第3話:朝風理沙編〜巫女が執事に恋した日『前編』
白皇学院のある教室で、男女2人が向き合っていた。
少女は賢明に何かをお願いしている。
「頼む!お願いだ!!私の宿題を手伝ってくれ!このままでは、私は・・・」
「わかりましたよ・・・で、どこでやりますか?」
「そ、そうだな・・・じゃあ、図書館でやるか?」
「そうですね、朝風さん。では、行きましょうか。」
少年は微笑んだ。
「う、うん、そうだなハヤ太君・・・(ハァ・・・どうして、こんな事になったんだ・・・)」
少女は顔を赤らめながら、ため息をついた。
少年の名は綾崎ハヤテ、少女の名は朝風理沙。
どうして、こういう話になったかというと・・・
白皇学院生徒会娘の1人、朝風理沙。
彼女は今、自室でビデオを観ていた。
朝風理沙
「フフフ・・・ハヤ太君のこの姿、何度観ても飽きないなぁ・・・」
理沙が観ているのは、彼女のクラスメート、綾崎ハヤテが女装した姿で白皇学院内を走っている場面が映っているビデオである。
『ある事件』によって理沙達の楽しみの場所動画研究部部室は一時壊滅したが、一部のテープは部員である理沙達がそれぞれ持っていたのだ。
理沙は休みの日になると、そのテープを何度も繰り返し観ているというワケだ。
これは、彼女の一時の楽しみでもある。
理沙
「そういえば、この前ハヤ太君が私のマイクを返しに家に来た事があったっけ。あの時は悪い事したなぁ・・・あの時のハヤ太君、純粋でカワイくって・・・って、あれ?何で私、さっきからハヤ太君の事ばかり考えてるんだろう・・・?」
理沙は少し考える。
理沙
「あ、そうか!ハヤ太君が格好のイジり相手だからだ!」
と、こう安直な答えを出した理沙。
「おーい、理沙!晩ゴハンじゃぞ!」
理沙
「あ、はーい!そうだ、何でハヤ太君の事が気になるのかをおじいちゃん達に相談してみよう・・・まぁどうせ、たわいもない理由なんだろうけどね・・・」
こう思いながら、理沙は食卓へと向かった。
この後、彼女の気持ちに変化が現れるとも知らないで・・・
理沙は食卓で、祖父と両親に相談をしてみた。
「それで、その『ある少年』の事ばかり考えておると・・・そういう事じゃな、理沙?」
理沙
「うん。まぁどうせ、たわいもない理由だとは思うけどね。」
そう言う理沙に、祖父は思いがけない事を言った。
「それはのぅ、理沙。オマエがその少年に惹かれておるからじゃ。」
理沙
「え?」
理沙は目が点になった。
「じゃから、オマエがその少年に恋をしておると言っておるんじゃ。」
理沙
「・・・」
しばしの沈黙。
理沙
「えええええ!!?」
理沙は驚いた。
「何じゃ、その反応は・・・やはりそうなのか?」
理沙
「ち、ちがう!わ、私がハヤ太君に恋をしているなどという事はない!!」
理沙はあわてて反論した。
「ん?ワシ、『ハヤ太君』などとは一言も言っておらんが?」
理沙
「あ・・・!!」
理沙は墓穴を掘ったようだ。
「ところで、そのハヤ太君とは、この前オマエのマイクを返しに来て、ワシが盗人と間違えてしもうたあの少年の事か?」
理沙
「え!?う、うん・・・そうだけど・・・」
「理沙、がんばれよ。」
理沙
「え!?う、うん。」
理沙は少し赤くなりながら料理を食べ終わると、2階の自室へと上がって行った。
それを見ながら、おじいさんはこうつぶやいた。
「若い者はええのぅ・・・」
理沙はおフロを済ませ自室に上がると、ベッドに突っ伏した。
理沙
「私、おじいちゃんの言う通りハヤ太君に対して恋をしているのだろうか・・・?」
理沙は少し顔が赤くなる。
理沙
「ま、そんなワケがないわな。あ〜、考えるのも面倒くさい!もう寝よ・・・」
理沙は布団を頭からかぶると、スースーと寝息を立てた。
机の上に置いてある、『ある物』には手をつけないまま・・・
三千院家の執事綾崎ハヤテは、今日も白皇学院に登校した。
ちなみに彼が世話になっている三千院ナギは、例のごとく引きこもりで休みだ。
ハヤテ
「ハァ・・・今日もお嬢様は学校に来てくれないなぁ・・・」
ハヤテがため息をついていると、後ろから少女達が声をかけてきた。
瀬川泉
「おっはよ、ハヤ太君♪」
花菱美希
「おはよう、ハヤ太君。」
理沙
「フフフ、おはようハヤ太君。」
ハヤテ
「おはようございます、瀬川さん、花菱さん、朝風さん。」
美希
「その様子だと、今日もナギちゃんは引きこもりのようね?」
ハヤテ
「ええ、恥ずかしながら・・・ところで、どうして皆さんはこんな朝早くから登校を?」
理沙
「それはだね、ハヤ太君・・・私達が白皇学院の平和を守るようヒナから言いつかっているからだよ。」
ハヤテ
「そうなんですか?」
泉
「そだよ〜ハヤ太君♪瀬川泉、委員長レッド!!」
美希
「そうよハヤ太君。花菱美希、副委員長ブルー!!」
理沙
「フフフ!朝風理沙、敵か味方か風紀委員ブラック!!」
泉・美希・理沙
「3人合わせて、ザ・生徒会役員!!!」
ドーン!!
ハヤテ
「楽しそうだな〜。」
理沙
「まぁ、ハヤ太君には今空いているコバルトブルーの称号を・・・」
ハヤテ
「いりません。ってかコバルトブルーって某マンガのドリル兄さんじゃないですか。」
美希
「ならばハヤ太君にはシャルトルーズイエローの称号を・・・」
ハヤテ
「それもいりません。それにシャルトルーズイエローはライフルをぶっ放す女の子です。」
泉
「ニハハ〜、さっきの話は冗談なんだよね〜♪」
ハヤテ
「やはり冗談でしたか・・・」
美希
「本当は私達、朝早くから生徒会の仕事をするようにヒナに言われたのよ。」
ハヤテ
「その仕事って?」
理沙
「今度やる、白皇学院の生徒全員参加のマラソン大会の資料整理だ。」
ハヤテ
「うわ〜、また大変そうですね〜。良かったらボクも手伝いましょうか?」
泉
「え〜良いのハヤ太君〜♪」
美希
「ハヤ太君が来ると、仕事も何かと早く終わるから助かるわ。オマエもそう思うだろ理沙?」
理沙
「(ハヤ太君が・・・私達の手伝い・・・)」
美希
「おい、理沙?」
理沙
「ふぇ!?あ、ああ、そうだな。ハヤ太君が手伝ってくれると非常に助かるよ。」
ハヤテ
「でも、皆さんもちゃんとやってくださいよ?」
泉
「了解なのだ〜♪」
美希
「努力する。」
理沙
「・・・以下同文だ。」
ハヤテ
「皆さ〜ん・・・」
こんな風に談笑しながら、ハヤテ達は生徒会室へと向かった。
授業が終わって放課後、ハヤテ達は教室で資料をまとめていた。
泉
「やっぱりハヤ太君がいると仕事もはかどるね〜♪」
美希
「全くだ、いっその事生徒会役員になったらいいのに。」
ハヤテ
「ハハハ、考えておきますよ。」
美希
「そういえば、明後日までに宿題出さなきゃいけなかったのよね?」
理沙
「(・・・え?)」
泉
「そうそう、あの難しい宿題!でも泉はもう終わったよ〜!」
美希
「私は今日の晩にでも終わらせるつもりよ。アレやらないと、今度こそ雪路に怒られるからな。」
理沙
「・・・」
理沙は恐る恐る、自分のカバンを開けた。
そして中のプリントを見ると、そこには白紙のプリントが・・・
理沙
「(ウ、ウソ!?1ページもできていないではないか!!)」
理沙の顔は青ざめた。
理沙
「ハハハ・・・だ、大丈夫だ私!こんな時こそ3人力を合わせて・・・」
そう言って理沙が振り返ると、そこにはハヤテしかいなかった。
理沙
「あ、あれ?泉と美希は・・・?」
ハヤテ
「2人共ヒナギクさんに資料渡しに行っちゃいましたよ?あ、そういえば、ボクもまだ終わってないんですよね〜、宿題・・・」
その時、理沙がハヤテの両手を握った。
ギュッ!!
ハヤテ
「え?」
理沙
「た、頼むハヤ太君!私も宿題ができてないんだ!一緒に見て、手伝ってくれ!!でないと、私今度こそ雪路に怒られる!!」
ハヤテ
「え?え?」
理沙
「お願い・・・ハヤ太君・・・」
理沙の目は潤んでいる。
まるで何かを懇願するかのようだ。
ハヤテ
「わかりました、手伝います。あ、あの・・・そろそろ手を放していただけませんか?」
理沙
「・・・え?」
理沙はふと自分の手を見る。
ハヤテの手を握っている自分の手を・・・
理沙
「あ、あわわわわ!!ゴ、ゴメン!!」
理沙はあわててハヤテから手を放した。
その顔はリンゴのように真っ赤っかだ。
ハヤテ
「いえいえ、気になさらずに・・・で、どこでやります?」
理沙
「そ、そうだな・・・図書館はどうだ?」
ハヤテ
「良いですね。ちょうどボクも持って来てますし・・・そこでやりましょう。では行きましょうか、朝風さん。」
理沙
「あ、ああ、そうだな・・・(ど、どうしよ・・・ハヤ太君と2人っきりで勉強だなんて事になってしまったよぉ・・・)」
理沙は顔を赤らめながら、ハヤテと共に図書室に向かった。
図書館に着いてからも、理沙は一言もしゃべらなかった。
たとえ相手がハヤテといえども、やはり異性と一緒に勉強するのは照れるものなのだろうか。
理沙
「(成り行きでハヤ太君と勉強するハメになってしまったが・・・やはり恥ずかしいものだな・・・)」
ハヤテ
「朝風さん、ここはどうしたら解けるんですかね?」
理沙
「(もしこのまま、あんな事やこんな事が起きたら・・・)」
ハヤテ
「あの〜、朝風さん?」
理沙
「は、はい!何でしょう!!」
ハヤテ
「イヤ、ここはどうやったら解けるのかと・・・」
理沙
「あ、ああ、そこは・・・」
理沙はハヤテに解き方を教えた。
ハヤテ
「なるほど、こうやればいいんですね。ありがとうございます♪」
理沙
「れ、例には及ばん・・・(ダ、ダメだ・・・このままでは間が保たん・・・何か他の話題はないのか・・・あ、そうだ!)ところでハヤ太君、ヒナとはどこまで進んでいるんだ?」
ハヤテ
「朝風さんまでその事聞くんですか?ボク達はそういう関係じゃありませんよ・・・」
ハヤテは即否定した。
ハヤテ
「だいたい、ボクにばかりそういう事を聞きますけど・・・朝風さんにはいないんですか?気になる人とか・・・」
ハヤテは理沙に質問した。
理沙
「え!?」
理沙は狼狽えた。
理沙
「(ウ、ウソ・・・い、いきなりそんな事聞いてくるなんて・・・もしかして、これって脈あり?だったら、今すぐにでも私のこの気持ちを・・・)あ、あのハヤ太君・・・」
その時、理沙は3つの人影を目の当たりにした。
理沙
「(ゲッ!!泉と美希と・・・愛歌さん!?)」
理沙の眼に写ったのは、瀬川泉と花菱美希、そして霞愛歌だった。
理沙はマズいと思った。
泉はともかく、花菱美希と霞愛歌という『激Sコンビ』にこの状況を見られでもしたら、何を言われるかわかったものではない。
理沙
「(イ、イカン・・・早くこの場を離れなければ・・・早くハヤ太君に・・・)」
理沙が何かを言おうとする前に、ハヤテが声をかけた。
ハヤテ
「朝風さん、ここはあまり集中できそうにありません。場所を変えましょう。」
理沙
「そ、そうだな・・・(た、助かった〜・・・)」
幸い泉達に見つかる事もなく、2人はその場を後にした。
ハヤテ
「さて、どこでやりましょうかね・・・」
理沙
「・・・」
理沙は無言のままだ。
ハヤテ
「あ、そうだ。お屋敷でやらせてもらえばいいじゃないですか!それでいいですか朝風さん?」
理沙
「ほぇ!?い、いいんじゃないか?」
ハヤテ
「じゃあ早速マリアさんにこの事を・・・」
ハヤテはマリアに電話をかけた。
ハヤテ
「もしもし、マリアさん?実はですね、ちょっと頼みたい事が・・・え?お嬢様がカゼを?はい、それで・・・わかりました。」
ハヤテは電話を切った。
ハヤテ
「朝風さん・・・どうやらお屋敷ではできそうにありません。どうしましょ?」
理沙
「そうなのか?だったら・・・私の家に来るか?」
ハヤテ
「え?」
しばらく沈黙が続く。
その沈黙を破ったのは、ハヤテだった。
ハヤテ
「朝風さんの家に?」
理沙
「あ、イヤ、別に深い意味はないんだが・・・」
理沙は狼狽えた。
ハヤテ
「いいですよ。では今から参りましょうか。」
理沙
「そ、そうだな・・・(ど、どうしよ・・・ますます泥沼だぁ〜っ!!)」
理沙は再び顔が赤リンゴ状態になっていた。
ハヤテと理沙は、朝風神社にたどり着いた。
途中、白皇のマラソン大会に関する話題で談笑していたので、理沙はいつもよりも早く着いた気がしていた。
理沙
「(ひ、非常に困った事になったぞ・・・もしおじいちゃんに見つかりでもしたら、何を言われるかわかったものではない!!見つからない内に、ハヤ太君を自室に案内しなければ・・・)」
しかし、運の悪い事にその人物の声が・・・
「おぉ、理沙!」
理沙
「ゲッ、おじいちゃん・・・」
「帰っておったのか!ん?」
そう言ったおじいさんの目が、ハヤテの方に向けられた。
ハヤテ
「こ、こんにちは・・・」
ハヤテは前の事もあってか、ビクついていた。
すると・・・
「!!何と!!!理沙が彼氏を連れて帰りおったぁ!!!」
おじいさんが叫んだ。
理沙
「イヤイヤちがうってば!なぁ、ハヤ太君!!」
理沙はハヤテの方を向く。
ハヤテ
「・・・」
ハヤテ、無言。
理沙
「何でそこで黙るんだぁ!!」
「おーい、皆の者来い!!今宵は宴じゃ!赤飯じゃあ〜!!」
理沙
「何でそうなるんだ・・・・」
理沙はうなだれた。
ハヤテ
「まぁ、朝風さん。落ち着きましょうよ。」
理沙
「ハヤ太君が否定してくれないからじゃないか!」
ハヤテ
「すみません、まさかおじいさんがここまでボケ・・・もとい勘違いが激しいなんて・・・」
理沙
「(あぁ〜、もうダメだぁ・・・)」
理沙はガックリとなった。
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