蝉時雨(1/4)縦書き表示RDF


もうひとつの連載の反動でやっちまいました。
ちょっと暗めのシリアスです。
 
蝉時雨
作:日暮ひかり



プロローグ


うだるような暑さが続いていた。

 世界中が大きな鍋の中におさまっていて、ぐつぐつと音を立てて煮えたぎっているようだった。
 四方から容赦ない熱が体を襲う。額に浮いた汗がたちまち球になり、頬から顎へと伝ってアスファルトに落ちると、数える間もなく消えてしまった。体は熱く火照り、脳みそまで沸騰している気がする。
 すでに限界は超えているんだろうと、他人事のように思った。きっと心が真っ白なんだろう。

 太陽が降りそそぐ八月の空の下で、わたしは駐車場に立ちつくしていた。

 体が重いようで軽く、軽いようで重い。どちらにしてもただの入れ物と化しているようだった。記憶も、意識も感覚も、空っぽの体の中で宙に浮いて漂っていて、自分というものの中心が今どこにあるのかわからない。暑い――何だかすべてを投げ出してしまいそうで、ゆっくりと瞳を閉じる。
 瞼の裏に何色ともつかない光がちらついて、目の前まで真っ白につつまれていった。



 ああ、蝉時雨。うるさいぐらいに鳴いている。
 撃ち殺してもいいだろうか――












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