第十二話
不思議な感覚が心地よくていつの間にか寝込んでしまった。
何か夢を見た気がする。
ラゼルはまだ眠い目をこすると、目の前で気持ち良さそうに爆睡している恭一を叩き起こした。
「いつまで寝ている、交代だ」
頭を蹴り恭一を起こす。
「何だよ」
「交代だって言ってる、起きろ」
気持ち良く眠っていたのに起こされて不機嫌だったが、仕方なく伸びをすると立ちあがった。
まだ眠い、立ったまま眠ってしまいそうだ。
「ちょっとその辺歩いてくる」
眠気を飛ばすために付近をウロウロする。
暗い中木々の間から洩れる星の光だけが唯一の頼りだった。
「……火の魔術と光の魔術、こういうとき照らすならどっちなんだろ」
ちょっとした疑問が浮かんだ、今度光の魔術についても勉強してみようと思う。
だが、確かに何があるか分からないのは不便だが、変に火を起こして何かを引きよせても困る、微妙なところだ。
時々木の根に足を引っ掛けながら進むと、川が目の前に現れた。
流れはそんなに早くなく深いわけでもない、至って穏やかな川だった。
その表面が星の光を反射してとても美しい。
近づいてみると魚が何匹かその背に星の光を反射させながら優雅に泳いでいた。
「これ食えんのかな」
ガキの頃よく両親の実家近くの川で手づかみで魚を捕まえた、その要領で泳ぐ魚を捕まえる。
手の中で元気よく暴れるそれはヌルヌルとしてよく滑った。
さてこれからどうしようと考え、袋も何も持ってきていないことを考え
「明日にするか」
少々未練が残るが暴れる魚を川に戻した。
ふと何かの視線を感じる。
だが辺りを見渡しても何も見当たらない、だが確かに感じる何かの気配。
恭一は身構えると慎重に気配を探った。
「誰かいるのか?」
当然返答は無い。
だがその間にもドンドン気配の量が増えていき、囲まれた。
完全に包囲されると近くの茂みが動き大柄な男が出てきた、どうみても堅気の人間ではない。
「ボウズ、こんな夜中にウロウロしてると危ないぞ」
「そうみたいだな」
会話している間にもドンドン茂みから沸いて出てくる。
星の光に照らされて浮かび上がるそのから、様々な種族がいることが分かる。
目の前に浮かびあがった男の顔を睨む。
すると恭一の顔をみた男が下品な笑みを浮かべた。
「男のくせに偉く整ってんじゃねぇか、女じゃないのが残念だ。俺は男を食べる趣味は無いからな、ガハハハハハ」
そういって男が豪快に笑うとつられて周りの男も笑い始めた。
正直ウザイ。
恭一はため息をつくと、川に目をやった。
そして精神を集中すると川の水がうねりをあげて持ちあがった。
突然川の水が渦を巻き始めたのをみた男たちが笑うのをやめて顔面を蒼白させた。
「てめぇ、魔術師だったか!!」
「誰も違うとは言ってないだろ、最初から」
意地の悪い笑みを浮かべ逃げ惑う男たちに大波が襲いかかった。
一人残らず絡め捕ると強制的に川に引きずり込む、普段は穏やかなはずの川は今は濁流と化していた。
「下流で反省してこい」
そのまま抵抗する術も与えず下流へと流した。
それを見届けた恭一は魔力の使い過ぎか立ち眩んだ、心なしか胸部も痛い。
川はすでに元の穏やかな川に戻っている。
「……戻ろう」
帰りは夜盗もいないだろうと火を灯した。
無事に戻るとラゼルはさっきの争いなど無かったかのように可愛らしい寝息を立てて気持ち良さそうに眠っていた。
その寝顔はとても愛らしく下手をすると変な気でも起こしそうだ、地球では恭一だって健全な高校生である。
しばらく眼福とでも眺めブルルと鼻息がしてそちらに視線を向けると、恭一が乗ってきたティラノ君がこちらを見ていた。
「あぁ悪い、起こしたか」
じっと物言いたげにこちらを見ている。
「別に寝込みを襲ったりしないよ」
ティラノ君に手を伸ばすと長い舌が舐めた、何とも言えない感触だ、気持のいいものではない。
そのまま首の付け根をさすってやると気持ち良さそうに目を細めた、それを見ているとつられてこっちまで眠くなってくる。
もう見張りなんてしなくていいかななんて考えていると、ティラノ君が自分の腹の脇を視線で指した。
こっちで寝てもいいということらしい。
一瞬悩んだが折角の好意だし、これを機に仲良くということでそこに寝転ぶ。
割とティラノ君の体温は温かく丁度良かった。
翌朝ラゼルの罵声で目が覚めた。
ティラノ君と一緒に寝ぼけた目でラゼルを見ると今にも爆発しそうだ。
「朝っぱらからうるせぇよ」
「うるさい!!あんたなんで見張りをサボったのよ、何事も無かったから良かったもののもし万が一が起きたらどう責任とるつもりだったの!?」
「その万が一が起きてまとめて片付けて身の安全を確保したからこうして惰眠を貪ってたんだよ」
「何ですって、襲われたの?なんで起こさなかったのよ!!」
「川に行ったときに襲われたんだよ」
「アンタ一人で片付けたの?」
「他に誰の助けがあるんだよ、頼むから朝から大声だすなよ」
すっかり頭が覚醒してしまった恭一は大きく伸びをすると、ティラノ君も横で伸びた。
首をコキコキならしティラノ君に下がっていた荷物袋を適当にあさると食料を手に取る。
朝ごはんは一日の中で一番大切なものというのは持論だ。
「食べないのか?」
一連の勝手な行動を黙って見ていたラゼルに食料を突き出すと、何故か顔を真っ赤にして食べるに決まってるでしょと一言、引っ手繰るようにして奪うとバクバクと凄い勢いで食べ始めた。
あんな勢いで食べて喉に詰まらせないのかと心配になってくる。
その後水浴びをしてくるというラゼルから覗くなとキツク言われ、ティラノ君とのんびり待っていると30分ほどで戻ってきた。
各々のティラノ君の荷物を確認し出発する。
「この先に村があるけど寄ってる時間は無いから突き抜けるよ、そしたら多分日没から半時くらいで聖都に着く」
「休憩は?」
「無いに決まってるでしょ」
「マジかよ」
当たり前という表情に愕然する。
実は少々お尻が痛いのだ。
この調子だともしかしたら聖都に着く頃には脱腸してるかもなぁと思い、背筋に悪寒が走った。
それを察したのかティラノ君が鼻をならしてこちらを窺ってくる。
大丈夫だと首を撫でてやった。
この世界に来て初めての信頼関係というようなものを築いているような気がしないでもない。
人間じゃないのが少しさびしいが、文句を言ったらティラノ君が可哀想だ。
その後ラゼルは事前の言葉通り村を迂回して通り過ぎ、聖都まで休まず走り続け、何とか日没前につくことが出来た。
「それじゃ宿でも探そうか」
「やっと休める」
脱腸はしなかったがお尻が限界だった。
もう二度とこんな無謀なことはしたくない。
ティラノ君も預かってくれるという宿はすぐに見つかった、しかも聖都のなかでもかなり良い場所だ。
外観からでも一泊かなりの金額がすることが窺える、宿代はどうするのか聞くと心配しなくていいと含みのある笑みを浮かべて言われた。
それを見て聞いちゃいけないことを聞いたと瞬時に悟る。
部屋はもちろん二部屋借り、明日は朝食は食べてもいいがなるべく部屋にいろとだけ言われた分かれた。
野宿はたったの一日だけだったか、ハードな旅のせいで布団で寝るのが一年ぶりのような錯覚がある。
ベットに飛び込むとこの世界に来て一番のふかふかな布団だ。
環境の全てがトップクラスなので当然なのだが。
「それで、一体ここに何のようがあったんだよ……」
うつ伏せに寝転がりながら何のためにここに来たのか考えた、はっきり言って来た意味が恭一にあるのか疑わしい。
出るとき旅は危険だからとか色々言っていたが、結局昨晩夜盗に恭一が襲われただけだし、寝ていた場所からは割と離れていた。
しかも道中恭一はずっとケツがいたいだの、休もうだの色々文句を言っていたため自分でも思うが足手まといだ。
それは結果論だったとしても、正体不明の人間と一緒に行動するとは、よっぽど無神経な人間なのだろうか……。
「それとも単純に自分が寂しかっただけなのか?………まぁいいか、俺もあそこにいたところで何にもならないしな」
物事はプラスに考えてなんぼ。
そう思いなおすと恭一は部屋の電気を消し布団にもぐり込むと、深い眠りに誘われた。
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