イッツ・オンリィ・ユアマインド・6
さて、そろそろ、イッツも終わりにしようかと思ってるんだけど、
いくつか気になる事がのこっちまってる。
そう、たとえば結局ボーマンとプリシスは和解できたんだろうか?とか。
セリーヌとクリスは結局うまくいったんだろうか?とか。
安定カップルであるデイアスとレナはやっぱしあいかわらずなのかい?とか。
レオンとクロードも平穏無事なのはちょっと物足りない(え?)とか。
そんなことがちらついてきてしまったから
結局セクシュアル・モーメントができあがってしまったんだけど、
イッツの最終章はやっぱし
ここ近辺のセリーヌたちにスポットをあててみたいのである。
セリーヌ探しに連れ出された挙句
セリーヌの昼食代まで払わされたクロードは
研究所にやってきたボーマンにぶつぶつ言い始めていた。
「で?どうなったわけ?」
なんだかクロードはえらそうにふんぞり返っている。
クロードがまず訊いたのはセリーヌ達のことに決まってる。
「知らねえよ。」
しゃあしゃあとボーマンは答える。
「ええ?」
意外な返答。
無責任すぎない?
人を犬扱いして金まで払わせて
それでも、セリーヌたちがうまくゆく。それだけの為じゃないか。
「なんか・・他に言いようがないわけ?」
クロードだってバッチシだよって言葉が聞きたいだけだ。
「あーん。俺はアシュトンじゃねえんだ。
人様のナニまで覗いてみやしねえよ」
「はーん」
「なんだよ?」
「ナニかしてるらしいってことは知ってるんだ?」
ボーマンはぐっと詰まった。
「ち。そうなるかな?」
「だからぁ。それをききたいわけじゃない?」
「なんだ。お前、そういう奴なわけだ?」
「違うよ。そうなったって判れば、安心するじゃない?」
「馬鹿単純」
それ、どういうこと?って疑問符を顔につけたクロードに
ボーマンはゆっくり喋り出した。
「あのなあ。一度そうなっちまった男と女が会えば、
んな事するに決まってだろうが?
そんなことは聞かなくても判るだろう?」
「そ、そうだけど・・・」
「そんなことより、それだけでうまくいってるって判断する
おまえの脳みそが単純すぎるっていうんだよ」
ボーマンの言葉を頭の中で巡らして、
しばらく後、クロードの数式の答えがでてきた。
「エー?じゃあ。別れちゃったの?
これで最後って踏ん切りつけるために逢ったって事?」
「あー。いやになっちまう。
お前みたいな奴はコンピューター野郎っていうんだ」
「な、な、な、なに?それ?」
「1か0しかねえ。イエスかノーしかねえ」
「ああ・・・そういうこと」
「おまえ。そんなんじゃレオンに愛想つかされるぞ」
「え?」
ちいとばかり脅しを入れたらクロードがびくってした。
あんまし苛めちゃいけないってボーマンは話題をもとにもどしたけど、
それはあながちあたってないことじゃなかったんだ。
でも、そのお話は今度ね。
「あのな。多分セリーヌはこの先クリスの所にいきゃしねえ」
「じゃあ、やっぱしだめってこと?」
「だからあ・・・・。もういい」
「ぁ。ごめん。そうじゃないわけね?」
「そう。でもよ。それが男にゃどんなにつらいことかわかるだろ?
なのにアイツはそれに耐えてセリーヌを自由にさせてるんだ」
「あ。うん」
「つまり。根本的なとこでは、うまくいってない」
「あ。うん」
「だったら、したの、しねえので判断してもしかたないってことだろ?」
「はあ?」
「なんだよ?」
「だって、心が通じ合ってお互いが
同じ気持ちだからこそセックスするわけでしょ?」
「お前の場合はそうだろうけどよ。俺の場合はそうとばかりは限らない」
「だったら、セリーヌたちもそうなるわけ?」
「問題を内包しながら結びつく事はあるさ。
逆に、何も問題がなくてお互い惚れてても何もせず別れちまう事もある」
「あーわかんない」
「まあ。いいさ」
ボーマンは立ち上がりかけて気が付いた。
「そういやあ。この間セリーヌの昼飯代
お前にはらわせたままだったな?」
そういわれると恩着せがましい気分もうせてしまうというものである。
「ああ。いいよ。べつに」
クロードがそういってもボーマンだってきくわけがない。
だったら、はじめから黙ってりゃいいことだものね。
「はらってやるよ」
「いいよ。それにボーマンが払う必要ないじゃん」
「乗りかかった舟だって。それにお前のおかげでたすかったんだし」
「いいよ」
ボーマンはポケットを探り始めている。
「ボーマン。ほんとにいい。
セリーヌの涙きれいだったもん。お金の話はやめよう」
「そう・・か」
ボーマンはそれでもまだポケットの中をまさぐっていた。
そして、ポケットから財布・・じゃない。
銀色のステンレス製の便を取り出していた。
「まあ。お礼代わりにうけとっておいてくれ」
と、クロードに渡した。
「?なに?これ?」
「わかんねえか?」
ボーマンはあることを表すフィンガーアクションを作ると、
クロードにみせた。
「あ?そうなの?」
クロードにもやっと潤滑油である事が判ると
「お前にゃ、必要ねえか?」
と、ボーマンが笑った。
「ぁ?いいの?あの?ボーマンこそ必要じゃないの?」
「そういうときこそ単純になれよ」
「え?」
「いるのか、いらねえのか」
「あは・・いる」
「かー。ったく、好きだなあ」
「え、だって」
なんだかもうすっかりそれを
レオンに試したくなってるクロードに違いないんだ。
ボーマンは、
「さて、かえろう」
とってつけたように言うと、クロードに手を振った。
レオンがボーマンの帰るのに気が付くと
「ぁ。御免。もう1本。ぁ、2本。エチルを増やしておいて」
と、声をかけた。
「わかった。ん。じゃあ、ゆっくりとな」
って、ボーマンは帰って行った。
ボーマンの妙な言い草にレオンはすぐ感づいた。
クロードの側に行くと
「ナニ?また、変な事ボーマンからおそわったんでしょ」
と、手厳しい。
「またって?へんなことって?」
「だって、この間も・・・」
「なに言ってんだよ。レオンだって喜んでたじゃない?」
「ば、馬鹿。あんなの僕はずかしい」
「馬鹿だな。ボーマンがそういうやり方を教えてくれるってことは
多かれ少なかれみんなやってるってことだよ」
「そ、そうかな・・でも」
「ボーマンになんかいわれたの?」
「ううん。デモさ、ああやってもらったかよ?みたいに
思われてるんじゃないのかなあ?」
「いいじゃない。どんなに想像したって
本当に気持ちいいのは僕とレオンだもの」
「ぅ、ん。ねえ?クロードもよかったわけ?ね?どんなふうに」
「あは。そんなことここじゃいえない」
ありゃああ。バリアを張られてしまった。
今頃、こそこそひそひそといちゃついてるカップルの幸せ振りを
気にしてるボーマンじゃない。
研究所の外に一歩踏み出したボーマンの心の中は
クロードに言えなかったセリーヌたちへの心配がわいてきてる。
セリーヌはさらけ出せたんだろうか?
アイツはそれに十分応えてやれたんだろうか?
アイツ。うまくできたんだろうか?
惨めな思いしてねえだろうか?
どんどん心配になってきていても、
ボーマンはクロードにしゃべっちまうわけには行かなかった。
『馬鹿単純が。出しちまえば満足するばっかのセックスしか
考えてねえのかよ?』
相手のためにするセックスだってあるんだぜ。
男である以上、自分だけいけりゃいいなんてのは
自慰行為の延長でしかねえ。
女を勝ち取るために神様が与えてくれた道具を
自分の欲求の処理だけに駆使するなら、
それはやっぱり自慰行為と同じ事だ。
けど、慣れてなきゃ、女を我が物にする前に自分がよくなっちまう。
そしたら、そこの部分で女を繋げねえ。
繋がれねえ女が自分を繋ぐ事の出来ない男に服従する訳がない。
「追い求めさせるほどじゃねえから
セリーヌが一人でいいこにしてたんだろ?
じゃ、なきゃもっとつどつどセリーヌの方があいにいってたさ」
離れて暮らすそれもいい。でも、もっと逢いたくなる。
頻繁に会ってお互いを確認しあうんだ。
誰につながれてるか?
誰をつないでいたいか?
お互いの部分で嫌と言うほど思い知らせあうんだ。
それが本当だろう?
なのに。まだ、繋ぐ事さえきっとあやふやな男なんだ。
あいつじゃ繋ぎ止められない自分の
女のさがを知ってしまってるセリーヌには、
逢えば逢うほどきっと繋ぎ止められない苦しさに
もがかなきゃならない事が判っていたんだ。
いくら好きな奴がいても、でも、こればっかりはどうにもならない。
欲しいと思っちまったら、とめられやしねえんだ。
『ええ?俺でよかったろうが?
じゃなけりゃセリーヌは他の男に抱かれて、
あんたの事を心のなかで想ってるだけになっちまってたんだ』
けして告げてはならない事である憤りをくすぶらせながら、
ボーマンは家にたどり着いた。
「あら。早かったのね」
ニーネがボーマンを出迎えてくれる。
「ああ」
短く返事を返す、その声色でニーネはすぐに気が付く。
なんだか、ボーマンの機嫌が悪い。
「どうしたの?」
「ああ」
「ん?」
話してみない?そうニーネは言っているんだ。
ふーって、ボーマンはため息をついた。
ニーネはおとなしくボーマンが喋り出すのを待っている。
「何だよ・・あいつら、うまくいったのかなってな」
ニーネにはあいつらが誰の事かすぐにわかる。
昨日の今日のことだもの、
それはセリーヌとクリスのことに決まっている。
「何か心配な所がボーマンには見えてるんだね?」
伊達にボーマンの女房をやってるわけじゃない。
ボーマンの洞察力の鋭さをちゃんと心得ている。
「まあ。そういうことだ」
「あなたでも、どうにもしてあげれないの?」
まったく何たる亭主への絶大な信頼ぶりだろう。
可愛い言い草がますます、ボーマンの心を捉えさせてしまう。
「来いよ」
ボーマンはニーネを引き寄せると
自分の胸の中にしっかりくるみこんだ。
「ん?」
ニーネはボーマンの不安を取り除いてあげたいだけなんだ。
どうしたの?
そう、尋ねるニーネがボーマンにはとても、いじらしくて仕方ない。
ニーネを抱きしめると、その存在の確かさが
ボーマンの体を温めてくれる。
その暖かさが無性にボーマンを嬉しくさせてしまう。
「なぁ。いつだってこんな近くにいて、
こうやってお前を抱けるなんて、俺は随分幸せな男だと思うよ」
「うん」
ボーマンはきっと。クリスの寂しさに思いをはせたんだろう。
クリスに引き比べ、ボーマンはいつだって手を伸ばせば
そこにニーネがいる。
『あいつ・・・それなのに』
セリーヌの中に渦巻く不足が、仮にみたされたとしても
それでも、きっと、セリーヌはクリスの後をついていきゃしないだろう。
「なぁ?クリスにセリーヌはきっとついてゆきゃしないぞ。
お前、どう思う?」
そうだときまったわけじゃないだろう。
でも、ニーネはボーマンの推測を素直に信じた。
「寂しいよね?でも・・・」
「なんだよ?」
「セリーヌが付いて行かないだろうって事は私にもわかる気がする」
「どういうこった」
女じゃなきゃ判らない気持ちなのだろうか?
どこかでセリーヌを冷たい女だって判断し
責めてしまいたくなるボーマンは
ニーネの意見を聞いてみる気になっている。
『男の俺じゃわかんねえのかよ?』
ボーマンが黙り込むとニーネはふっと小さなため息をついた。
「きっと、自分じゃ駄目だって思うのよ。
だって、私だって貴方の奥さんにしてもらえてるけど
本当こんな私でいいのかなって考えちゃう事あるもの」
「え?」
「だって、貴方はとても大きな人だし、すばらしい人だと思うの。
そんな素敵な人にこんな私みたいな人間でいいのかなって?」
「馬鹿。何をいってるんだ」
「うん。でも。それにめげずに逃げ出さないで居れるのは
貴方が一生懸命私を好きでいてくれるから。
それに甘えてられるんだよね。それに・・わたし」
「なんだよ?」
「あなたが好きだから・・・・そばにいたい」
「ん」
「でもね。きっと貴方が本物の王子様だったら、
私も、もっともっと違う面で、自分じゃ駄目なところが
多くなってしまって、いくら好きでも、
甘える事ができなくなっていただろうって思う」
つまり、セリーヌの事なんだ。
「駄目な所って、例えばなんだよ」
セリーヌの付いて行けないわけが判らないくせに
付いて行かない事だけがボーマンにはわかるってのも
妙な事だと思いながらニーネは答えた。
「だって。例えば私がそうなれば王妃の席に座るのよ。
考えられないわ。柄じゃないし、それに・・・」
「なんだよ?」
「私という存在の下にいっぱいの国民がいるわけでしょう?
貴方だけの私でいれなくなるし、何をするにも
自分が王妃であるって事を先に考えて
・・・・想像しただけでいきがつまりそう」
『俺だけのお前じゃなくなる・・か』
ボーマンはなんだかわかる気がする。それは逆に考えりゃ
『俺もお前だけのもんじゃなくなる。
最初に自分の立場を優先させて・・・』
ナンカ納得できないボーマンの理解だって思うけど。
(だって、ボーマンのやってる浮気ってのは既に
ニーネだけのボーマンじゃなくなってることじゃないかな
って思うんだけど)
きっと、そうボーマンに尋ねたらはっきりと
『何言ってるんだよ。俺はニーネだけのもんさ』
って、しゃあしゃあと答えるに決まってるんだ。
ボーマンにとってニーネが特別な女性であるのは
ボーマン・ボーマン2で既に述べさせているから
ここじゃ省くけど、この矛盾だらけの男にとって、
自分だけがニーネの特別な男であるように、
ニーネもまた自分だけの女性であるのはまちがいないのである。
「でも、俺は幸せな事に、国王なんかにゃなれやしねえ」
「うん」
そうだよな。
自分を押し込めて、何もかも国民の事、自分の立場が先。
一番近くにいながら一番遠い存在になるくらいなら、
遠く離れていても素のままの自分でいることが
一番近い存在である事になる。その方がいいわけか?
一つの疑問に答えが見えると
ボーマンの中にもう一つの心配がわいてくる。
その素のままのセリーヌを、それも、クリスにだけしか見せちゃいけないセリーヌをちゃんと出せたんだろうか?
それが出来なくて遠くに離れてるって事は:::。
クリスが受け止めたセリーヌと本当のセリーヌはあるいは別人でしかなくなる。
違う女性を抱いてるようなもんじゃねえかよ?
クリスの心にあるセリーヌを崩したくないのは判らないでもないけど、
それは本との自分を抱いてもらってるわけじゃない。
そんな形のまま。また、遠くに離れちまうのに、クリスは本当にお互いを受け止めあったつもりでいる。
そんな哀れな幸せがあるもんか、どんなに傷ついたっていい。
本物を手に入れたい。それが幸せってもんじゃないか?
あんたどう思うよ?
ん?ボーマン。何コッチに振ってこなきゃなんないの?
あ?そういうこと?
はい。はい。あんたにとってニーネこそ本物なんだってね?
そういいたいわけね?
ボーマンがなんだかニッと笑った気がしたけど。
ボーマンの心配はまた同道めぐりを繰り返すんだ。
けど、アイツ受け止めれねえんじゃねえか?
それに応えてやれねえんじゃねえか?
だったらセリーヌは自分をみせれるか?
だけど、見せなきゃ。
いつまでもボーマンの心配に付き合っていても拉致が空かない。
しょうがない。ここは作者が一肌抜いで
セリーヌとクリス。
ちょっくら、覗いてくるか。
ボーマンの所から帰ってきたセリーヌとクリスである。
ボーマン家で、いきなり、
それなりに深い接触でお互いを確かめ合った筈であろうに、
セリーヌの中では小さな不満が火をいこらせはじめていた。
やっと逢えた。
そして、抱きあい、セリーヌは無我夢中のクリスを受け止めた。
だけど、慎ましく、身体をあわせてゆくうちに
セリーヌの中に堪えられない激情が生じて来る。
もっと深く高く感じたい。
そして、この・・・。
でも、あがり始めた快感に身を悶えさす事を開放する前に
クリスは果てた。
セリーヌの中に己の愛情を、欲情をはきだしきり、
それを受け止められたクリスはひどく充たされていた。
セリーヌをクリスの暖かい肌の下に擁きに続けながら、
どんなに逢いたかったかどんなに恋しかったか話し始めていた。
「でも、やっとあえた。僕の腕の中に確かにセリーヌがいる」
そして、二人はボーマンの家を出てセリーヌの部屋に帰ってきていた。
小さな部屋。
でも、ここにセリーヌの生活のすべてがある。
それを眺めていたクリスの口からため息が漏れた。
「どうかなさって?」
「いや」
クリスは思ったことを口に出せなかった。
「なんですの?」
いきなりセリーヌの部屋に入って、そのため息はなんだろう?
気にするなと言うほうが無理な事である。
「うん」
「言ってくださらなくて?」
「あ、あのね。ここに君の生活があるんだっておもったら」
「思ったら?」
セリーヌはいい憎そうなクリスの先を促した。
「うん」
しばらくの沈黙が続いた後。
クリスはポツリと漏らすようにしゃべった。
「やっぱり、君に来てくれといえないなって」
「あ」
セリーヌは行かない。
確かにクリスに指摘されたように自分の生活がある。
でも、行かない理由はそればかりじゃない。
身分の違いなんて、古臭い事を言う気はない。
でも、柄じゃないなって思う。
きらびやかな椅子に座って慎ましやかな生活を送る。
それで終わり?
血走った目のモンスターに本の少しの哀れみを向けると、
命をかけてまで救い出してやる必要もない仲間が救われる。
仲間意識なんて柄でもない。
ましてや冒険に命をかけてるわけでもない。
今だって是といった用事もないから
ぶらぶらして身体を休めてるだけ。
だけど、いくらそんな時間があるからって
王妃の椅子に座る事は出来ない。
王妃の椅子の上で身体を休める?
国民の生活を担うべき者が座る椅子の上で
セリーヌの退屈な時間を流してゆく?
国民にとって、こんな侮辱があるだろうか?
「ふーーー」
って、クリスがもう一度ため息をついた。
「僕が君に付いて歩きたいくらいだけど」
そんなことが出来るわけがない。
「僕の存在は僕ひとりだけのものじゃない」
たった三日私事の時間を作る事さえ容易じゃなかったクリスなんだ。
自由に動けるのは、むしろセリーヌのほうだったのに、
だけど、セリーヌはこなかった。
「ごめん」
「ぁ。せめてるんじゃないんだ」
セリーヌがこなかったのは判らないでもない。
来てくれればきっと、クリスはずっといて欲しいと思うようになる。
セリーヌがそれを断るのも辛い事でしかない。
でも、それでも、セリーヌはあいにきてくれようとしていたんだ。
それだけでいい。
「う・・ん」
セリーヌが言葉少なく頷くのをクリスは引き寄せた。
「いいさ。ほかに好きな奴ができたわけじゃないんだし」
かすかにボーマンとの事が
セリーヌの胸をちりりとひりつかせたけど、
やっぱり、クリスがいいって思ってるセリーヌなのである。
なのに、どうしてもクリスとの生活にとびこめないのである。
クリスの腕の中に身体を預けたセリーヌは
クリスにとって思わぬことをいいだしていた。
「ラ・マンでいい」
ラ・マン。つまり愛人である。
ビックリした顔のままクリスが黙ってセリーヌを見つめていた。
「だって」
そうとしかいえない自分の在り方じゃないだろうか?
セリーヌの提言にクリスはしばらく考えていたようだったけど、
やっと口を開いた。
「君がそれでいいならそれでもいい。
でも、僕は他の誰をも愛さない。誰とも結婚しない」
結婚を白紙にして、ラ・マンになったところで、
世間一般の言う妻帯者の愛人ではけしてない。
「それとも、そういうことを言ってるわけ?
僕に公の席用に表向きの妻を得ろと?」
「そうじゃない」
否定しながら、セリーヌはうなだれた。
どう言えばいいのだろう。
「だったら、なんで?そんなことをいうの?
こんな形であっても僕は君が必要だし、僕には君しかいない」
「・・・・」
与えつくされない思い。
奪いつくされない愛の形を
ボーマンにすがり埋めようとした弱い自分がいるのを
知っているセリーヌは小さなため息をついた。
(ずっと側にいてくれて、
一心に愛してくれる人が現れたらお互いかわってしまう)
と、セリーヌは思いもする。
あの時本気でボーマンに望まれていたら?
自分はどうしていただろう?
男の魅力って言うのが
自分をどうしょうもなく女である事を自覚させる事であるのなら、
おそらくボーマンほど魅力的な男は他にはいない。
それはクリスへの裏切りというものでなくなっていて
ボーマンのラ・マンになる事を選んだ女としての
自分の生き方になっていたかもしれない。
そんな自分が、クリスに譲れる物は
あえてラ・マンになろうとする事でしかないように思えてもいた。
「どうしたの?」
黙り込んだセリーヌの瞳を覗き込むと
クリスの手が優しくセリーヌを求めだしてゆく。
確かな事はセリーヌが自分のものであるということだけである。
セリーヌへの愛おしさを知らせるように、
クリスがセリーヌを包んでゆく。
慣れてない不器用さがやけに愛おしくて、
セリーヌはクリスの前では、やっぱり初心な女であろうとしてしまう。
「あ」
クリスの指がセリーヌの敏感な場所をやっと探り当てると
セリーヌの意識はその感覚だけを追い求め始めた。
「クリ・・・ス」
「ん・・?」
「私。貴方が思ってるような女じゃない」
きれいに透き通るくらい純粋に求められてしまうと、
どろどろした欲求がもたげてくるような女である自分が
つらくなってくる。
「ごめん」
謝ったのはクリスのほうだった。
「え?」
謝るのはセリーヌのほうじゃないのか?
「僕が・・・」
男として未熟なせいだってクリスは言おうとしていた。
でも、その言葉を言えば、反対に
セリーヌの過去にきがついていることだってことにもなる。
そんなことなんか、どうでもいいことなのに、
でも、もう、気が付かない振りなんかしてみても、むだなことだった。だって、セリーヌ自身が自分をせめだしている。
「違う・・私が」
「判ってる。セリーヌが」
熟れた女性であるということは
いくら隠したって隠し遂せるものじゃない。
「ごめん。こんな・・・」
「違う。僕が・・・」
(僕が何もかもに酔わせてあげられないんだ。
だから、気にしなくてもいいことまで気にして
セリーヌが自分をせめてしまうんだ)
クリスの方こそ逆に自分をせめだしている。
セリーヌの過去なんか気にしてない。
けど、現実お互いが埋め合わせられるレベルの違いが見えてしまうと、
どうにもならないくらい男ってのは惨めになってしまうんだ。
かといって、それを見れば苦しいのはセリーヌでしかない。
「御免・・少し頭冷やしてくる」
いたたまれなくなってクリスは外に飛び出した。
知らない町、知らない通りを歩いてゆくうちに
クリスの足は知らず知らずの内に、
この町の唯一の知人である薬屋のおじさん(しつれーい)の方に
向かっていた。
「やっぱり。もう、閉めてるよね」
閉ざされたドアには小さなクローズの看板がぶら下がっている。
(引き返して・・それから・・どうしよう?)
セリーヌにかける言葉も見つからない。
あてどなくさ迷って、どこか
公園でも見つけてベンチにでも座ってみようか。
溜まんなく寂しい思いにふかれてしまえば・・・。
たとえ未熟な自分でもいい。
こんな寂しさよりいいって、
セリーヌに素直に縋って行ける勇気(?)が出てくるかもしれない。
閉められたドアの前で回れ右をすると、
クリスの目の前にボーマンがいた。
「あ、あれ?」
随分遅くなってから帰ってきたボーマンは
こんな時間に誰かいるなって思いながら、
店先にいる男に近寄って行ったんだ。
クリスのわけねえよな?
こんな時間に最愛の人をほったらかしにして
こんなところに来るわけがない。
でも、男の背中がひどく寂しげに見えて
ボーマンはまさかと思いながら近寄って行ったんだ。
「誰かと思えば、どうしたんだ?
セリーヌとうまくいかなかったのかよ?」
「あ」
はっきりと、きかれてしまうと堪えていた物が一気に崩れ落ちた。
「僕じゃ・・だめ・・なんだ」
判らないでもない。
温室の中で純粋培養されて育ったんだ。
女なんか教えてくれる奴がいるわけがない。
自分から学び(?)に行く事さえ思いつかない。
いや。それより止められない恋に突っ走るチャンスにさえ遭遇できない。
そんなクリスが初めて恋をした女性がセリーヌだったんだろう。
夢中で追い求め、恋に輝いた。
でも、セリーヌの中には
見た目以上の大人の女が住んでいたって事だろう。
『食い足らねえだろうな』
って、元々ボーマンが心配してたのは知ってるよね?
けど、若い男がどんなにタフでどんなに飲み込みが早いか。
セリーヌさえお願いしていきゃ、
あっという間に立場は逆転するに決まっている。
だからこそ、みだらな女を見せつくしてしまえって
何度もセリーヌに言い含めたんだ。
なのに。下手をうっちまったんだろう。
じゃなけりゃ、今頃はクリスは
欲しがる女に、乱れる女に一心不乱になって
与えつくそうとしてるはずじゃないか。
追いすがられ、求められることほど、
征服しがいのある極致はないぜ。
『セリーヌお前もとことんあばずれてねえって事だろうけどよ。
でも、遠慮はほんとに損慮でしかねえ』
ボーマンがセリーヌの失敗を修復する気でいるのは無論である。
セリーヌがうまく立ち回れないなら、
コッチを何とかしてやるしかないじゃないか。
それで、ボーマンはコッチの奴に向かって
「よ、ここじゃ、なんだから、しょば、ぁ、場所かえようぜ。
話してきかせろや」
って、言ったんだ。
そして、昨日の夜に行った店に
ボーマンはクリスを連れて出向いていった。
相変わらず静かで変な酔っ払いもいない。
プライベートな事には知らん顔してくれる店の対応もいい。
奥の席に座るとボーマンは尋ねた。
「水割りでいいな?」
「あ・・・はい」
運ばれてきた水割りをクリスは一気に飲み干した。
『おいおい。荒れてるじゃねえかよ?』
だけど、ボーマンはそんな観察をしながら、止めもせず煽るようにいう。
「おーし。いいねえ。もう一杯いこうぜ」
ボーマンに勧められるままクリスは何杯か水割りを覆った。
『ちったあ、よってくれねえと、お前にやあ、いえねえよ』
ボーマンの目論見が功をそうしはじめていた。
クリスの酔いを確かめながら飲んでいたボーマンは
そろそろ本題に入ったってかまわねえなと見当が付いた。
「おまえなあ・・・行儀がよすぎるんだよ」
「はひ?」
「お?酔っちまってるのか?」
「らいじょうぶれす。
ろれつはまらっているけろ、意識はしっかりしてます」
「だろうーな」
「で?行儀が良すぎるって何のことれすか?どういうことれすか?」
ま、いいくらいに酔ってくれていて、
砕けた事を話すにはちょうどいいくらいではある。
「あのなぁ、セリーヌとこれが、うまくいかなかったんだろ?」
ボーマンはクリスの前で親指を
人差し指と中指の根元の間に突っ込んで両指の隙間から
親指をわずかに覗かせた。
「そ・・うれす」
「ハーン。意外と俗な事を知ってるじゃねえかよ?」
ボーマンは妙な事に感心した。
「あは。町にれたとき。背広のお兄さんが、よってきてそうやって、
あの・・いい子、いるよっていったんれ・・わかったんれす」
「なるほど」
と、そんなことに納得してる場合じゃない。
「で、ろういうことれす?」
我ながらこいつのしゃべってる事がよく通じると思いながら、
本人が認めたい以上こんなに話しやすい事はない。
ボーマンは本題に入ってった。
「あのよお。え?ちったぁ。顔が赤くなっちまうような、
やらしい事をささやいてやってんのかよ?」
「ぇ・・ぁ、ぇ?それって・・あ。ろんなことですか?」
「ろ、ろんなことって・・」
そりゃあ、そうだ。いえるわけもない。
ぽん引きのにいチャンに初めて、セックスを現す
フィンガーアクションを知らされたような男が
卑猥な事をささやこうにも、語彙があるわけがない。
「あの・・具体的にどう・・」
「え?」
そうだよな。
でも、俺がいわなきゃ・・・しょうがねえんだよな。
実際の時にならまだしも、
んとに、酒でも飲んでなきゃいえることじゃない。
なんだよ。るせーな。
ああ。判った。
そりゃあよ。レオンをからかうときは確かにずばずば言うよ。
でもよお・・今まじなんだぜ。
誰に話しかけてるのだ?ボーマン。本題に戻れよ。
「あー。ん。そりゃあ。なんだよ。良いか?女ってのはな。
してもらってるより、されてるってえか
やられてるっていうか・・そんな気分によわいんだよ」
「はひ?」
「だからあ」
くそ。俺の方が照れてどうすんだよ。
ボーマンはもう少し水割りをおあった。
「とにかく、てひどい位に欲情をあおってやんだよ」
「セリーヌに?」
「あたりめえだろうが?そうやって、セリーヌの欲情をあおって」
「ぼ。僕のじゃなくて?セリーヌの?」
「そうだよ」
「今以上のセリーヌになっちゃう?」
「あーん?判ってるんじゃねえかよ?
それをもっと煽ってしまうってのはな・・・。
そんなセリーヌがいいっていってることになんねえか?」
「あっ」
そんなセリーヌがいやだって
言ってしまったような行動だったんだとクリスは今更ながら気が付いた。
「僕・・それで・・なんか、うまく・・答えられないって
自信なくなって・・とびだしてきちゃったんれす」
「だろうな」
「あ、わかるんれすか?」
「ああ。でもよお。考えてみろや。
お前が行儀が良すぎるってことは裏返せば
セリーヌを行儀の悪い女だってことにしちまうんだぜ?
そんな奴に自分の行儀の悪さを開放して見せられるか?」
「ぁ・・無理れす」
「なー?だから。開放させてやれよ。
自由にさせてやりたいって言った、あんたじゃねえのか?」
「ぁ・・・。僕がセリーヌをとじこめていた?」
「そういうこったろうな。なあ。だからさあ。
それを開放させてやるためにも、やらしい事をいってやるんだよ。
頭の中が訳がわかんなくなってしまうくらい言ってやるんだよ。
そしたら・・・」
「そしたら・・?」
「もう。自分をとめられなくなるよ。
お前が欲しくて仕方ねえ女がいて、
お前。自信がねえの、なんの、こうの、いってられるか?」
「はあ?」
ボーマンにはもう一つ計算がある。
自分の口から卑猥な事を言うってのは
それでもっと自分自身も煽られるって事なんだ。
お互いに欲情を高めあう。
それだって、立派な前戯だぜ。
「あの?貴方と奥さんもそう?」
クリスの素朴な疑問に
「にゃに?」
思わず上ずった声をだしたボーマンである。
が、言った手前もある。
「そ・・そうだよ」
「じゃあ・・どういってるのか教えて」
うまくはめられてしまった気分を味わうボーマンである。
こんな調子でこいつはうまく外交政策にも対処してるに違いない。
覚悟を決めるとボーマンは誰にも話した事のないニーネへの甘言
その他もろもろをクリスに話し始めた。
随分それからも飲んだ。
話し終える頃にはクリスは十分酔っていた。
「おい。かえるぞ」
クリスに肩を貸すとボーマンは外に出た。
セリーヌのところまでこいつを送り届けなきゃいけない。
随分酔ってるけど・・・。
その方があっちの方はイキにくくなって、セリーヌにゃ好都合だろう。
足取りが怪しいけど・・・
まあ。こいつがうごかなくったってセリーヌがなんとかしてくれるさ。
ボーマンは先々まで洞察しつくす。
不意にクリスが大きな声を上げた。
酔っ払いの雄たけびなんてもんじゃない。
「やるぞ」
「え?」
「なめちゃうぞ」
「げ?」
「ほら。もう・・こんなにぐっしょり・・」
「おい・・」
「気持ちいい?もっと・・ほしい?」
「・」
た、頼むから路上の真ん中でボーマンの教えた事を
大きい声をだして復習してくれるな。
とんでもなく一気に増えた卑猥なモーメントを
わめき散らすクリスをやっとセリーヌのところに送り届けた。
クリスを二人でベッドに寝転がせるとボーマンはセリーヌを見た。
「なんとか・・してやれよ」
「ボーマン」
「お前のことがすきでたまんねえんだ。
おまえだってそこんとこ判ってるだろ?」
「・・・」
「なあ。口で四の五の言ってみたって始まんねえだろ?
どうしょうもねえお前の中の女が欲しがってる物がなんなのか。
お前が教えてやるしかねえだろ?」
「だって・・・」
「駄目だったらそれで、別れちまえよ。
汚い自分を見せられねえでセックスなんかすんなよ。
え?そうだろ?
どう見たって醜くってみっともねえ物をこすり合わせるのが
セックスじゃねえかよ?
ぇ?今更、見栄なんかはってどうすんだよ?
しかたねえじゃねえかよ。欲しくてたまんねえんだろ?
お前のそこにあじあわされたくて、しかたねえ。
なあ。どう、否定したってお前はどうしょうもなく女なんだよ」
「否定・・してる?」
「自由なおまえらしくねえじゃないかよ?
俺だったら欲しい物はどうやったって手に入れる。
手に入れることに精一杯チャレンジする。
それが本当の自由じゃねえのか?」
「か・・可能性から逃げてるって事?」
「そうさ。こだわって、こだわって。
あげく、恐れて、自分の殻を打ち砕こうとしない人間の
どこが自由なんだよ?」
「ん」
「ああ。七面倒くさい。いっそお前からやっちまえ」
「え?」
ほうけてるセリーヌにかまわずボーマンは
クリスのズボンに手をかけるとジッパーを引きおろした。
「あ・・」
セリーヌの制止をおしのけて
ボーマンはクリスの下半身を裸身に変えさせていた。
「はあ」
立派な物じゃねえかよ。
オマケにいい具合にそそりたってしまってる。
「ほら」
セリーヌの手を引くとボーマンはクリスの物を掴ませた。
「な?なめちまえよ?なあ。
そんなことはなんでもねえことだよ。
女なら誰だってそうしてやりたくなるんだ」
「・・・」
「ほんとさ。んなことくらい。レナだってプリシスだってやってんだよ」
「う・・うそ」
「嘘かどうか。自分の中の女にきいてみろや」
ボーマンは最後にそっとセリーヌを見た。
そして、ボーマンは出て行った。
ドアを閉めるときボーマンはもう一度、セリーヌを見た。
セリーヌがクリスの物をいとしげにほお擦りをしていた。
そして、セリーヌの顔が・・・・。
ボーマンはぶすいなおとこじゃない。
セリーヌの決心がかたまったのを見届けたらそれでいい。
『ゆっくり。そして激しく女の深さをおしえてやりゃいいさ。
そして・・・クリスに繋がれるんだ。セリーヌ。な?』
(ばいばい)
エピローグ
で、どうなったんだよ?って?
きになるよね?
酔いがさめたあとも。
もう1日だけの予定だったクリスが
セリーヌの部屋から一歩もそとにでずにいたのは
いうまでもないことだろう。
もう1、2日だけなんとかしてやれって、
ボーマンがクロードの所に行ったのは当然の事である。
「バーニィーがのせるかな?」
って、不安を口に出したクロードをにらみつけた。
「てめえ。飼い主だろ」
帰りの時間をバーニィーで稼いで二人を
少しでも、一緒にいさせてやりたいって気持ちが通じないで
飼い主やってんなよ。
「そんなこといったって、僕。飼い主じゃない」
「にたようなもんだ」
「もう・・・」
「なんとかしろ」
「・・・」
有無を言わせずボーマンが約束を取り付けると
セリーヌにコールを送った。
「だいじょうぶかな?」
「ちっと、嫌がるかも知れねえけど・・アイツは辛抱するだろうよ」
乗せたくない相手をしぶしぶ乗せたときの
バーニィーの飛び方はひどいんだ。
「きいてみるね」
「ああ」
クリスが嫌というわけがない。
三日後。
バーニィーにクリスを乗せることを了承させてクロードは飛んだ。
そして、帰ってきたクロードがふらふらするという。
『案の定かよ』
バーニィーのわからずやが、ひどい飛び方をしたってことである。
「あ。クリスは?」
セリーヌはクリスのことが先に気になる。
「よく・・・わ・・かんない」
「え?」
「よく。平気だよ。信じられない」
「へえ」
と、ボーマン。
「なんともなかったってことね?」
セリーヌがもう一度念を押すと
「ちがうよ。もう、げろげろ。
なのにさあ。自分をそんな目に合わせた奴に」
「な、なに?」
心配なセリーヌの顔。
「今度はセリーヌを乗せて飛んできてね
って、すげー丁寧にお願いしてるんだよ?信じられる?」
「あ・・」
セリーヌの瞳から涙が零れ落ちそうだった。
「逢いにいくさ。な」
ボーマンがセリーヌを見た。
「ええ。そのときはクロード。頼みましてよ」
そうさ。何もかも受け止めてくれる相手はクリスしかいない。
そんな相手に逢わずにおけるもんか。
一層色っぽくなったセリーヌを見つめながら
ボーマンはちょっと負けたなって、思った。
だって、たった4,5日の間にクリスは十分成長しちまったんだろ?
若さにや、かてねえ。
どうせ、俺は薬屋のおじさんだ。
クリスがポロリと漏らした一言の通りだ。
まあ。いいさ。ボーマンはセリーヌの肩を叩いた。
「うん?」
「さみしくなっちまったな?」
「でも。いいの」
「なんだよ?早速、つよがりか?」
「そうじゃありませんわ」
「じゃあ?なんだよ」
「時計の振り子」
「あん?」
「遠くにふり離れたほど一番近くにかえってくるでしょ?」
そういうパターンもありかもしれないな。
「まあ。欲求不満になんない程度にあいにいくこったな」
「嫌な人ですこと」
セリーヌがひどく恥ずかしげにほほを染めた。
まんざらじゃない気分をみっちりと味あわせてもらって、
しっかりつながれちまったな?
「ち」
ボーマンは口惜しげに舌打をすると
『逃がした魚は大きく見えるだけさ』
って、思った。
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