<三>
桜庭は体が弱いほうで、よく風邪で休んだ。そんな日の給食は少しつまらなかった。
休み時間になるとわたしが一緒に――今思えば無理やり――外に連れ出していたけど、何もしないでただ周りを見ていることがほとんどだ。当然、体育は見学が多い。
しかも女のわたしがよく一緒にいるせいで、よく「桜庭って本当は女なんだろ!」とか言ってくる奴がいた。実際そのころの桜庭はよく女の子に間違えられていた。
そんな奴はたいてい、わたしが追いかけまわしてひっぱたいてやると大人しくなった。
桜庭はいつもそれを見て「お前が本当は男子なんだよな」と笑っていた。
そんな桜庭が一番いきいきとしていたのが図工の時間だ。
わたしも図工は好きだったけど、好きさでも、作るものの出来でも、桜庭にはぜんぜん敵っていなかった。
わたしのはただのばかげた工作だけど、桜庭のは『作品』だ。
いつもうんうん悩んでいて、なかなか作業を進めようとしない桜庭を、わたしは「遅い」と言ってバカにしていたけど、小さな大先生はそんなことぜんぜん気にしちゃいない。
自分のペースでしっかり想像をめぐらせて、のんびり形にしていった。出来上がったものはどれも、先生からもみんなからもよく褒められていた。
そんな子だから、雨の日の休み時間は天国だったのにちがいない。太陽女のわたしにはとても想像がつかなかったけれど。
いつも楽しそうに絵を描いていた。
わたしも最初はいっしょに描いていたけど、しだいに桜庭が絵を描いているのを見ているほうが楽しくなってきて、最後はわたしはお客さん役に落ち着いた。
桜庭先生に絵の依頼をするお客さんだ。そう思ってると言ったことは一度もなかったけど。
先生はなんでも描いてくれた。わたしが好きだった車の絵も、むかつく先生の変な似顔絵も、マンガやゲームの絵だってだ。
小学校四年生のとき、思い切って、好きな男の子の絵を描いてほしい、と言ったことがあった。
笑って「お前キモいよ」と言われたが、あとで誕生日にこっそりくれた。どんな絵だったかは秘密だ。
嬉しくて、恥ずかしいけど捨てられなくて、今でも大事にしまってある。
結局そいつには振られてしまったけど、それでも捨てられないものなのだ。 |