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  黒と白の約束 作者:浅倉
第三話
「自分が何を言ってるのか分かってるのか!?」
「分かっているから言っている。これ以上のことは我々の手には負えない、外部との空間を完全に隔絶されている以上現状を生徒に公表すべきだ」
「そのうえで招かれた混乱はどう対処するんだ」
「起きてから考える」
「それじゃあ遅すぎる」

どうやら言い争いをしているらしい。
しかも会話の内容からこの二人が現在の状況を完全に把握していることが窺える。
恭一の下から顔を出して覗いていた太一が「このまま去る?」と上目使いに聞いてきた。
男の上目使いは別に可愛くも何ともないと思った。
「でもさぁ、ちょっと好奇心も疼くよねぇ」とさらにその下の美夜も上目使いに聞いてくる。
見た目は可愛いが、中身を知っているせいか何も心に響いてこなかった。
ちなみに現在下から美夜・太一・恭一の順にトーテムポール状態で盗み聞きをしている真っ最中だ。
恭一が答えずにいると、美夜と太一が二人の間でどうするかと議論が白熱し始め、そして

「誰だ!!」

見つかってしまった。
眼下で驚いて太一が美夜にのしかかるようにバランスを崩すのを無視し、おとなしく姿を現すと会長が驚いた表情をした。

「痴話喧嘩は他所ですることをお勧めしますよ」
「余計な御世話だよ。えぇと……」
「高崎です」
「あぁそうか、高崎君」

場を取り繕うかのように咳払いをした会長をさっそく突いてみる。

「状況を教えて欲しいんですが」
「それは出来ない、と今ここで話していたのは聞いていなかったのか?」
「聞いてましたよ。だから聞いてるんです」
「高崎君、君は自分で自分の言っていることが理解出来てるか?」
「出来てますよ」
「だったら君の頭はおかしっ」
「修也……」

冷静な声が響いた、副会長だ。
修也というのは会長の名前だったかなぁ、と辛うじて残っていた入学式の記憶から推測する。

「彼らはほぼ無傷で生還していた。その能力を認めて状況を話してもいいと思う」
「それとこれとではまた別問題だ」
「でも我々だけで解決できるものではないと、さっきから再三言っている」
「だからって力のない彼らに一体何が……」

完全に蚊帳の外だと思う。
恭一たちを置いて再び痴話喧嘩を始めた会長と副会長。
そして足元では太一が美夜に殴られていた。
この状況、ため息しか出ない。
どうしようかと考えあぐねていると、また頭の中に声が響いた。

『見つけた。今度は逃がさない』

はっ?
今度ははっきりと聞こえる声。
他の4人を見てもどうやら今の声が聞こえたのは恭一だけらしかった。
空耳にしては嫌にはっきり、しかし誰かが言ったにしてはどうも周囲の様子がおかしい。
気のせいということにして改善の余地が無いこの場を去ろうと足を一歩踏み出した時だった。

「うぉっ!?」

何かに足を掴まれバランスを崩した。

「恭一!?」

それに気付いた太一が恭一の腕を掴むと美夜もその上から掴んできた。
まだ何かに掴まれている足元を見ると、目を見張ってぎょっとした。
自分の影から黒い腕が伸び、しっかりと足首を掴んで離さないのだ。
そしてどんどん自分の影の大きさが広がり体が飲みこまれていく。

「高崎君!!」

気付いた会長と副会長も助けに来てくれるが、さらに腕の本数が増え、太一と美夜も影の中に引きづり込まれようとしていた。

「違う、彼らは関係無い!!」

会長が影に向かって叫ぶ。
大きさを増し伸びてくる腕。
捕まる会長と、助けようとする副会長。
そして体のほとんどを飲みこまれた恭一たち。
恭一が最後に見たのは、澄み渡る青い空だった。


蒼穹とはこのことを指すのだろうか。
意識を取り戻した時に最初に目に入ったものを見て思った感想だ。
一面の曇りの無い青い大空。
体を起こすと覆い茂る草の中に横たわっていたらしい。
当たりを見渡すと固まって影に飲みこまれた4人が転がって寝ていた。
とりあえず一番手近に寝ていた太一の頭を一発どつくと、奇声をあげて意識を取り戻した。
残りの3人もその声で意識を取り戻す。

「どこ…ここ……?」

立ち上がった美夜が辺りを見渡して呟く。
どこまでも続く青空、その下に広がる終わりの見えない草原。
そんなところに恭一たちは寝かされていた。

「デルタドール」

不意に呟くようにして聞こえてきた声、発信源は会長だ。

「この世界の名だよ」
「どういうことだ」
「地球ではない世界。我々が昔住んでいた世界」
「それって…まさか……あの世?あたしたち、死んだの?」

美夜が怯えたように聞いた。
しかし副会長は静かに首を横に振る。

「我々二人はもともとこの世界に住んでいた。訳あって地球に渡っていた」
「つまりここは俺たちが住んでいた地球ではなく、要するに異世界ってことか」
「そういうことだ」

嫌な展開だ。
これからこの気の遠くなるような草原を抜けて地球に帰る方法を探さなくてはならない、そういうことになるんだろう。
考えただけで気が遠くなりそうになる。

「帰る方法はある。僕たちが地球に行った方法を使えばね、ただし場所が問題だ」
「危険な場所なんですか?」
「かなりね。それに多分ここからかなり遠くにあるはずだ。」
「……そんな」

美夜の目から涙が零れる。
太一が美夜を抱き寄せると、埋もれるようにして美夜が嗚咽をこぼした。
はっきり言って状況は絶望的だ、生きて帰れる保証がどこにもなかった。
恭一は拳を地面に叩きつけた。

「そぉんなにぃ、絶望することはないと思うわよん♡」

突然聞こえてきた甘ったるい女の声。
全員が顔をあげるとどこから現れたのか、口元に笑みを浮かべた白衣姿のやたら胸がでかいメガネの女が立っていた。
どっから見てもいろんな意味で危ない感じのお姉さんだ。
副会長が無言で、しかし素人にも分かるほどの殺気を立てて恭一たちの盾になるように立った。

「警戒すしないでぇ、って言うほうが無理っぽいわねぇ」
「久しぶりですね、ディスティル。相変わらずだ」
「貴方は向こうに行ってたせいで見違えるようよぉ、ランデル。中身は相変わらずのようだけどぉ。それにぃ、貴方が連れ出してくれたレイちゃんも、すぅっかり人間っぽくなっちゃってぇ。いやぁねぇ……」

会長をランデルと呼んだ女ディスティルは、舐めまわすように副会長を見ている。
その目が酷く吐き気をもよおすものだと、直観で感じた。
俺はこの女を知っている。

「安心してねん、帰るために必要なものは全部揃ってるわん」

そういってディスティルが指を鳴らすと、青空と草原が一瞬にして消えた。
代わりに現れたのは黒い金属質の部屋だ。
そして、恭一たちの周りを無数の黒い兵士が銃口をこちらに向けて立っていた。
背後で怯えて震える美夜を強く太一が抱き締める気配がする。
まさに絶体絶命。

「帰す気は無いけどねん♡」
「こっちの3人は関係無いだろ!!」
「いやだぁ、ランデルなら分かるでしょ?せっかく異世界の生命体の貴重なサンプルが3体?いえ、5体も手に入るかもしれないっていうのにぃ、なぁんでそれを見す見す帰すような真似をしなきゃいけないわけぇ?」
「ふざけるな!!」

恭一は自分の目を疑った。
怒声を上げた副会長の腕がみるみるうちに異形に変化し、ディスティルに襲いかかったのだ。

「葵、止めろ!!」
「下等種のくせにうるさいわねぇ」

副会長の腕がディスティルに当たる瞬間、兵士が一斉に発砲し、副会長の体を貫いた。
肉が抉れ、臓器が飛び散り、副会長はその場に崩れた。
女の高笑いが響く。

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

美夜が叫び、発狂して、太一の制止を振り切るとディスティルに殴りかかった。
しかし寸前で美夜の体が崩れる。
美夜が崩れて現れたディスティルの手には銃が握られていた。
倒れた美夜から広がっていく赤い水たまり。

「止めてよぉ、サンプルは出来れば傷つけたくないのにぃ」

そういって美夜の頭を蹴るディスティル。

「このアマァ!!」

それを見た太一がディスティルに飛びかかろうとするが、恭一の横を通り過ぎるか否かのところで、兵士の一発の銃弾の前に崩れた。

「はぁ、とんだ学習能力の無い生物ねぇ。がっかりだわ……」
「ディスティル……お前………」

ため息をつくディスティル。
激昂する会長。
恭一は現実が理解出来ないでいた。
眼前には無残な姿で転がる副会長と血溜まりの中の幼馴染み美夜。
横には辛うじて呼吸をしているのがわかるが、目を開く気配が無い幼馴染み太一。
ふと、床についていた手が何か触った。
否、何かが触れてきた。
それは徐々に触れる面積を増やしていく、生温かい。
視線を手元に落とした。
黒くて暗くて分からない。
手を動かすと、ピチャッと液体の音。
しかし漂ってきた鉄の臭いが、その液体の正体を暗示している。
恭一は自分の手を見る。
茫然自失とはこのことだろうか。

「あらぁ、坊やどうしたのぉ?無様な仲間の姿にビックリしちゃった?」

さっきまでは動いていたのに、今は自力で動く気配が無い。
不思議だ……。
人間とはなんて弱い生き物なんだろうか……。

「もうそんなにならなくてもいいじゃなぁい。貴方はあたし好みだしぃ、抵抗しないからコレよりも優遇してあげるわぁ。」

何故だろうか、感情が湧かない、否、理解出来ないのか?
悲しみか、苦しみか、怒りか、憎しみか。
現実を直視したくないから脳が感情を制御しているのか。
逃避、これは現実からの逃避。
受け入れたくない逃げ出したい、これは紛れもない現実。
壊れてしまいたい。
壊れてみようか。
いや………、いっそ壊そう。
そう考えて、笑みがこぼれた。

「高崎君!!」

最後に聞こえたのは会長が必死に俺の名前を呼ぶ声。
最後に見えたのは眼下に広がる人が住んでいるであろう街並み。
意識はそこで途絶えた。

やっと異世界にトリップしてくれました。
これからどんどん中2くさくなっていきます。
しかし救いがないですね^ρ^


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