セクシュアル・モーメント3
「はあー」
なんだかすごいため息。
一体、誰って?
そんなこときかなくとも、すぐ、わかるよ。
だって、それを一番気にする人がすぐそばにいるんだもの。
デイアスの大きなため息にレナが顔をあげた。
「どうしたの?」
レナを抱きしめてるって言うのに・・・・。
デイアスに何の不足があるんだろうか?
「いや・・」
デイアスは少しいいしぶっていた。
「なによ?きになるじゃない」
デイアスはもう少しレナをしっかり抱きしめると
「ずっと・・一緒にいたい」
って、いった。
「あ・・・」
レナが帰らなきゃなんない時間が近ずいている。
外泊なんかそう度々できるわけじゃない。
二人の交際は両親も周知の事であれば、
なおさら慎重に行動してゆかなきゃなんない。
「パーテイー組んで旅にでれるといいんだけどね」
「う・・ん」
レナに額を押し当ててはるかに上背がある男が甘えている。
「セリーヌのところもちょっと使いすぎてるし・・・」
「・・・・」
切なそうで寂し気なデイアスの横顔がレナの心に痛い。
「待って、て」
レナはデイアスの腕をすり抜けると
やっぱりセリーヌのところにコールを入れた。
「はい?」
って、セリーヌの声が受話器から聞こえる。
何度も何度もセリーヌにウソの片棒担ぎをさせるのも
なんだか、申し訳ないレナなのである。
「なんでございますの?」
レナが黙ってるのが何故であるかセリーヌもさっしがついてはいる。
でも、レナが言い出してこないものを、ほいほいと受けてやる気はない。
「あ、」
言わなきゃ始まらない。
レナの後ろでデイアスがなんだか心もとなく、一層寂しげである。
「あの・・」
デイアスにもレナが言いにくそうなのが胸にこたえるんだろ。
レナの後ろに寄ってくると
「レナ・・もう、いいよ」
って、いった。
そんなデイアスがなお切ない。
余計に一人にさせたくなくなる。
セリーヌに電話口の前での二人の会話がボソボソ聞こえてくる。
それは、例のアリバイ工作を頼みたいレナである事が
決定的になっているだけである。
『いやだなんていいませんことよ。
私に頼むのに、貴方が悪い事をしているみたいに、
引け目を感じてるのが気分がわるいだけでしてよ』
って、セリーヌがぶつぶつ考えてるとレナの声が受話器から響いた。
「あ。あの・・また、おねがいできる・・かな?」
「よろしくてよ」
「あ、じゃあ。今からそっちにいくね」
「はい。はい」
レナはわざわざ、セリーヌのところに行かなきゃなんない。
セリーヌのところから、家にコールをかけて
デイスプレイに
セリーヌのコールナンバーを表示させなければならないし、
「ちょっとセリーヌに代わって」
なんていわれたら困ることでもある。
「うん、あの・・いってくるね」
「あ」
デイアスがすまないって目をしている。
こんなにレナが恋しくて自分でもその気持ちをどうする事もできず、
ふがいなくも、寂しいなんてレナを引き止めてしまってる。
「ううん」
レナは小さく首を振ると、外に駆け出して行った。
え?デイアスがついていってやんないのかって?
だって、このまえもね。デイアスはレナにそういったんだよ。
でもね、
「それで、二人でセリーヌのところから帰ってくるのを、
誰かに見られて、父さん達の耳にはいったら?」
って。
だからレナが一人で行くってことになってるんだ。
でも、デイアスもいい加減
こそこそしてる気分に嫌気はさしているんだよ。
もう、一歩進めようって思いながら
どこかデイアスがふん切れないで居るのは
この間の妊娠誤解騒動のときのせい。
レナには結婚なんてまだ早いかなって思ったせいなんだ。
でも。そこら辺の約束をもういい加減はっきりさせて、
ぞくに言う結婚前提の交際って事になれば
もう少しおおっぴらに・・あは、それこそ。
デイアスん家へのお泊りも
暗黙の公認って事にもなれるかもしれないんだけど。
でも、レナが本当にいいっていうだろうか?
気持ちだけじゃない。
形として一歩前進する。
もう、ひきかえすことができない。
『レナ、俺でいいよな?』
まあ、なんで、恋する男はこんなに気弱になっちゃうんでしょうねえ。
レナのノックの音に
「ドアは開けてございますわよ」
と、言いながらもセリーヌ自らドアを開いてレナを招き入れてくれた。
「あ、あの、ごめん」
小さくなってるレナの顔には、
早くデイアスのところに引き返したいってかいてある。
デイアスのことが本当に好きでしょうがない。
そんな子にコッチの文句を言ってみてもはじまりゃしない。
呆れたようなため息をつきながらセリーヌがいった。
「まったく、そんなに一緒に居たいなら
さっさと一緒になっちゃったら?」
「う・・うん」
なんだか、口ごもった返事にセリーヌはレナを振り返った。
「何でございますの?妙に・・」
「あの・・もう、そういう約束なの」
セリーヌにしちゃ、おおマヌケな事をいったかもしれない。
「は?はいはい。ごちそうさまでございますこと」
だったら、晴れて、その日を迎えれる日まで、
秘密のランデブーのキューピッド役にあまんじるしかないかもしれない。
でも?
セリーヌは気が付いた事をレナに尋ねる事にした。
「ねえ?」
「はい?」
「それって、まだ二人だけの約束?」
「あ。うん」
「あの。俗っぽい事かもしれませんことよ。
でも、もうはっきりと婚約ってことにしたら、
あの・・・こんな風に私をだしにしなくても
よくなることじゃございませんこと?」
「あ、ごめん」
「いえ。そうじゃありませんのよ。
私をだしにされるのがいやで、こんなことをいってるんじゃなくて」
堂々としていられる手段があるだろうに、デイアスが何故そうしないんだろ?レナが何故そうしないんだろ?
ましてや一緒になる約束をしてるというのに・・。
セリーヌの単なる疑問でしかない。
レナが例えば、「デイアスが両親に言いに来てくれるのを待ってるの」
とでも、答えれば
それでまた、はーん。ご馳走様で済んだ話だったんだ。
なのに、レナが自分の迷いを露呈している。
「え?あなた?」
そう、別にレナが待たなくてもデイアスのことだもの、
きっと率先して動き出すに決ってる。
で、なくたって、レナがさっさとデイアスを連れて
結婚するって両親に宣言しにいきそうなものである。
もちろんデイアスに不足があるわけがない。
今頃、エンゲージリングがはまっていてもおかしくないだろうに。
何故?デイアスが動かない?
セリーヌはレナを見つめたまま考えていた。
「なるほどね」
その疑問の答えが今のレナの顔である。
何かにまよいがある。
デイアスは人の気持ちに聡い。
レナの雰囲気で何かを感じ取って、
もう一歩進めることに躊躇させられてる。
ずばり。その通り。
セリーヌの観察通りなのである。
「ふーん」
エンゲージブルーというのがあることは、セリーヌも知っている。
この人でいいんだろうか?とか、
私でいいんだろうか?とか、
大きく人生がかわるわけだし、
変えちゃっていいんだろうか?
結婚しなきゃなんないんだろうか?とか?
二人の土台の結びつきから不安になって
迷ってしまう事があるのはきいたことはある。
でも、今も、こうやってデイアスの傍に居たくて仕方ないレナが
何を迷う事があるんだろ?
デイアスに恋をしていた幼い少女が、成長するにつれ
性を恐れ、デイアスが男性であることから逃げて
一時はクロードにきがうつっていたようだけど、
今はそのデイアスの何もかもを受け止められるくらいになってる。
そんなレナがなんで?
「あ?」
セリーヌは二人の恋の過程を思い起こしていたんだけど、
はっとしたんだ。
「あなた?」
「なに?」
「いえ。今更、聞く事じゃないって、怒られそうですけど。
クロードのこと本当にもう、いいのね?」
レナの迷いは一つにそういうことかもしれない。
確かめるように探るように問い直した突然の言葉に
レナが「なに?それ?」と笑い飛ばしてくれる事を祈りながら
セリーヌはレナにたずねてみた。
が、レナの顔つきが変わった。
もう、忘れてた事でしかないってくらい、
レナにとっても突然な質問でもないようだった。
そして、レナの答えはこうだったんだ。
「え?だって、レオンがいるのに」
ちょっと、まって。レナ。
それはレオンがいるから諦めてるというだけで
依然としてレナの中にはクロードへの思いがあるっていう意味?
「レナ・・。それは答えになってません事よ。
いいですわ、質問を変えましてよ。
つまり、そうですわね。レオンがいなかったら?
ううん。もっといえば、
クロードがレナの事を好きだっていいだしたら?」
「え?」
レナの顔がどきりとしてる。
「あ、あの、ク、クロードがそんなことをいったわけ?」
レナ?それをどこかで期待してるってことなわけ?
「呆れた。貴方。まだ、クロードのことを?」
レナは慌ててかぶりを振った。
「あ、違うのよ。そうじゃなくて・・・」
どう、説明すればいいんだろ?
説明する言葉をまとめようとしているレナに
セリーヌは小さくため息を付いた。
「いいわよ。わからなくはないのよ」
「え?」
「つまり・・未練なんでしょ?」
「あ?・・・うん」
「でしょうね。何も言えず
一方的にあきらめることになってしまったんですものね。
判りましてよ。」
「う・・ん」
「言っちゃえばすっきりしてしまう事が胸の中にのこってる。
そんなかんじでしょ?」
「そういうことだよね?」
レナ自身もはっきり掴んでないもやもやした気持ちのようである。
「ふーん。それがデイアスとさっさと一緒になれないわけ、ですのね」
「・・・」
拘りもあった。
セックスが汚い。
怖い事のように思ってたのに
デイアスによってあっさりと自分が開かれてしまった。
それは同時にクロードに対して拘った物も
取るに足りないことになってしまってる。
「デイアスと一線越えちゃったら
クロードに対する恐れみたいな物も同時になくなって、
クロードに対する思いだけが昇華できずのこっちゃったってわけね?」
確かにセリーヌの言う通りなのだ。
「クロードを吹っ切れたのが、
クロードを汚いって思えたからなんだよね。
でも、そうじゃないんだってわかったら・・・」
セリーヌは苦笑してる。
「吹っ切れた理由がなくなってるっていうわけですのね?」
「う、うん」
「で、デイアスの事は十分にすきなんだろうけど、
ひょっとしたらもっと別の道もあるんじゃないかって?
本当にデイアスにきめていいのかな?って?」
「ぅ・・ん。そんなかんじかな」
「エンゲージブルーってやつでございますわね」
「うん。だって、ほかにいやしないけど、
ずううと一生デイアスと居るんだって・・・。
今ここで決定しちゃうんでしょ?
私一つの返事次第でそんなに簡単に・・決っちゃうものなのかなって」
「でも、すきなんでしょ?」
「あ、うん。もちろんよ。いつかは、やっぱりデイアスと、って思う」
「いつか・・かあ。今って言うのが、今って言う決定がこわいんだね?」
「うん。いまひとつ・・ふみきれない」
『その踏み切れない理由がクロードへの未練って訳かあ』
「ねえ。」
「なに?」
明るい瞳をくるくるさせてセリーヌがレナを覗き込んでいる。
「ねえ。クロードにはっきり告白してしっかりふられてきたら?」
「え?まさか。それに私そんな気持ちじゃないもの」
「そう?」
くすぶった未練なんかを大事に抱えてるほうが
よほど精神衛生に悪い気がするんだけど、
でも、こんなことは無理強いする事じゃない。
いい提案なんだけどなあって思いながら
セリーヌはやっとレナの家にアリバイ工作の電話を入れ始めた。
やっと、デイアスの元に返ってきたレナである。
「帰って来いって言われたんだろうって思ってた」
レナを引き寄せデイアスはレナの頬に自分の頬を寄せた。
「ううん。セリーヌと少し話してたの。
それから母さんに用事をたのまれちゃって」
「用事?」
「うん」
「なんて?」
なんて?って、デイアス!ほんとにその用事を聞きたいなら
レナのうなじをなめるのはやめなさいって・・・
「あ・・」
ほら。見なさい。
レナの頭の中は早くデイアスと一つになりたいって
そのことばっかしになっちゃったじゃない。
軽く、筋が張っているレナの項は
戦闘に向けて鍛錬されているせいなんだけど、
少々のモンスターの打撃さえ物ともしないその首筋が
デイアスの舌の動きにとろけだしてしまうのは本と、
いったいどういう構造になっているのだろうか?
「デイアス・・い・・や」
「いや・・?」
「あ・・いや」
「ん?」
レナの快感に抗う声にデイアスはますますレナをせめてしまう。
「ここも・・いや?」
胸に手を伸ばされもみし抱かれ胸の先をつまみあげられて、
レナは苦しい声をあげた。
「ああああ・・・や」
どんなに抗ってもデイアスの一つ一つの動きに喘いでしまうレナがいる。
「ここも?」
レナの両足の中心にあるデルタ地帯。
デイアスの指が遠慮なくうごめく。
「や・・や、や、いや・・ああ」
レナの滴りを感じ取るとデイアスはデイアス自身をレナに与え始める。
「ああああああああ」
と、いうあまりに切なく色っぽい声なわけで、
これ以上うまく実況中継はできそうもなくなってしまったので、
一時中断して、ゆっくり二人の時間に浸って貰うことにしましょう。
ゆっくりベッドに寝そべっってるデイアスのその腕の中にはレナがいる。
そっと、寝返りを打ってデイアスの顔を覗き込んだレナを
デイアスが満足そうにみつめている。
「レナ」
「ん」
「夢みたいだ」
「え?」
「こんな風にレナがそばにいてくれる。でも」
「ん?」
「それがふいにこわれちまうんじゃないかって」
デイアスの過去がデイアスを今も苦しめている。
「ば、馬鹿ね。何いってんのよ」
突然幸せが崩れ去ってしまう恐怖心はデイアスの心に今も根深い。
それが怖くて誰にも心を開かなかったデイアス。
レナへの恋さえどこかで掴む事を恐れていたデイアスが
やっとつかんだ幸せなんだ。
なの・・。
『どこかでクロードと比べていたんだよね』
情けない気分を味わいながら、
レナはデイアスにしっかりだきしめられた。
「どこにも・・いくな」
「ん」
失う恐れを乗り越えたデイアスがレナを失ったら
今度こそデイアスは誰も愛せなくなるだろう。
重い心の傷みを持っているデイアスが
どれだけ真剣にレナをあいしているか。
『でも・・私、傷薬じゃない』
だけど・・・レナもそうかもしれない。
『私も同じ?クロードのことでの傷をデイアスにうめさせている?』
あああああ。たくっ。
なんでこんなに真摯に自分の心を計りなおさなきゃなんないんだ?
好き。
それだけでいいじゃないか?
そういいたくなってしまうよ。レナ!!
「おいで」
デイアスは腕を差し出した。
「うん」
硬くて 太い腕にはいくつかの傷跡がある。
でも、その腕の中に限りない優しさを秘めている人なのだ。
レナはデイアスの腕を枕に寄り添って眠った。
夜半にデイアスがふと目覚める。
悲しい習性が身に付いているデイアスだけど、
自分の腕の中の存在の重さを感じ取るとひどく心が安らいでくる。
『よく・・寝てる』
このままでいい。
レナがここにいる。
それだけでいい。
デイアスはベッドに起き上がるといとしい人を見つめた。
「おこすまい」
デイアスは首を振った。
目覚めた男の本能に逆らう事は出来ない。
ましてや、その本能を沸きあがせる当のレナがいるんだ。
『レナ』
レナの胸をはだけさせるとデイアスはそこに顔をうずめた。
「ん・・・」
快い感覚がレナを覚醒させる頃にはすっかり裸身のレナがいる。
「あ?」
己の姿に取り乱してしまうレナをゆっくり抱きしめると
デイアスはいった。
「きれいだよ」
って。
「恥ず・・か・・」
レナが最後までしゃべりきれないくらいデイアスに
きつくだきすくめられてしまう。
身動きできないほどにきつく抱き寄せられた隙間を縫って
デイアスの手がレナにふれてゆく。
「あいしてる」
なんどいわれても、頭がくらくらするくらい
うっとりする言葉にレナの身体の力がぬけてゆく。
「レナ・・おまえだけだ」
デイアスの愛を刻み付けるように、
レナに忘れる事の出来ないデイアスそのものを覚えこませるかのように、レナのひそやかな部分にデイアスの愛撫がくわえられてゆく。
「デイアス・・デイ・・アス」
レナの訴えがなにであるか懇切丁寧に説明する必要はないだろう。
明け方ちかくまで、
しなやかで美しい野獣が絡み合い、もつれ合い、ふかめあい。
たっぷりと甘い時間を分け与え、やがて深い眠りにおちていった。
「レナ?」
「ん?」
ドアを叩く音にデイアスが起き上がって服を着ながらレナに声をかけた。
「あ?なに?」
レナの耳にもノックの音が聞こえる。
ドアの外からレナを呼ぶ声も
「あ?セリーヌ?」
「だな」
なにかあったんだ。
慌ててレナは起き上がった。
ドアを開けるとセリーヌが
「早く・・おかあさんがきてるの」
「え?」
「近くのお店に買い物にいったってごまかしたんだけど
じゃあ、私が行くわって言うから、
私が迎えにいってきますからって
またせてるの・・ね。いそいで」
「うん」
二人が慌てて駆け出してゆくのを
デイアスはあっけにとられたまま、見送っていたけど・・・。
『もう・・やめよう』
こんなこそこそした状況をいつまでも続けいたくはない。
デイアスは決心すると二人の後をおった。
「あ、かあさん」
レナの姿を見ながら彼女はわらっている。
「もう・・・。わざわざいいっていったのに」
と、セリーヌを振り向いた。
「あ?なに?」
「あのね。急に出かける事になっちゃったの。
貴方、家の鍵もってなかったでしょ?わたしておこうっておもって」
「あ、それだけ?」
「そうよ。そしたら、買い物?
セリーヌに鍵を渡しておこうって思ったら、
迎えに行きますって止めるのも聞いてくれず
ほほ・・・すごい息ね」
「あ、うん」
「じゃあ。いくわね」
差し出された鍵を受取るとレナはポケットにいれた。
「ってことはおそくなるってことよね」
レナの質問に答えながら、向きを変えた彼女であるが
「そうね・・・あら?」
むこうから歩んでくるデイアスにきがついたのである。
「デイアスよ。レナ・・」
娘の恋人が現れた事に別段不可思議さも感じず
レナのことをからかうように声をかけたのである。
「あれ?どうしたのかな?」
「貴方を探しに来たんじゃないの?
家は留守だし・・・。またセリーヌの所だって、見当つけて。
ぅふふ。熱心でうらやましいわね」
と、レナの外泊先がセリーヌのところであると疑う気ひとつなく
娘を信じているのである。
「え?かなあ?」
なんて、そらとぼけてるレナの傍にやってきたデイアスに
彼女の方が先に声をかけた。
「まあ。デイアス。随分アサ早くからデートのおさそい?」
「いえ・・そうじゃなくて」
青年の瞳の色で何かを告げたいのが判ると
レナの母親は黙って彼の言葉をまつことにした。
「誘う必要なんか・・なくて・・あ・・」
「どうしたの?はなしてくれるんじゃなくって?」
デイアスの言葉が途切れたのを彼女は促した。
「あ・・・昨日から、ずっと、いっしょでした」
いきなり何の予備知識も与えず
デイアスは事の事実を並べ立てる事しか出来なかった。
「は?はい?」
「つまり・・あの・・」
青年がしどろもどろになって説明しようとしている事が何であるか。
しばらく、さっきのデイアスの言葉を
頭の中で繰り返してみたらわかることである。
「は・・あ、あ。ええ。あ、そう。あ、そういうことね」
そう。
青年が、
デイアスが、男である以上、そのことがどういうことであるか。
その気持ちが、やむにやまれない事であるのは理解できるのである。
が、
「だけど・・え?あの・・あなた・・それ・・」
娘に向かい合うと
その理解がいっぺんに粉々にくだけおちてゆくのである。
「え?貴方・・でも・・それは・・あ、あ?」
レナもこうなったら仕方ない。
「母さん。ごめん」
「ごめん。って・・あ。それって、デイアスとあの、一晩中一緒に?
あ。あ、それって」
「その通りよ。かあさん」
「え」
絶句。
「それに今日がはじめてじゃないわ」
「は・・」
「私。デイアスとのこと真剣にかんがえてるの」
なんていうシチュエーション。
あたふた取り乱してる母親を尻目にレナは啖呵を切った。
「だから、今日も家にはかえんない」
おーい。いきすぎだぜ。極端過ぎるせ。
おまけに、さっきまでクロードへの未練がどうのこうので
ふん切れないとか言ってたばかりじゃないのかよ?
どんな心境の変化なんだよ?
「あ、貴方・・貴方なにを・・」
「デイアスが決めた事についてゆく」
「あっ」
レナのまっすぐなまなざしに映りこんだ青年が小さく声を上げると、
レナの差し出した手を引き寄せ、
デイアスはレナを自分のほうにたぐりよせた。
母親の目の前であるというのに、
レナもデイアスに答えるかのように
デイアスの胸に身体をあずけていった。
突然、レナのはっきりとした意志と、
子供と思っていたレナが
いつの間にか一人の男性を愛する女性になってる事を
悟らされた母なのである。
「判ったわ。でも、お父さんはきびしいひとなんだから、
ちゃんと順を追わなきゃ・・ねえ?セリーヌ?」
どうやら娘のウソの片棒を担いでいたセリーヌであったと事も
理解できると、
かすかに皮肉を込めてセリーヌにもいってみたのである。
でも、いつの間にか・・・。
ネンネで子供子供していたレナが一人の女性になっている事に、
気が付かなかった自分がうかつだったと、苦笑いしながら
彼女はこっそりレナに耳打ちした。
「母さんも、父さんとよくそうしたわ。
でも、わが娘の事になると驚いちゃうものなのね」
レナの感情は女である自分が一番よくわかる事でもある。
『同じ・・・女同士になっちゃったのね』
同じラインにたった娘を一人の女性として見つめるしかない。
彼女が付いた小さなため息は、
もう、娘を手放す時期が、
青年にレナを託す時期が
来ていることへの、諦めと覚悟と
レナの掴んだ幸せをたたえる喜びが入り混じっていた。
「だったら、また、セリーヌの所に居る事にしておくしかないわね」
って、彼女はいった。
「あ、母さん・・・ありがとう」
「あ・・・近いうちに」
デイアスが父親の許しを得にくるといおうとしている。
「そうねがいましてよ。私まで
父さんにうそをつくのはこころぐるしいわ」
そして、3人が彼女の出かけて行くのを見送った。
黙って立ってるデイアスの頬が軽く上気している。
デイアスもひとつの到達に、新しい展開に、心が充足されている。
「ねえ」
お邪魔虫でしかないけど、セリーヌはレナを引っ張った。
「なに?」
「いきおいってやつですわね?」
って、セリーヌがレナに声を潜めて言った。
デイアスのこんなところはクロードにはないところなのである。
「レナ・・・。デイアスにはめられたわね」
そう、最初だって、こんなふうにデイアスの術にはまって
レナはデイアスのものになったんだ。
『絶対、手にいれられちゃう』
そのデイアスの情熱にがんじがらめにされることが
レナにとってはこの上もなく嬉しい。
『ほだされてしまったってわけね。
でも、それが一生続いてゆくってことですわよね』
セリーヌはレナをとりこにするデイアスの魅力
心の中でそう表現していたけど
「ねえ。しっかりデイアスにがんじがらめにされる前に
ちゃんとクロードの事けじめをつけてらっしゃいよ」
「うん」
レナは大きな深呼吸をした。
『クロードが好きでした。
ずーっと好きでした。
大好きでした。
でも、私デイアスのお嫁さんになります』
クロードに伝える事を胸にしまいこむとレナはデイアスの傍らに立った。
「レナ。かえろう」
無論。デイアスの部屋にである。
「うん」
もう一度レナはデイアスを見た。
一点の曇りもない清廉潔白なデイアスのレナへの思い。
その、デイアスに答えられる自分でありたい。
キレイさっぱり真っ白な心になってデイアスの前にたとう。
レナはそう思うと一刻も早く自分を変えてしまいたかった。
「ね。先にかえってて」
レナはデイアスにそういうと、走り出した。
「あ?」
突然、取り残されたデイアスは所在無さげにたたずむしかない。
デイアスの傍らによるとセリーヌはつぶやいた。
「あの子。自分からクロードにお別れをいいにいくのよ」
「あ、ああ」
あの日あのとき。レナとデイアスが変わった。
ずっとレナだけを一心に見ていたデイアスは
レナが選んだ相手さえ、レナが幸せならって受け容れようとしていた。
だけど、クロードの思いはレナにない。
そのことを知ったレナの悲しみごとデイアスはレナを受け止めた。
「わかっていたんでしょ?」
「ああ。レナが好きになるやつだ」
そうだよね。
レナはそんな簡単に自分をころころ変えられる器用な奴じゃない。
それでも、
心のそこのふん切れない思いを殺せたのは
レナがまたデイアスを真剣に愛し始めていたせいであるのもわかってる。
「あの子・・そんな自分がゆるせないのよ」
「うん」
「貴方だけの自分でありたいって・・・それだけでしてよ」
「わかってる」
デイアスはあの時、何もかも受け止めた。
レナのクロードへの思いも何もかも。
そして、大声を上げて泣くレナを精一杯つつんだ。
そして。レナがデイアスを振り向いた。
どんなにまったことだろう。
でもレナの愛情を確実な物に育てていったのも自分である。
だから、そんなことでゆらぎはしない。
デイアスの深い思いが瞳に漂うのを見ながらセリーヌは頷いた。
「レナにいわれたとおり、先に帰ってる」
「そうね」
デイアスはゆっくり歩き出した。
胸の中に真剣なまなざしのレナが浮かび上がる。
あの時クロードへの恋をレオンにゆずって、
デイアスの胸にすがってないたレナが、
今はその岐路さえなかった事にしようとしている。
そのレナの声が響く。
「デイアスだけなの」
『わかってる』
胸の中のレナをも抱きしめるかのようにデイアスは答える。
『俺も、おまえだけだ』
遠ざかってゆくデイアスにセリーヌが笑いかけた。
「ねえ。レナをおこっちゃだめよ」
無論である。それに、そんな気はないデイアスである。
「こんな時間にクロードの所に行ったらレナも大変なんだから」
「ん?」
「レオンがいるにきまってるでしょ?」
二人の時間を邪魔されて文句たらたらのレオン。
オマケにレナの発言にいいほど気分を害されて。
「あははは」
デイアスが笑う声をセリーヌは初めて聞いた気がした。
そして、レナである。
ピンポーン。ピンポーン。
って、何度もチャイムはからうちをくりかえしている。
「眠ってるんだろうか?」
ううん。そんなはずはない。
ドアの前に立って静かにしてると、レオンの声がきこえる。
無論。その声が特別な声であるのはレナにもわかってる。
だから、クロードが起きてるのは間違いないことなのだ。
レナは執拗にチャイムを押し続ける。
なのに、二人の時間を邪魔されたくないせいなのか、
夢中のあまり気が付かないのか、依然と部屋の主は応答してこない。
闇雲にピンポンラッシュを繰り返すレナの心のうち。
『もう、そんなこと、どうでもいいからはやく、でてらっしゃい。』
そう、そして、クロードに叩きつけるんだ。
レオンがどういおうが
レナの言葉に二人がどうもめようがしったこっちゃない。
『そんなこと、どうでもいいの。
もう、決めたの。
私の道はデイアスだけへのずっとむかしから続いてる、
長い長い一本道なの。寄り道、迷い道なんて誰にでもあることよ』
だからこそ、はっきり宣言する。
迷い道にしか過ぎない。
迷った事さえ心に悔いをさすほどデイアスがすき。
だからこそ、今すぐに言わなきゃなんない。
いって、デイアスに思い切り抱きとめられる自分になってしまいたい。
きれいに踏ん切りつけなきゃ駄目なくらい
デイアスが好き。
だから、クロード。
早くでてらっしゃいよ。
レナの浸透圧100パーセントの心が通じたのか
やっとクロードは気が付いた。
いや、正確には、やっとうるさいチャイムに出る気になった。
「あーーー?なに」
ドアを開けた途端。レナの爆発宣言。
「!!!!!!!!!!!」
目をいっぱい見開いてるクロードを後にレナは走り出した。
『ねえ。早く・・・・抱いて抱いて抱いて抱いて 』
デイアスにぶつける言葉がそれしかない。
『愛してるの。思い切り・・・ねえ、だから、だ・い・て』
恋人の思いがレナの中に飛び込んできて
レナをくるむより先に一時も早くデイアスの腕にくるまれたい。
デイアスの確実な腕の重みに答えたい。
レナは思いっきり走り出していた。
(おわり)
エピローグ
「で、それってどういうことなわけ」
だめ。レオンが完璧に怒ってる。
「どうって?」
突然レナが言い出した言葉。
クロードだってさっぱり要領得ない。
「は?とぼけるわけ?」
とぼけるも何も、クロードにとって、晴天の霹靂でしかない。
「と?とぼける?」
「はー?何もなくてこんな時間にわざわざ、僕らの時間を
わざわざ邪魔してレナがあんなこと
言いに来てしまうような気持ちになる?へえええ?」
「あ。何。それ?僕をうたぐってるわけ?」
「疑りたくもなるよ」
ああああ。ちょー、まずうーーー。
「だいいち、」
判ってる。なんにせよ。ステラの事でレオンを裏切ってる。
その事がむし返されるんだ。
「レオン」
そんなこと、もう言わないでよってクロードの悲しい瞳。
「だって」
「・・・」
クロードが悲しいくらいに頭をたれている。
「だって、こんなにやかせなくたっていいじゃない」
狂おしい嫉妬がレオンを包んでしまうのも仕方ないことなんだ。
レオンの腕がクロードにのびてゆく。
「苦しいんだ。クロード。こんな気持ち。君にわかる?」
「ん」
「クロードの馬鹿、大嫌い・・だ」
「ん」
大嫌いだというレオンの言葉と反比例するよなレオンの気持ち。
「馬鹿。僕はレオンだけのもんだよ」
「ん」
レオンの手がクロードの手に導かれ、クロードの物をつかまされてゆく。
「ほら・・・こんなにレオンがほしい」
あああああああああ。やってらんない!!
結局こいつらの揉め事ってのは
お互いを確認するための起爆剤にしかなんない。
それをいちいち心配してちゃ、こっちのみがもたないぜ。
ほら・・・はじまった。
「レオン・・きもちいい?」
「あ・・んんん」
「誰のせいで?」
「あ、あ、あ、ク、クロードだもの」
「うふ・・ぬいちゃおうかな?」
「やん。ねえ・・」
「どう?」
「や。クロードをかんじ・・て・たい」
「ん」
またしてもクロードがレオンの望むままレオンをかわいがっちゃうんだ。
きっと、二人の揉め事?
二人の愛の確認作業?を引き起こさせた当のレナも今頃、
デイアスにかわいがられちゃってるんだろう。
ちょっとしたデイアスの嫉妬が
レナの鋭い場所をひどく執拗に愛撫させてる。
「おねが・・い。もう・・だめ・・ね・・ね?」
って、レナがデイアスに何をお願いしてるのか定かじゃないけど、
デイアスはむごいくらいにレナを喘がせる指の動きを
止めようとしないままその鋭角で感受性の高い
その部分に顔を寄せていった。
「ああああああああああああああああああああああああ」
可愛いレナ。
そして、可哀想なレナ。
これで一層デイアスにがんじがらめ。
|