43話 いつか来た道
「にゃー」
僕は、僕の目の前にいる三人の美少女を見上げて小さくそう声を上げる。
「おお、本当に猫なのだな…… すごい術だ、本当に猫にしか見えない」
「なんだかふてぶてしい猫だね、すごく星屑っぽい…… まぁ星屑なんだけど」
「ご主人様、にゃーにゃー、ねこにゃー」
三人はしゃがんで僕のことを上から撫でまわす。
普段は僕が三人を見下ろす立場なので、この三人に見下ろされるのはなんだか新鮮である。
「おぉ…… モフモフだな、猫だな、星君が本当に猫だ」
ちょっと興奮気味に僕の背中を撫でるユエ。
「なに? ここ気持ちいいの? むふぅ…… なんか星屑かわいい」
にまにましながら僕のあごの下を人差し指でくすぐるマリア。
「にゃー、にゃ? なー、にゃー、にぃー」
………………………シルヴィア? 普通に話して大丈夫だよ?
「ふむ…… どうやら問題なく猫みたいだね」
僕は三人の美少女達にもみくちゃにされながらそうつぶやく。
そう……
僕は今、猫なのである。
『束縛無き体躯』の身体変形能力を用いて、僕の体を猫に作り変えたのだ。
この力、『束縛無き体躯』はこのように、好きな時に望む姿へと自由に変身できる能力…… ではない。
そこまで便利な能力ではないが、こうして「スライムの環境適応能力」を応用した「環境の自発的設定による体系変質」を使い、あらかじめ時間をかけて細かくい細胞状態を設定していけば……
「にゃふふ…… 本物よりリアルに変形ができるのだ」
これは、スライムでありながら、悪魔であり、なおかつかつて人間であった、僕ならではの技といえるだろ。
つまり…… 変身の数は有限であり、瞬発的ないしは応用的な変身はできないが、僕は理論上どんな姿にでも化けられるということだ。
まぁ、人間の姿から遠ざかれば遠ざかるほど、本来の力が出せなくなるという問題点はあるのだけど…… それは変身を解除すればいいだけだから問題は無い。
元の姿に戻るだけなら、瞬間で戻れるからね。
「さぁ…… じゃあそろそろ行ってくるよ」
僕はそう呟いて、僕を撫でる三人の手をするりと抜ける。
「ああ、行ってらっしゃい、健闘を祈る」
「晩御飯作ってまってるね、星屑」
「ご主人様、にゃ」
そして、ユエが開けてくれた部屋の窓から僕は飛び出す。
「にゃふふ…… さぁ、始めようか」
颯爽と飛び出した猫の僕が向かうのは、この国の中心地。
つまり、王城である。
そして、その王城の……
無数の警備と、無数の各種結界が張り巡らせた王城の中心である後宮へ…… この国を管理する、王子達が住まう所へと僕は向かうのである。
「にゃー」
さて、この屑猫モードの性能を試すとしようか。
――――
「くふふ…… ついたにゃ」
結論から言おう。
僕は割と簡単に、後宮の中へと侵入することに成功した。
まぁ、それ自体はある程度予定通りだし、そもそも勝算があるからこそこうして潜入したんだが。
でも、まさかこんなにうまく行くとは僕も想像していなかった。
本来……
本来であれば僕に潜入など不可能であるかだ。
そもそも僕には、どこぞのビックなボスみたいなスニークスキルを持ち合わせてはいないし、加えて僕自身が結構目立つ存在である為、こういったガチの潜入任務はむりなのだ。
それに、この世界には段ボールがない。
段ボール無しで潜入なんてありえないだろ、うん。
まぁ…… 僕には『常闇の衣』と言う認識阻害のスキルはあるが、あれは「見えているものを錯覚させてあやふやにさせる」とう言うたぐいのスキルなので、あれも隠密向きのスキルではない。
故に僕に潜入はできないのだ。
だが……
それが猫の姿ならば話は別である。
この小さい体躯のまま、僕の高レベルの[力]ステータスをもって行動すれば……
正に目にとまらぬ速さで動けるのだ。
しかも猫の小ささだから、物音もあまり立たない。
正に隠密向きなのだ。
こうして僕は……
「ただの猫」の姿のまま、人の気配をしない所を狙って通り、素早く静かな移動を重ねることで、誰にも気づかれずにここに到達したと言うわけだ。
まぁ…… 本当は人の姿のままでも、本気出せば「目にも止まらぬ速さ」で動くことは可能だけど。
人の体躯のままそれをやると、いろいろ破壊してしまうからなぁ。
僕は投擲に特化だから、それ以外の繊細な操作とか無理だしね。
時間をかければできない事はないけど…… 今から仕込むのはめんどい。
まぁ、とにかく…… 上手く潜入できたのだ。
細かい事はどうでもいい。
「さて…… それじゃあ下見しますか」
僕が今いるのは、後宮の最奥。
警備が最も厳重で、外から破壊無しでの干渉は、さすがの僕でも無理な場所である。
その中の王子達の居住スペース。
そしてその居住スペース内の一つで、王子達のディナールームであるのがここだ。
先代愚王の「晩御飯は兄弟仲良く」と言うルールの下に、王子達が一堂に会する場所である。
さて、じゃあ値踏みさせてもらおうかね……
「先王の第十子にして、全十二王子達の中で唯一、一般市民の妾を母とする王子」
そして王国の恥部を詰め込んだ、大スラム地区…… 「ギリアン地区」を押し付けられた王子。
「エルヴィス・マーキュリー王子の値踏みを……… ね」
――――
「うふふ、皆さん最近調子はどうですか?」
大きく長いテーブルの上座。
そこは家長が座るべき席であり…… この王城の後宮においては、国王が座るべき席である。
そこに座る、一人の女性。
金髪、縦ロール、釣り目、美人。
そして……
「わたくしの方は完璧ですわ、もう本当に怖いくらいよ」
高飛車。
まるで絵に描いたようなお姫さま。
男も女も王子として継承権が与えられる、この国においての第一王子。
名をエリザベート・マーキュリー。
王国で最も大きく、王国軍の本部など国の主要機関が連なる地区である「ヒストリア地区」を統括する王子であり……
「何をおっしゃるのですかおねえ様! おねえ様が恐れる者など何もありませんわ」
「そうですよエリザ様! エルザ様ほどの完璧なお方を脅かせるものなど居りますまい」
「そのとおり!!」
その下に、三人の王子を事実上の「配下」として、計四地区分を支配している王子なのである。
加えて……
「それに、もし姉上様に敵が現れても、勇者殿が討伐をして下さいますでしょう!」
勇者の召喚を手配した王子でもある。
つまりは、勇者を管理している直属の王子と言う訳だ。
先王の第一子であり、国の主要機関を支配し、加えて伝説の勇者を支配下に置く王……
この国において、一番力があると言っても過言ではない女である。
しかし……
「エリザ様…… 食事くらいはせめて静かにできないのですか」
そんな力ある彼女にも、対抗馬はいる。
「それに、そういった自慢はあまり口に出さない方がいいですよ…… 底が知れる」
それが、この男。
この王国の第二王子にして、この国でもっとも発展し、経済活動が盛んな地区である「エルザンド地区」を支配する王子。
名をマスタングス・マーキュリーと言う。
この男もまた、三人の王子を配下に加えており、事実上4地区を支配している王子だ。
「……………………相変わらず糞生意気な弟ですこと」
「あなたも…… 相変わらず癪にさわりますね」
このマーキュリー王国は、実質この二人によって二分されている。
正妻の子であり、元来は嫡子であり、格式ある地区を支配するエリザベートと……
側室の子ではあるものの、その手腕で自分の地区を発展させたやり手のマスタングス。
王国のトップは…… この仲が徹底的に悪い、二人の腹違いの兄弟が対立している構図となっている。
「まぁいいですわ……」
しばし睨みあった後、エリザベートがそう言って微笑む。
不敵な笑みを浮かべる。
「どうせ、今度の竜王祭で…… すべての決着が着くのですから」
そして、マスタングスに向かってそう言い放ったのだった。
「まぁ…… そうですね」
しかし、マスタングスは冷静にそう返す。
「…………なにか策でもあるのかしら? 竜王祭に」
エリザベートはそんな冷静なマスタングスを見やり、面白くなさそうな顔を浮かべる。
「さぁ……」
マスタングスは、それを冷静に見返すのみであった。
「ふん…… まぁ、いいわ、どうせ勇者以上の人材は手に入らないでしょうからね」
そして、エリザベートは顔をそらし、話を区切るのであった。
「竜王となるのは、わたくしよ……」
竜王祭。
それは4年に一回行われる、国をきっての一大イベントである。
これは人々を襲った火竜を、三名の家臣と共に討伐し、その後火竜の災禍に見舞われた人々をまとめ上げて国を造り上げた、初代国王を敬う祭りである。
そして、その祭りの具体的内容は初代国王の模倣…… つまりは竜を打ち倒しに、王国から百キロほど離れた火山へと赴くのだ。
まぁ……
現在の竜王祭においては、この「火竜を討伐する」と言う所は形骸化しており、王と成る者が三名の家臣と共に「火山に行って帰って来る」だけの行事となっているのだが。
なぜなら…… 実際のところ、数名の人間のみで火竜を討伐する事は不可能であるからだ。
初代国王が討伐した物と同種である「スカーレットドラゴン」の平均レベルは600レベル。
対して人間種の最高レベルは100レベルなのだ。
まぁ、軍には300レベル代が数名はいるが、それでも数名では300レベルの差は埋められないだろう。
元来、本当に火竜を討伐するならば、軍一つを動かすくらいの事をしなければならないのだ。
しかし、たかが祭りに軍を動かしてはコストがかかり過ぎる上、万が一火竜に軍を滅せられた場合に国の防衛に大きな影響を及ぼしてしまうため、それは出来ないのだ。
従って、火竜の討伐をする事は出来ないという事になる。
が……
エリザベートはそれをやろうとしているのだ。
元来不可能であるはずのそれを……
できると考えているのだ。
不可能であるはずのそれを、可能だと思えるエリザベートの根拠…… それは「鳳崎」の存在である。
一説によれば、初代国王は「勇者」を家臣として従えていたらしい。
そう……
つまり、「勇者」ならば「火竜」を倒せるのだ。
人間の成長限界を超える能力「限界突破」を持つ勇者であれば…
際限なく、そして高速でレベルを上げる事が出来る能力を持つ「勇者」であれば「火竜」を超える事もできるのだ。
しかも、奴隷市で僕にやられて以来、鳳崎は多少真面目に訓練をしているらしい。
当時200程度だったレベルは今や350近いようだし、ましてや奴には「カゾエ之神技」と言う、使い方次第では倍以上に強さを引き上げるスキルをもっている。
今の鳳崎であれば、高確率で火竜を討伐することが出来るだろう。
そして……
もし「竜王祭」にて、「勇者」を従えた者が「火竜」を討伐すればどうなるであろうか?
それは…… 正に伝説の再来、「初代国王」の、竜を倒せし「竜王」の再来である。
それは、まぎれもなく、間違いなく、疑いようもなく、問題なく、この上なく…… 「王」を名乗れるのである。
つまり……
エリザベートは半年後の「竜王祭」にて「鳳崎」を使い「火竜」を倒して真の王となり、自身が唯一の王として立つことで、このくだらない「王政十二分割制」を終わらせようとしているのだ。
そして、エリザベートの対抗馬であるマスタングは、それに対して何らかの対抗策がある……
とまぁ、そう言った状況であると言う事だ。
「にゃふふ……」
まぁ…… ぶっちゃけ、そこまでは「悦覧者」で王城の業務用日誌とかをチェックしてたから知っていたんだけどね。
エリザベートさん、そしてマスタング君。
残念ながら…… くふふ。
「君たちは王にはなれない……」
そう、なれない。
何故なら…… 王には、僕の息がかかった者になってもらうから。
そう……
押し付けられあ国のゴミ溜め…… 「ギリアン地区」の管理者である「エルヴィス王子」に…… ね。
くふふ……
さぁ、どこかな?
僕の傀儡になるべくして生まれた、僕の可愛いお人形は…… どこかな?
………………ん?
「……………………………………ぇ?」
あれ?
おかしいな?
確か「茶髪」と「黒目」の…… 一般市民出の母親の特徴を継いだ見た目って情報があったのだが。
おかしいな…… 全員金髪碧眼だぞ?
全員がこの国の王族特有の色だ…
ん?
あれ………?
くー、とぉ、じゅういち………… あれ? 11人しかいない。
………どこに?
「…………………っち、ぐらぐらするんじゃないわよ、この椅子っ!」
………………と。
僕がきょろきょろと室内を見回している途中に、そんな声が聞こえる。
すこし苛立ちを含んだその声は、第一王子ことエリザベートの声であり、僕はその声に反応して彼女へと顔を向ける。
怒気を孕んだその声に、「何を椅子相手に怒っているんだ?」と僕は彼女をみやる。
すると………
「…………………は?」
そこには……
いや、正確にはエリザベートが座るその下には………
「これだから愚民は…… 椅子であることすら出来ないのかしら」
ゴミを見るように見下す、エリザベートの視線の先には……
「本当にクズよね…… もう、いっそ死んだら?」
そう言って、フォークを振り下ろして突き刺すエリザベートの下には……
「………………………ぁっ……ぎぃ」
背中をフォークで刺されて血を流し。
青あざだらけの腕と足を、ぶるぶると四つん這いで踏ん張り。
ぼさぼさの栗色に近い「茶髪」で顔が隠れた……
「愚民の血が混じった雑種は、下等にも程があるわ」
全裸の人間椅子が…… いたのだった。
「…………………………………………虐げられているとは聞いていたけど」
ギリアン地区を管理する王子、エルヴィス・マーキュリー。
彼は………
「………………胸糞わりぃ」
虐待と言う名のイジメを受けていたのだった。。
御宮星屑 Lv1280
【種族】 カオススライム 上級悪魔
【装備】 なし
〔HP〕 7050/7050
〔MP〕 3010/3010
〔力〕 7400
〔魔〕 1000
〔速〕 1000
〔命〕 7400
〔対魔〕1000
〔対物〕1000
〔対精〕1100
〔対呪〕1300
【契約魔】
マリア(サキュバス)
【契約奴隷】
シルビア
【契約者】
ユエルル・アーデンテイル
【スライムコマンド】
『分裂』 『ジェル化』 『硬化』 『形状変化』 『巨大化』 『組織結合』 『凝固』 『粒子化』 『記憶複製』 『毒物内包』
【称号】
死線を越えし者(対精+100) 呪いを喰らいし者(対呪+300)
暴食の王(ベルゼバブ化 HP+5000 MP+3000 全ステータス+1000)
龍殺し(裏)
【スキル】
『悦覧者』 『万里眼(直視)』 『悪夢の追跡者』
『オメガストライク』 『ハートストライクフレイム』
『味確定』 『狂化祭』 『絶対不可視殺し』
『常闇の衣』 『魔喰合』 『とこやみのあそび』
『喰暗い』 『気高き悪魔の矜持』 『束縛無き体躯』
『完全元属性』 『魅惑』