第5話:朝風理沙編〜巫女が執事に恋した日『後編』
放課後、ハヤテと理沙は屋上に来ていた。
ハヤテ
「それで、話というのは何ですか?」
理沙
「ああ、実は・・・」
理沙はハヤテに今朝の事を話した。
祖父と祖母が福引きで旅行券を当て、祖父と祖母と父と母と兄の5人で行く事になった事、その出発日が今日だと言われた事、そして既に空港から旅立ち、理沙は数日間1人で留守番しなければならなくなった事。
ハヤテ
「そうなんですか。」
理沙
「そ、それでだな・・・私1人だと心細いから、その・・・」
ハヤテ
「ボクに来てくれと言う事ですか?」
理沙
「な!?」
いきなり核心をつかれ、理沙は驚いた。
理沙
「う、うん・・・まぁ、そんなトコだ・・・」
ハヤテ
「わかりました。マリアさんには後で連絡しておきますので、一緒に留守番しますよ。」
理沙
「!」
理沙はハヤテのある言葉に反応した。
理沙
「(ハヤ太君が・・・私と・・・一緒に・・・留守番・・・)」
理沙は一気に顔が赤くなると、気絶してしまった。
バタッ・・・
ハヤテ
「ちょ、ちょっと朝風さん!?」
それからしばらく、理沙の記憶が飛んだ。
理沙
「ん・・・」
次に理沙が目を覚ました時、既に彼女は朝風家の自室のベッドに寝ていた。
理沙
「あれ?確か私、屋上でハヤ太君と話して・・・突然倒れて・・・」
ハヤテ
「あ、やっと起きましたか朝風さん。」
理沙
「あ、ハヤ太君・・・君が私を部屋に?」
ハヤテ
「ええ。朝風さん、その・・・以外と軽かった・・・ので・・・背中に乗せて、朝風神社まで飛んで来ました。」
ハヤテのその言葉に、理沙はその時の自分の姿を想像して、一気に顔が赤くなった。
シュウウウ・・・
ボン!!
理沙
「私、もう・・・お嫁に行けない・・・」
ハヤテ
「ハハ・・・そんな大袈裟な・・・」
理沙
「でも、もし私がお嫁に行けなくなってもハヤ太君が責任取ってくれるんだよな?」
ハヤテ
「え?」
理沙
「とってくれるよな?」
理沙はハヤテを上目づかいで見つめる。
ハヤテ
「ハハ・・・考えておきます。」
理沙
「考えておくとは何だー!!」
理沙は叫んだ。
ハヤテ
「それはそうと、朝風さん。」
理沙
「何だハヤ太君?」
理沙が聞くと、突然ハヤテは理沙のおでこに顔を当てた。
理沙
「わっ!ちょっ、ハヤ太君!?」
理沙は狼狽える。
ハヤテ
「やっぱり、熱がありますねー。」
理沙
「え?」
ハヤテ
「屋上で倒れたのも、それが原因でしょう。こうなった以上、ボクが看病します。」
ハヤテはそう言った。
理沙
「(ハヤ太君が、私を看病・・・?)」
その言葉を聞いた瞬間、また理沙は顔が赤くなった。
理沙
「・・・」
ハヤテ
「では、ボクはおかゆを作って来ますので、朝風さんはベッドに寝ててくださいね。」
ハヤテは理沙に布団をかぶせると、そう言った。
理沙
「あ、はい・・・」
顔が赤くなった理沙を残し、ハヤテはおかゆを作りに行った。
ハヤテ
「お味の方はどうですか?朝風さん。」
理沙
「・・・おいしい。」
理沙は今、ベッドの上にいて、ハヤテにおかゆを食べさせてもらっているという状況だ。
理沙は赤面しっぱなしである。
理沙
「(ダ、ダメだ・・・スゴく顔が赤くなってる・・・私、やっぱりハヤ太君に恋をしているのか・・・)」
理沙はそう思いながら、おかゆを完食した。
ハヤテ
「さて、さっきも熱を測りましたけど・・・念のため、もう1度熱を測りましょう。朝風さん、体温計を入れてください。」
理沙
「あ、ああ・・・」
理沙は体温計を脇にはさみ、服を降ろす。
しばらすると、体温計が鳴った。
ピピピ・・・
理沙は体温計を取り出すと、ハヤテに渡す。
ハヤテ
「37・8度ですか。微妙ですね。夕食の材料もボクが買って来るので、もう少し寝ててくださいね。」
ハヤテはそう言うと、理沙の部屋から出て行った。
理沙はしばらくすると、スヤスヤと眠り始めた。
しばらくすると、人気のない朝風神社に1人の男がやって来た。
この時期には珍しい、賽銭泥棒である。
男は賽銭箱に近づくと、慣れた手つきで賽銭箱をこじ開け、中の賽銭を取り出しカバンに詰め始めた。
「ヘヘヘ、結構入ってるじゃねぇか。お参りに来る客が見当たらねぇから、大して入ってないとも思ったが。」
賽銭をカバンに詰め終わった男は、ふと奥にある朝風家を見た。
「いつもなら賽銭を盗むだけで終わってるが、今日は少し欲張ってみるか・・・」
そう・・・
この男、最近練馬区で多発している賽銭泥棒の犯人なのである。
男は不敵な笑みを浮かべると、朝風家の方へと歩いて行った。
ピンポーン、ピンポーン・・・
朝風家の呼び鈴が鳴る。
2〜3回ほど鳴ったので、寝ていた理沙も目を覚ました。
理沙
「ん・・・ん?ハヤ太君、帰って来たのかな?」
理沙は起き上がると、玄関へと歩いて行った。
そして、カギを開けようとしたその時だった。
ガチャガチャという音が聞こえたのは。
ガチャガチャ!
理沙
「え!?」
理沙は後退りした。
理沙
「(ち、ちがう!ハヤ太君には私が合いカギを持たせていたから、わざわざ呼び鈴を鳴らす事なんてしないハズだ!!だったら、一体誰が・・・)」
理沙はドアスコープをのぞき込んだ。
そこには、見るからに怪しい男の姿があった。
理沙
「!!(ご、強盗!!警察に知らせなければ・・・)」
理沙はそう思って受話器を取ったが、あわてていたので落としてしまった。
カシャ!
理沙
「あ!」
それと同時に、カギが動き始めた。
男がこじ開けようとしているのだ。
理沙
「・・・」
男はカギをこじ開けると、家の中へと入って来た。
そこで、落ちたままの受話器を見る。
「ククク・・・家の住人がいたか・・・」
男は不敵に笑いながら、奥へと進んで行った。
男はしばらく歩くと、人の気配がする場所に来た。
そこは、理沙の部屋だった。
「・・・この家の娘の部屋か。」
男は中へと入る。
「誰もいないのか?」
男はキョロキョロと辺りを見回すと、クローゼットから何かが出ている事に気づいた。
「そこか・・・」
男はクローゼットを開けた。
「!何だ、服のソデが出ていただけか。」
男はチッと舌打ちすると、部屋を出て行った。
その部屋のベッドの下に、理沙が隠れていた。
理沙は少し震えている。
理沙
「(どうしよ・・・もし見つかったら・・・)」
理沙は震える手で、携帯電話を開いた。
一方その頃ハヤテは、デパートで材料を買い込んでいた。
ハヤテ
「フゥ・・・これだけ買えば、何でも作れるだろう・・・」
最近ハヤテはマリアから給料に近いお金をもらっていたので、買い物をする事はできた。
そして、買った食材をバッグに詰めている時だった。
ハヤテの携帯が鳴ったのは。
プルル・・・プルル・・・
ハヤテ
「朝風さんからだ。もしもし、朝風さん?どうしたんです?」
電話から聞こえてきたのは、理沙の震えた声だった。
理沙
「ハ、ハヤ太君助けて・・・今、家に強盗が入って来たんだ・・・」
ハヤテ
「えぇ!!それで、朝風さんは今どこに?」
理沙
「クローゼットの中に隠れてる・・・」
ハヤテ
「わかりました、すぐに戻りますから待っててください!」
理沙
「うん・・・」
ハヤテは電話を切ると、自転車に乗って走り出した。
その頃、理沙はというと・・・
クローゼットの中で震えていた。
理沙
「(ハヤ太君・・・早く来て・・・怖いよぉ・・・)」
その時、クローゼットが開けられた。
ガチャ!
理沙
「あ!」
「ククク・・・やっと見つけたぜ。かくれんぼも終わりだ。」
理沙
「・・・」
理沙はガタガタと震えていた。
ハヤテ
「もっと速く!もっと速くだ!!」
ハヤテは猛スピードで自転車をこいでいた。
男はリビングルームで札束を数えている。
そのリビングルームの壁に、理沙がもたれさせられていた。
理沙
「ん〜、ん〜!!」
理沙は手足を縄でグルグル巻きにされている。
さらに口にはガムテープを貼られ、『ん〜ん〜』としか声が出せない。
理沙
「ん〜、ん〜・・・」
理沙はジタバタともがいている。
男は札束を数え終わると、バッグの中へと入れた。
「さてと、金は手に入ったし、後はトンズラするだけだが・・・このお嬢ちゃんをどうするかな?」
男はそう言うと、理沙の方を見た。
理沙
「!!」
理沙はビクッとした。
「顔見られちまったし、生かしとくワケにもいかねぇよな・・・」
男はクククと笑う。
理沙
「んっ、んんっ・・・」
「仕方ねぇ。結構上玉でカワイイお嬢ちゃんだが、始末するしかねぇか・・・」
男はナイフを取り出した。
理沙
「!!」
そして、ゆっくりと理沙に近づいて行く。
理沙は必死にもがいている。
理沙
「んっ、んんっ・・・(そ、そんな!コイツ私を殺す気!?イヤ・・・イヤだよ・・・やっとハヤ太君への気持ちに気づけたのに・・・ハヤ太君を好きになったってわかったのに・・・こんな形で終わりたくない!!助けて、ハヤ太君・・・)」
理沙は涙が出そうになった。
男がナイフを振り上げる。
次の瞬間、理沙は精一杯叫んだ。
理沙
「んん〜っ!!!(ハヤ太君〜っ!!!)」
その時だった。
玄関から声が聞こえてきたのは。
「朝風さ〜ん!無事ですか〜!?」
理沙
「(ハヤ太君だ・・・)」
理沙は玄関の方を見た。
「何だ?来客か?まぁいい・・・その来客も始末してやる・・・」
男は玄関の方へと歩いて行く。
そして、しばしの沈黙の後・・・
男がリビングへと吹っ飛ばされて来た。
ドザァ!!
理沙
「ん〜っ!?」
理沙はビクッとした。
そして・・・
ハヤテ
「朝風さん!!」
ハヤテがリビングへと入って来た。
理沙
「んんんん〜!!」
ハヤテは男が用意していた縄で男を縛ると、理沙の元へと駆け寄った。
ハヤテ
「朝風さん、大丈夫ですか?」
理沙
「ん、んん・・・」
理沙はうなずいた。
ハヤテは理沙の口に貼られたガムテープをはがした。
ピリリ・・・
理沙
「イタタ・・・ハヤ太君・・・」
ハヤテ
「今、ほどいてあげますから・・・」
そう言ってハヤテは理沙の背後に回ると、理沙を解放した。
その後、ハヤテの通報を受けた警察が到着し、男は連行されて行った。
理沙は事情聴取を受ける事となり、ハヤテはそれにつき添う事にした。
事情聴取も終わり、ハヤテと理沙は公園で休んでいた。
ハヤテ
「はい、コーヒーです。」
ハヤテは自販機で買って来たコーヒーを差し出す。
理沙
「あ、ありがとう・・・」
理沙は赤面しながら受け取った。
理沙
「ハヤ太君、ありがとう・・・君がいなかったら、きっと私はあの男に殺されていたと思う。」
ハヤテ
「ええ、危機一髪でしたね。」
理沙
「あ、あの・・・ハヤ太君・・・」
ハヤテ
「はい、何ですか?」
ハヤテは笑顔で聞き返した。
理沙
「私ね、最初は君の事、恰好のイジリ相手だとしか思ってなかったんだ・・・でも、昨日ハヤ太君に勉強を手伝ってもらったり、一緒に映画を観たりしてて気づいたの・・・私は、君の事が好きになってたんだって・・・」
ハヤテ
「・・・」
理沙
「でも私はヒナみたいに才色兼備なワケじゃないし、マリアさんみたいに美しいワケでもない・・・私みたいな女がハヤ太君とお似合いじゃない事も、わかってるんだ・・・でも、なぜだろ・・・あの時強盗に殺されそうになった時、『こんな形で終わりたくない』って思ったの・・・せめて、私の気持ちだけでも伝えたいって・・・そう・・・思ったの・・・だから、今ここで言うよ・・・私、朝風理沙は・・・ハヤ太君・・・イヤ、綾崎ハヤテ君の事が、好きです!!!」
理沙はうつむいた。
フられる事を覚悟の上で。
しかし、ハヤテの答えはちがった。
ハヤテ
「顔を上げてください、朝風さん。」
理沙は顔を上げた。
ハヤテ
「実はボクも、朝風さんの事最初は女の子として見ていませんでした。でも、2人で過ごしてみて初めてあなたの良さに気づけたんです。そして、気がつけば好きになっていました・・・」
理沙
「え?それって・・・」
ハヤテ
「はい。ボクも朝風さん・・・イヤ、理沙さんの事が好きです。こんなボクで良ければ・・・おつき合いしていただけますか?」
理沙はその言葉に、瞳を潤ませる。
理沙はハヤテに抱きついた。
理沙
「はい、喜んで・・・よろしくお願いします、ハヤテ君・・・」
ハヤテ
「こちらこそよろしくお願いします、理沙さん・・・」
ハヤテと理沙は抱き合い、キスを交わした。
2人のお留守番騒動から2年後、ハヤテと理沙は結婚する事となった。
式場である教会にはナギやヒナギク達も駆けつけた。
ハヤテはタキシード、理沙はピンクのウェディングドレスだ。
ナギは最初驚いていたが、あの日の事が誤解だとわかってからは2人の交際を喜んでいた。
式は順調に進んでいき、ついに誓いの儀式となった。
ハヤテ
「理沙さん。」
理沙
「ハヤテ君。」
ハヤテと理沙はゆっくりと唇を重ねる。
その瞬間、全員から祝福の言葉が投げかけられた。
末永くお幸せに、と。
これからも様々な事が、2人を待ち受けているだろう。
しかし、この2人ならば乗り越えていける。
お互いを大切に想い合う限り・・・
綾崎ハヤテと朝風理沙・・・
2人の物語は、これからだ・・・
朝風理沙編・完
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