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SO2シリーズ
作:憂生



イッツ・オンリィ・ユアマインド・2


午後の日差しが柔らかくなり始め、暮れ色が
レナの部屋の中に広がり始めていた。
ノックの音にレナは立ち上がった。
「どうぞ……あいててよ」
さっきまで一緒だったデイアスのノックの音じゃない。
誰だろう?
セリーヌが現れるわけがない。
彼女の誘いを断る理由がデイアスの来訪のせいだとわかると
「と、いう事は…。私、お邪魔虫にだけはなりたくありませんわ」
と、レナとデイアスの時間に水を差しに来ないことを約束していた。
だから、デイアスが蛙のを待ってまでセリーヌがレナの元に現れるなんてちょっと嫌味な行動は取らないだろう。
『うーーん。アシュトンかなあ?』
また、プリシスと、喧嘩したかな?
この間も半べそを書いてやってきたアシュトンのことを思い出しながらレナはノックの主がちっともドアを開けようとしないのでそっとドアを開けて部屋の外を覗いてみた。
「あれ?」
そこにいたのはアシュトンの方ではなく…
 プリシスだった。
「どうしたの? …ん。中に入んなさいよ」
「あの…ディアスが出てくるんじゃないかと思って…」
 プリシスがディアスに用事とは珍しい事である。
「ディアスなら…もう…帰ったわよ」
 どこまでも、もう一つ鈍い所がレナらしい。
 誰だってカップルのお邪魔虫にはなりたくないに決っている。
「あ。そうじゃなくて、レナに相談なの…。ディアスがいるなら…後でもう一回来ようかなぁなんて…」
 と、言い訳をしながらプリシスは、レナの手招きにこれはディアスがいないんだと踏んで…部屋の中に入って行った。
 やっぱりディアスがいないと判ると小さなテーブルを挟んでプリシスはレナの前に座った。
「どうしたの…? アシュトンと喧嘩?」
 レナの質問に答えようとしながらプリシスはちょっと、躊躇っている。
だって…こんな事レナに聞きにくいよ。でも…例えばレオンとかセリーヌにかに聞けば…結局プリシスの子供振りを責められてしまって…プリシスの気持ちなんかには同意知れ貰えすわけもない。
「どうしたの…?」
やっぱり…この場合レナにしか判って貰えないよね。
プリシスは話始めた。
「あのね…」
なのに…口篭もってしまうのは…。
話の内容が、きっと、レナを強張らせてしまうって思えるからだ。
「チョット…待ってね」
なかなか…話し出せないプリシスの為にレナはクーラーからアイスティーを出して来た。
「どうぞ…」
差し出された…グラスに口をつけると、
「うん…」
プリシスは立ち上がってレナと少し離れると、ベッドに座りなおした。
「うーん……あのさぁ…」
言いながらプリシスは柔らかそうな布団の上に寝転んだ。
「あは…ディアスの香りがする……」
と、プリシスが気が付いたことを言った途端、
「え!?」
そんな言葉一つにさえレナが赤くなってうろたえている。
『これだもんね…聞きにくいよね…』
「気…気のせいよ……」
 どういう誤魔化し方なんだろ。
さっきまで一緒にいた二人がどこで何をしていようが構わない事だろうに…。
オマケにさも何かありましたって自分から暴露するような顔色をしておいて、
気のせいっていっては迷科白すぎるじゃない。
「あのね…」
 ディアスの移り香のするベッドに寝転んでいるのも
気が曳けて、プリシスは立ち上がろうともう一度、レナの用意してくれたグラスの前に座った。
「レナも…ディアスとの間に…あるんだよね?」
なんて…そんな事とっくに知っているプリシスだけど、こんな事くらいレナが素直に認めてくれる返事を出して貰えないと…もっとスゴイこの相談事を切り出してゆく事が出来そうもない。
「あ…え…あの……」
「そういうことでの…相談なんだ……」
「あ…」
プリシスも「あるんだよ」って曝け出している上での相談事と言われれば、レナも頷くしかない。
「あのね…」
 やっとこせ、話し出せたプリシスの相談の内容に、レナは赤くなって俯いている。
「でね…。先っちょ…あ…アシュトンがそう言ったのよ。
でね…先っちょだけでいいから……舐めてって…ねぇ…どうしょう?」
はーん。アシュトンとうとう、思いを達成出来ないまま、プシイの誘惑に負けちゃったんだな?
「ど…どうしようって…」
 これがレオンだったら…。
「したげなきゃなんないって思うから悩むんでしょ? アシュトンの事が好きなら…別にどうって事ないじゃん」
 何て…軽く流しちゃんだろう。
「ぶ…不気味だよね……? なのに…お口に? で…出来る訳ないじゃない。ねぇ、レナだってそう思うよね」
 確かに不気味であろう。けど…実際の所。レナはディアスの思いを受け入れたいってそれだけで…本当に素直に、実に自然に受け入れる事が出来たんだ。
 でも、不気味とまで言われれば、逆に益々レナが私はしたわよ、なんて言える訳がない。
「ねぇ…レナ。ディアスはレナにそんな事言わないよね?」
そんな事っでいうプリシスのその言葉。どこかで侮蔑的な響きを内包している。プリシスの言い方がレナを頑なにさせてるとは気が付く訳もない。
プリシスにとってはその例えが説明なしでレナを納得なせられる言葉だと思っていた。が、
「彼が…そうしたいなら…そうしてあげる」
と、レナは答えた。
 何言ってんだか…。ねぇ? レナ。とっくにそうしちゃってるレナなんだし…オマケを言えば、ディアスに無理強いされた訳でも何でもない。しいて言えば…レナに全てをぶつけて甘えてくるディアスを愛しいと思っただけ。ぶつけてくれるディアスをそのまま受け止めたい。それがどんな方法であろうと…。たった、それだけでしかないレナだったんだ。

 レナの言葉にプリシスは随分長い間黙っていたけど、
「そうなの?」
 って、プリシスはやっと確かめるように尋ね返した。
「うん…多分…ううん。そうするよ…」
 どうも実体を知ってる者はレナの嘘が歯痒くてしかたないんだけどさ…。ま…いいや。
「ふーん。本心?」
 意外なほどディアスに対して大きな許容力を持っているレナの顔が、プリシスには急にひどく大人びた美しい女性に見えてきた。
「うん」
 一言でレナは言い切ってしまった。
「どんなにディアスが好きなんだ…」
「うん…」
 素直に頷いたレナがひどく可愛い。
「あ…あたし……」
「ん?」
 急にポロリとプリシスの瞳から大粒の粒が落ちた。
「あたし…失格かな? アシュトンの恋人…」
 レナの様子を見ている内に自分を責めだしたプリシスだった。
「そ…そんなぁ…そんな風に考えちゃ駄目だよ」
「だって…だって…。一番、遅手で…そんな事汚がっちゃいそうなレナでさえそんな風に考えてるのに…あたし、出来ないもん…」
『プリシス…』
 レナはかける言葉が見付からずプリシスを見ていた。
「なんか…やっぱ…そうしなきゃ…だめなのかなぁ…」
 プリシスがぽつりと呟いた。
「そ…そんな事ないよ…」
 プリシスが、悪いわけじゃない。それにアシュトンだって…プリシスが自然と受け止めてくれる気持ちになれないのが淋しいだけで、何も無理矢理したい訳じゃないに決ってる。
「いいよ…。あたし。きっと、それぐらい平気でして上げられなきゃ本物じゃないんだって、言われるのが怖かったんだ。だから…レオンやセリーヌに相談したら子供ね、とか、自分の気持ちばっか大切なんだとか言われると、思って…。レナだったらきっと…そうよねって、そんなの嫌よねって、言ってくれると思ってたんだ。出来ない自分を責めずに済む…。自分を正当化できるって…。だから、レナに相談しに来たんだ…」
 なのに…レナはそうだとは言ってやれなかった。
「ご…ごめん」
「うぅん。責めてるんじゃないんだよ。あたし。まだまだ背伸びしてるかなぁって…。どうしょうもない位アシュトンを受け止めたくなるほど…好きになりきってないのに…」
って言うプリシスの声が涙でつぶれていった。
「ば…ばかね…。本当に好きだから受け止めれなかった事が辛いんでしょ?」
「そうかな…」
「そうよ…。それと、不気味ってことは別問題よ」
「レナ…」
「ん?」
「なんか…随分素直になっちゃったね…」
「え?」
「うん。ディアスは…こんなレナで…良かったね…」
 て言うとプリシスは、やっぱり、アシュトンに対しての自分の在り方が悲しくなってしまうのだろう。ぽろ、ぽろと涙を落としていた。
「もうーー。そんな事くらいで…」
「だって…」
「そんな事断ったって、アシュトンはプリシスの事を嫌いにならないでしょ?」
「う…うん」
「だったら…いいじゃない。嫌だっていうプリシスの事を受け止めてくれてるんでしょ?それって…つまり、プリシスが愛されてるって事じゃない…」
 レナの言う言葉にプリシスは一層涙を落としていた。
『なのに…やっぱし…やだよ』

親愛なる読者の諸君。
君にもそういう経験があるかどうかはさて置いて…。
 こういうプリシスの気持ちってのはどう思う? レオンの言う様に好きなら何でもない事であるべきなのか。レナの様に思いを受け止めるって気持ちになるべきなのか。それとも…やっぱり、不気味って気持ちはよく判る?
 いずれにせよボーマンが心配するカップルの一番底にある思い方が、何だかアシュトンもプリシスもちょっと、我侭じゃないんだろうかって思えるんだけど、二人にそこのとこに気が付かせてくれるような、荒治療をレナに期待したって無理なんだ。
プリシスが頼ったレナは、
「プリシス。そんな事は強制される事でもないし…。無理に受け入れる事でもないよ。自然にして上げれる時が来るって思うんだ。ねぇ? その時まで待ってって、楽しみにしててって、それで良いじゃない。…一遍に何もかもアシュトンの思い通りになってしまっても…案外後から振り返ったら…面白くないかもよ」
「えぇ?」
プリシスが小悪魔の様に恋の駆け引きを口にするレナを見たのも初めてだった。こんなにもレナを変えちゃうディアスってすごいよって思いながら、プリシスはレナの言葉に頷いていた。
「でしょ?」
「そ…そうだね」
 根本的な解決ではないかもしれないけど、プリシスの中で何かが落ち着いたのは嘘じゃない。
「ふーん。さてはそうやってディアスのメーターを上げてるんだな? レナ?」
 あくまでも事実を知らないプリシスである。
「ええ?」
「でしょ?」
「どうだろ?」
 レナの妙な解答に二人は笑い出した。
 そして、
「うん。とにかくもう少し落ち着いて…レナの言う通り自然かどうかだけ、見詰め直して行動してゆくね」
 プリシスはそう言って立ち上がって帰って行った。


「え?」
 次の日のレナとディアスである。
 レナから聞かされたプリシスの悩みにディアスは驚いて声を上げた。
「どうしたの? そんなに驚かなきゃなんない?」
 よもや、プリシスにそんな事望んじゃうアシュトンだとは思わなかったのかな?
 でもディアスだってそうしたじゃない? レナは少し首を傾げた。
「あ…いや…。アシュトンも男だなって…」
 どうやら男という生物は…どいつもこいつもオーラル願望を持っているのが本音らしい。レナは思わず可愛い本音を漏らしたディアスをくすりと笑ってしまったが、しどろもどろになって驚いていた事の言い訳を繕ったけど、ディアスが驚くのは無理もない。
 だって…懇切丁寧にオーラルセックスへの導き方をご指導して下さったのはそのアシュトンなんだぜ。
『いったい…どうなってんだ?』
ってディアスはこっそり考え込んでいる。
「アシュトンだったら…そんな事しないって思ってたって事?」
 と、レナが尋ね返すのをきいたディアスは、
「そういう事かもしれないな」
 と、レナの言葉にも自分の中の疑問にも頷いた。
 レナに指摘された通り…ディアスの中ではアシュトンを男として、いまいちだなと思ってる所がある。そんなディアスが弱みを晒しての相談事の後に…更にプライベートな問題を尋ねたアシュトンは弱みを見せたディアスだからこそ…その弱いディアスに更に格好のつかない自分を見せたくなかったんだろう。益々、いまいちな所を曝け出したくはなかったんだ。
『大見栄張りやがったな…』
 と、考えついたディアスは少しにんまりとしちまった。
 アシュトンの大見得のお陰で、ディアスは思ってもみなかったレナの愛情の深さと別のところでの快感とを一遍に享受させて貰えたんだ。
 そして今もついあの感覚をディアスは反芻してしまっている。
 思い出す感覚が、オーラルで受けてくれたレナのより、いっそう愛されてる幸福感と交じらせてゆく。そんな事ひとつがディアスを幸福感の中にどっぷりつけこんでくれるのだ。
 そんなディアスにしちゃった当のレナの方はと言うと、
「プリシスもね…あの…受け止められない自分を責めちゃって…ね」
「ん…まぁな…」
 ディアスだってレナが受け入れてくれるなんて思っても見なかったけど…。若し断られていたら自分はどう思ってただろうか? って、アシュトンの今の気持ちを考えていた。
「あの。もし…私が断っていたら、ディアス…淋しくなったかな? 悲しくなったかな?」
 ディアスが考えていた事と同じ事をレナが尋ねていた。
「ああ…。多分な…」
 これがレオンみたいな考え方の奴だったら…きっとしれくれて当り前って何も有難味がなかったかもしれない。そりゃあ、あれだけ頑なに性を恐れていたレナだからこそディアスの幸福感が裏打ちされるんだろうけど…。でも、こんな事一つにひどく幸せだと思わされるディアスは、充たされてると思わされてる今だから、断られてたら…やっぱりこんな事一つで落ち込んでしまったかもしれないなと思った。
「俺……。そんな感覚よりレナがどうしてくれた事が嬉しかった」
「え…あ…」
 真面目な顔でディアスは自分の気持ちをはっきりとレナに告げた。
「愛してる…」
「あ…」
「愛してるよ」
 もう一度レナを見詰めるとディアスはゆっくりと心を込めて言った。
 ディアスの胸の中に飛び込んで来るレナにディアスはやっぱり幸せな気持ちを一杯に満たされていた。
「何でも…受け止めてくれるんだな…」
 レナの頭を撫でながら、ディアスは思った事を口に出した。
 そして…。
「決して離しゃしない。…いいか? 一生だぞ」
 それがディアスのプロポーズだった。
 ディアスの胸の中でレナはこくりと頷いた。
「よくってよ…」
 プロポースの承知だって言うのに気の利いた科白も出てこない。
 ディアスの胸に包まれているだけで…それだけでこんなに幸せなんだもの…。
 レナはこのまま時間が止まれば良いって思った。
 ディアスの手が約束を確かな物として実感したがっている様に動き始めて行く。
 レナはそれを待っていたかのように小さな吐息を漏らした。
一つになってゆく時間。
ディアスに繋がれてゆく自分。
崩れ落ちてゆくレナを受け止めるとディアスはレナを抱き上げてベッドの上に運んだ。
ベッドの小さな受け棚にはいくつかの花瓶の花が小さな青い実をつけ始めていた。
軋むような揺れが花瓶のまだ青い実をゆらゆらと揺らさせ…やがて、レナの吐息が細かな喘ぎに変わり始めて行った。

ディアスに送られてレナは帰って来た。
次の約束をかわすとディアスがち小さくなるまで見送ってレナは部屋の中に返って来た。
ベッドに寝転んで頬杖ついて、ほうーと溜息を付いた。
息がまだ熱い。
今日一日のディアスの思いが…自分を酔わせた陶酔がまだレナを包んでいる。それらが一つずつ並びあがってきては、レナを包んでしまう甘やかな時間に抗えずレナは虜にされたまま脱け出そうともせずディアスに浸り込んでいる。
レナの心の中に満たされた世界に自分を解放している。
たゆとう幸せな時の流れを…。
それをかき消したのはせわしないノックの音だった。
「もうー」
 せっかくの幸せなトリップを邪魔する無粋な者は誰なのか…。
 レナがドアを開ける気配にドアの向こうからアシュトンの情けない声が聞こえて来た。
「レナァー…」
『やれやれ…今度はアシュトン?』
ドアを開けると案の定、半べそのアシュトンがいた。
「どうしたのよ…」
「ん…ごめん」
 押し来訪を詫びる声にも力がない。
「にかく…中に入りなさいよ…」
 アシュトンを招じ入れると…レナは、
「どうせ…プリシスの事でしょ?」
 と、尋ねた。
「で…何?」
「あのさ…プリシスが来ただろ?」
「えぇ。それがどうかして?」
「なんかよく判らないんだ。今は会いたくないって…。何で? って聞いたら、レナに聞いてって…レナに放してあるって、そればっかでさ…何がなんだか…さっぱり判んないよ」
やれやれ。プリシスは自分で説明しきれずレナにお鉢を廻して来たようだ。
 レナが上手くプリシスの気持ちを説明してあげれるかどうか?
かといって…。レナを頼りにしているプリシスの気持ちも判らないでもない。
 自分の口からは言いにくい事だもの。
「そっかぁー」
 というレナの口からプリシスの心境を説明されるのをアシュトンはじっと待っていた。
「うーん」
レナだってどう説明したらいいか判んない。
「あの…。なんて言ったらいいか…」
 レナのひどく困った顔はアシュトンの心配性にろくな事を考えさせない。
「あの…? 何て言ってたの? プリシス…。僕の事、もう嫌だって?」
「ば、ばかね…。そんな訳じゃない。そうじゃない。そうじゃないの。そんな事じゃなくて…」
「じゃあ…」
「あのね…プリシスに…あの、えっと…ほら…うーん」
表現する言葉はいくつか知っているけれど、口に出して言えないだけである。
「何?」
「あっ…。だからね…。あの。困ったわね…」
 レナはどう言おうか、少し考えていた。直接表現が出来ないなら関節表現に変えるしかないのは判っているんだけど…。
「あの…。二人だけの時に…あのね…。あの…。プリシスにいつもと違う事をしてって言ったんでしょ? 覚えてる? 何の事か判る?」
 アシュトンもピンときた。でも…そんな事をレナに言っちゃう? ううん。レナがそんな事の話をきける? なんか思ってた事とは違うかもしれなくてアシュトンは口篭った。
「あ…え…あ。あれかなぁ?」
 ここ最近でプリシスのご機嫌を損なわせた事と言ったら、あれぐらいしか思い当らないんだけど…。
「た…多分。同じ事を思ってんだと思うけど…」
 それってオーラルセックスの事よね。何てレナが言えるわけもない。アシュトンもレナに違うかもしれない事を言って、妙な事を考えてる自分を見せちまったらどうにも…気恥ずかしい。でも…このままじゃ、埒があかない。アシュトンは思い切って…単語の頭文字を言ってみる事にした。
「あの…それって…頭にオとか…フェとか…つく言葉?」
 どうやら同じ事を考えていたらしい。
「あっ…あ。そうね…その事…」
「えええ…そんな事を…プリシスが話しちゃったの?」
 って…何だか…アシュトンはばつが悪いけど、そんな事をレナに話さなきゃなんなかったって事が今のプリシスの会いたくないって事に関連があるわけだから、アシュトンはふぅぅと溜息をつきながらも…
「で? 何で…」
「あのね…その事で、プリシスは悩んじゃってるの…」
 案の定。アシュトンはレナの言葉に暗い顔になった。
 アシュトンにしてみれば、きっとプリシスに嫌われちゃったって思い込んでるんだ。
 レナは慌てて説明し出した。
「あ。そうじゃないのよ。あのね。プリシスはアシュトンの望むようにして上げられないって事に悩んじゃってるの。こんなんじゃ、本当にアシュトンの事を好きって言えないんじゃないのかなって…」
「え? そんな事で…?」
でも、この先になってそんな事くらいって言ったはずのアシュトンがそんな事ぐらいっと軽く流してしまえなくなるんだ。心の底に大きな拘りを植えつけてしまう話しがこれから始まって行くんだけど、今のアシュトンには判るはずもない。
「そうよ」
「あぁー。あ。僕が馬鹿だった…」
突然のように自分を責めだしたアシュトンの本当の所を知る由もないレナは、単純にアシュトンの言葉を受け止めて、
「そんな事ないわよ」
 って言った。
 

ここら辺がアシュトンの配慮に欠ける所と言うか、馬鹿正直な所と言うか。
「ううん。つい…ディアスに見得をはっちゃったから…プリシスの事…」
 アシュトンの口から、突然出て来たレナの恋人の名前。
プリシスとアシュトンの心のすれ違いにディアスがどこまで関与しているって事になる。
「あの…? 見得って?」
「うん…」
 よせば良いのに…。こうなったら懺悔するかのように本当に正直に話し出したアシュトンだった。
「あのさ…。ディアスと危ない日はどうしてるって話になってね…」
「危ない日?」
「やだな。わかんない? 妊娠…」
「あ…。そんな事を?」
 ディアスったら…。レナは何だか判った気がした。ディアスがアシュトンにレナの事をにおわせたんだ。
 それで…アシュトンが僕だってと、見栄を張った手前一応形だけでも、プリシスにそんな事して貰いたかったんだ。
 そんなのってプリシスに失礼だよね。それよりもディアスはどこまで喋っちゃったんだろう。そんな事なんか絶対口に出しそうもないディアスがアシュトンについ…自慢したくなる程心を浮き立たせられてしまっているって風に見えた。レナはアシュトンに秘密を知られてしまっただろう事より…子供の様にレナのしてくれた事を自慢するディアスの意外な一面さえも可愛く思えていた。
だけど…事実はレナの推理と違っていた。
「…あ…あ…あ。ごめん」
 と、突然何か思い当たったアシュトンが謝り出した。アシュトンにすればプリシスがそんななのに、レナだったらもっとまずい状況になるって思ったんだ。…アシュトンの言葉を間に受けてディアスがレナにオーラルを迫りかねないような切欠を与えたのは間違いなくアシュトンだ。
「ごめん。もし…ディアスまでもレナにそんな事させようなんて事があったら、それは僕のせいなんだ」
「え? どういう事?」
「うん。だからぁ…危ない日はどうしてるって話になった時に…僕、つい…あの、その、あ、さっきのさ…その方法でプリシスがしてくれているんだって…見栄張っちゃってさ」
 レナの考えていた事とはむしろ、逆な事実が浮かび上がって来た。
でも…と、なると…。
「そ…それで、ディアス、急にあんな事を…」
 レナが思わず口に出した言葉の真意にではなく、内容にアシュトンの察しが良かった。
「え? それってディアスが?」
「あ」
 要らぬ事を口走ってしまったレナ。
「レナ? あの? ディアスが…?」
 さっきまで…もしディアスがそんな事したらごめんと言ってたはずのアシュトンが別の事に興味を持ち始めている。だって…さっきのレナったら、ひどく静かな口調で、「そう…だから…ディアスが…」って言ったんだ。起こってるようには聴こえなかった。
と、いう事は?
「ディアスが? …で…レナは……。レナはどうし…あ」
 睨み付けて来るレナの瞳にアシュトンは口を閉じた。
 どうしよう? 言わなくてもいい事まで言ってしまったんだ。と、アシュトンはやっと気が付いた。でも、どうやらディアスがそういう行動に出たらしい事が判ったアシュトンなのだ。となると、やっぱしそれをレナが受けたかどうかが非常に気にかかるアシュトンなのである。
 だってこのレナがもし…オーラルで受けたとなると、これは男としてプリシスに、
「本当に好きなら出来るだろ?」
って言いたくなっちゃう事だし。
逆にレナが出来なかったって言うんなら、女の子の気持ちって、やっぱ、そんなもんだよなって自分を宥める事が出来る。レナがどうしたか、否かは、アシュトンにとって天と地くらいに気持ちの差が出来ちゃう。
「なんですって?」
 一生懸命受けたレナにとってディアスの心がアシュトンに煽られたせいだったなんて考えると口惜しくって仕方がない。
「あ…は…」
 険しい目つきのレナがディアスの事に起こってるんだと判ると、慌ててアシュトンはレナを宥め始めた。
「あの…ディアスは僕みたいに軽い気持ちじゃなくて…あの…本当に…」
「何?」
「レナー、怒んないでよ。ディアス、そんな好奇心なんかじゃないよ。レナだって、そこまで望まれて嬉しくなかったの?」
 この言葉が更にアシュトンを自ら落ち込ませて行く事になる。
「え? あ…」
「でしょ?」
 なんだか、暗黙の内にレナとディアスの間にオーラルセックスがあった事を認めてしまうことになるんだけど、
「だ…だから…一生懸命…」
 って、レナがボロボロと涙を落としていた。
 やっぱ…レナは受け止めたんだって驚きながらも…羨ましくって仕方がないアシュトンなのである。でも…レナの気持ちの修復の方が先になってしまった。
「きっと…ディアス、ものすごく嬉しかったと思うよ。僕やっぱ…強がってるけど断られちゃったって事はプリシスの言うとおり…まだ、本当に好きになって貰えてないんだって、思ってしまうもの…それって…すごく…淋しい事だよ。惨めだよ…」
「……」
「レナは素敵だよ。ディアスにそんな思いをさせずにすんでるもの」
「……」
「ディアスが羨ましいよ。…愛されてんだ」
 アシュトンの言葉にレナの憤懣が消えてゆく。
「そ…そんな事で…そう思える?」
 レナの小さな疑問にアシュトンは答えた。
「だって…。レナもそう思ったでしょ? 愛してるからしてあげれるんでしょ?」
「……」
「いいよね…。でも、こんな寂しさなんか僕一人でじっと堪えてりゃいい事なんだ。プリシスがそんな事で自分を責める必要なんかないよ」
「ア…アシュトン?」
 こんなにプリシスが好き?なのに、アシュトンはそんな事より必死にディアスとレナの仲を思い遣っている。
「ねぇ、だからディアスの事、怒んないでよ。切欠は確かに僕のせいかもしんないよ。でも…レナの事…。レナがそうしてくれた事に、とっても嬉しいって思ってるよ。そうだよ。愛されてるって思ってしまうよ…。そんな事までしてくれたらさ…」
 確かにアシュトンに言う通りだろう。 ディアスはその事があってから、はっきりと愛を口にだした。そして…レナへのプロポース。
「ア…アシュトンの言う通りだね…」
 アシュトンは少し俯いたけど、すぐ顔を上げると…
「判ってくれたらいいよ…」
 って言うと、
「俺、帰るね」
 って言った。
 レナを宥める為に言った自分の一言一言が、アシュトンを打ちのめしていたんだ。
 アシュトンはひどく淋しそうに肩を落として帰って行った。
 どうにかしてあげたいけど…アシュトンを救い出せるのはプリシスしかいない。




 レナは薄寒くなって来た夜の中をプリシスの元へ走り出した。
 プリシスの部屋のチャイムを押すと、
「あら? レナ?」
 って、珍しい来訪に驚きながら、プリシスはレナを部屋の中に通してくれた。
 レナは随分息せき切っているのに、プリシスが座り込ませると、
「大事な話をしにきたの…」
 と、切り出した。
「な…何? あ…あの…どうし」
 レナの顔付きがやけに真剣過ぎて、ちょっと、怖くもある。
「いいから…ききなさい」
「え…は…はい」
 レナの勢いに押されてプリシスは黙った。
「単刀直入に言うわよ」
「は…はい」
「あのね…アシュトンのを…なめちゃいなさい!」
「え、え、ええええええ? レナァーーーー!」
 レナの口からすんごい言葉が出て来た事に、プリシスは度肝を抜かれている。
「じゃないと…私、貴方を女として、軽蔑する!」
「え?」
「貴方の言うとおりよ。『本当に好きじゃないのかも』? だったら別れちゃいなさいよ。貴方、そんな事言って、上手く逃げてるだけ! そしてらアシュトンが折れるのが判ってて甘えてるのよ。貴方は自分を量りにのせようとしない。只、アシュトンに愛されてる事に満足しているだけ。自分がどうしてあげられるかなんて考えてみようとしてない。あおんなのって、最低よ」
「あ…う…うん」
「でしょ?」
「う…う…うん」
 ちっとも、納得しないプリシスの返事にとうとう、駄目押しを出した。
「あのね…。私は出来たわよ」
「え?」
 今、レナはなんって言った?
「何度も言わせないでよ。愛してる。そう思ったら出来る事なのよ」
「嘘? 本当に? レナがあの…ディアスの、あの…その…えっ…な…舐めちゃったの?」
「ば…ばか…」
 何度も言わせないでって言ってるのに…。
「だ…だって?」
「愛してるって、それだけ…考えてればいいのよ…」
「不…不気味…よ」
「や…止めてよ。私…」
 そりゃあそうだよ、プリシス。不気味でグロテスクな物まで、愛しいと思っちゃえなんた。何て好き物のレナといわれてるみたいなもんだ。
「ん…」
 なんか考えこんじゃったプリシスだった。
「ねぇ。プリシスの見た目なんか考えてたら…そりゃあ、私だって出来ない事よ」
「うん…」
「だから…。眼を瞑ってアシュトンに任せちゃえばいいでしょ?」
「ん…」
「それが愛してるって事なのよ…」
「ん…」
 まだプリシスは快諾しない。
「アシュトン、淋しそうだったわよ」
「アシュトン、行ったんだね? だからレナが来てるんだよね…」
「アシュトンにも…話したわよ。そしたら…ディアスの事いいなぁって。愛されてんだぁなぁって…そう言ったわよ。そんな事一つでそう思うんだよ? なのに…。プリシスの気 持ち考えて、出来ないって事で自分を責めて欲しくないって…そうも言うのよ」
「……」
「プリシス…どう?」
「あ…うん…」
「女の見せ所よ。いつまでも、ねんねのプリシスに逃げ込んでちゃ駄目よ」
「……」
「私の言いたい事はそれだけ。後はプリシスが決める事よ…」
「は…あ…」
 矢継ぎ早に言われまくった上に、自分の進退をどうするかなんて急に決めれる訳がない。
「いやな返事ね…」
「だって…」
「アシュトンはプリシスのを平気で舐めちゃうのに?」
「え? あ…やだ。そんな事まで…話しちゃったんだ」
「推理! 当りな訳だ」
 困った顔でプリシスは頷くしかなかった。
「男の人から見たら…女の子の物だって充分、不気味じゃないのかな?」
「ん…」
「なのに…アシュトンは出来るわよね?」
「ん。ディアスもね?」
「そうよ…」
 赤らむ事もなくレナははっきりと答えた。
「そう…だよね」
 プリシスはやっと頷いた。頷いたプリシスを見ると、レナは立ち上がった。
「色々…ありがと。あの…するよって、まだ断言出来ないけれど…とにかくレナがそうやって心配してくれるのが嬉しいよ」
「うん」
レナは頷くとプリシスの部屋を出て行った。

「あーあ」
 外は既に真っ暗。
 けれどレナは瞳が街路樹の側に立っている灯りの下のアシュトンを思い出していた。
『アシュトン…』
 レナが側によってくるのをアシュトンは待っていた。
「気になって…来て見たんだ。ちょっと…会えたらいいなって…。そしたら…レナが…来てるのが判って…」
 不安がいっぱいなアシュトンの背をレナは押し遣った。
「いってらっしゃい。いつもの、アシュトンでいいのよ…」
「う…うん。あの、プリシスはあの…」
「大丈夫よ。会ってくれるわよ。…でも、それ以上を望んじゃ駄目よ」
「う…うん。判ってるよ…」
 まだ迷いの最中にいるプリシスを揺さ振っちゃいけない。
 自然な流れに任せてゆくしかないってレナは思った。
 何が切欠にしろ、レナとディアスも自然にそうなったんだ。
 無理はいけない。自然に…そう…ただただ…自然に、思いのままに…。
 アシュトンがプリシスの元へ行くのを眼の端に止めながらもレナは走り出した。
 荒い息がどんなにかレナが駆けとおして来たかを、ディアスに判らせていた。
「レナ?」
「逢いたくて…」
「ん…」
「とっても…逢いたくて…」
「ん。レナ…俺もだ」
 ディアスの部屋の電気を…レナは消した。
 そして、ディアスのズボンのベルトに手をかけた。
「どんなに…愛してるか…知ってほしい…」
「レナ…」
「本当に…本気なの。本当に好きなの。本当に…こんな気持ちはじめて…」
引き摺り下ろされた下着から開放されたディアスの物がすでにそそり立っているのに、レナはディアスの物に頬を寄せた。
「ディアス…抱いて」
 レナの初めての欲求をディアスはしっかり感じ取っている。
レナの口が不器用にディアスの物を舐めて行く。
 レナの胸に手を伸ばしながらディアスはレナへの服従と忠誠を認めた。
「レナ…おまえだけのものだ…」
「ん…」
 レナが小さく頷くと、ディアスの愛撫を強めていった。
(おわり)   
エピローグ

 アシュトン達がどうなったのかって? それがまぁ…ようは後に続く御話しな訳なんですよ。いつものボーマンの活躍(?)はまだかいなて思ってらっしゃるボーマンファンの皆様には、今頃、ボーマンが何をしてるかって事だけ紹介しておきますね(サービスよ。サービス!)

 アシュトンの事ばっかり書いてるけど…。
 ここにも…一人、そこら辺のとこで行き詰まっている男がいる。
「いやよ…」
 って、ニーネ。
 でも…ほいほいと諦めないのがボーマンなのだ。
「んな事言うなよ。だまにはいいだろ?」
「だって…」
 ってボーマンはロケットを持って、コンニチワって頭を下げさせて見てる。
 吹き出しそうなニーネだったけど、ボーマンの角度が辛そうなのが…気にかかる。
「だって…大きいんだもの…辛いわ…」
ってニーネは断った訳を呟いたけど…。
ニーネの顔がしっかりボーマンの股間に落ち込み始めている。
「その代わり…後で…たっぷりと…」
 って、ニーネに囁いてるボーマンの声が止まった。
「ァ…ァ…ニーネ」
 って、この男にしちゃ、珍しくたまんない声を漏らすと、ニーネの腰を捕まえてボーマンの顔の方にニーネの下半身を寄せてゆく。
 夫々の口で夫々の部分を愛しんで行けば、その内ニーネが堪えきれなくなって、いつものノーマルにすぐ戻っちゃう事になるのに、やっぱし…ボーマンはニーネのキティが愛しくて、何度も何度もキスを与えちまんだ。
 ボーマンの洗礼を受けながら…ニーネはクルスへの忠誠を知らされてしまうんだろう。 
 その、しばらく後に…ニーネとボーマンが天国とも言っていい快感の深さに縺れ合い…胸の中に愛をくるんで…。

《バイバイ》












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