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江戸前ダンジョン繁盛記!  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
1854~1855年 震災
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 挿話 側室狙いと正室のある日

 妾が普段どこで何をしておるのかと言えば、基本的にダンジョンの街並みから外れた林で一人でいることが多い。

 いや、別に人との接し方がわからぬとか、知り合いがおらんとか、そういうわけではないぞ。妾とて、元は人を誑かして生きてきた狐。人との付き合い方はむしろ得意な方じゃ。

 ほ、本当じゃぞっ!? ただ今は、あまり人に話しかけられとうないだけなんじゃ!

 なぜって、主様に頼まれた魔法式の改良という、大事な大事な役目があるからの!


 知っての通り、妾は5000年以上を生きてきた。そのためこのダンジョンでは一番の実力があると自負しておる。それはぬしさまですら認める事実じゃ。

 じゃがな、さすがの妾でもできることとできんことがある。

【並列思考】はその一つで、ぬしさまのように他人と難しい会議をしながら同時に超難度の魔法を組むのは、さすがに不可能なのじゃ。

 ゆえに、魔法式の改良をせねばならん今、できるだけ人に話しかけられとうない、ということじゃな。別に無下にするわけではないのじゃが、作業の邪魔であることには変わりないからの。


 ぬしさまは妾を、この悪名高き妾の業を清めて、神にすると言っておった。そのためにはもう少し神様の真似事もしたほうがいいんじゃろうけどな……そっちはどの道、長い時間がかかることじゃ。急いでも仕方ないゆえ、まずはぬしさまに命令されたことを優先しておるのじゃよ。

 とはいえ、のう……。


「……うーむ、やはりこの魔法をこれ以上軽量化するのは難しいのう……」


 土の術でこしらえた腰かけに座りながら、妾はひとりごちる。目の前には、仮想文書で表示された【アンチレプラ】の魔法式。

 ひとまずは成功を納め、この魔法によって5人の命が助かったのは既知のことと思うが……魔法として、既に完成の域に達していることはほぼ間違いないと思うんじゃよなあ。

 ぬしさまは念のため、これがまだ改善できないか検討してみよと言うたが、果たしてできるんじゃろか?


 いや、言われたからには最善を尽くすのが妻たるものの務めじゃがの?

 妾の持つ知識や経験は、ここが終着点だと言っておるんじゃよな。ここ最近、毎日ここで魔法式をああでもないこうでもないといじくりまわしておるが、実際成果は上がっておらぬし。やる気が上がらんのも、仕方ないと思わんか?


 と、そうして式と向き合っておった妾の感覚が、接近する人間の存在を感知した。

 ……とはいえ、別に慌てたりはせぬ。妾に勝てるものなんぞそうそうおらぬし、そもそも近づいてきた存在はなじみのあるものじゃ。


 ゆえに、妾は別段身構えることなくのんびりとそちらに顔を向けた。


「おや、御台様ではないか。かような外れに何ぞご用かえ?」

「た、幟子様? どうしてここに……」


 そこにいたのは、ぬしさまの嫁御であった。

 そしてその後ろに、いつも影法師のように控えるティルガナが、今日もばっちりと控えておる。ご苦労なことじゃ。


 しかし、ふむ。なぜここにいるのか、か。それはどちらかと言えば、妾のセリフかと思うがのう。


「妾はあれじゃよ、ぬしさまに頼まれた魔法式の改良じゃ。まあ、これ以上手を加える余地がないゆえ、点検と言ったほうが正しいやもしれんがの」

「旦那様が……えーと、らい病の魔法ですか?」

「左様じゃ。一応完成は見たが、念のため向こう一年ほどは、もう少し手を加えてみよと申されての。こうしてあれこれいじくっておるところじゃ」

「いじる……」


 妾の説明に、彼女は眼を皿のように丸くして、虚空に浮かぶ式に目を向けた。

 確か人ではなくなり、以前よりもだいぶ力をつけたはずじゃが、それでも……いや、だからこそこの魔法式の複雑さが理解できるようになり、吃驚するのであろうな。

 世の中上には上があるものよ。それを理解したなら何よりじゃ。


 ふふふっ、そう、この手のことに関しては間違いなく妾のほうが彼女より上じゃからの!


「……すごいです……何がどうなってるのか私にはわからないです……」


 案の定、彼女は驚きの表情もほとんどそのままに、そう言って小さく首を振った。

 勝ったのじゃ!


「にょほほ、そこは年の功じゃの! そう簡単に若い衆に負けるわけにはいかんわい!」


 そうそう、特にこの分野ではの。

 うむ、ぬしさまのためにも負けるわけにはいかぬ。とはいえ、勝ったからと言って敗者をないがしろにするわけにもいかぬ。妾とて、数千年の間で学習はしたのじゃ。

 特に、この娘御は妾にとって敵と言えるが、仲間でもある。同じお人を愛した者同士、協力できるところはしていかんとな。


「……それはともかく。そもじはどうしたのじゃ? 妾はともかく、そもじこそかようなところに来るものではなかろうに」

「あ、はい……実はですね」


 勝者の余裕を見せつけながらも、妾は彼女の話に耳を傾ける。


 どうやら、彼女もぬしさまから課題を出されていたようじゃ。無論、地力の差がある故妾のものとは相当難易度に開きがあるようじゃが、それは当然のことよな。

 で、その課題のために一つ魔法式を作ってみたが、それが実際に正しく稼働するかどうか確かめるために人のいないところに来た、と。


「なるほど、確かに実験は大事じゃな。妾も若い頃は適当に作った式を適当に使って、随分と人を死なせたもんじゃ」

「……えっと……」

「あ、心配は無用じゃよ? 今はそんなこと、絶対にするつもりはないからの」


 したらぬしさまが怒るものな。あのお人は、敵はともかくそれ以外に被害が出ることを嫌がるお人じゃ。

 魔法式はもちろん、道具の設計にもその思想は透けて見える。ぬしさまはとにかく安全性と汎用性、そして量産性を一番重視するし。


 ……何やら化け物を見るような目をされたが、まあ、妾は勝者故な、寛大な心でもって受け流してやろうぞ。


「ま、まあ、それはともかくじゃな。どんなものを作ったんじゃ? 妾が見て進ぜようぞ」

「え、いいんですか? お邪魔では……」

「なーに、若人が気にするでない。それに妾のほうもちと行き詰っておったからの。息抜き……と言うのはそもじには失礼かもしれんが、ま、そんなところじゃよ」

「はあ……あの、では、よろしくお願いします」


 そうしておかよは、神妙な顔つきでぺこりと頭を下げた。

 相変わらず礼儀正しい娘御じゃのう……。普通妾に対峙した者は、恐れおののくのが普通なんじゃが。むう、もしやぬしさまの愛を勝ち取っておるからか? こやつも勝者の余裕と言うものを……。


 ……いかんいかん、今はそんなことを考えておる場合ではない。妾も【並列思考】ほしいのう……取得条件はなんじゃったか。


「では、早速見せてもらおうかの」

「はい。えっと、こんな感じなんですけど……」


 そう言いながら、おかよが仮想文書を表示させた。

 現れたものは、……そうじゃのう、中の下ほどの難度の魔法式と言ったところか。今のおかよの力ならば、問題なく記述も起動もできる程度じゃな。


 ま、妾の【アンチレプラ】は超上の上くらいじゃがの! ふふん!


「ふむ……これをそもじが一人で?」

「は、はい……えっと、なんか、人に見てもらうのってなんだか恥ずかしいですね……」


 舐めるように式を眺める妾の隣で、おかよが照れたように頬に手を当てた。ぐぬ、なんじゃそのかわいらしい仕草は。わ、妾もやったら、ぬしさま喜んでくれるじゃろか?


「そ、そうじゃの……最初のうちはそう思うかもしれんな」

「えっと、幟子様ほどのお方でも、そんなことがあったんですか?」

「わからんでもないよ。まあ、妾の若かりし頃というのはもっと手厳しく修行したもので、お師に見せるというのは恥ずかしいと言うより恐ろしいというほうが強かったかの」

「幟子様にも、お弟子さんだった頃が……」

「当たり前じゃろ、妾とて最初から最強だったわけではないぞ?」

「あ、で、ですよね。……でも、そうかあ……幟子様のお師匠様……どんな人だったんでしょう、私、気になります」


 むむ、またしてもかわいらしい仕草を。両手をぐっと拳の形にして、胸元に置くのか。さ、参考になるのう。


「あー、妾のお師については……あんま聞かんでくれんかのう……もう何千年も前の話じゃから……」

「あ……あ、ご、ごめんなさい……私、つい……」

「なんせ殺してしまったからのう……」

「幟子様が殺したんですか!?」


 うむ、と応じながら妾は一度目の前の式から視線をずらして空を仰いだ。


 懐かしいのう……直接妾が殺したわけではないが、絵図面を描いて手を引いたのは妾じゃし、まあ主犯という意味で妾が殺したと言ってもいいじゃろうな。

 別に珍しいことではない。截教せっきょうというのは、そういう教えも時に容認する教義じゃ。師匠を殺して一人前、みたいな考え方をするものは一定数おったんじゃよ。妾は別の目的で殺したがの。


 しかし、はて。お師の魂はあの時の決戦で解放されて、最終的には神にほうじられたはずじゃが、今何しとるんじゃろな?

 ぬしさまはこの世に神はおらんと言っておったが、その辺りもどうなんじゃろか。もし今も神として通天教主様が存在しておるなら、会ってみたい気もするのぉ。


 ……おっと、話がずれてしもうたの。


「まあそれはともかく」

「えっ、そ、そんな軽い……」

「えー、だってもう3000年近く前のことじゃしのー」

「えっ」

「えっ?」


 そして見つめ合う妾たち。少し離れたところから、ティルガナのため息が聞こえる。

 えーっと、なんじゃこれ? これがいわゆるあれか、じぇねれーしょんぎゃっぷとかかるちゃーぎゃっぷってやつかの?


「……まあそれはともかく」

「え、あ、は、はい」


 細かいことはええんじゃよ!

 今はそれよりも大事なことがあるしの!


「この式は、力の変換が主軸なんじゃな」

「はい、そうです……」

「特定の力に限定することで、効率を上げつつ負担を減らす形にしてあるんじゃな。うむ、条件の限定は魔法式を作る上では必須と言ってもいいからの、正しい判断じゃろう」

「あ、ありがとうございます」

「しかしこれは……えーと、なんじゃ? 火魔法と水魔法に関する記述があるようじゃが、何の力を使う予定なんじゃ?」

「えっと、その、湯気、です」

「湯気とな?」


 おかよの言葉の真意がつかめず、妾は思わず彼女のほうに顔を向けた。彼女の顔は、まだ少し照れのようなものが見えたが、なかなかどうして大真面目に挑むものの顔であった。


「……それはあれか、水を沸かした時に生じる、あの白いあれか?」

「はい、その湯気です」

「……そんなものを変換して、なんぞ意味はあるんかえ?」

「ある……と、思うんです……」

「その心は?」

「幟子様がいらっしゃる少し前に、旦那様は幕府とアメリカの交渉をお手伝いされてたんですけどね……」

「ふむ」


 頷いて、続きを促す妾。それからおかよは、つらつらと言葉を紡ぎ始めた。


 聞くところによると、どうやらそのアメリカが幕府に贈った品の中に、蒸気、すなわち湯気で動く鉄の乗り物……の、模型があったらしいのじゃ。

 それは模型でありながら、しかと人を乗せて走ることができるものであったらしく、それにいたく感動したぬしさまが動力を調べたと。

 で、ぬしさまが調べた限り、ヨーロッパのほうではその蒸気を使った動力を用いて様々なことがなされているんだとか。


「……なので、何かに使えないかなって、思って……」

「なるほどのぉ」


 妾が加入する前のことは、今まであまり聞く機会がなかった。しかし聞いてみると、確かに興味深い話であるな。

 湯気で大量の人を運ぶものを動かせるというのはにわかには信じがたいんじゃが、ぬしさまが調べたのであれば、それは真理の記録アカシックレコードによる情報。それが間違いということは絶対にないじゃろうな。


「……それでこの式か。火と水で湯気としておるわけじゃ」

「はい」

「うむ……そして変換する先が魔力や別の属性ではなく、ただの運動力というのは異色じゃのぉ。ベラルモースの魔法文明でもなければ、妾の頃のような魔法文明でもない。科学……じゃったか。そんな匂いがする式じゃなあ」

「えーっと……」

「そう楽しい顔をするでない、褒めておるんじゃからな」

「えっと、ありがとうございます……?」


 言ってもなお、ハトが豆鉄砲を食らったような顔のままおかよが小首をかしげる。

 くっ、またそんなかわいい仕草を! 勉強になるのう!


「まあまあ。とりあえずは実際に使ってみようかの!」

「あ、は、はい」


 言いながら、妾は手早く湯を空中に用意する。ただの湯ではないぞ、大量の湯気を放つ熱湯じゃ。

 その一瞬な匠の技に、おかよはおろかティルガナまで顔色を変えたのが見えた。ふふふっ、どうじゃ妾はすごかろ?


 はてさて、ここにおかよの魔法を使うとどうなるかの?


「おおっ?」

「わあっ!?」


 おかよの魔法が発動した瞬間、熱湯の水塊が弾丸となり、すさまじい速度で吹き飛んで行った。そしてこの場は林である。隙間はあれど、居並ぶ木の一つにそれがぶつかり、結構な音と共に木を盛大に揺らす。

 ダンジョン機構としての木(破壊不能オブジェクト)でなければ、ほとんど抵抗もなく折れるどころか盛大に貫通しそうな勢いじゃったな……。


「……予想以上の威力じゃの」

「え、あ、えっと、あの……わ、私そんなつもりじゃ……」

「じゃろうて。そもじがそのようなつもりでやっておったら、それこそ天変地異でも起こるじゃろ……まあ、あれじゃな。実験がいかに大事がわかったじゃろ?」

「は、い……そうですね……本当に……」


 まったく予想だにしていなかった効果だったんじゃろう。おかよはまだ愕然とした様子で立ち尽くしておる。

 妾としては、運動力に変換する時点でこの結果は想像できると思うんじゃが、そこは経験の差かのぉ。ああいや、設計目的が特に定まっていないまま始めたんかの?


 いずれにしても、先に口にした通りそれが予想の上を行く威力だったことは認めざるを得ない。


 湯気……いや、蒸気か。そこから得られる力は、確かに鉄の塊で人を大勢乗せて動かせるだけのものになりそうじゃ。

 魔法という存在がこの世から消えておよそ1800年、かつてを知る身としては魔法なしでは絶対に世界は発展せぬと思っておったものじゃが、ないならないでなんとかするのが人間なんじゃなぁ。

 これはもしやすると、妾たち妖怪、あるいは仙人、魔法使いなどと呼ばれておった存在が消えたのは、単に魔力がなくなり魔法が使えなくなっただけではないかもしれんの。


「ぅぅ……でもどうしましょう……? この魔法式では、旦那様に認めていただくなんて……」


 おっと、今はそのようなことを考えておる場合ではなかった。

 何やらおかよが落ち込んでおる。解せぬ。今のどこに落ち込む要素があったというんじゃ。


「なぜそうなるんじゃ……この魔法式はどう見ても成功じゃろ?」

「え? だ、だって、こんな危ない魔法式……」

「危険度で言えば、大抵の魔法のほうがよっぽど危険じゃよ……」

「で、でも……私、こんなふうになるなんて思ってなくて……」

「それでええんじゃよ」

「えっ?」


 妾の言葉に、おかよは理解できないと言いたげに顔を向けてきた。若いの。実に若い。


「この世に思い通りになる魔法なんぞありはせぬよ。まして新しい魔法に挑んだなら、それは当然のことじゃ。予想していないことが起こって当たり前なんじゃ。そしてな、世の中の優れた魔法はえてしてそういう予想していなかったものからできたもんだったりするんじゃよ。この国では、失敗は成功の元って言うんじゃったかの?」

「…………」

「時には、想定していなかった結果から、それまでやろうとしていたこととは全く異なるが、それでも有意義な研究に繋がることさえある。そしてな、それはきっと魔法だけではないと妾は経験で思っておる。そもじが創った魔法式は、確かにそもじが思っておらんかった結果となったかもしれんが、今この瞬間、別の優れた魔法が誕生したではないか」

「……?」

「わからんか? では試して進ぜよう」


 なおも首をかしげるおかよに、妾は即興で魔法式を組み上げる。

 それは火魔法と水魔法の要素、そしておかよの魔法式を組み込んだもの。賢明な者には、それが何かすぐに理解できることじゃろう。


「そうじゃのぉ……とりあえず仮に、【スチームショット】でも名付けておくか?」


 そして妾がそう言った刹那。魔法式は十全に動き、無数の熱水弾が前方に向かって発射された。

 それらの一つ一つに、ただの人間には到底耐えられぬ威力が秘められておる。距離に応じて威力が減衰する速度が速いのがちと難点かもしれんが……至近距離で放つとなると、かなりの技になるじゃろう。


 この魔法を今までの概念で放とうとすれば、ふむ、魔力180の構築力300ほどを要するじゃろう。火魔法、水魔法の概念に加えて、推進や威力係数、制御など、複数の式を組み込まねばならんからな。

 しかしおかよの魔法式が組み込まれておるおかげで、それらの式は大半を省くことができる。結果、魔力90の構築力120程度と、大幅な簡略化につながった。これを成功と言わずしてなんと言う?


「ま、こんなところじゃの。こんな魔法に発展させられるんじゃ、明らかに成功じゃろ?」

「…………」


 妾はそう言って、にやっと笑って見せる。が、おかよはまだ驚きの表情のまま固まっておった。

 むう、まだ足りんか。


「それに、研究すれば他の使い方もできるかもしれん。そもじは平和利用をしたかったんじゃろうが、決してそれができんというわけでもなかろ。この魔法式はまだできたばかりなんじゃ、その可能性は大いにあるよ」

「…………」


 付け足したんじゃが……まだ驚いたままか。なんじゃ、妾そんなに励ますの下手かのぉ?

 いや、確かに昔から真っ当な人付き合いはあまりしたことがないが……。


「あと、あれじゃ。そもじの発想は面白い。うむ。じゃからぬしさまも、そもじを助手とするんじゃろうな。発想の始点が妾たちとはどこか違っておるからのぉ……って……」

「……ぇ、と、あの、……た、たかこさま……」

「……なんじゃ、そもじ、顔真っ赤じゃぞ。いかがした?」

「そ、そ、そんな褒めないでください……う、嬉しいですけど……」

「……あー」


 なんじゃそっちか……。これでは褒め損ではないか……。


「……そもじはあれじゃの……まずはその自己評価の低さを改めるところから始めたほうがええかもしれんな……」


 並みの人間ではできぬことをやれておるんじゃから、そう己を卑下せんでもよかろうに。

 庶民ってのは、どこもこんなもんなんじゃろーか? うーむ、人間というのはようわからんわい。


 いや、おかよは既に人間ではないんじゃが。その心根はいまだに人間のままなんじゃろうなあ。


「とりあえず、あれじゃ。その魔法式の出来は妾が保障するゆえな! ほれ、早うぬしさまのところに見せに行くがよいぞ!」

「……うう、ありがとうございます……行ってきます……!」


 ぽふんとその背中を軽く叩いたところで、ようやくおかよははっとした様子でぺこぺこと頭を下げる。


 むう。正室が側室狙いにそうも頭を下げるものでもないじゃろうが。

 こういうところもぬしさまの庇護欲をかきたてるのかもしれんなあ……。


「幟子様は、やっぱりすごいお方です……このままじゃ、いくらなんでも……」

「奥方様、本当にそれでよろしいんですか?」

「はい、だって、かわいそうですよ……」

「わたくしめは、別に放っておいても雑草のようにたくましくしぶとく生きてると思いますが……」


 ……去り際の会話は、一体何を意味しておるんじゃろうな?

 ティルガナのやつめ、何もそう悪く言わんでもよかろーもん。


 ……まあしかし、今はそれよりもやりたいことがある。


「あの魔法式、もしやするとうまく使えるかもしれん」


 そう、おかよの発想は妾にはなかったものじゃ。あの式をそっくりそのまま使っても意味はないが、あの観点に立ってみると、また違ったものが見えてきそうじゃ。【アンチレプラ】の改良にも、もしかしたら繋がるやもしれん。


 ふふふっ、創作意欲が湧いてくるの!

 このままより良い魔法に仕上げて、ぬしさまにまたなでなでしてもらうのじゃよ! にょほほー!


ここまで読んでいただきありがとうございます。


ちょっとスパンが短いですが、挿話を。意外と面倒見のいい狐でした。

こんなロリババアから言い寄られてるのになびかないクインは爆発すればいいとたまに作者なのに思います。

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