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救われし世界のシンフォニア 作者:折坂勇生
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15・闇の王ガディス


 闇の王ガディス。
 別名、破壊を誘う《いざなう》者。
絶対的な力によって、闇の世界を長きに渡って支配し続けた独裁者。
 彼の哲学はただ一つ。
 力こそが全て。
 強きものがこの世を支配でき、弱き者は、死、あるのみ。
 弱者への慈悲はない。
 殺しをしようとも法によって裁かれることはない。むしろ、殺されたほうが悪いと、被害者はさらなる屈辱を受けることとなる。無法状態といえるけど、調子に乗った魔物は、ガディスに潰されるから、治安はそれなりに保っていた。
 むしろ、ガディスが天下を取る前の方が、裏切り、殺し合いの連続。闇の世界を統一できる支配者が存在しなかったから、荒れ放題だったぐらいよ。
 だから今も、ガディスを恐れる者がいると同時に、畏敬する者も多くいる。最悪な男ではあったけど、独裁者として有能だったと言えるわね。
 ガディスは戦闘中毒というたちの悪い病気を持っていた。自分と互角、またはそれ以上の強豪と戦いたくて戦いたくて、いつもウズウズしていた。
 素質があるものは、最強の戦士にするべく、徹底的に鍛えていった。そして、自らの力にうぬぼれて、ガディスの座を奪うべく、裏切ってくれるのを楽しみにしていた。
 子供を作ったのだって、自分の遺伝子をつぐものなら、強くなるんじゃない、という考えでしかなかった。それが娘で、希望に添える力を持ってないと知った時はがっかりしていたものだけど。
 それでも、親というのは親バカとなる生き物のようね。ガディスも例外なく娘を溺愛したわ。こっちが、うんざりするほどに。
 彼自身もそれを自覚していたようで、自分にとっての弱点になると、ひとりしか作らなかった。
 ガディスの不幸は、最強の力を手に入れたことだった。
 彼の持つ圧倒的なパワーは、星をも消し飛ぶほどのもの。どんな強い者が束になって掛かったところで、赤子をひねるように簡単に倒してしまう。その桁外れの強さに、裏切りものはいなかった。どいつもこいつも、自分に忠誠を誓うか、へらへらとすり寄ってくるか、怒らせないようにコソコソとするばかり。
 弱い、弱い、弱すぎる。
 ガディスは、毎日を退屈していた。
 暇で暇でどうしようもなかった。
 そのとき、彼にあるアイデアが閃いた。
 それは残酷で恐ろしいもの。
 彼が目につけたのは光の世界。
 慈愛の女神エリーゼが治める愛と平和の象徴。
 世界といっても、中心に神殿があって、その周りを緑と泉で囲まれている、空に浮かぶ島みたいなものね。そこに精霊たちがのどかに暮らしているの。人間のような知的生命体もいることはいるけど、精霊たちの召使いでしかない。そんなこと言ったら、精霊は、お友達だと言い返すでしょうけど。
 光の世界は、エリーゼの光の力によって守られていた。光の世界の住民たちが、戦争に巻き込まれず、平和に暮らせるよう、周囲に光の結界が張られてあるの。
 余程の力でなければ、破ることは不可能よ。
 ガディスは、その余程の力を持っていた。
 結界を破壊したわ。
 エリーゼが新たな結界を張る時間もなく、いともあっさりと。
 そして、女神エリーゼを石化して、光という光を闇に染めていった。光の世界に住む人間たちは、刃向かうものは殺て、降伏するものはドレイにしていった。
 ガディスは精霊たちに、容赦がなかった。見付け次第、次々と殺していった。精霊たちは無力な存在。動くぬいぐるみのようなもの。戦う力なんてなにも持ってない。
 生き残るために精霊たちは逃げた。仲間が殺されていき、大好きだった光の国が滅ぼされていく中を、精霊たちは必死になって逃げていった。
 向かった先は地上界。
 あなたたち人間が住んでいる、つまりはこの世界よ。
 光の国と地上界への扉は、女神エリーゼの光の力によって開くことが可能なの。他に方法はない。エリーゼが石になっている今、それは不可能なこと。それでも希望のために、精霊たちは、地上界への抜け道を探していった。
 一人、また一人と、殺されていくなかをね……。
 奇跡的なことに、精霊たちは地上界への抜け道を見付けることができたわ。
 だけど、地上界に来ることができたのはごく僅か。しかも精霊を見ることができるのは、一部の少女しかいない。
 精霊は、その特別な少女たちを探していった。そして、彼女たちに「魔法少女になって、光の世界を救って欲しい」と頼んだの。
 それこそがガディスの狙いだった。
 光の国に危機が訪れたとき、精霊たちが不思議な力を使って、人間たちを特殊な能力を持つ戦士に変えることを知っていたのよ。
 しかも、地上界は、闇の世界の者達には知られていない未知の世界だった。
 ガディスも例外ではなかった。新しい世界の発見に歓喜した。
 ガディスは地上界をも支配するべく、闇の世界の刺客を送っていった。魔法少女は、光を救うだけでなく、自分たちの世界を守るために、戦いを余儀なくされた。
 精霊の力で魔法少女になったとはいえ、中身は、平和ボケした世界に住む、思春期をむかえた少女でしかない。
 メンタルの弱さや、実力のなさで、コテンパーンに一方的にやられていった。
 泣き喚いて逃げ出すか、大怪我で戦闘不能状態になるか、最悪死んでしまって、戦意喪失。
 使い物になる人材はいなかった。
 精霊たちは戦力になる魔法少女を探していった。精霊は、子どもと無邪気に遊ぶのが大好きなの。その子どもたちに、過酷な使命を与えなくてはいけないなんて、辛かったことでしょうね。それでも、光の国を救うために、魔法少女になってほしいとお願いしていったわ。他に方法がなかったから。
 そして、二人の少女が魔法少女になった。
 青井響歌と赤沢菜穂香。
 先に魔法少女になったのは響歌だった。家族のいない響歌は、失うものがなかった。たったひとりで、まるで親の元に行きたがるように、闇の幹部やコテンパーンを恐れず、泣き言を一切言わないで、戦闘用ロボットのように戦っていった。
 コテンパーンと戦闘中。クラスメイトの菜穂香が巻き込まれた。響歌は、菜穂香を庇って怪我を負った。彼女を守るために、菜穂香は、精霊にお願いして、自分から魔法少女になった。
 響歌と菜穂香はタッグを組んで、一緒に戦うようになった。
 知と技の響歌に、力の菜穂香。
 パワー不足の響歌を菜穂香のパワーがカバーし、一方的な攻撃しかできない菜穂香を響歌の知能と豊富な技術力でカバーをして、互いの弱点をおぎないながら、手と手を取り合って戦うことで、闇の世界の幹部たちを次々と倒していった。
 自分たちが得た変身能力が、魔法少女という名しかないのを知った二人は、『フランジェルカ』というチーム名を作った。
 『光』と『天使』で、フラッシュエンジェル。それを省略して、フランジェル。その最後に、菜穂香と響歌の『か』を取って、フランジェルカ。
 調子に乗っていたときは、変身したときに「菜穂香、響歌、ふたりは最強、フランジェルカ!」とポーズを決めていたと聞いているわ。
 それもあって、今では黒歴史となっているようで、フランジェルカの名は言おうとしないみたいだけど。
 最強の戦士がついに登場して、ガディスは大喜び。二人をさらに強くさせるべく、次々と刺客を送っていった。
 フランジェルカは、その希望を叶えたわ。この世界を守り、光の世界を救うために、激戦に次ぐ激戦を勝ち抜いていった。
 そして、闇の王ガディスと戦い、勝利を収めた。
 自分よりも強いものに倒されたのだから、ガディスは感無量ってところでしょうね。光と闇と地上界にとっては、最悪の自己満足もいいところだけど。
 ガディスの肉体は滅びたとはいえ、死ぬことのない生命体だから、概念としてどっかに浮遊しているけど、まあ、概念でしかないから、気にすることもないでしょうね。
 女神エリーゼは復活し、光の世界から光が戻った。死んでいった精霊たちもエリーゼの守護によって、少しずつだけど新しく生まれ変わろうとしていた。
 闇の世界も、フランジェルカに協力した奴が新しい王になったから、ガディスのように暴走することもない。
 世界に平和が訪れて、めでたし、めでたし……といきたかったんだけどね。
 そうはいかなかった。
 ガディスは厄介なのを残していたの。
 破滅の種。
 ありとあらゆる世界を破滅させる、意思のない生命体。
 ガディスですら、こいつはヤバイと封印させたほど強烈な力を持っていた。
 それが目覚めようとしていた。
 闇に光に地上界。すべての世界が、破滅へと向かってしまう。
 それを阻止するためには、再び封印をするしかない。女神エリーゼが、そうするべく光の力を使おうとした。けれど、ガディスのように完全に封じきることは不可能。数年後に封印が破られるのは確実だった。そしたら、また封印をしなくてはならない。数年、また数年と、封印の繰り返す羽目になる。しかも、封印している間に、破滅の種が、エネルギーである恐怖を集めていき、さらなる力を得てしまっている。
 エリーゼの力に限界が来たとき、破滅の種が世界を滅ぼす。その恐怖に私たちは怯えることとなる。その怯えが、破滅の種のエネルギーとなる。
 悪循環よ。
 それを知ったフランジェルカが「破滅の種の封印を解こう」と提案したの。
 誰もが、世界を滅ぼす気かと、耳を疑った。けれどフランジェルカは言った。
「私たちが破滅の種を倒す。いつかは倒さなくてはならない奴なんでしょ。それは今です。先延ばしになんかできません。私たちがやります。お願いします。ガディスを倒した、私たちに掛けて下さい」
 彼女たちの言う通り、誰かが破滅の種を倒さなければ、世界は滅びることとなる。それが可能なのは、フランジェルカしかいない。
 かけに乗ることにしたわ。
 エリーゼを中心にして、光と闇が力を合わせて、強力な結界を作った。水と油の関係である、二つの世界が協力しあうなんて初めてのことよ。
 闇と光が合わさった結界を戦場にし、フランジェルカは破滅の種と戦った。
 激戦だった。
 フランジェルカは、自らの力の限界を超えた状態で戦い続けた。何日も、何日も、終わりの見えない戦いだった。
 予想を超える長期戦となった。結界を張っていた、女神エリーゼ、精霊たち、闇の世界の魔物たち、元魔法少女の方に限界が来てしまった。結界が破られそうになった。私たちの世界が巻き込まれてしまう。そうなると何億もの生命が犠牲となる。
 そのとき、フランジェルカが結界を張った。その状態で、破滅の種と戦っていった。無茶な戦いよ。なぜ、そこまでして戦うのか、誰もが信じられない思いだった。そんな彼女たちに心を打たれた。
 誰もが。
 フランジェルカに懐疑的だった者も協力するようになった。そして、光と闇の者、生き延びた魔法少女、魔法少女を知る地上界の人間が一丸となり、結界を張り続けた。
 破滅の種を倒すのに百日かかった。それで、百日戦争と、私たちは呼ぶようになった。
 フランジェルカは、世界を救った英雄。神と言える存在になっていた。
 けれど、彼女たちには哀れな結末が待っていたの。
 ふたりはもはや、人間ではなくなっていた。
 長期間ものあいだ限界を超えて戦い続けた影響で、肉体が滅びてしまっていたのよ。彼女たちは光のエネルギー体でしかなくなっていた。
 人間に、戻れなくなってしまった。
 永遠の魔法少女。
 エリーゼ様は、それを憐れんだ。それで、フランジェルカに、魔法少女から人間に変身する力を与えたの。
 逆転しちゃったのよね。
 今の彼女たちは、魔法少女が元の姿。人間に変身することで、巨大な力をセーブさせて、日常生活を送っているの。
 ガディスと破滅の種の破壊によって、光の国はボロボロの状態になっていた。元の輝かしい国に復興し、傷ついた精霊たちに安らぎと平和を与えるために、フランジェルカは光の世界の扉を封印した。その前に、光の世界で暮らさないかと誘われたようだけど、家族がいるからと断ってね。
 地上界に帰ってきた響歌と菜穂香については、あなたのほうがよく知っているでしょ。
 いつも一緒にいて、ベタベタベタベタするあまりに、友情をあっさり超えて、禁断の関係となり、十年以上経った今もラブラブに暮らしていましたとさ。
 めでたしめでたし、といったところね。
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