SO2シリーズ(16/18)縦書き表示RDF


SO2シリーズ
作:憂生



セクシュアル・モーメント1


あっちもこっちもそれなりにそれなりに・・・
『うまくいってるじゃないかよ』
ボーマンはつぶやいてる。
ボーマンがいろいろ暗躍したのは、言うまでもないことだけど
なのに、ボーマンは
「ふー」
って、ためいきをついている。
「あん?どうしたのさ?」
って、そんなボーマンをレオンが覗き込んだ。
「あーん?」
ちっ。こいつも、あいかわらず、うまくいってやがる。
ちっとも、ボーマンになびかないレオンの瞳を
真正面から捉えると、
瞬きもせずレオンを見詰めたボーマンである。
「ん?」
こんなにじっくり見つめられると誰だって
つい、目をふせてしまい、軽くうろたえる。
だのに、ボーマンの熱いまなざしなんか
レオンはちっとも気にしない。
「おまえなあ・・」
「なに?」
文句の一つも言いたくなる。
だのに、ちっともレオンは気が付きもしない。
「なあ」
「何?はっきりいってよ、らしくないじゃん?」
こんな切ないまなざしを向けてるってのに、
なーんにも感じないでオマケに何?
挙句、らしくない?やるせないったらありゃしない。
「おまえさあ・・・」
「何?さっきから、じれったいよ。言いたい事ははっきりいわなきゃ」
はてには怒られちまうのかよ?
「もう。やだなあ。いったい、なんなのさ。早くいってよ」
こんなこともうちっといいムードでなきゃ、いえねえじゃねえかよ。
レオンに何を言いたいボーマンになっちまったのか、よく判んないけど、
色気もそっけもない態度のレオンに
ボーマンはますます何も言えずに黙ってしまっている。
「・・・・」
「もう・・。僕、そんなに暇じゃないんだよ」
ボーマンがしゃべりだすのが遅い。
じれったくなってレオンは文句を言い出してる。
『なに言ってやがんだよ。
クロードにはせっせと時間をさいて
熱っぽい視線をおくってるくせに』
「なあ・・レオン」
「もう。だから、なに?」
「ん・・・なあ。俺の事どう思う?」
レオン。普通に考えりゃこれは十分秋波をこめられたせりふなんだぜ。
なのに、レオンはボーマンの言葉どおりの意味に受け止め、考えていた。
「うーん。そうだね。上手にニーネにばれないように浮気するよね。
それって、マメっていうか。すき物っていうか」
「そ、それ。なにをいいだすんだよ」
「だって、ほんとうのことじゃない。ニーネに悪いっておもわないの?」
「次、次元がちがうんだよ」
レオンは首を傾げた。
「ふーん。浮気って単なるお遊びってわりきってるってこと?」
「そ、そういうわけではない」
どうにも、あらぬほうに話が流れてゆくのを
ボーマンは食い止めきれない。
「じゃあ。どういうわけさ?」
「ん」
ぐっと詰まってしまうボーマンなのである。
だけど、レオンの見解がボーマンの中に一つの回答を見せ付けてきた。
ひょっとして、レオンが落ちないのは
ボーマンが本気で一心不乱じゃないせい?
「遊びなんかじゃねえんだ。それなりのところでみんな愛しいんだ」
そう、おまえのことだって。
ボーマンはレオンをじっと見つめた。
その瞳をまじまじとレオンは正面から受け止めて、肩を竦めて見せた。
「ふーん。やっぱし、よくわかんないや」
「ち。お前みたいにクロードのことばっかししか見えねえ奴には
わかるわけねえさ」
「はん。おあいにく。僕はそんな軽いやつじゃないよ」
「るせえーな。お前みたいに馬車馬の目線でクロードだけを
みてるやつこそ、一端マスクをはずすと、こわいんだぜ。
世間には、いろんな奴がいるってことをお前はしらねえで、
クロードにはまちまってる。でも、俺には、それが判っている」
「何?のろけ?いろんないい人知ってて、
だからニーネを選んだんだっていいたいわけ」
まさにそのとおりだ。
「だったら、そんな素敵なニーネのとこで
何でおとなしくしてないのさ?」
「俺の世間がひろいようにな、俺のハートも広いんだよ。
いろんな心がすんでるんだ」
「あー。わかんない」
「いろんな価値を知った上で
クロードを選んでねえおまえにゃ、わかんねえよ。
どうしょうもなく引かれちまう人間がたった一人しかいないお前にゃ、選び取る価値って物がわからねえ」
辛い恋もした。
自分の中の欲求の深さに溺れきった事もある。
いろんなことをくぐりぬけ、ボーマンは自分のラインの引き方を決めた。
『守る女はニーネしかない。どんな事をしてでも守ってみせる。
だけど、もしそれが出来なくなったら俺はニーネを殺してでも、守る』
ボーマンの言う事はニーネ自身を守るという意味ではない。
自分だけの特別な女性である事を死守してゆくということである。
それがボーマンの勝手に引いたラインである。
ほかの存在とニーネとの格段の違いがそこにある。
他の奴らがどこへいこうが、何をしようがどうでもいいのである。
が、ニーネだけはボーマンを見つめ
ボーマンだけのものでなければならない。
幼い子供のようにボーマンは
ニーネからの愛情を独占しなければ気がすまない。
『アイツが俺を見なくなったら・・俺はきっと狂い死ぬぜ』
まったく勝手我侭な思いをのぞみたくなるからこそ、
ニーネが特別な存在であるんだろうけど。

ボーマンが何気なく話したことが、
この先のレオンに起きてくるとは予想もしないボーマンなのであるが
「ま。帰るぜ」
と、ボーマンが切り出したのは、
レオンに会いにやって来たクロードが
研究室にはいってきたせいでもある。
「あれ?ボーマン。もう、かえるの?」
ボーマンが横をすり抜けてゆくのをクロードは
お愛想で声をかけるに過ぎない。
だって、クロードの瞳はもう、レオンをおいかけてる。
「ああ」
ボーマンの声色がどこか無愛想であるのに、
レオン同様クロードもそんなことなんかちっともきがつきやしない。
『まあいいさ』
ボーマンは、ふうとため息を一つついて研究室を後にした。
それから・・何日たったのだろうか。
レオンからちっともお呼びがかからない。
調剤する事もねえ?製薬も足りている?
まあ。それでも、そろそろ在庫の点検に行くか
とボーマンはもっともらしい理由をつけて研究所に出かけて行った。
研究室のドアを開けると相変わらず
一等最初にクロードが目に入ってくる。
『どうせ・・鼻の下を伸ばした、デレ助(それは何ですか?ボーマン!)になって』
「ない・・・」
ひどく険しい目つきになってる事にクロードは自分でも気が付いてない。
むろん、入ってきたボーマンにも気が付きもせず、
何かを食い入るように見てる。
じっとにらむようなクロードの視線が何にそそがれているのか?
ボーマンの目線がクロードの見ている物を何であるか確かめる為、
クロードの目の先を追っていた。
「はーん?」
むろん。そこにはレオンがいる。
これは相変わらずな事であるが、そのレオンの横に見かけない奴がいる。
そして、クロードはそいつをみてる。
いや、正確にはそいつとレオンをみてる。
「なんだよ?」
それで、そんな顔をしてみてるのかよ?
やだね。嫉妬かよ?
ボーマンはたあいもないクロードのレオンへの執着と、判ると
やきもちの鬱憤晴らしに、いろいろ愚痴を聞かされても、たまらない。とばかりに、ドアの外へ、後ずさりをし始めていた。
『なんだよ。お前結構、妬くんだな』
ボーマンは妬くほどの相手でもなさそうな、
レオンの側にいる青年を見つめなおした。
どこにでも、転がっていそうな、まじめそうな青年。
青年と言うよりはまだ少年に近いかもしれないが、
白衣が彼を随分落ち着かせて見せていた。
が、歳はクロードよりいくつか若そうである。
と、なると大学生?若いって事は特待生?
もしくは飛び級でもう、卒業しているのかもしれない。
『なんてことないじゃねえかよ?』
ボーマンはその瞳をレオンに移し変えた。
「え?」
レオンが・・・いつものレオンと違う。
どう違うのか?って?
しいて言えば、クロードを見るときの瞳に似ている。
「え?・・て、それ?」
恋する男の敏感さが哀れになってくる。
多分当の本人が意識するより先に
クロードの方が先にレオンの感情に気が付いている。
ボーマンは外に出かけた身体を部屋の中に入れてやると
クロードのそばに近寄っていった。
『へっ。ちったあ。おれの気持ちが判るかよ?』
なんて事も思いながらボーマンは
クロードの側の椅子にどかりと座り込んだ。
「・・・・・」
黙って座っていると思いもよらずクロードの方が喋り掛けてきた。
あい変わらず二人を見たまま、クロードは
「昼休みまで・・アイツにべったりなんだ」
と、言った。
「な?」
「うん」
ボーマンの言葉がなんだって?そうなのかよ?
と続くのをクロードは先に頷いてる。
『おい?そりゃあ。危険信号どころじゃないじゃねえか?』
「あいつ・・。」
クロードが呟く言葉さえひどく憔悴してる。
「おい?まさか・・」
「なに」
前をむいたまま、なんだか何かの抜け殻みたいに
気のない返事がかえってくる。
「な・・なんだよ。そりゃあ、
つまり、お前の部屋に帰っても
レオンの奴はいっさい何もさせねえってことかよ?」
「は。じゃなけりゃ。
何で、僕がこんなやきもきした気分あじあわなきゃなんない」
そりゃあ、そうだ。
「ん。でも。お前のところには、いってるんだよな?」
「ん。でも、本心なのかな?ごまかしてるのかな?
くたびれたって、そればっかで・・ぜんぜん・・」
「はあ・・」
「レオンにかぎって、とは、おもうんだけど」
自信がもてなくなってる。
レオンがクロードのところに行かないってなっちまえば、
それはもっとたいへんなことだけど・・。
でも、あのレオンが没交渉?
「あいつのせいだと思いたくないんだけど。
でも、アイツが来てしばらくしてから・・」
ボーマンはもう一度アイツとレオンをじっと見た。
多分、さっきのクロードに似たような顔つきしてるんだろうな
とボーマンは自分を思った。
何を思ったのかクロードは急に立ち上がると
レオンの側に近寄って行った。
「クロード。だめだよ。あとにしてよ」
ちょっと、抵抗はしてみたようだけど、
クロードの思いつめた表情に気が付くと
レオンはクロードの手にひかれて
レオンの専用の小部屋にレオンを連れて行こうと
しているクロードに従ったようだった。
「よくねえな」
頭に血が昇ってる状況のクロードを今は宥めるしかない。
そんなレオンの気持ちがみえかくれしている。
だけど、ボーマンにはどうしてやる事もできず
クロードが帰ってくるのを待った。
案外、誤解かもしれない。
もう少しすればクロードのレオンであることを知らされた
レオンが妙に甘やかに潤んだ瞳になって帰ってくるかもしれない。
ボーマンはじっと待ってみるしかなかった。

こんな風に使う事は無いと思っていた、ポケットの中の小瓶の存在を
クロードはそっと確かめると、
レオンを引っ張っていった部屋の鍵を閉めると
途端にレオンをおさえこんだ。
「クロード・・・」
「ね?レオン、すこしだけ」
離れてしまったんじゃないかと思うと、
無性にそうじゃない事を確かめたい。
そして、またクロードの物でしかない事を
レオンに思い知らせておきたくもなる。
「クロード、ね、あとで・・ね?あとで・・ちゃんと」
「そういって・・ずっと僕をさけてるじゃない?」
「・・・」
黙ってしまわれると、その通りだよと言われてるようでもある。
クロードはやにわにレオンのズボンに手をかけると
下着ごと引き摺り下ろし、ポケットの中の瓶の中身を
クロード自身になすくりつけると、
レオンを後ろから押さえ込んで
むき出しになったレオンの局にいきなり挿入していった。
「や・・だめ・・だめ・・だよ」
レオンの言葉がますますクロードを意地にさせている。
「ほんとうに?いや?」
いつもより、ひどく手荒にクロードはレオンにいどんでいる。
レオンの片足をかかげあげると、
レオンの中に入り込んでるクロードの物がよくみえる。
「だれのもんだよ?」
「あ」
クロードにうごめかされ、
オマケに恥ずかしいその行為そのものの、
その部分をもろに見られるような格好をさせられてるのに、
レオンはじぶんでも、不思議なくらいあえぎはじめてる。
「や・・クロー・・あ・・あああ」
完璧にクロードのレオンである。
「きもちいい?」
「あ・・ん・・」
「ほんとに?」
クロードは動きを止めて見た。
途端にレオンがねだりだす。
「ねえ・・うごいて・・ぼ・く・つら・・い」
だろ?それがわかりゃいいんだ。
『お前と僕がひとつになる事が一番最高なんだ』
「ああ・・クロード」
動き出したクロードにレオンは陶酔しきっている。
『つまらない・・やきもち、やいて・・ごめん』
クロードの不安がクロードを何度も呼ぶレオンの声で消え去ってゆくと、
クロードもやっと自分のレオンへの独占のしるしを
レオンの中に放ちきった。
そして。
無理やり、手繰り寄せて、確認したレオンの愛に充たされたクロードは、
自分の無理強いを素直にわびた。
レオンが、ふと寂しい顔をし、
そして、なんだかひどく遠い目をした。
「あ?」
その遠い目がふと悲しい目になると
次の瞬間何かを決心するような目になった。
「御免。クロード。僕、しばらくクロードにあわない。あいたくない」
「え?」
何で?さっきあんなに何度も僕の名前を呼んだよ?
僕のレオンだってことをあんなに感受していたのに?
「ごめん・・・」
レオンは他に言える言葉を見つけれず、
事の事実に只々、驚嘆しているだけのクロードから
身体を離すと手早く服を着始めた。
「あ・・・」
レオンの中のなごりがレオンに痕酔いをおこさせていた。
レオンは身体の中に走った切なさに、あ、と小さな声を上げたけど
それを振り切るかのように服を着だすレオンの瞳に
大きな涙がうかんでいた。
『そんなに悲しいのに・・それでも、僕をふんぎりたい?』

しばらくして、研究室に戻ってきたレオンがクロードと一緒じゃない。
ボーマンは慌てて外に飛び出して行った。
研究所の玄関を走り出て、クロードがいないか辺りを見渡した。
「いた」
クロードは大きな門をゆっくりとくぐりぬけていた。
「おい!」
ボーマンがかけた声にクロードが立ち止まった。
クロードの側に駆け寄るとボーマンはクロードの様子をじっと見た。
そして、待った。
「あは・・」
と、自嘲的な笑いをうかべるだけで何も言おうとしないクロードに
ボーマンはたずねるしかない。
「そういうことなのかよ?」
つまり、レオンはあの新人助手がいいってことなのか?
「よく、わかんない。でも・・しばらくあいたくないって」
「な。なに言ってんだよ?それで、
お前、理由も聞かずのこのこ、逃げ出してきたのかよ?」
「ボーマンだったら・・・きく?」
「あ・・」
ききたくない。きけるわけがない。だけど・・。
「もう少し、僕も・・自分なりに考え直してみたいしさ」
「考え直すって?理由もわかんなくてどう、考え直すんだよ」
「なんとなく・・思い当たる事があるんだ」
「それ?どういうことだ」
「うん」
クロードは少し考えて辺りをみまわした。
「ねえ。久しぶりに飲もうか?そこで・・はなすよ」
「あ?ああ」
ボーマンはクロードと並んで歩き出した。

そして、店にはいって、かれこれ、水割りももう、三杯目。
「なあ?」
「なに?」
「おまえ。やっぱし、どうしてもレオンがいいのかよ?」
クロードはボーマンの言葉にどう答えるべきかを考えていた。
「それ、あきらめろってことをいいたいわけ?」
ややすると、ボーマンの質問の答えにならない回答を
クロードが尋ね返した。
「いや・・そうじゃないけど」
「諦めたほうが良い様にみえるってことなわけ?」
「・・・」
「ぼくは・・」
「・・」
「しかたないよ。自分の気持ちはどうにもなんないもの。
それにこんなことぐらいで・・」
「ん。なら、いいんだ」
どうにもなんない気持ち。
それもわがままなら、レオンの我侭だけをせめることはできはしない。
「僕は、レオンが僕を好きだから・・好きになってるわけじゃないしさ。それに」
「なんだよ?」
「もし、そうでも、まってるだけだよ」
それは、つまり、レオンがあの新人君に熱をあげてるってことをいう?
「そんなに、レオンがいいってことか」
「仕方ないよ。ほれた弱み・・。ボーマンもそんなことない?」
「他に・・にげをうつきにはなんねえか?」
「きばらし?できるわけないよ。そんな気になんない」
いくらでも、クロードを受け止めてくれる奴はいるだろう。
けど、こいつはそんなやつじゃない。
「そんなんだから、
レオンが安心してわがままいいだすんじゃねえのか?」
「しかたないよ。僕にはレオンしかいないもの」
「おい・・」
泣き出しちまいそうな男心をボーマンはじっと見ていた。
「たく。不器用すぎるんだ」
「うん」
ボーマンはクロードがここに来る前に言っていた
『思い当たる事』ってのをきいてみるきになっていた。
「何だよ、ところで、さっき、言ってた思い当たるって事って、
なんだよ?」
「うん。前にもあったんだ。どういうのかな。やっぱ。
レオンには、僕の欲求をうけとめきれないんだ」
「どういうことだよ?おまえら、そういう仲じゃねえか?
それをいまさら・・え?前にも?」
「うん。おもちゃにされてるって・・」
「そ、そりゃあ・・」
ボーマンは黙った。
こいつらがどんなセックスをしてるか?
その答えみたいなものでもある。
「だから、きっと、あの新人といると、
その辺りを余計に考えさせられるんだと思う」
「わかんねえな」
「うん。レオンが大人になってきてるんだよ」
「大人?」
「そう、社会的にね」
「あーん?」
ボーマンは黙り込んでしまったクロードにそれ以上問い直すのは止めた。
それから、いいほどのみまくって、
クロードは馬鹿みたいに何杯もおかわりして、
帰る頃にはすっかり、よっぱらっていた。
「あは・・きもちよさそう」
帰り道の公園。クロードは公園の中にある噴水に近寄っていった。
何をするのかと見ているボーマンの前で
クロードは噴水の池の中に足を入れると、
噴き出している噴水の真ん中に近寄っていった。
『ば・・ばかやろう』
もう、涼しい風がふきだしている。
『馬鹿が、やけになってるじゃねえかよ。
つよがりばかり、いいやがって・・』
ボーマンはクロ―ドを引っ張り出しに自分も噴水の中に入っていった。
「ボーマンまで・・ぬれちゃうよ」
「ばかいってねえで」
クロードを掴んだ腕をボーマンは引き寄せた。
途端に、クロードがしがみついてきた。
「おい?」
「僕はレオンを失いたくない」
ボーマンの肩にすがったクロードの声がないている。
「なんともねえさ」
「・・・・」
どぼどぼのふたり。
クロードを連れて帰り、ボーマンも家に帰った。
「あら?ふられたの?」
帰ってきたびしょぬれのボーマンを見たニーネがたずねた。
いつ振り出したのか知らないけど雨にである。
でも、ボーマンにはちがってきこえてしまう。
「ふられた?」
わけはない。
クロードに限ってそんなことあってたまるか。
ボーマンはぐっと歯噛みをする。
『レオン。お前どういうつもりでいるんだ?』

次の日。
もちろんボーマンはレオンのところに出かけて行った。
レオンは相変わらず新人君と、一緒に組んでいる。
実験上の注意を与えるのさえも楽しげにみえる。
『てめー?浮気か?クロードに厭きた?んなこといわせやしねえぞ』
「おい」
レオンに向かってボーマンは手をふりこっちに来いと合図した。
「あれ?ボーマン随分、はやいじゃない?」
寄って来たレオンは普段のレオンとちっともかわりはない。
そう、新人君の側を離れるとき、
やけに優しく「ちょっと、まっててね」と、声をかけた以外は。
「おい」
「なに?」
「お前・・クロードのこと・・」
クロードのことを切り出そうとしたボーマンが
「クロード」といっただけで、レオンの表情が強ばった。
「やめてよ」
やめてよも何もまだ俺はなにも。
「な?何もいってねえじゃねえかよ?」
「クロードのことでしょ?あのね」
レオンは思い切るようにボーマンをまっすぐ見つめると
「少し、うんざりしてるんだ」
と、言い放った。
「え?」
「・・・・」
「なんで?」
「だって、きのうだって」
クロードが銀色の小瓶を使っただろう事は
ボーマンにもさっしはついている。
それが気に入らなかった?
お前に限って喜ぶ事はあってもそれはないだろ?
「なんだよ?いってみろよ」
「うん」
言いにくそうにレオンは口ごもった。
「なんだよ?」
促されてレオンは唐突に言葉を発した。
「だって・・・セックスばっか」
「え?」
クロードのいっていたとおりなのかもしれない。
「ん、でも・・おまえ?」
ふううとレオンはため息を混ぜ込んだ息をはいた。
「僕はその解消役だけなのかっておもってさ」
「ば・・ばか。んなわけねえだろ?」
だいたい。それだったら、クロードだって他に逃げをうつ。
なのに、打たないって、それはつまり、レオンじゃなきゃ駄目だって、その気持ちがセックスになっちまう。
それが判んないお前じゃないだろうに?
「そう・・かな?」
いけねえ。完璧に注意信号だ。
それ相応にお互いの心が燃え上がっていてこそ、
対等なセックスが成り立つ。
なのに、今のレオンのハートは不完全燃焼してる。
それなのに。
そのレオンにセックスを求めるって事は
お互いの食い違いに溝をふかめるだけになる。
「クロードのどこがきにいらねえんだよ?」
ようは、不足がある。つまり、そういうことである。
「しつこい・・おまけに無理やり・・・」
「え?」
それがよくてたまんなかったおまえじゃねえのかよ?
一体どういう心境の変化だ?
ボーマンはむこうで顕微鏡を覗き込んでは、
レポートに何か書き込んでる新人君を見つめた。
レオンの注意に新人君は素直にひたむきなほど従ってきている。
それに比べりゃ、クロードは
何もかもをセックスで牛耳ろうとしてるようにみえるかもしれない。
***アイツにひかれてるせいというわけじゃねえな?***
だけど、あいつのせいで、
クロードがつまらなく見えてきているのは、間違いないようである。
「あきあきしてるのかも・・しんない」
はっきり断定はせず、まるで人事みたいにレオンは
自分の気持ちをいった。
「ふーん」
ボーマンはうなづいておいた。
いつの間にかクロードからの愛情が
当たり前になりすぎてしまっているだけだとボーマンは思った。
安定しきって、存在感が重くのしかかってしまってる。
「ふーん。ぜいたくいってると、クロードをなくすぜ」
「え・・あ、ん」
「自信、たっぷりだろ?どこにも、いくわけないってな?」
だからこそ、なお、その存在が重圧になるんだろうけど。
ボーマンは、レオンの状態が見えてきたら
クロードの事が心配になってきていた。
「アイツ。昨日の事で、かぜひいてねこんでるかもしれねえぞ」
レオンに、ポツリと漏らすと、ボーマンは外に出て行った。

昨日のお酒と馬鹿な水遊びがたったって、
クロードはまだ、ベッドの中にいる。
クロードは枕もとの時計をみた。
もう、お昼過ぎてる。
いつもならレオンと一緒に昼食をとって、
それからレオンの部屋に行って、そして・・・・。
『いつも、いつも、あんなことばっかしてるわけじゃない。なのに・・』
レオンに腕枕を貸してゆっくりベッドに転がって、
取り留めない会話をかわす。
レオンがそばにいるだけでいい。
話しかけると、時折瞳をふせる。
頼りなげでとっても、寂しがりやのレオンだって事はよくわかってる。
だから、なおさら傍にいたくて。
そして、傍にいれば、愛しさがつのる。
つよく、確かな愛で、
レオンのはかなげで心もとない寂しさをぬぐいさってしまいたくなる。
だけど、それは、クロードが寂しいレオンを
見たくないせいかもしれない。
「ごまかしてるだけ?」
それでもよかった。
今までのレオンならそれでも、
クロードの愛に充たされていてくれていた。
「だけど・・行けないよね」
あんなにレオンがはっきりと言ったんだもの。
――しばらく・・会いたくない。――
「しばらくって、いつまでなんだろ?」
ぼんやり考えながらクロードはベッドから起き上がろうとした。
「あ・・っつうう」
随分、頭がいたいじゃないか?
『ひさしぶりに、のんだせいだ』
いやいや。そんなことより、量の問題だっておもうんだけどね。
「ま。いいか。たまには、おとなしくしてようか」
クロードはもう一度ベッドにもぐりこんではみたけど、
一度目覚めたら、暗澹とした気持ちが一層クロードをおそってくる。
「はあ」
小さなためいき。
考えまいとするのに、レオンの笑顔が浮かぶ。
そのレオンの笑顔を今頃アイツが独占してる。
「くそ」
ちょっと、動くと頭の芯がずきずきする。
そのくせ、
「ああ。はらへってる」
レオンがアマンダにでかけてるかもしれない。
クロードはどうしようか、迷った。
「やめとこ」
きっと、逢ったらいい顔されない。
もう少し時間をずらしてゆく事に決めると
クロードは布団をひきずりあげた。
だけど・・腹へった・・・。
そのとき、玄関でかちゃりと音がした。
「ん?ダレ?・・・ボーマン?」
レオンのわけがない。
他に来そうなのは、昨日の今日だから、ボーマンくらいだろう。
『あいてるよな。ボーマンが閉めていってくれるわけがない』
でも。
かちゃかちゃって、鍵をさしこんでる。
あ・・。
レオンしかいない。
クロードは慌ててドアの傍に駆け寄っていった。
むろん、歩くたび頭はずきずきする。
「つーーーーー」
うなりながら、こめかみを指でおさえこんだクロードが
ドアを開けようとしたとき向こう側にドアが開かれた。
「ああ。やっぱり」
ドアの外にはクロードの顔が辛そうにゆがんでいるのを見たレオンの声。
「ああ、レオン?」
「ボーマンからきいたよ。風邪は大丈夫?二日酔だけ?」
「あ、ん。きてくれたんだ」
「そ。どうせ。お昼もたべてないんでしょ?」
「うん。そのとおりだけど。でも、あの・・」
「昨日の事?撤回はしないよ。でも、それとこれはべつだよ。
それに、もう少しちゃんとはなしときたいなっておもったし」
「あ。うん。な、なにかな?」
「ああ。いいよ。そんなことはあとにして、とにかくたべよう。
僕もおなかぺこぺこ」
アマンダで作ってもらったお昼の包みを引っ張り出すと
レオンはテーブルに広げた。
クロードのおなかはすいてる。
でも、胸の中に渦巻いてる思いを吐き出してしまわなきゃ
ちょっとたべれそうにない。
「あの・・」
「うん?」
「あの、僕の事、嫌いになったわけじゃあないんだよね?」
「う・・ん」
なんだかはっきりしない返事だけど、
嫌いだったら、レオンがここにきてくれるわけはない。
「あの・・さ」
「うん?」
言いかけた言葉が、つづかないレオンである。
「あの?何?教えてくれなきゃ、あの、僕も気をつけられないよ」
「うん。あのさ。嫌いってわけじゃないんだ。でも、ちょっとね」
「だから・・なに?」
「ん。あのね、ちょっと。あんなことっばかし・・で」
やっぱり・・そういうことではあるらしい。
「おもちゃみたいだって?」
いつかの喧嘩の時にレオンはそういった。
「ううん。そうじゃない。そうじゃないのはよく判ってるんだ」
「じゃあ?どういうこと?」
「あの、怒んないできいてくれる?」
「う、うん」
怒んなきゃなんないこと?それって?。
不安にクロードの胸がきゅううとしめあげられてくる。
「僕ね・・あの子と」
クロードにはそれが誰の事かすぐに判る。
でも、判っているのなんか見せたくはないクロードなのである。
「あのこって?あ、ああ。あの新人君のこと?」
平気そうな顔をしているけどクロードの胸の中では、
どくんどくんと心臓の音がひどく大きくなっている。
「ん」
「な、なんかあったわけ?」
クロードの舌が軽くもつれている。
いやだ。こんなこと聞きたくもない。答えて欲しくもない。
「そうじゃなくてさ。なんていうのかなあ。
あの子。こう・・ぼくのことをね。一生懸命みてくれるんだよね」
それって・・つまり、どういうこと?
のどまで出かける言葉をクロードは押える。
それって、あいつに想われてるって事?
レオンはそれが嬉しいって事?
きこうとしても、喉がひりつくように痛くて
クロードは言葉に出せなかった。
「もちろん。あの子が見てる僕って
研究とか、仕事にたいしてのことなんだけど」
「だけど?」
「だから、よけいにクロードが見てる僕ってさ。
セックスばっか・・・そんな気がしてしまうんだ」
「ん」
なんだかレオンの考えてる事が見えてきたクロードであった。
「あのこにはそんなもんがなくてさ。なんていうか。
博士としての僕のあり方を問われるような厳しさがあって、
気分がすごく張り詰めて気持ちが充実してくるんだ。」
レオンの言いたい事はよく、判った。
「つまり、僕にはそれがないってことだね。
僕とは根本的なスタンスを問い直される事はない?
精神的な面でレオンを満足させられないってことだよね?」
「そういうことになる・・よね」
「僕がなにもかも、許しすぎちゃってるんだよな」
「そう。でも、それは仕方ないって思うんだ。
セックスしちゃったらなにもかも、許容の範囲にはいってしまうんだ。僕も多分そう。
クロードが人間としてどうかってことなんかより、
僕を求められたいってそっちの方が先で
少々のことなんか、どうでもよくなってしまうんだ」
「社会的じゃないってことだよね」
クロードの言葉にレオンは
「つまり、そうだね」
って、うなづいた。
「僕も考えなかったわけじゃあないんだ。
でも、それでも、僕はレオンがいい。
僕がだした結論はそれしかなかったんだ」
クロードの言葉にレオンは随分しんみりした調子で
「クロード。君は随分大人なんだ」
と、答えた。
クロードはレオンをじっと覗き込むと
「レオンがきめりゃいい。
僕の事は逃げ場所に過ぎないかもしれないけど、
それでも必要かもしれない。
でも、そうじゃなくてレオンに
もっと、違う価値が必要になってきてるのかもしれない。
でも、いずれにしろ、レオンがきめることでしかない」
レオンはクロードを見つめ返した。
「クロード?
それって、もしも、僕が別れるって言ったらそうするってこと?」
レオンが、はっきりと口に出した
決別がありえるかもしれないって事にクロードは頷いた。
「お前の人生を押しつぶすようなマネだけはしたくないんだ。
お互いが心の中で触れ合える物がなくて
身体だけ重ね合わせてるなんて寂しい事だよ」
レオンの主体性が一番大事であるとクロードはいう。
『クロード。そんなに僕が一番?僕が一番だいじ?』
「ゆっくり考えりゃいいよ。優しさだけじゃ生きてゆけないんだ。
レオンがレオンらしく活きてゆけばいい。
でも、それでも僕はレオンを愛してる。
この気持ちだけはどうしようもないんだ」
「クロード」
涙が出てきそうなレオンの頭をくいって、つつくと
クロードはレオンの髪をなで上げた。
クロードはそのまま目線を時計に移し変えた。そして
「レオン。時間だよ。もう、研究所にかえらなきゃ・・」
と、レオンに時間の猶予がないことを伝えた。
「クロード。今日は・・こない?」
「うん。しばらく、いかない」
「ん」
それはレオンがクロードに宣告したせいに違いないけど。
「きにすんなよ。自分を一番大切に考えりゃいいんだ。
一番自分を愛してやれる生き方を選べばいいんだ」
「クロードにはそれが・・・僕?」
「そうだよ。でも、レオンが僕を自然に望んでくれるのがいい。
無理はつづかないよ」
「クロード・・・・ぼく」
「いいから、はやく、もう・・おいきよ」
なんで、クロードのこんな気持ちにこたえられないんだろ?
レオンは自分がひどく悲しくなってくるのを感じながら
研究所に戻って行った。
そこにはボーマンが所在無さ気に待っていた。
帰ってきたレオンの顔がいまいちすっきりしてない。
ボーマンはやっぱり、クロードの事がきになってしまう。
あいかわらず、新人君の前に来るとレオンの顔が
晴れやかになるのを見ると一層ボーマンはクロードが気になる。
『どうなっちまってるんだよ?』
こんな疑問は直接、クロードに聞いて見るしかなさそうで、
ボーマンは腰を浮かせ、態上がるとそそくさと外に出た。
ひどく追いすがるようなレオンの瞳を感じながら
『あーん?駄目になっちまったのかよ?で、そんな目かよ?』
と、思ってしまう。
「まあ・・いい」
クロードにもう少しきいてみてからにしよう。
ボーマンはレオンに問い詰めるのを後にして
クロードの所に向かっていった。

ドアを叩くとクロードはやっぱりいた。
「はいるぜ」
なんて、いってるけど、もうしっかり鍵をかけてないことを確かめ
ドアを開けて、ボーマンは部屋の中にはいっている。
「おい?どうなっちまったんだよ?」
レオンがクロードのところに来たのはわかっている。
なのに、なんで、ああもすっきりしてない顔をしている?
ボーマンのいきなりの言葉が
レオンとの事だって事はクロードだって判ってる。
「大人になってきてるんだよ」
よく判らない説明。なんだよ、それ?
「どういうことだよ?」
「いろんなことを潜り抜けて、相手をえらびとってゆくよね?」
レオンのことである。
ボーマンはクロードの言葉の言う事の意味合いに慎重に頷いた。
「レオンは・・子供のまま、僕をえらんだ」
「・・・」
「今、子供の殻をぬぎすてはじめているんだよ」
「クロード・・おまえ」
ボーマンの詰まった言葉にクロードは頷いた。
「そう。次のレオンがもう一度、僕を選んでくれたら、
今度こそ本物だよね?」
そこまで、レオンを許容している?
ボーマンはクロードの深さに黙り込むしかなかった。
だけど。
「お前?それでいいのかよ?
あいつを成長させていったのはお前じゃないか?
我侭で人のことなんか気にしねえ奴が随分、おとなびて・・・」
「まだ、まだ、子供だよ」
「ばかいってろよ?そんな子供にお前は、ほんきなんだろうが?」
「だから・・・まっていられる」
ボーマンはクロードの顔をまじまじと見つめた。
『お前・・・ほんとに』
レオンのスタンスが変化し始めている。
愛に餓えていたレオンがクロードにより心を充たされてゆくと
次は普通の大人らしく社会意識に目覚めてゆく。
まだ、十二才だけどそんな変化をきたすのは不思議な事ではない。
「あいつ」
ボーマンはその続きを口に出せなかった。
けれど、クロードはあっさりと
「あの、新人助手がレオンをうけとめられるんなら、
それはそれでいいんだ。それをレオンに気が付かせたも彼だし。
その事の結果なんだもの」
「ば、ばか。ばかいうな。お前くらいマジにレオンを思ってる奴がいて
いきゃあしねえよ」
「ん」
だといいんだけどね。
って、言葉をクロードは飲み込んだ。
レオンのことはクロードが一番、判ってる。
新しい自分を見せてくれる相手に惹かれないわけはない。
クロードには見えている事だった。


その夕方レオンは新人君。
ああ、名前をだそう。ジャステイスっていうんだけどね。
そのジャステイスの胸にいだかれてしまっていたんだ。
「あ・・・・」
レオンの戸惑いもさることながらジャステイスも
いくばくか戸惑っている。
震える指先。
ジャステイスの胸の鼓動がレオンにまで伝わって来る。
「僕を・・好き?」
レオンはジャステイスに尋ねた。
「はい。でも、ごめんなさい」
「なにが?」
何がごめんなさいなんだろう?
「こんな気持ちになっちゃうなんて・・僕」
間違ってる事ではない。
レオンはジャステイスの胸に頬を当てた。
博士である。
上司でもある。
そして、レオンには恋人がいる。
こんな気持ちになることは許される事ではない。
でも。もう、押え切れない。
そんなジャステイスの気持ちが痛いほどに判るレオンなのである。
「僕も・・」
嬉しいと言おうとしたレオンの中に鋭い痛みが走る。
(クロード)
その存在とジャステイスが重なる。
途端に不思議な違和感がレオンを包んだ。
『のめりこめない』
ときめかない。
こんなに身体を密着させているのに。
嫌じゃない。
それなりに嬉しくもあり、ジャステイスの事はいとおしくも思える。
なのに・・・何かが違う。
レオンは感じ取ったことをジャステイスに告げるしかなかった。
「最初で最後だよ。けじめはつけよう。
僕は君の上司だ。仕事に私情をもちこむのはよくない」
自分の言ってることは大いに矛盾がある。
仕事中だってクロードのことがたまらなくいとしくて。
プライベートルームでクロードとの時間を作ったことなんか
何度だってある。
私事をわきまえられないくらいクロードがいとしくて・・・。
「ごめん」
レオンはジャステイスにわびると、その胸の中から抜け出していった。
―恋じゃない―
レオンにはそれだけがはっきりと判った。
「あの人がいるから?」
ジャステイスはレオンに尋ねていた。
「え?」
「よく来てる人。
今日、みかけなかったのは、別れたせいじゃなかったんだね?」
「あ・・」
―別れたりしやしない。別れたり、しやしない―
レオンの沈黙がジャステイスを悟らせている。
僕の事は?
ジャステイスがそれを突き詰めればレオンはどうこたえるだろう?
気紛れ。迷い。浮気。魔がさした。
どんな言葉を言われても仕方がないことである。
でも。要は彼からレオンを奪えなかった。
それだけでしかない。
「判りました。レオン博士・・・」
レオンを仕事上の呼び名に戻す。
公私にけじめをつけたジャステイスが、
自分が助手でしかないことをレオンに表明していた。
「ご・・御免。僕があいまいだったから・・」
「いえ。レオン博士も普通の人なんだってむしろ、安心しました」
「・・・・」
優しい思いやり。
レオンをせめもせず。
「初めから・・無理だってわかってました」
この恋に勝算がない。
ジャステイスにはそれがわかってながら、
レオンを抱き寄せずにはおけなかった。
「あの人には・・僕の気持ちがわかってたはずです」
ジャステイスはひどく辛そうな顔をした。
レオンにふられたことより
あるいはクロードに勝てないと言うことが
この青年を一層痛めつけていたのかもしれない。
「なのに。レオン博士を黙って見てた。
僕とはレベルが違う。あの人が見てる博士は、僕が見てる博士じゃない。もっと大きくて、広くて。僕はかてるわけがない」
そんなクロードから、レオンはのがれようとした。
『僕がとてつもなく・・・おろかだっただけだ』
「あの人。まってますよ」
そう。彼じゃなけりゃこんな愚か者を許せやしない。
レオンが気が付き、レオンがとり戻した価値に
ジャステイスは頷いて見せた。
幸せにと語りかけるジャステイスの瞳に答えることがなんであるか?
ジャステイスにレオンは研究所の鍵を渡した。
「行ってらっしゃい。ちゃんと戸締りはしておきます」
ジャステイスは小さく手を振って見せた。
恋しい人が一番幸せであること。
その想いがジャステイスにはある。
そして、その思いが一番深いのはクロードだろう。
『僕は馬鹿だ。クロードはいつだって
僕を満たしてやりたいってそれだけでしかないんだ。
セックスばっか?ちがう。僕が望んだんだ。だから』
そう。いまだって。ひどくクロードが恋しい。
肌を重ね、確かなクロードを感じ取りたい。


クロードの部屋の前にレオンは立ちつくす。
やがて、レオンはドアを大きく開いた。
「ん?はいってこないの?」
レオンに気が付いたクロードが傍に寄ってきた。
「はいっていい?」
「なにいってんだよ。はいってくりゃあ・・・」
「クロードの心の中に・・・」
「あ、ばか。なにいってんだよ。
初めから、おまえはでていってないよ」
「はいっていい?」
レオンはもう一度同じ言葉を繰り返した。
「レオン?」
「僕が必要ならひっぱりいれてよ。
レオンの好きにしろとか、そんなこといわないでよ」
「あ・・・。ご、ごめん」
ドアを閉めないままクロードはレオンを引き寄せた。
そして、レオンをしっかり抱きしめた。
「クロード」
「ん?」
「僕の胸のここんとこ・・・変なんだ」
「え?」
「クロードじゃないと、心臓がとくとくってうごかないんだ」
「ばか」
「だって・・・」
「他の人で試してみたって、言ってることになるよ。レオン・・」
「いいよ。僕も良くわかったもの」
「ねえ?レオン。それ、懺悔?・・・それとも・・アプローチ?」
「アプローチ?なに?それ?どういうこと?」
「どうにも妬けちゃうと・・ほしくなっちゃうでしょ?」
「いいよ。クロード。僕も・・・のぞむところだもの」
「レオン」
「ん」
『口説くの、うまくなっちゃって』
って、クロードの手がやっと、ドアに伸びた。
これから先の二人の事はうっかり人に見られたくない。
それに。一刻も早く、
しっかり、レオンを
閉じこめてしまいたいクロードだったんだ。

                                 おわり












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう