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薬師  作者: 小林 谺
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3話  呪令の魔女1

 いつか見た光景だった。

 きゅ~っと目を回している珍妙な動物(推定)を見下ろして、ヒイルは大きく息を吐き出した。

 前回、そう、あれは確か6日前の事だ。

 あの時は夜だった。だというのに、今はもう少しで昼食の時間になるという、真昼間である。

「そうそう、“呪令の魔女”だったねぇ」

 うんうんと頷くヒイルの頭には麦藁帽子、左手に持つは根っこに土が付いている薬草を二株。空いていた右手で思わず目頭を揉むようにして、

「ぁあ、土がっ!」

 足元に転がるそれにすっかり忘れていたが、調剤に必要な薬草の採取にきていた途中だったのだ。

 カーマのしかけた防御結界がしっかり働いている証拠なのだが、前回はじかれていたのにまた同じモノを飛ばしてくるとはどういう了見なんだろうか。

 馬鹿なのかなぁ、などと思いながらもう一度それを一瞥し、

「……まぁいいや。えーっと、後は、カザラスの葉っぱとー、メイメニ~」

 見なかった事にして作業へと戻った。




 ぱちんっ。

「あ」

 今日何度目かわからない音を耳にし、ヒイルが声を上げる。

 カーマはすでに黙止で、ヨギはちらりと天井を仰ぎ見ただけだ。

「しつこいね」

 呟いてからプチトマトを口へと運ぶ。

「見てくるか?」

「必要ありません」

 あっさりとカーマが拒否して、紅茶を一口含む。

 ぱちんっ。

「また」

 あきれ返ったヒイルの声に、ぱちんっ、と続く。

 ぱちんっ。ぱちんっ。ぱちんっ。

「…………連続」

「見てきた方がいいか?」

 げんなりしたヒイルの声に、面倒そうにしながらもヨギが提案し、2人の視線がカーマへと集中する。

 黙止を決め込み穏やかな笑みを浮かべて優雅に紅茶を飲んではいるが、何故だろう。背後に怒りのオーラが見えるような気がする。

「必要ありません」

 もう一度、同じように告げたカーマの後に、ぱちんっ。

「何だか拗ねた子供が石投げてるみたいだねぇ」

 うんうん頷く。

「ねぇ、カーマ」

「はい?」

「侵入警報、ちょっと変更できるかなぁ?」

 ぱちんっ、と音が続く中そんな提案をするヒイル。

「変更といいますと?」

「ほら、もうすぐお客さんが来るでしょ? ここに住む事になるから、こんなしょっちゅう音が鳴ってたら落ち着かないんじゃないかと思って。それでなくとも養生が必要な人な訳だし」

「そういえば…。今までそんな事なかったから気にもしなかったけれど、そうよね。反応は私とヨギにわかるように変えておくわ」

「って、私は!?」

「調剤中はどうせ聞こえないのだから、いらないでしょう?」

「ぅ……」

 げふげふ、とわざとらしく咳き込んでごまかしにかかるBGMは、ずーっと続く、ぱちんっぱちんっ。

「しかし、カーマ。ヒイルが独りこの家に残っている時に何かあったら問題じゃないか?」

「それもそうね…。でも、大丈夫よ。警戒音が鳴る程度なら問題はないし、仮に侵入を許せばすぐにわかるから。どうにでもなるわ」

 口元でうっすらと微笑む。整いすぎているその美しい顔でそうされると、恐ろしさを感じてしまうのは何故だろか。

「じゃ、じゃぁ、変更しておいてね。多分、後4~5日くらいで来ると思うから」

 へろりと笑って告げられた科白にヨギが一瞥し、

「どんな予測だ、それは」

「予測じゃないよ。カズちゃんに頼んでたから」

 ヒイルの口から出た名前に、眉間に寄った皺をそのままにヨギは目頭を右手でもむ。

「最近見ないと思っていたら、お使いに出ていたのね。渡したお金が無駄にならなくてよかったわ」

 気にした風でもなく告げるカーマに、ヨギがげんなりと息を吐き出した。

「時々思うのだが…。カズエイダルは、カーマの使い魔だろうに。何故お前に黙ってヒイルの頼みを聞いてるんだ?」

「確かに使い魔契約はしてますけれど、制限は特にもうけていませんから。それに、カズエイダルには、この家の使い魔として役目を与えているので、あなたの依頼も聞いてくれますよ。ヨギ」

「………そうか」

 以前、そんな話を聞いたような気がすると思いつつヨギはミルクを飲み干した。

 彼の中での常識――多分に一般常識と同じだと思うのだが――では、使い魔というのは己が契約した主の命令だけを受け入れる存在だと思っていたのだが、そんなモノは関係ないらしい。

 尤も、この家では多々ある常識が覆されまくっているので、今更だったりする上に、その覆されている常識の中の一角を担っていると自覚が皆無のヨギであった。

「止まったねぇ」

 食後のお茶をしながら雑談している間に、拗ねた突撃(?)は終了したらしかった。

 もしくは、侵入を許した可能性があるという事なのだが。

「このまま今日は来ないといいのですが。夜中にこんなに音を立てられ続けたら迷惑以外の何者でもありませんから」

 心底面倒そうに呟いたカーマに、どうやら前者だったようだと2人は肩をなでおろした。





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