第4話:朝風理沙編〜巫女が執事に恋した日『中編』
理沙は自室でハヤテと勉強をしていた。
問題の答えを教えてもらうたびに、理沙はドキドキしていた。
理沙
「(ハヤ太君と2人きりで勉強だなんて・・・嬉しい反面、モノスゴく恥ずかしいよ・・・あぁ、やっぱり私はハヤ太君に恋をしているのだろうか・・・?)」
理沙が考え込んでいると、部屋のドアが開いて母が入って来た。
「理沙ー、そろそろ晩ごはんよー。」
理沙
「わかった。」
「綾崎君も食べていく?お鍋なんだけど。」
ハヤテ
「あ、はい。まだもう少しかかりそうなんで、お言葉に甘えます。」
ハヤテは食卓で、朝風家の夕食にお邪魔していた。
「しかし、理沙が彼氏を連れて来るとはのぅ・・・」
「てっきり理沙は男に興味がないとばかり思っていたよ。」
理沙
「だからちがうんだってば!ハヤ太君も何か言ってくれ!」
ハヤテ
「・・・」
理沙
「だから何で黙るんだぁ!!」
「照れる事はないぞい、理沙。こんな好青年ならワシらも大歓迎じゃて!」
「ハヤテ君、不束者だが妹の事をよろしく頼むよ。」
ハヤテ
「ハ、ハァ・・・」
理沙
「勝手に話を進めるな!ハヤ太君も何返事してるんだぁ!!」
そんなこんなありながら、時間はあっという間に過ぎた。
その後の勉強も順調に進み、両者の宿題も片づこうとしていた。
しかし、理沙には宿題よりも難解で片づかない問題があった。
ハヤテの事についてである。
ハヤテと接していく内に、内心理沙はドキドキしっぱなしになっていた。
いつもの理沙なら、『自分がハヤテに恋心を抱くなどありえない』とでも考えて片づければ済んだであろう。
しかし、今は状況がちがう。
ハヤテに宿題の手伝いを頼み、ハヤテの手をにぎって赤面し、挙げ句の果てには家族に彼氏と間違えられる始末・・・
しかも、さっきまでフロに一緒に入っていたものだから(もちろん家族の差し金。その後理沙はのぼせてハヤテに介抱された)、余計に今の状況は堪えるものなのだ。
理沙
「(どうなっているんだ・・・時間が経つほどハヤ太君を意識してしまってきている・・・何なんだ、これは・・・こんなの、いつもの私ではない!)」
理沙は考え込み始めた。
理沙
「(やっぱり私は、ハヤ太君の事を・・・?ちがうちがう、ありえん!!私がハヤ太君に恋心を抱くなどありえないんだ!!私はこんなキャラではなかった!こんなキャラではなかったハズなんだ!!なのに・・・それなのに・・・)」
ハヤテ
「・・・風さん。」
理沙
「(そういえば私、今日はずっとハヤ太君に助けてもらっていたなぁ・・・ハヤ太君、華奢でカワイイのに、いざとなるととても頼もしくて・・・ヒナや泉が惚れるのもうなずけるよ・・・)」
ハヤテ
「朝風さん?」
理沙
「(でも、ハヤ太君には、泉やヒナみたいなカワイイ娘の方が似合っている・・・私みたいなカワイくもない娘が、ハヤ太君を好きになるなんて、甘すぎるんだ・・・)」
ハヤテ
「朝風さん!!」
理沙
「ほ、ほぇ!?」
理沙はビクッとなった。
ハヤテ
「どうしたんですか?」
理沙
「な、何でもないんだ!何でも・・・」
ハヤテ
「朝風さん。少し頼みがあるんです。今からボクと・・・」
理沙
「(え?え?)」
ハヤテ
「ビデオ屋にでも行きませんか?」
理沙
「ビ、ビデオ屋・・・?」
ハヤテ
「はい。代金はボクが払うので、何か面白い映画でも観ましょうよ。」
理沙
「そ、そうだな・・・行こうか・・・」
ハヤテと理沙は、ビデオ屋に向かっている。
ちなみに、何に乗っているかというと・・・
自転車であった。
無論、ハヤテは自転車を持って来ていなかったので、理沙の兄のを借りている。
理沙
「な、なぁ、ハヤ太君・・・」
ハヤテの後ろの理沙がハヤテに話しかけた。
ハヤテ
「何です?」
理沙
「後何分くらいで着くんだ?」
ハヤテ
「う〜ん、この速度だと・・・30分ぐらいで着きますかね〜?」
理沙
「そ、そうか・・・(・・・これは突っ込んだら負けなのだろうか・・・)」
理沙が突っ込みたくなるのも無理はない。
なぜなら、ハヤテは今・・・
通常では考えられないほどの速度を自転車で出していたからだ・・・
ハヤテと理沙は、1件のビデオ屋へとやって来た。
『ビデオレンタルVタチバナ』
理沙
「って、ここは・・・我が動画研究部部長の店ではないか?」
ハヤテ
「ええ。ボクはいつもここでビデオを借りているんですよ。さ、行きましょう。」
理沙
「え・・・あ、うん・・・」
ガーッ!
橘亘
「いらっしゃいませ〜!って、ハヤテか。」
ハヤテ
「こんにちは、ワタル君。またビデオ借りに来ました。」
ワタル
「そうか。って、そっちにいるのは生徒会の朝風さんじゃねぇか?」
理沙
「(ギクッ!!)」
ワタル
「何か珍しい組み合わせだよな、ハヤテと朝風さんってのは・・・何かあったのか?」
ハヤテ
「はい。これこれこういう事情で・・・」
ワタル
「あぁ、なるほどな。事情はわかったよ。で、ハヤテは何が借りたいんだ?」
ハヤテ
「えっと、『アレ』を借りたいんで、そこまで案内してくれませんか?」
ワタル
「おいおい、ハヤテ本当にアレ借りる気か?まぁ、ハヤテが観たいんなら文句は言わねぇが・・・」
ハヤテ
「お願いします。少し遠い場所なので、朝風さんはサキさんと話でもしててください。」
理沙
「あ、ああ・・・」
ハヤテはワタルと一緒に奥へと歩いて行った。
サキ
「それにしても、ハヤテさんはすっかり若に懐かれてますね〜。」
理沙
「そうなんですか?」
サキ
「ええ、前に若が困っているところをハヤテさんが助けてくれたそうで。それ以来、若は『ハヤテみたいな男になる』って言ってるんですよ。若にとって、ハヤテさんはお兄さんのような存在なんでしょうね〜。」
理沙
「ヘェ・・・(お兄さん、か・・・私にも兄はいるが、いまいちって感じなんだよなぁ・・・もし、ハヤ太君が兄だったら・・・って、何考えてるんだ、私は!?)」
理沙は妄想で顔が赤くなっていた。
ハヤテ
「朝風さ〜ん、お待たせしました〜。」
理沙
「何だ、早かったな・・・で、何借りたんだ?」
ハヤテ
「某有名ホラー映画です。」
理沙
「えええ〜!!」
ハヤテ
「早く帰って観ましょうよ。」
理沙
「だ、誰か助けてくれぇ・・・」
理沙はハヤテに引っ張られて店を出て行った。
ワタル
「まいどあり〜。また来てくれよなハヤテ〜。」
ハヤテは遠くで手を振っていた。
サキ
「若、あの映画観て理沙さん大丈夫なんでしょうか?」
ワタル
「ちと不安だが、ハヤテが一緒なら大丈夫だろ。ハヤテ曰く『伊澄さんと一緒に退治してる妖怪の方が怖いですから』って言ってたし。」
サキ
「そ、そう思うのって・・・ハヤテさんだけなのでは・・・」
ワタル
「ま、そうとも言うだろうな。」
ハヤテは理沙の部屋に着くと、早速ディスクをプレイステーション2に入れていた。
理沙
「な、なぁハヤ太君・・・本当に観るのか・・・?」
ハヤテ
「大丈夫ですよ。所詮映像物ですし。」
理沙
「だから、私はそれが怖いんだってばぁ!!」
理沙は必死に抗議するが、それもむなしくハヤテはビデオのスイッチを入れた。
映画が始まった。
内容は、古い洋館に迷い込み脱出できなくなった少年少女達が、怪物と戦いながら脱出口を探すという、聞いた事があるようなないような話だった。
ハヤテは平然として観ているが、理沙はそうではなかった。
怪物が出てくるたびに、理沙はブルブルと震えていた。
理沙
「・・・(こ、怖い・・・怖くてたまらない・・・悲鳴を上げたい・・・でも、ハヤ太君が隣にいるし、悲鳴を上げるワケには・・・)」
その時、ハヤテが理沙の右手をにぎった。
理沙
「え?」
ハヤテ
「怖いなら悲鳴を上げても良いですよ、朝風さん。大丈夫です、ボクはこの事をバラしたりしませんから。」
ハヤテは微笑んだ。
理沙はそれに見惚れた。
理沙
「(ハヤ太君の手、とても暖かい・・・こんなにも暖かいのか・・・あ〜、もういいや・・・怖がってても仕方がない・・・上げちゃおう。)」
次の瞬間、理沙は思いっきり悲鳴を上げた・・・
理沙
「キャアアアアアアアアアア!!!」
2人が映画を観終わるまで、理沙は悲鳴を上げまくっていた。
さらに、それだけではなく・・・
ハヤテ
「あの、朝風さん・・・」
理沙
「何だ?」
ハヤテ
「そろそろ離れてくれないと、その・・・む、胸が・・・」
理沙
「え!?あ・・・!!」
そう、理沙自身は悲鳴を上げているだけだと思っていたらしく、自分がハヤテに抱きついている事には気づかなかったのだ。
理沙
「あわわわ!!ゴ、ゴメン!!」
理沙はあわててハヤテから離れた。
ハヤテ
「いえ、気になさらずに・・・」
お互いに顔が真っ赤になる2人。
しばらく沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、ハヤテだった。
ハヤテ
「・・・朝風さん。」
理沙
「は、はい!!何でしょう!?」
ハヤテ
「これ、ボクの携帯電話の番号とメルアドです。」
ハヤテはメモ用紙を差し出した。
理沙
「あ、ありがと・・・」
理沙は少し赤面しながら、ハヤテの番号とアドレスを自分の携帯に入力した。
ハヤテ
「では、ボクはお嬢様が心配なので帰りますが・・・何かあったら、電話なりメールなりしてくださいね。」
理沙
「あ、ちょっ・・・」
理沙が言い終わる前に、もうハヤテは消えていた。
理沙
「は、速っ・・・とりあえず、今日はもう寝よ・・・」
理沙はベッドへと突っ伏す。
しかし数分後、眠れなくなった理沙は美希の携帯に電話をかけた。
美希
「何よ理沙、こんな時間に・・・」
理沙
「悪いな、美希。こんな時間に電話して・・・実は、ある人の事について相談があるんだ・・・」
理沙はあえて、ハヤテの名前は伏せていた。
ハヤテの名を出したら、美希に冷やかされるのは目に見えているからだ。
美希
「そう。そんな事があったの・・・」
理沙
「ああ。」
美希
「理沙、単刀直入に言うわ。あなた、その子に恋をしているのよ。間違いないわ。」
美希も、理沙の祖父と同じ事を言ったのだった。
理沙
「やっぱりそうか。なら私はどうすればいいんだ?彼にはライバルもたくさんいる・・・」
美希
「簡単な事よ、理沙。あなたもがんばれば良いのよ。」
美希は言った。
理沙
「わかった・・・私、がんばってみる!」
美希
「それでこそ理沙だ。」
理沙
「ありがとう美希!お休み!」
美希
「お休み。」
理沙は電話を切ると、ベッドで寝息を立て始めた。
美希
「理沙・・・がんばれよ・・・」
こうして、理沙はハヤテに想いを伝えようと決心した。
しかしこの時、理沙に魔の手が迫ろうとしている事に、彼女は気づいていなかった・・・
その日、理沙はいつものように、白皇学院に登校していた。
そして、白皇にちょうど着いたその時だった。
理沙の携帯が鳴ったのは。
プルル・・・プルル・・・
理沙
「('電話?母から?)もしもし、母さんか?」
「あ、理沙?いきなりだけど、数日間くらい1人でお留守番ってできる?」
理沙
「ハ?」
この人はいきなり何を言ってるのだろう、と理沙は思った。
理沙
「できると思うが。」
生活能力だけに関して言えば、母よりは優れている・・・
と理沙は少なくともそう思っている、一応は。
「あ、じゃあ平気ね。」
理沙
「なぜそんな質問を?」
「おじいちゃんとおばあちゃんが、商店街の福引きで旅行券5つ当てたから私達5人で一緒に行こうって話になって・・・理沙、旅行とかあまり好きじゃないわよね?」
理沙
「そうだな。っていうかそもそも学校があるので、そんなすぐに旅行とかはムリだと思うぞ。(つまり、家族全員が旅行に行くから、その間留守番はよろしく、という事か。私自身、そういった旅行はあまり好きじゃないから別にかまわん。留守番の方も・・・まあ、多分何とかなるだろう。)ところで、その旅行とやらはいつからだ?」
「今日から。」
理沙
「・・・」
理沙は無言になった。
理沙
「(イヤイヤ、この母親は何を言っているのだろうか。今日から?私、今学校にいるんだが。つまりアレか?家に帰ったら蛻の殻か?ってか、そう考えてみると電話の向こうから人々のざわめきが聞こえるような気が・・・つーか既に空港にいるのかよ?)」
「じゃあよろしくね。ちゃんとお土産も買って来るから〜♪」
理沙
「え?ちょ・・・!」
電話は切れてしまった。
理沙
「お土産とかどうでもいいから、せめて出発を明日に延ばすとか・・・それにしても・・・母さんは、抜けてる所はあるけれど、ここまでいい加減な人ではなかったような・・・何だか、巨大な思惑を感じずにはいられんな。家のカギは・・・あ、良かった。ちゃんと持ってた。一応私も普段持ち歩いているとはいえ、今日に限って忘れでもしたらどうするつもりだったんだろう母は?まぁ、今さら何を言っても仕方ないから、今の状況をしっかり受け止めるとするか。」
理沙はそう思い、校舎へと入って行った。
理沙
「ハァ〜・・・」
理沙はため息をついていた。
成り行きで1人での留守番を引き受けてしまったとはいえ、やはり女1人での留守番は心細いものなのだろうか。
泉
「美希ちゃん、理沙ちんどうしたんだろうね?」
美希
「さぁね。(本当は知っているけど・・・)」
泉と美希がたわいない会話をしていると、ハヤテが理沙に話しかけていた。
ハヤテ
「どうしたんですか、朝風さん?」
理沙
「え!?」
ハヤテ
「何だかとても元気がないように見えますけど・・・」
理沙
「ああ、実は・・・」
内容を言おうとして、理沙は口をつぐんだ。
今ここには自分とハヤテだけでなく、泉と美希もいる。
できればこの2人には聞かれたくない。
そう思った理沙は、ハヤテに耳打ちした。
放課後、屋上に来てくれと。
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