第五話
「子供の前ですることじゃないぞ、リューラン」
目の前で鋭利な刃が音も無く止まった。
リューランの腕をさっきのやたら顔がいい青年が掴んで止めたのだ。
とりあえず今は助かったらしいのだが、子供がいなかったらやられていたのか?
「離せ!!」
「子供の前で」
「分かったから、離せ!!」
リューランは握られた腕を振り切ると大剣を背中の鞘におさめた。
すると緊張が解かれたのか女の子が泣き出して恭一に抱きついてくる。
「あぁらら、小さい子泣かせて、最低ねリューラン」
槍を持った女性トリナがリューランの肩に腕を乗せ、反対の腕で呆れたポーズをとりそんなことを言った。
近くでまじまじと見ると、口元から他の二人よりも2,3倍は長い牙が覗いている。
牙族の女性なのだろうか。
不躾に見過ぎたのだろうか、トリナが恭一に視線を向けた。
慌てて視線を逸らすと、首に指が這わされた。
驚いて身を固くするとクスクスと牙を覗かせて笑われてしまった。
「そんなに警戒しなくたっていいじゃない、別に捕って食べたりしないわよ」
そんな危ない牙を覗かせながら言われたところで説得力が皆無だ。
ジロッと睨むとため息をついて「しょうがない坊やね」なんて言う。
そんなにお子様に見えるのだろうか、高校ではこれでも後ろから数えたほうが早いくらいの身長なのだが……というか、割と昔から年齢よりも上に見られることが多かった。
それから羽族と思われる少女を交えて4人は話し合いを始めてしまった。
村人たちは俺をこの4人に任せたのか、各々村の復旧作業を始めている。
そんな中、メイが駆け寄ってきた。
「大丈夫かい?」
「あぁはい、なんとか」
気の抜けた返事だと思う。
「コレットは?」
「だいじょうぶ!!」
そうか、この子の名前はコレットというのか、覚えておこう。
「ごめんね、あんたその姿だからさ、簡単には受け入れられないんだよ」
「見れば分かりますよ」
村人の腫れものでも見るような視線はさっきからずっと感じている。
なんだか疲れてきた。
この世界の人間じゃないと言って、どのくらいの者が信じるだろうか……。
「擁護してあげたいのは山々なんだけど、出来ないんだよ、あたしにあの4人の決定に異を唱えるだけの力は無い」
「そうでしょうね」
さっきのあの4人に対する村人たちの反応を見れば予想はつく、それにコレット見たいな幼い子供までもが「さま」をつけて呼んでいた。
「だからさ、今逃げちまいなよ」
「……何を言ってるのか分かってますか?」
「分かってるよ、あたしでも人質として時間を稼ぐくらいは出来るだろ?」
笑顔で言うメイに目眩がした、しかもなかなか治まらない。
その後自分がどうなるか分かっているのだろうか、それに人質を優先するという保証がどこにあるというのだ。
「あなた危険すぎる」
「いまは自分の身を心配しなさい」
そんなことを言われたところで、この世界では右も左も分からないのにどうしろと言うのだ。
頭痛がする、心なしか吐き気までもよおしてきたみたいだ。
そして……
世界が暗転した。
「起きろよ恭一、当てられてるぞ!!」
気持よく眠っていたのに頭部を叩かれて強制的に現実に引き戻された。
顔をあげると太一と、微笑みを浮かべた社会科教師が目に入る。
何でまた俺が……。
仕方なく支持されたところを読み、終わると再び寝る態勢に入った。
「お前はいつも寝過ぎなんだよ、家で寝てんのか?」
昼休み、いつも通り屋上で太一と美夜と昼食を食べていた。
「寝てんに決まってんだろ、毎日9時間は寝てる!!」
「バカいちは昔からよく寝るよねぇ、だからそんなにニョキニョキ伸びるんだよ。それでいて成績は中の上なんだから羨ましい限りだわ」
「太一なんていつもトップじゃねぇか、俺は逆にお前のバカを疑うね」
「うるさい。いつまでたってもあたしに喧嘩で勝てない癖に!!」
「お前の存在がチートなんだよ、剛腕女」
「んだとコラッ!!」
言ってる傍から鉄拳が飛んできた。
軽く避けるが、反対の手で制服の胸元を掴まれると殴った勢いそのままに引き倒されてしまった。
背中を屋上に強打する。
「いってぇぇぇぇ!!!!」
「ざまぁみな」
「………今日も空は青いなぁ」
今日も今日とて美夜には勝てず、太一は見て見ぬ振りを決め込んでいる。
いつもの光景だ。
その後も何度か美夜に襲いかかっては返り討ちにされ、時間が来てしまった。
また退屈な授業の開始だ。
放課後
とくに部活に入っているわけでもない俺たちは、各々特に予定が入っているわけでもないので教室内でダラダラしていた。
「お前らさぁ、仮にも付き合ってるんだからさ、放課後デートとかそういう青春を謳歌しようって気にはならないのか?」
「いや別に今更……」
「毎日会ってるし……」
実に気の抜けた返事である。
しょうがないと言えばしょうがないのだが。
家が近所だった3人は幼稚園に入る前からの付き合いだ。
それからずっと小・中・高と同じ学校で、クラスこそ分かれたりもしたが再びこうして同じクラスになっている。
正直顔を見飽きたといっても過言ではない。
じゃあ何でこいつらは付き合っているのか………永遠の謎だ。
くだらない、早く帰ろう。
呆れて自分の鞄を手に取ると、「じゃあ俺らも帰るか」と太一と美夜もこそこそと帰宅の準備を始めた。
お前ら………。
上履きを履き替え校庭に出ると、ちょうど会長と副会長を取り囲む一団が目に入った。
顔が良い二人はまるでアイドルだ、全くもって傍迷惑極まりない。
「相変わらずかっこいい……」
うっとりとした声をあげているのは美夜。
何を隠そうイケメン会長のファンクラブに入っているらしい。
太一、同情するよ。
「あぁもういいからさっさと帰ろうぜ」
嫉妬心か、軽くイライラした声をあげて太一が美夜の腕を引っ張った。
「いいじゃんちょっとくらい。それに副会長だって目の保養になるでしょ!!」
「いやまぁそれはそうだけど……」
太一、前言撤回だ。フォロー出来ない……。
しかし美夜も美夜だ、自分の彼氏に他の女を目の保養にするようするよう勧めるとは。
こいつら本当に付き合ってるのか疑いたくなってくる。
グダグダしながら校門までの道をあるいていると、会長と副会長が近づいてきた。
「もしかして君たちは校内で有名な3人組みじゃないか?」
「「「はっ?」」」
きれいにはもってしまった。
なんだ校内で有名な3人って……。
いつの間にそんな噂が流れていたんだ。ていうか、こいつらと一纏めにされるとは不愉快だ!!
「人違いだと思いますよ」
「俊足の高崎、剛腕の三野、詭弁の雨宮。1年に化け物3人組みがいるっていうのを知らないのは、本人のあなたたちだけ」
化け物っていうのはいくらお顔のよろしい副会長でも失礼だと思うぞ。
ていうか、なんだそのいかにもマンガの登場人物ですといわんばかりの肩書は。
ほとほと面白くないが、美夜が剛腕っていうのはしっかりと他学年にまでバレているという点は面白い。
美夜を見るとブスっとした顔をしている。
太一は困ったような、笑っているような微妙な顔だ。
俺の足が速いのは主に美夜から逃げていたためで、太一の口が上手いのは美夜の宥め係だったからだ。
全部美夜が悪い。
「中々面白い噂ですけど、俺たち急いでるんで」
「あんなにのんびり歩いてて、普段君たちはどのくらいのスピードで歩いているんだい?」
「あぁすいません、急いでるのは彼だけなんですよ。僕たちが頼みごとがあって引きとめてたんです」
詭弁っていうかただの嘘つきだ、こいつは……。
なんてことを前に言ったら、どっちも本質は同じだと言われた。
そういうものなのか。
「そうだったのか。悪かったね引きとめて、ただ……」
笑顔だった会長の顔が曇った。
そして……。
『いつまで夢を見ているんだい?』
顔を歪ませドスの利いた低い声で会長が言った。
突然のことにびっくりして、後ずさりすると何かにつまずいて転んでしまった。
見ると血塗れの副会長が白目を向いて倒れている、広がる血液。
辺りを見渡すとさっきまでいたはずの太一と美夜がいない。
そう"さっきまでの太一と美夜"がいないのだ、いたのは……いや、落ちていたのは体を抉られ苦痛に顔を歪ませた太一と美夜。
戦慄した。
顔をあげると、相変わらず顔が歪んだ会長が笑いながらこちらを見ている。
『急ぐ必要なんてないじゃないか、現実は変わらないんだ』
ゆっくりと近づき、その手が顔に触れてきた。
体が動かない。
『君は知っているんじゃないか?』
「何を……だ。」
絞り出した声。
ニタァと会長が笑う。
『"全て"をだよ』
口が裂けた。
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