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江戸前ダンジョン繁盛記!  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
1854~1855年 震災
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第七十五話 久々のダンマス業 下

 まず、フロアをどのタイプにするかだけど。


「洞窟型は今まで散々作ったし、ここは迷宮型にしようと思うんだ」

「いいと思います。どんなのが作れるんですか?」

「うん、建造物のタイプが作れるから……たとえば」


 言いながらモニターをぽちぽちいじる。

 適当に通路といくつかの部屋を作ってみて、その部屋の入口にパスワードを入力しないと開かない扉を設置してみる。


「こんな感じで、謎解きを中心としたフロアに向いたタイプなんだ」

「へえ、面白いですねえ」

「頭脳労働ができない人ばかりのパーティだと、こういうフロアで詰むかもね」


 これ以外にも、謎解きに利用できる仕組みを多く組み込める。

 現代はダンジョンの謎解きマップ専用の教本とかも出回ってて、なんならプリセットもあったりするから作るのはさほど難しくない。

 有名どころだとギガース出版の「ゴブリンでもできる! パズルマップのすすめ」とかかな。もちろん、できる人は自分で独自の謎解きを考えて日々洗練させようとしてるんだけど。


 この迷宮型のフロアこそダンジョンの花形と考えるダンマスは結構多く、かつてはベラルモースのダンジョンの大半がこういう仕掛けだけだった時代があるくらいだ。

 今は情報技術の発達で、誰か一人でも謎を解いたらあっという間に答えが拡散しちゃう時代だから、かなり下火になってはいるけどね。


「他にも無限回廊とかワープマップ、倉庫番マップとか……色々できる」

「い、色々できすぎて迷いますね……」

「今できそうな中で一番簡単なのは、和算をさせてその答えを入力するってマップかなー? 出題される問題はランダムにしておけば、答えが拡散する恐れもないし……何よりこの世界の人間にもとっかかりやすい」

「あ、面白そうです。私、算額作り一度やってみたかったんです」

「そういえば、かよちゃんの実家はそれをよく奉納される神社だったね。いいよ、それでやってみようか。でも難易度の高い問題が出ると詰むパーティが続出しかねないから……そうだなあ、『子供向け』と『大人向け』で、二つの難易度用意してみようか」

「なるほど。旦那様はお優しいですね」

「いや、今のは皮肉のつもりだったけどね……」


 ダンジョンに来る子供なんて、ベラルモースですら探索者全体から見るとかなり少ない。性差はもちろん、年齢でも大きく身体能力が違うこの世界では、ほとんどいないだろう。つまり、探索者業ってのは大人の仕事場なのだ。

 そんなところで「子供向けをクリアしても先に進めますよ、どっちにしますか?」なんて言ったら、変にプライドが邪魔してあえて難しいほうに挑む連中が結構いるんだよねえ。

 必要とあらばプライドなんて捨てられる人は、難問を突破できる頭脳があっても簡単なほうを選ぶだろうけど。そういうところでもめてくれたら、こっちとしても進行を止められるわけで、ありがたいのさ。


「あ、そ、そういうことですか……」

「ダンマス業は、基本的に探索者の嫌がることを精一杯考える仕事なんだよ」

「……大変なお仕事ですね……」


 ここで性格悪いとか言わない辺り、かよちゃんは優しい子だと思う。ボクがいい人かって聞かれたら、必ずしもそうではないと思ってはいるけど、人から言われるのはまた別だ。


「うん、まあそれは置いといて……属性は風にしよう。常時ダンジョン内で風が吹くことになる。計算するうえで、結構な邪魔になると思うんだ。それで、出題ポイントは三か所くらいと。で、間違ったらモンスターがポップするように設定したら、立派なパズルマップの完成だ」

「モンスターが出現……そんなこともできるんですね……」

「もちろん。応用すれば実戦の訓練施設にも使えるし」

「え、そ、そういうものが作れるんですか?」

「うん。種類はいろいろあるけど、アイテムを捧げることでそれと同値のモンスターをポップするっていうダンジョンの仕掛けがあってね」

「はあー……本当に、だんじょんってなんでもできるんですね……」

「死人を生き返らせる以外なら、まあ大体はね」


 アンデッドでよければそれもできなくはないけど、それはホラーなのでやめとくのがいいんだろうね。ゾンビとかスケルトンって、そもそも生前とは別物だし。


 ボクがそんな益体もないことを考えていると、かよちゃんが何かを考え込むようにして視線を伏せていた。

 何か言いたいことがあるのかな? 彼女の意見は尊重したいし、ボクは彼女が口を開くのを待ってみることにした。


「……あの、旦那様?」

「なんだい?」

「その……私も、実戦の訓練、してみたい、です……」

「えっ。ちょ、いきなり何を言い出すのさっ?」


 うわびっくりした、ホントびっくりした! 全然そんな様子なかったんだもの!

 なんで!? 別にかよちゃんが戦闘できる必要なんてないのに!

 今までの話の流れの中で、なんでまたそれに繋がるんだろう?


「だ、だって……いつも私ばっかり守られてるのって、心苦しくて……」

「う、うーん、それはそれでボクの仕事でもあるんだけど……そうかあ……」


 男としては、女の子を守りたいって気持ちが先立つんだけども。それはボクの負担になるから避けたい、ってのは女の子の心理なのかもなあ。


「それに……幟子たかこ様はできることがいっぱいあるのに、私はまだまだ旦那様の足手まといですし……」

「彼女は規格外だから、比べる相手には向いてないと思う……し、かよちゃんが足手まといだなんて思ったことないんだけどねえ」


 ホントだよ?

 家事全般はボクまったく自信ないから全部お願いしてるし、得意分野の魔法工学だって、かよちゃんは助手として優秀だもん。こんないい奥さんはそうそういないって思ってる。


「そ、そう仰ってくださるのはとっても嬉しいんですけど! で、でも、それに甘えるのは、つ、妻として違うんじゃないかって……」

「……かよちゃんは偉いなあ」


 すごい向上心だね。昔に比べるどころか、この世界の誰よりも恵まれた環境にいるはずなんだけど。その現状を良しとしないって、並みの人間にはできないだろう。

 これだけの覚悟を見せられたら、夫として応えないわけにはいかないよね。普段わがままを言わないかよちゃんが言ったわがままだ、これくらい叶えてあげよう。


「わかったよ。それじゃ、居住区に訓練施設を作ろう」

「い、いいんですか?」

「もちろん。せっかくだから、みんなが使える場所にしたいね。最近はジュイたちの特訓も、進化した影響で派手になってきたし……専用の場所はあったほうがいいとは思ってたんだ」

「……ありがとうございます! 私、早く進化して、もっと旦那様のお役に立てるようにがんばります!」

「し、進化も念頭に置いての訓練希望だったんだ……ちゃんと考えてるんだね」

「はい!」


 頭もいい。うちの奥さんは最高だ。

 よーし、ボクがんばっちゃうぞー!



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 というわけで、がんばりました。


『……ごしゅじん、やりすぎじゃないー?』

『俺もそう思う……さすがにワンフロア丸々訓練施設にするのはどうかと思うんだが』

「せやで。こんなクッソ広い闘技場作って、一体何と戦わせるつもりやねんな?」


 でも、仲間からの評価はあまりよろしくないようです。


 うん、まあ、言わんとしてることはわかる。居住区とはまた別の、空間型フロアを作ってそれをそっくりそのまま闘技場にしてしまったからね。

 いくら実戦訓練をするからって言っても、端から端までがかすむような広さは正直必要ないと言われても仕方ない。観客席も完備したのも、そう思われる要因かも。


 でもね?


「一応、だけど。軍隊を用意するとなると、これくらいの広さの演習場はあったほうがいいと思ってさ」


 と、いうことなのだ。


「別にうちが軍隊を持とうってわけでもないんだけどさ。日本が軍隊を整備したら、使わせてあげようかと思うんだ。日本って居住スペースにできる土地が国土面積に反して多くないから、軍隊を訓練させる土地って絶対困ると思うんだよね。ここなら陸海空、全部の訓練ができるだろうし、いずれ使い道はあると思うんだ」

「大は小を兼ねるというやつじゃな、ぬしさま!」

「ん……まあ、そんなとこ?」


 的を得てるかどうかはちょっと微妙な幟子ちゃんの言葉にあいまいに頷きながら、ボクは改めて他のメンバーに目を向ける。


『まー、おれはどっちでもいいんだけどー』

『そうか、大規模訓練に使えるのなら、今度部下の鳥たちを集めて戦闘訓練などをしてもいいかもしれないな』

「軍隊の訓練かー、なるほどなー」


 ……おおむね納得してくれたようで、何よりだ。


 ちなみに、ラケリーナは会議ということでこっちに出席してるユヴィルの代理として、外に詰めている。ロシュアネスはそもそも外交役なので、基本的に日中はダンジョン内にはいない。残る藤乃ちゃんは、かよちゃんと一緒に施設の初稼働で戦闘中だ。


 仲間からの意見はさておき、アリーナから二人の戦いぶりを観察する。


 二人の今の相手は、ゴブリンソルジャー2体、ゴブリンマジシャン1体、ゴブリンクレリック1体だ。モンスターとしてはバランスのいい編成で、低レベルの探索者ならベラルモース人でも危険な組み合わせになる。

 地球で考えるなら、恐らくダンジョン外の開けた場所であっても、それなりの人数が必要になるだろう。


 でも、藤乃ちゃんは人間時代から破格のステータスを持っていたし、かよちゃんもなんだかんだで今は高レベルだ。いくら実戦経験がないとはいえ、知能のないモンスターにレベル差ステータス差を覆されるほどかよちゃんはバカじゃない。


 実際、立ち回りはうまくやっている。かよちゃんは完全に後衛ステータスなので、彼女は下手に前へ出ることはしていない。前衛は藤乃ちゃんに一任していて、彼女のサポートと、隙を見て魔法攻撃することに徹している。

 己の職分を把握して、それに専念することは、パーティで戦うためには必須のスキルとも言える。それができているかよちゃんは、誰がどう見たって、ボクに守られるだけのかよわい女の子では既にない。あそこにいるのは、一人のれっきとした魔法使いだ。


「藤乃さん、下がってください!」

「承知!」

「光魔法【シャドウペイン】!」

「ギイィィッ!?」


 と、そうこうしてるうちに戦闘は終わったらしい。かよちゃんが放った魔法により、すべてのゴブリンが自らの影に襲われてほぼ同時に死亡、消滅してドロップアイテムへと変わった。


 ……かよちゃんがいつの間に【シャドウペイン】を覚えたのかは、あえて聞かないことにしよう。あれ、光魔法の中ではかなり難易度の高い魔法なんだけど。

 あ、ちなみに特殊な光を放射して、その光を受けた影の本体にダメージを与える魔法ね。光そのものには殺傷力がない代わりに、ひとたび影に当てれば防御力を無視して本体にダメージ与える。そんな魔法だ。その威力は、ソルジャーやマジシャン程度のゴブリンなら一撃で致命傷となる。結構凶悪な魔法なんだよね。その分、高い構築力が求められるから、発動までかなり時間かけてたけど……。


 ……あ、二人が戻ってきた。


「ただいま戻りました」

「ん、お疲れ様。無事でよかったよ」


 そしてボクは、戻ってきたかよちゃんを抱きしめる。


「ひゃっ!? だ、旦那様、わ、私はなんともありませんから……」

「うん、大丈夫だとは思ってたし実際問題なかったけど、やっぱり心配だったから」

「うー……は、はい……」


 よしよしなでなで。うーん、至福。


 ……視界の端で幟子ちゃんがすごい残念な顔してるけど、見えないことにしよう。


「……で、初めて実戦やってみて、どうだった?」

「あう……えと、はい……あの、その……まだ胸がどきどきします……」

「……それは戦闘のほうで?」

「へ? え、あ、は、はい!」

「そっか。うん、最初は誰でもそんな感じだと思うよ」


 とはいえ、後衛に徹していたからあまり身の危険は感じなかっただろう。これが前衛でのやり取りとなると、また違ってくるだろうけど……その辺りは、モンスターを出す前にフェリパとか藤乃ちゃんに頼んだ方がいいかな。


「……旦那様も、最初はやっぱり?」

「うーん、どうだろうなあ。知っての通りボクは魔人だから、最初から敵との命のやり取りには忌避感が薄いんだよね。生まれた時から周りでそういうのがあったし……うちのママは優しい人だったけど、生まれた瞬間から戦闘訓練させるような人でもあったから余計かなあ」

「……旦那様って、やっぱりすごいんですね……」

「いや確かに早いけど、ベラルモースだと割と普通だと思うんだけど」

「それは普通やないで……」

『ああ、普通じゃないな』

「あたしもおかしいと思う」

「あっれー?」


 おかしいな、ボクはこれが普通だと思ってたんだけど。

 子供産まれたら、普通にそういう育て方する気満々だったんだけど。


「……旦那様、それはさすがに……ちょっと……」

「……おおう」


 育ちの違いによる習慣の差が明らかに! 結婚って難しいね!


『おれはごしゅじんに賛成だけどー?』

「ジュイ!」


 よかった、仲間が一人いた!


「いや、やめといたほうがいいと思うわよ……」

「せやで。それでせっかくの赤ん坊が死んでもうたら、誰が一番悲しむと思ってんねん」

「……確かに!!」


 地獄の戦闘訓練はしない方向で行きます!


 その宣言に、心底ほっとした様子でかよちゃんが深く息をついていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


ダンマス業とか言っておきながら途中からなんだか微妙なことになった。

フロア作ろうとか言っておきながら闘技場作るとか、いい加減主人公の舐めプがひどいかな……。

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