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携帯電話
作者:めい
 虫の知らせと言う言葉があるけれど、そんなのはきっとない。だって私は、彼の不幸のときだって、のんきに友達と喫茶店で幸せにお茶してたんだから。
 携帯電話が鳴ったときだって、次はチーズケーキにしようか、それともチョコレートケーキにしようか、おみやげはやっぱりモンブランかな?なんてそんな事しか考えていなかったんだから。


 今日、2月13日、高志が死んだ。
 

 携帯電話から突然その話を聞いても、最初はまるで実感がわかなかった。『何の冗談?』とへらへら笑っていたくらい。
 けど、相手がいつまでたっても『これは冗談だよ』とも『なんちゃって』とも、何も言わず、すすり泣くような嗚咽の音が聞こえてきたとき、これは冗談なんかじゃなく、本当の事なんだってわかった。死因は交通事故。トラックにはねられ、ほぼ即死状態だったらしい。
 私にとって、高志の葬式はとても現実味がないものだった。高校生の頃であってそれから付き合い始めて、半年前に婚約、1月後に結婚の話までしていた。ずっとずっと夢見てた高志との結婚がもうすぐ現実になると思った矢先の事故だった。突然死んだと言われても、私にとって全くもって現実味がなかった。
 交通事故にあってても、棺桶に入っている高志の顔は、傷一つなくきれいだった。静かに横たわる高志の顔を見て、すぐに目を覚ますんじゃないか、起きて私に何か話しかけてくれるんじゃないか、そんな事ばかり考えていた。
 葬式で高志の顔を見ても、私はただぼーっと顔を見ていただけだった。涙が出てくるかとも思ったけど、全く涙も出てこなかった。
 結婚前だったから、高志の親戚一同も私をどう扱っていいか考えあぐねていたようだった。結局、葬式が終わった後、火葬場についていく事もやんわりと断られ、葬儀場でぼんやりと霊柩車が出ていくところを見つめていた。



 高志の死から、半年が立った。半年の間、仕事も普通に通い続け、今も得意先の営業からの帰り道だ。私の生活は何も変わっていない。ただ、高志がいなくなった。
 あの日からしばらくして最近、ようやく私は泣くようになった。完全に麻痺していた自分の心が、高志が死んだという事実を認識するようになったのだろう。
 いろんな友達が、カラオケにお茶にと誘ってくれ、ずっと無表情だった自分にいろいろ話しかけてくれたり、逆にいろんな話を聞いてくれることで、少しずつ高志がいなくなった現実を受け入れられるようになってきていた。
 スーツ姿に身を包み、速足で道を歩く。スケジュール帳を片手に、次の予定をチェックしていた。

 TRRR……TRRR……。
 
 そんな時、胸元のポケットにあった携帯電話のコール音が鳴った。
「誰だろ?」
 次の営業先の人かな? それともさっきの事務所の人からのクレームかなあ。さっきの事務所の新しい人、怒りっぽそうな人だったから何か粗相しちゃったのかなあ。
 そんな他愛もないことを考えながら何の気なしに携帯電話を開いた。

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『着信:高志』
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「…………え?」

 いや、私の見間違いかもしれない。
 一度ぎゅっと目をつむり、目をぱちぱちさせた後、もう一度携帯電話の画面を見直した。

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『着信:高志』
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 見間違いなんかじゃない……高志から電話が来ている。
 いや、そんな訳ないじゃない。高志はもう死んだの。あなた、みたでしょ。高志が死んで葬儀場で棺桶に入ってたのを。
 そう頭の中ではわかっていながらも、心のどこか奥底で、高志は実は生きていて、それでこの電話をかけているのではないか。そんな考えをしていた。
 もう、なんでようやく忘れられそうって思ってきたときにこんな電話がかかってくるの……。
 高志の両親からなのかもしれない。あの日以来、高志の家には近づいておらず、ずっと疎遠になっていた。会ってもなんだか微妙な空気になってしまう気がすると思っていたから。もしかすると、高志の両親が私に何か伝えたいことがあって、連絡してきてくれたのかもしれない。
 けど、高志の両親がそれだったら高志の携帯なんて使わず、自分たちの携帯を使えばいい事だし……高志の両親も私の携帯電話番号知ってるんだし。

 TRRR……、TR。

「あっ!」

 私がでようかどうしようか考えていた間に、着信音は途中で切れてしまった。
 ……どうしようか。電話をこっちからかけてみようかな。もしかして、高志が出てくれるかもしれない。

「そんな訳ない……」

 頭ではわかってるのに、発信ボタンを押したくなってしまう。
 ……駄目だ、やっぱりやめよう。高志が出ても、出なくても、きっと私、落ち込んじゃうから。
 それでも、もしもまたこの電話番号からかかってきたら、その時は出てみよう。
 そう思い、私は携帯電話をまた胸ポケットにしまった。




 仕事が終わって家に帰り、ゆっくりとお風呂に入りながら私は今日の携帯電話の事を思い直していた。
 結局あれは誰からだったんだろう。高志から? ……ううん? そんな訳ない。高志は死んだのだから。
 けど、高志の両親も考えにくいし……、高志、1人っ子だったから兄弟のいたずら、なんてことも考えにくい。

 TRRRR……、TRRRR……。

 考えていた矢先、携帯電話の着信音が流れた。くっ、今は出られないって言うのに。いったい誰なの?
 もしかして高志かもしれないし、他の人からかもしれないし……。
 いつもだったらもうちょっと長風呂するのだけど、今は携帯電話の着信が気になる。
 慌てて湯船から出て、体を拭いて、バスタオルだけ巻いて携帯電話が置いてある居間に小走りで向かった。

 ちょうど私が携帯電話を取ると同時、着信音も途切れてしまった。

「もう、一体誰からなのよ……」

 そう言いながら、高志でなければいいと、そう思い不安感でいっぱいになりながら携帯電話の画面を開いた。

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 着信履歴:高志 20:47
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 高志だ……。また、高志から電話が来てる。
 高志の両親からだろうか? この電話番号にかけ直せばすぐにわかるけど、もしも全くわからない変なところにかかってしまったら、それよりももしもタカシに本当にかかってしまったら……そう思うと怖くて私は電話をかけ直すことができなかった。

「そうだ、高志のお母さんたちに直接電話すればわかるかも」

 疎遠になっているから少し掛けづらいけど、得体のしれない恐怖を感じながら夜を過ごすよりも、その方がよっぽどいい。
 21時前だから掛けてもまだぎりぎり大丈夫な時間帯かな。そう思い、私はアドレス帳から高志のお母さんの電話番号を捜し、電話を掛けた。
 2コールしてほどなく高志のお母さんが出る。

「もしもし……」

 男声の低くこもった声が電話越しから聞こえてきた。高志のお父さんだ。
 眠たげだから低いという訳ではなく、本当に暗い声。当たり前かもしれない。たった半年前にたった一人の息子がいなくなってしまったばかりだ。
 私だってまだまだ立ち直れていない。一人息子の遺影をずっと見ながら過ごしているんだ。

「あの、お久しぶりです……私」

「ああ。久しぶりだね。……ごめんね、家内はまだずっと寝込んでて、電話に出たくないってずっと言ってるんだ。火葬場の時も四十九日の時も呼ばなくてすまなかったね」
 
「あ、いえ。気にしないでください。ちょっとお聞きしたいことがありまして」

「……ん? どうかしたのか?」

「いえ。最近、と言うかついさっきなんですけど、高志さんの携帯から何か電話かけたりしました?」

「いや? だいたい高志の携帯電話だったりクレジットカードだったりの契約は、すべて解除しているから。もう掛けようと思っても掛けることはできないよ」

 ……え? どういうこと?
 
「……もしもし? もしもし?」

「あ……ごめんなさい。ちょっと考え事しちゃって」

「……そう。まだ辛いだろうけど、もしもよかったら、うちにも香をあげに来てくれるかな?」

「あ、はい。わかりました……それでは失礼します」

 そう言って私は電話を切った。電話を切ってからも、私はしばらくの間呆然としていた。
 一体誰からなの? あの電話は。だって、もうあの電話番号から私にかけてくることはできないわけで……じゃあ、今まで電話がかかってきたのはいったい何なの? まさか本当に高志からだっていうの?
 そんな事ない。そんな訳がない……でも、そうだったらいったい誰がかけてくるって言うの?

 堂々巡りを続ける私は頭の中で、答えの出ない問いをおびえとともに考えていた。



「ん……まぶし」

 私は窓からの光に目をこすらせる……気づいたら朝になってた。あのまま昨日は眠っちゃったみたいだ。
 考えても考えても、結局堂々巡りをしてしまう問題にちょっと疲れてしまったみたい。
 ぐーっと背を伸ばし、少しだけカーテンを開けて、外を眺める。……今日と明日は休みだし、何をしようか。
 考えるのは後回しにして、まずは顔を洗ってこようと私は布団から外に出た。

「……ん?」

 ふと机の上を見ると、携帯電話がちかちかと光っている。
 誰かからメールでも来たのかな? と何の気なしに手に持ち、画面を開いてみた。

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着信のお知らせ:20件
 着信履歴:高志 23:02
 着信履歴:高志 0:17
 着信履歴:高志 1:22
 着信履歴:高志 2:24
 着信履歴:高志 3:13
 着信履歴:高志 3:44
 ……

「きゃっ!」

 思わず私は携帯を投げた。なんなの、この着信履歴は。ずっと着信:高志が続いている。
 なんなの? なんの嫌がらせなのよ? 
 ……恐る恐る私は部屋の隅に投げ捨てられた携帯電話を手に取り、着信履歴の続きを見た。
 20件全てが高志からだった。しかもどんどんと頻度が狭まってきている。
 5時過ぎ何てもう10分おきくらいに電話がかかってきてる。 一番最後にかかってきた着信なんて、ほんとに起きる直前にかかってきていたみたい。

「何? これは。何なのよ! 誰がこんなことしてるって言うのよ!?」

 一瞬私は発信ボタンを押しかけた。けど、どんな人が出るかわからない。もしかすると電話をかけ直すのは危ないかもしれない。
 それと本当に高志が……高志が出るかもしれない……。そう思うと怖くて、でも勇気が出なくて……どうしても発信ボタンを押すことはできなかった。

 TRRR……。

「ひっ!」

 私が発信ボタンを押すか幼いか悩んでいる最中に突然着信音が鳴った。驚いて思わず私は電源ボタンを押した。
 早く切れて……早く切れて。もう携帯の着信音は鳴っていない。それでも私はまたすぐに鳴るかもしれない。
 そんな恐怖に駆られて、もう切れてしまっているのに、私はぎゅっと電源ボタンを押し続けた。
 しばらく押し続け、画面はブラックアウトし、携帯電話の電源が切れたのを見届け、ようやく私は電源ボタンから指を離した。
 その後、私は2日間、結局外出することも特に何かすることもせず、布団にくるまってじっと過ごしていた。

 
 布団の中にこもりながら、休みが終わった。今日からはまた出勤しなければいけない。
 ものすごく体がだるい。ずっとずっと部屋の中にこもっていたのだから当たり前だ。
 電源を切りっぱなしにしていた携帯電話も、今日からまた入れとかないと。
 ほんとは休み中だからって完全に切りっぱなしにしてるのもすごくよくなかったんだけど……もしかするとまたかかってくるかもしれないと思うと、怖くて電源を入れることができないでいた。
 びくびくとしながら、私は携帯電話の電源を入れる。どうかかかってこないでと祈りながら、見たくもないのに携帯の画面をじっと見ていた。
 ゆっくりと携帯が起動される……待ち受け画面になり、そのまま何もなかったかのように動き続ける。
 1分……2分……5分……10分。
 ゆっくりと待ち受け画面の時計が動くのを見ていた。

「ふぅ……よかった。電話、鳴ってこないみたい」

 携帯電話の電源を入れると同時、いきなり電話がかかってくるんじゃないか。そんな事を思ってしまっていた。
 実際にそんな事なんてあるはずはないと思いながらも、心のどこかでびくびくしていた。よかった……きっと諦めてくれたのよね。
 ほっと安心して、私は携帯電話を机の上に置き、仕事に出かける準備をし始めた。

 TRRRR……、TRRRR……。

 パジャマを脱ごうとボタンに手をかけたと同時、突然着信音が鳴りだした。
 ビクッと体を震わせ、恐る恐る机に近づいて、開かれたままになっている携帯画面をのぞきこんだ。

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『着信:高志』
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「ひっ!」

 思わず私は携帯を机から払いのけた。飛んで行った携帯は、壁に当たり床に落ちる。
 衝撃を受けた後も、ずっとずっと携帯はTRRRR……、TRRRR……と着信音を鳴らし続けている。

「そんな……もうやめてよ! 一体なんで電話がかかってくるって言うの!?」

 高志は死んだの! 高志からかかってくるなんてないの! ……近づきたくもない。耳をふさいで、部屋の隅っこにうずくまって着信音が鳴りやむのを待った。
 耳をふさいでも、着信音が聞こえなくなることはなく、より一層耳にこもって聞こえてくる。
 ずっと待っていても、なかなか着信音が鳴りやんでくれない。

『ただいま留守にしております。ピーと鳴りましたらお名前とご用件をお願いします』

 ようやく着信が終わったと思ったら、留守番電話になってしまった。
 こわい、電源を切ってしまいたい……でも、近づきたくない……。
 ピー……と言う発信音が鳴った。
 ぷつっと電源がすぐに切れてくれることを期待していたのに、中々切れない。無音の時間が続く。

「……もしもし? もしもし? おーい、俺だよ。健也だよ。いるんでしょ? 怒ってるの? ごめんよ。だから電話に出てくれよ」

 ……あれ? 高志じゃない。全く別の人の声だ。それに名前も今、高志じゃなくて『健也』って……。
 部屋の隅っこから立ち上がって、床に落ちた携帯電話に近づき、携帯電話を持つ。

「あ、電話番号変わってるから出てくれないのか? これさ、ちょっとこの前トイレに携帯落っことしてさ、修理も聞かないってんで新規で買ったんだよ。俺が悪かったから電話に出てくれよ。おーい」

 高志の幽霊でもなんでもなさそう。それに、何かのいたずらでもないみたい。
 ……そう言えば、聞いたことがある。電話番号って、番号が足りないから、過去に使われたものがまた別の人に使われていくって……。
 と言うことは、今までかかってきてたのも、ずっとずっとこの健也って人からだったんだ。

「おーい、もしかして佐々木さん、ほんとに怒ってる? やっばいなあ……」

 うん、私は佐々木さんじゃないし、間違い電話なのは間違いない。それで、この人は佐々木さんって言う誰か別の人にかけようとして、私の電話にかかってきてたのね。
 困惑した声を出した健也と言う男の人の声に思わず笑みがこぼれた。
 今までの私はいったいなんだったんだろう。何をそんなにびくびくしてたんだろう?

「もしもし……電話聞こえてるならでてくれよお……」

 健也と言う電話の人が悲痛な声を出しだした。
 安心した私は、この間違い電話の主さんに、『ちょっと文句でも言ってやらなくちゃ』とふふっと笑いながら、携帯電話の着信ボタンを押した。

「あ、もしもし――」





 あれから1年が立った。
 今も私は高志の事、完全に忘れることはできてないし、ずっと忘れることなんてできないと思う。
 けれど、少しずつ私の周りも変わってきている。携帯電話は別の新しい機種に変更して、ついでに番号も変えた。
 あの携帯電話は思い出としてそっと高志の写真の隣に置いてある。本当は怖かったから、捨ててしまおうかとも思ったんだけど、いろいろと高志の思い出が詰まった携帯だったからどうしても捨てられなくて、使わなくなった後も回収させずに自分の手元に置くことにした。
 そして……

「おーい。今にも鍋、噴きこぼれそうだぞ」

「あ、ほんと。ありがと」

 大きな変化、それはあの時間違い電話をかけてきた健也と、昨日から一緒に住むようになったこと。
 まさか健也と一緒に住むようになるなんて、当時は思っても見なかった。だって、高志以外の人を好きになるなんてことはないと思ってたから。
 高志のお墓にこの前そっと報告してきた。高志のご両親にもお会いして、現況を報告してきた。高志のご両親はほっとしていたみたいだけど、高志、許してくれるかな。

「お、おい? 大丈夫か? ほんとに鍋噴きこぼれるぞ」

「あ、ごめんなさい。ちょっとボーっとしちゃってて」

 慌てて私はガスのコンロの栓をひねる。ぐつぐつと煮えたお鍋はゆっくりと静かになっていく。

「なんだか不思議な気分……」

 そっと私はつぶやいた。独り言のつもりだったけど、健也の耳にも届いていたみたい。

「ん? 何が?」

 健也は何のことかわからず首をひねっている。そんな健也を見てクスッと少し笑い、私は返事をした。

「きっかけって何で始まるかわかんないなって。使いまわされた電話番号からの掛け間違いが、こんな風になるなんて」

「そうだな。携帯買い直して初めて電話した時に、まさか涙声で出てくるなんて思わなかったよ」

「…………えっ?」

 今、何て言った? 『初めて』電話した時って……。
 皿を拭いていた手を止めて、私は健也にふりかえった。

「ね、ねえ健也? あなた、その前にも何度も私に電話してない? つながらなかったけど」

「えっ? いや、俺が君に電話したのは、あの留守番電話が初めてだったけど?」

 嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。だって、その前から高志から何度も着信があった。
 一度も電話を取らなかったけど、ずっと健也からの電話とばかり思っていた。
 でも、今健也は俺じゃないって……じゃあ、一体誰が電話してきたって言うの?
 
 TRRRR……、TRRRR……。

 ビクッとして、私は着信音の聞こえたほうを振り向いた。
 昔使っていた携帯電話が、ぶるぶると震えながら音を鳴らしている。

 そんな? だって、だって私、もうこの携帯電話使ってないのに。充電もずっとしていないから、着信音なんて鳴るはずないのに。

 TRRRR……、TRRRR……。

 そんな私の思ったこととは逆に、昔使っていたこの携帯電話は、着信音を鳴らし続ける。
 恐る恐る私は手に取り、携帯電話の画面を開けた。

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 『着信:高志』
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