顛末にボーマンも返事一つですみそうな事なのに
声の主をふと見上げた。
澄んだ声でひどく柔らかくやさしい声の主を見上げた瞬間
ボーマンははっとした。
邂逅・・・・。
そういったほうが早い。
あんなにアシュレイの亡霊に取りつくされ心に
大きな空洞を作りそこに
大事なアシュレイを住まわせていたボーマンだったのに。
運命の悪戯か
はたまたアシュレイの予言が今あたったのか。
いきなり見せられた笑顔の主が
あっという間にボーマンの心の中から
アシュレイをおいだしていた。
「あ・・どうぞ・・・」
きっと、驚いたのはまわりのほうだ。
心なしかボーマンの声が弾んでいるし、なんだか優しい。
「ありがとう。じゃまにはならなくて?」
「あ・・とんでもない・・」
「よかった」
ボーマンの側に座った女性の顔を
ボーマンはなんだかひどく気になって何度も盗み見た。
なんどか見ている内に
女性の方が気がついてボーマンをじっとみつめかえした。
「 」
彼女が何か言っている声がボーマンには聞こえなかった。
だってボーマンの心の声がボーマンを捉えていて
そして
ボーマンの心臓の音が
やけにどんどんって大きくなっていたんだ。
『コイツだ・・。コイツが、俺の惑星だ。まちがいねえ』
あんなにボーマンの心をとらえて放さなかった
アシュレイの事をいきなり追い出しちまって
ボーマンの瞳を釘漬けにしてしまって
今もボーマンをうっとりさせてしまうような声で
なんかいってる。
これが運命の出逢いじゃなくってなんだっていうんだ。
「なん?あ?ごめん・・きいてなかった」
「ま・・・まあ」
少し剥れた顔がちょっときつくてかわいい。
「もう、一遍いってくれねえか?」
ちょっと上目遣いでボーマンを睨み付けたけど
機嫌を取り直して彼女はいった。
「あの・・。真直ぐ前を見ていただけません?
気のせいか、見つめられてる様で、
きになってしまうんですけど」
ボーマンの事を多少なり意識してくれるんだ。
いい傾向ではある。
「あ。なるほど。でも、
俺はあんたのことが気になって授業どころじゃねえ」
「あ、ごめんなさい」
謝ってから女性はきがついた。
「あの、それっておかしなことをいってらっしゃいません?」
ボーマンが始動しはじめたんだ。
ニーネ。君はもうボーマンの罠にかかったも同然なんだよ。
「可笑しい事はねえよ。アンタがいなくちゃ
もっと授業がおもしろくねえよ」
ボーマンの言出す事は矛盾だらけだ。
でも私が邪魔なら誰かに席を替わってもらいますけどって
いおうとした言葉にこの男が先に答えているんだって判った。変な人だけどなんだか頭のいいひと。
ニーネはボーマンの事をそう直感した。
「だから、明日もアンタはこの席にすわる。きまりだ」
「え?あ?はい」
なんだか、思わず返事をしてしまったけどやけに強引な人。あわてて
「なんで、私があなたに席をきめられなきゃ・・」
そういい返しかけた時に
ボーマンの変転振りに気がついた教授が
それこそ泪をながさんばかりの顔でニーネに言放った。
『君!授業を妨害するなら
二人でそとにでていってくれないか!?
大人しく授業を受けたいなら
その男のいう通り隣の席にすわっていてくれないかね?』
「あ・・・はい」
なんだか、おかしな事になってしまった。
ニーネは黙りこくってちらりとボーマンを見た。
『なんか・・大丈夫かしら?
この人いきなり変なこといいだすし・・』
だいじょうぶなわけがない。
次の日からボーマンのいきなりの求愛を受ける事に
なるとは夢にも思わないニーネである。
未来の良人との遭遇はこんなふうに始まり
信じられないほどの熱の上げ様に
ニーネは何度も何度もボーマンのプロポーズを断った。
「からかわれてるんだわ」
最初にニーネにそう思わせたのは
この時のボーマンだったんだけど。
ボーマンに明るい未来がある事を
そして、その未来がその女性自身である事を
ボーマンに教えた女性が
ほら!心配そうに調剤室のボーマンを覗きこんで
声をかけて来た。
「あ・・」
アール・グレイにまつわる男の事を
思い出したボーマンが調剤室ににげこんだものだか・・こんな長い話しをボーマンの替わりにし始めたんだったよね。
「ボーマン?」
「ん・・こっちにこいよ」
なんだかくらい顔になったボーマンをきにしながらも、
アーサーがいるもんだから
すぐに、追いかけて来れなかったニーネだったんだ。
薬剤の注文が入ってきたのにも気がつかないくらい
ボーマンはずーと長居間思いでに浸りこんでいたんだ。
とうとうメ―ルに出ないボーマンに
しびれを切らしたレオンが
ボーマンの自宅に電話を入れて来たものだから、
ニーネには都合よくボーマンの様子をみにこれたんだけど
「レオンがおこっていてよ」
「え?」
なるほどしつこい程の行数が
ボーマンのパソコン画面の中にうちこまれていた。
「ェ!?何々・・くそぼけ?いるのはわかってんだぞ
ぼけボーマン・・・ありゃりゃ」
良いほど怒らせたらすぐうちかえしてくるだろうと
いう考えだったのか思いつく限りの罵詈雑言がならんでいる。なのに、本当にいないのかと不安になってきたらしい。
後のほうは・・・なんていってみただけだよって
送ってしまったメールに
取り返しがつかない弁解になっていたけど・・・。
「しかし、こんだけの悪口を良くおもいつきやがる」
画面を覗きこんでいたニーネもくすりと声を出して笑った。
そのニーネの胴を抱え込んで
ボーマンはニーネを膝の上に抱いた。
「心配してたんだろ?」
「え?なんのことかな?」
「とぼけるなよ」
そう言いながらボーマンは
ニーネの服を思いきりめくりあげると
胸に着けてる部分的な布切れをたくしあげた。
浚えてせり出した乳房に
ボーマンは顔を埋め舌をはわせはじめた。
「あ・・・ボーマン。だめ、だめ・・こんなところで」
「いやじゃねえだろうが」
たくっ、こんなに感度のいい女性もいやしない。
ボーマンの手はもう、ぬれそぼってる
ニーネのひそやかな部分を柔らかくもみこみはじめている。
「だめ・・アーサーが・・さがしに・・」
ニーネの言葉が途中で途切れてしまうと
ボーマンの腰を両腿で挟み込まされた
ニーネの暗い場所が
小さな粘膜質の音をクチュリと立て始めていた。
「きたら・・みせてやるさ。いい性教育だ」
「ボーマン・・」
『本当に愛し合ってる男と女のセックスが
どんなにキレイなもんか、
あのがきんちょにゃわかってねえんだ』
「ニーネ・・・愛してるぜ」
歯の浮きそうなほどなセリフを真剣に言ってのけて
その証拠がコレだと言わんばかりに
ボーマンはニーネの腰を浮かせると
自分の動きに合わせてニーネの腰を揺さ振った。
上がって来る快感にニーネもボーマンの物だけを
感じとって行くしかできなくなっていた。
「あ・・・すてき」
ニーネの吐息が甘い。
ボーマンの目にちらりとアーサーの顔が映った。
ドアの隙間から
そっとボーマンとニーネの事をうかがっている。
ボーマンは気がつかないふりをして
ニーネへの愛撫に集中して行った。
『見るなら見やがれ。
俺にはコイツとのセックスがいちばんいいんだ。
コイツだけが・・・。
クロードじゃねえけどよ。
俺を生きてるっておもわせてくれるんだ。
生きてる事がこんなにも・・・ああ、たまんねえ・・・。
そんな大事な結びつきをみせてもらえてんだぜ』
ボーマンの言う通り。
ボーマンはニーネと出会った時
アシュレイには申し訳ないけど
俺は生きていて良かったっておもったんだ。
そう思った通り
ボーマンがニーネと深まって行った時に
ますますそれははっきりしてきた。
ボーマンの部分を襲ってくる
果てしないほど高い絶頂感は
言ってしまえばそりゃあ確かに気持ちいいって
一言にすぎないんだけど・・・。
その心地良さがボーマンに
本当に生きてる事を痛感させてくれた。
そして、
ニーネも同じ気持ちを、
同じ快感をあじわっていることが
ボーマンをもっと満ち足りたものにしていたんだ。
「ニーネ・・・愛してる」
「ん・・ん・・ボーマン。わたしもよ」
って、とっても大事な事はチャンとつげなきゃいけない。
ととのわない息でニーネもちゃんとかえしてきた。
ボーマンの動きでニーネは高い快さに到達してゆく。
やがてニーネの部分が細かくうち震えると
ぐったりとボーマンによりかかっていった。
ボーマンはニーネの存在の重味をしっかり抱き締める。
『ニーネ・・お前にであえてなかったら
俺はアシュレイの事をこんなふうに
時折おもいだすってだけじゃすんでなかっただろうな』
ステラの事もボーマンには辛い事になってしまっていた。
そのボーマンの暗い固執的な自我を覗きこむ目を奪い
哀しみを忘れさせ、
あっさりと恋に落とし込んだニーネは
ボーマンにとって本当に生きて行く糧、そのものになった。
『お前がいなきゃ・・俺はいきていけねえ』
ボーマンは心の中でニーネに呟く。
そうなるとそんなにまで大事なニーネなのに
なんでボーマンは浮気すんだろって事になるけど、
その事は又べつの時にはなすとして、
今、問題は二人を
こっそり覗いていたアーサーのことだよね?
ボーマンはニーネをそっと抱き起こすと
「もう、いっぱい・・コーヒーをたのめるかな?」
って、たずねた。
「ええ・・」
ニーネはボーマンの腕をすり抜け、
立ちあがるとキッチンに戻った。
心持ち足取りがおぼつかないニーネの様子が
ボーマンを更に満足させていたけど
ボーマンはなんにも言わずその後姿を見送ると
レオンからのメッセージを読み直した。
悪口なんか読み直しちゃいないよ。
何の注文だったかって事を読み直したんだ。
そんなに手間取る調合薬じゃないとわかると
ボーマンは席をたち
ニーネが待ってるキッチンに入って行った。
ニーネがコーヒーを注いでるキッチンには
アーサーが椅子に座って足をぶらぶらさせながら
さも退屈そうな素振りで
大人しく二人をじっと待ってたんだぞって
顔を見せていた。
ボーマンはそんなアーサーの側によると
クルリと頭を撫でてやった。
「ん?なに?」
「ちったあ・・・・わかったか?」
「え?なにが?」
「とぼけなくていいぜ。しっかりみたんだろ?」
こっそり覗いてた事を指摘されたアーサ―の答えは
「うふ。ニーネは・・・素敵なひとだね」
だった。
『おいおい』
ニーネがボーマンとの事で漏らした
「すてき」
って、言葉をアーサーはしっかり聞いてて
その言葉でニーネのことをいいあらわすんだ。
ボーマンもたまったもんじゃない。
さすがのボーマンも自分でも判るくらい
赤くなってしまったのは無理ない事だとおもう。
「ち・・ちびが・・なまいってんじゃねえ」
「ボーマンもきもちよさそうだったね?」
「な?なに?」
「すてきだった?最高って気分?」
ああ・・・。
このちびを迂闊にかまった俺がばかだった。
だが、これ以上このちびに
のまれてばかりいられるものか。
ボーマンは腹を括り直すと
「ああ。お前がちらちら覗かなきゃ
もっとゆっくりたのしんでいられたぜ」
精一杯の大人気ない逆襲でしかないんだけど
ボーマンの言葉に少年はあたまをたれて一言
「そう・・・」
って、いった。
意外にも、アーサーはボーマンの一言が応えたみたいだった。
そりゃそうかもしれない。
邪魔だっていわれたんだもの・・・・ね。
「ん、あ。僕、少し・・。
あの・・・お昼ね・・・するね」
その場をたち去る事を妙に子供っぽく取り繕って
アーサーは部屋に戻って行った。
『なんだよ?ェ!?
いつもの糞がきらしくねえじゃねえかよ?』
あんまりシュンとされるとボーマンも後味が悪い。
「あら?」
アーサーが立ちあがるのをみたニーネの声に
アーサーは
「ニーネ・・は、「す・・てき」さ」
って、ニーネの声色そのままをまねて、
ニーネにまでいったんだ。
「!」
びっくりしちゃったのはニーネだ。
「・・・・」
可愛そうに足首まで真っ赤になっちゃったんだから
ニーネも正直過ぎると言うか・・・。
ボーマンとのことの余韻が、
まだまだニーネをつつんでたせいというか・・・。
その言葉にあまりにも敏感に反応しすぎたニーネを
見ていたボーマンは
「やろー。さっさとひるねしにいけ!」
って、アーサーを怒鳴り付けた。
「うふふふ。ニーネ。ね?ボーマンは「す・・てき」だよね」
って、もう一度ニーネの声色をまねすると
ピョンととびあがるとたっ、と、駆け出して行った。
あっけにとられたのはボーマンだった。
今までアーサーはませくれた嫌なガキの部分を
ニーネには見せようとしなかったんだ。
なのに、どうしちまったんだろ?
「あ・・・」
アーサーはやっぱりさっきの二人の事を
しっかり知っているんだって
はっきり確信させられたニーネなのに
それでも本当に!?アーサーが見てたのって
信じられない顔でボーマンを見ていた。
「たく・・・ませがきが」
ニーネにその通りだよって頷きながらボーマンはつぶやいた。どうせボーマンがアーサーが覗いてた事を
ニーネに喋っちまうだろうって考えて
とうとう開き直りやがったんだ。
ボーマンは正体を表わしたアーサーの事を
「たくっ、あいつはじめからあんなんだったんだぜ」
って、ニーネにつげた。
「うそ?」
もう既に何度かのぞかれてたんだってニーネは思った。
「ま、のぞくなんて事をやらかしたのは
今日がはじめてかもしんねえけど」
でも、もう既にのぞかれてしまっていたのかもしんない。
だったらアイツに
わざわざ見せつける必要はなかったってことだ。
自分の方が結局あのちびにしてやられてるってことだろう。ボーマンは苦笑しながら
「しかし、あんなませがきが、
お前の甥っ子だなんてしんじらんねえな」
って、いった。
その言葉にニーネは不思議そうな顔をした。
「な、なんだよ?」
「あ、あの?」
「なん?」
「あの?あの子ボーマンの甥っ子じゃないの?」
「なにいってんだよ。俺のほうにあんなちび、いねえ・・・。
な?なんだあ?」
ニーネがボーマンの甥っ子だと思ってたって事は
当然、ニーネ方の甥っ子でもないって事になる。
「うん」
ボーマンが察した通りだとニーネはうなづいた。
「んじゃあ?」
「うん」
アイツは誰なんだ?
何者なんだ?
縁もゆかりもない赤の他人に
二人はだまされちまっていたってことになる。
「なんだよ?どうなってるんだ」
ボーマンが立ち上がってアーサーの所にいくようだった。
「あ。まって。ボーマン。私がきいてみる
ね?なんかわけがあるのよ」
まあ、ニーネがきいてみる方が良いだろう。
ボーマンは座り直すと
ニーネに顎で行ってみろやってあいずをした。
それからキッチンを出て行ったニーネを
ボーマンはまっていた。
『アイツ・・。もうでて行くつもりだったんじゃねえのか?だからニーネにも開き直っちまったんじゃねえのか?』
ボーマンの予測はたがわなかった。
キッチンに戻って来たニーネは首を振った。
「いなくなってるの。荷物もなんにもなくなっていて、
あの子いなくなってて・・・」
ニーネはボーマンに白い封筒を差出した。
「ベッドの上に・・・」
封筒には「ボーマンへ」ってかかれてあった。
がきんちょのくせにひどく大人びた丁寧な書体だった。
なんだかどっかで見た事のある字だなって
ボーマンはおもった。
「なんだってんだよ」
封筒をあけてみたボーマンは
薄っぺらな便せんにかかれてある文字に息を飲んだ。
そして
しばらくボーマンは食入る目で封筒を見詰めつづけていた。その便せんの短い文字は当然封筒の字と同じ書体である。
その便せんの内容がボーマンに見た事ある字の持ち主を
思い当たらせていた。
ボーマンの様子にニーネは心配そうに手紙を覗き込んだ。
その便せんにはこうかかれてあった。
―ハッピィ・ウェディング―
たった一言のメッセージだったけど
ボーマンにはこのメッセージを送ってくれる相手が
誰だったか・・・おもいだせている。
ボーマンは何もかも理解した。
『約束を守る為にあらわれたんだ。
アイツは俺の幸せ振りをのぞいてみたかったんだ。
このメッセージを本当に言えるのをたしかめたかったんだ』
覗き込んだニーネにボーマンは軽いキスをあたえると
「さすがの糞がきもうらやましくなっちまったらしいな」
「ん?」
「俺たちを見てて羨ましくなっちまって、
僕もハッピーな相手を見つけるって宣言してんだよ」
ボーマンはアシュレイのメッセージをそう誤魔化して
持っていたライターで火をつけた。
「あ?いいの?」
「あーん?こんなものいりゃしねえよ」
そう。ボーマンのでメッセージはしっかりうけとめたし
それにボーマンにはもっと大切なひとがいる。
『もう、いりゃあしねえ。
アシュ、お前の事がいらなくなっちまうくらいにな。
だからこそハッピー・ウェディングだってことは
お前が一番良くわかってくれてるよな』
「なんか・・さみしくなっちゃったね」
ニーネは灰皿の中の燃え滓を見詰めながらそう言った。
「あーん?なにいってやがんだ」
「ん・・・。ふしぎなこだったね」
「ん?ああ・・そうだな・・・」
「どこいっちゃったんだろ?」
「また、どっかのボケかましてる夫婦のとこいって
甥っ子やってるさ」
「甥っ子なんていない事に気が付かないような?」
「ああ・・なあ・・・んなことより」
ボーマンの手がのびてくる。
「だめ・・アーサーが・・・」
「もう、いねえよ・・・」
「こんなとこで・・・」
「俺、キッチンも、そそられちまう・・・」
「さっき・・」
一戦交えたばっかじゃない?
「んなこといったって、おまえだって・・・もう」
欲しくなっちまってるじゃねえかよ!?
言葉じゃなくてボーマンの手が
ニーネにその通りだって事を自覚させてしまっている。
「あ・・・あいしてるわ・・ボーマン」
早くもニーネの中に入れ込まれたものの心地良さが
ニーネの心をさらけださせてしまっていた。
やがて何度もニーネのボーマンをよぶ声を聞くまで
ボーマンはニーネの海をたゆとう少年になる。
―ア・ハッピィ・ウェディング
ね、ボーマン―
― エピローグ ―
ボーマンは作り上げたレオンの注文の製剤を
大事に抱え込んで研究所のドアを開いた。
「あは・・・早速・・どうも・・」
あのメールにボーマンが怒ってるんじゃないかって
レオンもなんだかおどおどしてる。
だから、ご丁寧にボーマンの後を付いて歩くと
薬剤室のドアまで開いてあげる気のくばりようをみせている
「なんだよ?きみがわるいぜ」
ボーマンの口調から類推して見ると
どうやらボーマンはおこっちゃいないし、
なんか鼻歌までもれてる。
『良かった。全然、気にしてない』
それどころか
なにがあったのか知らないけど
すこぶるご機嫌じゃないか。
勿論、読者の君にはその「なにがあったか」は
よくわかってるよね。
朝っぱらからニーネに
どっぷりつかりこんじゃったボーマンが
ついさっきのニーネとの吐息を思い出しちゃえば
ほっておいても上機嫌になるってもんだろ?
「あは、ありがとう」
そう、そう、そのままボーマンに帰って戴くのが一番いい。突然機嫌が崩れて
レオンの罵詈雑言の数々を怒り始めるか
わかったもんじゃない。
かと言って、
早く帰れなんて態度が目にみえちゃいけない。
レオンは下手な事は喋らず
さも忙しげに差出された薬品瓶を受取ると
「あ、じゃあ」
って、ボーマンの側を離れた。
「おう」
レオンの様子をきにかける事もなく
ボーマンもそそくさと荷物を片付けると
ふらりと外に出て行った。
ホッと、胸を撫で下ろすレオンにはわかってない。
すんなりボーマンがたちさったわけが。
この後、ボーマンがどこにいくつもりなのか。
さとい読者の皆様にはわかっているよね。
そう、ご名答。
「ステラ・・まってろよ」
って、ボーマンはつぶやいてる。
え?いったい、この男の構造はどうなってんだ!?
下半身を解剖するか、
ホルモンを司る脳下垂体を
徹底的に研究してみたいものだよ。
バイアグラ以上に効き目の高い成分が
抽出されるんじゃないか?
ドアを開けるとステラがまってた。
「あら・・・・ご機嫌ね」
ボーマンの顔色をみぬくと
「ん?」
って、尋ねながらボーマンの側によってきたステラは
ボーマンの胸に顔をうずめると
「もう・・・」
って、すこしむくれた。
「なんだよ?」
「甘―い甘―い、におい。
シャトレーゼのア・ラ・ムスクをつけてるひとって、
だれだっけ?」
「え?」
「だれだっけなあー?」
「るせーな」
「ふーん。で、ご機嫌なんだな?」
「や、やかましいな・・」
「で、何回?」
ステラをごまかせるわけなんかない。
仕方なくボーマンは
「一回こっきりだよ」
って、答えたけど
「ふーん。朝から一回こっきり?」
「だよ。たんねえからきてんじゃねえかよ」
「で、ご機嫌?おまけにたんない割には余裕あるじゃない?」
「ほんとだってば。なあ・・だからはやくやらせろよ」
どうでもいいけど、
こうまでストレートに物言わなくてもいいじゃない。
昔語りを聞いてみたあとだから
尚更、あのステラがどうなったら
ボーマンに言いたい放題言わせるステラに
なっちゃったんだろうって思うよね。
「もう・・・」
ボーマンは後ろからステラをつかまえた。
『ボーマン・・・』
どうやらボーマンは
今日もステラの女性だけの場所じゃないほうを
せめてくるつもりらしい。
「あ・・・」
ほら、やっぱり・・。
「ボーマン?どしたの?
まだレオン君の事あきらめきれなくて?」
どうも、こう何度も欲求不満の捌け口にされちゃ
ステラもおもしろくない。
「レオンじゃねえよ」
「あら!?あ?ん?だれ?あたらしい恋人?」
「お前じゃなけりゃ・・・どうしようもねえやつ」
「・・・・」
「すまねえ」
「ううん」
ボーマンの動きがやさしい。
どうりでね・・・。
ステラはほっとためいきをついた。
「あは・・・うらやましいな」
ボーマンがアシュレイを感じたくなる時がたまにある。
そんな時のボーマンにはステラしかいなかった。
アシュレイを重ねられなくなって別れたはずのボーマンが
今はステラの中にアシュレイを見い出している。
それができるようになったのは
ボーマンの奥さんの存在のせいだった。
心の中のアシュレイを
外に放り投げさせる事ができたからこそ、
逆にボーマンはアシュレイの事を
感じたくなってしまうようになれた。
「不思議だね」
「ああ」
ステラとボーマンを結びつけたのはアシュレイだ。
二人を別れさせたのもアシュレイだ。
そして、今、
またアシュレイをステラに求める事になっているのに
二人でアシュレイを抱きかかえちまっている。
二人を結ぶ紐はアシュレイっていう存在なんだ。
でも、こうなって見てステラはおどろいた。
アシュレイをたんなる思い出の人にまで
してしまえたほどスゴイ奥さんがいるのに
ボーマンはいっぱいいっぱい浮気する。
「一体・・どうなってんの?」
ステラはたずねたことがある。
「恋なんだぜ。相手をじかに感じてみてえじゃねえかよ」
確かボーマンはそう答えたと思う。
「奥さんの事は?」
「え?あ?」
ステラへの愛撫を強めて
ボーマンは答えを誤魔化してしまったっけ。
感じ取ったらそれだけで満足しちゃう恋とは違うんだな。
ステラにはそれだけは判った。
そして、ボーマンも黙りこくった。
ボーマンはアシュレイと一線をこえられなかったけど
もし、そうなれてても
やっぱボーマンはあちこちで浮気したんだろなって思った。アシュレイと一線を越えられない
はけ口を求めてるだけだと思いこんでたボーマンも
どんなにか愛しいニーネと一緒になれても
〈一緒になるまえも〉
やっぱし、
相手をセックスで感じ取りたいって恋は、してたんだ。
と、なるとボーマンは自分に答えをだしたね。
『俺って絶倫なわけ。
ようは、一人だけじゃ俺のセックスをカバーできねえ』
そりゃそうだろ。
ステラ一人に搾った時なんか
ボーマンは毎日の様にステラを求めちまってたんだぜ。
それで足りてたわけかっていうと
実に怪しい返答がかえってきそうなことだし
ステラ一人だったって信じてる事までぶち壊して
すんだ事を穿り返す事もない。
『ェ!?ニーネを俺の玩具みてえにできるわけねえだろ?』
やれやれ。
まだまだ、あいかわらずニーネに御熱で
彼女だけはボーマンには特別なんだ。
アシュレイを感じ取りたいボーマンは
ステラを平気でそうさせるけど
勿論ステラ本人を感じたい時だってある。
色んな心模様の様を
ボーマンはステラに隠そうとはしなかった。
ボーマンにとってステラはアシュレイのいったとおり
ボーマンを巡る惑星にしかなれなかった。
その昔大好きでたまんなかった、アシュレイへの思いは
ボーマンの中で醗酵して芳醇なかおりをたてていた。
ボーマンはそのかおりを、
少し切ない気持ちで楽しんだ。
ボーマンはおもいをかけてるやつを
こんなふうにボーマンの中で
良いワインにしたてあげたいだけなのかもしれない。
ステラは年月を経て極上のブランデーになって
ボーマンの前に現れた。
その中にあるかすかなアウスレ―ゼの香りを
ボーマンは今楽しんでいる。
でも、ステラにはわかってる。
ボーマンが恋に酔っていれるのも
ボーマンがしっかり奥さんっていう女性を
巡る軌道をまわっているからだって。
でも、こんな所で他の男に
体を開いてるせいなんだろうけど
このあいだだってボーマンはステラの事を
アシュトンにもクロードにもさせちゃってるんだよ!?
そんなふうに、
ボーマンにとって大勢の恋人の中のひとりでしかなくて
結局、セックスだけでつながってる。
ステラはそれでいいの?
「うん」
って、ステラは答えるんだ。
『だって・・・ボーマンを感じたい』
愛してくれなんて、もう到底無理な事なんだ。
だったらステラは恋でいい。
セックスだけだっていい。
そのときだけは・・・ボーマンはステラのものなんだ。
ほら。
「あ、ボーマン・・もう・・だめ・・・」
「オラ・・・いっちまえよ・・」
ステラにかけたボーマンの言葉が
ステラを高まりの頂点へ一層おしあげてしまう。
「ああ・・あ・・あああ」
その瞬間がステラには一番幸せなんだよね?
「んんん、ああ・・・あああ」
あは。うらやましいくらい気持ちよさそう。
(んじゃ、ばいばい)
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