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救われし世界のシンフォニア 作者:折坂勇生
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11・それが、闇世界管理組織?


 コロナを走らせる。破裂しそうなやかましい響きのエンジン音。いつエンストをしてもおかしくない不安定な動きをしていた。エアコンのない車内は、じめっとした空気に覆われている。窓を全開にして、外の空気をもらわなければ、拷問もいいところだ。
「皮肉よね」
「なにがだ?」
 横目で美桜を見る。汗で蒸れるのか、スカートの端をつまんで、ひらひらとさせていた。俺の視線に気付くと、スカートをギュッと伸ばした。そういう恥じらいは持っているようだ。
「篠崎という男が狙われたのは、魔法少女と関わりがあったからよ」
「なければ、篠崎黒龍も、娘さんも生きていた?」
「間違いないでしょうね。あれと関わった。それだけで大きな不幸よ」
「私も、魔法少女との関わりのある人間の一人ですが、不幸だと思ったことはないな」三田村さんが言った。「それが原因で、闇の者に殺されたとしても、響歌ちゃんと菜穂香ちゃんに出会ったことは、後悔はしません。篠崎、りんこちゃんも、同じではないでしょうか」
「どうだかね」美桜は足を組む。「知らないほうが良かったことだってあるのよ」
「知ってて良かったことだってある」
 三田村さんはブレーキをかける。左右分かれ道。手前にある信号は沈黙している。
「どちらにいけば?」
「右」
「わかりました」
 左右を確認してから、ゆっくりとハンドルを右方向に回す。二車線の狭い道に入っていく。両側の電灯は、明かりが消えていた。所々にある家も、窓からランタンかなにかの小さな光が見えるぐらいだった。
「いつも通っている道も、ここまでまっくらだと違う場所のようだ」
 野乃原市全体が停電になっていた。高台から見える、避難命令を出された神ノ山駅周辺が、砂漠の中のカジノのように輝いている。マスコミだろうか。ヘリコプターが至るところに飛んでいた。
「姉貴のことを知っている人たちは、どれだけいるんです?」
「ごく少数。必要のある人だけです」と三田村さんは言った。
「普通ならば、記憶を消されているものね」
「まるで、夢を見ていたかのように」
「今回も?」
「無理だわ。破滅の種を倒したとき、フランジェルカの二人が、光の世界へと続く扉を封印しちゃったもの。そうしなければ、失った精霊たちが回復することがなかったから」
「破滅の種? 精霊? なんだりゃ?」
「あなた、それすらも知らないわけ?」
 心底呆れた目線を送ってくる。
「知っていることのほうが少ないさ」
 フランジェルカというのが、姉貴と響歌さんの魔法少女の名前だというのは分かる。そのぐらいだ。
「多くの人間がそんな感じですよ。怪獣が襲ってくると警告されても、その人の頭の中を疑うでしょう。殺される時になって、それが事実だと気付くんです」
「殺されずに、怪獣と戦った奴だっている」
「さすがは菜穂香ちゃんの弟だ」
「俺が何をしても、姉貴の弟というレッテルがついて回るんだな」
 いい気分でなかった。
「それだけ、あなたのお姉さんは偉大なのよ。地上界ではただの体育教師かもしれないけど、闇と光の世界では、世界を二度も救った英雄だもの。破滅の種は、そうね、お父様の次に現れた大ボスと思ってくれていいわ」
「あんたの父親、破滅の種、で二度救ったということか?」
「そうよ。破滅の種は、全ての世界を滅ぼす存在。どこの世界のモノでもない、悪のエネルギーの集合体なの。その巨大すぎる力に、お父様が封じ込めていたのだけど、倒されたことで守る人がいなくなり、イッヤーソンのようなバカが甦らせてしまった。破滅の種が厄介なのは、感情のない生き物であるということ。あるのは破滅だけ。わたしたち闇の世界も、滅ぼされる所だった。女神エリーゼが中心となり、光と闇が協力しあって超強力な結界を張り、その中で魔法少女二人が死闘を繰り広げたのよ。倒すのに百日もかかったから、百日戦争と呼ばれているわ」
「精霊は?」
「光の世界に住む生き物よ。ぬいぐるみみたいに可愛いの」
「そんで、姉貴たちを魔法少女にして、あんたの父親と戦わせたってところか」
「良く分かったわね」
「お約束だ」
 アニメの世界ではな。現実でもあるとは思ってもいなかったが。
「精霊は平和の象徴。争いごとをできない生き物だから、襲われたら、逃げるか、死ぬかしかない。光の世界を救うため、少女たちに魔法少女になってもらう以外に、救いの道がなかった」
「なぜ、少女? 頼むならセガールみたいな無敵の男のほうがいいだろ」
「精霊は、例外はあるけど、基本的に少女しか見ることができないの」
「ロリコンか」
「ヤクザじゃあるまいし」
「俺は大人の女が好みだ」
「人の足、みてるくせに」
「胸はみるところ、ないからな」
「殺意が沸いたわ」
「安心しろ。姫さんは、将来、俺好みの女になる素質がある」
「なってやって、フッてやる」
 俺は笑った。軽口を軽口で返せる女は嫌いじゃない。
「記憶を消す仕事は、その精霊がやってたんだな」
「精霊というよりも、光の国がね。光の世界の加護によって、地上界は守られてきた。封印されたことによって人間たちは、自分たちで管理するしかなくなった」
「それが、闇世界管理組織?」
「ご名答」と三田村さんが言った。
「封印によって、光の世界と地上界の行き来ができなくなった。だけど、闇の世界と地上界の扉は開かれたままなの。いえ、開かれるようになった、と言った方が正しいわね。自由に行き来することができるわ。闇の者は、全員悪党というわけではないけど、好戦的な種族よ。勝手に入ってこないよう、厳しく取り締まる必要があった。それで、魔法少女を知る一部の政治家が、管理組織を作ったの」
「闇世界の入り口なんてどこにあるんだ?」
「目の見えないところに」と美桜。
「私たちは、闇の霧、と呼んでいます。毒気のある霧といいますか、そういう嫌な感じのする場所がそうです。分かりやすくいえば、おばけが出そうな所でしょうか。そこが、地上界と闇の世界の、尤も距離が狭い場所なんです。どこと決まっているわけじゃないですから、探すのが大変だ」
「闇世界へは、闇の力などの魔法力を使うことでいける場所よ。だから多少なりとも、魔法力を持つ人でないと無理。ただ、毒気が尋常でないほど濃ければ、闇の霧を歩いていくだけで、闇の世界に来てしまうことがあるけど。たまに、人間がさ迷ってくることがあるのよね」
「そして殺される?」
「まさか。普通なら、闇世界の警察のような所が保護して、闇世界管理組織に連絡するわ。戻ってきた人間も、悪夢を見たとしか思わないでしょうね。ああ、そこで止まって」
 コンビニだった。だだっ広い駐車場に、立方体の建物がちょこんと建っている。車は端の、砂利となっている所に止まった。
「こんな所に澄佳がいるのか?」
「澄佳はないけどジュースがあるわ。喉が渇いたから、なにかおごりなさい」
 しゃべり疲れたようだ。
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